世にも不思議な転生者 作:末吉
七月七日。七夕。働かなかった織姫と彦星を改心させるために引き離し、一年に一度だけ会うことが許されてる日である。そこから転じて天の川が見えるその日に笹の葉に願い事を書くと叶うという話ができている日でもある。
正直俺は信じていない。というよりも、前世で織姫と彦星がその日以外に会おうとするのを阻止した記憶がある。勝手に天の川に橋を架けようとして。
その時の二人からのパッシングがうるさくて武力で従わせた記憶があるのだが、今頃元気にしているだろうかと思い出してしまうのは、七月の頭だからだろうか。
四年生七月。高町達が学校にいる頻度が相も変わらず少ない時。
俺はというと、
「なぁ大智。頼むっ! ノート貸してくれ!!」
「…少しは自力で何とかすることを覚えろよ、元一」
「何とかやろうと努力してる! だけど俺の頭じゃその努力の方向性を間違えるんだよ!!」
「自分のダメなところを叫ぶな全く。大体、裕也でもいいだろ」
「前に借りたけど大智の方が分かりやすい!!」
「そりゃ悪かったな元一。俺の分かりにくくて」
「うおっ、裕也!」
…………元一にノートをせがまれていた。
確かに今月中旬あたりにテストが行われるのだが、それにしたってもう少し準備をするなり最初から俺に頼るなりすればこんなギリギリにならずに済んだと思う。
現在は放課後。帰る準備をしている同級生と同じように帰る準備をしていると、元一がいきなり両手を合わせて拝んできたのが事の発端だったりする。
俺帰って夕飯の買い物したいんだけどなぁと思いながら、「また勉強会すればいいだろう」とため息をついて提案する。
「おぉそうだな! 頼む!!」
「裕也もどうだ?」
「良いのか?」
「一人増えようが変わらないから別に」
「なら参加しよう。親に怒られるのはさすがに懲りてるからな」
これで元一と裕也は決定。それ以外は俺から動く必要はないから別にいいか。
「ならいつからやる?」
「できれば今日から」
「悪い。俺今日野球あるんだ。明日なら大丈夫」
「なら明日からでいいんじゃないか?」
「だな…」
「悪いな」
これで明日からやることが決まった。
と、肝心の場所が決まってなかったな……。
「場所は「ちょっと大智いいかしら?」……場所はどうする」
「いや、バニングスさん話しかけてきてるんだぞおい」
「元一。大智はこういう奴だって知ってるだろ。……そうだな、図書館でいいんじゃないのか?」
「いいか、それで?」
「あ、ああ」
「という訳で何か用かアリサ」
「本当に、あんたどういう神経してる訳?」
「自分達の話題が終わりそうなのに口を挟まれたら無視して終わらせてからの方がすっきりできるだろ。そうすればお前の話に集中して聞くことだってできるし」
「……」
「じゃ、じゃぁな大智! 明日頼むぜ!!」
「世話になる」
「ああ」
元一と裕也を見送り、俺はカバンを手で持って急に黙ってしまったバニングスへ振り向いて声をかける。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ!!」
「ならいいが。俺に頼み事でもあるのか?」
「頼み事って…訳じゃないけど……」
「どうした?」
「…あんたさ、七月七日の夜って空いてる?」
「知らん。おそらくその日や前日に何らかの騒動に巻き込まれているはずだ。それがどの程度まで長引くかは現時点では想定できない。断ることができなさそうなものを持ち込んできそうだからなきっと」
「……そう」
「その日になんだ。パーティでもやるのか?」
「……えぇ。だから暇そうなあんたを誘おうとしてるの。なのは達だって来るって言ってたし」
「あいにく、祝い事関係の日で俺が暇な日はないんだが」
そう言うとあからさまにバニングスが落ち込んでるようなので、俺はやれやれと首を横に振って訂正した。
「暇はないが、巻き込まれる用事を迅速に片付ければその分時間が空くため行けるかもしれない」
「本当ね!? ……ま、まぁ期待せずに待ってるわよ!」
そう言うとバニングスは「また明日ね!」と言って教室を出て行く。
残された俺は、何をそんなに嬉しかったのだろうかと首を傾げながら、止まっていた作業を再開させて教室を出た。
帰り道。
のんびりと商店街まで向かっている中。
ナイトメアが念話で俺に話しかけてきた。
『あんなこと言って大丈夫なんですか?』
『まぁ。何が起こるか分からないが、大抵の荒事には慣れてるからな』
『……それはそれでどうなんですかね?』
どうなんですかね? と言われても、前世でそういう類の事しかやっていないのだから返答に困るんだが。
普通に念話外でそんなことを思案する。
その間にもナイトメアは念話でぐちぐちと言ってくる。
『それは置いておきまして。マスターはどうするんですか? 皆さん管理局に行ってしまわれましたよ? マスターも行かなくて良かったんですか? もしかして』
『何を言ってるんだ。俺が管理局に
『え?』
ナイトメアの反応に俺の方がそう言いたい。まさか俺が管理局に所属できると思っていたのだろうか。
『普通に考えてみろ。俺のような特異点、しかも実力もすべて一線を画し、管理局を一人で苦も無く潰せるような奴だぞ? そんな危ない奴を傘下に積極的に入れようと思うか?』
『危ない奴だからこそ入れたいんじゃないですか?』
『言っておくが、俺は管理局の思想を受けると思えるか?』
『……それは』
『
『確かに……』
納得するナイトメア。それに対しもうすぐ商店街に着きそうな俺は『もうすぐ着くから黙ってろ』と言って念話を終了させるように促した。
七夕前日。学校。の、登校中。
今日も今日とて一人で屋根を跳んでいたところ、半分近くのところで
俺はその屋根に着地して言葉を投げかける。
「なんだ一体。今日は七夕前日だぞ? なんで関係のないペルセウスが来るんだ?」
「いやまぁそうなんだが。とりあえずお前を拉致るため?」
「堂々と言われても予想できていたから驚きも何もないんだが」
「だよなぁ……ところでよ」
「なんだいきなり」
「明日ってお前予定ある?」
「……夜に」
「そうか夜か……」
人の家の屋根に立った状態で腕を組んで思案するペルセウス。俺も人の事は言えないが、とりあえず道路を歩きながらでも構わないのではないかと言いたい。
とはいってもあちらに何を言おうが聞き入れてもらえる可能性がほとんどないので(あったとしても勝負しろよとか条件を付けられるに違いない)、俺は相手がしゃべるまで待つことにした。
「……なぁ」
「ようやくか……なんだ?」
「いや……特に何もないようだから天の川の橋造って短冊の願い見ながら宴会しようぜーって話をメールが届く前に言う気で来たんだが…」
「…予定を口走ってるぞ?」
「まぁ天の川の橋を造りに来いよなってことだ。
「あぁそう」
拒否権がないことぐらい知っているので、俺はペルセウスが出した回廊に入った。
「やけに素直だな」
回廊に入った時にペルセウスにそう言われた。なんか少し警戒しているようだ。
俺は首を左右に振ってからため息をつき、「最初から拒否権なんてないだろう。断っても強制的に連れて行けるしなお前ら」と厭味ったらしく言っておく。
「まぁそうだな……って、さすがにそこまでしねぇぞ!」
「どうだか。今まで俺は何回か強制連行をされているからな」
「……」
露骨に顔を背けるペルセウス。きっと心当たりがあるのだろう。なかったら俺は殴る決意をしただろうが。
という訳で回廊の中を走る、というか高速で滑りながら、俺達は会話をする。
「にしてもどうして前日なんだ? 神様総出なら三秒もかからぬ所業だろうに」
「あ、知らなかったのかよ? 総出でやるわけないだろ
「で、今年は誰だよ?」
「あーロキに、俺に、白虎に、朱雀に、阿修羅に、弁財天と、臨時でお前」
「……金でるんだろうな?」
「いや。神様がお金なんてもの持ってるわけないだろ。大体これ、帝釈天が取り決めた慈善事業だし」
「なんで七夕に帝釈天が?」
「さぁね。七夕の伝承で一年に一度会うことが許された織姫と彦星だが、どうやって星々……というか、世界間を渡る手段がなかったらしくてな。二人して別々な世界で元気なくし過ぎたのを見た帝釈天が…って感じだと思うが」
「なるほど。さすがに釈迦を助けたと言われてる人物だな。そんでもって俺はなぜ?」
「ロキがふらりとどこか行ってよー。それだけならいいさ。阿修羅の野郎は俺に喧嘩吹っかけてくるから応戦しなくちゃいけないし、朱雀に白虎はまぁぶつくさ言いがならやってるが、弁財天は楽器より重いものが持てないとかぬかしやがってよ」
「そういえばどうやって橋を作るのか聞いてないんだが?」
「それは簡単だ。お前の親父が数百年前に作り出した空間歪曲石を、織姫のいる世界と彦星のいる世界から二人に気付かれないようにこっそりと積み上げるというか、空間に亀裂入れて石をそこに入れて通れる道を作るって寸法。ただし丁度その中に毎年面倒な奴らがいるから本当に面倒らしい」
「それを倒せってか」
「まぁそれもあるけど。とりあえず阿修羅押さえて弁財天を説き伏せてくれればいいかな。ロキの野郎帰ってこないし」
はぁとため息をつくペルセウス。こいつがどうしてまとめ役をやれているのか不思議に思ったが、別段どうでもよかった事案なのでスルーする。
…なんだろうな。意外と簡単な事のような気がするんだが。
ペルセウスからの指示を聞いて俺は拍子抜けしかけたが、ロキが絡んでいるのを思い出して警戒心を残しておかないとと気を引き締める。
と、丁度その世界の入り口に来たのか俺の首根っこ掴んでペルセウスは近くの扉に突撃した。
「着いたぜ」
「おいペルセウス貴様どこに……! お前は!!」
「おー阿修羅。とりあえずこいつ臨時で連れてきたから」
ペルセウスはついた早々阿修羅に俺を差し出してダッシュで逃げた。
おい待てと言えるわけもないので、俺は目の前で驚いている阿修羅に片手をあげて「よっ」とあいさつする。
阿修羅の真ん中の顔がしゃべった。
「永劫輪廻尊……の元器か」
「久しぶりだなその呼び名。今は長嶋大智だ」
「そうか……で?」
不意に好戦的な視線になる。今からでも俺と戦おうという意思をひしひしと感じる。
あぁやっぱり戦闘狂か。そんな感想を抱いた俺はため息をついて言った。
「橋を完成させるのに邪魔な存在がいるらしいぞ? そいつを倒せばいい運動になるんじゃないか?」
「運動にはなりそうだが戦闘にはならないだろ。私は、命を懸けた戦闘がしたいのだ」
「橋を早く作り終えて邪魔者を倒せば戦ってやろうじゃないか、ペルセウスが」
「ふむ。乗った」
言うと同時に消えた阿修羅。
さてペルセウス。お前を売ったから橋が完成できたら頑張ってくれ。
罪悪感も感じずに俺は両手を合わせて合掌し、今度は弁財天の下へ行こうとしたが……さてここはどこだろうかと首を傾げることになった。
時間飛ばして翌日。の昼間。具体的には午後三時ぐらい。
俺達は未だに橋の建造に追われていた。
「やっほーそろそろ終わったと思ったから来てみたんだ、け、ど……」
「いたぞロキだぁ!」
「テメェなに逃げてるんだ手伝え!!」
「ちょっ、ペルセウス!? そしてひょっとしてこの子が長嶋大智!? って、痛い痛い痛い腕を握らないでマジで君達の握力化け物じみてるんだから!」
「きやがったな戦犯! 残り二割だからテメェ一人で終わらせろ!」
「私達がここまで来るのにどれだけ苦労したか分かってるの!?」
「って僕一人で二割はさすがにきついよ白虎さん! あと、僕にだって用事があったんだ逃げたわけじゃない朱雀さん!!」
「さっさと完成させてペルセウスと勝負させろ! 結構我慢してるんだ!!」
「え、ちょっとさすがに阿修羅に関して言える義理じゃないけど、大体君のせいじゃないの? ここまで遅くなったの」
「うらぁぁぁ!」
「「「「やめろぉぉぉ!!」」」」
出来の悪いコントみたいに阿修羅を止める俺達。俺はその際魔力を全部解放して止めているが、結構大変。
ちなみに。ここまで橋の建造に遅れが生じた理由は冷静にロキが突っ込んだ通り、大体が阿修羅の我慢が限界になって石を壊したから。あとは……弁財天が役に立たないからだな。あいつには織姫と彦星の橋ができるまでの言葉の橋渡しをやってもらっていたから(今は疲れ果てて寝てる)。
俺達は止めながら、動こうとしないロキに叫ぶ。
「テメェさっさと残りの部分つくってこい! やり方分かるだろ!?」
「えーでもー」
「良し阿修羅。ロキを穴に放り込んでくれたら白虎も勝負してやるって」
「おい大智! ふざけんなそこはお前じゃないのか!?」
「ごうらぁぁ!!」
「また強くなってるわよ! ロキ!! さっさとつくってきなさい!! そして阿修羅の糧になりなさい!」
「え、それって僕も戦えってこと? それはちょっと……」
「「「「いいからさっさと仕事しろ!!」」」」
「……はーい」
『僕もいろいろ大変だったのに……』そんなことを呟きながらもロキは消え、俺達はホッと息を吐きながらも阿修羅にしがみ続けている。
現在位置は建造途中の橋の、彦星のいる世界側の端。ちなみに彦星には少し離れた場所にいてもらっている。同様に、織姫も。
だってこんな文字通りの修羅場に近寄せたくないだろ?
「うごぉぉ!!」
「大智! やばいって!!」
「それはわかる!」
「私はもう無理!」
「ちっとはがんばれ朱雀! こいつが解き放たれるぞ!!」
「……仕方がない」
俺はしがみつくのをやめて距離を取り、バリアジャケットを展開せずにその距離のまま阿修羅の腕の一本を殴る。
「離れろ!」
「「応!」」「わかったわ!」
俺の言葉に従い三人は離れ、阿修羅は俺へ振り向く。
「おめぇか……」
その形相は普段とは違い正に修羅。まぁ普段が抑えているのだから本性はこっちなんだが。
にしてもどうするか……。焚き付けてしまった手前逃げることができないしな…。
「まぁ仕方ない。一時的な措置だ。かかって来い」
「うおらぁ!」
一足飛びに襲い掛かってくる阿修羅に動じず、俺は自然体で背後に回った。
「終わったよー」
「「「…………」」」
「って、なんで僕が白い目で見られなきゃいけないんだよ! 二時間で終わらせたのに!!」
「その間に大智が全力で足止めしてくれたんだよ! 感謝しろテメェ!!」
「そうよ! あんたなら一時間で終わったでしょ!?」
「え、ひょっとして大智一人でやってたの?」
「アレに介入出来てたら俺達もタダじゃ済まなかったし、なによりあの二人の被害を抑えるのに精いっぱいだったんだよ」
「ペルセウスはどうしてたのさ」
「俺もあの二人の被害抑えてたんだよ。俺達三人でやっと被害がない状態だ」
「で、二人は?」
「阿修羅は大智の前世の兵器受けて沈み、大智はさすがに徹夜+これで疲れすぎたせいで阿修羅が倒れたのを見てぶっ倒れた」
あー意識が戻ってきたな。なんか阿修羅倒れたのを見た瞬間気が抜けてぶっ倒れたんだったか。
状況を思考で把握して目を開ける。うつ伏せだったために地面しか見えない。
脳は正常。体がだるい。目が疲れてるのか瞼がすぐに落ちる。
……あぁ。徹夜を押して足止めという名の戦闘を行ったからか。もう橋造りは終わったのだろうか。
帰るのが面倒だというか俺はこれから帰れるのだろうかと思っていると、誰かに体を起こされた気がした。
「――――あ?」
「お~起きてるぜー」
「でも大丈夫? なんか目瞑ったままだよ?」
「「「お前が言うな」」」
知らない声……ロキか。そう言えば弁財天はまだ飛び回ってるのか?
橋造り終わったからもういいんじゃね? とぼんやり考えていると、なんだか急に体が軽くなった。
一体誰がと思い瞼を開けて首を回すと、ペルセウスが俺を持ち上げており、朱雀と白虎が両脇に存在し、ロキが離れて「の」の字を書いていた。
…………なんだこの状況。
「――――疲れた」
『お疲れ様です』
「お~~い! 大智!! こっちだ、こっち! さっさと来てくれ!」
戻って来て午後七時。宮野巡査に見つからないように屋根を飛び回って携帯に着ていた『私の家だから』という素っ気ないバニングスからのメールで目的地へ向かったところ。
普通に侵入できたために歩いて家へ向かっていると、俺に気付いたらしい元一が叫び、それに反応してそこにいた全員が俺の方を見た。
こうして、俺は無事にパーティに途中参加した。
なぜか、短冊を書けと言われたのでとりあえず『若くして死なないこと』と真面目に書いたら呆れられたり怒鳴られたりした。
久し振りに高町達と会ったが特に変わっておらず、向こうは久しぶりのせいかテンションが高く俺にやたらと近づいて(おもに高町と八神)話しかけてきた。
テスタロッサはどこか羨ましそうにしながらも俺にちょくちょく話しかけてきた。
そんな感じの七夕。
ご覧いただきありがとうございます。