新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED 作:投稿参謀
「なんてことだ……」
レノックスはヘリから暗雲に包まれた街を見て、厳しい顔をしていた。
基地に残された彼らだったが、サムが呼びよせたヘリの編隊……主にブラックホークや機体の前後にローターを備えたチヌークまでいる……に乗って移動していた。
このヘリ群は、軍の機械化の煽りで民間に流れた物を、サムが有事に備えて買い揃えた物である。
ブラックホークの中では、米軍の兵士とサヴォイ隊の隊員が対面する形で座り、居心地悪げな空気を醸し出していた。
『見えてるか、サム! これは洒落にならんぞ!』
「ああ、見えてる。ケイド」
サムはケイドと通話しつつ、スマートフォンを持つのとは反対の腕でダニエルを抱きしめながら、街の車や機械が変形した異形のトランスフォーマーの群れや女神像、そしてそれを指揮しているマジェコンヌたちの姿を伺っていた。
かつて、似た現象を見たことがある。
オールスパークによる、機械の進化。
『前』はオートボットが防いだそれと似たことが、恐ろしい範囲で起こっているのだ。
おそらく、あのアンゴルモアの力だろう。
ケイド自身のスマートフォンは、彼が街の外にいたので女神像の影響を受けなかったらしい。
あの女神像が移動した後で、キャノピーと共に街に移動したようだ。
『しかし妙だ! 変形してない機械もある!
ケイドからの報告に、サムは眼下を見やる。
CS社製のロボットが混乱で生じた怪我人を救助したり、小火を消したりしている。
それに混じって、オプティマスらオートボットも市民を助けていた。人々からは彼らもサイバトロン・システムのロボットだと思われているようだ。
ネプテューヌやうずめも、人々を助けていた。
これはどういうことかと首を傾げ……それから思い当たる。
サムの発明の数々は、元々はオールスパークから齎された知識による物だ。
ひょっとしたら、サム自身も気付かぬ形で、発明品に何等かの影響を及ぼしていたのかもしれない。
(ひょっとしてこれが、僕がこの世界に生まれ変わった理由なのか?)
『おい! それでこれからどうするんだ!?』
「とりあえず、僕は子供たちを避難させてから社に戻る。貴方はオートボットたちと合流してくれ」
『分かった!』
サイバトロン・システム社の本社ビルの屋上に、サムの乗ったチヌークが着陸する。
他のヘリは、ビルの前の広場に降りていく。
ヘリから降りたサムを、何人かの役員が出迎えた。同じヘリに乗っていたレノックスは何処からか通信を受けていた。
「社長! ご無事だったんですね!」
「ああ、なんとか。そっちは?」
「こちらは皆無事です! わが社の製品は、どういうワケか怪物になりませんから!」
予想通りの答えにサムは少しだけ安堵し、次いで表情を引き締めて指示を飛ばす。
「よかった。……それなら、早急に警察や消防と連携して、市民の救助に当たるんだ。救命ロボットをフル稼働し、医療スタッフも出来る限り召集。本社ビルを避難所として開放して、食料に医療品や日用品、我が社の物資を無償で配布してくれ」
「社長、それはちょっと……」
「もう少し、赤字にならず、それでいて社のイメージアップにつながる程度に抑えましょう」
有能な商売人である幹部たちの反応にサムは険しい顔をする。
どういうわけか、彼らは時に善意や良心すら商品としてみるのだ。
そこだけは、どうしても納得できなかった。
「今は赤とか黒とか、マーケティングがどうとかの話をしている場合じゃないんだ!」
「しかし……」
「社長命令だ!!」
ややヒステリックに言い捨てると、サムは技術屋の役員に向かって声をかける。
「話は変わるけど、例のコンセプトモデルは動かせるかい?」
「可能ですけど……まさか、あれを使うんですか!?」
「ああ。本当なら災害救助用に作った物だが……仕方がない」
それから次の指示を出そうとした時、レノックスが通信を切って声をかけてきた。
「おい、社長さん!」
「サムでいいよ。で、なにさ?」
「じゃあサム! 米軍が、あのデカブツに攻撃を仕掛けるらしい!」
「なんだって!?」
その言葉に、サムは目を見開く。
攻撃された基地の報復にしても早すぎる。
軍というのは、基本的に尻の重い組織だ。
「でもあのデカブツに近づいたら……」
「戦闘機やミサイルなら、あのエネルギーの影響を受けない所から攻撃できる!」
こちらを勇気づけるように、レノックスは力強く笑んでみせる。
現代の戦車や戦闘機は、基本的に非常に離れた場所を攻撃できるようになっている。
「大丈夫だって! 現実は、怪獣映画とは違うって!」
レノックスの部下の一人もこちらを安心させようとおどけた態度を取るが、サムは険しい顔を崩さなかった。
そんな単純な手が、あの連中に通用するだろうか?
* * *
黒雲の立ち込める荒野に米軍の主力戦車M1エイブラムスと、自走式ロケット砲のMARS、そしてこれらを上回る数の戦車型ドローンが並んでいた。
といっても、現代戦のセオリーに従い各車の間でかなり間隔が開いており、あまり整列しているという感じはしない。
しかし、その全ての砲は荒野の先、無数のテラーコンの上をゆっくりと飛ぶダークメガミに向けられていた。
やがて上官の合図が下ると、それらが一斉に火を噴く。
砲弾が、ロケット弾が、雨あられとダークメガミに降り注ぐ。
しかし砲弾は暗黒の女神が全身を強く発光させると、軍団を包むように球形のエネルギーフィールドが現れ、それに突っ込んだ砲弾やロケットは、
爆発したのでも、撃ち落されたのでも、跡形もなく蒸発したのでさえない。完全に消滅したのだ。
想定外の事態だが、しかしそこはアメリカ軍。
狼狽えたのも束の間、すぐに空軍が支援要請を受けて攻撃を開始する。
しかし遠距離からのミサイルや爆撃は、やはり掻き消すように消滅してしまう。
ダークメガミは恐ろしい咆哮を上げると、両手から破壊光線を発射する。
よけようと後退する戦車隊の前の地面に光線が当たり、爆発を起こす……だけでは終わらない。
爆発の起こった場所の空間が
さらにダークメガミが翼を羽ばたかせると、その羽根が弾丸のように飛んで米軍の上に降りかかる。
それでも戦い続けようとする米軍だが、異変が起こった。
味方のはずのドローンたちが、急にこちらに攻撃を始めたのだ。戦車やMARSのシステムもおかしくなっている。
ダークメガミの羽根……ダークエネルゴンの結晶の力だった。
それでもダークメガミに向かう攻撃は、やはり消えてしまう。
ならばバリアが発生していない時に近づけば、という浅はかな考えも、機械をテラーコン化するエネルギー波が阻む。
敵が……人間の敵が撤退すると、ダークメガミは新たなテラーコンを軍団に加え、進軍を再開するのだった。
* * *
「こ、こんなバカな……」
サイバトロン・システム社の研究室。
モニターに映し出されたダークメガミと米軍の戦いを見て、エップスは愕然と呟いた。
この映像はどうやったものか、この会社のスタッフが米軍の軍事ネットをハッキングして引っ張ってきた物だ。
周りには女神たちやオートボットたち、それにもちろんサムやレノックス、シモンズもいる。
「なんという力だ。これはこのままで倒すのは不可能に近いぞ」
「うん。今は無理かな?」
オプティマスはかつての戦時を思い起こさせる厳しい顔をしていて、ネプテューヌもそれに同調する。
せめて女神化できれば、また違ってくるのだが。
「それよりだな。進行方向から見て、奴らの目的地はフーバーダムだと思うんだがな」
「ダム? なんたってそんな所に?」
彫りの深い顔立ちの胡散臭い男、シモンズの言葉にレノックスは怪訝そうな顔をする。
シモンズが答えようとしたが、その時意外な男が声を上げた。
「フーバーダムには、セクター7の基地がある。……そして、そこには大量のアンゴルモアが備蓄されている」
サヴォイだった。
何処から調達したのやらサングラスをかけ、副官サントスと共に部屋の隅に影のようにして佇んでいる。
「目撃情報から、あのデカブツはそのアンゴルモアをエネルギー源としているようだ。おそらく、ダムに蓄えられている物を使ってデカブツを強化でもするだろう」
その場にいる全員の表情が硬くなる。
今でさえあの力なのに、これ以上パワーアップしたら……考えるだけでも恐ろしい。
オプティマスは決然と言った。
「なんとしても、阻止せねば」
「よっし! 行こうか!」
「んなこと言ったって、真正面から挑むのは自殺行為だぜ! 俺はヤダね!」
「順当なトコは、あのマジャコングだかマジキングだかを潰すことだな」
「問題は、周囲のゾンビとディセプティコンどもか」
「んもー! なんかこー、あの女神像をパワーダウンさせる道具ないのー? 光の玉とか!」
「うーん、どうかな。そうホイホイとは、ないかも?」
バンブルビーが頷くと、クロスヘアーズが文句を言えば、ハウンドが案を出し、ドリフトが問題を提起して、ネプテューヌが騒ぎ、ネプギアが試案する。
皆一様に、あの女神像を倒すことを考えていた。
「ふむ、パワーダウンか……みんな、私に考えが、ある。」
そう言ったのは、海男だった。
全員の注目が集まると、人面魚は話を続けた。
それは、驚くべき内容だった。
オプティマスは深く頷く。
「確かに、それならいけるかもしれんな。……しかし、そのためにはあの女神像に近づく必要がある」
「ダムの手前に街がある。そこで敵を分散させるんだ。それに、この位置の街なら住民も避難しているはずだからね」
「しかし、あのエネルギー波は?」
「おそらくだが、あの機械を怪物に変えるエネルギーは、トランスフォーマーと人間には効果がない。でなければ、ディセプティコンも怪物になっているはずだ。……それと、街の様子を見るにあまりに単純な機械も怪物化できないようだ。例えば、銃とか」
オプティマスの質問に、海男は淀みなく答えていく。
「な、なんか凄いね、海男。見た目によらず」
「まあな! あいつは頭がいいからな!」
本当に知能の高さを見せる海男に目を丸くするネプテューヌに、うずめは我がことのように胸を張る。
バンブルビーがチラリとホット・ロッドを見ると、少しだけ寂しそうに微笑んでいた。
「正気か、お前ら……? 見たはずだぞ。軍を真正面から叩き潰すような化け物だ。それと戦おうっていうのか? しかもそんな、魚類の作戦に乗って!」
そこで、再びサヴォイが声を出した。
サングラスを外すと、本気で怒っているとも驚いているとも付かぬ色の瞳が現れる。
やや気圧されながらも、ネプテューヌは答える。
「いやだから、そう言ってるじゃん。確かに海男は魚だけど、他に手もないし」
「何が理由だ? 目的はなんだ? いったい、どんな裏がある!」
本気で理解できないという顔のサヴォイに、オートボットたちや紫の女神姉妹は顔を見合わせる。
「もー、裏なんかないよー! おじさん疑り深すぎー! ほら、誰かを助けるのに理由はいらないって言うじゃない!」
「そんなはずがあるか!」
調子を取り戻し、あっけらかんと言うネプテューヌに、サヴォイは目を吊り上げる。
「人間ってのは、いつだって裏があって生きてるもんだ! 善意や良心なんてのは下心の上に成り立つ物だ!!」
「え、ええ~……」
ドン引くネプテューヌに構わず、サヴォイはここまで黙って立っていたホット・ロッドを睨みつけた。
CIAの工作員だった彼にとって、無償の善意とは、何よりも信じられないことだった。
「それとお前だ! なぜ、俺を助けた? 撃てないまでなら分かる。しかしなぜ……庇った?」
「……オートボット、だからだ」
短く、それで十分だとばかりに、ホット・ロッドは答えた。
あの場において様々な葛藤や苦悩があったが、それ一番適切な理由な気がした。
今度こそ、サヴォイは驚愕に目を見開き、それから話にならないという風に元いた位置に戻った。
「よし! それじゃあ、全員で一丸となって立ち向かおう。……地球の危機だ」
「やれやれ、奇妙なことになったもんだ」
決意に満ちたサムの声に、シモンズが溜息を吐く。
合流してみれば、自分が組織を見限る原因になった少女に、巨大ロボット。
SF映画にでも迷い込んだ気分だ。
そこでレノックスが、意外なことを言い出した。
「我々も協力しよう。銃が大丈夫なら、やりようはあるはずだ」
「レノックス!?」
その言葉にサムは驚く。
成り行きから行動を共にしているが、
オートボットと共に戦った『前』の彼らとは違うのだ。
そんなサムを代弁するかのように、サントスが心底怪訝そうな顔をしていた。
「正気か? キャリアも何も失うぞ?」
「地球が終わるよりはマシだ。それに何故かは分からないが……こうすべきだという気がするんだ」
「それに、あの連中には仕返ししてやらねえと気が済まねえのさ」
確信を持って言うレノックスの句をエップスがニヤリと笑って継いだ。
「本気かおい。この車と小娘の集団に世界の命運を託すってか? ……いいね、面白い。俺も噛ませろ」
シモンズも楽しそうな笑みを浮かべる。
彼らはみな、何か……何かがあるべき場所に収まってきたような、そんな気分を感じていた。
「こいつら……マジなのか?」
「……サントス、俺たちも行くぞ」
「隊長!?」
愕然としていたサントスだが、無表情のまま放たれたサヴォイの言葉に二度仰天する。
それは他の者たちも同じだった。
特に彼らと因縁のあるキャノピーなどは、あからさまに不信感を顔に出している。
「どういうつもりだ?」
「これは、セクター7の失態だ。失態は取り返さなければならん。……それに」
チラリと、サヴォイはホット・ロッドやうずめを見た。
「俺は感謝も恥も知っているんでな。……借りは返す。それだけだ」
「し、しかし長官はなんと……」
「長官は俺に、現場指揮の全てを任せている」
それだけ言うと、サヴォイはまた黙り込んだ。
サントスは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたが、すぐに表情を引き締めた。
「……というワケだ。同行を許可してもらいたい」
「ふざけんなよ! 許可するワケねえだろ!」
「いや、オレはいいと思う。戦力は貴重だし、彼らは対トランスフォーマー戦のプロだ。こういう時は心強い」
もちろんオートボットたち、特にクロスヘアーズは受け入れかねたが、反対に海男は思いもかけないことを言い出した。
うずめは少し悩んだようだが、海男の言葉ならと頷く。
クロスヘアーズがまだ何か言いたそうだったが、ケッと吐き捨てるにとどめる。
ネプテューヌは、両手を挙げて大きな笑みを浮かべる。
「よっし、話も纏まったことだし、行動開始しよう! いつまでもこうしてグダグダしてても読者が飽きちゃうし!」
「読者……?」
「そうだな。時間はあまりない」
よく分からないことを言い出すネプテューヌに面食らうレノックスやサントスだが、オプティマスは厳かに頷いた。
そして、その場にいる全員を見回し、腕を掲げる。
その顔は、歴戦の総司令官の顔にすっかり戻っていた。
「辛い戦いになると思うが皆、力を尽くし、生き残ってほしい。……
作中の軍事の描写は、作者が詳しくないので、現実と大きく剥離していると思われます。