どこかの国、どこかの海。
空は赤く染まり、周りでは激しい炎をあげながら多くの艦船が燃えている。
そんな戦場で一人立ち尽くす艦娘。
身体中に深い傷を負った彼女の目の前には、ある少女がいた。
首に縞模様のストールを巻き、黒いフードを被った白髪の少女。子供のような容姿をしていながら、強烈な威圧感を感じさせる。
「仲間達の仇……!」
そんなフードの少女に向かい、艦娘は矢を射つ。
しかし少女はその矢を片手で受け止めた。
「っ!? そんな……!」
会心の一撃のつもりだったのだろう。それをいとも簡単に受け止められ、艦娘はショックを受ける。
一方少女は、どこから矢が飛んできたのかキョロキョロと辺りを見回している。やがて艦娘の姿を発見すると、ニヤリと笑った。
「……何? オ姉サン遊ンデクレルノ?」
「ひっ!?」
身の危険を感じた艦娘はその場から立ち去ろうと後退する。だが、少女は目にも見えない速さで彼女に追いついた。
さらに少女の身体から蛇のような怪物が現れ、鋭い牙で艦娘の身体を食いちぎっていく。必死に抵抗する艦娘だったが程なくして動かなくなった。
「アーア。マタ壊レチャッタ」
艦娘の亡骸を見つめながら、つまらなさそうに呟く少女。
「ドコカニ私ヲ満足サセテクレル遊ビ相手ハイナイカナ」
そう言いながら少女はトボトボと水面下に消えていった……。
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「うわ~、おっかねー」
鎮守府の執務室で新聞を読んでいた司令官がそう漏らした。
「どうしたんですか、司令官?」
「いやな? この記事によると……」
その記事にはこう書き記されていた。
近頃、パトロール中の艦隊が突然何者かに襲撃され、壊滅状態に陥るという事件が多発しているという。被害状況と目撃者の証言から、新種の深海棲艦の仕業ではないかといわれているらしい。
「恐ろしい話ですね……」
「全くだよ。ヲ級も片付いてないっていうのに……」
司令官は腕を組んで唸っている。
先日の護衛任務。空母ヲ級の襲撃を受け、船の乗客乗員は無事だったものの、船の沈没など甚大な被害を出した。
何より人を襲う深海棲艦の恐ろしさを改めて実感した任務だった。
「大体これコメディなのに、あんなガチで来られても困るんだよなぁ……」
「そういう問題!?」
なんか聞いちゃダメなこと聞いたような気がする!
「と、とにかく私たちも気を付けないといけませんね!」
「だな。……そういや島風達はどうした?」
「外で鬼ごっこして遊んでます」
「のんきな奴……」
相変わらずマイペースな娘達だ。ただ、この時ばかりはその鈍感さが少し羨ましかった。
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「おっおっお~っ! おっそーい!」
晴れ渡る青空の下、鎮守府に併設されたグラウンドで元気に走り回る島風。
その後ろでよろめきながら望月が必死に追いかける。
「……ちょっ……、ちょっと、待てよ……」
「やだー! 今望月っちが鬼でしょ? 早く私を捕まえてごらーん!」
あははは~と笑いながら島風はさらにスピードを上げて走り去る。
「勘弁してくれよ……。なんでこんな残暑厳しい中走らされないといけないんだよ……。おおきたコンビも摩耶姐さんもパトロールでいないし……。あたし一人であんなガチ勢捕まえられるわけねえって……」
グチグチとぼやく望月。
「……はあ……、はあ……、もう嫌! あたしもう帰るからね! 逃走中なんかテレビで見てる方がマシだし!」
そう匙を投げて、望月は寮に帰って行ってしまった。
既に島風の影は遥か遠くの方へと消えていた。
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「あれ?」
島風が追いかけてくるハンターの不在に気づいたのは、それから暫く経った頃だった
。
「もー遅すぎ~。これじゃあ勝負になんないよ! つまんな~い」
ほっぺたを膨らませて不満を漏らす。
「……てか、ここドコ?」
いつの間にか鎮守府を出て、町の港に来てしまっていたようだ。
今日は休みなのか、近くに人の姿はない。
……いや。一人だけいる。
黒いフードを被った見知らぬ少女が、港のほとりにポツンと一人で立っている。
「ねえ! 何してんのー?」
「……」
返答はない。こちらに気づいていないのだろうか。
島風は彼女の近くまで寄って声を掛けた。
「おーい!」
「ウワッ!?」
「あはは! ビックリしたー?」
何だこいつ。
少女の島風に対する第一印象はそんな感じだった。
「こんな所で何やってんの?」
「別ニ……」
「そんな沢尻エリカみたいな返しされてもわかんないよ!?」
「別ニ。暇ダッタカラココニ立ッテイタダケ……」
「ふーん。そうなんだー」
「ソウイウオ前コソ、ココデ何シテル?」
「え、私? うふふー♪ 私はねー?」
なんでそんなに嬉しそうなんだ? 少女は少し困惑した。
「鬼ごっこしてたらこんなとこまで来ちゃってさー。いやはや困っちゃったよー! あははー!」
困っているようには見えないが……。
と、ここで少女に一つ気になる事ができた。
「『オニゴッコ』……? 『オニゴッコ』トハ何ダ?」
「え!? 鬼ごっこ知らないの!? あなたそれ人生半分損してるよ!?」
「何……ダト……」
人生でそんなに損することがあるのか? 少女は激しいショックを受けた。
「……よ~し決めた! それじゃあ私が直接、鬼ごっことは何たるかを教えよー!」
「タ、頼ム!」
「まずじゃんけんをして、鬼と逃げる人を決めるんだよ」
「……『ジャンケン』トハ何ダ?」
「そこからか……」
島風はじゃんけんのルールを少女に教え、実際に勝負した。結果は島風がチョキで、少女がグーだった。
「あー負けちゃった! じゃああなたが鬼ね! 私が逃げるから、十秒経ったら捕まえにきて!」
それだけ伝えると、島風は一目散に逃げだした。相変わらず風のような速さだ。
「……捕マエル……」
少女はしばらくその場に留まっていたが、十秒経つと嵐のような速さで島風の元まで追いつき、そのままタッチした。
「おうっ!?」
予想外の事に島風は驚愕した。これまで自分のスピードについてこれる相手など、ほぼいなかったからだ。
そのことが逆に嬉しかった。想像以上の相手に、胸の高鳴りが止まらない。
「あなたって速いのね! よ~し今度は私が鬼だよ! 絶対に捕まえてやる~っ!」
「フッ……、望ムトコロダ!」
二人はそれから夢中になって港を駆け回った。
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数時間後。港のほとり。
空は赤く染まり、水平線の向こうで夕日が燃えている。
二人は大の字になって、寝そべっていた。
「オ互イ十勝十敗カ……。勝負ハ引キ分ケダナ」
「だね。ハア……、でも、すっごい楽しかった!」
「『タノシイ』……?」
「それも知らないの? 『楽しい』っていうのはね、ドキドキで胸がいっぱいになることだよ! あなたはドキドキした?」
「……分カラナイ。ケド、多分ドキドキシタ……ト思ウ」
「それならよかった!」
島風は少女に向かって、手を差し伸べる。
「ね、またやろうよ!」
「……アア!」
二人は固い握手を交わした。
「えへへ……、でもさすがにちょっと疲れたかも……」
「……あれ? ここは?」
目を覚ますと、島風は自分の部屋のベッドにいた。
「おっ、気が付いたか」
「提督」
周りではネコ提督と、艦隊の仲間たちが心配そうに見つめていた。
「港で倒れてるのを摩耶達が見つけて、ここまで運んでくれたんだ。幸い怪我はないようだけど……お前、あんな所で何やってたんだよ?」
「えっとね。フード被った女の子と一緒に鬼ごっこしてたの!」
島風が今日の出来事を皆に話すが、摩耶達はきょとんとした表情をするばかり。
「でも、あそこで倒れてたのは島風だけだったぞ?」
「人の気配もなかったし……、夢でも見てたんじゃないの?」
「えー? そうかなぁ……?」
島風は自分の胸に手を当てた。まだ心臓がドキドキしてる。
きっとあの子に会った事は夢じゃないのだ、と島風は思った。
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深い深い海の底。
岩陰でフードの少女が、ボーっと今日会った出来事を思い出していた。
仲間が気に入ってるという艦隊の所へ行ったら、ウサギみたいな少女に出会って。そこから二人で『鬼ごっこ』なる遊びをして……。
「『ドキドキ』、カ」
自分の胸に手を当てる。鼓動は感じない。
が、それ以上にかなりの満足感があった。
自然と笑みがこぼれる。
「フフフッ……。アー、楽シカッタ!」
戦艦の力を宿した深海棲艦、『レ級』。
彼女はその時、初めて心の底から笑った。
台風21号及び北海道東部地震において、被害に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます。
一日でも早く元の生活に戻れるよう、お祈りいたします。