俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:kohet(旧名コヘヘ)
完全に覚醒した『化け物』はその日『英雄』となった。
リ・エスティーゼ王国のヴァランシア宮殿における宮廷会議。
今回の会議ではこれまでにない程の人数が集まっている。
まず、玉座に座るランポッサ三世。
その王の近くで不動の姿勢を保ち控える王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。
王家からは王の三人の子達。
第一王子バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ。
戦士としての力は多少あるが、優れた王子とはいえない。
先日、妹のラナーに
「八本指の違法娼館で腰振るために体力つけたのですね。
だから、クライムより弱いのですね」
と煽られて、憤死しかけたという話が宮廷内でもっぱらの噂だ。
当然その噂のせいで民衆から嫌われている。
第二皇子ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ。
小太りで顔には弛んだ肉が付いている。
先日、妹ラナーに
「屋敷に籠って肥え太るだけなら、早く表に出てはいかがでしょうか」
と散々煽られたせいで、人が変わったかのように政務に励み、力をつけている王子だ。
民衆からは哀れみと同情の声があり、人気が急上昇しているが本人は全く喜んでいない。
王子としての威厳がなくなりつつあり、兄と共に被害者である。
第三王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。
黄金の姫。温厚で慈悲深い性格。
国民に則した政策・法律を立案するため、見識のある者や恩恵を受けた者からの評価・人気は高い姫だった。
だった、というのはある日から突然、会う人皆を煽って怒らせた挙句に破滅させるようになったからだ。
暗殺の魔の手を送った貴族を即座に粛清し出すなど、
温厚で慈悲深い姫はどこへ行ったのかと護衛の兵士クライムが嘆く日々が続いている。
いくら美しくても流石に妻としたくないと行き遅れになることが確定しつつある。
これまでとは打って変わったように根回しまで優秀になり、
『化け物』呼ばわりされているが本人は素知らぬ顔で今日も会う人全てを罵倒する。
この宮廷会議では六大貴族を含む多くの貴族が集まっていた。
六大貴族はそれぞれ財や軍事力等で王を上回る程であり、
本来なら王の招集にすら欠席するようなありさまだった。
特に反王派閥、貴族派閥のボウロロープ候は王の軽視を隠しもせずに、
軍事力を日々高めている。
王派閥を反王派閥が妨害工作などで足を引っ張り合う。
そんな日々で、六大貴族全てが揃うことは珍しかった。
否、今回の件で集まらないのは問題があると他のライバルに攻撃されかねない案件だったからだ。
法国・評議国連名で、王国・帝国に対してカッツェ平原及びトブの大森林一帯を『魔王』に明け渡すように宣言文が来たからだ。
宣言文の内容を要約すると以下のようになる。
「『魔王』アインズ・ウール・ゴウンは、
かつてこの世全ての財を手に入れた神の王である。
その一部を不法に占拠している王国とそれを狙う帝国は『世界』の敵である。
故に、要求を飲まねば両国はその全てを明け渡さなければならない」
気が狂っているとしか思えない宣戦布告。
誰もが罵声を浴びせる。ふざけるなと。
言葉にならない罵詈雑言が飛び交う。
そんな中で、ボウロロープ候は満を持して発言した。
「念のために王国の歴史を紐解いて調べさせたが、
『魔王』アインズ・ウール・ゴウンなるものの記述は一切なかった。
ただの脅し、いやそれ以下かだ」
滑稽な話であると失笑を隠さない。
だが、
「ボウロロープ候」
例の『化け物』が発言順番等無視して声を上げる。
つい先日までは小娘扱いだったが、
何か反論すると本気で危ないことを、王国全ての者が理解しているので黙る。
「な、なんですかな?ラナー王女殿下」
力で国を飲み込もうとするボウロロープ候ですら、声が震える。
本当に『化け物』なのだ。規格外。
言葉に表せない程の『何か』がこの王女にはある。
「私は即座に宣言文通りに土地を明け渡さなければ国が亡ぶと思います。
現に帝国はこれを認めました。
しかも、互いに忌み嫌い合っていたはずの法国と評議国が連名で布告を出しています。
王国が建国される以前の国々です。本当であってもおかしくありません」
『化け物』が言う。戯言でも不条理でも飲み込めと。
だが、王国貴族としての誇りが、戯言を許さない。
「我々はこの国を二百年守って来ました。そんな戯言が通るはずが…」
気づく。体が、口が動かない。目は見開かれたままの状態だ。
「こんにちは。二百年間、我が『財』を汚し続けた権力者達」
コツコツと何かが歩く音が聞こえる。
それを止めるはずの兵士は固まったまま動けない。
玉座の近くに黒曜石で出来た壮麗な椅子が出現する。
『王』の風格が滲み出る『存在』がそこに座る。
金色の剣を持ったその姿は『覇王』そのもの。
座り方は上に立つものとしてあり続けたからできるであろう優雅な座り方だった。
「初めまして。私は『魔王』アインズ・ウール・ゴウン。
この『世界』でも『御伽噺』として知っている者もいるだろう。
かつて九つの世界を救おうとして夢破れた王である」
淡々としかし堂々とそう告げる『覇者』の風格。
動けないのに跪きかねない。そう思わせる覇気。
これがあの『御伽噺』の『魔王』だとでも言うのか?
ボウロロープ候は、力あるものとして目の前の存在を本能で受け入れざるを負えなかった。
「では、動けるようにしてやろう。異論反論があれば是非言ってくれて構わない。
なんなら君たちの持つ城を更地にしてもよい。もちろん死者は出さずにな」
そう言って笑う『魔王』。
体が動けるようになっても『覇者』のオーラをまともに受けて誰も動くことなどできない。
反論だって無理だ。誰もがそう思う。
ランポッサ王すら話せない。
王の身をせめて守ろうと、ガゼフ・ストロノーフは無理にでも前に出ようとする。
死を覚悟して。
だが、
「まぁ、『魔王』ですか、
『世界』を救おうとしてできなかった『負け犬』がなんのようですか?」
『化け物』が煽る。その場の誰もが呆然とする。
死ぬ気なのか正気なのか誰にもわからない。
「ほう…興味深いな。
我が前をしてそのような言葉を吐くなぞこの『世界』でもいるとは思わなかった」
『魔王』の興味を引いた。
これはもしかするといけるかも知れない。
ボウロロープ候はそう思った。
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結論として、
カッツェ平原の村々及びトブの大森林一帯を『魔王』に明け渡すことになった。
『化け物』は煽り、『魔王』は素知らぬ顔で流す。
一秒一秒が生きた心地がしなかったが、王国は守られた。
それどころか、『魔王』は『化け物』を気に入り、『財』を分け与えた。
『化け物』は、『魔王』が持っていた金色の剣を渡された。
戦士でない者ですらわかる輝かしい剣。
誰の目からも明らかに国一つと同等以上の奇跡の剣だ。
『化け物』は『英雄』になった。
その場にいる貴族全てが断言する。
ラナー王女がいなければ、国が亡んでいたと。
そんな『英雄』は父ランポッサ王に目を向ける。
「お父様。いや、陛下」
無邪気に笑うその美しさに誰もが魅了される。
だが、次の言葉は、
「嫁ぎ先が決まったようです!楽しい『玩具』ですわ」
最悪極まりないことを言うラナー王女。
やっぱり『化け物』だったと誰もが放心した。
????「聞いてないぞ!こっち来るな!」