世にも不思議な転生者   作:末吉

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この時系列が微妙にわからなかったので、夏辺りだと思ってください。


98:五年・彼女が墜ちた日

「疲れた……」

 

 背伸びをして腕を降ろした俺がそう呟くと、隣にいたアリサが不機嫌そうに聞いてきた。

 

「なによ。普段より疲れるようなことしてないでしょうに」

 

 無事に進級して五年。身長が少し伸びただけで終わっている身体的特徴の変化を除けば特に変わったこと――四人ほどあまり学校に来ず、テストの際に俺達を頼る始末なので一回真面目に取り組ませたいと考えている以外――はなく、俺の異世界出勤の回数が少なくなっているためにこうして地球に残っている奴らと一緒に居ることが多くなっているという事実がまぁ、あるだけ。

 

 今も俺はアリサの買い物に付き合わされているのだが、まぁなんか御用達みたいな場所らしく。

 何故か俺はいつぞやに作ってもらったスーツを着て同伴する羽目に。

 で、今終わり。車の中。

 

 俺は隣でそっぽを向いた彼女に声をかける気もなく、今度は欠伸を漏らす。

 

 ……平和だ。平和すぎて退屈(・・)だな。

 

 そう思った頭に、俺は心で得心する。

 

 俺が平和を享受できることは一切来ない。俺の中で闘争と戦闘と労働が根の方に入り込んでいるせいで。

 

「何考えているのよ」

「平和とは次の戦争までの準備期間でしかない、と」

「……本当、物騒な考え方はいつも通りね」

「事実だ。恒久的平和など存在はしない。犯罪や戦争があるのだから」

「あんたって本当に……」

 

 そう言ってため息をつくアリサ。俺はと言うと、ナイトメアが言う文句の種類に関して推察していた。

 ところ。

 

 不意に、両方の携帯電話が鳴った。

 

「鳴っているぞ」

「そっちこそ」

 

 互いにそういって、互いに電話に出る。そのタイミングは一緒だったが、かけてきた相手は当然ながら違い、親父だった。

 

「どうした」

『今何してるんだ?』

「買い物を手伝わされた帰り」

『ああそう。お前何回かなのはちゃんに言ったんだよな? 根詰めるのは意味がないって』

「少なくとも四回は言った記憶があり、言って数日はおとなしかった記憶はある」

「えぇ!? なのはが重傷ですって!?」

 

 隣で驚くアリサの声。それで親父の言いたいことが分かった俺は、「原因は?」と訊ねる。

 

『あー、ガジェットってロボット。本来ならそんなの簡単に壊せてたろうけどな、休むことをせず周りに応えようとばかりしていた結果だろう』

「そうか」

『じゃ、後はよろしく頼む。俺は仕事してるから』

「ああ」

 

 そういって電話を切った時、車はスピードを上げていた。

 

 

 

 

 

 

 病院についた。

 とはいったものの病院があるのはミッドチルダなのでアリサはいけない。なので俺は親父に頼んで回廊を出してもらい、アリサと一緒に向かった。

 で、アリサの方はそのまま病院の方へ向かい、俺は屋上の気配がいる理由を訊ねるために全力で跳んだ。

 

「いやはや。原作の修正力は恐ろしいね」

「暇なのかロキ」

「暇というか、見に来ただけだよ。僕は僕で結構忙しい」

「そうか……ところで、なのはがこうなることは原作通りなのか?」

 

 屋上につくと何やら驚いた顔のロキがいたのでなのはの状態に関しての質問してみると、「そうだね」と肯定した。そして、「君が行けば原作なんてすぐに崩壊するけどね」と付け足すことも忘れずに。

 

 それはそうかもしれないと思いつつ、「あれは自業自得だな」と切り捨てておく。

 

「相変わらず厳しい言葉だね」

「再三注意はした。三年の夏休みに厳しく言った。にもかかわらず調整を軽んじ、休息をなくし、追い詰めるだけ追いつめた。その結果がこれだ。自業自得以外に何がある」

「いや、そりゃそうなんだろうけどさ、君は人のこと言えないよね」

「別に。前世が前世だからな。むしろ、精神力が削られてない時点で休息してると思うが?」

「ああそうだね。前世の方が確かに酷かった(・・・・)

 

 頷きながらそう言うので、俺は自分で振っておきながらすぐさま話題を変えた。

 

「ところで、お前本当に見に来ただけなのか?」

「いやーまぁ」

 

 なぜ言葉を濁すんだろうか。ひょっとして後ろめたいことでもあるのか? それとも……

 などとロキの不審な様子を見ながら思っていると、不意に彼が頭を下げた。

 

「ごめん!」

「何が?」

「なのはちゃんに怪我を負わせたロボット、あれ本当は別な場所に出てくるはずだったんだ!」

「……あ?」

 

 何を言うのかと思ったら、いきなりなのはが怪我をした原因を語り始めた。

 

「あのロボット――ガジェットっていうんだけど、あのロボットは元々ある神様の忘却神具だったんだ! それを知ってたけど不用心に僕が動かしたせいで……!!」

 

 そこまで言われた瞬間俺の中で何かが弾け飛び、気が付けばロキの腹部に全力で右アッパーを入れて空高く打ち上げていた。

 それだけに止まらず、空中に放り出したロキの真上に飛び上がって両手を握って振り下ろし、屋上の床に叩き付けられる直前に追いついた俺はロキを上空へ蹴り飛ばす。

 

 そこまでは意識があったが、それ以降は無我夢中、我を忘れて攻撃した。

 

 

 

 我に返れたのは誰かに止められたから。その誰かというのは、仮面をつけている理事長だった。

 

「珍しいな」

 

 そういわれて我に返る。そして周囲を見渡すが、崩壊したところなどどこにもなく、ただめり込んだ足跡が数か所あるだけだった。

 何があったのか段々思い出しながら振り返ると、そこにはボロボロのロキを担いだ理事長が佇んでいた。

 心がまだ燻っているのか体が構えようとすると、理事長は笑いながら言った。

 

「いつもの君なら『起きてしまったのならしょうがない』というのに。すっかり『人間』らしくなったな。いやはやいつまでも変わらないと思ってるものが変わると、それ自体が真新しく感じてしまうのはいつの世も同じだ」

 

 その言葉に不思議と心がクールダウンしていき、俺は構えを解く。

 解きながら、理事長に質問した。

 

「一体どうした?」

「なに、君が魔力を解放せず肉体のみでロキをこのようにするから君自身がボロボロなんじゃないかと思ってね」

 

 そう指摘され、改めて手を握ろうとすると神経が傷ついているのか痛みが走った。

 

「ぐっ」

 

 その痛みを感じてしまったせいなのか、急に全身へ走り出す痛み。苦痛を伴いながら皮膚は切れ、血が流れ、足は動かなくなり、視界は明滅し、吐血して倒れこむ。

 

「人のことは言えないと思わないか?」

 

 そんなことを言われた俺は、否定も肯定もできずに意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 目が覚めた。というより意識が戻ってきた。

 ところで、意識が戻るという表現はいささかどうなのだろうかと天井を見ながら思考し、ああ、俺入院しているんだなと結論付けて首を横に動かすと、点滴が視界に映った。

 そして結構重傷なのかと思った俺は、けれど体を起こす。

 

 体を起こそうとするたびに走る激痛。色々切れているせいかところどころ力が入らない気がするが無視して起き上がってみる。

 視界にとらえたのは、入院しているはずのなのはだった。

 

 ……同室か。誰にでもわかる結論を出した俺は、無事らしい首を回して周囲をゆっくりと見渡す。

 扉前には誰もいない。気配もしない。

 窓のほうを見るとどうやら夜。何やらノスが窓ガラスをたたいているが、俺は腕に力が入らないので壊すこともあけることもできない。

 

 そのまま見ていると、一瞬姿が消えたと思ったら部屋の中にノスが現れた。

 

「やぁ」

「見舞いか?」

「そんな感じ。魔力なしで神をボコボコに殴れた君の状態を見に来たんだ」

「今思うと俺も不思議だ。咄嗟に手が出たとしか言いようがない」

「へぇ。それは、君が段々と『人間』になり始まった証拠じゃない?」

「そうなのか?」

 

 そう尋ねると「まぁ本人に自覚がないのはわかりきっていたけどね」と暗に俺を貶してから、なのはの方を見てつぶやく。

 

「彼女、リンカーコアに傷ができて魔法が使えるかどうかわからないらしいよ」

「そうか」

「って、一気に不愛想になったね」

「別に。そんな危険ぐらい管理局に入ればあり得るだろと思っただけだ」

「あーなるほど。ま、確かにそうだと思うけどね」

「で、本題は(・・・)?」

 

 そう言うとやっぱりばれたかという顔をしてから、話し始めた。

 

「ロキの過失に関しては特にないらしい。というより、ロキがたまたまそこに居合わせたっていうのが正直な話みたい」

「は?」

「彼が触れて起動した――のではなく、触れたとき(・・)に運悪く起動してしまった。その証拠に、あの壊れたガジェットに、彼の神力はなかった」

「……俺の殴り損だろ」

「ただまぁ、結果的には殴られてよかったのかもしれない。ロキは」

「どうして」

「ガジェットは忘却神具。これはロキがそう言ったんだろ?」

「ああ」

それは(・・・)誰も知らない情報(・・・・・・・・)だったんだよ。置いてあった場所も、起動方法もわかっていたのに、誰が所有していたのかわからなかった――ロキとその本人以外はね」

「……」

「ロキ自身も知ったのはつい最近、適当に入り込んだ研究所で耳にしたっていうだけでそれ以外は知らないの一点張りだけど――おかしいと思わない?」

「だろうな。いくら放浪人でも場所ぐらいはいけば記憶するだろ」

「特に神様なら記憶せざるを得ない。否応でも記憶する。なのに、彼は研究所とこれが忘却神具だということ以外覚えていない(・・・・・・)

「にもかかわらず覚えてない、か……嫌な予感がひしひしとするな」

「そんなわけさ、今回の顛末としては」

「消化不良が否めないが」

「じゃ、またわかったら大智のもとへ行くから」

 

 そう言うとノスは再び眼前から消え、それを見送った俺は痛みと格闘しながら体を倒して寝ることにした。

 

 

 

 

 

 翌朝目を覚まして少しは和らいだ痛みに驚きつつ起き上がると、なのはと視線が合った。

 

「……えっと、大丈夫だった?」

「そういうお前こそ大丈夫だったのか? リンカーコアに傷がついて魔法使えるかどうかわからないんだろ?」

「……うん(・・)、もう取り乱さないよ」

 

 その眼には強い意志が、確固たる意志が宿っていたのを見た俺は、その意味することを検討し、該当する内容を口にしてみた。

 

()、聞いてただろ」

 

 それに対しなのはは視線を外し申し訳なさそうに「……うん」と答えた。

 

 続かない会話。

 

 その均衡を破ったのは、なのはだった。

 

「ごめんね」

「それはなんに対してだ? 俺の注意を聞かなかったことか? それとも話を聞いたことか?」

「どっちも、かな。ちゃんと大智君は注意してくれた。やり過ぎるのはよくないって。でも過信した結果こうなっちゃった。そして、大智君がそうなった原因が私にあるということも」

「俺がこうなったのは俺の責任だ。お前が気負う必要はない」

「優しいね……いつも。本当に」

 

 何かに耐える様に再び俯くのが分かる。それに対し俺は何も言わず、ただ見守る。

 

「……本当に、涙が出てくるほどに」

 

 なぜ泣くのか。その疑問に関して特に答えが出ない俺は、泣き出した彼女を見守るだけしかできなかった。

 

 

 

「落ち着いたか」

「うん……」

 

 タイミングを見計らって声をかけると、元気が少し快復したように思える。

 なら言いたいことを言っておくか。

 そう思った俺は、口を開いた。

 

「なのは」

「何?」

「この傷は考え方次第でトラウマにも教訓にもなる。教訓になれば自分の中で見極めがつき、トラウマになると似たような奴に対し実力が発揮できなくなる可能性がある」

「え? いきなり何の話?」

「肉体的外傷は時が経てば癒える。だが、精神に刻まれたものは考え方次第で深い傷のままになったり成長したりできる」

「……」

「だからお前に言えることは一つ……怯えて後ずさるな。乗り越えて成長しろ。そうすればいつか似たような奴が現れれば救えるはずだ。なにせ、経験したんだからな」

「…………大智君」

「なんだ?」

「結局、何が言いたかったの?」

 

 ……小学五年生で理解ができないのは些かまずいんじゃないのだろうか。

 そんなことを思いながら、理解できそうな言葉で同じことをもう一度いう事になった。

 

 

 

 ……そのお蔭かどうか知らないが、彼女はリハビリを頑張り以前どおりに魔法が使えるようになったという話をわざわざなのはの家の喫茶店の一席で話してくれた。

 以前のような笑顔で話すなのはを見ると「よくやった」としか言葉が思い浮かばなかった。

 

 

 ちなみに、俺が入院してるのが分かった時の反応は、

 

 アリサに怒られ、すずかとフェイトに心配され、はやてに笑われ、ヴォルケンリッター達に何も聞かれず、雄樹に驚かれた。

 

 ……なのはと一緒の病室にいたのに反応が露骨に違うからな……困ったものだ。




次デート…? になります。

ご愛読ありがとうございます。
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