秩序の騎空団でグラブる   作:秩序派

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この外伝はリーシャの入団から約3年後の話です。
完結までに設定が矛盾しそうなら別世界のエピソードにします。
そうでなければ同じ世界のエピソードです。


Extra1 ある日のリーシャ

プロローグ

 

 その日、リーシャは久しぶりの休日をアマルティア島の自室で迎えた。秩序執行巡空独立強襲隊は、基本的に隊長の気まぐれで運用されるため不定休なのだが、古戦場で戦った後だけは数日の休みが取られることが多い。なにしろ一週間もの連日連戦である。隊員達は普通の人間なので、十分に疲労を回復させる必要があるのだ。

 さて、そんなブラック部隊の副隊長リーシャだが、日課の早朝鍛錬、掃除や洗濯、そして少し早めの昼食を終えて、ある問題に悩まされていた。

 

「午後からは何をしようかな……」

 

 何かしていないと落ち着かない彼女にとっては重要な問題である。こんなことなら手間のかかる料理にでも挑戦すれば良かったと、少し後悔するがもう遅い。

 

「本部に顔を出して、各国の情勢の確認、それと隊室の掃除をして……武器倉庫も整理したいけど、隊長に文句を言われるし……」

 

 それでもどうにか予定を立てると、手早く身支度を整える。隊室は隊員達が全力で清潔を保っているため掃除しがいは無いが、しばらく使っていないので換気やはたき掃除ぐらいはできる。そう意気込んで外に出たリーシャの目の前で、1人の少女がふらふらと倒れた。

 

「ごーざーるー」

 

 はたして少女の正体とは……!

 

 

 

エピソード1

 

 空腹で倒れた着物の少女ミリンを、リーシャは自宅に招き入れると、簡易ではあるが食事を提供した。ここで注意するべきは少女の名前である。ミリンは調味料の「みりん」と同じように発音するのだ。

 

「助かりました。拙者、この島には秩序の騎空団や裁きの門を見にきたのですが、旅費を節約しようと……」

 

「もしかして食事を抜いたのですか!」

 

「ござる!?」

 

「いいですか、規則正しい食事とは秩序的生活を送る上で不可欠なものであり――」

 

 急な大声に驚くミリンに対して、食事の重要性を説くリーシャ。それはミリンを心から心配してのことだったが、秩序を布教したいという気持ちも2割ほどあった。そして、まだ旅慣れてないミリンとしても、これを機に食事は欠かさないようになる。

 

「ありがとうございます、リーシャさん。食事ばかりでなく、拙者のためを思って話まで……このご恩は決して忘れません。いつか必ずお返しします!」

 

「いえ、私は当たり前のことをしただけですから」

 

「でも……」

 

「それでしたらミリンさんの話を聞かせてください。遠くの国から来られたんですよね」

 

「ござる。拙者の故郷は遥か東の島で、そこには侍文化というものが――」

 

 そしてミリンは食後の牛乳を飲みつつ様々な話をした。故郷のこと、侍文化のこと、両親のこと、異国浪漫への憧れ、などなど。守畏禍割りの儀式の話や、振袖の際は下着を着けないという話も出たほどだ。

 

「ところで、さっきから気になっていたのですが、あの棚にある簪は……」

 

「ああ、あれですか。えっと、その、2本とも貰い物なのですが着ける機会が無いので、ああやって飾ってあるんですよ」

 

「なんと! もしかして男の人からですか?」

 

「ええ、そうですが……」

 

 途端にミリンは目を輝かせて身を乗り出す。そう、彼女は恋に興味津々なのだ。

 

「リーシャさんほどの素敵な女性なら納得です! きっと素晴らしい恋人なのでしょうね」

 

「いえっ、彼とはそんな関係じゃありません。ただの同僚というだけですから」

 

「でも、簪を贈るほどですから、もしかすると真剣に将来のことまで考えているのかも……」

 

「一体どういうことですか?」

 

 ミリンは適当な紙に何かを書いた。

 

「父上から教わったのですが、故郷には『女性が簪を3本挿している姿』からできた字があります」

 

「もしかして、その字がそうなのですか?」

 

「はい、これは――」

 

 リーシャの方に向けられたその紙には『妻』という漢字が書かれていた。そして、そのことから由来して3本目の簪を贈るときにプロポーズする風習があるというのだ。

 

 

 

エピソード2

 

「えっ、あっ、プロ、結婚なんて、そんなっ」

 

 リーシャは混乱した。何気なく受け取った簪に、そんな重大な意味があった(仮)のだから。

 

「落ち着いてください、リーシャさん」

 

「え、ええ。おそらくこれは偶然でしょうし」

 

 そう、これは偶然なのだ。食費を削ってまで武器を購入するような武器蒐集家の男が、敢えて高級な簪を自分に贈ったからといって、そこに特別な意味など無いに決まっている。リーシャは必死で自分に言い聞かせるが、あまり効果は無い。

 

「えっと、その同僚さんは簪を渡すときに何か言ってましたか?」

 

「そうですね……確か、わ、私には着物が似合う、と」

 

「なるほど。故郷では花嫁衣装は着物なので、やっぱりそういうことです! 神前式って言って神社で行うんですよ」

 

「着物で神社に!?」

 

 神社と言われてリーシャが思い出すのは、3回ほど行ったことのある羊神宮のことだ。開帳されていない神社にも関わらず隊長はあちこちを見回っていて、そのときは何をしに来たのか疑問に思っただけだった。

 

「それは間違いなく結婚式の下見ですね」

 

 そのことを聞いたミリンは迷わず断言した。

 

「それに羊神宮を選んだのも、リーシャさんに気を使ってのことだと思うんです」

 

「えっ」

 

「だってほら羊神宮って羊ですよね? 『ひつじ』と『ちつじょ』って響きが似てますし」

 

「……やはり偶然です。ただ、そんなふざけた理由で羊神宮を選んだとすれば彼らしいですが」

 

 その言葉にミリンは疑問を覚える。仮にも秩序の騎空団員なのだから真面目で誠実な人だと想像していたのに、ふざけた理由が『らしい』とはどういうことか、と。

 

「そういえば、その同僚さんってどのような方なのでしょうか」

 

「不真面目な無秩序者です」

 

「!!」

 

 リーシャは存分に語った。入団試験の際の無礼な態度、女の子を泣かせた事案、星晶獣に利用されるほどの欲望、公爵邸への不法侵入、部隊経費の横領未遂、など3年間溜めこんだものを吐き出すかのように盛大に愚痴った。秩序の騎空団と無関係な知り合ったばかりの相手だからこそ、気を使わず話せることもあるのだ。一方、ミリンは少し引いていた。

 

「そんなに卑怯で無礼な浮気者がいるなんて……」

 

「いえ、その、少し言い過ぎてしまった部分もあるかもしれませんから」

 

 リーシャは慌ててフォローする。愚痴の内容は全て事実であるが、それだけが彼ではないのだ。

 

「ともかく、その簪を持っていることで、その同僚に勘違いされても困りますよね。拙者の奥義、十文字スラッシュで2本とも木っ端微塵に――」

 

「大丈夫、大丈夫ですから。……彼は、私のために命がけで戦ってくれたんです。あの時は彼の強さに勇気を貰いました」

 

「……」

 

「それに彼は、私を普通の女の子として見てくれるんです。皆は私の後ろに偉大な父を見て、それで『父の娘』として扱われてきました。でも、彼の前でだけは『ただのリーシャ』でいられる気がするんです。彼にとっては碧の騎士すら『リーシャの父親』でしかないのかも……いえ、そんなはずは無いのですが」

 

「……」

 

「それから、意外と部下に慕われているんです。先日も重要な書類を紛失していたのですが、彼らは指示されなくても探すのを手伝っていました。きっと私が気づけない魅力があるのでしょうね」

 

「……何となく分かりました」

 

 ミリンは故郷の母親を思い出していた。民俗学に熱中するあまり他のことが疎かになってしまう父親への文句ばかり言っていたが、そこには確かな愛情があったのだ。だから、もし『同僚さん』がプロポーズしようとしているのなら、恩人のリーシャには目を逸らさず受け止めてもらって、できれば両親のようになってほしい。それこそが自分にできる恩返しであり、隠し味『みりん』の名に相応しい役割なのだ。

 

 

 

エピソード3

 

「では、簪を贈られた日はいつですか? もしかすると、そこにも意味があるかもしれません」

 

「えっと、たしか3年前と1年半前だったと思います。日付は――」

 

 ミリンは、一瞬で日付が出たことで確信を深めるが、残念ながら日付に心当たりは無い。

 

「誕生日も、出会った日も関係なさそうですね。拙者の考えすぎだったのでしょうか」

 

「そうですね、出会った日から1ヶ月ではなく28日目なので……『28』!?」

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「出会った日から28日目と496日目……どちらも完全数です」

 

「かんぜんすう?」

 

「完全数は、自分の数以外の約数の和と等しくなる秩序的な数字……私に勇気を与えてくれます」

 

「よく分かりませんが、やっぱり法則があったんですね。それで、496の次の完全数は?」

 

「8128です」

 

「はっせ……いくら何でもそれは待たせすぎじゃないですか!」

 

 本日から約20年後である。いくらリーシャが21才の時点で年齢が止まる世界観だとしても、ありえない数字だった。

 

「もっと手近なところに同じような数は無いんですか。いっそ今日とか!」

 

「今日は1050日目なので……あっ……こ、婚約数というのがあります」

 

「ござる!?」

 

「で、ですが、婚約数は2つで1組。もう片方の1925を無視するのは秩序的ではありませんよ」

 

「単純に、1050~1925日目を婚約期間としたいということで、それはつまり結――」

 

「ストップ!」

 

 もはやリーシャの中にも反論する気持ちは残っていなかった。完全数を意識したプレゼントなんて、偶然に起こるはずはないのだ。適当に渡されていた簪だが、実は彼なりに決意があったに違いない。きっと肝心なところでは酷く不器用で臆病なのだろう。

 

「さて、そろそろ拙者はおいとまします。あとはリーシャさん達の問題ですから。ああ、安心してください、今日のことは誰にも話しません。女同士の秘密です」

 

 ミリンは満足気な顔で立ち上がる。これ以上いると2人の邪魔になるかもしれないのだ。

 

 

 

「最後に1つ聞かせてください。侍文化では、抱き枕を買ったら武器が付くんですか?」

「は?」

 

 

 

エピソード4

 

「結婚式には呼んでくだされー!」

 

 そう言いつつ、裁きの門の方へ歩いていくミリンを見送った後、リーシャは1人考える。もし今日中に簪を贈られたなら、覚悟を決めて向き合わなければならない。彼の気持ちと、それから自分の気持ちに。いつまでも見て見ぬ振りをするなんて、そんな不誠実なことはできない。それでも、今の適度な関係が終わってしまうのは明白で……。

 

「少しだけ、寂しいのかもしれません」

 

 だから今から街に行こう。おそらく彼は、武器屋や商店を回っては軽く迷惑をかけているに違いない。そして、それを止められるのは自分しかいないのだから。

 

「ふふっ」

 

 自然と笑みがこぼれる。今日は刺激的な休日になりそうだ。

 

 

 

 

 

 遠くの方で、ソシエーーーと嘆く声がした。その日、3度目の偶然に対してリーシャは……。

 

 

 

エピローグ

 

 1週間後。

 

「なあ、今日も隊長が無視されてるぜ」

「リーシャ様の表情から『空回っていた自分がとにかく恥ずかしい』と推察できなくもないが」

「深読みしすぎだって。どうせ隊長が怒らせただけだろ?」

「だな。そして隊長を無視しながらも、滞りなく部隊を運用できているリーシャ様は流石だ」




休載中ですが、長期の放置はしたくなかったので主人公不在の外伝を書きました。
モニカ実装までは月1回ペースで外伝を投稿できればいいと思っています。

言うまでもなく全部が偶然による空回りです。
みりんも入れる料理によっては残念な味になってしまうという話。
それに、もしプロポーズされていたとしても、リーシャは3日間悩んだ後に断ります。


グラブル脳でない読者様のための、作者による雑な用語解説

・ミリン
可愛い。調味料の「みりん」と同じように発音する。
初期案ではジンが登場するはずだったが、作者の都合で彼女に変更された。

・振袖
詳細は「蒼天羽振袖」で検索。
リーシャが可愛い。着けているのか気になって仕方ない。

・羊神宮
大きくて可愛くて強いアニラがいるはずの神社。
この後も定期的に訪れることになる。

・簪
ソシエ(生娘)の加入を期待されて主人公が入手したが3本とも武器ではなかった。
扇の方は大事に収納されている。
余談だが、この日以降は簪を贈られなくなった。
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