ロ級達は深海棲艦の勝利を確信していた。
今までの艦娘を凌駕する存在として作り上げた《ラグナ郎くん1号》の必殺光線が、ネコ艦隊の面々に直撃したからだ。
あれだけの至近距離。艦娘達もきっと無事ではすまないだろう。
「ヤッター勝ッター! ネコ艦、完!」
「ヤヤコシイナ」
「――ほーお。じゃあ次からは、俺達が主役だな」
すると突然、煙の中から4つの影が……。
「天龍、改二!」
「川内、改二!」
「瑞鶴、改二!」
「夕立、改二っぽい!」
「「「「我ら、パワーアップした新・ペンギン艦隊!」」」」
「「「「エエエエエエエエエーーーーーーーーッ!?」」」」
そこに現れたのはペンギン艦隊のメンバーだった。しかも、その風貌は以前と大きく変化している。
天龍はノースリーブ白シャツの上に黒のファージャケットを羽織ったワイルドなスタイルに。
川内は白いマフラーを棚引かせた忍者風の衣装で。
瑞鶴は弓道着が紺色に変色したのと胸当てが迷彩柄に変化。
そして夕立は瞳の色が赤く染まり、白マフラーと獣耳を模したアホ毛が特徴の野性的な風貌へと進化した。
「改二ダト!? 奴ラ、パワーアップシタトイウノカ!?」
「金髪ノオ嬢様ミタイナ娘ハ? ……獣耳!? イメージ違ウ! デモ好キ!」
「マズイゾ……。コノ展開ハ予想シテナカッタ……!」
まさかの展開に狼狽える研究者ロ級達。
主人の危機を察したのか、ラグナ郎くんが新・ペンギン艦隊の方へ進んでいく。
すると天龍が大剣を構え、ラグナ郎くんに向かってぶつける。
その衝撃でラグナ郎くんの身体はホームランボールのように飛んでいった。
「「「超強エ!!」」」
「当然だ。……これは装備の力だけじゃない。俺達の、大切な人の想いが込められてるからな!」
天龍はそう答えると、先ほどまでの事を思い出していた。
--------------------
「待て!」
今から少し前。深海棲艦の大群の討伐に向かうため寮を出ようとした天龍達は、ある声に引き止められた。その声の主は……。
「先輩!」
「提督……」
ネコ提督の先輩、そして天龍達の上司であるペンギン提督だった。
その両手には大きなジュラルミンケースが二つ握られている。
「久しぶりだな、三池」
「ど、どうしてここに!?」
「あの電話の後、大急ぎでここへ来たんだ。で、隠れて今までの話を聞いていた」
ペンギン提督は経緯を説明すると、天龍にゆっくりと手を差し伸べる。
が、彼女はその手を振り払った。
「……今更何しに来たんだよ」
天龍の冷たい態度に一瞬呆然としたペンギン提督だったが、すぐに立ち直り咳払いをした後、こう続けた。
「まあ、勝手にいなくなった事について色々言うつもりだったんだが、その前に……」
突然、彼は深々と頭を下げた。
「すまなかった!」
「「「「!」」」」
「お前達にそんな不満を抱えさせていたなんて……。艦隊を率いる者として、部下の想いに気づいてやれず、申し訳ない!」
「提督さん……」
ペンギン提督の謝罪の言葉に、彼女達の心が揺らめく。
「……実はな。最近お前らに構えられなかったのには理由があるんだ」
そう言うと彼はケースを開けて、中身を見せた。
「これ……、改二用の強化装備!?」
《改二》。それは艦娘の装備が改修され、力を強化されること。簡単に言えばライダーが新たな形態に変身するようなもの。ケースに入れられていたのは、その為の装備だった。
「お前達を驚かせようと思ってな。ダラダラやってると見せかけてた裏で、準備してたんだ。大変だったんだぞ? 全員分の改修申請するの」
ハハハ……と苦笑交じりに話すペンギン提督を見て、天龍も思わず口元が緩む。
「……俺らが知らないところで、提督も頑張ってたんだな」
「当たり前だろう? 俺はやればできる子なんです~」
「それ自分で言うことー?」
ペンギン提督と艦娘達が笑い合う姿を見てネコ提督はそっと胸を撫で下ろした。
先程までの険悪ムードは何処へやら。そこにあったのは、仲の良いいつもの艦隊の風景であった。
と、その時。爆発音と衝撃が響いた。ラグナ郎くんの光線で鎮守府本館が破壊されたのだ。
「あ“ーーっ!! 俺達の鎮守府がーーー!?」
「なんてこった! これはマズイな……」
両提督がそう声を漏らす。すると天龍が二人の肩を叩いた。
「提督! ここは俺達に任せて、安全なところへ避難しててくれ」
「天龍……」
「な~に。あんな怪物すぐにやっつけられるさ。なんせ俺は世界水準軽く超えてるからな!」
「パーティーするっぽい!」「アウトレンジで決めるわ!」「夜戦! 夜戦!」
天龍に合わせて他のメンバーもその意見に賛同する。
「……よし。頼むぞ、ペンギン艦隊!」
「「「「了解!」」」」
彼女達は新たな装備を身につけると、意気揚々と飛び出していった。
--------------------
時は進み、現在。天龍は言葉を続ける。
「それだけじゃない! 散っていった、あいつらの遺志も背負ってるからな!」
ネコ艦隊。
可愛がっていた妹分を失い、天龍は怒りに燃えていた。
が、その今は怒りを鎮め、目の前の敵に毅然と立ち向かう。まさにヒーローと呼ぶにふさわしい姿である。
ただ一つ訂正があるとすれば。
「「「「「「「「いや生きてるわ!!!」」」」」」」」
その仲間がまだ健在だということか。
実は光線が命中する寸前、新・ペンギン艦隊が駆けつけて彼女達を避難させていたのだった。
「それなのに何勝手に殺してるんですか!?」
「ていうか主役より先にパワーアップすんなよ! どこのルパンエックスだ!」
「あーあーあー! 聞こえねー! 何にも聞こえねーなー!」
「何だこの人!」
明らかに調子に乗っている天龍に望月達からのツッコミが止まらない。
と、そこへ吹っ飛ばされたラグナ郎くんが猛烈な勢いで戻ってきた。
「おっと、また来るか。懲りない奴だぜ」
「天龍、今度は私達にやらせて」
「デビュー戦が夜戦じゃないのは残念だけど……、まあいいか」
そう言いながら瑞鶴は弓を引き、川内は銃で射撃する。
吹雪達の攻撃にケロッとしていたのがまるで嘘のように、ラグナ郎くんは唸り声をあげながらよろめく。
「おお……。こいつは凄いな」
「ふふーん。もっと褒めてくれていいのよ?」
連続ダメージにさすがに分が悪いと感じたのか、ラグナ郎くんはゆっくりと後退する。
「怪物さん……」
「!?」
しかしその背後では、夕立がゆらゆらと不気味に揺れていた。
「夕立……、さっきから遊べなくてずっと退屈だったっぽい……。だから……怪物さんに遊んでもらうっぽい!」
ニッカ―と満面の笑みを浮かべながら、夕立はラグナ郎くんに抱き着いた。なんとか振り払おうとするが、物凄い馬鹿力で一向に離れられない。
そのうち、ぐちゃぐちゃと音が鳴り、謎の液体が周囲に飛び散るようになった。
「え……? いや、ちょっと……?」
「これはその……、よい子には見せられないよ……?」
「アノ……、俺、トイレ行ッテイイスカ? 何カ胃ノ中ノモノガ逆流シソウ……」
これが小説でよかった。ラグナ郎くんがどうなっているのかを文字にするのは作者も気が引けるので、周りの反応を見て何とか察してほしい。
「ふー♪ スッキリしたっぽい~♬」
「夕立……さん? 顔についてる赤いのは、一体……?」
「え? ケチャップ?」
「あっ……。さよですか……」
これ以上彼女に突っ込むのは藪蛇だろう。吹雪はそれ以上追及しなかった。
一方。ラグナ郎くんの現状を見て怯えきっているのは研究者ロ級達である。
それもそうだろう。手塩に掛けて育て上げた最高傑作が、ものの数分でこの状態だ。
創造主として、これほど絶望的なものはない。
「コレハ……。マズインジャナイスカ?」
「ダナ……。仕方ナイ。ココハ一旦引キ返シテ、『ラグナ郎くん2号』ノ生成ヲ……」
「おっと。逃がさないぜ?」
その場から立ち去ろうとするロ級達。その退路を塞いだのは、自分らが先程まで痛めつけていたネコ艦隊だ。
「さっきはよくもやってくれマシタネー?」
「フフッ♪ 悪い子にはお仕置きが必要かしら」
彼女達の顔は笑っているようで笑っていない。
その悪魔の笑みの前に、ロ級達はなすすべもなく倒されたのだった。
「――アララ。ヤッパリコウナッタカー。イイトコマデハ行ッタンダケドネー」
倒れたロ級の身体をツンツンと突っつく、一人の女性。
「マァ。面白イ物見サセテモラッタカライイカ」
「空母ヲ級……」
ネコ艦隊のメンバーは、皆揃ってヲ級に銃を向けた。
こいつを倒せばすべて終わる!
「オット。私ナンカヨリ、『アレ』ドウニカシタ方ガイインジャナイ?」
ヲ級はネコ艦隊の背後を指さした。
見ると、夕立にコテンパンにされていたラグナ郎くんが起き上がって、再び襲い掛かってきていた。
何という粘り強さだ。しかもあの攻撃によって錯乱したのか、半ば暴走状態のようなものになってしまっている。そのせいか天龍達も手を焼いていた。
このままでは内陸部にも被害が及ぶかもしれない。
「心配シナクテモ私ハモウ何モシナイヨ」
ヲ級は両手を上げ、無抵抗の意思を示した。それを見た摩耶はゆっくりと銃を下ろす。
「……わかった。お前との決着はまた今度だ」
「摩耶さん!」
「今優先すべきなのはあのデカブツの方だ」
「……良イ判断ダネ。ジャア、マタ会ウ時ヲ楽シミニシテルヨ」
そう言うとヲ級は手をひらひらと振りながら、海の中へと消えていった。
何とも言えない幕切れだったが、切り替えてペンギン艦隊を援護しなければ。吹雪達は急旋回してペンギン艦隊の方へ向かった。
ラグナ郎くんは半狂乱のまま、見境なく暴れまわっている。
「天龍さん! ここは皆で力を合わせましょう!」
「よし。ネコ艦隊とペンギン艦隊、二つの力を一つにするんだ!」
ネコ艦隊。ペンギン艦隊。総勢十二人の艦娘が並び立ち、ラグナ郎くんに向かって銃を構える。
「一斉発射! てェーーーッ!!」
放たれた十二の銃弾はやがて一つに合わさり、巨大な光弾となってラグナ郎くんの身体を貫通。
ラグナ郎くんは断末魔の叫びをあげながら、爆散した。
「「「「「「…………勝ったーーー!!!」」」」」」
艦娘達は飛び上がって大喜び。
こうして、深海棲艦が作り上げた最強の生物兵器はネコ・ペンギン連合艦隊の前に敗れ去り、海は再び平穏を取り戻したのだった。
-------------------
「お前ら、よくやった!」
全てが終わった後、ネコ・ペンギン両提督が町の港で艦娘達を出迎えた。
「テイトク~、ワタシ達勝ちマシタ~! ご褒美にチューして下サイチュー♡」
「近い近い近い!」
「金剛さん。ネコとマウストゥマウスすると、ばい菌とかが入って大変っすよ?」
「WHAT!? ――あっ、でもテイトクのウイルスに侵されるならそれでも……♡」
(……駄目だこの戦艦……)
頬を赤らめながらとんでもない事をぬかす部下に対して、ネコ提督は軽く絶望した。
「それにしても天龍さん達、すっかり仲直りしたみたいで良かったです」
「一件落着だねー!」
「先輩。これからは疑われるような真似しないで下さいよ」
「勿論だとも! 二度とそんな事しないよ!(天龍の胸モミモミ)」
「言ってる側から何すんじゃコラアッ!!」
「ぎゃあああーーっ!」
(……駄目だこのエロペンギン……)
部下に袋叩きにされている自分の先輩の姿を見て、ネコ提督は重く絶望した。
「それより、あれどうすっかなー……」
既に瓦礫の山となってしまった鎮守府本館を眺めながら、ネコ提督が深い溜息をつく。
「あらまあ……。これは大変な事になってるわねェ」
「おばちゃん! それに町の人達も!?」
港に普段からお世話になっている惣菜屋のおばちゃんをはじめ、町の人々が大勢詰めかけてきた。
「なんで……あっ」
そこまで言いかけて提督は口を押さえた。鎮守府の代表である提督が喋るネコだという事は、今まで町の人には秘密だったからだ。
「ハハハ。もう隠さないでいいですよ。皆、気づいてましたから」
そう微笑みながら登場したのはこの町の町長。白髪と眼鏡が印象的な優しそうな男性だった。
「あ……、そうだったんですか……」
とっくにバレていたのか。隠す必要ないのにニャーニャー言っていた自分がちょっと恥ずかしい。
「とはいえ、鎮守府がこの有様では業務もできないでしょう。建て直すにも、莫大な時間と費用がかかりますから」
町長は一呼吸置いてから、提督にこう提案した。
「そこでどうです? 町役場に使ってない部屋がありますから、鎮守府再建までこちらを使うというのは」
「えっ!?」
まさかの意見だった。町の建物の一部を町長自ら艦隊に貸し出すなんて、異例中の異例だからだ。
「それはいい考えね、あなた」
「あれ……? 『あなた』って、もしかしておばちゃんの旦那さんって町長!?」
「道理で町の情報に詳しかったわけだ……」
あんな異例の発表であるにも関わらず、驚くほど町の人達の反応は好意的だった。
「ご飯が食べたいなら、私が美味しいコロッケ作ってあげるわよ!」
「風呂に入りたいなら、いつでもうちの銭湯においで!」
「装備の修理なら、俺達の工場に任せな!」
それどころか、皆でこちらの生活のサポートをする気満々だったのだ。
「皆さん……、どうしてここまで……?」
「鎮守府の皆さんには、これまで深海棲艦から守ってもらいましたからね。今度は我々の番です」
町長の言葉に、思わず涙がツーッと零れた。
自分達のやってきた事が、ここまで感謝されるなんて思ってもみなかった。
「……あ……、ありがとうございます!」
嬉しかった。ネコ提督は涙をみせないように深々と頭を下げた。
「あれ? 提督泣いてる?」
「バッ……、泣いてねーよ……!」
「またまた~。強がるなよ三池~」
「ちょっ!? 頭撫でないで下さいよ先輩!」
「司令官!」「提督!」「テイトク♡」「提督さん!」「ネコちゃん!」
「……あーあーあー! もう皆大好きだコノヤロー!」
「何だこのネコ!」
ネコ提督が叫び、そのうち人々の笑い声が町中に響き渡った。。
町は今日も平和だ。
一方その頃。深海では。
ザワ……ザワ……
ヲ級「オイッスー。ドシタノ、コノ騒ギ?」
イ級「ア! ヲ級サマ! 見テ下サイヨコレ!」
何と、バラバラになったラグナ郎くんの残骸が住処を踏み潰しているではないか!
そこへ黒いフードを被った深海棲艦、ヲ級の親友・戦艦レ級がやってきた。
レ級「ビックリシタゾ。部屋デゴロゴロシテタラ急ニアレガ落チテキテナ。ヲ級ハ何ダカ分カル?」
ヲ級「……新シイ住処探スカ……」
瓦礫の山となってしまった住処を眺めながら、ヲ級が深い溜息をついた。
----------
最終回じゃないぞ。もうちっとだけ続くんじゃ。