新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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閑話 もう一人の男

『まったく、勝手なことをしてくれたわね』

「はい、すいません。でも正しいことをしたと思っています」

 

 サイバトロン・システム社の本社ビル、通称ウィトウィッキータワーの社長室にて、サム・ウィトウィッキーは窓の外を眺めながら特殊な機器である人物と通信していた。

 この機器なら、盗聴や傍受の恐れはない。

 手元の映像端末には、山中に墜落した宇宙船のそばでシモンズがはしゃいでいるのが中継されていた。

 ディセプティコンたちを乗せてきた護送船だ。

 

「我が社の方で、色々と補填しますので、どうか彼らを敵視することは止めてください」

『我が国に許可なく入国、滞在した上に、勝手に戦い始めて、挙句に帰っていった連中を敵視するなと?』

「彼らに我々の常識は通用しません。しかし、彼らは我々を守るために戦ってくれました。そこは保障しますよ……大統領」

 

 通話の相手……かつては国家情報機関の長官にして今はアメリカ初の女性大統領であるシャーロット・メアリングを相手にしても、サムは物怖じしない。

 人々は、メアリングが大統領選で多額の献金をしたサムの言う事なら聞くと考えているが、逆にそんな女性ならサムは献金しなかっただろう。

 

 故にサムは、何としてでもメアリングにオートボットが敵ではないことを納得させる必要があった。

 

『まあいいわ。確かに本当にその……女神とやらが向こうの国家元首だとしたら、とんでもない国際問題に発展した可能性もあったワケだし』

「断言しておきますが、戦争になったらまず勝てませんよ? 技術力に云千年単位の格差がありますから」

『仮に宇宙人が現れたとしたら、我々はかつてのインカやアステカの人々と同じように虐殺されることになるだろう……そんな風に言った科学者がいたわね』

 

 メアリングの言葉に、サムはそんなことは絶対にあり得ないと声を大にして言いたかったが、ここは堪える。

 むしろサムが心配しているのは、地球人がゲイムギョウ界やトランスフォーマーたちにとっての征服者コルテス、あるいは聖書のイブを誘惑した蛇にならないかということだ。

 政治的な欲望や宗教的な憎悪を向こうに持ち込みたくはない。

 

「宇宙人が現れた時、それが我々と分かり合えるとは到底思えないと言った者もいます。しかし、現実には彼らは我々に近しい価値観を持っている。これは、とてつもない幸運です、メアリング。まずは友好的な関係を構築するべきでしょう。……変な陰謀は無しの方向性で。それとも、人類初の異世界間戦争の遠因になった大統領として、歴史に名を遺したいと?」

『あなた、合衆国政府と私をなんだと思っているの? ……もちろん友好的にいくつもりだけど、それには大きな障害があるわ』

「CIA、ですか」

 

 サムは自分の声がやや硬くなるのを自覚していた。

 本来、大統領の許可なく暗躍したCIAは、断罪されてしかるべきだ。

 しかし、そうはならなかった。

 

『色んな連中の利権と思惑が、スパゲッティみたいに複雑に絡まり合っている……というより、ワザとそういう状況を作り出したんでしょうね。私でさえ一刀両断、というワケにはいかないのが現状よ』

 

 メアリングの口調に今までにない棘と疲れが混じる。

 どうにも、CIAの連中は多数の政府高官や財界人、マスメディアや科学者、さらには他の国の要人すらも操っているらしい。

 

『セクター7にしても、形の上では解散させたけど、実際にはCIA主導の新たな組織に再編されただけよ。更迭したCIA長官や幹部たちも、単なる傀儡。黒幕は他にいるわ。他人の影に隠れて人を操ることに長けた、そんな奴がね』

「……心当たりが?」

 

 天下の合衆国大統領、それもメアリングほどの女傑の振るう大ナタを、ここまで鈍らせる狡猾な相手。

 それは誰だ?

 

『確たる証拠も根拠はないけれど、おそらくは元CIAの高官の……』

 

  *  *  *

 

「それでは、第一次計画は失敗か」

「はい。ウィトウィッキーの小僧に、アンゴルモアの絡繰りが気付かれました。もう、同じ手は通用しないでしょう」

 

 何処ともつかぬ豪奢な内装のオフィスで、サヴォイはある人物に直立不動の姿勢を取って報告していた。

 信じられないような値段のスーツをビシッと着こなした、白髪白髭の恰幅のいい男性だ。

 すでに老人の域に差し掛かりつつあるが、眼鏡越しの眼光は鋭い。

 その男はサヴォイに背を向けて窓の外を眺めながら、振り返ることなくニヤリと笑った。

 

「ウィトウィッキーを失脚させられなかったのは残念だが、問題はない。むしろ好都合だ。奴らが騒動を起こしてくれたおかげで、アンゴルモアによる変異体を奴ら(トランスフォーマー)に見せかける手間が省けた」

 

 男が手元の端末を操作すると、壁にかけられたモニターに、激しい戦闘の様子や無残に破壊された街並が映し出された。

 

「今回のことで各国の有識者たちはエイリアンの危険性について正しく認識してくれるだろう。……それよりも問題は、ダムの基地から消えたDC01だ。まだ発見できんのか?」

「はい。まるでこの世から煙のように消え失せてしまったかのようです」

「この世から、か。ならばあるいは、あちらの世界か。厄介だな」

 

 顎の手を当てて思案する男。しかしその顔に焦りはない。

 無論、あちらの世界とは、ゲイムギョウ界に他ならない。

 

「引き続き、捜索を続けます。それで02の方は?」

「大統領の庇護下に入ったとなると、さすがに簡単には手出しできん。当面は放っておけ」

 

 DC02こと天王星うずめへの措置に、サヴォイの鉄面皮が僅かに和らいだ。

 そんな彼に構わず、男は続ける。

 

「DC01については、私の方でも手を回しておく。……まあ、最悪見つからなくても、それはそれで手はある。我々コンカレンスの計画に支障はない」

 

 コンカレンス。

 それはこの男がリーダーとなって結成した秘密組織だ。

 メンバーには、各国の政治家や官僚、大企業家、資産家、さらには宗教の重鎮や高名な学者が名を連ね、ある目的のために動いていた。

 CIAすら、隠れ蓑に過ぎない。

 

「ジェームズ、他に報告がなければ今日はもう下がれ」

「……はい」

 

 ファーストネームで言われてサヴォイが退室すると、男は改めて窓の外を見る。

 そこは広大な地下空間で、信じられないほど大量の妖しげな紫に輝く結晶……アンゴルモア、あるいはダークエネルゴンが地中から突き出し、輝いていた。

 大型の機械がそれを削り出し、防護服の作業員たちが運び出す。

 

 奥には、さらに信じがたい物があった。

 湾曲した柱のような、途方もなく巨大な、機械の何かだ。柱は上にいくほど細くなっており、角のようにも見える。

 

 その角からは薄紅色の液体が漏れ出し、雫となって垂れ、下に設えられた50mプールほどもある槽に溜められる。

 これはアンゴルモアとは違う、より危険なアンチエレクロンと呼ばれる物質だった。

 

「エイリアンどもめ。今度こそは……!」

 

 男は振り返り、映像が映ったままのモニターを憎々し気に見た。

 青と赤のファイヤーパターンの戦士、オプティマス・プライムが敵と戦い、ビークルモードで走り、愛する女神と共にいる様子が映し出されていた。

 

「特にオプティマス。貴様には、相応しい死に様を与えてやる……!」

 

 彼の名は、ハロルド・アティンジャー。

 元CIAの高官であり、サムと同じように前世の記憶を持つ者だ。

 前の世界では、彼はオートボットたちを排斥する組織、墓場の風の黒幕だった。その理由はトランスフォーマーたちの戦いで親しい人を失ったからでも、国と世界を憂いてでもない。

 ただ、金と保身のため。自分の老後を豊かにするため。ただそれだけのために、オートボットを殺し、国を欺き、罪なき者に犠牲を強いた。

 その末路は所業に相応しい、どころか生温いとさえ言えるものだったが、彼自身はそうは思っていなかった。

 

 一度死を経験したことで、その自己中心性は収まるどころか加速して病的な域に達し、そこに前世でのCIA職員としての知識と経験を生かして、他人の弱みを握りあるいは陥れることで得た権力が合わさった今、彼の目的はただ一つ、自らを殺した相手への復讐だった。

 厳密には、あのオプティマスたちは『前』の彼らとは別人であると理解していたが、そんなことは関係ない。

 

 彼らが生きていて、しかも幸福でいることが、何よりも許し難かった。

 

「エイリアンどもに、神を名乗る化け物、それを崇めるカルトども。全て一掃してやるぞ!」

 

 その憎しみはトランスフォーマー全てと、彼らを安寧へと導いた女神たち、さらには彼ら彼女らの暮らすサイバトロン星とゲイムギョウ界その物にまで向けられていた。

 アティンジャーのしたことを思えば、それは逆恨み以外の何物でもなかったが、彼はこれを崇高な使命とすら思っていた。

 

「今から楽しみだ、オプティマス。貴様の首を壁に飾るのがな」

 

 ダークエネルゴンの放つ光を受けてほくそ笑むアティンジャーの影が、オフィスの床に伸びる。

 しかし、影は人の形をしておらず、禍々しく歪み大きな二本の角が生えている。口に当たる場所には、三日月のような亀裂が入っていた。

 

 あたかも、嗤っているかのように。

 

「そうとも、これは神の思し召しだ。神が私に、復讐の機会をくださったのだ」

 

 実際、それは神に与えられた使命であり、好機だった。

 例えそれが、世界の破滅を目論む、邪悪な神だったとしても……。

 




あとがきに代えて、キャラ紹介。

アメリカ合衆国大統領シャーロット・メアリング
元は国家情報局の局長にして、アメリカ初の女性大統領。
アメリカと国際社会の現状を憂いて政治家に転向。大統領選に出馬するが、対立候補の不動産屋さんに財力の差で負けかけるも、サムの政治献金のおかげで逆転勝利を収める。
以来、内政外交に辣腕を振るい二期目当選確実と言われる鉄の女。
嫌いな物は戦争と汚職。

シモンズとは、やっぱりいい仲だった時期があり、お互いに未練があったりもする。

ハロルド・アティンジャー
元CIAの高官にして国際的秘密組織コンカレンスのリーダー。
その実態は、原作シリーズ第四作ロストエイジに登場したアティンジャー本人の生まれ変わり。
めげぬ、懲りぬ、省みぬ。

もはや語ることも憚られる、作者の仇敵。

ちなみにコンカレンスとは、玩具のみのシリーズ『バイナルテック』の設定に存在する、全TFの排除を目論む秘密組織。ドクター・アーカビルだのチャムリー卿だのが参加している。
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