花騎士セクトニア   作:塞翁が馬

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ハツユキソウの悪夢

 最早生存は絶望的と思われていたサクラ、クロユリ、レッドジンジャー、デンドロビウム、カトレアの五人を連れて帰ってきた団長達を見て、歓喜と安堵の様相に包まれたリリィウッド。しかし、それがぬか喜びだった事は即座に判明する。

 

 この五人を連れ戻したという事は、当然事件の元凶も打倒したと思われたのだが、団長からの報告によると手も足も出ない程の惨敗を喫し、唯一帰還していなかったハツユキソウの命がけの説得により、操られていた五人と団長達は解放されたに過ぎない…というものだったのだ。

 

 更に、その解放の条件としてハツユキソウが害虫のボス…セクトニアに手籠めにされてしまった事が明らかにされる。サクラ達の話によれば、操られている最中に何度もセクトニア自身が発作と呼ぶ衝動を口移しで強引に移され、何度も苦しめられたという。

 

 必然、今度はハツユキソウにその役目が回ってくるであろう事は想像に難くない。いや、もしかしたらもっとひどくおぞましい事をされているやもしれない…。

 

 彼女をその様な境遇にいつまでも置いておくわけにはいかない! 余力のある花騎士はどうか力を貸してほしい! 勇敢な花騎士ハツユキソウを救い出すために!!

 

 このサクラの大々的な呼びかけに、ブロッサムヒル、ウィンターローズ、ベルガモットバレー、バナナオーシャン、そしてロータスレイクという各国から少しずつ花騎士達がリリィウッドに集まり始める。

 

 新たな強力な害虫が現れたという事もあるが、それを差し引いてもこのサクラの強烈な影響力にはリリィウッドの重鎮達も感心するばかりだった。現世最強の花騎士と言う肩書は伊達ではないという事だろう。

 

 ただ、ここで少し誤算が起こる。各国の花騎士達の収集を急ぐあまり、サクラ達の発信する情報に少しずつ齟齬が生まれるという事態が発生してしまったのだ。具体的には、ハツユキソウは自分の命と引き換えにサクラ達を救出したという事になってしまい、サクラの言う救い出すとはせめて亡骸だけでも取り返し、丁重に弔おう…というずれ具合だ。要するに、ハツユキソウは既に故人にされてしまっていたのだ。

 

「サクラさん! この任務には全身全霊を持って当たらせて頂きますっ!」

 

「そうですっ! 勇敢な花騎士の遺体が害虫に弄ばれるなんて許せませんっ!」

 

「私も同感だ。親友を命を賭して助けてくれた花騎士…ハツユキソウの仇はこのウメが必ず取って見せる…!」

 

「もうっ、ウメちゃんまで! だからハツユキソウちゃんは死んでないってばぁ!」

 

 サクラを慕う新米の花騎士に加え、無二の親友であるウメにまで情報が間違って届いている事にサクラは思わず声を荒げてしまう。

 

 こうして、間違った情報を少しずつ正しながらも、セクトニア再討伐の流れは着々と進んで行くのだった。

 

 

 

 

 

「フフフ…。さて、この生きて捕らえた新たな贄、一体どうしてくれようか…」

 

 土下座の姿勢のまま顔を上げているハツユキソウに対し、それを見下し愉悦の笑みを浮かべながら口を開くセクトニア。その周囲は様々な害虫達により囲われているので、ハツユキソウに逃げ場はない。

 

「そういえば、貴様らは『花騎士(フラワーナイト)』とか名乗っていたな。なんでも、この世界各地に点在する世界花…だったか? の加護を受けているとかなんとか…」

 

 そうして、品定めするようにハツユキソウの至る所をくまなく観察し始めるセクトニア。感情の見えない冷徹な視線に晒され、ハツユキソウは恐怖に体を震わせ顔を真っ青にする。

 

「…ふぅーむ。外見だけでは分からんな…。おいお前、ちょっと来い」

 

 いつしか顎に指を当てて観察をしていたセクトニアだったが、やがて見るだけでは何も分からないと踏んだのか、周囲を囲む害虫の中からある一匹を呼び寄せる。呼ばれた害虫は、小柄なハツユキソウはおろか、比較的高い身長のセクトニアの数倍はありそうな体積の巨躯を持つカマキリ型の大型害虫であり、尚且つその両手はのこぎり状になっていた。

 

「とりあえずコイツの両腕を切り離してその腕をバラせ。中身を見れば何かわかるかもしれん」

 

 そしてハツユキソウの耳に届く衝撃的なセクトニアの言葉。当然ハツユキソウは中止を訴えようとしたが、何故か口から声が出てこない。

 

「それで分からなければ次は身体や頭だ。徹底的にやるぞ」

 

 重い足音を立てながらゆっくりとハツユキソウに近づいてくる巨大害虫と、その後ろで物騒な事を宣うセクトニア。言葉が喋れないと判断したハツユキソウはとにかくその場から離れようとしたのだが、そこで声だけでなく体も動かない事に気付く。

 

 喉を潰された訳でもない、体を押さえつけられている訳でもない、だというのに声も出せない体も動かせないという状況に頭に何十個という”?”を付けながら、それでも懸命に何とかしようともがくハツユキソウに向かって、その目の前にまで近づいた巨大害虫が、のこぎり状の右手を大きく振りかぶる。

 

「…やれ」

 

 響く無慈悲なセクトニアの宣告。それと同時に、数多の命を刈り取ってきたのであろう薄く赤に染まった刃が、ハツユキソウ目がけて振り下ろされた…。

 

 

 

 

 

「―――や、止めて下さいセクトニア様ーーーーっ!!」

 

 悲鳴を上げながら飛び起きるハツユキソウ。荒い息を吐き、涙を流し、顔も真っ青だ。

 

「はあっ、はあっ……。―――ゆ、夢かぁ~……」

 

 そうしてしばらく息を切らしていたが、時間が経つにつれ落ち着いてきたのだろう。今しがたの光景は只の悪夢だったと認識できたみたいだ。とはいえ、

 

「まぁ、この現実も悪夢みたいなもんだよね…」

 

 そう言って、周囲を見回すハツユキソウ。そこには、セクトニアに『ニュー・インペリアル・バグズ』と呼ばれていた害虫達がハツユキソウと同じく睡眠をとっているのだ。こんな絶望的な状況では、あんな最悪な悪夢を見てしまうのも致し方ないと言えるだろう。

 

 あの命がけの土下座の後、何をされるのかと戦々恐々していたハツユキソウだったが、対するセクトニアは、

 

「とりあえず用が出来るまでは休んでいろ。何かあればバグズ共に言いつければ良い」

 

 何を考えているのかさっぱり読めない表情をしながらこれだけ言い残すと、さっさと何処かへ行ってしまったのだ。ハツユキソウが拍子抜けしたのは言うまでもない。

 

 そうして、どうする事も出来ずに困惑している内にいつのまにか寝てしまい、翌日の今に至るという訳だ。

 

 と、その時ハツユキソウは気づいた。まだ眠っている害虫達の中に、既に起きて身だしなみを整えている(害虫が身だしなみと言うのも変だが)二匹のアリ型の害虫がいる事に。二匹とも、その頭には見事なコック帽をかぶっていた。

 

「あ、あの…」

 

 思わずこの二匹に近づき声を掛けるハツユキソウだったが、返事の代わりに二匹は右手…と思しき箇所を上げて軽く挨拶の意をハツユキソウに見せてから、少し急ぎ足で何処かへ移動してしまった。

 

 暫く二匹の害虫が向かった先を眺めていたハツユキソウだったが、不意にその肩に”何か”が置かれる。その”何か”に視線を向けたハツユキソウは、思わず「ひいっ!?」と怯えた声を上げながらそれを叩き落としてしまう。とはいえ、ムカデ型の害虫の足が肩に乗っていたのだ。このハツユキソウの反応も仕方ないだろう。

 

 そんなハツユキソウの態度に怒る事もなく、ムカデ型の害虫は先ほどの二匹のアリ型の害虫とはまた別の方向へ移動する。だが、少し移動したところで止まり、ハツユキソウの方へ振り返りながら何本もある足の数本を使いハツユキソウを手招くように動かす。どうやら、ハツユキソウに付いて来いと言っている様だ。

 

 内情はどうあれ、外見的にはセクトニアに忠誠を誓った身だ。この害虫の誘いも断る訳にはいかない。先ほどの悪夢の事もあり、何をされるのか分からないという恐怖に思わず身が竦むが、少し逡巡した後、意を決してムカデ型の害虫の後を付いていくハツユキソウだった。

 

 

 

 

 

「…来たか。待ち侘びたぞ」

 

 歩く事暫く、ムカデ型の害虫が目指した先には、様々な宝石がちりばめられた凄く豪奢で背の高い椅子に腰掛けているセクトニアがいた。その椅子の高さから、セクトニアは座っているにも拘らずハツユキソウは彼女を見上げなければならない。

 

「む…? ハツユキソウ…貴様随分顔色が悪いが、体調でも悪いのか?」

 

 そうして見上げてくるハツユキソウの顔が青い事に気付いたセクトニアが、少し眉を顰めて問う。

 

「…あ、いえいえ! そ、そーんな事ないですよーっ! ほらほら、わ、私は元気ですぅ!!」

 

 そのセクトニアの表情を不機嫌になったと捉えたハツユキソウは、わざとらしい程に両腕を激しく動かしたり飛び跳ねたりしてアピールするが、声が震え顔も真っ青では誰が見てもカラ元気なのは明らかだ。とはいえ、昨日の戦闘内容や先ほどの悪夢もあるので、ハツユキソウがへこむのも致し方ないとも言えるが。

 

「―――貴様にはこれから我が手足として、存分に働いてもらうつもりだ。無論、それに見合う待遇は与えるつもりだが、体調管理もままならぬようでは早晩死んでしまうぞ。心せよ」

 

 右手の人差し指で、手すりをコツコツと叩きながらハツユキソウを窘めるセクトニア。一瞬冗談かと思ったハツユキソウだが、セクトニアの目を見る限り冗談を言っている様子はない。どうやら、本当に本気でやっていかなければ死は免れない様だ。

 

 しかし、ここでハツユキソウは疑問に思う。そこまでして一体セクトニアは何をしようとしているのだろうか?

 

「…昨日も言ったが、わらわはいずれこの世界の女王となるつもりだ」

 

 そんなハツユキソウの疑問を察したのだろう。セクトニアはおもむろに語りだす。

 

 この世界の女王という事は、全ての国家を支配するという事だろうか? 正直、ハツユキソウにはそんな事は夢のまた夢のようにも思えるのだが、ここでそんな事を言っても仕方がないので、ここは黙ってセクトニアの言葉に耳を傾ける。

 

「しかし、残念ながら今は多少の軍勢は持っているとはいえ、身寄りのない根無し草だ。なので、どこか適当な国を制圧してそこに居を据えたいと思う」

 

 このセクトニアの言葉に、ハツユキソウの背筋に寒気が走る。つまり彼女はいずれかの国に攻め入るつもり…?

 

「昨日の人形どもに尋問してこの世界の情勢は大体把握している。それを踏まえ、まずわらわが制圧しようと考えている場所は―――」

 

 ここで一旦言葉を区切るセクトニア。

 

(…う、ううっ! い、一体何処を攻めるつもりなんだろ!? ここはリリィウッドの南西に位置しているから、一番近いのは…バナナオーシャン!? で、でもここはリリィウッド国内なんだから、そのままリリィウッドの中心部まで攻め入るつもりかも…。い、いやいや、何処だろうとこのままじゃ他の花騎士達と戦わさせられる事に変わりはない…っ!)

 

 セクトニアが他の国へ攻め入るところを想像し、悲観にくれるハツユキソウ。当然だが、他の花騎士と戦闘などしたくない。心情的にも勿論だし、正直強さ的にもブラックバッカラやナデシコといった強力な花騎士と事を構えたくなどないのだ。

 

 だが、次にセクトニアが発した言葉は、ハツユキソウの予想の遥か斜め上へと突き抜けていた。

 

「―――かつて『コダイバナ』と呼ばれていた所だ。ここにわらわの新たな居を構えようと思う」




 私は花騎士のホーム画面に出てくるキャラをランダム毎変更に設定しているのですが、この小説を書き始めてからこのランダムにハツユキソウが良く出てくるようになりました。この前には何と二連続で選ばれた事も…。

 おかしいな…キャラは集められるだけ集めてるから、ゆうに三百は超えている筈。つまり選ばれる確率は三百回やってやっと一回引けるかどうかという低さ…の筈なのですが…。

 そんなアピールされても、この小説の貴女の艱難辛苦はマシにならないよ…?
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