ネコ艦!   作:梶田リク

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【前回のあらすじ】

物語が始まる一年前。

士官学校卒業を間近に控えた三池タカハルは、司令長官から提督就任を命じられる。

しかし妖精の手によって彼は呪いを掛けられ、ネコの姿になってしまった!


祝え! ネコ提督誕生の瞬間である!




第二十話 ネコ提督の秘密(完結編)

 

 それからすぐ、騒ぎを聞きつけた同僚二人がタカハルの部屋にやってきました。

 

 最初は謎の喋るネコに困惑していた彼らでしたが、それがタカハル自身だと分かると、若者ならではの適応力で納得しました。

 

「うーわマジでネコじゃん。やば」

「マジウケるんだけど! ツイッター上げていい?」

「いいわけないだろ!」

 

 携帯のカメラを向ける同僚にタカハルは強い口調で突っ込みます。最近の若者はネットの怖さを知らない。

 

「どうしてこんな事に……。こんな姿になってしまったら……」

「タカハル……」

「思ったよりショックが強いみたいだな」

 

 二人は心配しました。

 

 そりゃそうでしょう。昨日まで普通の人間として生きていたのに、目が覚めたらこんな事になっていた。ショックにならない方がおかしい。

 

「みんな俺を可愛がって任務に集中出来なくなるじゃないか」

 

 二人は派手にズッコケました。彼は結構この身体を気に入っていたのです。

 

 

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「……とはいえ、これからどうすりゃいいんだ……?」

 

 あの後、タカハルは朝食も食べずに人の目を避けながら校内をさまよっていました。

 

 可愛いネコになって皆からチヤホヤされたから、よっしゃラッキー! という訳にはいきません。

 そんな単純なものではない。タカハルもそれは内心感じていました。

 

 妖精さんが夢の中で言っていたことを思い出します。

 

《深海棲艦を倒して平和を取り戻さない限り、君は元の身体に戻れないって事だよ》

 

 つまり。深海棲艦を討伐できなければ自分は人間に戻ることができず、下手すれば一生ネコのまま生きていかなければならないかもしれない。

 

 とてつもない絶望感に押しつぶされそうになっていました。

 

 

「おーい三池ー」

 

 そんな時、何処からか彼の名を呼ぶ声が聞こえてきます。

 同級生の声ではありません。

 

「その声は……岩飛先輩!?」

「よっ、久しぶりだな」

 

 岩飛コウヘイ。

 

 大柄でマッチョ体型。若干強面の顔をしていますが、気のいい性格でちょっとスケベなところはあるものの、いざという時は誰よりも頼りになる先輩。

 

 タカハルにとって、最も信頼している人物の一人です。

 

 一年前に学校を卒業し、現在は艦隊に所属する立派な海兵。中々会う機会もなく、久々の再会となります。

 

 

 しかし、彼の姿はあの頃とはだいぶ様変わりしていました。

 

「……ペンギンが喋ってる~~!?」

「喋るネコに言われたくないぞ」

 

 そう。彼はマッチョボディから、太っちょペンギンにクラスチェンジしていたのでした。

 

「何でそんな事に……? ってか、どうして俺が分かって……!?」

 

 ネコになってしまった――なんて報告、した覚えはないのですが。

 

「ハッハッハ! 分かるに決まってるじゃないか三池~。……俺はお前の事なら、何でも知ってるんだからよ」

「先輩……」

 

 岩飛はタカハルのアゴをクイッとさせて囁きました。

 ……断っておくと、二人は『そういう関係』ではありません。

 

「まあ、話せば長くなるんだけどな。まずはじめに……」

 

(グ~~!)

 

 エド・はるみじゃありません。大きな腹の虫が鳴った音です。

 

 出処はタカハルからでした。

 朝食も食べずに飛び出したので、もうお腹がペコペコのペコリーヌだったのです。

 

「……とりあえず飯食うか」

「はい……」

 

「つっても生魚しかねえんだけどな」

(何故生魚!? ああペンギンだからか)

 

 岩飛は自身が持ち歩いていたバケツから魚を取り出して、タカハルに手渡しました。

 

 最初は生の魚に抵抗のあったタカハルでしたが背に腹は代えられません。思い切ってそのままかじり付きます。

 

「……うめぇ」

 

 そこからタカハルは一心不乱に魚を食べました。

ネコになる前から魚は好きでしたが、おそらく今が人生で一番魚が美味しく感じられた瞬間だったでしょう。

 

(それが分かるのがネコになってからっていうのが、何とも皮肉だけど)

 

 タカハルはそう感じていましたが、あんまり考えないようにしました。

 

「……」

 

 不意に岩飛がタカハルハンカチを差し出しました。

 

「先輩? 何で……」

 

 言い終わる前にタカハルは気づきました。

 

 いつの間にか、涙が零れていたのです。

 

 タカハルはハンカチを受け取ると涙を拭い、ついでに鼻もかんで岩飛に返しました。

 

 

--------------------

 

 

 魚を食べ終え気分的にも落ち着いた頃、タカハルは岩飛から事情を聞きました。

 

 

 三ヶ月前のある夜の事です。

 その日、岩飛は上司との付き合いで飲み屋街に繰り出し、一晩中飲み歩いていました。

 

 すっかり酔っ払い意識が朦朧とする中、岩飛は謎の空間で、ある少女に出会いました。

 

「もしかしてそれって……!?」

「ああ。お前の言っていた妖精さんだよ」

「俺にしか見えない訳じゃなかったのか!」

「突っ込むところそこなの?」

 

 妖精さんは岩飛に持ちかけました。

 

 《女の子とスッタモンダして平和を守る仕事があるんだけど、やる?》

 

「俺は二秒で承諾したね」

「先輩……」

 

 そして、目が覚めるとペンギンになっていた――という事だそうです。

 

 

「まさか先輩も提督になっていたなんて……」

「それだけじゃないぞ。提督になった奴は皆姿を変えられてしまったらしい」

「そんな」

 

「ある者は犬に、ある者は豚に、ある者はクマに。変わり種だと蜘蛛とかスライムになった奴もいたな」

「動物ですらない!」

 

 姿を変えられたのは自分達だけではなかった。

 その事実にタカハルは少し複雑な気持ちになっていました。

 

「……なあ三池」

 

 そんなタカハルを見て、岩飛はおもむろに語りだしました。

 

「確かに俺達は人ならざるものになってしまった。ただ、それでも今の俺達にしか出来ない事が、あるんじゃないのか?」

「今の俺達にしか、出来ない事……?」

「ああ。例えば――」

 

 すると岩飛は立ち上がり、拳をグッと握りこう告げます。

 

 

「女風呂覗いても大丈夫!」

 

「は?」

「人間の姿だとバレたら大変な事になるだろ? ただ、この姿ならバレても……」

 

 

~~~~~~~~~~

 

(岩飛の脳内イメージ)

 

『きゃー♡ ペンギンさんが入ってきてる~♡』

『嘘~♡ やだ~♡ か~わ~い~い~♡(頭なでなで)』

 

『(裏声で)キュー♪ キュー♪』

 

『きゃー♡ ペンギンさんがキュートな鳴き声で鳴いてる~♡』

『嘘~♡ やだ~♡ か~わ~い~い~♡(胸に抱きしめる)』

 

『キュ~♪ キュ~♪(ゲヘ顔)』

 

~~~~~~~~~~

 

 

「――ってなるじゃん! 女の子は可愛いペンギンが見れてハッピー。俺は可愛い女の子に囲まれてハッピー。どっちもWin-Winってやつじゃん!」

 

「先輩……」

 

 タカハルは先輩に向かって手招きしました。これがほんとの招き猫。

 

「ん? どうした三池?」

 

 岩飛はそれに従い身体が小さいタカハルと目線を合わせるために屈みました。

 タカハルが岩飛の肩に手を乗せ、爽やかな笑顔で言います。

 

「生きてて恥ずかしくないですか?」

「酷い!」

 

 それは、タカハルが心の底から思った事でした。

 

 

 しかし、岩飛の言葉に何かを感じるものがあったのか――。

 

 タカハルはそれから一年間の研修期間を経て、港町の鎮守府で三人の艦娘を迎えることになるのです。

 

 

--------------------

 

 

 

 ――しれ……ん……。しれいかん……。司令官!

 

「……う、ん……?」

 

 誰かから声を掛けられて、俺は目を覚ました。

 

 ここは町役場にある仮設の鎮守府執務室だ。

 ラグナ郎くん襲撃の一件で全壊した鎮守府の機能を、建て直し工事の間、一時的にこちらに移動させて使わせてもらっているのだ。

 

 にしても、俺眠ってたのか。随分懐かしい思い出だったけど……。

 

 気づくと、眼の前に吹雪がいて、じーっと俺の顔を覗き込んでいた。

 

「うっ……うわあ~! ビックリしたぁ!?」

「そんなに驚く事ないじゃないですか。失礼しちゃいますよ」

「顔近付けすぎなんだよ! もう少しで、キ……、キ……!」

「何です?」

「……何でもねえよ!」

 

 俺がそう言うと吹雪は不思議そうに首を傾げた。

 こいつらともう一年くらい一緒にいるが、近くに寄られると未だにドキッとするなぁ。

 女性への免疫は付いたはずなんだがな……。精進せねば……。

 

「あー。提督起きたー?」

「いいご身分だな。こっちは必死にパトロールしてきたってのに、司令官殿はこんな所でお昼寝中でしたか」

「……悪い。ちょっと疲れてたみたいでな」

 

 執務中に居眠りなんて、俺としたことが少したるんでるみたいだな。反省。

 

 でも、そのおかげで大切な事を思い出した。

 

「吹雪、島風、望月」

「「「?」」」

「いつもありがとうな」

 

「……ええと、司令官?」

「急にどうしたの?」

「ついにおかしくなったか?」

「…………」

 

 あれ、何その反応。

 俺がこういう事言うのがそんなにおかしいのか?

 

 えっ、なんかショック……。

 

「いきなりそんな事言われると照れるじゃん……」

「まーねぇ……」

「こちらこそ、ありがとうございます。司令官」

 

 彼女たちは気恥ずかしそうにそれぞれ反応を示した。

 

 良かった。喜んでくれたみたいだな。

 

「HEY! テイトク~!♡」

 

 そこへ、例によって金剛が俺の方へと飛び込んできた。

 

「ワタシ、今日もよく頑張りマシタ! 褒めて褒めテー!」

 

 金剛が俺の身体を胸で抱きしめる。

 いつもなら「やめろ」とパンチをぶつけるところなんだが、まあ今日ぐらいはいいか。

 

 俺は彼女の頭を撫でてやる。

 

「ああよしよし。お前は良く頑張ってるよ」

「WAO! テイトクがいつもより積極的デース!」

 

 金剛から解放されると、皆に向かってこう宣言する。

 

「皆、今日はお疲れ様。俺がデザート奢ってやるよ」

 

「ええっ!? Reary!?」

「本当にどしたの。今日はやけに優しいじゃんか」

「別に? ちょっと昔の事思い出しただけだよ」

「よくわかんないけど……、まあいいや!」

 

 望月たちは大喜びで役場を飛び出していく。

 

「行きましょう、司令官?」

「ああ」

 

 吹雪が俺を肩に乗せ、三人の後を追う。

 

 

 

 俺にしかできないこと。

 

 俺はネコだけど、普通の人間よりも艦娘たちの近くにいれる。

 

 皆の力になれる。

 

 そう、あいつらの提督として!

 

 

 【第一部 完】

 

 




ネコ艦! 一応、完結!
今までご愛読ありがとうございました!

平成のうちに終わることが出来て何よりです。


しかし!「第一部」とあるように、この物語は完全に終わったわけではありません。

深海棲艦との戦いも決着ついてませんし。
まだまだ出てないキャラも、やらなければならない話もあります。

ともあれ、一先ずネコ提督たちの活躍はお休みです。
今後は新作を書きつつ、しばらくしたらフワッと再開するかもしれません。

その時はまた、応援してくださいね。

では!
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