「艦隊、帰還しました!」
今日のパトロールも無事終了。鎮守府に戻り司令官に帰還報告を済ませた私たちは、汗を流すため、入渠ドックへと向かった。
入渠ドックとは、簡単に言えば温泉のようなもの。戦闘で受けた傷も、その湯に浸かればたちまち治ってしまう。
私たち艦娘にとって、オアシスのような場所である。
「あー暑かった……。もう汗べとべとだよー」
「本当だね……」
脱衣場で制服を脱ぎながら、島風さんたちと話をする。
鎮守府近くの林からは微かにセミの鳴き声が聞こえ始めていた。
「もう夏なんだね」
「夏になると浮かれた深海棲艦がハメを外して悪乗りしまくるって言うから、注意しないとな」
「夏休みの学生かよ……っ?」
ここで望月さんの動きが止まった。ある一点を見つめたまま、微動だにしない。
その視線の先には……、ああ。なるほど。
「ちょっ、三人ともなんでアタシの方ばっか見るんだ?」
「いや……。こうして見ると、やっぱりでっけえなと思って……」
「なっ!?」
摩耶さんは顔を真っ赤にして、自身の胸をタオルで覆い隠した。
「いやいや。隠しても出てるもんは出てるよ?」
「恥ずかしがらずに見せてみ? ほれほれ?」
手をワキワキと動かして、摩耶さんに近づく二人。もう動きが変態じみている。
「やっ、やめろーっ!!!」
「ごぶっ!?」「さたっ!?」
と、ここで摩耶さんのパンチが二人の顔にクリティカルヒットした。
顔面がめり込むほどの威力だ。6トンはあるだろう。
「やめろやマジ! 今度やったらぶん殴るぞ!?」
「もう殴ってんじゃん……」
摩耶さんを怒らせてはいけない。私たちの中で一つルールが生まれた。
ドックの中は一般的な銭湯と同じように、壁際にシャワー、奥に大きな浴槽がある。
まず自分の身体をよく洗い、それから肩まで湯船に浸かる。というのが、このドックの決まりだ。
「「「「あー……、いい湯だー……」」」」
思わず声が漏れる。
少しぬるめの湯が身体を優しく包み日頃の疲れを消していく、至福の時だ。
すると、望月さん(顔は元に戻っている)がぼやき始めた。
「しっかし、あんなあっつい中出撃なんか嫌になるな、全く!」
「お前はいつも嫌がってるだろ」
確かにこのところ三十度越えの真夏日が続いていたけど……。
「しかもさ、何が怖いかってこれからまだどんどん気温が上がっていく所だよ? もう外出たくねえよー。あんな炎天下の中出ていくなんて地獄だよー。死人が出るってー」
「まあ……、否定はできないけどな」
「もう決めた。あたしはこの夏鎮守府から出ない。クーラー効いた自分の部屋で一日中ゴロゴロする!」
「ええ!?」
「あたしは本気だ。早速司令官に伝えてくる!」
そう言って望月さんは素っ裸のままドックを飛び出していった。
「だ、大丈夫かな……」
「放っておこうぜ。結果は見えてる」
数分後。
「『ふざけんな』っつって怒られました」
「だろうな」
頭に大きなたんこぶを作って、望月さんは帰ってきた。
多分司令官に思いっきりぶたれたのだろう。猫パンチ的なやつで。
「『あとちゃんと服は着てこい』とも言われました」
「だろうな」
「じゃあ服着たうえで言ったらOKしてくれる?って聞いたら『アホか』っつってまた怒られました」
「だろうな!」
司令官の反応が当然だと、摩耶さんは望月さんに言った。
「結局、任務から帰ってきたらたらふくアイスを食べさせるって事で合意しました」
「え、アイス食べられるの? やったー! 望月ナイス!」
「アイスだけに?」
「くだらねぇ……」
低レベルな洒落で笑う望月さん達に摩耶さんは完全に呆れてしまっていた。
「私ストロベリーがいいなー」
それでも構う事無くアイス談義を続ける二人。
「あたしはやっぱチョコミントかな」
「ああ……。最近流行ってるらしいね」
「あの独特の味がたまらん……」
「吹雪ちゃんはー?」
「わ、私はバニラかな」
「「あー……」」
「何その反応!?」
「いや普通だなーと思って」
「無難なところ攻めるあたり、やっぱり吹雪って真面目だなーと思って」
褒められてるのか馬鹿にされてるのか、反応に困る。
「おい。あんま吹雪を困らせるなよ」
「じゃあ姐さんはどのアイスが好きなの?」
「…………抹茶」
「「「渋っ!」」」
ちゃんと答えてくれるんだ。優しいな。
話題を変えて、さっき報告した時に司令官から聞いた話を皆に知らせる。
「そういえば、今度また新しい仲間が来るみたいですよ?」
「え? そーなの?」
「マジか。じゃあやっぱり休みでいいじゃん」
「もういいわその話!」
「しかも、二人同時に配属されるみたい」
「ロッソとブル?」
「アムールとマシェリ?」
「どっちも違うと思うよ……」
「にしても、どんどん数が増えてくな」
「だねー」
「まあ、どんな奴でも歓迎してやろうぜ」
「……そうですね」
どれだけ数が増えようと、この艦隊の絆は変わらない。そう思った。
「さてと、のぼせないうちにあがるか」
「「「はーい」」」
一斉に立ち上がったその時、ドックのドアが強い勢いで開けられた。
「みんな大変だ! また深海棲艦が暴れてるらしい! 悪いが今すぐ出撃して……」
ドックの中に流れる静寂。しばらくして、司令官がボソッと呟く。
「…………でっけえ……」
直後。摩耶さんは驚異的な速さで司令官の元まで迫り、その顔面にめり込みパンチを食らわせた。
物凄い勢いで吹きとばされる司令官を見て、私は変わる事もあるかもと考えた。
そして、摩耶さんだけは絶対怒らせまい。そう心に誓った。
中身は人間だから、動物愛護法には引っ掛からない! ……多分。
あと、摩耶の胸いじりは今回で終わりにします。
だって、上には上があっ(殴