幼い少女は龍の上にて眠る   作:紅風車

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第二話

いつもの変わらない風景。

ユーリの過ごす一日はいつも通り変わらず、風に吹かれて暇を潰していた。

だが毎日平和な日が続くとは限らない。

 

とある日にユーリが過ごす教会に貴族がやってくるとシスターが言っていたのをユーリが聞いていた。

基本的にユーリは人を信じることはない。

シスターやその子供達、教会近くの老人など。

日頃からユーリ達を見ている者だけは信じれるに値しているだろうと思っていた。

だからこそ教会へやってくる貴族に対しては信用どころか嫌悪や敵意を剥き出しにするだろうと己でも思っていたのだ。

 

「・・・はぁ」

 

己の姿を隠すようにローブを着ているユーリを見た貴族は自分に疑心を感じるだろう。

何故、姿を隠しているのかを。

自身を生んだ母親はユーリが物心付く前に亡くなってしまっていたが、それでも日頃から口煩く言っていた事があった。

「あなたの持つ力、それを決して見せてはならない」と。

元より魔法の属性は本人の適性に大きく左右され、生まれ持つ先天的な才能だ。

一般的に一つの属性しか持たぬが、稀に二つ以上の属性を扱える者がいる。

それを貴族が見つけ、養子にすると言えば。

操り人形のように動くことになるのだろう。

貴族の家を肥やす為だけの道具に。

 

「・・・おいで」

 

屋根の上で空に向かって手招きをする。

するとその手のひらに淡く輝く光の玉が集まっていく。

それらは《精霊》。

古来、神により創造され愛された種族の一つであり。

人族の魔法とは違う《精霊魔法》を司る者達。

そして誇り高く、信に値する者には敬愛を示す。

 

『汝が、我らを呼んだのか』

 

「ん・・・迷惑、だった?」

 

『構わぬ。汝は我らを呼ぶことは少ない。それ故に不思議に思った。それだけのことだ』

 

「・・・もうすぐ、教会に貴族が来る。もしもがあるかも、だから」

 

ユーリの言葉、それの真意を読み取るのはとても難しい事がある。

具体的なものではなく、ユーリの頭の中で完結してしまう為に言葉にすると簡略されてしまう。

だがユーリの伝えたかった意を組むと精霊は頷く。

 

「あり、がとう」

 

『汝に頼られる事は少ない。それは呼ぶことよりもな。我以外の精霊達も汝に頼られることを嬉しく思っているようだ』

 

「う、ん・・・」

 

『人族に気付かれぬよう、我らで汝の守りたい教会とその人間達。守り通そう、それが我らが貴女に示せる敬愛だ』

 

精霊の言葉を理解することは専門家でも難しい。

それを当然のように声に出し、頭で理解できるユーリは精霊達に慕われている。

親愛と敬愛。

それらが混じる眼差しを精霊達から向けられるとユーリは精霊達を優しく手で包むとそのまま暖かい風に眠気を誘われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暖かい風でまどろみの中にいたユーリは、外の音が少し変わった事で眠りを覚ました。

すぐに覚醒した目で下を見れば馬車があり、兵が2人見えていた。

 

「貴族、か」

 

精霊達はいなくなっていたが、寝ているユーリにもしもを考えた精霊達はその存在を悟られない精霊魔法をユーリへかけていた。

そのために屋根に登って寝ているユーリへは目もくれず教会の中にいた。

 

「とりあえず、戻るかな」

 

今まで以上にローブを深く、頭を隠して地へと下りると教会内部に入る。

耳を澄ます限り言い争いや不穏な雰囲気を感じはしないが念のためにも話し合いの中へと入っていく。

 

「シスター。戻った、よ」

 

「ユーリ。どこにいたのですか。探したのですよ」

 

「・・・ごめんなさい。いつもの所に居た」

 

「・・・ふむ」

 

ユーリとシスターの話がすぐ終えたことを理解し、その存在が出てくる。

 

「君が、この教会で1番上の子かな」

 

「はい」

 

ユーリが体ごとその者へ向けると表情は抜け落ち、抑揚の無い声へと変わる。

その変化を感心するように彼はユーリを目で観察する。

 

「名は、何と言うのかな」

 

「ユーリ、と申します」

 

「・・・それだけかい?」

 

「それは、どういう意味でしょうか」

 

「君の動き。僕に対する対応。それらは一日所で身につくような物じゃない。没落した、或いは捨てられた貴族の子・・・じゃないのかなと僕は思った」

 

ユーリの振る舞い方、それに注目した彼はそこに感心と疑問を持った。

美しく洗練されているような動きは貴族どころか王族ではないのだろうかと思えるほどに美しかった。

 

「・・・いいえ」

 

「・・・そうか。ならいいんだ。変なことを聞いたね」

 

気のせいかと思いながらも彼は忘れていたことを思いだし、そうだ、と呟く。

 

「僕の名は、ディルミアス・アーディラス。この国の貴族ではないけれどね」

 

その時ユーリは何故この国の貴族ではない人が来ているのだろうと思った。

もしかしたら人さらいの為の視察や人数など何か企てているのかもと考えた。

 

「この教会のシスターさんに話は付けてあってね。近々この教会は取り壊されるらしい。それもこの国の我が儘な王女によって」

 

「・・・ぇ?」

 

無礼な事であろうとそれを抑えることは出来なかった。

本当の家のように過ごしたこの教会が取り壊されることなど思わなかったから。

 

「取り壊されれば君達孤児達は路頭に迷う。シスターさんはそれを良くは思わないだろうと思ってね。そこで僕の国で孤児院を経営してみてはと思ったんだよ。幸いにもそういう職は少なくてね。来てくれるなら大歓迎ではあるんだ」

 

「・・・そうですか」

 

「だがシスターさんだけで話を終わらせれば君達は思い入れのあるこの場所を離れたがらないと思った。取り壊される事が分かっていようともね」

 

そこまで話されて漸く察した。

自分に、1番上の纏め役でもあるユーリから子供達に話して説得してほしいのだろうと。

子供というのは扱いの慣れた大人でも難しい。

すぐに癇癪を起こせば、大人しく過ごすこともある。

それをしっかりと分かっており、個々を見ているユーリにその役目を抜擢された。

 

「・・・期日は、何時ですか」

 

「そうだね・・・。あまり時間はかけたくない。出来ることなら僕がこの国にいる間に君達を迎えたい・・・というのが本音かな」

 

「・・・そうですか。分かりました」

 

「ごめんなさい。ユーリ、貴女にこんな役目を押し付けてしまって。本来なら私が成さなければならないことなのに」

 

本心からその言葉を言っている事が分かっているユーリは問題ないと、首を振る。

1番上としての責任で説得するしかないのだ。

 

「それでは、子供達のところに行ってきます」

 

そういい、ユーリは部屋を出ようとした。

その時ディルミアス・アーディラスから心地の良い物を感じた。

それは動かすはずじゃない表情を融解させるほどに。

それが悟られないうちにすぐに扉を開け、子供達が集まっている部屋へと向かった。

軽くノックを数回して中からの返事を待った。

 

「はーい」

 

「・・・入る、よ」

 

「ユーリ姉ちゃん?」

 

珍しく教会の中にいることに驚くも自分達のところに来た義理の姉に皆が不思議がった。

 

「・・・もうすぐ、ね。みんなこの教会から出ないと、駄目」

 

「・・・どうして?ユーリお姉ちゃん」

 

「ん・・・それは・・・」

 

取り壊される等と言いたくはなかった。

子供達の安寧の場所で思い入れもあるだろうこの場所が壊されることを。

 

「・・・ユーリ姉ちゃん。俺達知ってるよ。シスターと貴族様が話してた内容少し聞いたんだ」

 

「・・・それ、は」

 

「今みんなで集まってるのは、どうしていくかを考えてたんだよ。だけどさっき纏まった」

 

ユーリは何もいわず、子供達が言うのを待った。

1番上の責として。

その言葉を聞かなければならないから。

 

「ユーリ姉ちゃん。俺達この教会を出ても良い。だから悩まなくて良いよ」

 

「ん・・・そ、っか」

 

心底安堵したユーリは子供達を抱きしめると姿を隠していたローブのフードが取れる。

その瞬間、初めて自分達の慕っていた姉の姿が見れた。

 

「姉ちゃん・・・」

 

「お姉ちゃん・・・フードが・・・」

 

「ぁ・・・」

 

すぐにフードを被り直すとさっき子供にしていた行為を思い返して恥ずかしく感じた。

行動に出てしまったとはいえ、初めてそんなことをしたから恥ずかしいのだ。

それに自分の姿を見られてしまったのもあったのだろう。

 

「ごめん、ね。私のは、醜い、から」

 

ユーリのそれを全力で子供達は否定した。

そんなわけがないと。

 

「ユーリ姉ちゃん。すっごく綺麗だった。今まで見た人より」

 

「私もユーリお姉ちゃんがキラキラしてて・・・綺麗だったよ」

 

「・・・そっ、か。ありが、と」

 

それが世辞でも。

初めて言われたことに嬉しく思うのだった。

 

 

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