新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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第8話 アンゴルモア

 ケイドのスクラップ場の一角で、二体のトランスフォーマーが対峙していた。

 両者ともに剣と盾を持っている。

 

「先手必勝! セイヤー!」

「甘い!!」

 

 小柄な方が大柄な方に斬りかかるが、盾で容易く防がれたばかりか喉元に剣の刃を当てられる。

 

「うっ……」

「これで、お前は死んだ。……もっと力を抜くんだ。大振りに振るうのではなく、相手に確実に当てるように動くんだ」

「は、はい……」

「しかし、足運びは上出来だ。基礎はしっかり出来ているようだな」

「あ、ありがとございます」

 

 大柄なトランスフォーマー……オプティマスはホット・ロッドの喉元から剣を引いて背中に差す。

 ホット・ロッドはホッと排気すると、手製の剣と盾を持つ手を下ろした……瞬間、眼前に現れたテメノスソードの刃に驚いて尻餅をついた。

 

「うわあ!?」

「残心を欠かすべからず。最後まで油断するな」

「くそ! そんなの卑怯だぞ!」

「そうだ、卑怯だ。そして戦場で相対する敵は、たいていは卑怯な物だ」

 

 厳しい声で言ったオプティマスは、今度こそ剣をしまうと、ホット・ロッドに向かって手を差し出した。

 ムッとしつつも、ホット・ロッドはその手を取った。

 

 ドリフトからホット・ロッドが剣の心得があるようだと報告を受けたオプティマスが、記憶を取り戻す助けになるのではないかと始めた、剣の稽古。

 しかし当の本人にしてみれば、『体に剣を使う動きが染み付いている』と言われてもピンとこない。

 ガラクタから作った剣と盾を持っても、そもそも自分の得物は銃だ。これがあれば剣なんかいらないだろうに。

 

「では銃を失った時はどう戦う? 戦闘における引き出しは多いに越したことはない。……と、言うワケでもう一回だ」

「……うっす」

「返事は『はい』だ。礼を欠かすな」

「は、はい!」

 

 そしてオプティマスはいざ教えるとなれば、なかなかにスパルタだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……もうクタクタだ」

 

 結局、オプティマスたちと話したいとサムがやってくるまで続いた稽古に疲れ、ホット・ロッドは地面に大の字になって寝転がる。

 スクィークスが近くまで走ってくると、ホット・ロッドの関節に油を差してくれた。

 

「サンキュー、スクィークス」

「まったく、根性のねえ餓鬼だな」

 

 腕を組んで立つクロスヘアーズが煽りを入れ、近くで銃の手入れをしていたハウンドが声をかけてきた。

 

「貴重な経験だぞ。オプティマスに稽古をつけてもらえるなんてな」

「然るに。他のオートボットが羨むこと、これ必定というものだ」

 

 何やら木を弄っていたドリフトも、それに同調する。

 どうやら本人は盆栽のつもりらしいが、当然トランスフォーマーサイズなので、いいとこ街路樹である。

 

「ははは、それでホット・ロッド、記憶は戻りそうか?」

「全っ然! ……それはそうと、話は変わんだけどさ」

 

 キャノピーが苦笑気味にたずねてきたので、ホット・ロッドは憮然として答えるが、ふと声のトーンが変わった。

 

「メガトロン、ってどんな奴だったんだ?」

「なんだよ、藪から棒に」

「気になってさ。ディセプティコンの連中は、特別視してるみたいだし」

 

 その問いに、オートボットたちは複雑そうな顔になった。

 やがてクロスヘアーズは吐き捨てるようにして言った。

 

「メガトロンってのはな、最低も最低の野郎さ!」

「クロスヘアーズ……」

「なんだよ、本当のことだろ? あの野郎のせいで、どれだけのオートボットが死んだと思ってんだ? そのくせ、今更仲良しこよしだあ? 虫がいいにもほどがあるぜ!」

 

 ため込んでいた物があったのだろう。

 ハウンドが咎めるのも構わず、クロスヘアーズは悪態を吐く。

 それを聞いたドリフトも盆栽を弄る手を止める。

 

「メガトロン……あの男は、フレームの芯まで『ディセプティコン』だ。その性は狂暴、その心は狡猾」

「そう、なのか……でも和解したんだろ?」

「坊主、そんな単純なもんじゃねえ。そう簡単に飲み込めるもんじゃねえんだ、戦争ってのはよ」

 

 飛び出てくる評価にホット・ロッドが戸惑っているとハウンドが溜息を吐いた。

 重い実感を伴った言葉だった。

 そして、戦争の記憶のないホット・ロッドには真の意味では理解できない言葉だった。

 

 故に疑問に思う。よく和解できたな、と。

 キャノピーから聞いていたメガトロンの評は、戦争を巻き起こした元凶であり、恐怖の独裁者だった。オートボットたちの話を聞く限り、それは間違っているとも思えなかった。

 

 

 

 

 

 一方で、オプティマスとネプテューヌ、バンブルビーとネプギア、そしてうずめと海男、ケイドはプレハブ小屋の近くで折り畳み机を囲み、サムと話していた。

 サムとしては屋敷に彼らを招きたかったのだが、家には家族やメイドもいるのでオートボットたちの生活費だけ出すことになった。

 

「でっさー、オプっちたら、わたしが少し無茶すると、すっごい心配するんだよ! 自分は無茶しまくるくせにさー!」

「あー分かる分かる! なんて言うか、もう少し自分を大切にしてほしいよね!」

「ホントホント!」

 

 主にオプティマスへの何だか盛り上がっているネプテューヌとサム。後ろでオプティマスが小さくなっていた。

 その後ろに座っているバンブルビーにも矛先は向く。

 

「ビーは本当に甘えん坊で、あんなに強いのに、あんなに可愛いなんて反則です!」

「そうだねー。あ、知ってる? ビーってフロントバンパーの下を磨かれるとねー……」

「え? それは初耳です!」

 

 ネプギアとサムの会話に、バンブルビーは恥ずかしそうに電子音を鳴らす。

 

 この三人、ずっとこの調子で盛り上がっており、他のメンツは正直置いてけぼりな感があった。

 

「愛されてるねえ……」

 

 しみじみと、海男が呟く。

 うずめとしてはサム・ウィトウィッキーの気楽な感じに驚いていた。

 大企業の主とは思えない、普通の青年だ。

 

「ははは……でも嬉しいよ。ビーたちのこともそうだけど、この地球にも彼ら(オートボット)を受け入れてくれる人がいて」

「ああ、ケイドのオッサンには頭が上がらねえよ」

 

 感慨深げに呟くサムとうずめに、ケイドは少し肩を竦めた。

 

「まあ、ある日スクラップ場の前にボロボロの女の子がいれば、保護してやりたくなるのが人情だろう。ついでに色々くっ付いてきたけど……正直、最初は金目当てだった所もあるしな」

「金?」

「一目見て分かった。こいつはトンデモない技術に塊だってな。実際、特許も取れたし」

 

 思わぬ告白に、ネプギアやうずめの顔が曇るが、ネプテューヌやオプティマスは泰然と構え、サムや海男は真剣な面持ちで黙って聞いていた。

 

「でもな、しばらく付き合ってると……こいつらはただの科学の道具じゃないって思うようになってな。ホット・ロッドやスクィークスなんか糞生意気だし、キャノピーはノンビリしすぎだし、海男はワケ分からんし……とにかく、みんながみんな、それぞれの性格ならなんやらあって……生きてるんだなって思ったんだよ」

 

 そういうケイドの目は、真剣味を帯びつつも何処か優しい物だった。

 

「人間っていうのは馬鹿だからな。生きてる相手なら……助けたいって思っちまう。ま、それだけさ」

 

 素っ気なく締めくくったケイドに、何となくシンミリした空気になる場だったが、やはりと言うべきかその空気を破ったのは、紫の女神だった。

 いつの間にかケイドの後ろに回り、満面の笑みでその背を叩く。

 

「偉い! あなたは良い人だ!」

「あーもう! やめろって!」

 

 ケイドは照れを隠すような仏頂面を作るが、顔が赤くなっている。

 一転、和やかな空気になる一同。

 海男は真顔のまま笑んでいたが、ふと真剣な真顔になる。

 

「話は変わるが……ミスター・ウィトウィッキー」

「サムでいいよ」

「なら、サム。貴方は本当に、我々を捕えていた組織とは無関係なんだな?」

「もちろん。……でも心当たりはある」

 

 その答えに、空気が真面目な物になる。

 サムは、立ち上がると腰に手を当てて話を始める。

 

「セクター7という国家の秘密機関がある。エイリアンとか、そんなのを研究してる奴らさ」

「エイリアンを研究ねえ……まるでXファイルだが、実際にいるワケだしなあ、エイリアン」

 

 ケイドが顎を撫でながらオプティマスたちを見上げる。

 厳密に言えば彼らは異次元からやってきたのだが、サイバトロン星はこの次元にあるようなので結果的には宇宙人(エイリアン)で合っている。

 いまさら、何で国家の機密をサムが知っているのかはたずねなかった。

 

「そこの連中とは……まあ、昔のことでちょっとした縁があってね。探りを入れてみるよ。君たちの記憶の手掛かりにもなるはずだ」

 

 自身ありげに、サムは笑む。

 しかしうずめは少し困ったように後頭部を掻いた。

 

「そのことだけどさ。……俺は別に記憶が戻らなくてもいいかな、って思ってるんだ」

「どうして?」

 

 思わぬ言葉に、ネプテューヌが首を傾げる。

 すると、うずめは快活な笑みを浮かべた。

 

「だって別に困ってないしな。ホット・ロッドがいて、みんながいて、今はケイドのおっちゃんやサムもいる。何より海男がいるからな! だからさ、記憶とかなくてもなんとでもなるって!」

「それに藪蛇という言葉もある。仮にそのセクター7とやらが俺たちを捕まえていた組織だとしたら、下手に干渉すれば居場所がばれる可能性がある。そうなればサムやケイドにも迷惑がかかるだろう?」

 

 うずめの言葉を継いで冷静な意見を言う海男。

 彼の言葉はその見た目によらず理性的かつ現実的で、サムを一応は納得させる物だった。

 

「分かったよ。でも気が変わったならすぐに言ってくれ。僕は君たちのためなら力を尽くすつもりだ……友達、正確には友達の友達だからね」

 

 パチリとウインクするサムに、うずめは笑顔を答えとする。

 その時、サムの背広の胸ポケットに入ったスマートフォンが鳴った。部下からだった。

 周りに断ってから電話に出る。

 

「……僕だ」

『社長! 例の暴走事件について、情報提供したいという人間が現れました』

「なんだって? 何者だい?」

『それが、よく分からないんです。会社に乗り込んできて、とにかく社長と直接話したいと……』

「分かった。一度戻る」

 

 困った表情で通話を切ったサムは、申し訳なさそうに皆を見回した。

 

「ごめん。急な仕事が出来た。……また今度話そう」

「分かった。……大変だな」

「まったく……社長になんかなるんじゃなかったよ。毎日大変だし責任ばっかり重いし」

「それが上に立つということだ」

 

 重々しく放たれたオプティマスの台詞に、サムは軽く頷く。

 少しだけ、総司令官の視点に近づけた気がして嬉しかった。

 

「じゃあまた」

「またねー!」

 

 別れの挨拶を済ませるサムに手を振るネプテューヌだが、この時オプティマスのセンサーは物陰をそそくさと歩き去るトランスフォーマーを見逃さなかった。

 バンブルビーに目配せすると情報員は小さく頷き、その後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 ホット・ロッドは一人、スクラップ場を離れてビークルモードで峠を走っていた。

 時折走り屋たちの乗った車を追い抜く。

 自慢の改造車を容易く追い抜かれて、走り屋たちは悔し気だ。

 色々とムシャクシャしたり頭がゴチャゴチャした時は、こうやってかっ飛ばすに限る。

 

 この峠で彼に追い付ける者はいない。ここでは彼が王者だった。

 

 しかし、この日は少し様子が違ったらしい。

 

「よう、新入り!」

 

 黒いストライプの入った黄色いカマロが、いとも簡単に黒いランボルギーニを抜き去る。

 一瞬、唖然とするホット・ロッドだったがすぐに負けん気を出してスピードを上げて、バンブルビーを追い抜く。

 

「どうだ! この峠じゃ、俺が一番さ!」

「やるね。でも、まだまだ!」

 

 再びバンブルビーが追い越す。まだまだ余裕があるようだ。

 ホット・ロッドはさらにアクセルを入れ、エンジンを回転させる。

 二台の車は、追い抜き追い抜かれつつ凄まじい速さで道を走り続け、やがて他の誰もいない山の上へと出た。

 

「ここらで、止まろう」

「賛成……!」

 

 停車してギゴガゴと立ち上がる二人。

 ホット・ロッドの息が上がっているの対し、バンブルビーは余力を残しているようだった。

 

「くそッ……負けた!」

「まあまあ、そう言うなよ。いい、走りっぷり、だったよ」

 

 やや憮然としながら適当な岩に腰掛けたホット・ロッドの横に、バンブルビーも座る。

 ここからだと街が一望でき、ケイドのスクラップ場も、サイバトロン・システム社のビルも、女神像も見える。

 

「なんか、悩みごと?」

「どうして?」

「オートボット、ってのは、悩むと、走りたくなる、もんさ」

「そんなもん?」

「そんなもん、そんなもん」

 

 軽い調子で言うバンブルビーに、ホット・ロッドは気分が軽くなる。

 そこで、気になっていることを彼にも聞いてみることにした。

 

「なあ、メガトロンって奴のこと、知ってるか?」

「…………まあ、ね。顔馴染み」

「どんな奴だ? ハウンドたちは……どうしようない悪党だって言ってた」

 

 一瞬、若き情報員の顔が苦み走った物になる。

 少し間を置いてから、バンブルビーは答えた。

 

「正直、何とも、言えない。メガトロンに、オイラの、仲間も、殺されてるから……」

 

 情報員の脳裏に浮かぶのは、遠い昔のタイガーパックスでの戦いだ。

 あの戦いで、バンブルビーは自分の声と仲間たちを失った。

 戦争が終わった今でも、憎んでいないと言えば嘘になってしまう。

 

「じゃあやっぱり、許せない?」

「本当なら。でも、オイラ一人の、感情で、戦争起こす気には、ならない。……ネプギアが、傷つくから」

 

 その答えにホット・ロッドはオプティマスのことを思い出していた。

 総司令官もまた、自分の憎しみよりも他人の気持ちを優先すると言っていた。

 是非は分からないが、それはとても高潔なことだと思えた。

 

 同時に、メガトロンという存在に対して、言い知れぬ怒りも感じた。

 やはり碌な存在ではないらしい。

 

「……ねえ、オイラも聞いていい?」

「ああ」

「あの、うずめ、って子に、惚れてんの?」

「ブッ!」

 

 真面目に考えていたところに唐突にぶっこまれた問いに、ホット・ロッドは目を丸くし、それから慌てて手を振った。

 

「ななな、なに言ってんだよ。ほ、惚れてなんかねえし! ただの仲間だし!」

「うん、分かったよ。ありがとう」

 

 シドロモドロになるホット・ロッドに、バンブルビーは少し呆れる。あんまりにも分かりやすい。

 誤魔化せないと悟ったホット・ロッドは、観念したように肩を落とした。

 

「……ああそうだよ。俺はあいつのことが、好きだ」

「わお! いいじゃん!」

 

 茶化すバンブルビーだが、ホット・ロッドの顔は浮かない。

 何処か、諦観に近い物があった。

 

「……なんていうかさ、うずめの隣は、俺じゃないんだよ」

「どゆこと?」

「ほらさ、海男、いるだろ?」

 

 ここで何故、あの真顔人面魚が出てくるのか分からずバンブルビーは首を傾げるが、ホット・ロッドは構わず続ける。

 

「あいつは、凄い奴なんだよ。俺らが施設を逃げることが出来たのも、あいつのおかげだし、うずめのことも誰より理解してる」

「でも、魚じゃん」

「そんなこと言ったら、俺機械だし」

 

 何処か呆れた様子のバンブルビーに、ホット・ロッドは力なく反論する。

 言われてみれば、海男はうずめの隣にいることが多い。

 しかし、恋愛対象にはならないだろう……と考えて、友人の看護師に懸想している、とあるネズミを思い出して何とも言えない顔になるバンブルビー。

 

「なによりさ。うずめへの思いやりって点において、俺はあいつに勝てる気がしない」

「勝ち負けの、問題?」

 

 思いやりに勝敗などないだろうに。

 どうにも、この若者は意外とズレているようだ。

 可笑しくて、思わず笑ってしまう。

 

「ま、頑張れよ。……ところで、まだ走り足りないんだけど、もう一勝負しない?」

 

 ホット・ロッドの背中を叩き、バンブルビーはカマロに変形する。

 それを見て、少しキョトンとしたホット・ロッドだが、ニヤリと笑うと自身もランボルギーニに変形し、エンジンを吹かす。

 

 二台の車は、元来た道を猛スピードで走りだすのだった。

 

  *  *  *

 

 会社に帰り着いたサムは、足早にラボに向かっていた。

 青と白のトレーラーキャブの横を通り過ぎ、会釈する社員たちに手を振ると、技術担当の役員の声をかける。

 

「それで、情報を提供してくれるっていうのは……」

「私だ」

 

 ラボの端にいつの間にか男が立っていた。

 彫りの深い顔立ちの中年の男で、白髪交じりの短髪がチリチリとしている。何故かアロハシャツを着ていた。

 見るからに皮肉っぽい表情をし、全身から胡散臭さが滲み出ている。

 しかし、サムにとって彼は忘れられない男だった。

 

「シモンズ? シーモア・シモンズ?」

「……久しぶりだな、坊主。ええ?」

 

 

 

 

 

 シーモア・シモンズは、秘密機関セクター7のエージェントだった男だ。

 彼とサムの因縁は『前』の人生にまで遡る。

 出会った当初、シモンズは権力を笠に着た嫌味な男だった。

 しかしサムとは行動を共にする機会が多く、腐れ縁の果てにお互いに気を許すに至った。

 

 こちらでのシモンズと出会ったのは、サムがトランスフォーマーの痕跡を探し求めていたころだ。

 フーバーダムに隠されたセクター7の基地に潜り込もうとしていたのを取っ捕まったのだ。

 セクター7は、よくあるフィクションのように目撃者殺すべしな組織ではないため……というか殺すと逆に後々面倒なことをよく知っているため……サムは五体満足で帰された。

 それ以来二人は会っていないが、お互いに強く印象に残っていた。

 

 

 

 

 

「なんでアンタがここに?」

「ま、他のお役所とか色々と考えたんだけどな。何故だか情報提供するなら、お前がいいと思ったんだよ。エージェントの勘ってやつだろう」

 

 シモンズはサムの記憶にあるのと変わらぬ、皮肉っぽい笑みを浮かべた。

 少しだけサムは考える。

 『前』のシモンズは戦友と言っていい仲だったが、このシモンズはどうだろうか?

 

「それで? 情報っていうのは?」

「まあ待て、論より証拠だ。……なんか、スマホとかアイポッドとかあるか?」

 

 社員の一人が自分のスマートフォンを渡すと、シモンズは懐から小さなシリンダーを取り出した。

 中には淡く発光する紫の液体が詰められているのが分かる。

 

「それは?」

「世間には発表されていない物質だ。1999年7月に日本のフジヤマで発見され、仮称としてアンゴルモアと呼ばれている……日本人ってのは予言とか占いが好きだな。本来は結晶状の物質だが、ある一定の電荷を掛けることで液状化する」

 

 サムの質問にそう答えると、シモンズはシリンダーの蓋を開け、中のアンゴルモアなる液体を机の上に置いたスマートフォンに垂らす。

 なんだか、サムは既視感を感じていた。

 『前』にもこんなことがあったような……。

 

「さあ、見てろよ。イッツ、ショータイム!」

 

 するとスマートフォンが細かに振動しだし、やがてギゴガゴと音を立てて姿を変える。

 カメラレンズは目になり、鈎爪を備えた手足が飛び出す。

 唖然とする社員たちに、スマートフォンは牙を剝いて飛び掛かろうとするが、寸前で銃弾がその体に命中し粉々に吹き飛んだ。

 

「……というワケだ」

 

 銃口から煙の上がる拳銃を懐にしまいながら、シモンズが得意げに言う。

 

 その後ろでは、スマートフォンを失った社員が落ち込んでいるのだった。




後書きに替えて、キャラ紹介

シーモア・シモンズ
ご存知、実写TFの名物男。
秘密機関セクター7の捜査官で、情報通。
原作と違ってお金持ちにはなっていないが、原作同様、シャーロット・メアリングといい仲だった時期があるらしい。


最近、実生活が色々と大変になってきたので、投稿ペースが乱れるかもしれません。

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