花騎士セクトニア   作:塞翁が馬

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小物、ここに極まれり

「御免なさいっ! 許してください何でもしますからっ!!」

 

 飛び出した勢いを殺さず、綺麗なジャンピング土下座をきめるハツユキソウ。彼女のあまりに予想外過ぎる行動に、何か起死回生の手を思いついたのかと期待した団長達も、突然の闖入者に警戒の色を見せたセクトニアも、虚を突かれて動きを止めてしまう。

 

「―――。貴様には、プライドという物がないのか?」

 

 そんな中、いち早く我に返ったセクトニアが蔑みの目でハツユキソウを見下しながら言葉を掛ける。

 

「た、確かにプライドも大事かもしれませんが、なにはともあれまずは自分の命です! 死んでしまったらプライドも何もあったもんじゃないじゃないですかっ!」

 

 対するハツユキソウの返答がこれである。如何にも小物が言いそうな小物臭い言い分だ。恐らく以前のセクトニアなら鼻で笑いながら蹂躙していただろう。だが…、

 

「死ねばプライドもなにもない、か…」

 

 ハツユキソウの言い分に何か感じ入るところがあったのか、ハツユキソウを見下したまま思案の声色を漏らすセクトニア。無論、その視線には未だ蔑みの色は見られるが、先ほどよりかは若干薄れている感じがする。

 

 そうして、暫くの間ハツユキソウは地面に額を擦り付ける勢いの土下座を続け、その情けない姿を凝視するセクトニア…という構図が続く。セクトニアの動きが止まった事で、セクトニアに操られている花騎士達も、周囲を囲む害虫達も動きを止めており、また団長達もこの息苦しい沈黙を傷ついた身体を庇いながら見守っていた。

 

「…顔を上げろ。貴様の名は何と言うのだ?」

 

 と、その時だった。不意にセクトニアがハツユキソウの名前を尋ねる。

 

「あ、は、ハツユキソウです!」

 

「そうか。では、ハツユキソウよ。一つ問うが、先に攻めてきたのは貴様等だ。だというのに、勝ち目が見えなくなったら許してくれとは、少し都合が良過ぎるのではないか?」

 

 ぎごちない声色で名乗るハツユキソウに対し、試す様に問いかけるセクトニア。

 

「い、いや、その、都合の良い事言っているのは重々承知していますはい! 正直言えば私はこんな所には来たくは無かったのですが、その、流れで逆らえずに…」

 

「ではなんだ? 貴様がここにいるのはその流れを作った奴らの所為だとでもいうのか?」

 

 しどろもどろに釈明するハツユキソウに、意地の悪い笑みを浮かべながら更に問い質すセクトニア。その問いの最中に視線を一瞬だけ団長たちに移したので、セクトニアの言う奴らとは団長達の事だろう。

 

「へ!? いや、あの、それは、その……。う、あ、え、えーとですね…」

 

 この問いに露骨なまでに慌てだすと共に言葉に詰まるハツユキソウ。後ろの団長達と、前にいるセクトニアに何度も視線を行き来させ、しかしうまい答えが見つからないようで「その、あの、えっと…」とどもりっぱなしでいる。

 

「…ハハハハハッ! 馬鹿か貴様!? 小物なら小物らしく、さっさと寝返れば良いものを!」

 

 そんなハツユキソウをしばらく眺めていたセクトニアだったが、唐突に愉快そうに笑いだした。

 

「クックック…。バグズどもからの報告によれば、貴様がこの六人の中で一番の使い手らしいな。成程、熟練しているだけあって、プライドの使い道も心得ている訳か。ふむ………」

 

 何やら一人で納得している感じのセクトニアだったが、何だかよく分からない雰囲気になっている事に、ハツユキソウは目を丸くしてセクトニアを見上げ続けるしかできない。

 

「―――よかろう。今回は貴様のプライドに免じて見逃してやろう」

 

「っ!? ほ、本当ですかっ!?」

 

 唐突に下されるセクトニアの宣告に、ハツユキソウは心底嬉しそうに顔を綻ばせる。何故セクトニアがその様な心境に至ったのかはハツユキソウには皆目見当もつかないが、とにかく分厚い暗雲に覆われていた状況の中で微かな陽光が差したのだ。

 

「ただし、見逃すのは後ろの奴らとこの人形どもだけだ。ハツユキソウ…貴様はわらわの物となれ」

 

 しかし、続くセクトニアの言葉で再び顔面を引きつらせるハツユキソウ。

 

「…なんだ? 嫌なのか?」

 

「あ!? い、いえ、嫌という訳では無いのですが、その…」

 

「おかしいな…。先ほど『何でもする』とかほざいていた筈だが…?」

 

「う、ううう……っ!」

 

 セクトニアの口撃に苦悶の声を上げるハツユキソウ。だが次の瞬間、

 

「そんな要求を呑む必要はありません! 何とかしてこの状況を打破して、そして…」

 

 ここまでセクトニアとハツユキソウの会話を静観していたシンビジュームが必死の形相でセクトニアの提案を拒否させようとハツユキソウに向かって叫んだのだ。しかし、

 

「黙れ」

 

 その叫び声が終わる前にセクトニアの鋭い一喝がシンビジュームに突き刺さる。声量こそ平静な物だったが、気の弱い者なら一発で気絶してしまいそうなほどの威圧感が、その短い言葉には合った。故に、シンビジュームは思わず恐怖に息を呑んでしまった。

 

「この人形どももそうだったが、貴様等には危機感という物がないのか? それとも、この状況に至ってもまだ自分達は死なない…とでも思っているのか? だとすれば、とんだ脳内お花畑な奴等だな。まるでフワラルドの下民共を見ている様で、苛ついてくるわ…」

 

 そうして、何かを思い出すかのように空虚を見つめながら苛立たし気に吐き捨てるセクトニア。

 

「あ、な、なりますっ! セクトニア様の物になりますので、どうか怒りをお沈め下さいっ!」

 

 そして、この空気は不味いと悟ったらしいハツユキソウは、大声で先ほどのセクトニアの提案を受け入れる意思を見せる。

 

「ハツユキソウ!」「ハツユキソウちゃん!」「ハツユキソウさん!」

 

 その意思を受け、アイビー、オンシジューム、カンヒザクラ、団長の四人が一斉に悲痛な声でハツユキソウの名を叫ぶが、対してハツユキソウは一瞬だけ視線を後ろに向ける。

 

 そして、その視線は語っていた。私は大丈夫だから、これ以上セクトニアを刺激しないで…と。

 

「…腹をくくったか。よかろう、ではこいつらは見逃してやる」

 

 そんなハツユキソウを見て、未だ苛立たしそうな表情をしながらもセクトニアは右の指を鳴らす。すると、セクトニアの傍にいたクロユリ、レッドジンジャー、デンドロビウム、カトレア、そしてセクトニアに何かをされて苦しんでいたサクラの五人がおぼつかない足取りで団長達の前にまで移動する。

 

 先ほどサクラに攻撃された事もあり、思わず身構えてしまった団長達だったが、その意図に反しサクラ達は団長達の目前まで移動して来ただけでそれ以上の行動は起こさなかった。

 

 更に、360度包囲されている人垣…ならぬ虫垣の一部が音もなく割れる。恐らくそこから出て行けという事なのだろう。

 

 だが、あまりにとんとん拍子に進む事態に団長達は疑いの視線をセクトニアに向けてしまう。第一サクラ達の術が解けていないので、それで信用しろと言うのも無理な事ではある。

 

「さっさと行かぬか愚か者共がっ!! それともハツユキソウの命がけの説得と献身を無駄にする気か!?」

 

 しかし、即座に飛ぶセクトニアからの一喝。セクトニアの言は信じられなくても、仲間を人質に取られているとあってはどうしようもない様で、団長達は悔しそうにセクトニアとハツユキソウを何度も交互に見遣りながらも、サクラ達を連れて虫垣の外に脱出を果たすのだった。

 

 

 

 

 

 何とか窮地を脱した団長達。しかし、当然ながらその顔色は非常に暗い。

 

「ハツユキソウさん…」

 

 ポツリと、シンビジュームがハツユキソウの名を口にする。その声色はやはり、暗く重い。

 

 と、その時だった。突然団長達の後ろを付いてきていた操られたままのサクラ達が全員倒れてしまったのだ。

 

「サクラさんっ!?」「サクラお姉ちゃんっ!?」「カトレアちゃんっ!?」「皆さんっ!?」

 

 イキナリの事に全員が驚いた後、アイビーとカンヒザクラはサクラに、オンシジュームはカトレアに、シンビジュームと団長はクロユリ、レッドジンジャー、デンドロビウムの三人に駆け寄る。

 

「…う、うう…ん……」

 

 程なくして、まずサクラがゆっくりと目を覚ました。その瞳は、操られていた時の生気のないそれではなく、常時携えている強い意志の光を灯した瞳だ。

 

「―――アイビーちゃんに、カンヒザクラちゃん。それと他の皆に団長も、今回は迷惑を掛けちゃったみたいねぇ…。不甲斐なくてごめんなさいね…」

 

 開口一番、団長達に謝るサクラ。そのくちぶりからして、どうやら操られている時の事も覚えているみたいだ。

 

「…っ、さ、サクラさん…っ!」「サ、サクラお姉ちゃあああんっ」

 

 意識を取り戻したらしいサクラに、アイビーとカンヒザクラが感極まった様子でサクラに抱き付く。

 

「サクラさん…私は…わ、私は仲間を…っ!」「ハツユキソウさんが、ハ、ハツユキソウさん…が…っ!」

 

 そして、懺悔の如く震える声で絞り出す様にハツユキソウの事を口にするアイビーとカンヒザクラ。そんな二人を、サクラはギュッと抱きしめ続ける。

 

「…この私が……害虫に操られていた…? ―――ククッ、クックックフハッ…!」

 

「…強かった…。あの…害虫…? は、凄く強かった…」

 

「ありえない…ありえないわ…っ! こ、この世界に愛された私の魔力を強引に抑え込んで私を操るなんて…っ! そ、そんな事はあってはならないのよっ!!」

 

 サクラに続くように起き上がるクロユリ、レッドジンジャー、カトレア。クロユリは受けた屈辱の深さからか、狂気に近い笑い声をあげ、レッドジンジャーは一応は人の姿をしているセクトニアを害虫と呼んでいい物か戸惑いながらも、とにかくセクトニアは強かった事を強調し、カトレアは抱き付いてくるオンシジュームにはめもくれずに悔しそうに歯噛みをする。そして、

 

「…とにかく、一旦リリィウッドの王城へ帰還しましょう。現状を報告し、更なる戦力の充実と、あのセクトニアと名乗る者に対する対策を講じ無ければなりません」

 

 同じく立ち上がったデンドロビウムがその場にいる全員に帰還を促す。

 

「―――ちっ…!」

 

「し、仕方ないわね…」

 

 対して、クロユリとカトレアが少し難色を示したが、やはりこの二人も今のままではセクトニアには勝てないと分かっているのだろう。クロユリは舌打ちをし、カトレアはブツブツと文句を呟きながらも渋々と従う。

 

 そうして帰路に付こうとした面々ではあったが、最後尾を移動するサクラが森の方へ振り返る。

 

「ハツユキソウちゃん。近いうちに必ず助けに来るから、それまで何とか生き延びて…」

 

 握った右手を胸の前にかざし、祈るように言葉を紡ぐサクラ。そして、少しの間だけそうしていたが、不意に振り返り、急いで王城へ戻るのだった。




庭園のミニゲームなんですけど、麻雀とか追加されねえかなぁ…。
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