秩序の騎空団でグラブる 作:秩序派
主人公「トリック!」
モニカ(無言の防犯ブザー)
エピソード1
秩序の騎空団第四庁舎の地下には独房があり、通常の収容棟には入れられないような重犯罪者が生活している。しかし、さらにその下には特別隔離房があり、虫一匹通さないほど厳重な警戒がなされていることを世間の人々は知らないし、俺も実際に入るまでは知らなかった。
「ヘイ、ラビット。カモン!」
モニカ・ハイ状態の俺が陽気に呼びかけると、壁をすり抜けるように巨大兎がやってきた。
「ようこそ……ラビットルームへぴょん……」
「あ、メッセージはスキップで」
というか、そっちが来たのに『ようこそ』はどうなんだ。ともかく、前回と違って俺の体は問題なく動く。だから最初にやるべきことは決まっていた。俺は巨大兎に最敬礼して頼みこむ。
「トレハン教の神にして、心優しき美姫たるカグヤ様に謁見いたしたく存じます」
「調子に乗るなぴょん、囚人!」
「だからロリに言わせろって。……ただし、この場合のロリとは、空の民の過半数が可愛いと思うような人型の少女のことだ」
今回も会えなかったか。ロゼッタは褒めたら即座に来てくれたんだが、どうやらカグヤ様は慎み深いらしい。いや、ロゼッタさんが慎み深くないと思ったわけではないのです決して。
「2つ目はどうするぴょん?」
「次はプレゼントの受け取りだ。プレゼントリストを出してくれ」
俺が転生してから3年以上になる。グラブルのログインボーナスは些細なものだが、それが3年分ともなると相当の量になっているはずだ。全部ガチャに使えば『天井』だって届く……と思っていたのだが。
「何も無い……だと?」
プレゼントリストは空っぽだった。特定のカテゴリのみ表示される設定になっていないかを確認してみたが、全プレゼント表示状態で何も無かった。残念だが原作主人公でない俺に、ログインボーナスは無かったようだ。そういえばトカゲが持ってくるような演出だったか……。
「初回クリア報酬も無いのか。残念だ」
プレゼントを全部受け取ったらガチャを天井まで回して、仲間をたくさん加入させるつもりだったんだが。ガチャは次回以降にした方がいいか? いや、俺には原作主人公補正が無いと判明したばかりだ。フェスがあるかどうかも分からないし、早めに仕様を確認しておきたい。それに、もうガチャを引きたくて引きたくて待ちきれないんだ。
「ガチャを引かせてくれ!」
目の前にレジェンドガチャが現れた。出現装備を調べると、ちゃんと最新のキャラまで出るようだ。俺にはシェロカルテ殿の依頼で入手した宝晶石が約10000あるので、10連ガチャなら3回まで引ける。
「とりあえず仕様確認しないといけないから……」
俺は10連ガチャを引いた。画面に広がる虹色の光――SSR確定演出だ!
「良し! 来い! 女の子来いっ!」
SSRキャラの半分以上は女の子なんだ。ここまで来て男なんて見たくないぞ。そう思いながらタップして画面を進めていく。はたしてSSRの正体は……!
『フラム=グラス(召喚石)』
うーん、このハズレ石。最終上限解放まですれば少しは使えたりもする可能性があるのだが、今のところは女の子が描かれた石でしかない。火エレメントが必要になるまでは倉庫送りだ。
「でも流れは来てる。まだ引けるはずっ」
俺は10連ガチャを引いた。再び画面に広がる虹色の光――SSR確定演出だ!
「ほら引けた! これぐらい余裕なんだよ!」
さっきはハズレだったし、次は良いSSRが来るだろう。そう信じてタップしていくと、出たのは女の子。白い髪に褐色の肌、そう彼女は世界の均衡を守護する星晶獣、その名は……!
「ゾーイ来た! これで――」
『ジ・オーダー・グランデ(召喚石)』
「そっちかよ!!」
さっきのハズレ石と比べると十分に強いのだが、それでも今となっては基本的に採用されない加護だ。なにより専用の編成を要求されるのが痛い。俺の武器はほとんどが通常攻刃枠だからな。
「まだ流れは残ってる。それに、ここまできて止められるか!」
俺は10連ガチャを引いた。またしても画面に広がる虹色の光――SSR確定演出だ!
「そろそろキャラ来るよな。頼んだぞ、おい」
ハズレ→普通とくれば、次は当たりに違いない。ここで女の子が来れば救われるんだ。どうか俺に出会いを……!
『緋舞扇(武器)』
SSRの扇……。
ソシエ……?
「ソシエ!ソシエ!ソシエ!ソシエぇぇうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!
(中略)
俺の想いよソシエへ届け!!王家の末裔ソシエへ届け!」
数時間後。
「看守、司法取引を要求する。ファミリーの構成員、アジト、符丁、それに取引内容をオレが知る限り話そう。だから……せめて上の独房にオレを移してくれ!」
なお、特別隔離房滞在中にヴァルフリート団長が到着して、また別の空域に行ったらしい。
エピソード2
独房から出た俺は、単独でシェロカルテ殿に仲介された依頼をこなしていた。なぜなら、
『ガチャにより、本来は交わるはずの無かった運命が変わったぴょん。遠からず出会えるぴょん』
とホワイトラビットに言われたからだ。そんなわけで、午前に2件、午後に1件の依頼を片付けた俺は、森の中を歩いて次の場所にやってきた。
「ソシエは妾にしようか。別宅に住ませて、俺が来るのを待ち続けるような……」
おっと魔物だ。ソシエの将来は後でじっくりと検討しよう。俺は武器を構えて魔物に駆け寄る。だが、魔物は突然に崩れ落ち、その向こうには扇を持ったエルーンの少女が立っていた。長い銀髪と、限られた者だけが持つ大きな尻尾、そしてその高貴な雰囲気、間違いなくソシエ(生娘)だ。
「あのっ……」
とりあえず求婚しようとして、思いとどまる。少し前にモニカで失敗したばかりなのだ。ここは慎重に、秩序の騎空団への勧誘だけを考えよう。隊長権限を使って隊員にさえしてしまえば、時間はいくらでもあるのだから。
「…………えと……なにかな……?」
「ああ、今の魔物は俺が討伐依頼を受けていたんだ。そっちは?」
「……違って……その……あの……」
「大丈夫だから、落ち着くんだ。あー、青い果実とか食べるか?」
とりあえず、さっき拾ったばかりの新鮮なやつを勧めてみた。
ソシエは、王家の末裔としての使命を果たすため、九尾とか神器とか演舞とか幼馴染とか関係者とか探しているキャラだ。しかも、探し物が多すぎるにも関わらず、人見知りで話すのが苦手だというハードモード。さらには騙されやすいという致命的な弱点もある。やはり、この俺が護ってやらないと。そう決意を固めたところで、食べ終わったソシエが話しかけてきた。
「えっと……ありがとね、果物」
「ああ、たくさんあるから気にしなくていい」
「その……さっきの魔物だけど、私が探しているお方だと思って来てみたら違って、それで倒したんだ」
「そうだったのか。俺は討伐依頼で倒しにきたけど……何もしてないのに報酬を貰うわけにはいかないからな。よかったら一緒に達成報告に来てくれないか?」
「……うん、いいよ」
よし、自然に誘えたぞ。これから街に戻るまでが勝負だな。それにしても、緊張のためか標準語で話すソシエもいいものだ。
こうして森の中を歩きはじめた俺達は、軽く自己紹介などをすませた。続けて実例を交えつつの誠実さアピールだ。手始めに、インペリアルショテルのため倒しまくったエルステ帝国兵の話をしてみる。
「だからさ、俺は秩序の騎空団の一員として、困ってる人を放っておけないんだ」
「そうなんだ……。もしかしたら君になら話しても……でも……」
「ソシエ、俺を信じてくれ」
振り返って、彼女をじっと見つめる。そういえば『俺を信じろとか言うやつは、間違いなく信用できない』って秩序教本に書かれていたような……まあいい。
「実はね――」
彼女は語る、九尾のことを。そして、幼馴染の少女――ユエル――のことを。
「――ユエルちゃん……どこ行かはったんやろ」
「ななな、なんと、そんな重大な使命を果たそうだなんてー!」
だいたい知ってたけど。ともかく俺が狙っていた流れだ。
「ソシエ、秩序の騎空団に入らないか? 俺に君の使命を手伝わせてほしい!」
「えっ……」
「秩序の騎空団には大きな資料庫がある。過去に『意思を持った炎』が目撃された情報があるかもしれない。それに、俺の部隊は各島を飛び回ってる。その友達にも会えるんじゃないかな」
「ほ、ほんまにええのん……?」
「ああ、もちろんだ。俺と一緒に来てくれ」
そして徐々に使命のことなんて忘れさせて、俺だけのものにしてやるよ、ソシエ。
「じゃあ……よろしゅうお頼申します……」
ソシエが秩序執行巡空独立強襲隊に加入しました!
エピソード3
引き続き、街に向かって森を歩く俺とソシエ。だが、2人きりのこのチャンスに何もしなくていいのだろうか。いや、イベントは積極的に起こしていくべきだ、ハーレム王を目指すなら!
「痛っ! 足の付け根を虫に刺されて腫れてしまった! ううっ……!」
少し不自然な演技だったか? だがソシエなら、チョロいソシエならきっと。
「ええっ、大丈夫なん?」
「ああ。でも悪いけど、腫れた場所を優しくさすってくれないか? この薬が効いて、腫れが引くまでの5分、いや10分でいいから」
「それぐらいやったら、ええけど」
完璧だ。ソシエなら絶対に騙されてくれると信じてた。俺は市販のポーションを飲むと、地面に座って木に背を預ける。今日は休日でリーシャが俺を探す理由は無い。ソシエは嫌がってないから秩序も乱れてない。当然ながら防犯ブザーを鳴らす様子も無い。このまま最後までいけると確信した俺は、ソシエの手を握って『腫れた場所』に近づけていき――
「ソシエから離れんかい! この変態!!」
――謎の乱入者に邪魔された。
乱入者ユエルは、ソシエと同じく王家の末裔であり、狐火を使った多彩な攻撃が得意だ。というか、まさに今その狐火攻撃を受けていた。
「ええい、ちょこまかと避けんな!」
「ま、待って。ユエルちゃん、これは違うんよ」
そうだ、ソシエ。頼むから誤解だって言ってやってくれ。
「うちはな、腫れたところをさすってあげようと」
「それを変態の所業言うねん!」
「それだけやのうて……あっ、うちに入れてくれるって」
「入れ……っ! アンタだけは殺す!!」
狐火の火力が上がった。口下手にも程があるだろ、ソシエ。どうして『ソシエに、騎空団に入れてあげると言った』ことを正しく伝えられないんだ! こんな誤解で……いや、そういったことを全く考えていなかったと言えば嘘になるので、誤解とも言い切れない気もするが。ともかく俺からも説得するしかないようだ。
「待ってくれ、俺は秩序の騎空団員で……」
「嘘吐くなや! アンタみたいなんが秩序の騎空団なわけないやろ!」
説得は失敗に終わった。仕方ない、力ずくで話を聞いてもらうしかないな。冷静になれば、少しは話も通じるだろう。
「秩序の騎空団として、この身に降りかかる火の粉は払わせてもらう」
俺は四天刃・雪をユエルに向けた。
数分後、俺は想定外の事態に頭を悩ませていた。ユエルが強すぎるのである。
「そこや!」
まずは防御面だが、俺がユエルに怪我をさせたらソシエの好感度が下がってしまうだろう。不幸な勘違いから始まった戦闘だが、だからといって幼馴染が傷つけられたら少しは俺を恨むはずだ。最悪の場合、『せっかく再会できたし、このまま2人で旅しよか』となる。そうなったら、いくら俺でも立ち直れないかもしれない。
「覚悟しいや!」
次に攻撃面だが、俺は今までユエルのことを過小評価していた。しかし実際に対峙して、その圧倒的な破壊力から目を背けられなくなっていた。彼女は露出度が非常に高いのだ。具体的には、前に見たリーシャの下着姿以上である。流石は運営に規制されたほどのファッション。ポロリを期待して俺の動きが不自然になってしまうのも仕方ないことだ。
「融月緋刃!」
狐火と双剣については全く脅威を感じない。神器で覚醒していないので仕方ないだろう。とまあそんなわけで、倒すだけなら30秒、生死不問なら10秒で終わるであろう戦闘がこんなに長引いているのだ。せめて、ある程度の隙さえあればどうにかなるのに。そう思いつつ俺は戦場を見渡して、少し考えた末に……。
「ああ、もう鬱陶しいわ。ええ加減に――」
「あーっ、ソシエ! なんてはしたない格好を!」
「なんやて! …………あっ!」
気づいた時にはもう遅い。俺は一気に距離を詰めて、ユエルの心臓の辺りに四天刃の先端を当てた。少しでも動かすと服が破れてトップレスになってしまう状態だ。俺としては、そっちの方がいいんだが。
「降参してくれないか。少し話を聞いてくれるだけでいい」
「くっ、好きにしたらええ」
残念ながら、ユエルは双剣を手放して両手を上げた。
説明後。
「……つまり、こういうことやな。ソシエは王家の末裔として色々と探しとって、それにつけこんだアンタは『秩序の騎空団の船団長直属部隊の隊長』を騙ってソシエを拐かそうとした!」
「騙ってはないが、そんなところだ」
「ユエルちゃん、無闇に疑うたらあかんと思うんよ。隊長はん、ええ人みたいやし」
「ソシエは警戒しなさすぎや。……そうや! 今から3人で秩序の騎空団に行ったらええわ。もし嘘やったら、そのまま誘拐未遂で捕まえてもらえるやろ。そんで、万が一本当やったらウチもアンタの下で働いたるわ。どうや、大人しく白状すんなら今のうちやで」
ユエルは自信満々に言い放った。なるほど、ここでユエル加入か……アリだな。この圧倒的な破壊力を知ったからには、このまま別れるのも惜しい。
「庁舎ならこっちだ、案内しよう。討伐報酬は後回しになるけど、それでいいか?」
「ええよ、隊長はんのおかげで早速ユエルちゃんとも会えたし」
「え? え?」
なお、俺の言葉が本当だったという驚愕で、さすってもらおうとしたのは有耶無耶になった。
ユエルも秩序執行巡空独立強襲隊に加入しました!
エピソード4
1ヵ月後、俺は原作知識を利用して大金持ちになるために、ある小さな島に来ていた。ここでは第2回プラチナム・スカイ・カップが開催されるのだ。
具体的には、走艇と呼ばれる専用の騎空艇を使ったレースなのだが、原作ではミュオンが連覇している。つまり、今回の1位も彼であり、1点賭けするだけで大儲けが約束されている。むしろ、軍資金の調達の方が大変だったぐらいだ。部隊の運用のための資金を限界まで引っ張り、可能な限りの給料を前借りして、そのためにリーシャには保証人になってもらって、天星器覚醒のための設備拡充用資金も温存して、それで合わせて一千万ルピ。これを今回のレースに全額投入してやるのだ、フハハハハ!
あまりの高額に倍率が下がるかもしれないが、確実に利益は出るので問題ない。念のために、俺がレース関係者でないことをリーシャに確認してもらった。これで準備は万全だ!
「隊長、このレースに巨大な陰謀があるというのは本当ですか?」
「ああ、リーシャ。謎の研究所が動いているという情報があってな。もっとも今回は何も起きないかもしれないんだが……」
実際のところ、研究所が仕掛けてくるのは数年後のことだ。だが、『今回のレースに全額賭けるから』なんて絶対に言えないので、警戒のためという名目でやってきたのである。ちなみに、嘱託団員となったソシエは本部の資料室で九尾の調査中であり、ユエルは適当に探検でもしているのだろう。そんな経緯で、一千万ルピの入ったカバンを手に2人で見回りをしていると、目の端に見慣れた『それ』が映った。
「リーシャ、ここで待機。できるだけ誰も近づけないでほしい」
「了解」
出店で賑わう大通りから少し離れたところに、その男は座っていた。男の前には簡素な敷物、そしてその上には禍々しい雰囲気の槍が1つだけ置かれていた。毎日のように目にしているから間違いない。これは本物のグラーシーザーだ。
「……いくらだ?」
「一千万」
男は簡潔に答えた。それなら買える、いや買えてしまうのだ。
「高いな。もう少し安くならないのか? あるいは支払いが明日でもいいなら……」
「今、この値で買えない者に、これは使いこなせん」
悔しいが男の言うとおりだ。グラーシーザーが一千万ルピなんて破格の値段であり、闇属性武器が揃ってない騎空士なら迷う余地は無いのだから。俺はカバンを男に渡して、グラーシーザーを受け取った。念のために、即座に装備してそれが本物だと実感する。
「間違いないようだ。いい取引だった」
「……」
男は無言で去っていった。
「隊長、いったい何が……あっ、また新しい武器ですか? 無駄遣いは程々にしてくださいね」
「……ああ」
「実は、明日のレースが少し楽しみなんです。もちろん警戒を怠るつもりはありませんが……」
楽しそうなリーシャ(保証人)の顔を、俺はまともに見ることができなかった。
来月からタダ働きか……。
ソシて彼は運命を変エ、ユエに報いを受けル
実際のところ、グラシは買えたので報いを受けたとは言いがたいです。
Q:ユエルが乱入できたのはどうして?
A:愛。
Q:愛って?
A:幼馴染、友人、姉妹としての愛です。最後までガールズラブになりません。
Q:SSR以外の27個は?
A:グランデちゃんが美味しくいただきました。
Q:団長は何がしたかったのか?
A:モニカは単独で瘴流域を超えられないので、団長に手を引かれて来ました。
Q:男の正体は?
A:未設定。きっと裏組織の資金調達員とかです。
次話は「つまり、あのロボミイベントは何だったのか」です。
グラブル脳でない読者様のための、作者による雑な用語解説
・天井
9万円分のガチャを引くこと。SSR装備が追加で1つ貰える。
・トカゲ
原作主人公の相棒。自称ドラゴン。正体不明。
・ジ・オーダー・グランデ
世界の均衡を守護する星晶獣。
ゾーイと名乗って、キャラとしても仲間になる。
ゾーイは強い。水着のゾーイは超強い。召喚石グランデはそんなに強くない。
・ユエルのファッション
かつて運営により画像が修正され、布面積が増えた。
それでもあの露出である。
・神器
全部で9つあるはずの道具。それぞれ9つの王家が受け継いだ。
その中の1つ『緋双剣』を正しく継承することで、ユエルがパワーアップする。
11話の火属性装備の主人公となら互角に戦えるほどに。