猫に変化したユーリは人間としての目線ではなく、全く違う目線での街の風景を見ていた。
普通のからすれば真っ白い猫が歩いているだけにも見えるのだが。
「む・・・?」
ユーリに掛けられている魔法の守護を感じ取れる者も居るわけで。
「あの猫・・・妙だな」
(不穏な、感じ)
「おい、お前達。あの猫を俺の元に連れて来い」
その言葉を聞き取った瞬間、ユーリは反射的に走った。
精霊に愛されるユーリには全ての属性の精霊の加護が施されており、最上級の精霊術でなければ突破が不可能に近い。
全ての属性には、当然
(こんだけ、軽かったら)
少し足に力を溜めて、一気に飛び上がったユーリに、捕まえようとした騎士が驚いていた。
風の精霊によって、ユーリには常に風の力が纏わているために身体を軽く感じる。
飛び上がるときにも風の抵抗を減らすために大きく飛び上がれるのだ。
(逃げれた、他のところにしよう)
そう思い、ユーリが歩き出すのは国という物を知るには大きく貢献出来る
(大きい、な)
ユーリほどの白猫ならば、王城の壁にある鉄格子をくぐり抜ける事が出来る。
そこから城へと入ったユーリは中を歩いて行った。
(凄く、綺麗にされてる)
城の内部はとても綺麗にされており、草木にしても整えてられていた。
花壇にはたくさんの草花があり、少し遠めからでも良い匂いがするほどに。
(良い、匂い)
「誰かいるの?」
その時ユーリの身体がビクッと反応する。
その声の方向へ目を向けると、人の姿のユーリより少しだけ背が高い女の子が白猫へと視線を向けていた。
(どう、しよう)
「可愛い子猫。迷い込んだの?」
ユーリは知らなかったが、ここは王城。
当然ながら王族がいるわけで。
可愛らしいドレスを着ている女の子はこの国の王女だということがなんとなく理解できた。
「この子、飼いたいな」
王女は白猫の本当の姿を知らないために、本気で飼えないかと考えていた。
「おいで?」
どうやら最初は触れ合えないかと、ユーリを手招きしているようだった。
(仕方、ないな)
ユーリは王女の足元に座ると犬のお手のように片手を王女の手にポンと置いた。
「にゃっ」
「わっ」
それと同時に王女の髪の後ろから小さな精霊が現れる。
気付いた王女は慌てて隠そうとするも精霊はユーリの側に移動していく。
「ティル。その猫ちゃんは」
『リディア、大丈夫』
精霊はユーリの目の前に立つと、ひざまずいた。
その光景を王女は信じられない物を見たような表情で見ている。
(え、えっと)
『我らに祝福を与える、精霊の愛し子。この場にはどのようなご用件なのでしょうか』
精霊独自の言語は精霊に祝福を与えられた者ならば理解が出来る。
王女は精霊に祝福された一人であり、その言葉を聞ける。
「精霊の、愛し子」
世界中の国が欲しがるそれは、精霊にとにかく愛される。
ただ愛されるだけではなく、愛し子が幸せになるためならば様々な手段を取る。
愛し子が住む国を豊かしたり、時には人に災いを呼んだり。
自然が具現化したというのは間違いではなく、その気になれば精霊は世界へ災いを簡単に起こす存在なのだ。
(どう、すれば・・・)
王女の見る目が好奇心から変わっていくのを見て取れたユーリは忘れていた警戒心を上げていく。
「猫ちゃんが、愛し子なんだね」
だがそれは一瞬であり、すぐに興味や好奇心の篭った目へと戻った。
「にゃ、にゃあ」
「なら、お願いがあるの」
王女が憂いの表情になると、真剣な目でユーリへその願いを言った。
「私を、この国から・・・助けて、下さい」
その言葉を紡ぐだけで王女は涙を出す。
何故なのか分からない。
それでもユーリはその涙を止めようと思い、王女の涙をペロッと舐めとった。
『愛し子様。私からも図々しくお願い致します。リディアを、助けてください・・・』
精霊までも王女に賛同する。
それほどまでにこの国を、王族の責務を放棄したいぐらいに逃げ出したいのだろうかと考えた。
ユーリの力があれば簡単に連れ出すことが可能だが、それはユーリの姿をばらしてしまうことにもなる。
『汝よ。そなたの好きなようにすれば良い。その行動を我らは手伝うだけのことよ』
(・・・よし。【我の姿よ元へ戻れ、この身を本来の姿へ、その存在を変えん】)
ユーリは心の中で詠唱を終えると猫の姿から変わっていく。
白い毛並みは無くなっていき、色白い肌へと。
まばゆい光が溢れ出しているため、王女からは何が起こっているのか分からない。
「眩しくて何も見えないや」
その間に収納の魔法でしまっておいたローブを取り出し姿を隠す。
そのあとに光がおさまり、王女の目の前には白猫の変わりに姿が全然見えないローブの人が立っていた。
「ん・・・」
「愛し子様、ですか?」
「・・・それ、嫌い。私は、精霊が好きなだけ」
「そうですか、ごめんなさい」
「・・・敬語も無くて、良い」
「はい・・・あ、う、うん」
『愛し子様、姿を・・・変えておられたのですか?』
王女の精霊は完全な猫になっていたユーリに驚いており、存在が違うことに戸惑いを感じていた。
「ん・・・私の魔法。気にすること、じゃない」
『汝、準備は終わっいる』
「ん、分かった」
『せ、精霊王様!?ど、どうして・・・』
『理由なぞ不要。ただ我はこの方を一方的に好いているだけだ』
ユーリの周りを守護する守護精霊の任をしているのは精霊達の王。
火の精霊王、フィアナ。
水の精霊王、ネロ。
雷の精霊王、グロム。
土の精霊王、ボーデン。
風の精霊王、ルファン。
が人々に知られる名であり、ユーリのみがその名を呼ぶことが許される。
そして、ユーリが名付け親になった精霊の王が二人。
光の精霊王には、ルクス。
闇の精霊王には、ヘレナ。
この二人は人には知られていない精霊王であり、その存在は極めて強大。
このような困った時や何かあれば真っ先にユーリの元へ馳せ参じるのは風の精霊王のルファン。
普段の関わりなどもルファンが多く、話も多い。
「・・・やる、ね」
ルファンの準備は他の精霊王と協力して逃亡を手助けすること。
その準備として王女が逃げたことを少しでも遅らせる事が重要だった。
「【幻想よ。その幻を現へ。現を幻へと。心象へと誘え】」
魔法を少しでも感じ取れる者にはユーリが紡いだ詠唱の一句一句にどれだけの魔力が篭っているかを理解できる。
まだ幼く見えるユーリの身体からは想像も出来ないぐらいの魔力が溢れ出し、その全てを御されている。
詠唱を終えるとユーリの背後には大きな扉が開き、王女の手を取るとその中へと連れていく。
「あ、あの」
「ん・・・後でまた見に来る。それまで中にいて、欲しい」
ユーリが使ったのは個人が自分を構成する心象を具現化させた魔法。
それはまさしく結界と等しく、心象結界とも言われている古代の魔法だった。
「それじゃ、後で、ね」
またね、とユーリが手を振ると扉が閉じられていく。
あの中はユーリの心の中と同等であり、ユーリの心が壊れていけばあの扉の中も地獄のような、天国のような壊れた世界へとなる。
『汝よ。幻術にてごまかしが効くのは長くはない。早めに行動を薦める』
「ん・・・分かった」
ユーリは再び詠唱をすると白猫の姿へと変えていく。
この国の王族を誘拐したユーリがばれることはないかもしれないが、国を出て行くべきと考えたユーリはとある国を目指す。
(行く先は、あそこ)
ユーリの義妹弟がいるであろう国へと。
そして、一つの考えがユーリにあった。
(そういえば、教会が王女の命で壊される)
だがユーリが出会った王女は我が儘だと言われていたような人ではなさそうだった。
何か企みを考えているようなら精霊達が察している。
つまりは王女による命ではなく、何かがあって王女の我が儘と押し付けられているということだった。
(ま、いいや)
肝心の王女は自分が。
教会は今から戻る事もできず、他国へとシスターや義妹弟が行っているため。
(やることは、変わらない)
白猫はディルミアスという貴族がいるであろう国へ向かうため、その手段を探しに行くのだった。