ネコ艦!   作:梶田リク

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第十一話 戦艦レ級と島風

 どこかの国、どこかの海。

 空は赤く染まり、周りでは激しい炎をあげながら多くの艦船が燃えている。

 

 そんな戦場で一人立ち尽くす艦娘。

 身体中に深い傷を負った彼女の目の前には、ある少女がいた。

 

 首に縞模様のストールを巻き、黒いフードを被った白髪の少女。子供のような容姿をしていながら、強烈な威圧感を感じさせる。

 

「仲間達の仇……!」

 

 そんなフードの少女に向かい、艦娘は矢を射つ。

 しかし少女はその矢を片手で受け止めた。

 

「っ!? そんな……!」

 

 会心の一撃のつもりだったのだろう。それをいとも簡単に受け止められ、艦娘はショックを受ける。

 一方少女は、どこから矢が飛んできたのかキョロキョロと辺りを見回している。やがて艦娘の姿を発見すると、ニヤリと笑った。

 

「……何? オ姉サン遊ンデクレルノ?」

「ひっ!?」

 

 身の危険を感じた艦娘はその場から立ち去ろうと後退する。だが、少女は目にも見えない速さで彼女に追いついた。

 

 さらに少女の身体から蛇のような怪物が現れ、鋭い牙で艦娘の身体を食いちぎっていく。必死に抵抗する艦娘だったが程なくして動かなくなった。

 

「アーア。マタ壊レチャッタ」

 

 艦娘の亡骸を見つめながら、つまらなさそうに呟く少女。

 

「ドコカニ私ヲ満足サセテクレル遊ビ相手ハイナイカナ」

 

 そう言いながら少女はトボトボと水面下に消えていった……。

 

 

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「うわ~、おっかねー」

 

 鎮守府の執務室で新聞を読んでいた司令官がそう漏らした。

 

「どうしたんですか、司令官?」

「いやな? この記事によると……」

 

 その記事にはこう書き記されていた。

近頃、パトロール中の艦隊が突然何者かに襲撃され、壊滅状態に陥るという事件が多発しているという。被害状況と目撃者の証言から、新種の深海棲艦の仕業ではないかといわれているらしい。

 

「恐ろしい話ですね……」

「全くだよ。ヲ級も片付いてないっていうのに……」

 

 司令官は腕を組んで唸っている。

 先日の護衛任務。空母ヲ級の襲撃を受け、船の乗客乗員は無事だったものの、船の沈没など甚大な被害を出した。

 何より人を襲う深海棲艦の恐ろしさを改めて実感した任務だった。

 

「大体これコメディなのに、あんなガチで来られても困るんだよなぁ……」

「そういう問題!?」

 

 なんか聞いちゃダメなこと聞いたような気がする!

 

「と、とにかく私たちも気を付けないといけませんね!」

「だな。……そういや島風達はどうした?」

「外で鬼ごっこして遊んでます」

「のんきな奴……」

 

 相変わらずマイペースな娘達だ。ただ、この時ばかりはその鈍感さが少し羨ましかった。

 

 

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「おっおっお~っ! おっそーい!」

 

 晴れ渡る青空の下、鎮守府に併設されたグラウンドで元気に走り回る島風。

 その後ろでよろめきながら望月が必死に追いかける。

 

「……ちょっ……、ちょっと、待てよ……」

「やだー! 今望月っちが鬼でしょ? 早く私を捕まえてごらーん!」

 

 あははは~と笑いながら島風はさらにスピードを上げて走り去る。

 

「勘弁してくれよ……。なんでこんな残暑厳しい中走らされないといけないんだよ……。おおきたコンビも摩耶姐さんもパトロールでいないし……。あたし一人であんなガチ勢捕まえられるわけねえって……」

 

 グチグチとぼやく望月。

 

「……はあ……、はあ……、もう嫌! あたしもう帰るからね! 逃走中なんかテレビで見てる方がマシだし!」

 

 そう匙を投げて、望月は寮に帰って行ってしまった。

 

 既に島風の影は遥か遠くの方へと消えていた。

 

 

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「あれ?」

 

 島風が追いかけてくるハンターの不在に気づいたのは、それから暫く経った頃だった

「もー遅すぎ~。これじゃあ勝負になんないよ! つまんな~い」

 ほっぺたを膨らませて不満を漏らす。

 

「……てか、ここドコ?」

 

 いつの間にか鎮守府を出て、町の港に来てしまっていたようだ。

 今日は休みなのか、近くに人の姿はない。

 

 

 ……いや。一人だけいる。

 黒いフードを被った見知らぬ少女が、港のほとりにポツンと一人で立っている。

 

「ねえ! 何してんのー?」

「……」

 

 返答はない。こちらに気づいていないのだろうか。

 島風は彼女の近くまで寄って声を掛けた。

 

「おーい!」

「ウワッ!?」

「あはは! ビックリしたー?」

 

 何だこいつ。

 少女の島風に対する第一印象はそんな感じだった。

 

「こんな所で何やってんの?」

「別ニ……」

「そんな沢尻エリカみたいな返しされてもわかんないよ!?」

「別ニ。暇ダッタカラココニ立ッテイタダケ……」

「ふーん。そうなんだー」

「ソウイウオ前コソ、ココデ何シテル?」

「え、私? うふふー♪ 私はねー?」

 

 なんでそんなに嬉しそうなんだ? 少女は少し困惑した。

 

「鬼ごっこしてたらこんなとこまで来ちゃってさー。いやはや困っちゃったよー! あははー!」

 

 困っているようには見えないが……。

 と、ここで少女に一つ気になる事ができた。

 

「『オニゴッコ』……? 『オニゴッコ』トハ何ダ?」

「え!? 鬼ごっこ知らないの!? あなたそれ人生半分損してるよ!?」

「何……ダト……」 

 人生でそんなに損することがあるのか? 少女は激しいショックを受けた。

 

「……よ~し決めた! それじゃあ私が直接、鬼ごっことは何たるかを教えよー!」

「タ、頼ム!」

「まずじゃんけんをして、鬼と逃げる人を決めるんだよ」

「……『ジャンケン』トハ何ダ?」

「そこからか……」

 

 島風はじゃんけんのルールを少女に教え、実際に勝負した。結果は島風がチョキで、少女がグーだった。

 

「あー負けちゃった! じゃああなたが鬼ね! 私が逃げるから、十秒経ったら捕まえにきて!」

 

 それだけ伝えると、島風は一目散に逃げだした。相変わらず風のような速さだ。

 

「……捕マエル……」

 

 少女はしばらくその場に留まっていたが、十秒経つと嵐のような速さで島風の元まで追いつき、そのままタッチした。

 

「おうっ!?」

 

 予想外の事に島風は驚愕した。これまで自分のスピードについてこれる相手など、ほぼいなかったからだ。

 そのことが逆に嬉しかった。想像以上の相手に、胸の高鳴りが止まらない。

 

「あなたって速いのね! よ~し今度は私が鬼だよ! 絶対に捕まえてやる~っ!」

「フッ……、望ムトコロダ!」

 

 二人はそれから夢中になって港を駆け回った。

 

 

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 数時間後。港のほとり。

 空は赤く染まり、水平線の向こうで夕日が燃えている。

 二人は大の字になって、寝そべっていた。

 

「オ互イ十勝十敗カ……。勝負ハ引キ分ケダナ」

「だね。ハア……、でも、すっごい楽しかった!」

「『タノシイ』……?」

「それも知らないの? 『楽しい』っていうのはね、ドキドキで胸がいっぱいになることだよ! あなたはドキドキした?」

「……分カラナイ。ケド、多分ドキドキシタ……ト思ウ」

「それならよかった!」

 

 島風は少女に向かって、手を差し伸べる。

 

「ね、またやろうよ!」

「……アア!」

 

 二人は固い握手を交わした。

 

「えへへ……、でもさすがにちょっと疲れたかも……」

 

 

 

「……あれ? ここは?」

 

 目を覚ますと、島風は自分の部屋のベッドにいた。

 

「おっ、気が付いたか」

「提督」

 

 周りではネコ提督と、艦隊の仲間たちが心配そうに見つめていた。

 

「港で倒れてるのを摩耶達が見つけて、ここまで運んでくれたんだ。幸い怪我はないようだけど……お前、あんな所で何やってたんだよ?」

「えっとね。フード被った女の子と一緒に鬼ごっこしてたの!」

 

 島風が今日の出来事を皆に話すが、摩耶達はきょとんとした表情をするばかり。

 

「でも、あそこで倒れてたのは島風だけだったぞ?」

「人の気配もなかったし……、夢でも見てたんじゃないの?」

「えー? そうかなぁ……?」

 

 島風は自分の胸に手を当てた。まだ心臓がドキドキしてる。

 きっとあの子に会った事は夢じゃないのだ、と島風は思った。

 

 

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 深い深い海の底。

 岩陰でフードの少女が、ボーっと今日会った出来事を思い出していた。

 

 仲間が気に入ってるという艦隊の所へ行ったら、ウサギみたいな少女に出会って。そこから二人で『鬼ごっこ』なる遊びをして……。

 

「『ドキドキ』、カ」

 

 自分の胸に手を当てる。鼓動は感じない。

 が、それ以上にかなりの満足感があった。

 

 自然と笑みがこぼれる。

 

「フフフッ……。アー、楽シカッタ!」

 

 戦艦の力を宿した深海棲艦、『レ級』。

 彼女はその時、初めて心の底から笑った。




台風21号及び北海道東部地震において、被害に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます。
一日でも早く元の生活に戻れるよう、お祈りいたします。
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