新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

25 / 75
前回の閑話『魔王』は、これから起こることとして書きました。つまり予告編。

分かりにくくて、申し訳ありません……。


第19話 ゲイムギョウ界

 ゲイムギョウ界は西方に位置する国家、『革新する紫の大地』ことプラネテューヌは、その首都中央部。

 国政を司る『教会』の本部であり、この国のシンボルでもある未来的な超高層建築物プラネタワーのテラスで、ネプテューヌは他の国の女神たちに地球での顛末を説明していた。

 

「……ってな感じでさー!」

「まーた、大冒険だったわね、それは……」

 

 ネプテューヌの話を聞いて、ゴシック風の衣装を着て長い黒髪をツインテールにし、勝気そうな赤い瞳が印象を残す目鼻立ちのハッキリした少女、ラステイションの女神ブラックハートことノワールが息を吐く。

 

「他の世界……地球、でしたかしら? その世界は、随分と混沌としているようですわね」

「普通、一つの時代に国が十も二十も存在するなんて、ありえないわ……それも女神が存在しない国なんてね」

 

 緑色のドレスを纏い、金糸の如き長い髪と垂れ目がちな青い目に豊満な姿態を持ち、優し気な雰囲気の妙齢の美女。リーンボックスの女神グリーンハートことベールと、首回りにファーのついたコートを羽織り大きな丸い帽子を被った大人し気な顔つきの、片ほどで切りそろえた薄茶の髪と青い瞳の小柄であどけない容姿の少女、ルウィーの女神ホワイトハートことブランが口々に感想を言う。

 女神が頂点に立つ四つの国とその他、というのが基本のゲイムギョウ界に生きる彼女たちにとって、地球の様子というのは奇異に見えた。

 

「まあ、向こうから見れば、こっちが不思議なんだろうし……それで、そのガルヴァトロン、というのは本当に……()()ガルヴァなの?」

「それは……分かんない、かな?」

 

 ノワールの問いに、ネプテューヌは歯切れ悪く答えた。

 あのメガトロンの息子を名乗るディセプティコンが、本当に未来からやってきたのか、ただの狂人だったのかは、もう分からない。

 タイムスリップなんてありえない……とは言えない。

 かつて、先代総司令官センチネル・プライムは遥か過去に転移し、そこで一万年の長くに渡る眠りを経て、現代に復活した。

 それはディセプティコンの始祖、堕落せし者(ザ・フォールン)ことメガトロナス・プライムの遠大な陰謀の一端だったが、同じようなことが起こらないとは言い切れない。

 そこでネプテューヌの顔がパッと明るくなった。

 

「ま、そのうちまた現れるでしょ。次元の狭間に消えるなんて、再登場フラグだし! 彼、しぶとそうだったし!」

「あなたはまた……はあッ、いいわもう。それよりも、今当面の問題について話しましょう」

 

 異世界を旅しても相変わらずの紫の女神に、思わず息を吐いたノワールだったは、気を取り直して話題を変える。

 

「ええ、今差し迫った問題は……」

「惑星サイバトロンと連絡が付かないことね……」

 

 すると、ベールが目に心配げな色を浮かべ、ブランがその句を継ぐ。

 

 ネプテューヌたちが帰還した直後から、ゲイムギョウ界はサイバトロンと連絡が取れなくなった。

 あらゆる方法を試してみたがまるでダメで、さらにはスペースブリッジによって転移することも出来なくなってしまった。

 ブリッジ自体に問題はないにも関わらず、サイバトロンにも、他の次元にも繋がらないのだ。

 

 今や、ゲイムギョウ界は孤立していた……。

 

「いやまったく困ったもんだー……クチュンッ!」

 

 腕を組んで深く椅子に座りなおしたネプテューヌが小さくクシャミをすると、突然ポンッと音がして、彼女の姿が変わった。

 元気そうな印象そのままに、大人の体へと。

 

「あーあ、また変身しちゃった」

「ね、ネプテューヌ!? どうしたのよ、その姿は!」

 

 困ったような顔の大人ネプテューヌに対し、ギョッとするノワール。

 ベールも目を丸くし、ブランに至っては裏切り者を見るような顔で、大人化した紫の女神の胸元を凝視していた。

 

「あー、なんかふとした拍子に大人になるようになっちゃったんだよね。ま、この姿もセクシーでいいんだけど!」

「お、おおう……」

 

 立ち上がってちょっと体つきを強調するようなポーズを取るネプテューヌに、ブランはついに白目を剥いた。

 

  *  *  *

 

 さて、プラネタワーの下部は、トランスフォーマーたちの施設も兼ねている。

 以前オートボットたちはタワーから離れた場所に基地を構えていたが、前大戦の終盤にタワーが壊滅したために、建て直す際に人間とトランスフォーマーの両方が暮らせるようにしたのだ。

 その施設の一角にある訓練所では、ホット・ロッドとバンブルビーが組手を行っていた。

 

 この二人、気が合うのかよく行動を共にしている。

 

 パンチ主体の体術で攻めるホット・ロッドだが、バンブルビーはノラリクラリと躱しながら、カウンターを繰り出し確実に相手の体力を削っていく。

 そして、頃合いを見計らって強烈な回し蹴りを腹に叩き込んだ。防御はしたものの、ホット・ロッドは後退する。

 

「グッ……!」

「甘いって。もっと、敵の隙を、伺わないと」

「わーってるって。例えば、こんな感じ……な!」

 

 バンブルビーが追撃として繰り出してしきた拳を僅かに身を逸らすことで躱し、顎に拳を打ち込む。

 

「ぐおッ!? ……やるじゃん。でも、まだまだ、こっから!」

「望むところ!」

 

 

 

 

 

 組手をする若い戦士二人を見下ろせる位置に、オプティマスが副官ジャズとアイアンハイドを伴って立っていた。

 

「あれが例の、地球で拾ってきたって奴か。なるほど、筋は良さそうだな」

「しかし、あいつがロディマスだってのは本当なのか?」

 

 アイアンハイドとジャズが視線を向けると、オプティマスは難しい顔をしていた。

 

「正直、分からん。そのことも含めて、メガトロンやレイとも話がしたかったのだが……」

「あいつら今、サイバトロンにいるからな」

 

 アイアンハイドは腕を組んで排気する。

 運の悪いことにメガトロン以下、主だったディセプティコンの幹部たちはサイバトロンにいた。

 次元に干渉する力を持ったタリの女神が向こうにいるのにも関わらず、何の連絡もない辺り、本当に異常な事態なのだ。

 

「地球のこと、ホット・ロッドのこと、ガルヴァトロンと彼の言っていたこと、気にはなるが、まずは目前の問題からだ。各地で何が起こっているか、また起こりうるか、皆の意見を聞きたい」

 

 厳かな総司令官の言葉にジャズたちが頷くのと、ホット・ロッドがバンブルビーに蹴り倒されるのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

「だー! 負けたー!」

「経験値が、違う、っての」

 

 大の字になって床に寝そべるホット・ロッドを前に、バンブルビーが腰に手を当てて勝ち誇る。

 やはり、大戦を潜り抜けてきた情報員と記憶喪失の騎士では実力に差があるらしい。現実は、小説のようにはいかない。

 

「おーい、ビー! 時間だよー!」

「あ、うん!」

 

 そこへネプギアが部屋の入口から声をかけてきたので、バンブルビーが手を振って応じる。

 ホット・ロッドは上体を起こした。

 

「なに? どっか行くの?」

「まーね。……付き合う?」

「じゃ、せっかくなんで」

 

  *  *  *

 

 気に入ったのかビークルモードが地球のカマロのまま、ネプギアを乗せて走るバンブルビーの横をチェンテナリオの姿で走るホット・ロッドは、なんとなしに街の風景を眺める。

 オートボットが建設現場で働き、ディセプティコンが幼稚園バスに変形して子供たちを送迎し、人間ももちろんそんな彼らを当然のように受け入れている。さらには、モンスターの中でも人間に害をなさない者は、市民としてくらしていた。

 

 人間たちに追われたことのあるホット・ロッドからすれば、この光景は夢のようだった。

 

 やがて三人がやってきたのはとある孤児院であった。

 プラネテューヌの建物らしく近代的な造りで、門柱のプレートには『センチネル孤児院』と刻まれている。

 門の中に入るや、庭で遊んでいた何人かの子供たちが寄ってきた。

 

「あッ! ビーだ!」

「ギアおねえちゃんも!」

「おお! みんな、元気みたい、だね」

「今日はお土産をもってきたよ」

 

 顔馴染みらしく、気さくな調子のバンブルビー。ネプギアは子供たちに持参したお菓子を配っていた。

 

「わーい、お菓子だー!」

「でもさ、センセイが三時と夕ご飯後のデザート以外にお菓子を食べちゃダメだって……」

「いいじゃん。ばれなきゃ……」

「こらー!」

 

 子供たちがお菓子を何時か食べるか話し合っていると、建物の中から甲高い声がした。

 見ればドタバタと足音を立てて、金髪の幼げな少女が駆けてくる。

 

「あなたたちー! また勝手にお菓子を食べようとしたわねー!」

「わー! 幼女センセイだー!」

「幼女、幼女―!」

「だれが幼女だー! あーもう!」

 

 クモの子を散らすように逃げていく子供たち。

 金髪の幼女……もとい、この孤児院の経営者のアブネスは、ギロリとネプギアを見上げた。

 

「次からは、お土産はお菓子じゃなくて別の物にするか、一度あたしに預けてちょうだい。」

「は、はい。すいません……」

「ま、いいけど。何よそいつ、新顔?」

 

 気圧されるネプギアを放っておいて、アブネスはホット・ロッドを見上げた。

 

「どうも。俺はホット・ロッド。一応、オートボット」

「年末商戦の玩具ばりにいつの間にか増えるわよね、あなたたち。……それで本日は当院にどういったご用件でしょうか?」

 

 髪と服装の乱れを整え、急に畏まった余所行きの態度になるアブネスにバンブルビーとホット・ロッドは顔を見合わせるが、ネプギアだけは性分なのか真面目な顔をした。

 

「マジックちゃんに、会いに来ました」

 

 

 

 

 

「マジェコンヌさんのことなら、なにも知りません」

 

 施設の厨房でナスを炒めていた赤い髪をツインテールにした少女……マジックは、庭に呼び出されるや、ムッツリとそう言った。

 ナスに棒を刺して手足に見立て、顔を刻んだアレの形をしたヌイグルミをギュッと抱え、全身から寂しさが滲み出ている。

 

「ただ、友達に会いにいくって言ってました」

「そ、そうじゃなくて……困ったこととか、ないかなって」

「別に。みんな優しいし、ごはん美味しいし……マジェコンヌさん、迎えに来てくれるって約束してくれたし」

 

 友達という言葉が気に掛ったが、今は追及するべきではないと考えたネプギアが苦笑いしながらも言うと、マジックはプイッと顔をそむけた。

 

「そうなんだ」

「だから、わたしはここで待ってるんです」

「うん。偉いね……」

 

 ホット・ロッドたちは二人の様子を少し離れた位置から見守っていた。アブネスは腕を組んで不機嫌そうにしている。

 

「勝手なもんよね。どんな理由があるにせよ、置いてかれた子供は傷つくってのに」

「…………」

 

 ああ、まったく勝手なもんだとホット・ロッドは心の中で深く同意する。

 

『メガトロン。ディセプティコンの軍事的指導者。

少なくとも100件以上の戦闘行為に参加し、判明しているだけでも30000を超すオートボットを殺害した。

間接的な殺害となると、この数字は数十倍から数百倍に跳ね上がるのは確実である。

また、数多くの危険な発明に関与し、有名なところでは……』

『タリの女神は、その暴政で知られる。

数多くの国々を侵略し、民に重税を課しながらも自身は贅沢に耽ったと言われる。

結果的にそれは自身と国の破滅を呼ぶところとなり……』

 

 様々な資料を調べて浮かび上がってくる、メガトロンとレイの姿。

 それはどうしようもない悪人だった。

 

(本当に……本当に、あれが俺の両親だってのか? やっぱり、ガルヴァトロンの野郎は狂ってて無意味なことを言ってたんじゃないか?)

 

 一人悩むホット・ロッド。

 だが、その時各種センサーが異常を捕えた。

 

「バンブルビー!」

「うん、気付いてる。空気が、おかしい」

 

 二人が空を見上げると、雲一つなかった空に、急に黒雲が立ち込めた。雷が鳴り、雲が渦を巻く。

 

「あらやだ、雨でも降るのかしら?」

 

 呑気なことを言うアブネスだが、それどころではない。

 雲の渦の中央がカッと雷とは違う光を放つや、黒雲が嘘のように散って青空が見える。

 しかし、オートボットたちの視覚センサーは空が光った瞬間現れた物を捕えていた。

 

「人だ! 女みたいだぞ!」

「ギア! 空から、女の子が!」

「ええッ!?」

 

 言われて慌てて見上げたネプギアの目に、遥か上空から流れ星のように落ちてくる何かが映った。

 次の瞬間には、女神化して飛び上がり、落ちてくる少女を体全体で受け止める。

 落下の勢いを殺し切れずに地面に激突しそうになるが、バンブルビーが無事にキャッチした。

 

「ふう……ありがとう、ビー」

「なんの、なんの。それより、その子は……え!?」

「ビー、どうし……え、嘘!?」

「おい、大丈夫か! ……なあッ!?」

 

 気を失っているらしい少女に視線を落としたバンブルビーとネプギアは揃って驚愕する。

 心配そうに寄ってきたホット・ロッドも、少女の姿を見とめるやオプティックを見開いた。

 

 ブラッドオレンジの髪を二つに結び、ワイシャツとプリーツスカートを改造したらしい露出度の高い独特の衣装。目は閉じられているが、きっと髪と同色だろう。

 

「うずめ……」

 

 天王星うずめが、そこにいた。

 しかし、なぜ地球にいるはずの彼女がここにいるのか?

 

「うずめさん! うずめさん、しっかりしてください!」

「よく分かんないけど、とりあえず病院に連れてきなさい。この近くだと……」

 

 腕の中のうずめに呼びかけるネプギアに対し、近づいてきたアブネスは冷静に判断する。

 しかし、ゆっくりとうずめの目が開かれる。やはり髪色と同じブラッドオレンジだったが、不安げに揺れていた。

 

「うずめさん! 起きたんですね!」

「…………あなたたち、誰?」

「え!?」

 

 うずめの口から吐き出された言葉に、ネプギアは動揺する。

 

「オレは、誰……? ここは何処なの? 分かんない、何も思い出せないよぉ……!」

 

 幼い子供のような口調で、酷く混乱した様子のうずめに、ネプギアとバンブルビーは顔を見合わせる。

 元々うずめは一度記憶を失っている。もう一度記憶を失くしても、不思議はないのかもしれない。

 

「うずめって、オレのことなの? 分かんない、分かんないよぉ……」

「大丈夫ですよ、うずめさん。私たちが付いていますから、ね?」

 

 すすり泣くうずめを、ネプギアは優しく抱きしめて背中をさすってやる。

 バンブルビーは近隣の病院に連絡を入れ、アブネスとマジックはタオルを取りに建物の中に戻った。

 

 ホット・ロッドだけが、愕然と立ち尽くしていた。

 その脳裏には、ガルヴァトロンの言葉が自然と再生された。

 

(何のために俺たちが別々の時間軸に跳んだと思っているんだ?)

 

(お前にもまた使命があるのだ。お前自身が自分に課した使命がな)

 

(それは……天王星うずめを、殺すことだ)

 

(ロディマス、必ず後悔することになるぞ!)

 

 果たしてあれは……本当に狂人の戯言だったのだろうか?

 結局、うずめを病院に連れて行こうとするバンブルビーに小突かれるまで、ホット・ロッドは動くことが出来なかった。

 

  *  *  *

 

 かくて、物語は再び動き出す。

 

「プレストキーック! ……こんな感じかな!」

「おー、いいね! 最初はどうなることかと思ったけど、これならスタイリッシュに決められそうだ!」

「任務了解……ふふふ、早くノワールさんに会いたいなあ♪」

「興味ないね」

 

「ふむ、ここがゲイムギョウ界か……なんだなんだ、美少女ばかりではないか! なんと素晴らしい」

「はあッ……まったくもう」

 

 新たな仲間たちと、

 

「将軍! どうやら状況が動いたようでござるよ!」

「くくく、よしよし。ではワシたちも動くとするか。……おい、それはプレミア品だぞ! 大事に扱え!!」

「申し訳ありません、坊ちゃま。わたくしにはガラクタにしか見えないもので」

 

「……私の杖、必ず取り戻してみせる。創造主の名にかけて」

 

 新たな敵を加えて。

 




後書きに代えて、キャラ紹介

アブネス
幼年幼女の味方を自称する女性。
自身も幼い少女のような姿だが、酒がいける歳らしい。
思い込みが激しく強引で滅多に自分の考えを曲げないとても困った人だが、子供たちを守ろうという気概は本物。
前作で色々あって本人なりに思うところがあり、孤児院を経営しはじめる。院の子供たちからはなんだかんだ慕われている模様。

最後にたった一人でも、ほんの僅かでも内面を理解してくれる人が現れたことは、きっとセンチネルにとっては何よりの救いだったと思う。

マジック
色々あってマジェコンヌが引き取った少女。赤毛をツインテールにしている(昔は眼帯もしてたが止めた)
とてもしっかりしているが、年相応の幼さも持つ。
マジェコンヌが去ったことを本人なりに納得しようとしているが、内心ではとても寂しい。

元ネタはネプテューヌmk2におけるネプギアの宿敵、マジック・ザ・ハード。原作ではナイスバディのお姉さまです。
……まさか原作シリーズで、ホントにマジックモチーフの幼女が現れるとは思わなんだ。

女神たちは、またいずれ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。