秩序の騎空団でグラブる 作:秩序派
エピソード1
「ハーレムを作ろう!」
俺は自室で初心を再確認した。様々な不運が重なっただけだとは思うが、俺はまだ誰とも恋人以上にはなっていない。だが、今のうちからハーレムに備えておくのは間違っていないはずだ。そこで、前世の豊富な恋愛経験から、俺は現時点における最適な行動を導き出した。ハーレムルートに突入するためのフローチャートを書こう!
まずはハーレム要員その1の恋愛観の確認からだ。なお、その2以降とは出会えていない。
「リーシャ、大事な相談があるんだ」
「何ですか。またテロ行為を企んでいるのではないでしょうね」
「だからあれは誤解だって。実は、俺の友達の友達の話なんだが」
俺に友達がいないことを除けば完璧な偽装だ。
「どうやら、そいつの彼氏が浮気したみたいなんだ。それで、どうしたらいいのか悩んでるらしくて。俺は男だし、女の子の意見も聞きたいかなって」
「浮気ですか、有罪ですね。私なら秩序の何たるかを、その人の身に刻みつけます」
具体的に何をどうするのかとは聞かなかった。だが、それをされてしまったとき俺は俺でいられなくなるのだろうという確かな予感があった。
「だ、だよなー。とても参考になったよありがとう。友達にも言っておくよ」
「いえ、これぐらいでしたら」
あとは数日後に、浮気は誤解だったらしいと言っておけば問題は無いだろう。リーシャと別れた後、自室に帰った俺は真っ白なフローチャートにこう書いた。
『リーシャの攻略は後回し』
ハーレム王への道は順調に一歩前進した。……早くモニカが来ないかな。
エピソード2
入団から数ヵ月後。新人教育期間が終わって、俺たち新団員も通常任務に振り分けられるようになった。今回は、カジノ艇「ジュエルリゾート」の警衛任務だ。なんでもデュエル関係の事故で多くの欠員が出たらしく、補充までの1ヶ月に穴埋めが必要だとか。実際のところ俺たち外部の人間が担当するのは、外から来る魔物の退治だけなので何も難しいことはない。
俺は新装備のレージングを試しがてら、多くの魔物を一撃で倒していた。このレージングはアマルティアの武器屋に売っていた短剣で、素振りの結果SR武器っぽい武器スキルだと判明したので購入したのだ。いったい誰の加入武器なのか、今から楽しみで仕方ない。
そんなことを考えつつ雑に魔物を30体ほど倒したところで、今日のシフトは終了。他の団員たちが疲れた顔で居住区に向かうのを横目に、俺はホールへと向かった!
「えっ、リーシャもカジノに興味あるのか?」
「いえ、その……貴方が何かしないか心配で」
「心外だな、ここのカジノなんて慣れたものだ。……慣れたくなんて、なかった」
俺たちはホールに到着した。物珍しそうに周囲を眺めるリーシャを横目に、俺はホールを歩いていく。そして1つのテーブルの前で足を止めてしゃがむ……メダルを17枚ゲット!
「これじゃ心許ないな。次に行くか」
「ちょっ、ちょっと! 今ごく自然に拾得物横領しましたね!」
「落ち着くんだ、リーシャ。ここではこれがルールなんだ」
「ルール」
何故か一瞬で落ち着いた。少し怖い。
「信じられないなら従業員にでも聞いてみればいい」
「なるほど、ルールなのですね。それなら――」
「あっちでゴロツキも、酔っ払いも、ならず者だって拾ってるのが見えるだろう」
「やっぱり駄目です。私たちは秩序の騎空団員として、秩序と品格のある行動を心がけるべきであり、メダルを拾う行為は団員の心得に反します」
「そんな……」
「入り口のところでメダルを購入できるようです。さあ、行きましょう」
なるほど、長年カジノに通っていたが、そんなシステムがあったとは盲点だった。だが、俺にとってその選択肢は無いも同然なのだ。
「その、武器の新調で……お金、無くて」
「あっ……えっと……わ、私が出しますから」
そこには、ギャンブルのために少女の金を消費する、人でなしがいた。
絢爛豪華なカジノ艇ジュエルリゾート。そこに集う光が強いほど、闇もまた深くなる。
その後、メダルと交換した月光晶3つで、召喚石ホワイトラビットは上限解放された。
エピソード3
カジノ艇の次はショチトル島の警衛任務だ。巫女たちの巡業中は人手不足になりやすいとか。
最初にはっきりさせておくべきことがある。俺はジオラ派だ。こればかりは覆らない。もちろん全員派があるのなら迷わず選ぶのだが、誰か1人ならジオラを選ぶ。それが俺の意志であり選択だ。この表明で俺から離れていく人がいるかもしれないが、それは仕方ないことだ。誰かを選ぶということは選ばれない誰かもいるということだから。だが、それでも俺は自分を偽らず誇りとともに宣言したい。
「俺は、ジオラ派だ」
ジオラ派の理由? 大きいからだ。
「任務中です。真面目にやってください」
「はいはい」
そこまで大きくはないリーシャに注意されたので、魔物退治に専念する。どうせ余所見をしていても一撃で倒せるのだが。そういえばメイン召喚石であるホワイトラビットは、上限解放によって獲得経験値10%アップから15%アップへと強化された。たった5%の違いとはいえ積み重ねは大きいだろう。
(女に貢がせて増えた経験値は美味いぴょん?)
……たまに頭の中で響く声だけは気になるところだ。
さて、俺たちが担当するのは、今回も外から来る魔物の退治だけだ。しかも俺の担当区域は巫女たちの巡業ルートにかすりもしていない。その上、巫女の資料を見ることすら禁止されていた。この俺を要人警護にしないなんて、まったく上の連中は何を考えているのだろう。
だが今回の俺の目的には、むしろ都合のいい話だ。俺の目的は、あわよくばジオラと知り合って信頼度を少しでも上げることなのだから。そうやって毎年少しずつ信頼度を上げていけば、卒業と同時に俺のハーレムメンバーになるだろうという遠大な計画だ。手始めに今回は給料の大半を使って高級ピクルスを準備した。運悪くジオラと出会えなかったら、例によってリーシャにプレゼントすればいいしな。
そんなわけで宿泊している村の周辺を適当に歩いていると、1人の少女が目に留まった。年齢は10才に満たないぐらいだろうか、木の棒をマイクに見立てて巫女ごっこをしているようだ。髪の色が違うし、ぼーっとしてないからジオラではないな。久しぶりに聞くその歌が何だか懐かしくなって、その場に腰を下ろしピクルスを傍らに置いて、しばらく聞くことにした。
そして、すっかり油断していたのだろう。曲がサビに入って少ししたところで、いつものように合いの手を入れてしまったのだ。
「 」(「ふ」で始まって「ふ」で終わる7文字のやつだ)
歌詞の転載になってしまうから仕方なかったし、分かってくれると信じている。そして、少女は驚いてこっちを見ると、笑顔で駆け寄ってきた。
「お兄さん、島の外の人だよね? あたしの歌、聞いてくれたんだ。うっれしいなー」
「ああ、良かったよ」
「やったぁーっ! あたしね、巫女さまに選ばれるために、うーんと練習してるの。お兄さんも、この歌のこと知ってるんだよね? どうしたらもっと上手に歌えるかな?」
音楽のことはよく分からないし、技術的なことを聞かれても困るんだが……前にアニメで誰かが言ってたことを適当に答えておこう。
「歌を作った人のことを考えてみる……とか」
「作った人……わかんない。じゃ、あたしの事どう思う? 巫女さまに選ばれるぐらい、かぁ~いいかな?」
「それなりにいけるんじゃないか」
そう、答えるとき、何か取り返しのつかない間違いを犯してしまった気がした。例えるならプロバハのHPが30%の時点で攻撃ボタンを押そうとして、寸前に26%までぐっと減ってしまった時のような感覚だ。だが、急にクリックを中断できないように、俺の言葉も中断できなかった。そして、言うまでもなく訪れたのは破局だ。
「それなり、ってなに? 巫女さまに選ばれないかもしれないってこと? ねえ、ねえ、あたしってかぁ~いいよね。だって、みんなあたしの事かぁ~いいって言ってるよ。あたしが一番だもん。ぜーったい他の子よりかぁ~いいもん。あっ、もしかして、お兄さんって他の巫女さまのイクニアさんなのかな? あたしだって将来はその人よりかぁ~いいもん。それで、お兄さんにとってかぁ~いいのは誰かな? 教えてくれるよね。ね? ね?」
間違いない、この問い詰めはリナリアだ。というか髪の色も同じような気がするし、こんな子が2人も3人もいるわけがない。さて、どうしたものか……ここでジオラの名前を出すと彼女に迷惑をかけるかもしれない。けど、今の巫女の名前なんて知らないし、巫女……そうだ巫女と言えば!
「アニラかな。別の島で巫女をやってる」
アニラは大きいからだ。それに可愛くて強い3拍子揃った完璧なキャラだ。
「アニラ……アニラ……あたしも、アニラって、巫女さまみたいに、なるもん、ひっく、ひっく、ぐすん」
リナリアは、ついに泣きはじめてしまった。どうしよう、流石に『種族が違うから無理だよ』とは言えないし。アニラみたいになりたいってことなら……。
「ミ、ミルクとか飲んだらなれるかもしれないから」
そう言いつつリナリアをなだめていると、俺を探していたであろうリーシャが、限界を超えた速度でやってきた。
「事案ですか。こんな小さな子を泣かせるなんて」
「あ、あたし、ちゃんと、ミルク飲むから、うぅっ、ぐすっ」
「事案ですね。話は本部で聞きます」
そして俺はショチトル島から強制退去させられ、二度とその地を踏むことは許されなかった。
数分後、誰もいなくなったその場所に1人の少女が通りがかった。
「おなかすいた……あっ。……………………ピクルスおいしい」
エピソード4
そう、これはね未来話。
「今日から秩序の騎空団広報部でお世話になるリナリア、16才でーす! ここに来る前はショチトル島で巫女をやってました! 全空一かぁ~いい女の子になるのが夢です!」
入団式の日、全団員の前で挨拶したのは、あの時の少女だった。なるほど、リナリアはディアンサと別の道を進むことにしたのか。全空に名前を響かせるのに秩序の騎空団の組織力を利用するのはいい考えだな。
「あーっ、お兄さんだ! ねえねえ、あたしってかぁ~いいよね」
団員の中に知り合いでもいたのか、こっちの方を見て話しかけている。
「どうして答えてくれないのかな。もしかして、あたしのこと忘れちゃった? 8年前、あーんなに酷いこと言ったのに」
そう言いながらリナリアは駆け寄ってきて……俺の前で止まった。嘘だろおい。
「あたしね、あれから巫女に選ばれたんだよ。それで、2年間ずーっと1番人気だったんだから。他の巫女のイクニアさんも、あたしの事かぁ~いいって言ってくれたよ。それにショロトル様だって、あたしのこと一番かぁ~いいって言ってくれたもん(翻訳したのはジオラ)。それで、どうかな? ねえ、ねえ、ねえ!」
この状況では俺に選択肢なんて無かった。あと、ショロトル様が元気そうで良かった。
「か、可愛いよ」
「どれぐらい? アニラって巫女よりかぁ~いい?」
正直なところ、やっぱりアニラの方が好みなんだが。大きくて。
「ぜ、全空で一番だよ」
「……嘘。どうしてそんな嘘つくの? あっ、もしかしてあたしが傷つくと思って気を使ってくれたのかな。だったらちょっと嬉しいな。でも大丈夫、ちょっとはそうかもって思ってたから。だけど、これからは同じ団だもんね。あたしのかぁ~いいところ、いっぱい見てもらうんだ。そしたらお兄さんも、あたしのこと一番かぁ~いいって思うようになるよね。ね? ね? 実はあれから、歌を作った人のこと調べてみたの。それで、みんなでショロトル様の友達だよって歌ったら、すっごく盛り上がって……。だから偶然だと思うけど、お兄さんと会わなかったら一番になれなかったかもしれないんだよ。ねえ、今以上のあたしになるために、もっとお兄さんの意見を聞かせてよ。いいよね? いいよね? ん? ん?」
流石に『そういうところが怖い』とは言えないし……大きくて可愛くて強いアニラに勝つ方法か。まず大きさは無理だな。次に可愛さは比べられるものじゃないし、ここまでで1敗1分。つまり強さで勝つしかないってことだが、それも難しいだろう。アニラの性能は高いレベルでまとまっていて隙が無いし、回避もしない。個人的にはスロウの成功率が少し低いからLBで補強できれば良かったんだが。いや、問題はリナリアのことだ。水着ディアンサと似たような性能があれば、テンションがあるから超短期戦で勝てそうか……。
「たしか水着を持ってるよな?」
「えっ……お兄さんが求めてるのって、そういう……」
「いや、確かに水着姿を見たいか見たくないかって聞かれたら、もちろん見たいに決まってるけど大事なのはそこじゃないし。別にスキンは使ってもいいからさ」
「……」
「大事なのは水着じゃなくて、スキンを使っていい、って」「ああ、そういうことだよな」「あんな可愛い子になんて酷いことを」「リナリア派のイクニアだった者として許せねえ」「あいつ最低だな」「有罪だ」「有罪」「有罪」「有罪」「有罪」
何故か周りの目が物騒だ。ああ、リーシャ。お前なら分かってくれるよな。水着バージョンに通常バージョンのスキンを被せれば性能は変わらずに運用できるって。
「有罪です」
その日、彼はその短い生涯を終えた。完。
曲を作った人のことを考えて、それでショロトル様に認められて、他の島の巫女をも超えるという高い理想を掲げ、ミルクを飲んだ成果も少しは出た、パーフェクトリナリアとでも言うべき歴代最強巫女(ショロトルリッパー装備)。
祭司「ソロデビューしてみない?」
リナリア「いやアニラ超えに行くから」
読者の皆様にとっては些細な問題かもしれませんが、主人公は23才で死ぬと決まった上で、何事も無かったように現在の話は続きます。