俺はこの鎮守府の提督。猫の姿をしているので、『ネコ提督』と呼ばれることもある。
……自分は好きでこんな姿になったわけではないので、ちょっと不本意だが。
それでも、艦娘達と一緒に海の平和を守るために戦っている。
「ふう。こんなもんかな」
ちょうど今、先日行った演習についての報告書を書き終わったところだ。猫の手でどうやって書いたんだという点については、突っ込まないでくれ……。
あの時は大井の暴走もあって、散々な結果に終わった。このままではいけない。来たるべきヲ級との決戦に備えて、もっと経験を積まないと。
と、ここでポーンと時報が流れた。時計の針は昼の十二時を指している。思ったより早く片付いたな。
今日は日曜日。世間一般的には休みの日だ。俺も今日の仕事は終わったし、ゆっくり休むとしよう。さて、何をしようか?
「では遊びマショウ!」
「のわあっ!!??」
急に机の引出しから女性が飛び出し、俺は飛び上がって驚いた。
「ちょっとー。そんなにビックリする事ないじゃないデスか~」
「いやビックリするわ! あんまりビックリして俺子供生まれるか思ったわボケ!」
「テイトクの子供!? 素晴らしい……ワタシ達の愛の結晶デスね!」
「待て待て例えを本気にするな! っていうかやった覚えねえよ!」
いきなりグイグイ来る彼女に困惑しつつ、とりあえず椅子に座らせて落ち着かせる。
よくよく見ると、彼女の姿になんとなく見覚えがあった。
「あれ……? 君は先輩のところの……」
「YES! 高速戦艦の金剛デース!」
やっぱりそうだ。サイドにお団子を結った茶色の長髪に巫女服というインパクトのある容姿で、強く印象に残っている。
「でもどうしてここに? 先輩達と一緒に帰ったはずじゃ?」
「……実は……」
さっきの明るい感じから一転、深刻そうな表情を浮かべる金剛に、俺はドキリとする。
まさか、先輩のところで何かあったのか……!?
「……ワタシ、小さい動物が大好きなのデス」
「……ん?」
「演習でアナタの姿を一目見たとき、ワタシは一気にHEARTを掴まれマシタ」
「んん?」
「そして確信シマシタ。ホントの愛はここにあると!」
「んんん?」
「というわけで! ここに入る事に決めたのデ~ス!」
「んんんんーっ!?」
予想外の答えに俺は困惑するしかなかった。
つまり、一目惚れしたからここに置いてくれ、と?
好意を持ってくれるのは嬉しいけど、色々と順序がおかしい気がする!
「もう離さないデスからね! 愛しのMy Darling♡」
そう言うと彼女は俺を胸に抱き寄せた。なんか前にもこんな事あったな……。あ、しかもこの娘も結構ある……ってそうじゃなくて!
「猫扱いすんなーっ!!」
「NO~!!!」
俺は金剛の顔を思い切り引っ掻いた。その扱いをされる事だけは、俺のプライドが許さなかった。
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「ううっ……、まだ顔が痛いデス……」
数時間後。俺は金剛を連れて鎮守府内を回っていた。
「すまん。ちょっとやり過ぎた」
「フッ、大丈夫デス。これがテイトクの愛なら、ワタシは甘んじて受け入れマース!」
「……」
駄目だこいつ……。早くなんとかしないと……。
「おや? テイトク。あそこに誰かイマスよ?」
金剛が指さす方を向いてみると、百メートルほど先で、島風がピョンピョンと飛び跳ねていた。
彼女は俺達に気付くと、猛スピードでこちらに駆け寄ってきた。
一瞬の出来事だ。時間にしても五秒もかからなかったんではないか?
「提督ー! ……って、その人は?」
「ワタシは金剛。今日からこちらにお世話になる事になりマシテ……」
「いやまだ決まってない……」
「そーなんだ? よろしくね!」
「無視かな」
島風は完全に金剛の話を信じ切っている。俺の話も聞いちゃいない。困ったもんだ。
「ところで、さっきから何やってたんだ?」
「えっとねー、ウサギごっこ!」
「ウサギごっこ?」
「この前テレビでウサギ特集やってたんだ。だからマネしたら面白そうだなと思って!」
テレビの影響か。島風らしいな。
「でもずっとやってたら疲れてきたなー。眠くなってきたー……」
欠伸をしながら、大きく伸びをする。
すると、彼女の動きがピタッと止まった。不思議に思って近づいてみると、すうすうと寝息を立てているではないか。
「眠ってやがる! 立ったまま!」
『眠くなってきた』と口にした数秒後でこれだ。速いにもほどがある。
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流石にそのまま置いていくわけにもいかないので、金剛と一緒に彼女を寮の部屋まで連れていく事にした。
「付き合わせて悪いな」
「NO problemデス。テイトク、初めての共同作業デスね……♡」
「違うわ」
この鎮守府は、執務室や食堂がある本館、弾薬や艤装を整備する工廠、艦娘達が普段暮らす寮と、三つの建物に分かれている。
が、俺はあまり寮に行ったことがない。というのも、そこはある意味艦娘たちのプライベート空間なので、男としてはなかなか入りづらかったからだ。
最後に行ったのも着任直前に鎮守府の内見をした時以来だろうか。もう半年も前の事だ。
「あ。提督だ」
その道中、仲良く手を繋いで散歩中の大井と北上に遭遇した。
大井は金剛を見つけるとずけずけとこちらに向かってきた。
そういえば大井の暴走は、金剛が北上を攻撃したことが原因だったっけ。だとすると近づけるのはまずいんじゃ……。
「アンタはあの時の! よくも北上さんを……!」
「全然気にしてないよ大井っち。試合が終わったらノーサイドでしょ?」
「北上さんの言う通りだわ。これから仲良くしましょう?」
……単純な奴……。
「お二人はとっても仲が良いんデスネ!」
「まあね。大井っちはいつも面倒見てくれるし、私にとってお母さんみたいな感じかな」
「そうそう。実は私、北上さんの実の母親で……」
「いや違うだろ」「それはないデス」「ないないない」
北上を含めた三人から突っ込みを受けた大井はショックでその場に倒れこんでしまった。そこまで衝撃受けんでも。
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「何でこんなことに……?」
結局、眠っている島風と一緒に気絶した大井まで部屋に送ることになった。
「大井っち大丈夫かな」
「まあ大丈夫だろ。次の話には何事もなかったかのように出てくるだろうから」
「さらっとメタな発言するよねここの人たち……」
そんな事を話しているうちに寮に到着した。
寮といっても、以前あった二階建ての格安アパートをそのまま流用したものなので、とても質素なつくりになっている。
大井を北上に任せ、俺達は島風の部屋を探すことに。
「えーと……? アイツの部屋は……?」
「あれ? 司令官?」
声を掛けられ振り返ると、そこには摩耶とジャージ姿の吹雪がいた。
「おお吹雪、ちょうど良かった。島風の部屋知らないか?」
「私の部屋の隣ですけど……、どうかしたんですか?」
「いやまあ、色々あってな」
「にしても珍しいな、提督がこんなとこまで来るなんて。ってか、隣にいるのは……」
「金剛デス!」
「……色々あったんだよ、本当に」
吹雪の案内のお陰で、島風を無事部屋まで送り届ける事ができた。
と、ここで吹雪のジャージがボロボロになっている事に気づく。
「どうしたんだ、それ?」
「……実はさっきまで、摩耶さんに特訓に付き合ってもらってたんです」
「特訓?」
「演習のときに思ったんです。このままじゃ駄目だ。もっと強くならなくちゃって……」
吹雪も俺と同じような思いを感じていたようだ。本当、頑張り屋だな。吹雪は。
「そうだな。でも、あんまり無理すんなよ?」
「……はい!」
寮から出て海を見ていると、水平線の向こうで日が沈みかけている。もうすぐ夜が来て、一日が終わるのだ。
誰かが何かを頑張った一日が終わって、また新しい一日が始まる。
――明日も頑張ろう。
そんな事を考えながら後ろを振り向くと、望月が枕を持って立っていた。
「ふわ~おはよう……。あれ? みんな揃ってどうした?」
「……ずっと寝てたんかーい!」
一日は、まだまだ終わりそうになかった。
ネコ「っていうかさ。お前いつからあの引き出しにいたの?」
金剛「前回の投稿日からずっとデース!」
ネコ「マジかよ……。ちょっと軽くホラーなんだけど……」