魔法科高校の魔法使い   作:独辛

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fortissimoの知名度の低さに僕は絶望した。


家族

この世界には魔法師が存在する

 

しかし魔法使いは存在しない。

 

 

✳︎

 

我が家の朝は早い。

まだ日が顔を出して数分もしないうちに、この家の6人の住人は食事を求めてリビングにふらりと集まる。

そんな早起きな家族に美味しい朝ご飯を作るのが、僕の朝一の役目だ。

 

「はよー。おっ、いい匂いさせてんじゃねぇか。今日はなんだ?」

「スクランブルエッグとご飯。それにすり身のすまし汁に市販の時雨煮かな」

「いやぁ、息子ができる奴だと親は楽できていいなぁ!」

「……なにを言ってるんだか。料理は父さんの方が断然上手いでしょうが。 ……母さん()にいたってはアレだけどさ」

「言うな……虚しくなる」

 

幾分か起きてきた頃より背中が煤けて見える父親に僅かばかりに同情の念が湧く。きっと昔はさぞかし苦労をしたのだろう。

 

「サクラ母さんは?」

「今くるだろ」

 

いつも一緒の2人が共に降りてきていないことに気づいて問いかけるが、丁度答えが返ってくる頃にご本人の登場だ。

 

「おはよ〜なんだよ〜」

「うん、おはよう」

 

どこか足取りが覚束ないのかフラフラとしているのはいつものこと。我が家に住まう男性陣は朝に強いが、反対に女性陣は朝に弱い。そんな中で早起きという家訓に従おうとした場合、大抵はこうして半覚醒状態で居間にやってくるのだ。

サクラ母さんを誘導しながらいつもの定位置に座らせた後、またも階段を下る足音が2組分聞こえてくる。どうやら彼女達も朝ご飯の匂いにつられてか、睡魔に打ち勝ったらしい。

どうせ寝ぼけ眼でフラフラしてると思い、リビングのドアを開けておくことにした。

 

ポフッと。胸に誰かが倒れ込んでくる。どうやら扉を開けたタイミングで反対側からも同じことをしようとしていたらしい。

反射的にしっかりと支えたが、朝一からこんなドッキリはやめてほしい。びっくりして心臓が一瞬跳ねた。

 

「っと。 …………紗雪母さん。 ちゃんと目を開けて歩いてください」

「ぽけー」

「紗雪母さんっ」

 

注意しても何一つ変わらないのはいつものことだが、いい加減直してもらわないといつかどこかで危ない目にあうかもしれない。そう思ったら少々強く揺すってしまった。

 

そんな僕を父さんの一言が制した。

 

「やめとけ清隆。 どうせ暫くしたら目を覚ますんだ、そっとしておいてやれよ」

「……父さんは少々紗雪母さんに甘いのでは?」

「ま、妹だからな」

 

そんなことを宣いながら朝一で配達された新聞を眺める父親にそっと溜息をついてしまう。紗雪母さんの手を引きながらこれまた定位置へと誘導した。

そしてふと、視界に入ってきたものに驚く。

 

「っ! ……はぁ。 いつのまに降りてきたんですか九里さん」

「いまさっき」

 

紗雪母さんと隣り合う形で既に朝食の席に座っていたのはこの家の居候にして家族の一員である姫白九里さん。まるで西洋人形をそのまま等身大にしたかのようなその姿は、陽光の光を浴びて少し幻想的な雰囲気を醸し出している。

まぁ、性格は子供そのものなのだけど。

 

「ん、清隆。お醤油とって」

「駄目ですよ。まだ揃ってません」

 

何故か既に食べ始めようとしていた九里さんを戒めるけど、頬を膨らませて抗議するのはやめてほしい。この人、間違いなく俺の2倍は生きている筈なのだ、歳を考えてほしい。

 

そんな可愛らしい抗議をスルーしていると、ようやく最後の1人が姿を現した。

 

その人は朝だというのに真っ黒なノースリーブのワンピースにアームウォーマー。日光を跳ね除けるかののような真っ黒なマント。まるで魔法少女のようなフリルのついた漆黒のスカートをなびかせながら、その魔女の代名詞とまで言える大きなとんがり帽子をドアの隙間に引っ掛けてやってきた。

 

「ぬあっ! な、なんじゃ! あ、引っかかっただけ……ふんぬっ、と、取れない。 清隆! 助けるのじゃ!」

 

朝から騒がしいことこのうえない。けれど、長年この人と生活しているとそれも心地いいものに感じてしまうのだから不思議なものだ。この人の”人徳”というものなのか、それとも僕達が諦めてしまったからなのか。まぁ、どちらでもいいけど今はまず彼女からのSOSに答えてあげよう。

 

「はいはい。あ、動かないでくださいね。 てかこれどうなってるんですか。全然頭から離れない」

「ふふん、秘密じゃ」

「あ、そうですか。 まあいいですけど、じゃあいきますよ……っ」

スポンっ、と気持ちのいい音が食卓に響く。

「ふぅ、ようやく抜けたわい」

「抜いたのは僕ですけどね」

「朝から下ネタは女子に嫌われるぞ」

「僕は今貴方に嫌悪感を抱きました」

なにやら意味不明な戯言を吐きながら自分の席に着くが、その身長も相まって子供が座ってるようにしか見えない。なにせ今この居間にいる中でもっとも身長が低いのは彼女なのだ。実年齢が1番高いのに高くないとはこれいかに。本当に残念な人だ。

 

「む、なにやら馬鹿にされている気配が」

「気のせいですよ。はい、苺さんのぶん」

「おお! ありがとうなのじゃっ」

 

 

僕が作った簡単な朝食を喜んでくれる。そんな無邪気な姿からは想像もできないが。この人、相良苺さんは僕が住むこの家の家主であり一時期は父さんを養っていた育ての親でもあるという。

見た目はどうみたって小学生なのは、地元じゃ七不思議の一つとして有名だ。

 

さて、じゃあ食べるとしよう。

全員が食卓を囲んでいることを確認して、手を合わせる。

 

「いただきます」

 

『いただきます!』

 

これが僕、芳乃清隆の一日の始まりだ。

 

 

✳︎

 

朝食を終えると父と共に庭へと出る。

一歩、足を踏み込む。

その瞬間、先程までのに朗らかな人朝は鳴りを潜め。代わりに何もない地平線が姿を現わす。

 

「よーし、まずは準備運動」

「もうやってるよ」

 

そんな非日常的現象に何もリアクションを起こさないのは、それが僕にとっての日常だからだ。

この空間は理解不能な怪しい現象ではなく、身内であるサクラ母さんの能力(マホウ)によるものだと知っているから。

 

「さ、やるか」

 

体が発汗する程度にほぐし終わった頃、どうやあちらも準備を終えたのかこちらに向き直っていた。

 

「そうだね。今日もよろしくお願いします」

「しゃらくせぇ。もっと闘争心むき出しでもいいんだぜ?」

「それじゃあ結局、感情のコントロールができてないって言われるじゃない」

「ははっ、そりゃそうーーーーだッ」

 

言葉の終わりと同時、既にそこに父の姿はない。次に捉えた時、振り下ろされた右ストレートが僕の目に映った。

 

しかし慌てることはない。目に見えなくともどこにいるかくらいは長年の戦闘経験を頼りに何となく捉えられていた。

迫る右ストレートをこちらは左手を半円描くようにして受け流す。それに留まらず、腕をこちら側に引き寄せるように絡めとり、その勢いを応用しがら空きの胴体に左足を差し込んだ。

 

「ふぅ、いいねぇ。やっぱ最近のお前は強くなったよ。龍一の格闘術がお前を育てたってのは気に食わねぇがな」

「それはどうも。でも、褒めてくれるならせめてダメージを負ったフリでもしてくれないかな、流石に傷つくよ」

まるで、大木に蹴りを入れてるかのような感覚だった。その全てを足の下から幾重にも張り巡らされている枝根のように大地へと受け流している。

微動だにしないとはこのことか。

すぐに距離をとる。あのままではこちらが反撃されかねなかった。

「ま、でもまだまだってのは変わりないけどな」

遠くから聴こえていた声が、気づいた時には隣にあった。

 

「ガッッッ!!」

 

強烈な振動が脳を揺さぶる。どうやら僕は殴られたらしい。

意識を保とうと震える足で、瞬時に後退し気合を入れ直そうとするが、それはどうやら悪手だったらしい。

 

「そんな今から態勢を立て直すみたいな行動とられたら、こっちとしては追撃チャンスにしかみえねーよ」

 

土手っ腹に渾身の一撃。

なんとかタイミングを合わせて後ろに飛ぶことには成功したが、それでも消しきれないダメージが体全体へと広がる。

相変わらず、化け物じみた強さだ。こんなのと毎日スパーリングしてたらそりゃ誰だって強くなるだろうさ。僕じゃなくてもね。

 

殴りかかる。躱される。殴られる。蹴り返す。技と力の交差、鈍い打撃音に2人の息遣いだけがこの空間に音を残す。

「ははっ、やっぱ楽しいな!!」

 

まるで心底今の状況を楽しんでいるかのような笑顔でこちらをみてくる。そしてついでとばかりに振るわれるその拳も、幾分か力が増したかのようにも感じる。

 

「まぁ、楽しくないと言ったら……嘘になるけどねッ!」

 

迫る拳を、こちらも合わせ拳で相殺する。反動で後ろに下がりかかった体を重心の移動にによりそのまま右足を軸に回転。

勢いに乗った渾身の回し蹴りを右側頭部へと振り切った。

しかし、それは罠だった。

僕の蹴りは空を切り、虚しく音だけが置き去りにされる。

その下で、笑う父を残して。

 

僕が見たものは。

 

青白い気炎を纏った拳。

 

それを隙だらけの胴体に振りかぶる姿だった。

 

神討つ拳狼の蒼槍(フェンリス・ヴォルフ)ッ!!」

 

その圧倒的力に身を軋むような痛みを感じながら、僕の意識は暗転した。

 

✳︎

 

 

目を覚ますと、空が見えた。どうやらあの空間ではなく現実世界に帰ってきてらしい。

ふと、頭がなにか柔らかいものに包まれているのに気づく。

それを確認しようと頭をあげようとした時だ。

「あ、起きた? まったく、心配したんだよ〜?」

私、怒ってますアピールを全身で表現しながらコツンと額を小突くのは、その名と同じ髪色を持つサクラ母さんだった。

 

「ごめん。でもそれは父さんに言ってよ」

「ん? もう言ったんだよ?」

「え、あー……なるほど」

 

ふと、隣を見ると地面に倒れ臥す我が父。零二の姿。

きっと、とても見にしみるお話(・・・・・・・)をされたんだろうな。

 

そんなことを考えながら父に向かって黙祷しているとサクラ母さんがとんでもないことを言ってきた。

 

「まぁ、きっと来月から離れ離れになっちゃうから力が入っちゃったかもなんだよ」

「ーーーーえ?」

「ん? どしたのタカくん」

「いや…ーーえ? 離れ離れ?」

「そうだよ? あれ、もしかして言ってなかったっけ? 入学と同時にタカくんには1人暮らししてもらおうと思ってるんだよ」

 

なにそれ聞いてない。

軽くフリーズしてると、横から少し冷たく感じるような涼しげな声が割って入る。

 

「ま、でも安心していいと思うよ。この間兄さんが陽菜子さんに連絡してたのみたから。 きっとあっちへ行ってからの世話は真田さん達がしてくれると思う」

そんな重大発表と同時に、キンキンに冷やされた麦茶を渡された僕は戸惑いながらもそれを受け取り、重い体を起こした。

 

「マジすか?」

「「マジよ(なんだよ)」」

答えを聞いた時、ふと心の中に湧いた感情は。念願叶った1人暮らしに対する喜びと、もうこの賑やかな家族としばらく会うことができない寂しさが共存する、なんとも複雑な心境だった。

 

「ってことだ清隆。 俺からの入学祝いとでも思っとけ」

 

いつのまに復活していたのやら。麦茶片手にこっちに微笑む父をみて、こっちも口角が上がっていくのを自覚した。

 

「ま、あれだよアレ。改めて【国立魔法大学付属第一高校】入学おめでとう」

『おめでとう!』

 

改めて、家族っていいなと思えた日だった。

 

 

 

 

 

 

 

この世界に魔法使い(ユグドラシル)は存在しない。

 

けれど超能力者(マホウツカイ)は存在する。

 

 




fortissimoを簡単に紹介すると。

Fate + 11eyes + D.C

となります。

では、お読みくださりありがとうございました。
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