「「「トリック・オア・トリート!」」」
ドラキュラ、魔女、狼男……。
町役場の前に、かわいいオバケの仮装をした子供達が、小さい袋を持って集まってきている。
「はい。ハッピーハロウィン!」
「「「わーい!!」」」
そんなオバケ達に受付の女性がお菓子をプレゼントする。
子供達は嬉しそう。
「ありがとうおばさん!」
「お姉さんだよぉッ!」
女性が突っ込んだ瞬間、悲鳴を上げて一目散に逃げていく子供達。
きっと子供達には女性の顔が般若のように見えていたに違いない。
「いやあれトラウマもんだろマジ」
「ハハハ……」
その様子を、役場の窓から眺めている猫と艦娘。
お久しぶりです。ネコ提督と吹雪です。
あれから半年。深海棲艦の襲撃もなく、町は平和そのものです。
「しかし盛り上がってんな~……」
「ハロウィンですからね」
「それだよそれ」
私が答えると提督は何故か不機嫌そうな表情になって続けた。
「俺が学生の頃なんか大して盛り上がってなかったのに、いつの間にこんな一大イベントになったんだ?」
「えーと……」
「さっきのように子供たちがお菓子を貰いに来るだけならまだいいよ。ただ都会の方じゃ、いい年した大人が派手なコスプレしてトラック転がしてるらしいじゃん?」
「それはごく一部の人で……」
「俺嫌いなんだよね流行りに乗っかってるだけのパーリーピーポー。騒ぐだけ騒いでSNSにアップして、後片付けもせず帰っていくなって」
「………」
時々、司令官の事を面倒くさい人――もとい猫と思う事がふとある。
確かにマナーが悪い人もいるけど、それだけでハロウィンを毛嫌いするのもどうかなと私は思うんだけどな……。
「分かる」
「望月ちゃん!」
と、そこへ、望月ちゃんがやってきた。
司令官の言うことに理解を示しているようだ。
「珍しく意見が合うな!」
「あたしもこういうノリ苦手でさ~」
「へえ、意外だな。お前は島風と馬鹿やってると思ったのに」
「あたしの事何だと思ってるの。まあ普段はね」
いつも気だるそうな望月ちゃんが、今日はいつにも増してだるそうだ。
「私もちょっと意外……。何かコスプレとか作ってそうなイメージだったから」
「いやァ~、あんなんは着るのも作るのもメンドイ」
望月ちゃんがそう言うと、合点がいったというように司令官がポンと手を叩く。
「そうか! お前元々面倒くさがりキャラだったな」
「キャラとか言うなや」
「あげぽよ~とか意味ワカンネーし……」
「ホントそう」
司令官は望月ちゃんの肩にぴょ~んと飛び移り、そのまま二人ぶつくさと呟きながら、街の方へと歩いていった。
「おや? どうしました、吹雪さん」
すると今度は町長さんがやってきた。
「実はカクカクシカジカで……」
「ふ~む、なるほど……。よし、私に任せて下さい」
「え?」
町長は仮装セットを用意すると、ニッと笑った。
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あの後。俺ことネコ提督&望月は、色々駄弁りながら町をぶらぶらしていた。
思えばコイツとこうやって長々話した事なかったから、いい機会だったかもしれない。
「ハロウィンと言えば何想像する?」
「やっぱかぼちゃかなー」
「だよな。俺も《ハロウィン≒かぼちゃの煮物》ぐらいのイメージしかなかったわ」
「10月31日の定番夕食だね」
どちらかと言えば冬至のメニューだが、今となってはもうどっちでもいいだろう。
とまあ、そんな感じで商店街をぶらついていると。
「おや? あそこに見えるは……?」
惣菜屋の前で白いシーツを被った少年がじっと佇んでいた。
それを観た望月がニヤつきながらコソコソと、奴のそばへ忍び込み……。
「わ!!」
「ギャッ!?」
いきなり大きな声を出して驚かせた。
少年はドテッとその場に倒れ込み、望月がそれを見てケラケラと笑っている。
「な、何すんだよ!」
「いや何か面白かったから」
シーツの幽霊の正体は、惣菜屋のおばちゃんと町長の孫である洋助くんだった。
休みの度にこの町に来るのですっかり顔馴染みになっている。
「てかそれ何の仮装? オバQ?」
「ゴースト! 皆がお化けって聞いてまず思い浮かべる白い奴だよ!」
「ああ、あれそういう名前だったのか」
「ばあちゃんに頼まれてさ。これ着て客引きしてんだよ」
「お粗末な作りだね。低予算の極み。布団のシーツ被っただけじゃないのこれ?」
「ほっとけ!」
随分いじられてるな。望月がすげえ楽しそうな顔してるぞ。
「洋助くんはお菓子貰いに行かないのか?」
俺がそう聞くと、洋助くんはフッと笑いながらこう続けた。
「いや……ハロウィンにお菓子もらって喜ぶなんて、子供のすることだよ。僕はもう二分の一成人式を迎えた大人だからね。そんなことに一々喜んだりしないのさ」
「ライジングしてるなぁ」
「は? ライジング?」
懐かしいフレーズ出てきたな。二分の一成人式って10才そこらじゃねえか。
まずいな。この齢にして自意識が飛びまくっておられる。
ここで、望月がボソッと突っ込んだ。
「……お前最近準レギュラー扱いで調子乗ってるだろ」
「いや何の話!?」
「何か裏で『第二部があるなら主役は僕に変わる』とか言ってるらしいし」
「何!?」
「うわあ~! どこから漏れたその情報!?」
「18話で町の皆が提督の正体気づいてたって言った時、一人だけ知らなかった奴が言っても説得力ないんだよ」
「ぐうっ!?」
「去年のさんま祭りの時に撮られた吹雪の写真をいつも部屋でニヤニヤ眺めててるような奴だし」
「あー! あーっ!」
うわあ~。何かすげえ生々しいぞ。
「その辺にしてやれよ望月。洋助くんが可哀想だろ」
「本当だよ! とっくに僕のライフはゼロだよ!?」
「主役交代は聞き捨てならないが」
「それはもういいよ!」
なんてやってるうちに腹が減ってきた。
俺達は惣菜屋前に置かれたベンチに三人並びながら、おばちゃん特製のコロッケを食す。ちなみにハロウィン限定メニューのかぼちゃコロッケである。甘くて美味しい。
「しっかしまあ、この世の中の浮かれっぷりは何なんだろうな……」
「本当だね……」
……突如として介入してきた声につられて隣を見ると。
ベンチの右端で、フサフサした長髪にかぼちゃの被り物と猿のマスクを被った男性が鎮座していた。
(((……なんか変な奴が隣に座ってきたァァァ!!!)))
唖然と鳴る俺達に、男性は優しく話しかけてくる。
「これ、何の仮装かわかります?」
「えっ……? ジャック・オー・ランタンっすか?」
恐る恐る俺が答えると、男性は小さく首を振った。
「ジャック・オ・ランウータンです」
「「「ジャック・オ・ランウータン!?」」」
「ジャック・オー・ランタンとオランウータンを組み合わせた、高度なギャグです」
どういうジャンルのコスプレなんだ!?
(これ、突っ込んだ方がいいのか?)
(わかんない……本人は至って真面目みたいだし……)
(でも自分で“高度なギャグ”とか言うかね……?)
俺達三人は顔を見合わせてコソコソと話し合う。
「……それにしても、いい時代になりましたなぁ」
「え?」
男性は大きく伸びをして、徐ろに語りだした。
「私が若い頃は、大人がコスプレすると変な目で見られてたもんですが、今はだいぶ寛容な扱いになりました」
「……」
「近頃はブラック企業やら大規模災害やらで暗い話題ばかりじゃないですか。そりゃあ、羽目を外しすぎるのも考えものですが、今日ぐらいは大人も目一杯楽しんでいいじゃないですか?」
「……そうかもな」
男性の言葉を聞いて、なんだかすうっとした気分になった。
「こんな所でぶつくさ話してても意味ない。楽しめるものは楽しんだ方がいいよな!」
イメージだけで嫌ってても仕方ないのだ。あのジャック・オ・ランウータンは俺達に大切なことを教えてくれた。
「ありがとうジャック・オ・ランウータンさん! あんたのおかげで、俺達大事な事に気づけたよ! ……………って、あれ?」
あの言葉を言ってくれた男性に礼を言う。しかし、既に彼の姿はなく。
「ハッピーハロウィーン! 皆さん、ハロウィンは楽しいですよ~!」
代わりにハゲヅラとチョビ髭を付けた町長がいた。
「……じいちゃん、何その恰好……?」
「いや、提督さんに仮装の楽しさを伝えようと……」
「それより、さっきまでいたジャック・オ・ランウータンは?」
「? 何ですかそれ?」
俺達はあの男性の事を町長に話した。
だが、全く分からないという。それどころか……。
「三人でコロッケを食べ始めたころから、ずっとそばにいましたよ?」
「「「え……?」」」
つまり、町長はずっと俺達の近くにいたのだ。
そんな町長が気づかないとなると……。
俺達が見ていた、あのジャック・オ・ランウータンは一体……?
「……いやどんなオチ!?」