夜空に月が上がり、地面に4つの影が照らされる。
「月見酒とは、風流ね」
「そう?私は、そんなの気にしないけど」
「あははっ、華琳さんも雪蓮さんもあまり飲みすぎないようにね」
そう、この3人は三国のトップ
蜀の劉備
呉の孫策
魏の曹操だった。
「あなた達には、わからないでしょうね。ねえ、一刀?」
「ぶぅ~、ひっど~い一刀慰めてぇ♪」
「ああっ!雪蓮さんずるい!!ご主人様!私も!!」
呼ばれている男こそ、天下三分の計の立役者であり、三国の象徴でもある北郷一刀だった。
だが、今日の一刀は少し違っていた。
いつもの彼ならば、笑顔で場を鎮めようとするのだが、今日の彼は何もせず、ずっと月を
見上げていた。
すると、一刀がおもむろに口を開き3人に聞こえる程度の音声でぽつりと言葉を零す。
「・・・俺はさぁ、正義の味方になりたかったんだ。
誰も死なず、誰もが笑っていられる世界があればいいのに
って、そう子供の頃に思ってたんだ。」
一刀は3人に顔を向け笑顔で話を続けた。
「へぇー、りっぱな夢だね!ご主人様!」
劉備が一刀の夢に賛同したが曹操と孫策は、きっぱりとその夢を否定した。
「無理ね」
「ええ、そうね」
「誰も死なない世の中なんてないのよ、一刀。
10人を助けるためには1人を犠牲にしなければならない。
誰かが、殺し、誰かが、殺される。
戦とはそういうものよ。
あなたも、この乱世を歩んで来たのでしょう?
それが、どれほど難しいことかは分かっているはずよ」
曹操が一刀と劉備に言い聞かせるように話す。
無理もない、劉備が乱世に名乗りを上げた理由は笑顔がずっと絶えない国を目指したからだ。
だが、その道のりは厳しく不可能と知った。
戦があれば人が死ぬ。
かといって、戦をしなければ乱世を生き抜くこともできない。
劉備は乱世で現実と理想の限界を知ったのだ。
しかし、彼女は諦めなかった。
不可能ともいえる理想を叶えようと乱世を生き抜いたのだ。
何故、劉備が夢を諦めなかったといえば彼女には家族とも言っていい仲間が側にいた。
仲間のため、これからの世の中のため彼女は、理想を追い求めそして多くの犠牲を払い理想を叶えたのだ。
「えぇ~?そうかな~、私はいい夢だと思うけどなぁ」
・・・・・まあ、あの頃から少しも変わってないのはいささかどうかとも思うのだが。
「一刀、戦場で一番血を浴びるのは、武将でも軍師でもないのよ。
一番血を浴びているのは、皆に命令を下している王自身よ」
孫策も曹操に続き一刀に言葉を被せる。
一刀はわかっているよと喋りながら首を縦に振る。
「そんなことは、わかってるさ。
この世界に来て、初めて人が死ぬのを見た。
俺の居た世界と全てが違ったんだ。
弱いものが死に、強いものが正義そんな世界。
最初は逃げたかった。怖くて仕方なかったから。
だけど、俺にも守りたいものができたんだよ。」
そう言い、一刀は、彼女たちに顔を向け、頬を掻きながら照れくさそうに言葉を続けた。
「子供の頃に、好きな子ができてさ、その子が強い人が好きだって言うから
俺は、じっちゃんに剣道をならったんだんだ、不純な動機だけどね。
剣道を習って誰にも負けないぐらい強くなってさ天狗になってたんだと思う。
けど、この世界に来てその鼻をボッキリと折られたんだけどね。
なさけないよな、好きな女の子も守れないなんてさ。」
すると、3人は一刀に抱きつき溜息を吐きながら言葉を淡々と告げる。
「なに、言ってるの。あなたはちゃんと私達を守っているわ」
「ええ、そうよ一刀。今あなたがここにいる。
それが、私達の幸せなの」
「ご主人様が今も、そしてこれからも私達を愛してくれる。ご主人様の隣に居続ける、それが私達の心からの願いなんだよ。」
曹操、孫策、劉備の順に一刀に声をかけた。
その言葉には、嘘偽りもない紛れもない本心からの言葉だった。
「「「だから、これからも私達を隣で一生守ってね。一刀(一刀♪)(ご主人様)」」」
そのことをわかったのだろう、一刀の目頭にうっすら涙が溢れた。
ああ、この世界にこれてよかった。
みんなに出会えてよかった。
みんなを愛せてよかった。
だからこそ一刀は決心する。
今度は、天の御遣いなどという名だけではなく
自分自身が正真正銘の『英雄』になろうと決心した。
みんなを愛し、みんなを守れる。
そんな英雄になりたいと願ったんだ。
「・・・ああ、安心した。
ありがとう。華琳、雪蓮。桃香」
一刀は、涙を頬に零しながらも彼女等の背に腕を回し抱きしめる。
そうさ、俺は、英雄になる。
すべてを守り抜けるような――――――
そんな、英雄に―――――