幼い少女は龍の上にて眠る   作:紅風車

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第五話

ユーリが居る国では、とある事が国中で知らされていた。

それは王女の誘拐。

つまるところ、精霊達による隠蔽がばれてしまい、国中で王女の姿を探そうと騎士団や貴族が血眼で探し回っていた。

当然ながらユーリの心象結界にいるかぎりは見つけることも叶わないわけであるが。

 

「ん・・・」

 

「ユーリはどうしてローブを取らないのですか?」

 

「姿見られるの、嫌い。それと、肌が強くない」

 

心象結界にいようと食事や身の回りの事が問題になり、人の目がない場所では外に出ていた。

お風呂やご飯は二人で良く取る事が多く、王女のリディア自身もローブで姿を隠している。

もっといえば闇の精霊王による魔法にてリディアの表面存在そのものを操作、ローブ着用による影操作でまずばれることはない。

名付け親であるユーリの事ならばヘレナとルクスは喜んで率先して取り組もうとするぐらいだった。

 

「リディアも、なんでメイド、服?」

 

ローブで見えなくともリディアの着ている服はドレスではなく従者などが着用するメイド服だった。

ローブが万が一取れてしまっても、ぱっと見では貴族の息女とその従者という構図ではある。

 

「私は王女という籠が嫌だったのです。あれは操り人形ですから」

 

「ん・・・そっか」

 

ユーリとリディアは数日でとても仲が良くなり、精霊達も二人がいる時間を尊重してか、邪魔をしないようにしていた。

 

「でも、敬語は、なんかむずがゆい」

 

敬語を使って来る相手があまりいなかったからか、ユーリは敬語は聞いていて好きではなかった。

リディアも最初こそは敬語がなくなっていたが、性に合わないからと敬語に戻っていた。

それも一つの個性だと考え、ユーリは何も言わなくなるが。

 

『汝、竜王国へ行くが良いだろう』

 

「竜王国?」

 

「竜王国というのは竜族が治める大きな国です。他種族同士でも交流があり、昔は精霊様達が沢山居たというのを聞いたことがございます」

 

『ディルミアス・ドラグニア・アーディラス。竜王国の国王であり、竜族で最も強いと言われている。おそらく訪れたのはその国王本人だろう』

 

「竜王国、どうやっていけば、良いのかな」

 

「商いを中心に様々な人々が集います。行商の荷車で行くのがよろしいかと」

 

「ん、じゃぁ、行こう」

 

ユーリは猫の姿になり、リディアを結界内へ移動させる竜王国へ向かう商人や荷車を探した。

商品の入った荷物に動物が紛れるのは良くあり、行商人からは良く思われていた。

その理由は、行商の荷物には強い守護がかかっており、それを突破して中へ入る動物は強い力を持っているのと同格だと言われている。

それを利用して行商の旅を安全にする秘訣とも言われるほどに。

 

『汝、あの荷車がいいだろう』

 

ルファンがユーリへ示したのは一つの荷車。

中はかなり入っており、猫の嗅覚で嗅ぎ取れたのは大量の肉の匂い。

 

(お肉、凄い匂い)

 

『肉というのは竜族が最も消費する。あれほど大量となると竜王国行の荷車だろう』

 

ユーリは荷車にかけられている守護を難無く突破し、中へと入る。

 

(ここから、竜王国まで・・・3~4日?)

 

何事もなく進めば3~4日ほどで到着するのがリディアの推察。

ルファンも同様であまり日はかからないだろうと言っていた。

 

(ん・・・ねむぃ)

 

猫の姿になってからというもの。

空腹感があまりなくなり、睡眠時間が増えた。

寝ている間のユーリの守護はいつも通り、過剰なほどの精霊達が集う。

ユーリが居る荷車は安全に竜王国へと向かうことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーリが乗った荷車は何事もなく、竜王国へと到着した。

本来ならば魔物が襲って来ていても不思議ではない食肉の量だと考えていた商人だったが、危険がないならと深くは考えなかった。

 

(着いた)

 

ユーリが荷車から下りると、少し前まで居た国とは違い、とても栄えていた。

周りを見れば精霊が沢山存在し、人々と触れ合っている。

 

『汝。ここが竜王国。力の強き者が政を行い、異なる種族同士がこの国で住んでいる』

 

身体的な特徴からみても同一種族ではないとすぐに理解が出来る。

そして竜も当然ながらこの国にいる。

 

(・・・?なんか見られてる?)

 

ユーリは気付いていないのかもしれないが、本来精霊の王というものは滅多に姿を現さない。

それが一匹の真っ白な猫の側に風の精霊王が近くにいれば必然的に目を集める。

竜王国は竜族が政を行うと同時に、精霊を尊ぶ国家。

精霊信仰が盛んな国でもあった。

 

『それはそうだろう。我のような精霊の格はこの世界にて7人しか存在しえぬ。そんな精霊が汝のような猫の側にいれば必然よ』

 

(と、とりあえず探索、してみよう)

 

ユーリが最初に向かったのは一番人通りが多かった商いの区画。

歩けばどんどん下級精霊が集まっていき、最終的にはユーリの周りには大量の精霊が固まっていた。

ユーリが出す魔力が精霊にとって至上のご馳走になりえるほどにまで精霊に愛される質を持つ。

精霊の愛し子というだけでなく、元々のユーリが精霊に好かれているというのが重なり合った結果なのだろう。

 

「ねー、お母さん。あの猫ちゃんに精霊様がいっぱい引っ付いてる」

 

「本当ね・・・触っても良いのかしら?」

 

ユーリに気付き、行動を起こしたのは親子だろう獣人の母と娘。

静かに近付いてしゃがみ込むと優しくユーリの頭を獣人の娘が撫でた。

 

(ん・・・)

 

頭を撫でられることはあまりないからか、ユーリはされるがまま撫でられ続けていた。

 

「あまりやりすぎては怒られるからね?」

 

「はーい!猫ちゃんありがとう!」

 

ユーリへ感謝を告げた親子はすぐにどこかへ去っていくと、他の人が一人、また一人と集っていく。

精霊を尊ぶからこそ、ユーリのような存在はご利益があるという迷信があるのだろう。

沢山の人が猫のユーリを撫でたり、食べ物をあげたりと色々されるがままされて、解放されたのは夕刻になった頃。

そのユーリは疲れていたが、存在しているだけで人々が幸せになるなら良いやと考えるのだった。

 

 


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