秩序の騎空団でグラブる 作:秩序派
LECIA隊
Law Enforcement Cruise Independent Assault force
エピソード1
俺が秩序の騎空団に入団してから1年が経った。そして、駐在員としての活躍が認められたからか、俺は新設された『秩序執行巡空独立強襲隊』の隊長となった。上の連中も、ようやくこの俺の真価を理解したようだ。しかも船団長直属ということで、これは次期船団長に内定したと解釈してもいいだろう。色々とあったが、これで当初の予定通りだ。
「だから言ったろ、リーシャ。すぐに本部に戻ってくるつもりだって」
「まさか『適性の低さを主張する』なんてやり方で……」
「いやいや、単純に俺が優秀だからだ」
リーシャは同隊の副隊長ということで、俺に一歩差をつけられたからか負け惜しみを言ってくる。これぐらいは可愛いものだ。それよりも、これからはリーシャと一緒にいる時間が増えるのが嬉しい。さらに嘱託団員として女性キャラを何人か雇えば、それだけでハーレム状態だ。
「これから隊員との顔合わせです。せめて隊長らしい態度で臨んでください」
そういえば、部下に10人の男性隊員がいるという話だった。いずれは隊長権限で女の子と入れ替えていきたいものだ。
「隊長!」
おっと、少しばかり調子に乗っていたようだ。確かに隊員に侮られたりするのは良くないだろう。最初ぐらいは真面目にいこう。でも、リーシャの隊長呼びは可愛くて良かった。
そんなことを考えつつ隊室に入ると、そこには既に隊員達が整列して待っていた。秩序の騎空団員らしい誠実な雰囲気のモブ達だ。リーシャの指示で1人ずつ自己紹介しているが……別に名前とか覚えなくてもいいだろう。そういう細かいのは中間管理職リーシャに任せておけばいいのだ。
「次に、隊長から着任の挨拶をお願いします」
挨拶だと? そんな話は聞いてないぞ。『団サポ完備』とか『HLを活発にやっていきます』とか『本戦勝利が目標です』とか言えばいいのか……最後のは違うな。ここは様子見の待ちベレー戦法でいこう。
「いや、挨拶はリーシャからやってほしい」
「? 分かりました。……副隊長のリーシャです。秩序執行巡空独立強襲隊は新設ですが――」
よし、今のうちに何を言うか考えよう。とりあえず名前と得意属性あたりが無難なところか。いや、こういうのは最初が肝心だ。この超秩序的なリーシャの挨拶に負けないようなインパクトを出したい。今までに聞いた何か印象的な挨拶は……うーん……。
「――全空に鋼鉄の秩序を!」
考えがまとまってきたところでリーシャの挨拶が終わった。よし、次は俺の番だな。
「みんな、秩序してるー?」
「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」
盛大に外した。リーシャに目を逸らされた。今すぐ帰りたい。
エピソード2
一通り終わって、隊長および副隊長の退室後。
「俺たち本当にリーシャ様の部下になれたんだな……」
「ああ、最高だった」
「今日ほど秩序の騎空団に入って良かったと思ったことは無いぜ」
「でも、これからが本番だ。俺、ずっとリーシャ様と共に秩序の道を歩いていくんだ」
「先ほどの挨拶ですが、文字起こしが終わりました」
「相変わらず仕事が速いな……うん、特に誤字脱字も無いようだ」
「では早速『臨時号』の作製に取りかかります。本日中に本部の会員には配れるでしょう」
「特別会員殿へも届くよう手配を忘れるなよ。あの方もお喜びになるはずだ」
「もちろんです。いつもの会誌と同様に高速便を使いましょう」
「それがいい。下手をすると団長業すら放り出しかねないからな」
HAHAHA
「……それにしても、どうしてあんなやつが隊長なんだ」
「まったくだ。リーシャ様が部隊長で、あいつが攻撃隊長でも問題は無いだろうに」
「前の上司に聞いてみたところ、新設部隊だから何か問題が発生したときに備えてだとか」
「なるほど、あいつに責任を取らせるためってことか。船団長直属なのも、その辺が理由だな」
「だとしても、俺たちのやるべきことは変わらない」
「ああ、リーシャ副隊長の負担を軽減し、最高のパフォーマンスを発揮してもらう」
「そのために万事において全力で取り組む!」
「すべては――」
『リーシャ様と秩序のために!』
全員の声が揃った。なお、隊員は10人ともリーシャ非公式ファンクラブの会員である。
エピソード3
今日はいよいよ、待ちに待ったアビリティ習得の日だ。
「いや、違うだろ。これはデートなんだ」
「いいえ、違います。休日の自主パトロールです」
即座にリーシャから反論があるが、これは『か、勘違いしないでくださいね。ただのパトロールなんだからっ』というやつに違いない。前世で俺が攻略したキャラも、よくそんな感じのことを言いつつも別れ際にはキスしてきたりしたものだ。だが、リーシャはそこまでチョロくもないだろう。とりあえず今日の流れを想定しておく。
ゴロツキに絡まれて撃退→仲間を連れてきたゴロツキを再度撃退→アビリティ習得
だいたいこんなところか。何故これでアビリティ習得できるのかなんて疑問は、仲間400人分も習得させてきた俺には今更なことだ。
それはそれとして――
「この店のわらびもちがオススメです。自重で変形することを考慮して作られているので、こうしてお皿に乗せると秩序的立方体フォルムになるんですよ! 今日は……誤差1%未満なのでラッキーですね」
「お、おう」
「この剣帯はいかがですか。何故か剣を3つも装着できるようですし、着脱も簡単そうです」
「案外、三刀流の使い手が多いのかもな。とりあえず6個買おう」
――リーシャとのデートはかなり楽しかった。長年アマルティアで過ごしてきたからか、俺が知らない店や隠れた名店、秘密の秩序スポット(どうでもいい!)などをいくつも紹介してくれた。
「隊長は、どの服が似合うと思いますか?」
そして次は服選びイベントだ。
A:白いのがいい。やっぱり秩序の白だ
B:もちろん青だよ。碧の騎士の娘なんだから
C:そんなのより君の水着が見たいな
まず最初に除外するのはCだな。水着リーシャは通常リーシャより優秀だが、同じ風属性なので火属性が苦手という弱点も変わらない。様々な敵に対応するためには、やはり別属性の方がいい。服を変えたぐらいで属性が変わるのかという疑問も、やはり今更だ。
さて次は白か青か、すなわち光属性か水属性かという問題だ。実際のところ、リーシャがいきなり水流を出すのは難しいだろうが、閃光ぐらいなら何となく出せても不思議じゃない。ここは可能性の高いAを選んでおくぜ。
「白いのがいい。やっぱり秩序の白だ」
「そうですか。実は私もこっちがいいかもと思っていたんです。買ってくるので、少し待っててもらえますか」
「せっかく似合ってるんだし、今日はそれを着ててほしいな」
「まったく、仕方ないですね」
しぶしぶといった様子だが了承してくれた。この後のゴロツキとの戦闘で光属性攻撃してくれることを期待する。……いや、正直なところ初めてのリアルデートは、想像以上に俺の心に効いていた。さっきから性能重視の思考で自分を誤魔化そうとしているが、気を抜けばリーシャのこと以外は考えられなくなってしまいそうだ。くっ、まさかこんなことでハーレム王への道が阻まれようとするなんて。
湧き上がる気持ちを振り切るように、俺はリーシャを路地裏に連れ込んだ。
エピソード4
路地裏。暗くて狭いゴロツキの生息場所の一つ。俺はさり気ない演技でリーシャを奥へと誘う。
「あれれー、こっちの方から不審な声が聞こえたような、そうでもないようなー」
「まさか、なにか事件が……!」
「い、いや、その、見落としがあってもいけないし、注意深く進んでいこう」
慌てて駆け出そうとするリーシャを止めて、路地裏を慎重に進んでいく。さあ出ろ、ゴロツキ!
「オウオウ兄ちゃん。ずいぶんと可愛い彼女を連れてるじゃねえか」
「へっへっへっ」
「ひゃっひゃっひゃっ」
おなじみゴロツキたちの登場だ。戦闘に突入するためには、少し挑発した方がいいか?
「お前ら、いったいどういうつもりだ!」
腰の釘バット(武器種は剣)を右手に構える。さあ、かかって来い!
「ずいぶんと威勢が――」
「ちょっ、兄貴! 待って! 待って!」
ゴロツキたちは弟分?に引っ張られて、少し離れたところで話しはじめた。断片的に聞こえた単語は「秩序」「武器が」「頭おかしい」「独房」「バケモノ」などで、時々こちらの方を見ては何かを確かめているようだった。やがて、話がまとまったのか全員でやってくる。
「オウオウ兄ちゃん。ずいぶんと可愛い彼女を連れてるじゃねえか。せいぜい大事にしろよ」
「へっへっへっ。幸せにな」
「ひゃっひゃっひゃっ。グッドラック」
ゴロツキたちは笑顔で通り過ぎていった。
「……は?」
「ひぃっ!! おっと、こうしちゃいられねえ。そろそろ街の清掃ボランティアの時間だ。お前ら急ぐぞ!」
ゴロツキたちは何かに怯えるように去っていった。
「いったい、何だったんでしょうか」
「さあな」
とは答えたものの、俺には見当がついていた。その原因はリーシャだ。おそらく『あの女、秩序の騎空団員だ。使いこまれた武器が何よりの証拠。たぶん、頭おかしい秩序狂のリーシャだ。あの女に敵対したら全員独房送りにされちまう。父親は七曜の騎士ってバケモノだから、もうどうしようもねえ』などといった会話があったのだろう。……今日はアビリティ習得を諦めよう。
「そういえば、不審な声はあの清掃ボランティアの方々によるものだったのでしょうか」
「あっ、ああ、特に異常も無いみたいだし、きっとそうだろう」
俺たちは路地裏を抜けた。さて、お洒落なレストランでの夕食後に夜景を見ながら告白するか、それともこのままホテル街に向かうか。そんな手遅れ気味な迷いをぶち抜くような、衝撃の光景が突然に俺を襲った。目の前の雑貨屋のショーウィンドウの向こうにあるそれは、紛れもなく『グラーシーザー』だった。
「あの、グラーシーザーを、買いたい!」
店に駆け込んだ俺は、ショーウィンドウの方を指差しつつ店員に話しかけた。
「うわっ! ああ、あれだね。まさかこんなに早く売れるなんて。えーと、5万ルピだよ」
5万ルピ! なんて安いんだ。これなら20本買ったとしても、たったの100万ルピじゃないか! だが焦りは禁物だ。コンジャクションだって、敵が無属性攻撃してこないことを確認してから使用しないと、パーティが全滅してしまうのだから。
「一応、いくつか確認させてほしい。あれって正規品? レプリカでも中古でもない? 在庫はどれだけある?」
「ちゃんと組合の証明がある、正真正銘の新品だね。在庫は1つだけど、注文したら取り寄せられるはずだよ」
おお、闇属性の時代が来たようだ! グラシ染めさえできれば、しばらくは闇属性装備だけで全属性に対応できる。手始めに最終上限解放のためのトレジャー集めに動くとしよう。強化のための武器も大量に必要になるな。
「とりあえず店にあるのを買おう。……ほら、5万ルピだ」
「まいどあり!」
「よく分かりませんが、良かったですね、隊長」
「ああ、ありがとう」
そんなわけで、リーシャに祝福されつつ購入を終えたのだが……。
「それで、武器はどこにあるんだ?」
「えっ?」
「えっ、じゃないだろう。早く持ってきてもらわないと。後日郵送されるなら住所を書くし、シリアルコード入力が必要なら番号を教えてほしい」
もしシリアルコードの場合、1つまでしか入手できないのが非常に残念だ。
「あの……お客さんが購入したのは、その『抱き枕』だよね」
「ああ、この『グラーシーザー抱き枕』だ。正規品なら当然『グラーシーザー』が付くだろう?」
「いや、その……」
「隊長……」
2人とも俺の言ったことが理解できないような顔をしている。
「それは『抱き枕のみ』の販売となっているので……」
「なに? 抱き枕を買ったら武器が付くのではないのか!?」
「もう止めてください、隊長!」
「いいや、止められるものか。こんなふざけた商売を、俺は決して認めない。秩序の――」
騎空団員として。と言おうとしたところで、即座にリーシャに制圧された。くそっ、釘バットに手が届けば、こんな拘束なんて力ずくで抜けられるのに!
「お騒がせしました。この人は私が連行するので、もう大丈夫です」
「モガモガ」
……床とのキスは木の味がした。あと、リーシャの攻撃は風属性のままだった。
その後、セット販売を『故郷の風習』だと説明して、どうにか情状酌量を認めてもらった。
「『抱き枕』代の5万ルピは隊の必要経費にならないかな?」
「無理に決まってます」
隊長になってからの初成果:ゴロツキ数名の更生(記録に残らず)
隊長になってからの初問題:ゴロツキの如き業務妨害(記録に残らず)
グラブル脳でない読者様のための、作者による雑な用語解説
・待ちベレー戦法
複数人でのバトルで、他の人に攻撃させて『ブレイク状態』となった敵に、
ベレーを被った自分が大ダメージを与えてMVP報酬を得る戦法。マナーは良くない。
・わらびもち
詳細は「ぐらぶるっ!第599話」で検索。
リーシャが可愛い。
・グラーシーザー
闇属性の主力SSR武器。略してグラシ。上位者は基本的に複数本装備している。
無料で入手するのは大変なので、何度か3000円を払って購入する人が多い。
・コンジャクション
グラーシーザーの威力を最大限に高めるアビリティ。
無属性ダメージに弱い。
・グラーシーザー抱き枕
グラブル運営による狂気の産物。
8000円で購入すると、グラーシーザーが無料で入手できる。