「......ん、んぅ」
顔に当たる生暖かい雨粒。その衝撃により、私の意識は徐々に戻っていく。
覚醒を促すようにことさら強く降り続けるその雨に耐え切れず、私は目を覚ました。
(ここは......?)
上半身を起こすとそこは象牙色の砂浜。
一瞬なぜ自分がこんな所で倒れているのか分からなかった。
しかしすぐさまその理由に思い至る。
(......そうだ、確かオスプレイの上で
あの夜。遠山かなでを巡りオスプレイで繰り広げられたあの戦い。
『あの男』の手によって遠山かなでには逃げられ、メルキュリウスは再帰不能にされ、さらには搭乗していたオスプレイさえも破壊された。
以前から見込みがあった。私の対となる存在。
だがどうにも私とは信念が異なったらしく、ついには「N」という救いの糸さえ自ら断ってしまった。
ならば仕方ない、と奴を連れて本拠地に戻ろうと、
(あ、あ、あ、あの男は、よりにもよって私のむ、胸を......!!)
奴が引き起こしたあの出来事によって、私は
予め設定しておいた位相から大きくズレてしまったのだ。
とんでもない位相に出てはたまったものではないと、慌てて位相の再設定をしたところで――私の記憶は途切れている。
(つまりは......)
そう、ここは私にも分からないどこか。
だが今こうして生きているということは、どうにか地球上には転移出来たようだ。
と、貧血気味の頭でどうにかそこまで思い出した時――
(な、な、な、なんだこれはっ!?!?)
気を失っている間にずいぶんと海水を飲んでしまったのか、なんだか喉が痛かった。
では体の方に怪我をしてはいないかと、確認のために何気なく見下ろしたその体――
私はあられもない姿になっていた。
いや、これはあられもない姿に
ベルトは緩められ、腰にあったはずの拳銃はホルスター共々なくなっていた。ついでにポーチもだ。
極め付きはこの上着。ご丁寧にボタンはすべて外され、中のブラウスが露わになっていた。
それだけならばまだ問題なかった。が、このブラウス、雨で濡れて透けてしまっているため、その下のランジェリーが丸見えになってしまっている。
これではただの痴女だ。
人為的に剥がされたと思われるこの格好。
そして何より、私から少し離れた場所で背を向けて何かを物色している黒格好の男。
そっと立ち上がり、幸いにも盗られていなかったスカート下の
私に背を向けているためか、または物色しているものに気を取られているためか。私が起きたことに気付いた様子はない。
なるべく足音を立てぬよう、慎重に砂を踏みながら近づいていく。
まあこれだけの大雨だ。多少の足音では気付くまい。
(何としてでも先手を取らなければ......)
油断しているとはいえ、奴は男。
それに今はどんな武装をしているのかさえ判断が付かない。
拳銃の残弾に心許なく、何より『力』が使えない今の私では1対1は不利だ。
そ、それに奴は私の服を乱した卑劣漢。
もしも抑え込まれてしまっては、いったいどんなことをされるのか見当も付かないのだから。
奴の背後に立ち、首元に銃口を突き付ける。
同時に声をかけた。
「――手を挙げろ」
怒りにか、はたまた羞恥にか。思わず震えてしまった私の声にビクッと反応したその男。
次には手を挙げながら振り返ったこの男を見て、私の中でより一層怒りと羞恥が膨れ上がった。
黒のジャケットに黒のズボン。そのうえ、少し長めの黒髪に半分隠れた双眸の目付きの悪さも相まってか、一見するとただの変質者だ。
だがこの、私を見つめる目付きの悪いこの男こそ、私の敵。
『HSS――ヒステリア・サヴァン・シンドローム』という特異体質持ちで、その強さと引き換えに数多の女性を毒牙にかけたという、女の敵。
『ディスエネイブル』である私と対をなす『エネイブル』であり、私と教授の最大の障害となり得る、Nの敵。
それこそがこの男――『遠山キンジ』だ。