世にも不思議な転生者 作:末吉
*
俺は高町とミカエルを脇に抱えた状態でふわりと着地する。
実際こうしているのは高町が試練を乗り越えたためであるため、負けていたら俺はこのまま記憶が戻った状態でもおさらばすることになっていた。
ゆっくりと二人を床に降ろす。そして立ち上がって天井を見上げ、俺は言った。
「これでこっちも終わりだ。さっさと帰らせてもらいたいんだが」
『慌てるな。今そっちに我々が向かっているから』
……なぜ向かってくるのだろうか。もしかして労うのか?
ゼウスとかは絶対にやらなそうな考えが浮かんだ俺は苦笑する。その間に、雄樹たちが駆け寄ってきて、俺を見て驚いていた。
そりゃぁまぁ、驚くだろうが。そんなに驚くことだろうか?
黙ったまま視線をそちらに向けた俺は口を開こうとし――――足元から「う、うぅ…」といううめき声が聞こえたので少し移動してから声だけかけた。
「おい高町、ミカエル。終わったぞお前ら。とりあえずさっさと起きろ」
「……なにしたか知らないけど、大智がやったらそれだけじゃ起きないと思うよ」
「そうか
「だって大智上手く意識を刈り取……る…じゃ」
「どうした。記憶が戻ったことに驚きがあるのか? お前達も予想してたんじゃないのか?」
「いや、そうだけどさ……」
ふむ何をどもっているのだろう雄樹は。推測できているのなら、予想できているのなら、動揺することなど何一つないであろうに。
ふとそんなことを思いながらもう一度声をかけようとした時、「なに勝手に消えてんのやーボケェ!」と声が聞こえたので、そちらを見ずに片手で何かを受け止める。
ふむ勢いのあるいいとび膝蹴りだ。そんなことを受け止めて思いながら放し、「すまなかったな」と高町とミカエルの二人を見ながら謝る。
「すまんで済むかアホ! あんたのせいで雄樹一度死んだんやで!?」
「それは雄樹の認識不足が悪い」
「なんやとー!」
「抑えてよはやて。確かに僕が弱かったのが悪かったんだから」
「だろ? ランスロットのただの左突きで死ぬんだから。言い訳も何もできまい」
「……え、マジで?」
「見えてないのなら論外だな。良く生きてたものだ」
とりあえず二人が起きるまで見ながら、俺は暇潰しを兼ねて労うことにした。
「良く俺みたいな奴のために頑張ってくれたな、お前達」
「そりゃぁまぁ、助けてもらってたからね……ていうかさ、僕の事名前で呼んでるよね、さっきから」
「不味いか?」
「いや、いきなりすぎて戸惑っただけだよ」
「なら別にいいだろう……で、だ。どうして
「……どういうことや?」
八神の声が低くなるのを理解しながら、俺は床に腰を下ろして説明した。
「俺の事をさんざん諦めろと言われただろう。にもかかわらずお前た「おぉーっと手が滑ってバットを振り抜いちまったぁぁ!」がっ!!」
『『『…………』』』
遠くから声が聞こえたと思ったら背中に衝撃が走り、座っていた俺は吹っ飛ぶ。受け身も取れない状況での不意打ちの攻撃に俺は耐えられなかったが、壁に激突する寸前で何とか地面を蹴って宙を一回転して勢いを殺すことに成功し、激突を危うく免れた。
が、未だに背中が痛い。あと少しすれば治るだろうが、やった本人に利子つけてやり返したいと思うので、とりあえず地面を蹴って親父に飛び蹴りをコンマ秒で行う。
でも届かない。受け止められている。しかもニヤニヤした顔で。
俺は目を細めて聞いた。
「なんだよ」
「いやなに。スサノオの言うとおり人っぽくなったなぁと思って。こうやってすぐに反撃するなんて、少し前のお前には考えられないことだぞ?」
「たまたまだろ」
「でも今の大智の姿に、みんな驚いているわよ?」
「だからなんだ、母さん」
「良いんじゃないかしら?
「………………」
親父の手を蹴っ飛ばして自分で拘束を外し、黙ってそっぽを向く。
癇に障ったというよりは、図星だったというのもあるが、こんな人外化け物でも受け入れてもらっているという事実にすごい嬉しさを感じているという心がある。
と、ここで二人がようやく起き上がった。
高町はバリアジャケットを解除しており、ミカエルは翼をたたんでいる。
そんな二人を囲むように揃っていた雄樹たちとゼウスたち。俺はというと、そこより少し離れているところで親父と母さんと一緒に居た。
遠巻きに見ると、どちらも健闘を称えている様だ。雄樹とランスロットは握手しているし、テスタロッサと雷神は普通に会話。八神家とペルセウスはペルセウスが謝り倒しており、高町とミカエルは笑って何かを交わし、ゼウスはバニングス、月村、テスタロッサ姉の三人に厳かな顔をして何かを言っていた。
……って、オーディンは?
そう思っていたら後ろから何かしらの気配がしたのでジャンプして一回転したところ、俺が着地するところに穴ができていた。
その穴の部分に着地した俺は、やってきた張本人であるオーディンに振り向かず文句を言う。
「いきなり殺そうとするな」
「信頼して
「やったって……まぁいい。で? 親父たちいつの間にかあっちで胴上げしてるのを無視して聞くが、何か助言をしてくれるのか?」
「
そう前置きしてから、オーディンは語りだした。
「神が人に干渉しすぎないように定めた理由。それが何故かわかるだろ?」
「……
「長嶋大智という仮初を作った
「…」
「特に表情に変化がないところを見ると予想はついていたようだな…。だが、今回はどうだ。明らかに我々は介入しすぎている。それが何故かわかるか?」
「…俺だ」
「そう。お前という埒外な存在が、その掟ともいえるものを破らせている。だがそれは、決して悪くはなかったかもしれん」
「それに関しては良く分からないが」
「我々は、伊弉諾や
そう言って息を吐き、続ける。
「これにより人と神の交流が再び始まる。それによって生じるトラブルを対処するにはやはり」
「
「…そうか」
「ああ」
「ちょっとあんたいつまでそこにいるのよー! いい加減こっちに来なさい!!」
オーディンとの会話を打ち切り、呼びかけられた方を向くと、アリサがいつも通りの怒り顔、他は大体笑顔でこちらを向いていた。
――――どうやら、俺は
その事に嬉しさと気恥ずかしさを抱きながら、
「また戦おうぜ、大智。次こそ圧勝してやる」
「フェイト連れてきなさいよ、来るとき」
「……次こそ決着をつけようぞ」
「ま、頑張れ」
「何かあったら手伝うぐらいはしてやるわい」
「…………あ、あぁ」
なんか向かったら口々にそんなことを言われた。こんなことを言われるのは初めてなので何か不思議な気分になるが、それでも表情は変わらない……ようだ。
と、ここでなぜか俯いていたままの(結局顔は見える)ミカエルがいきなりしゃがんで俺の視線に合わせた。
顔は真顔で、緊張しているのが目に見えてわかる。しかも頬が少し朱色に染まっている。
一体何をする気なのだろうかと内心首を傾げながら待っていると、向こうがやっと口を開いた。
「な、長嶋、様」
「…なんだ?」
「あ、あの…わ、私、貴方の事が……」
「俺の事が?」
「その、す、すすすすす、
『『『!!?』』』
ミカエルの発言に周囲がざわめく、どよめく、騒ぎ出す。
言い切ったミカエルは顔を真っ赤にしながらも続けた。
「は、
そこで区切ったミカエルは立ち上がって
「
「…………」
いきなり好きだと言い出したと思えば射殺宣言か。これは警戒しなければならないかもしれない。
ミカエルの発言を聞いた俺は身の危険を感じ距離を置こうと後ろに下がりたかったが、誰かにふさがれていけない。
「おらおら返事ぐらいしてやれよ!」
「そうよ! どちらにしろ女を待たせるなんて男の恥だわ!!」
どうやら俺の両親が塞いでいるらしい。なんていうか、つくづく楽しいものを人以上に騒ぎ立てるなこの二人は。
しかし射殺宣言されてる俺はどう返事すれば? と思わずにはいられないし思っているが、ミカエルは何やら目を瞑って待っている様だし、他の神様達――ランスロットはともかく――も興味津々な顔つき。
後ろの気配を察するに息を飲んでいるのかもしれない。なんか雰囲気というかそう言うのが重い。
仕方がないので俺はため息をつき、両親から離れてミカエルに言った。
「ミカエル」
「は、はいっ!」
「
シン…と空気が静まる。全員の動きが固まる。
それはまるで、予想だにしない一言を言ったかのごとく。
全員が黙っているので、俺は首を傾げる。
「何かおかしなこと言ったか?」
『『『大有りじゃぁ!!』』』
主に男子が叫びだす。続いて女子が詰め寄ってきた。
「さいていだよ長嶋君今のは!」
「そうよ何言ってるのあんた!!」
「ミカエルさん涙目になってるよ!」
「長嶋君のバカッ!」
「それはひどいよ長嶋君」
「このバカッ! なんて最悪な受け答えしてるのよ!!」
「今のはボケじゃないの!?」
「うっ、うわぁぁぁん!!」
「あかんやろその返事は!」
「長嶋、本当にサイッテ―だな!」
「冗談は時と場合を考えろ」
「そうです」
張本人が泣き出した。しかし何が悪かったのだろうか。良く分からない。
本気で俺が首を傾げていると、それが良く分かったのか、全員が一様に黙った。
まぁ泣かしてしまったのはこちらに非があることぐらいわかるので、俺は崩れ落ちて泣きだしたミカエルの手を取って「ミカエル」と名前を呼ぶ。
が、返事がない。
まぁ仕方がないか。そう思った俺は、「ミカエル!」と叫ぶ。
「ひゃ、ひゃい!」
なんというか、ここまで来るとクールが台無しだな。
ちょっとだけそう思いながら、俺は両手で握りしめて「
「え……」
「俺は好きだと言われるのが初めてだ」
最後のミカエルの発言をがん無視して最初の言葉だけに焦点を当てる。
「だから俺は『自分で好きになる』ことはあれど、『自分が好かれる』ことはなかった」
「……」
「だから言われた時は正直――いや、今も実感も何も湧いていない」
「…」
俯いたミカエルをまっすぐ見据え、俺は結論を言った。
「だから、すまない。言われたところで俺は、『愛』を知らないから」
周囲は黙ったまま。ミカエルも俯いたまま。
言い終わった俺は手を放してミカエルから離れ、オーディンに回廊を出すよう頼む。
頼まれたオーディンは我に返ったように慌てながら回廊を開いてくれたので、俺はその中に半身を突っ込みながら全員に手を振ってから言った。
「先、帰るぞ」
……その言葉に真っ先に親父と母さんが飛びついてきたがゼウスとペルセウスに連行され、高町達が雪崩れ込んできた。
ミカエルは右手で銃を作り、俺に向かって撃つ仕草をしていたのが雪崩れ込んでくる中で見えた。
……涙を拭かない笑顔で。
次からは空白期(小4から高3まで)の日常です。
その間に百話行くんですよね……
vividまで続けられるかどうかって感じですね…
ご愛読ありがとうございます。