秩序の騎空団でグラブる 作:秩序派
エピソード1
「APが溢れる!」
意識が戻った俺の口から最初に出たのはその言葉だった。色々と手遅れかもしれない。ガンダルヴァに殴られた頭がズキズキと痛むので、それが原因だということにしておく。手で触れてみると、べっとりと血が付いていた。痛みに耐性が無いはずの俺がのたうちまわったりしないのも、やはりチートのおかげだろう。
激しい剣戟の音が聞こえたので姿勢を低くしつつ向かってみると、森を抜けたところでガンダルヴァが大暴れしていた。状況から推測すると、俺が殴られてからあまり時間は経っていないようだ。
「ヴァルフリートの野郎はまだ来ねえのか? 大事な娘がどうなっても知らねえぞ」
左腕でリーシャの首をホールドしながら、右手の刀で秩序の騎空団員を次々と倒している。
「こんなことしてタダで済むとぬわー」「船団長、おやめくださぬわー」「前から気に入らなかぬわー」「こんなの聞いてなぬわー」「ここは抜かせなぬわー」「我が剣技のぬわー」「ぬわー」「ぬわー」「ぬわー」「ぬわー」
「まったく、準備運動にもなりゃしねえ。そんなんでお前らの秩序は守れるのか?」
「秩序は……決して……負け……ない」
どうやらリーシャは無事のようだ。慌てて飛び出したい気持ちを抑えて、慎重に対抗策を考えることにする。無策で突っ込むなんて、ディスペル無しでシュバマグを自発するようなものだ。くっ、ここにシュバ剣が32本あれば余裕で耐久勝ちできるだろうに。そして今の俺が使えるアビリティは2つ、全体攻撃スロウとミストだけだ。魔物と戦闘したときにこっそり試してみたが、どうやら俺もエピソードクリアしないとアビリティを習得できないようだ。
打つ手が無いと途方に暮れる俺の目に、倒れている秩序の騎空団員達が映った。……『この手段』なら届くか? いや、迷っている余裕は無い。このままだとガンダルヴァが挑発のために人質リーシャの服を破ったりする可能性だってあるのだ。……………………ぐっ、俺は惑わされないぞ、なかなかやるなガンダルヴァ。幸いにして戦闘場所は少しずつ本部の方へ移行していて、今なら邪魔されずに実行できるだろう。俺は目の前の『それ』を手に取った。
エピソード2
5分ほどで準備を終えた俺は、ゆっくりガンダルヴァに近づいていく。まだリーシャの着衣が無事で複雑な気分だ。
「やっぱり来たか、次は本当に死ぬぜ」
「その台詞、そのまま返してやるよガンダルヴァ」
これが次期船団長になるラストチャンスだからな!
「それにしても『その格好』で本当にやるってのか?」
「ああ、気付いたんだ、これが俺の本来の強さだ、ってな」
倒れている団員の剣を借りて右手に持つ。霧をイメージしつつ左手を前に向ける。そのまま距離を詰めて、奴の間合いの1歩前で霧を噴射、直後に一気に切りかかった。ガンダルヴァは刀で俺の剣を弾くか、あるいは破壊かを狙っていたようだが、受け止めるのが精一杯のようだ。
「くっ……こ、こいつ!?」
さて、ここで今朝のことについて思い出してみよう。この世界に来たばかりの俺は武器を何も持っていなかった。解放十天衆といえば覚醒天星器を装備しているにも関わらず、だ。武器に依存しない強さに達しているのかと思ったが、それも違った。ならば、この世界がグラブルである以上、残された可能性は1つしかない。
今の俺の格好を説明すると、腰や肩に剣帯を9つ巻きつけ、そこにそれぞれアイスソード(ボーナスなし)を吊るした状態だ。右手のアイスソードと合わせて水の攻刃×10、前代未聞のアイスソード染め編成だ!
「くくく……ははははははっ! その出鱈目なのがお前本来の強さか!」
「生憎と、俺にはこれが普通だったんだよ!」
戦いは互角だった。さっきと違って、俺の攻撃を身体で受けるわけにはいかないからだ。これだけ有利な状態なのに互角にしか戦えないのが腹立たしい。だが、この膠着状態は戦術的に悪くない。ヴァルフリート団長が来たら一気に形勢が傾くからだ。
「こいつがいると動きづれえし、お前にくれてやるよ」
ガンダルヴァはリーシャを俺の方に投げつけてくる。一気に勝負を決めたいのなら、確かに一番有効な方法だ。左腕を使って彼女を受け止め、そのまま庇うように立ちはだかる。その頃にはガンダルヴァの「溜め」も終わっており、必殺の横一閃が放たれようとしていた。
全力で防ぐことは、おそらく可能だろう。だがその後はどうする? リーシャを狙って俺の動きを縛ったりはしないだろう。だが、認めたくは無いが動きやすくなったガンダルヴァに負けるのは時間の問題だ。そうなれば、やつは再びリーシャを人質にして好き放題するだろう。それだけはハーレム王として許すわけにはいかない。ならばいっそ相打ち覚悟でっ!
「くはっ、そうだ、そうこなくっちゃな!」
ブルブレイズバッター!
ワイドブレード!(アイスソードの奥義)
互いが互いへの決定打を放つ。言葉の上では引き分けだが、実際は耐久力の違いでそうはならない。こっちは行動不能にするのが精一杯だが、やつの攻撃は良くて致命傷だ。やはり少しは守護(スキル)が必要だったか。ここは秩序の騎空団の医療技術を信じつつ、モブプリーストの可愛さに期待しよう。
「これ以上はさせません!」
その時、ガンダルヴァの刀を遮るように後方から剣が振るわれ、それにより発生した風の盾で攻撃の威力は半減する。ナイスだリーシャ!
「ぐ……がふっ……」
俺の攻撃と、風の盾による迎撃によって大ダメージを受けて倒れるガンダルヴァ。ここでとどめを刺せば、俺が次の船団長だ。そう思って至近距離まで近付こうとするが、俺の方も半減したとはいえかなりのダメージを受けている。それに、なんだか頭がぼーっと……ああ……頭の傷か……血を流しすぎ……。
「勝利を信じて!」
よし、ちゃんと言えたぞ。
エピソード3
数時間後、秩序の騎空団の団長室に2人。
「取調べに対して、ガンダルヴァは次の3つを主張しました。
『今回のことは限りなく実戦に近い、抜き打ちの演習および入団試験だった』
『エルステ帝国から少将待遇で勧誘を受けている』
『あの小僧を入団させろ。小僧で好きに遊んでいいなら5~6年は大人しくしておいてやる』
そして『秩序道? そんなこと言ったか?』とも」
「脅し、だな。最近の帝国は軍備や支配圏を拡大している。行かせれば空域の秩序が大きく乱れるだろう」
「しかし、永遠に幽閉しておくわけにもいきません。今回の騒動で死者、重傷者は出ておらず『演習』を否定する証拠は出ていないので」
「ひとまずは過剰であったことを理由に『1年間の減俸と武器の封印』とする。後ほど私が直接会って話をつけよう」
「では、そのように致します。次に『彼』についてはいかがしましょう」
「こうなっては入団させるしかないな。ガンダルヴァへの抑止力になりうると、実証してみせたのだ。それに、もし帝国に所属するようなことになれば何をしでかすか見当もつかない」
「大事な理由を言い忘れていませんか?」
「……何のことだか分からないな」
「娘さんって少し融通が利かないところがあるみたいだから、彼の存在でいい方向に変わってくれれば、とか考えているのでしょう?」
「……」
「やっぱり騎士サマも人の親なのね。そんなに大切なら、もう少し優しくしてあげてもいいのに」
そう言い残して彼女は団長室を後にした。その手にリラを携えて。
エピソード4
ここがグラブルの世界か。いや、それはもうやった。はっきりとしつつある意識で記憶を辿る。確か2次試験の途中でガンダルヴァと戦って……。
「そうだ、入団試験!」
「とっくに最終学力試験まで終わりました。試験中に寝ているなんて、貴方は本当に不真面目ですね」
横からリーシャの返事があった。俺が寝ているベッドの隣に座って、心配そうな顔でこちらを見ている。その姿は完全にヒロインだった。まったく、誰だ可愛いモブ優等生扱いしたやつは。あと、真の仲間扱いしない運営を俺は決して許さない。
「そうか、終わったか……。色々あったけど、とりあえず合格おめでとう」
「!! 当然です。貴方みたいな無秩序者と違って主席合格ですから」
そう言って彼女は少し得意気な顔をする。主席合格には納得しかないので大して驚かない。
「それに、私が合格できたのは、あのとき貴方が助けてくれたからです」
「あのとき……ガンダルヴァ! やつはどうなったんだ?」
リーシャの説明を簡単にまとめると、あれは全団員と受験生へのドッキリだったようだ。いや、あれで追放されない理由が分からない。
「あの殺意でそれはありえないだろうが……一歩間違えば死んでいたぞ」
「そうですね……あの時は私も船団長への恐怖で何もできませんでした。私が人質だったから団員の皆さんも銃撃を躊躇してしまって。いくら主席合格でも、こんなんじゃ父さんに追い付けない……」
「それは違う。リーシャはずっと諦めなかったし、最後は俺のことを助けてくれた!」
「でも、それは……。教えてください、貴方はどうして船団長と戦えたんですか? 何を考えていたんですか?」
ここで、父は父、リーシャはリーシャ、って気付かせるように話を進めると好感度が上がるはずだ。つまり秩序とか中身の無さそうなものでなく、なんか等身大っぽい答えを返せばいいのか?
「そうだな……それ(船団長の地位)は俺のものだ殺してでも奪ってやる、って。これっぽっちも綺麗な理由じゃないだろ」
「えっ、えええええっ!! それ(人質のリーシャ)は俺のものだって、どういうことですか! 一体いつからそんな風に!」
うわっ、突然リーシャが立ち上がって、真っ赤な顔で怒り出した。当然だよな、原作では自分が船団長だったわけだし今のうちから目標にしてるんだろう。
「(集団面接のときにガンダルヴァと)初めて会ったときかな。もちろん今は(ガンダルヴァ殺せなかったし)無理だって分かってる。でも将来的には(リーシャよりも俺の方が船団長に)相応しい男になってみせるさ」
「初めて会ったとき(可愛いって言われた)!?……永遠に無理に決まってます! 相応しいなんてありえないです! 止めてください!」
とりあえず、いつものリーシャに戻ったみたいでなによりだ。彼女は真っ赤な顔のまま去っていこうとするが、出口のところで振り返る。
「同僚としてだけなら貴方のことは認めていますからっ。……ええと、助けに来てくれて、ありがとうございます」
つまりこういうことか。俺はハーレム王への道を一歩踏み出したのだ!
主人公「え、帝国? ペットとしてフェンリルちゃんを引き渡すのが最低条件だけど?」