第一話~始まりの町~
私は両親の反対を押し切りカザンの町に向かっていた。
カザン――ハントマンとして世界をまたにかけて活躍した、英雄ドリス=アゴートとその仲間によって建国された共和国だ。
そしてドリスは今はその国の大統領である。
「しかしフレニアの嬢ちゃん、本当にハントマンになる気かい?」
「当然!じゃないと何のためにカザンに向かっているか分からないじゃない!」
自分の村から護衛としてついてきてくれたオジサンに自信満々に返す。
まだ私が武器を持っていないのと、周りのモンスターが手強いということで無理を言ったのだ。
「それに一応私は16歳よ?そろそろ自分のしたい事が出来てもいいと思うの」
ハントマンとして活動するためには登録施設に行かなければならないが、それはカザンにしかない。
したがってハントマンになるなら、必ずカザンで登録を行わなければならない。
私が何度目か分からない質問に迷う素振りもなく答えると、オジサンは大きくため息を吐いて、
「そこまで意志が固いんじゃ仕方ないかぁ……後悔しても着いたら戻れないからな?ほら、あそこに見えてきた街があるだろ。あれがカザンだ」
遠目だから町自体はよくは見えないけれど、人が結構出入りしているのが見える。
なんか雰囲気出てきた!
「それじゃ、俺はここまでだな。ほら、餞別だ。それじゃあ頑張れよ」
町の入り口に着くと、オジサンは私に硬貨をいくつか渡して立ち去って行った。
それを見送り町の方を見る。
オレンジ色の屋根、レンガでできている家々で町並みが形成され、露店などが石畳でできた街の道に開かれいて、人でごった返している。
道行く人も活気があり見ているだけでウキウキしてくるような……!
物珍しそうに周りを見ながら進んで行き、登録所を見つけた。
中に入ってみると、机の周りで話し込んでいる強そうな人や、ちょっと柄の悪そうな人、優しそうな騎士風の女性など多くの人がいた。
これからこの中でやっていくことになるのかな……?
おっかなびっくり受付らしきところまでやってくる。
「あの……」
「あら、いらっしゃい。私はエラン。ここの管理をさせてもらっているわ。それでここはハントマン達のためのギルド管理部なの。カザンを拠点とするハントマンが最初に訪れるところよ」
エランと名乗った女性が、おずおずと声をかけた私に饒舌に話し始める。
「ハントマン達の集まり、つまり『ギルド』の設立やメンバー登録をする場所なの」
分かったという意思表示で頷くと、エランは軽く微笑み、
「それであなた……お名前と職業を先に聞いてもいいかしら?」
「名前は本名ですか?」
「こちらに登録したい名前で大丈夫よ。募集などで使う名前だから」
「フレニアで、サムライです」
普段呼ばれている名前をはっきり伝えると、紙に書き留めていた。
「サムライのフレニアさんね。あなたはどこかのギルドに所属するの?それとも自分で設立する?」
「えっと……自分で作ろうかなって思います」
少し悩んだ末、自分で色々やってみたいからそう告げた。
「設立するのね。じゃあ、貴女が立てるギルドの名前を聞いてもいいかしら?」
「え!?あ、うーん……じゃあ、シャルテリアで……」
ギルド名なんて全く考えてなかったので、単純に音の響きだけで名前を決めてしまった。
こんなことならちゃんと考えておくべきだった。
「シャルテリア、か。うん、ステキな名前じゃない。登録しておくわね」
優しく微笑んでくるエランさんだけれど、なんかこう、釈然としない。
そんな私のことは他所に話を進めてくる。
「今は貴女一人だけど、私に言ってくれればいつでも仲間を紹介や新しいメンバーの登録をするわ」
でもこれでハントマンとして大々的に活動ができるようになった訳である。
表情がにやけてしまうのを感じながら、話を聞く。
「冒険に慣れないうちは4人で行動するのがオススメよ、あとはそうね……そうそう、ここから出て右のほうにここと似たような建物があるけれど、そっちにも顔を出して頂戴。そこはクエスト管理部っていって、ハントマンが仕事をする際に必ず利用する場所なの」
「わかりました」
「それじゃ、頑張ってね。期待しているわ」
エランさんに見送られながらギルド管理部を後にする。
言われたとおりに右手に進んでいくと、同じような建物があったのでそこに入る。
こちらはギルド管理部に比べてあまり人が居らず、比較的静かだった。
とりあえず奥に進み、受付らしき場所の中央にいる眼鏡をかけた男性に話しかける。
「エランさんにこちらに顔を出してと言われたのですが」
「クエスト管理部へようこそ、新人ハントマン!私はメナスだ。ここは世界各地からハントマン達への依頼が集まってくるところだ」
メナスと言った眼鏡をかけた男性も饒舌に話し始める。
……決まり文句なのだろうか?
「我々は依頼人とハントマンを仲介する立場にある。ハントマンとして名を上げるならとにかく依頼をこなしていくことだ。わかったかね?」
「うーん、少し分かりませんでした」
「そうか……だが、いずれ分かってくるだろう」
ちょっと無責任な気もする発言をするメナス。
彼は受付の下から何かを取り出しカウンター上に置く。
「まずは新人に配っている武器と、マナ結晶だ。特にマナ結晶はなくさないように」
彼からショートソードと、青く淡い光を放つ石を渡された。
とりあえず受け取ってショートソードは身につけ、石を袋にしまう。
「さてと、まずはこのカザンの町中を周ってみるといい。依頼を見つけるためにもな。基本、依頼は直接話してから依頼主が話したギルドに対してお願いすることが多い。まずは町中に張られている紙などを見るといいかもしれないな。我々は君のような若いギルドを歓迎する。焦らず頑張りたまえ」
「ありがとうございます」
話の内容は半分ぐらい理解できてなかったが、とりあえず腕試しがしたいのでそそくさと立ち去ろうとすると、
「……そうそう、仕事をする前に先程渡したマナ結晶を握って念じてみろ」
急に呼び止められ命令されたので、渋々石を取り出して念じてみる。
「!?」
すると頭の中に変な模式図が浮かび上がった。
「今、習得できるスキルなどが分かるはずだ。指示に従って取りたいものを選べばいい。経験を積めば色々なスキルも使いこなせるようになるだろう」
言われたとおり、なにやら文字が光っていたりするように感じて、それが習得できるという事なのだろう。
とりあえず、カタナマスタリーと書かれているものを習得しておいた。
メナスは私が石を袋にしまいなおしたのをみて満足そうに頷き告げる。
「話はそれだけだ。さあ、行きたまえ!」
そして私は町の外へと足を運んだ。
街から少し離れた場所まで歩いていく。
途中で他のギルドであろう人達がいたりしたが、そのまま進んでいく。
ここら辺はモンスターが弱いと聞いている。
多少きつくても何とかなるだろう。
そう思って見回すとウサギのようなモンスターが二匹いるのを見つけた。
たしかラビって奴だったはず。
それにしても可愛いような……モンスターじゃなければ飼いたかったかも。
大きさは私の膝丈無いぐらいで、怖くも無い。
初戦闘にはもってこいかも!
ショートソードを鞘から抜きながら近づいていくと、向こうも気付いたらしく寄ってくる。
先手必勝!
私は勢い良くショートソードで袈裟懸けに切りつけたものの……
「へっ……?」
ラビは少し傷を負った程度で、まだピンピンしていた。
結構本気だったんだけど!?
突っ込んでくるラビ達。
「あ、あわわわわ……!」
慌てて構えなおして受けようとする。
飛び上がって攻撃してくるラビの攻撃を、ショートソードの刃で受けようとして右腕から熱を感じる。
遅れて強い痛みが訪れる。
「!?いたぁ…!?え…!」
傷を見ると腕の表皮を大きく抉られ、血が大量に出ていた。
「や、いやぁ!こないでっ!」
恐怖で足がすくみ蹲る。
そのまま私は身を守るように頭を抱え目を閉じてしまう。
死ぬの、私…!?
こんなに早く……!
目から涙が出てくる。
近づいてくるラビの足音。
「ひっ…!」
「ん……」
ヤバイと思った瞬間に何かが凍て付く音と、かすかな人の声が聞こえた。
軽く目を開け見回すと、私より少し小さいぐらいの白い長髪の女の子がラビに向かって手を突き出していた。
彼女の耳は狐の耳であり、パッと見でいわゆるルシェなのだと分かる。
私を狙っていたラビは目標を変更してその少女に向かっていく。
彼女は動ずることなく、無表情のまま何か言葉を呟いている。
「あっ!」
少女にラビが飛び掛り、思わず声が出てしまうが、瞬きをしている間にラビは凍ってしまっていた。
軽く手に傷を負っているようだったが、少女は気にせずこちらに近づいてくる。
それに合わせて私も何とか立ち上がる。
並んでみると私より背が少し小さいぐらいだった。
「……大丈夫?これ食べて傷を治して」
「ありがとう……」
渡されたパロの実を口に含み飲み込むと、徐々に傷口が閉じていく。
ハントマンなはずなのに、助けられてしまった。
「あなたの名前は?」
「……ウィミア」
「私はフレニア。ウィミア、本当にありがとうね!」
「……無茶するの危ない。心配でついてきたから……」
「えっと……ギルドの時から実はついてきてた?」
私の質問にコクコクと頷くウィミア。
助かった安心感から再びそのままへたり込んでしまう。
「ふああ……ここまでとは思わなかったよ……」
彼女は呟く私の袖をクイクイと引っ張ってくる。
「どうしたの?」
「……」
指を指された方向を見ると青い蝶々が飛んでいる。
「あれがどうしたの?」
確かに少し大きい気もするけど……
「あれ、モンスター。危ないから帰るべき……」
「うぇ!?」
私は慌てて立ち上がり、私達はカザンの町へと逃げ帰った。
カザンの町に辿り着き、何とか町中を歩いている。
少し気を抜くとまたへたり込んでしまいそうだった。
「仲間とか、ギルドとか用事あったかもしれないのにごめんね。今度お礼に行くから!」
私がそう告げるとウィミアはフルフルと首を振ってくる。
お礼は別にいいってことなんだろうか。
口を開こうとするとボソリと、
「……仲間とか、いない。駆け出しだから…」
「いや、それでも……えっ?今何て言ったの?」
あまりにも平然と表情も変えず言われたものだから、反応に時間がかかってしまった。
駆け出し……?
先程の平然とモンスターと対峙している様子からは全くそう見えなかった。
それで思わず聞き返したのだけれど、
「……フレニアのギルドに入りたい。心配だから」
答えになっているような、なっていないような返答をされた。
表情があまり変化しないので、何を思ってるのかも分からないし。
「え、ええっと、それは大歓迎というか、私的にはお願いしたいくらいなんだけど……いいの?」
ウィミアは私の言葉に頷き、
「……ギルド行って登録するから」
歩く方向を宿屋からギルドへと変えた。
「あっ、うん!自己紹介、しとく?」
ウィミアは顔色一つ変えずにそのまま私の隣を歩いている。
……どっちなんだろ。やっておいたほうがいいだろうけど……
「……メイジ。氷、マナ魔法を中心として習得するつもり」
突然ウィミアが口を開き、自己紹介と思しき発言をし、ちらりとこちらを見てくる。
「あ、一応サムライで、うーん、習得について良く分からないから……」
「……後で色々教える」
そうしてギルドに到着して、エランのいる受付のような場所に移動する。
「ギルドメンバーの登録がしたいのですけど」
「シャルテリアね、分かったわ。どなたが加入するのかしら」
私が声をかけると流れるように手続きを行ってくれた。
「またいらっしゃい。待ってるわ」
軽く挨拶されて、二人とも会釈を返す。
「それでどうしようか?」
「今日は宿屋で色んな基本を教える……でも」
「でも?」
「……まずは装備。少し整える」
そうしてウィミアに連れられ、町の露店を見て周ることになった。
「あ、あれ美味しそう!……あ、うん大丈夫」
先程から私の興味が少し他のものに向くと、ウィミアに袖を引っ張られている。
お金を見せたら防具を少しと言われた。
宿屋の金額も考えると、それぐらいらしい。
「……ここ、バラッカ武器店。経営長いらしいから、いい」
そんなこんなでウィミアが言う露店に近づくと、白髪の少し老いている男性が出てきた。
彼は入ろうとしていた私達に目を向けると、
「自分に合った武器を選べ。そうすればいつか必ずや名剣に出会えるだろう」
「は。はぁ……」
突然そんな事を言われても。と思いながら生返事をすると、男性は満足したのかそのまま立ち去っていった。
なんだったのだろうか。
ウィミアも首を傾げてはいるものの……私にとっては無表情で何考えているか分からない。
とりあえず店の中へ足を運ぶ。
「へいらっしゃい!なんか買うか?見ていくだけでも良いぞ!」
「えっと……」
私が見ている間にウィミアがささっと物を選び店主に渡す。
「レザーグローブとハイブーツか。合わせて50Gだ」
言われた金額を懐から取り出し渡す。
「毎度あり!またこいよ!」
店から出て財布の中身を確かめてみると残っている金額は30Gだった。
「これで泊まれるの……?」
ウィミアはこくこくと頷いていたので、それを信じて宿屋に向かう。
結果的に宿屋には7Gで泊まれた。
夕食と朝食もつくようで、先に食事は済ませてきた。
なんでも保障されているからとかなんとかで、その金額でも成り立っているらしい。
二階の二人部屋で、居室の風呂に入る。
ウィミアは持ち物の整理やら何やらすると言っていた。
「はあああっ……」
何というか、想像している冒険者とは程遠いなぁ……
もうちょっと格好良くとか、そんなものを思い描いていたのに。
それに比べてウィミアは私の理想に近いと思う。
伸びをして浴槽に寄りかかる。
「……フレニア、そろそろ」
「あ、うん」
ウィミアに声をかけられたので私は浴室から出た。
寝巻きに着替えて頭を拭いていると、ウィミアが何かをベッドに広げて座って、話しかけてくる。
「……エグゾーストって分かる……?」
「……分からない、かな。聞いたことはあるけど」
確か無理する時に使うとか、そういう話は村の皆もしていたような。
「そう……」
頷くと立ち上がって深呼吸を始めるウィミア。
「……エグゾーストは、体内のマナを活性化させて、自身の肉体の能力を一時的に最大まで強化する方法。その際の疲労は後々身体に現れて、基本的には眠る際に死んだように熟睡してしてしまうの。一日三回までが限度で、それ以上は活性化させようとしても上手くいかない」
「えっと……つまり?」
私が首を傾げると、ウィミアはポンとベッドの上のものを叩き、
「……これからやり方教えるから、使ってみて慣れる」
「分かった!」
私の返事にウィミアは本を取り出して指導を始める。
「……まずは身体の中の――」
ウィミアの講義が始まって二時間ほど経った。
「……お風呂入ってくる。復習してて」
「はあっ、はあっ、わ、かった」
ウィミアが浴室の方に移動していくのを、ベッドに寝転んだ状態で見送る。
体内のマナを意識する方法から、エグゾーストの使用、使用途中のキャンセルなどエグゾースト関連は勿論、多少の身の構えや防御、逃げ方なども含めてで疲れ果ててしまった。
ふと年齢を聞いていないことを思い出して聞いてみる。
「ねえ、ウィミアっていくつなの?」
「……17」
「えっ!?」
それだけ振り向きもせずに告げて脱衣所に入っていくウィミア。
年下、もしくは同い年だと思っていたのに……
身長や見た目で判断していたせいだろうか。
私はベッドに座りなおし、ウィミアが見ていた本を読む。
エグゾーストを使用すれば少しはマシに戦えるかもしれない。
いつの間にか眠ってしまって、気が付くと朝になっていた。
「ひっ、ラビ!?」
「落ち着いて……」
昨日買った防具を装備して、町周りのモンスターで経験を積みに来たのだけれど、
「無理、無理っ!」
相対しているのは前日のラビ二匹と、確かマスクナッツとかいった葉と木の実が顔の様になっているモンスター。
ラビを見ていると昨日のことが頭に甦り震えてしまう。
「落ち着いて……動きを見て。昨日教えたエグゾースト使って……」
言われたとおりに意識してエグゾーストの準備をする。
瞬間ラビがこちらに飛び掛ってきた。
「いやっ!」
思わず身を守る際にエグゾーストを使ってしまう。
昨日と同じように右腕で受け止める形になったが、表皮だけでそこまで酷い傷にはならなかった。
え……?
それに驚いていると、その間にウィミアがラビ二匹を凍りつかせていた。
「……これで、切れる?」
ウィミアも軽く腕に傷を負っているが、私に笑いかけている。
私は頷き、ショートソードを握りなおす。
少し離れたところにいるマスクナッツに向かって駆けて行き、エグゾーストを使用し切りかかる!
あれっ!?
が、大きく傷を与えられ葉などが切り裂かれたものの、まだ動いている。
「あ、フレニア!」
「えっ!?」
珍しくウィミアが叫んだと思ったと同時に、頭部に強い衝撃が走る。
思わずふらつき、頭に手を当てるとベッタリとした感触が……。
目の前のマスクナッツは凍て付いて動かなくなったけど……。
「ウィミア……心折れそう……」
ウィミアは私の傷に応急手当をして、町へと帰る。
あの少しの間で、ウィミアは換金用にラビの歯であるげっ歯を取ってきていたみたいだけれど、それも8Gにしかならないらしい。
「……仲間、募集するべき」
「うん……」
そうして翌日エランに頼んでメンバー募集をしてもらった。
すぐに集まることは殆ど無いから気長に待ちなさいと言われ、半泣きでなけなしの宿代を稼ぐために町の外にでる。
何でハントマンになったんだろ、私……
今更後悔しだした私は、ウィミアに宥められながらモンスターを探し始めた。
第一話を投稿させて頂きました、双碧という者です。初めてこういった形式の物語を書いてみたのですが、お楽しみいただけたでしょうか?まだまだ序盤も序盤なのでこれからゆっくりと物語が進んで行きます。なので、もしよろしければ、川のせせらぎの如く、静かに優しく見守って頂ければ幸いです。
なお、挿絵は友人に頼んで描いていただきました。ありがとうございます!