新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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第18話 帰還

「ロディマス、必ず後悔するぞ! ロディマァァァスッ!!」

 

 叫びながら、ガルヴァトロンは異空間へと吸い込まれた。

 サイケデリックな色味の物理法則の通用しない世界で、なんとか体勢を立て直す。

 

「おのれ……!」

『ガルヴァトロン、裂け目が閉じるぞ! 急いで脱出しろ!!』

 

 右腕のマジェコンヌの声に辺りを見回せば、いくつかの裂け目からさっきまで戦っていた街が見えた。ガルヴァトロン自身の攻撃で出来た物だ。

 しかし裂け目はどんどんと閉じていく。

 一番大きな裂け目も、すでにガルヴァトロンの巨体が通るには小さすぎた。

 ダークエネルゴンの力がない今、こちら側から裂け目を開いて脱出することはできないだろう。

 

「こうなれば!」

『ガルヴァトロン、なにを……!?』

「協力に感謝するぞ、マジェコンヌ。お前の目的……果たせるといいな!」

 

 咄嗟に、ガルヴァトロンは右腕のカノン砲をもぎ取り、大きな裂け目に向かって思い切り投げた。

 

「さらばだ!」

『ガルヴァトロン!!』

 

 なすすべもなく、マジェコンヌは裂け目から元の世界に放り出された。

 

 

 

 

 

 ほとんどのオートボットやディセプティコンがシェアリングフィールドに取り込まれた中、バンブルビーとバリケードはその外にいた。

 シェアリングフィールドが展開するや、バリケードはすぐに状況不利とみてその場を退き、身を隠していた。

 

「野郎! またフェードアウト、する気か!!」

 

 街を必死に探すバンブルビーだが、バリケードは建物の影に息を潜めていた。

 すぐ近くには、ガルヴァトロンの攻撃で出来た空間の裂け目がある。

 

(さてどうする? このまま逃げるのも手だが……)

 

 様子を伺いながら、バリケードは黙考する。

 答えを出すより早く、シェアリングフィールドが消えていくのが見えた。

 向こうは戦いが終わったということか。

 

 その瞬間、裂け目の中から、カノン砲が飛び出してきて、変形してロボットモードに戻り着地する。

 それがマジェコンヌであることに気付き、バリケードは目を見開く。

 

「ッ! お前か! ガルヴァトロンはどうした!?」

「バリケードか。……奴なら、この中だ」

 

 人間の姿に戻ったマジェコンヌはダメージが大きいらしくビルの壁に寄りかかると、顎で閉じていく裂け目を指した。

 その意味する所を察し、一瞬逡巡する様子を見せたバリケードだが、すぐに皮肉っぽい笑みを浮かべた。

 

「狂気の沙汰ほど面白い……ということにしておこう」

 

 言うや、バリケードは裂け目の中に身を躍らせた。

 マジェコンヌが止める間もなくバリケードは異空間に消え、裂け目も完全に閉じて消える。

 

 残されたマジェコンヌは、呆然と裂け目のあった場所を見ていたが、やがて痛む体を引き摺って歩き出した。

 

 目的を、果たすために。

 

  *  *  *

 

 戦いは終わった。

 気絶したニトロ・ゼウス、オンスロート、バーサーカーの三人に、氷像と化したモホーク、動けないドレッドボットらのディセプティコンたちが纏めて拘束され、ただ一人バリケードのみが行方不明となった。

 オートボットたちは、繋がったスペースブリッジを使ってゲイムギョウ界に戻ることになった。

 

 しかし……勝利の余韻に浸っているはずの女神とオートボットたちは今、驚くべき状況に陥っていた……。

 

 

 

 

 

「で? これはどういうことなのかしら?」

 

 何故か地べたにジャパニーズ・セイザするサムとダニエルの父子の前に、背の高い金髪の女性が仁王立ちしていた。

 女神たちとはタイプの違う美人で、知的ながら気が強そうな雰囲気を発している。

 

 彼女はサムの妻、カーリー・ウィトウィッキーだ。

 

 影に日向に夫を支える良妻だが、同時に夫を尻に敷く恐妻でもある。ここのところは都合によりイギリスにいたのだが、騒動を聞きつけ飛んで帰ってきたらしい。

 後ろには、忠実な執事のダッチも控えている。

 

 どういうワケだか、ネプテューヌとオプティマスも一緒になって正座させられていた。

 子供はともかく大の男に加え、女神と巨大ロボットが正座している姿はシュール極まりない。

 

 なお、ネプテューヌは本来の姿である少女に戻っており、彼女がオプティマスの恋人だと知った、実は児童ポルノには厳しいアメリカンたちの視線がちょっと冷たくなる一幕があったが今は置いておく。

 

 サムはオズオズと声を出した。

 

「ええとね、カーリー。落ち着いて聞いてほしいんだけど……」

「あなたは後よ。まずはダニエル、美術館に行くんじゃなかったの? 基地で騒ぎが起こってもしやと思って電話した時、ママがどれだけ怖かったか分かる? とっても心配したのよ!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 眉を吊り上げるカーリーに、ダニエルはしょぼんとする。

 なまじ美人であるだけに、怒ったカーリーの顔はそれは恐ろしかった。

 

「それで! そちらのオプティマスだったかしら? 息子を助けてくれたことにはお礼を言うわ。ありがとう」

「あ、ああ……」

「でも! 夫と息子を巻き込んだことには、断固抗議させていただきます!!」

「申し訳ない……」

 

 カーリーの剣幕に思わず頭を下げるオプティマス。

 後ろでディセプティコンたちをふん縛っていたドリフトが刀を抜こうとして、ハウンドに殴り飛ばされていた。

 

「ううう、なんかこの人、いーすんみたい……」

 

 別の次元まできて怒られて涙目のネプテューヌ。

 確かに、真面目で苦労人気質な感じがイストワールと似ているかもしれない。

 

「い、いや、僕の方から彼らに協力を申し出たんだよ。彼らは僕にとって、大切な友達なんだよ!」

「そうね、そうよね、そうなんでしょうね。でも私は、一言の相談もしてくれなかったことを、怒っているの!」

「…………ごめん。巻き込みたくなかったんだ」

 

 夫の言葉に、名前の通り東洋の怒れる女神の如き顔だったカーリーは、悲しそうな顔になった。

 

「夫婦でしょう? 今更よ」

「……ごめん」

 

 サムは立ち上がって、妻を優しく抱きしめた。

 それを見て、ネプテューヌはちょっと羨ましそうで、オプティマスは夫婦の大変さを感じていた。

 夫から離れたカーリーは息をフッと吐いて表情を緩めるとダニエルを抱き上げ、オプティマスの後ろに控えていたバンブルビーを見上げた。

 

「なぜかしらね? 色々と言ったけど、何故かあなたたちのこと、悪く思えないのよね。ずっと昔に会ったことがあるような気がするわ」

「オイラも……です」

 

 慣れていないのに、敬語でかしこまるバンブルビー。

 彼自身、何処か懐かしい感覚を覚えていた。

 ネプギアは、うずめと並んでそれを困ったような顔で眺めていたが、ふと隣のオレンジの女神にたずねる。

 

「うずめさん。本当に、私たちといっしょに行かないんですか?」

「ああ。前にも言ったけど、俺はこの地球が、結構好きなんだ。行方知れずのパトカーや、マジェなんとかのこともあるしな」

 

 ゲイムギョウ界への道が開いた今、ネプテューヌたちはうずめやホット・ロッドにゲイムギョウ界に来ないかと改めて誘った。

 しかし、うずめはやはりこの地球に残るといい、海男やキャノピー、スクィークスらも彼女に付き合うことを決めた。

 

 彼女たちの面倒は、サムが見るという。

 

「そうですか……うずめさん、色々ありがとうございました!」

「それはこっちの台詞さ。短い間だったけど、楽しかったぜ!」

 

 ネプギアの差し出した手を、うずめは輝くような笑みを浮かべて握り返すのだった。

 

 

 

 

 

 サヴォイたちは、速やかに撤収するべく、迎えに来たらしいヘリに乗り込んでいた。

 

「なんと言うか……悪くありませんでしたね。彼らと、一緒に戦うのも」

「……借りは返した。次は敵同士だ」

 

 冷たく言うサヴォイに、サントスは小さく苦笑する。

 飛び立ったヘリの座席に着いたサヴォイがなんとなしに窓の外を見ると、うずめがこちらに向かって手を振っていた。

 

「……ふん」

 

 鼻を鳴らしたサヴォイは、感情を殺した顔でサングラスをかけるのだった。

 

 

 

 

 

 一同の輪から離れ、ホット・ロッドは一人、佇んでいた。

 何をするでもなく空を見上げる彼に、海男が声をかける。

 

「ホット・ロッド。どうかしたのか?」

「…………」

「ふむ……ガルヴァトロンのことか?」

 

 海男は、ホット・ロッドの悩みをズバリと当てて見せた。

 こういう所が、彼の魚類離れした点である。

 

「あまり、気にしない方がいい。彼は嘘を言っていたのかもしれない。あるいは、本当だと()()()()()()()()()を話していたのかもしれない。いずれにせよ、もう分からないことだ」

 

 正直、ホット・ロッドは海男への嫉妬を禁じえなかった。

 その聡明さもそうだが、うずめとの信頼関係という点において特に。

 

 ディセプティコンを足止めするために、うずめを利用するという手を海男が言い出した時、当然ながらホット・ロッドはそんな危険なことはさせられないと反対したのだ。

 しかし、うずめは二つ返事で海男の策に乗った。

 そこにあったのは絶対と言ってもいい信頼だ。

 

「なあ、海男。お前って、うずめのこと、どう思ってるんだ? その……好き、なのか?」

「なんだい、藪から棒に……しかし、そうだな。好きとか嫌いとか、そういう段階はとうに超えてしまっているかな?」

 

 急に放たれた問いに、海男は真顔のまま片目を瞑って答える。

 

「そうか」

 

 恋愛的な意味ではないのかもしれないが、うずめと海男の間にある絆に、自分の入る隙間など、有り得ないのだと、ホット・ロッドは痛感していた。

 妬ましさが視線に出たのか、海男は困ったような顔をする。

 

「おいおい、そんな顔をするなよ。うずめには、君が必要だ」

「どうかな? お前がいれば十分じゃねえの? 頭いいし、みんなから頼りにされてるしな」

「……しかし、戦う力はない」

 

 ちょっと自虐の入ったホット・ロッドの言葉に、海男の声のトーンが真剣な物になる。

 

「何度思っただろうか。君のような鋼の肉体があればと。オレがトランスフォーマーなら、うずめを守ることが出来るのにと」

 

 それは思いもかけない言葉だった。

 相変わらずの真顔のままだが、それが彼の本音であることを、ホット・ロッドは察した。

 自分が海男を羨んでいたように、海男もまた金属生命体に焦がれていたのだ。

 そう思うと、自然と苦い笑みが浮かぶ。

 

「大丈夫さ。うずめに必要なのは、強い相棒じゃなくて、無茶を諫め、時に支えることが出来る奴だ。……うずめを頼む」

 

 ホット・ロッドは自分なりに決意を込め、屈んで海男に視線を合わせる。

 その言葉の意味を察した海男は、深く目を瞑る。

 

「やはり行くのか?」

「ああ。俺はゲイムギョウ界に行く。今回のことで自分の無力を痛感したからな。向こうで修行してくる」

 

 これは嘘ではないが、しかし理由は他にもある。

 もしも自分が、本当に『ロディマス』だとしたら、父親であるメガトロン、母親であるレイがいかなる人物であるかを知りたかった。

 

 何よりも、ガルヴァトロンが言った自分の使命……()()()()()()()()

 

 それが本当だとしたら、ある日、記憶を取り戻した瞬間にうずめに襲い掛かるのではないかと、恐ろしく思えた。

 だから、自分はうずめから離れる必要がある。

 

「……君の真意がどうあれ、オレに君を止める権利はない。それでも、あまり一人で背負い込み過ぎるな、とは言わせてくれ。友達として、それくらいは許されるはずだ」

「ああ、ありがとよ。ダチコウ」

 

 ホット・ロッドが握った拳に、海男は自分のヒレを丸めて、それを当てるのだった。

 

 

 

 

 

 決戦の地からほど近い荒野。

 ネプテューヌ姉妹と、オートボットたちが並んで立っていると、空から、虹色の光の柱が降ってくる。

 見送りにきていたサムは、総司令官を寂しげながらも笑顔で見上げた。

 

「さようなら、オプティマス。それにビーも。……また一緒に戦えて、嬉しかったよ。後の始末は任せてくれ……こういう時、金持ちは得だね」

「ありがとう、サム。遠い世界で、新しい友と出会えたことは……いや、君とはずっと昔から友だった気がするな」

 

 オプティマスは、改めて屈むことで視線をサムに合わせる。

 

「また会おう、友よ」

「うん、また。今度はメガトロンや、彼のお嫁さんも連れてきてよ。ぜひ、会ってみたい」

「ああ、きっと!」

 

 オプティマスは、力強く頷くと、名残惜し気ながら光の中に入っていく。

 続いて、ハウンド、クロスヘアーズ、ドリフトの三人が拘束したディセプティコンたちを引き摺りながら、光の中へ進む。

 

「うずめ、それじゃあね」

「ああ、二人とも元気でな! ……なにも今生の別れってワケじゃないんだ! 湿っぽいのは無しにしようぜ!」

 

 ネプテューヌとネプギアは、うずめと別れを惜しんでいたが、やがて元気に手を振りながら、光に飛び込んだ。

 

「ビー……またね」

「うん、また、きっと!」

 

 寂しげな顔のバンブルビーは、こちらも寂し気なサムと、短いながらも万感の思いを込めて、再会を誓い合ってから転送されていった。

 

「いやはやまったく……女神とはね」

 

 シモンズは、光の中へと消えていく紫の姉妹と、それを見送るオレンジの少女を眺めていた。

 彼は念のためフーバーダムの施設の避難を進めていたのだ。

 

 以前とは雰囲気が違うが、あのうずめという少女は、自身が組織に逆らうきっかけになったあの少女に違いない。

 仲間たちと一緒に上手くやっているようで、それはいいのだが……。

 

「あんな子供が神を名乗るとは、どんな世界なのかね? その、ゲイムギョウ界ってのは?」

「さあね。少なくとも悪い所じゃなさそうだ」

 

 誰にともなく放たれた問いに、隣に立つケイドが腕を組んで答えた。

 彼は正式にサムに雇われることになった。……発明家ではなく、技術屋としての雇用なのを、本人は最後まで文句を言っていた。

 

「なぜそう思う?」

「あんな子供が神様で、上手く回ってるからさ」

「違いない」

 

 二人は異なる世界に思いを馳せ、笑みを浮かべる。

 

 最後に残ったホット・ロッドは、後ろ髪を引かれる思いで振り返りうずめの方を見た。

 

 スペースブリッジに照らされた彼女の瞳が強く輝いていた。

 ホット・ロッドはこの瞳が好きだった。必ず守ると誓った瞳だ。

 その隣でフヨフヨと浮いている海男が、強く頷いた……実際には体を前に傾けた。

 

 グッと拳を握ったホット・ロッドは、意を決して光の中へと歩いていった。

 今度は、振り返ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 フーバーダムの地下に存在するセクター7の拠点は、混乱に包まれていた。

 ガルヴァトロンの砲撃で送電施設が破壊されたことにより、電力供給が追い付かなくなったのだ。

 今は予備電源が作動しているが、それでも混乱は避けられなかった。

 

 慌ただしく黒服のエージェントや白衣の研究者、作業服の職員が行き交う通路を、一人の男が歩いていた。

 バナチェクというその男は、セクター7でも高い地位にいる人物だ。

 具合が悪いのか、体を引き摺るようにして歩いていく。

 同僚や部下が声をかけるが、心配いらないから自分の仕事に集中してくれと返される。

 

 途中、アンゴルモアを大量に貯蔵した倉庫に入り、液体化したそれが入ったタンクを抱えて持ち出す。

 

 

 施設の深部には、この組織が何十年にも渡って収集してきた最高機密が保管されていた。

 

 角が生えた女神の石碑。

 

 柱状の不可思議な装置。

 

 何か生き物の化石もある。

 

 見る者が見れば、これらがゲイムギョウ界、あるいはサイバトロン星由来の品々であることに気付くだろう。

 

 やがて、施設の最深部にやってきたバナチェクは、そこにある分厚く大きい金属の扉を、指紋認証、声紋認証、網膜認証、パスワードと何重にもなったセキュリティを解除して開き、中に入る。

 完全に扉が閉まると、バナチェクの姿が揺らぎ、銀色の長い髪の女性……マジェコンヌの姿になった。

 本物は今頃、地球の反対側だ。

 

 部屋の中には、巨大な結晶が鎮座していた。

 暗い室内でも自ら淡く虹色に輝くそれは、特大のシェアクリスタルに他ならない。

 異様なのは大きもさることながら、その内部に人影らしい物が見えることだった。

 分厚いクリスタルの壁のおかげで姿はぼやけて判然としないが、かろうじて女性らしいことは分かる。

 

 宝石の琥珀には、太古の虫が閉じ込められている物が稀に存在するが、これはその特大版にも見える。

 

 マジェコンヌはそれを見て懐かしそうに顔をほころばせると、ターゲットマスターの姿へと変身した。

 そして、脇に抱えたタンクを開けて、液状ダークエネルゴンを浴びるようにして吸収する。

 

「ぐうう……こ、これはキツイな」

 

 全身に走る痛みと悪寒に呻きながらもカノン砲モードに変形し、ダークエネルゴンをエネルギーに変換して砲口から吐き出す。

 黒いエネルギーの奔流は、クリスタルに当たるやその表面を融かすようにして削っていく。

 

 本来、このターゲットマスターの姿はこのために用意したのだ。

 ダークエネルゴンの力は、シェアエナジーによって打ち消される。すなわち、逆もまたしかり。

 大量のシェアエナジーを含むシェアクリスタルを破壊するためには、ダークエネルゴンの力を一点に集中させる必要があった。

 

 しかし、これは本来生命と相反する力であるダークエネルゴンの力を体内に取り込むことになるため、マジェコンヌの心身に大きな負担をかける。

 そのために、ダークエネルゴンの化身であるダークメガミを作り上げた。あの女神擬きの力があれば、この特大のクリスタルも容易に破壊することが出来るはずだった。

 ディセプティコンたちは、この場所の情報を手に入れるための手駒。

 ガルヴァトロンのことは予想外だったが、奴がこの地球を滅ぼそうが、知ったことではなかった。

 

(それに合体しているときに見えた、あの光景は……いや)

 

 ディセプティコンも、ダークメガミも、あるいはマジェコンヌ自身も、この時のための手駒に過ぎない。

 

 異変に感づかれたのか警報が鳴り響くなか、エネルギーを吐き出し切ったマジェコンヌは人間の姿に戻る。

 心身への負担から床に手を着くが、荒く息をしながらクリスタルを見上げた。

 かなり小さくなり、輝きも薄れ、罅が入っている。

 

 罅がだんだんと大きくなり、そしてついに、クリスタルが砕け散った。

 

「おお……!」

 

 粉々に砕けたクリスタルの欠片の中から、一つの影が立ち上がった。

 影は裸の少女の姿をしていて、ブラッドオレンジの長い髪に、同色の瞳という天王星うずめと瓜二つ……いや、まったく同じ姿をしていた。

 その姿を見て、マジェコンヌは感極まった様子で、笑顔を浮かべながら涙を流した。

 

「うずめ……うずめ!」

「やあ、マジェっち」

 

 泣き笑いながら手を伸ばすマジェコンヌに、そのうずめらしき少女は笑いかけ、そして傍まで歩いてくる。

 

「ありがとう、マジェっち。おかげで復活できたよ」

「うずめ、うずめ……! 会いたかった、会いたかったんだ! あの時、お前のために何もできなかった自分を、何度呪っただろうか! 一度はお前のことを忘れてしまった時もあった。……でも思い出したんだ! さあ、一緒に帰ろう……ッ!?」

 

 泣きじゃくっていたマジェコンヌだが、その『うずめ』の目を見て固まった。

 何もかもが、あの天王星うずめと同じ姿だが、目が……目だけが違う。

 まるで、この世の全ての怨念と悪意を集めて地獄の釜で煮詰めたような、何処までも続く深淵の穴のような、そんな目だった。

 

「うず……め……?」

「もちろん、帰るさ。……あの世界に復讐するためにね。でもその前に、この世界の連中にも思い知らせてやろう」

 

 静かな声に圧倒されるマジェコンヌ。

 目の前の少女は、姿以外は口調も、雰囲気も、彼女の記憶とは大きく食い違っていた。気のせいか黒いオーラのような物が立ち昇っているようにも見える。

 しかし、その境遇を思えば変わってしまったのも仕方がないことだと考え直す。なによりも、無事でいてくれたことが、嬉しかった。

 復讐にも、程度にもよるが付き合う気だった。

 

「だけど、その前に……マジェっち、君の記憶を少し読ませてもらうよ。これまでのことと、今の状況を把握しないとね」

 

 『うずめ』はそう言ってマジェコンヌの頬に触れる。

 すると、これまで薄ら笑いを浮かべていた『うずめ』の顔に、僅かに不機嫌そうな表情が宿った。

 

「ッ! そうか、まだあの搾りかすと一緒にいるのか。……ロディは」

「ロディ?」

 

 首を傾げるマジェコンヌに構わず、『うずめ』は笑みを浮かべる。

 怒りを内包した笑みだが、それでもさっきまで比べると随分と人間らしい表情だった。黒いオーラが引っ込み、暗黒の沼のようだった目に、微かに光が灯る。

 

「……決めた。復讐は後でゆっくりと楽しむことにして、まずはオレの物を取り返すとしよう。あんな搾りかすのことなんか、永遠に、永久に、永劫に、思い出せないようにしてやる。マジェっちにも手伝ってもらうよ」

「あ、ああ……よく分からんが、うずめのためなら」

「ありがとう。……そうだ、ガルヴァトロンだったっけ? 彼にも協力してもらおう。ヒーローごっこには、魔王役も必要だからね」

 

 新しい遊びを思いついた子供のような顔で、『うずめ』は口角を吊り上げる。

 一方で、マジェコンヌはだんだんと不安が強くなり始めていた。

 それに気付いたのか、『うずめ』はこれまでよりも、柔らかい笑みを浮かべたが、その時扉の外に人の気配がした。

 マジェコンヌが痛む体に鞭打って立ち上がり、うずめを庇うように前へ出る。

 

「うずめ! 後ろへ!」

「ふむ。この場所じゃあ落ち着いて話もできないね。それに、ロディ以外の男に裸を見られるのも嫌だな。……じゃあ、そろそろ、帰ろうか。ゲイムギョウ界へさ」

 

 暢気に言うや、二人の体の下に光に縁取られた穴のような物が出現し、二人を飲み込むと口を閉じる。

 セクター7の警備員が雪崩れ込んで来た時には、シェアクリスタルの欠片が散乱するばかりで、そこにはもう誰もいなかった。

 




現在、ネット環境のない場所に引っ越しまして、ネットカフェからの更新になります。
そのため、感想に対する返信が遅れることを、お許しください。

今回のキャラ紹介

カーリー・ウィトウィッキー
サムの妻であり、ダニエルの母親。
元はイギリスの外交秘書を勤めていた才媛。
怒るととても怖く、サムもダニエルもロンも逆らえない。姑であるジュディとは仲が良い。
旧姓はスペンサー。

出会いは、孤独感に苛まれたサムがついうっかり食事に誘ってしまったこと。
そのまま、酔ってホテルへ→ニャンニャン→交際開始となって今に至る。

ダッチ
ウィトウィッキー家に仕える執事。
元NSAで情報収集やハッキングに長ける。
原作ではシモンズの執事だった、彼である。

『うずめ』
フーバーダムの施設の最奥にあった巨大なシェアクリスタルの中に封印されていた謎の少女。マジェコンヌは彼女を解放するのが目的だった。
天王星うずめと同じ姿、同じ声を持つ。
何故かホット・ロッドに対し強い執着を見せる。
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