花騎士セクトニア   作:塞翁が馬

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 サブタイトルはあの名曲の名前のもじりです。このセクトニア様はあまりDirty(汚い)ではないので、少しもじってDanger(危険)としました。


Danger&Beauty

「…セクトニア? 女王?」

 

 高らかに宣言する謎の人物…セクトニアの言葉に、しかしシンビジュームはイマイチ要領を得ないようで警戒の構えを続けながらも困惑気に眉根を寄せる。

 

「そんな事はどうでもいいよっ! それより、カトレアちゃんは何処にいるのっ!?」

 

 交差するセクトニアとシンビジュームの視線の間に割って入るように、オンシジュームが荒げた声でセクトニアに尋ねる。そして、

 

「…はっ! そ、そうですわっ!」

 

「サクラさんもよっ! 一体何処へ!?」

 

 このオンシジュームの言葉に、唐突なセクトニアの登場に思考が停止していたカンヒザクラとアイビーも我を取り戻し、セクトニアを言葉で詰める。

 

「カトレア…? サクラ…? ―――ああ、そういえば、前にこの地を侵した五人組の中に、そんな名前の奴らがいた様な気がするな…」

 

 三人の放つ鋭い気迫からの尋問。だが、セクトニアはその気迫をそよ風の如く華麗に受け流し、過去の記憶をたどるように視線を斜め上にやりながら口を開く。ただ、その口調は酷くどうでも良さそうだ。

 

「…と、いう事はやはり貴方が例の噂の元凶ですね…っ!」

 

 そんなセクトニアの返答を聞いたシンビジュームが、もともと険しかった表情を更に厳しくしながら、改めて花を模したメイスを構えなおす。と、ほぼ同時にオンシジューム、アイビー、カンヒザクラも各々の得物を構えなおした。

 

 だが、それを見たセクトニアはくだらなさそうに溜息を吐く。

 

「…一応聞いておくが、今すぐこの場から去るつもりは無いのだな?」

 

 鬱陶しそうなセクトニアの問いに、しかし誰も答えずにセクトニアを睨むのみだ。

 

「―――やれやれ、弱者をいたぶるなどと言う醜い事はしたくはないのだが、降りかかる火の粉は振り払わねばならぬ…か」

 

「弱者かどうか…確かめてみろっ!」

 

 首を竦めながらも、右手に赤い宝石の吐いた黄金の杖を具現化させるセクトニア。だが、その最中に口にした言葉にカンヒザクラが反応し、再び豹変した口調と共に真っ直ぐ槍を構えセクトニアに突撃を仕掛ける。

 

 その素早さは常人の目には捉えられない程の物だったが、セクトニアは難なく身を翻しながらカンヒザクラの刺突を躱すと共に、槍の柄の部分を左手で捕まえてしまう。

 

「うぐ…ぐぎぎぎっ………っ!!」

 

「…どうした? 全く動かんぞ?」

 

 セクトニアの束縛から逃れようと、カンヒザクラは両手に力を籠めて槍を動かそうとするが、セクトニアの左手はビクともしない。

 

「このおっ!」「隙だらけだよっ!」

 

 だが、カンヒザクラに注意がいっていたセクトニアの左右から、いつの間にか間合いを詰めていたアイビーとオンシジュームが連携攻撃を仕掛けようとする。

 

 しかし、セクトニアは視線を一切二人に向けずに黄金の杖を器用に操り、アイビーのステッキとオンシジュームの短剣を同時に受け止めてしまう。

 

 そして、その驚愕の技術に驚く間もなく、すさまじい膂力で二人とも吹き飛ばされてしまった。

 

「…もう少し手加減してやった方が良いか。なら、これでどうだ?」

 

 アイビーとオンシジュームを軽くあしらったセクトニアは、未だに掴んでいるカンヒザクラの槍を、親指と人差し指だけでつまむという明らかに相手を見くびっている行為に及ぶ。

 

 見くびられている悔しさから涙を流し、顔どころか首の付け根まで真っ赤になる程に両腕に力を籠めるカンヒザクラだったが、それでも槍はビクともしない。

 

「はあああっ!!」

 

 その時、セクトニアの上空から裂帛の声が響き渡る。見ると、シンビジュームが空中から拳を構え、その狙いをセクトニアに定めていた。

 

 そのまま中空で構えたこぶしを振り下ろすシンビジューム。すると、その拳は衝撃波となり真下にいるセクトニアの頭上に見事にヒットした。だが…。

 

「…これでも駄目か。ならば仕方ない、わらわが動かしてやろう」

 

 シンビジュームの渾身の一撃がヒットしたにもかかわらず、全く動じていないセクトニア。そして、そう言うや否や再びカンヒザクラの槍を左手でしっかり掴み、思い切り横に薙いだ。

 

「あっ…!?」

 

 そのあまりの勢いにカンヒザクラはたまらず槍から両手を離してしまう。そして、その勢いのまま吹き飛ばされ、後ろにあった巨木に背中から激突してしまった。

 

「忘れ物だ、受け取れ」

 

 そう言って、激突の衝撃で立つ事すらままならなくなっているカンヒザクラに向かって、刃先を向けて槍を投げ返すセクトニア。その軌道は明らかにカンヒザクラの顔に向かっている。

 

「あ、危ないっ!!」

 

 それを見たハツユキソウの悲痛な叫び。その叫びにカンヒザクラが顔を上げるのと、槍が突き刺さるのは同時だった。

 

「カンヒザクラさんっ!!」

 

 自分の渾身の一撃が通用しなかった事に動揺していたシンビジュームだったが、カンヒザクラの頭と槍が重なる光景に思わず大声を上げてしまう。

 

 しかし、槍はわずか数ミリというところでカンヒザクラの髪を微かに切り取るにとどまり、その後ろにある巨木に深々と突き刺さっていた。

 

「はあっ、はあっ……。う、うぐっ……くっ…」

 

 死の恐怖を眼前にしながらも、戻ってきた槍を引き抜き再び構えるカンヒザクラ。しかし、その体は巨木に激突した衝撃でボロボロになっており、最早立っているのがやっとといった状態だ。

 

 同じく、オンシジュームとアイビーも立ち上がるが、その際にふらついていたのを見るに、彼女達もカンヒザクラほどではないとはいえ、それなりの深手を負っているのは明らかだ。

 

「つまらんな…。これ以上は時間の無駄であろうし、そろそろ終わりに……ぬ、ぬぐっ…!?」

 

 そんなカンヒザクラ達に止めを刺そうと一歩前に出たセクトニアだったが、急に苦しそうな呻き声と共に地面に蹲ってしまう。

 

「ぐ、ま、まさかこんな時に発作が起こるとは……ぐはっ、お、おのれ…!」

 

 その美貌を苦痛と怒りに染めながら、荒い息を吐くセクトニア。その突然の事態に、カンヒザクラ達は放心したようにのたうち回るセクトニアを見つめていたが、

 

「…はっ!? こ、これはチャンス! て、てりゃあああっ!!」

 

 真っ先に我に返ったカンヒザクラが、未だに苦しんでいるセクトニアの首筋を狙って再び突撃を敢行する。

 

 しかし、その刺突はまたしても遮られてしまう。それも、カンヒザクラが最も敬う者の手によって。

 

「―――さ、サクラお姉ちゃんっ!?」

 

「―――さ、サクラさんっ!?」

 

 カンヒザクラと苦しむセクトニアの合間に割り込み、カンヒザクラの刺突を特徴的な形の銃で受け止めたその人物は、見間違いようもなくカンヒザクラとアイビーが探し求めていたサクラその人だったのだ。

 

 しかし、様子がおかしい。激戦を潜り抜けたかの如く服装はボロボロ、体中も傷だらけで、何より瞳には生気がなく、カンヒザクラとアイビー…そして団長の呼び声にも彼女は一切反応しようとしない。

 

 更に、あろう事かサクラは左手に持つ銃でカンヒザクラの槍を止めながら、右手に持つ銃をカンヒザクラに向けたのだ。そして、その銃口の先には魔法陣が現れ始める。

 

 その構えは、サクラの戦う姿を見た事のある者なら誰しもが憧れるであろう、美しさと威力を兼ね備えた彼女の必殺技を撃つ前段階の構え。

 

 魔法銃・桜吹雪…多くの害虫を屠ってきた必殺技が今、彼女を慕う花騎士に向かって放たれようとしているのだ。

 

「さ、サクラおね」

 

 意思のない瞳のサクラに呼びかけようとしたカンヒザクラだったが、無情にもその言葉が完全に出切る前に放たれてしまった桜色の魔砲。

 

 しかし、その直前に割り込んできた団長がカンヒザクラを横から突き飛ばす。勢い余って二人ともゴロゴロと地べたを転がる醜態を晒す事となってしまったが、サクラの一撃からは間一髪で逃れることが出来た。

 

「くっ、き、来たか……………んっ!」

 

 そんな二人を気にも留めずセクトニアの方に振り替えるサクラ。そして、苦しそうにしながらも立ち上がったセクトニアは、何を思ったのかいきなりサクラに口づけを行った!

 

「なっ!?」「ちょっ!?」「なにをっ!?」「へっ!?」「…は?」

 

 カンヒザクラ、アイビー、シンビジューム、オンシジューム、ハツユキソウ、そして団長。六者が六様の反応を見せる中、唐突に口づけは終わる。

 

 その直後だった。今まで苦しんでいたセクトニアは表情が元の冷静で高圧的なものに戻ったのだが、今度はサクラが胸を押さえて蹲りながら苦しみだしたのだ。

 

「あ、貴女サクラさんに何を…!?」

 

 苦しむサクラを見て、いち早く口づけのショックから立ち直ったアイビーが憤慨しながらセクトニアに怒鳴る。

 

「発作の症状をこやつに移したのだ。如何に正気を失っていたとはいえ、ワールドツリーに寄生するのは流石に無謀だったわ…。おかげで、今もこうして尾を引く羽目になっておるしな…」

 

 対して、簡単に状況を説明した後、忌々しそうに吐き捨てるセクトニア。後半の言葉は呟きレベルに声量が小さかったため、誰もしっかりと聞き取る事は出来なかったが。

 

「まあよいわ。それよりお前達、他人の心配をする前に自分の心配をしたらどうだ?」

 

 そう言って、指を鳴らすセクトニア。すると、セクトニアの後ろから新たな四つの人影が姿を現した。

 

「…カトレアちゃんっ!」「…クロユリさん、レッドジンジャーさん。そして、デンドロビウムさん…!」

 

 その人影を見た瞬間、オンシジュームとシンビジュームが悲痛な声を上げる。そう、サクラがいる以上この四人もいるのは当然の事だ。そして、この四人もサクラと同じくその瞳に生気は無い。俄かには信じがたいが、この五人全員がセクトニアの操り人形と化しているのだろう。

 

 この時点ですでに戦況は最悪に近かったのだが、更に戦場の周囲三百六十度全てを囲むように害虫が集まりだし、ものの一分もしない内にカンヒザクラ達は完全に包囲されてしまった。

 

「わらわが考案した新たな操りの秘術に操られし人形どもと、この地に降り立ち新たに徴兵した”ニュー・インペリアル・バグズ”どもだ。次にいつ発作が起こるか分からぬ以上、早々に決着を着けさせてもらうぞ」

 

 無慈悲な宣告と共に一歩前に踏み出すセクトニア。その歩調に合わせ、クロユリ、レッドジンジャー、カトレア、デンドロビウムの四人も一歩前に踏み出す。更に、周囲の害虫達も包囲網を徐々に狭めてきた。

 

「どうすれば………この状況を打破するにはどうすれば……っ!!」

 

 徐々に狭まる包囲網に、シンビジュームが口惜しそうに歯噛みしながら、それでも懸命に周囲を伺いこの危機的状況を脱する策をひたすら考える。

 

 そして、それはアイビー、カンヒザクラ、オンシジューム、団長も一緒だ。誰もその顔に焦りの色こそ浮かべはすれど、諦めの色は一切浮かべてはいない。

 

 とはいえ、やはり状況は絶望的だ。セクトニア一人ですら軽くあしらわれていたのに、更に最上位に位置する実力を持つ花騎士四人と、無数の害虫の群れ。

 

 と、その時だった。今まで陰で震えていたハツユキソウが、決意の表情と共に唐突にセクトニアの前におどりでた!

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