……はっ!? いや何でもないです。
ところで皆さん、インフルエンザの予防接種は行かれましたか?
僕も先日行きましたが、あれって何年やっても慣れないですよね……。
やらなきゃいけないのはわかってるんだけど、痛いのは嫌だし……。
しかも注射打ったから大丈夫! 絶対かからない! ってわけでもないんですよね、あれ。
かく言う僕も去年の暮れにA型に感染してしまい散々な正月だったもんで。
あくまで「予防」ってだけなんですよね。あとは自分の免疫力がどれくらいのもんか……。
……うん。やっぱ規則正しい生活を心がけよう!
「「「「ただいま~」」」」
こんにちは。如月です。
ついさっきまで吹雪ちゃんや摩耶さん達と近海のパトロールをしていて、今ちょうど鎮守府に戻ってきたところなの。
最近は大きな事件もトラブルもなく、平穏な日々が続いている。
いつも険しい表情をしている摩耶さんの顔も穏やかだ。しかも今日は特に機嫌がいいようで、玄関に着くやいなやこんな事を言ってくれた。
「よ~しお前ら食堂行くぞー。アタシがデザート奢ってやる」
「え!? 本当ですか?」
「最近頑張ってるからな。ご褒美だ」
摩耶さんの思わぬサプライズ発言に私は吹雪ちゃんと大いに喜んだ。
「……おー」
その中で一人、望月ちゃんだけが気力のない返事をした。
「望月ちゃんテンション低くない?」
いや普段の彼女も無気力な事が多いが、こういうサービスの時は『姐さん太もも~!(太っ腹の間違い)』、と真っ先に盛り上がってるはずなのに。
「最近ゲームにハマってずっと徹夜してるんだって」
と、吹雪ちゃんが耳打ちして教えてくれた。なるほど、ゲームに夢中とは何とも望月ちゃんらしいわ。ただ、程度はわきまえてほしいけどね。
「じゃあ私、司令官に帰還報告してきますね」
「おう。じゃあ先に食堂行って待ってるわ」
執務室前で吹雪ちゃんと別れ、私達は食堂へ。
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「ふわ~あ~あ。……眠っ」
食堂についた瞬間、望月ちゃんがこの日一番の大きな欠伸をして、ゆらゆらと身体を揺らし始めた。
どのくらい徹夜してたのかしら。もはや立っているのも限界の様子。
「大丈夫? 少し横になる?」
「あー。そうさせてもらう……」
椅子を3つ程横に並べると、望月ちゃんはその上にバタンと横向きに倒れる。
その様子を見ていた摩耶さんは呆れ顔で呟いた。
「ったく、ゲームにかまけて徹夜とか……。たるんでやがるぜ」
「岩永徹夜……」
「そういうボケは忘れないのな」
「違うんだよ姐さん……。あともうちょっとでカントーリーグ制覇できるんだってー……」
「何だお前今時赤緑やってるのか? 懐かしいな~。アタシも昔、友達と通信ケーブルで交換したっけ」
「……姐さん『スイッチ』って知ってる?」
「? おう?」
何でしょう、この絶妙に話が通じてない感じ……。
「まあいいや。そいじゃ、アタシ注文してくるから。如月は望月の事見といてくれよ」
「分かったわ」
摩耶さんを見送り再び望月ちゃんの方を見ると、すでに彼女は眠りに落ちていた。
スースーと寝息をたてながら眠っている。よっぽど疲れていたのね。
しばらくその寝顔を観察していると、あることに気づいた。
「あら? メガネが……」
彼女はメガネをかけながら眠っていた。外す暇もなかったのだろう。
でもこれじゃ寝づらそう。かえって疲れてしまうわ。
私はメガネを外そうと、手をかけた――。
パキッ。
――決してトモチケをパキッた音ではない。もっと大きなものをパキってしまった様な、そんな音。
恐る恐る確認してみると、望月ちゃんのシンボルであった赤淵のメガネは、私の手の上で真っ二つに折れてしまっていた。
やべえ。
妹の大事なものを壊してしまった! どうしよう、こんなとこ誰かに見られたらどうしようも……。
――密かに感じる視線。見ると扉の陰から島風ちゃんが見つめていた。
「……みィ~ちゃった☆」
やべえ。
よりにもよって一番見せちゃいけない人に見つかってしまった。
悪戯っぽい笑みを浮かべた島風ちゃんは望月ちゃんの元までやってきて、眠っている彼女の耳元でそっと呟く……。
「目を覚ませ望月のメガネが何者かに粉砕さ・れ・て・る・ゾ!」
「やめてっ!?」
全力で島風ちゃんの口を塞ぐ。今の話を望月ちゃんに聞かれたらまずい……と心配はしていたが、彼女はぐっすりと眠っていた。
良かった。いや良くない。それよりも今はメガネだ!
「いや~やってしまったねえ、如月くん?」
どこかの宇宙警察のボスの声を真似する島風ちゃん。似てない。
「ど、どうしましょう?」
とりあえず応急処置で、テープでくっつけてはみたけど……。
「……流石にバレるわよね」
「いや、もしかすると、望月がこの割れたメガネかけて、怪獣を造ってしまう可能性も無きにしもあらず……」
「島風ちゃん、電光超人のアニメハマってるのね……」
ごまかしが利かないとなると、やはり代わりのメガネで弁償するしかない。
うーん、でもメガネってどう選べば……?
「あれ? どうしたん?」
そこに現れたのは、ご無沙汰ぶりの登場となった北上さんだった。
「……言い方気になるなあ。それだとあたしが滅多に出ないレアキャラみたいじゃん」
「いやぶっちゃけそんな感じだし」
言っちゃったこの子。
「それは置いといて。一体どうした?」
「実はかくかくしかじかぱっぱらぱーで……」
ぱっぱらぱーって何? 適当に言ってるだけじゃないの?
「なるほどね」
「通じた!?」
北上さんの理解力の高さにただただ感心する。
「そういうことなら丁度いいものがあるんだー」
そう言うと北上さんは制服の胸ポケットからある物を取り出した。
チャ~チャ、チャ~チャ、チャチャチャチャ~、チャッチャ♪
「『カズキルーペ』~!」
不思議なBGMと共に現れたのは、赤い淵をしたメガネ型のルーペだった。
「北上さん、これは……?」
「あたしも最近アマ○ンでポチったんだけどさ……。新聞とか報告書とか、本当に世の中の文字は小さすぎて読めないでしょう!?」
彼女はそう叫ぶと、どこからか紙を取り出してそれをそこら中にばらまいた。
「でもカズキルーペをかけると世界は激変! はっきり見えちゃうんです! ムムッ!」
「北上パイセン! とりあえず渡辺謙なのか川平慈英なのかハッキリしてください!」
島風ちゃんの指摘も何のその。彼女はさっさと説明を続ける。
「中でも特徴的なのは驚きの耐久性。例えば……」
北上さんはきょろきょろと周りを見回すと空いている椅子の上にそのルーペを置いた。
「お待たせ~。って何やってるの?」
と、そこへ帰還報告を終えた吹雪ちゃんがやってきた。
「吹雪っちいいところにきた。ちょっとここに座ってみて」
「ええ? ……きゃっ!?」
言われるがままにその椅子に座った吹雪ちゃんはそのままルーペを踏んづけてしまった。
慌てて飛び上がる吹雪ちゃん。しかしルーペは潰れておらず、最初に椅子に置いた状態のままそこにあった。
「この強度、さすがメイドインジャパン!」
「もう……、北上さんってば」
「すごいぜ! カズキルーペ!」
「カズキルーペ大好き!」
ルーペを手に取り、決めポーズを取る北上さんと吹雪ちゃん。
「……なんかプレゼン見せられた気分」
「でも、これなら何とかなるかもしれないわね」
「ごまかすどころか性能アップじゃん。グレートクローズだよ! 早速ポチろう!」
島風ちゃんは自身のスマホでアプリを立ち上げ、そのルーペを注文した。
すると次の瞬間、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
「お届け物ですー」
「「「早っ!?」」」
玄関先には、既にダンボール箱を持った配達員が立っていた。
電話をしてからものの数秒でのスピード配送である。ここまでのやり取りが何かの仕込みだったのではと疑うレベルね。
私がダンボールを受け取ると、配達員はそそくさと帰って行ってしまった。料金とか支払わなくてよかったのかしら……。
ともあれ、あとはこの中のメガネを望月ちゃんに渡すだけだ。
すると北上さんが持っていた携帯から着信音が鳴った。
「あーそうだ。これから大井っちと遊ぶ約束あるんだった」
「そうだったんですか!? いぞかしい時にごめんなさいね」
「いいよいいよ。大井っちならちょっとぐらい遅刻しても許してくれるし。あ、でもそのかわり……」
いつもはへらへらとしている北上さんの顔つきが真剣なものに変わった。柔和な雰囲気から一変、緊張感が漂う。
「眼鏡を割った事はちゃんと、望月っちに謝る。……いいね?」
「……はい」
私は北上さんの目を見て答えた。今回の事は私自身がケリをつけなければならない。そのことだけは忘れてはならない事だった。
それを聞いた北上さんは、暫く目を瞑ると直ぐにまたいつもの表情に戻った。
「それならよし。じゃ、あたしは行くわ~」
手をひらひらさせながら去っていく北上さん。それを見送った私たちは食堂へと戻った。
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「おーお前らどこ行ってたんだ? もう先に食い始めてるぞ」
「摩耶さん」
食堂へ戻ると摩耶さんが席に座っていて、テーブルには既に大きなパフェが置かれていた。その高さは一メートルはあるだろうか。まさかこれ一人で食べるつもりじゃないでしょうね……。
そして摩耶さんの隣には望月ちゃんの姿が。
「うーす。おはよう」
「望月ちゃん、もう寝てなくて大丈夫なの? あれから十五分くらいしか経ってないけど」
「十五分あれば余裕だよね」
マジかよ。先程までふらふらしていたのがウソだったかのように、彼女はピンピンとしていた。体力どうなってるの……?
「ところでさー。あたしの眼鏡知らない? どこにも見当たらないんだけど」
――来た。
「そ、そのことなんだけど……。えーと……」
「如月、なんか知ってんの?」
「あの……。その……」
……駄目。言わなきゃいけないのに、いざ言おうとすると言葉が詰まる。
鼓動が速くなる。望月ちゃんに嫌われてしまうかもしれない。そのことを考えると、どうしても伝えられない。
「如月」
その時。摩耶さんが私を呼んだ。
「よくわからんが一旦落ち着け。そんなに緊張してちゃ、言える事も言えないだろ」
摩耶さんは椅子から立ち上がると私の方まで来て、肩をポンと叩いた。
「大丈夫さ。何を言われようが、この中には如月の事を嫌いになるような奴なんかいねえよ」
『なっ?』と摩耶さんが皆に問いかける。吹雪ちゃんも島風ちゃんも、そして望月ちゃんも、その言葉に頷いた。
「摩耶さん……」
……彼女のおかげで少し気が楽になった。今なら言える気がする。
大きく深呼吸をした後、私は望月ちゃんに向かって話した。
「――ごめんなさい! 実は私、望月ちゃんのメガネを壊しちゃったの!」
「!」
「悪気はなかったの。メガネをかけながら寝ていたのが気になって触ったらポロって……。こんなことになるなんて思わなかったの」
「……」
私の言葉を黙って聞く望月ちゃん。私はダンボール箱を差し出し、続けた。
「これ。北上さんに教えてもらって、新しいメガネ買いなおしたの。こんな事で許されるなんて思ってないけど、せめてもの気持ちよ……。その、本当にごめんなさい!」
私は深々と頭を下げた。精一杯謝罪はした。あとは、彼女がどう返すか。
しばらく間が空いた後、望月ちゃんが口を開いた。
「――ああ。あのメガネ、伊達だよ」
「……え?」
「なくても見えるし、ファッションでつけてただけ。大分前に買ったし結構ガタがきてたんだけど……、そっか、遂に壊れちゃったか」
ハハッ、と望月ちゃんが苦笑する。
「というわけで。正直時間の問題だったし、メガネが壊れたことに関しては如月が誤る必要はなし! 逆に余計な心配させちゃったみたいでごめんなさい」
と、望月ちゃんは私の前に来て頭を下げた。
あまりの結末に私はヘナヘナと膝から崩れ落ちてしまった。
「大丈夫、如月ちゃん!?」
「だ、大丈夫よ。ちょっと腰が抜けちゃっただけで……」
「全然だいじょばない!?」
慌てる吹雪ちゃんの後ろで、望月ちゃんは言う。
「ま、この新しいメガネは大事にもらっとくよ。姉ちゃんからの、少し早めのクリスマスプレゼントとしてね」
「あっ……」
「……うおっスゲー! 滅茶苦茶よく見えるじゃんこれ! ヤベーイ!」
「アタシにも見せてくれ……、あ、これよくテレビで宣伝してるやつだろ!」
ルーペをかけて盛り上がる望月ちゃん。
彼女なりに気を使ってくれたのかも。ほんと、優しい妹だわ。
「いやあこれで一件落着だね! よかったよかったー」
「お前は何もしてなかっただろうが、島風」
島風ちゃんの気の抜けた言葉に、周りから笑いがこぼれる。
「まさか時間の問題だったとはねー。この前望月の部屋に泊まったときにちょっとウトウトしてた望月の背後からメガネを弄って割れちゃったのも、それが原因かー」
「えっ?」「ん?」「何っ!?」「……え?」
島風ちゃんの言葉に一同が固まる。ここにきて……、驚愕の事実発覚?
「お前が泊まったのって一週間ぐらい前だったよね? その時はまだ何ともなかったんだけど……?」
「あ、あははは……」
島風ちゃんが顔を引きつかせ笑っている。
と、ここで司令官が食堂に物凄い勢いで飛び込んできた。
「おい皆! さっき鎮守府宛てにスゲエ額の請求書が来たんだけど……何か知ってるか?」
「それって多分カズキルーペの……」
司令官が持っていた請求書には何桁もの数字が並んでいた。嘘。あれってこんなに高かったの?
すると島風ちゃんは文字通り脱兎のごとくその場から逃げ出した。
「あ、待て島風! お前なんか隠してるだろ! はっきり説明してもらうからなーっ!」
それを司令官がチーターのような速さで追いかける。数秒後、島風ちゃんの悲鳴が鎮守府中に響き渡った。
「……あとの事は島風に任せるか」
「そうだな」「ですね」
摩耶さん達はそう言うと黙々とパフェを食べ始めた。
私も精一杯島風ちゃんに同情しながら一口食べた。あっ、このイチゴ甘い。
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結局、島風は翌日から請求額分の働きを強いられることとなった。
「前回からこんなオチばっかり! もうメガネなんかコリゴリだー!」
島風が嫌いなわけじゃないんですよ?
ただ、好きな子に素直になれなくてちょっと意地悪しちゃう、みたいな。
……いいもん! この後の展開で名誉挽回させるから! 卍解!