新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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中継ぎ回。


第27話 鉄騎

 プラネテューヌの草原を、五台の車が走っていく。

 その車群は、いずれもゲイムギョウ界には存在しない車種だった。

 

「時間もないので、簡単に説明する」

 

 アバーッシリ刑務所に向かう最中、ビークルモードのバンブルビーに乗ったミリオンアーサーは、刑務所を襲っているのであろう鉄騎アーサーなる存在について説明していた。それは通信回線を通して、距離の関係から後続するオプティマスや女神たちにも聞こえていた。

 

「そも、アーサーとはわたしを含め、王を選定する剣エクスカリバーを抜き次代のブリテン王の資格を得た者のことだ。しかし王の椅子はただ一つ。故に全てのアーサーはその椅子を巡って競い合っている。鉄騎アーサーもそうした一人だ。奴はいくらか前にブリテンに現れて、瞬く間に勢力を拡大して見せた。わたしは奴に対抗する手段を求めて、この地にやってきたのだ」

「その鉄騎アーサーとやらがやってることは悪いことなのかい?」

「奴はやり方がかなり強引でな。敵対する者には容赦がない。……もちろんそれだけなら、貴君らには何の関係もないこと」

 

 ムッツリとした顔のうずめ……結局、彼女もやってきた……を乗せたホット・ロッドの疑問に答えたミリオンアーサーは話を本筋に戻す。

 

「しかし、奴は……人間ではなかった。貴君らと同じトランスフォーマーだったのだ」

『!』

 

 その言葉に、一同の空気が驚きと同時に引き締まる。

 アーサーというのがどれほどの力を持っているか分からないが、碌な準備もなく鋼の巨人と戦うのはつらかろう。

 

「あのデカブツ、インフェルノカスは鉄騎アーサーの手下だ。ブリテンに住む者として、わたしにも協力する義務がある」

『……なるほどな。ではミリオンアーサー、改めて協力を要請する』

 

 通信の向こうのオプティマスが納得したような声を出した。

 力強く、ブリテン王を目指す少女は頷く。

 

「ああ、喜んで! 民のために戦うは王の務めだ!!」

「と、お話し中悪いがね。見えてきたぜ、例の刑務所だ」

 

 ハウンドの言う通り、アバーッシリ刑務所が見えてきた。岬の先のある建物からは煙が上がっている。

 

「司令官、オイラたちが、先行します」

『ああ。我々もすぐに追いつく。くれぐれも無茶はしないでくれ』

「了解!」

 

 そのまま、建物に近づいていく一同だが……。

 

「……おかしい」

「ハウンド? どうしたんだ?」

「静かすぎる。襲撃されたってのに、囚人どもが騒いでる様子がねえ」

 

 言われてみれば、確かに刑務所は不気味なほど静まり帰っていた。

 

「けどよ、出迎えはいるみたいだぜ」

 

 クロスヘアーズの言う通り、崩れかけた門の内側に、大鬼のような影があった。

 映像で見たのと同じ姿の、インフェルノカスだった。こうして見ると、明らかにホット・ロッド五、六人分はありそうな巨体だ。

 門番でも気取っているのか、道を塞ぐようにして立っていて、その向こうに刑務所の本体ともいうべきコンクリートの重々しい建物と鉄製の大きな扉が見えた。門と扉の間は、本来は駐車スペースなのだろう、それなりに広そうだ。

 と、インフェルノカスがこちらに気付いたらしく、咆哮を上げてこちらに向けて両腕のキャノン砲を発射してきた。

 

「あんなデカイ奴倒すにゃ、ちと弾が足りねえな」

「臆したか、ハウンド! ならば一番槍はこのドリフトがもらう!!」

「おいおい、抜け駆けはナシだぜ!!」

 

 冷静なハウンドに対し、ドリフトは加速して降り注ぐ光弾を掻い潜りながら突っ込んでいき、クロスヘアーズもそれに続く。

 

「待て! 奴は……!」

 

 バンブルビーの運転席に乗ったミリオンアーサーが何か言うよりも早く、クロスヘアーズは加速の勢いのままに変形しながらインフェルノカスの脇をすり抜けて後ろに回り込み、短機関銃で顔面を狙う。

 

「デカブツめ、とろいぜ!!」

「お命頂戴!!」

 

 光弾を受けても大したダメージはないものの、その隙にドリフトが変形すると刀を一閃、大鬼の左腕を斬り落とした……いや、斬られる瞬間左腕が肩から自ら()()()()

 

「なに!?」

 

 地面に落ちた左腕はギゴガゴと音を立てて変形し、黒い犬のような姿に変形する。ただし、頭が二つあり目が緋色に燃えている地獄の番犬だ。

 

「グルルルゥ!!」

「おのれ、面妖な……!」

 

 双頭犬は牙を剝いてドリフトに向けて飛び掛かる。

 クロスヘアーズは双頭犬を侍に任せて本体を狙おうとするが、今度は右腕が分離するや猛禽類のような姿に変形して耳障りな鳴き声を上げ、黒い骨組みに緋色の羽根の翼をはためかせて襲い掛かる。

 

「グゥェエエエッ!!」

「なんだこりゃ、気色わりい!!」

「化け物め、これでも喰らいな!!」

 

 軍用トラックの姿のまま突っ込んできたハウンドは前転するようにしてロボットモードに変形し、間髪入れずに両腕のない胴体に向かって三連ガトリングを発射する。

 弾雨に晒された腕のないインフェルノカスが後ろに下がるや両足が分離し、胴体と左右の足がそれぞれ別の姿に変形する。

 

「ゴブッ、ゴブッ……!」

「シュー、シュー……!」

「グググ……」

 

 左足が、頭に緋色のモヒカンのようなトサカがある熊ともゴリラともつかない姿の獣に。

 右足が、鮫と肉食恐竜の合成獣のような姿に。

 そして手足が離れ残った胴体がインフェルノカスを小さくしたような、二本の角を持つ髑髏のような顔の鬼へと。

 

「ゴブブッ!」

「近寄るんじゃねえや、このヘンテコが!!」

 

 見かけによらぬ素早さで組み付いてきた熊ゴリラを、ハウンドは素早く引きはがして投げ飛ばす。

 すると、熊ゴリラは難なく着地し近くに転がっている瓦礫を投げつけてくるが、ハウンドもこれを躱す。

 一方、ミリオンアーサーとチーカマを降ろしたバンブルビーと、その隣に降りてきたネプギアは、ブラスターとM.P.B.Lで鮫恐竜を迎え撃つ。

 

「シャーッ!」

「五体に分裂した……いえ、五体が合体してたんだ!」

合体兵士(コンバイナー)、だったのか!!」

 

 ミリオンアーサーもチーカマを後ろに庇いながら剣を抜き、ホット・ロッドは二丁拳銃を抜きうずめは拳を鳴らす。

 

「チーカマ、下がっているんだ……みんな、気をつけろ! 奴らの連携は侮れないぞ!」

「そういうことは先に言っといてくれ。……何だか知らないがオレは今、猛烈にムシャクシャしているんだ。悪いが八つ当たりさせてもらうよ!!」

「うずめ、無茶はするなよ!!」

 

 うずめが先行して拳を骸骨鬼に叩き込もうとするも、骸骨鬼は背中から長短二本の蛮刀を抜き、それを交差させて拳を防ぐ。飛び退いたうずめは、驚いた様子で骸骨鬼を見上げた。

 

「ッ……! デカブツの割りには器用なことするじゃないか」

「グググ……デカブツ、ちがう。オデ、スカルク」

 

 たどたどしいながらも口を利いたスカルクなる金属生命体は大柄な体躯の通りのパワーでうずめを弾き飛ばす。

 

「グッ……! 喋れるのか、アイツ……」

「うずめ!」

 

 うずめの体をホット・ロッドが掌で受け止めた横を、ミリオンアーサーが駆け抜けるや、手に持ったエクスカリバーに空いた手で腰のカードホルダーから取り出したカードの束を翳す。

 

「我が騎士、第二型オンズレイクよ。その力、借してくれ!!」

 

 するとカードから噴き出した炎がエクスカリバーを包んだ。しかし、ミリオンアーサー自身の肉体が焼かれることはない。

 

「炎の魔法剣を受けてみよ!」

 

 そして、高く跳躍してスカルクに向けて剣を振り下ろす。

 スカルクはまたしても蛮刀を交差させて体を守るが、勢いに負けて数歩後ずさる。

 

「ッ! 駄目か!」

「グググ……お前、覚えてる。前に、負けてた。逃げてた。また、逃げる?」

「その通り、わたしは鉄騎アーサーに敗れた。だが、ここで逃げることはできんな!!」

「よく言ったぜ、ミリアサ!」

 

 その隙に、ホット・ロッドが相手の後ろに回り込み二丁拳銃で攻撃する。光弾はスカルクの体に命中するも、その装甲を砕くには至らない。

 

「オデたち、入り口、守る。命令」

 

 唸りを上げてスカルクの蛮刀が振るわれるも、若きオートボットとアーサーはこれを飛び退いて回避。うずめと共に体勢を整える。

 

「スカルク! そなたがいるということは、鉄騎アーサーもこちらに来ているのだな!」

「グググ……オデたち、入口、守る。……ラプチャー! スラッシュ! グラッグ! ゴルジ! インフェルノコン、合体!!」

 

 剣を突き付けてのミリオンアーサーの質問に答えず、スカルクは仲間たちに号令を出す。

 すると怪鳥型のラプチャー、双頭犬型のスラッシュ、鮫恐竜グラッグ、熊ゴリラことゴルジの四体のインフェルノコンたちは、それぞれ戦っていた相手を置いてスカルクのもとへ集まった。

 グラッグとゴルジが両足に変形するや、スカルクが身の丈に合わぬ高さに跳躍し、でんぐり返るようにして合体し、胴体と頭部に変形になる。さらにそこにラプチャーとスラッシュが両腕として合体することで、再び大鬼インフェルノカスが姿を見せた。

 

「へ! 離れたりくっ付いたり忙しい奴だぜ!」

「落ち着きのないことだ!!」

「的が大きくなりゃあ、当てやすいってもんさ!」

 

 オートボットたちもいったん、バンブルビーを中心に集まる。

 

「あのトランスフォーマーの合体機構、コンストラクティコンの皆さんよりも完成度が高いみたい」

「そうなの?」

「うん。各パーツを構成する人たちの負担が少ないし、大きさの割には運動能力も高い。……ちょっと分解したいかも」

「…………」

 

 相も変わらぬメカフェチらしい観点から敵を分析するネプギアが最後にボソッと呟いたことを、バンブルビーは敢えて聞かなかったことにした。

 

「どうやら数の上ではこっちが有利だな!!」

「油断するな、ホット・ロッド! おそらく、敵はこやつだけではない!」

「分かってるって! その鉄騎アーサーとやらがいるんだろう!!」

 

 ミリオンアーサーに窘められてもホット・ロッドの勝利への確信は揺るがない。もうすぐ、ここにオプティマスたちがやってくるからだ。

 

「俺たちは時間を稼ぐだけでいいんだ!」

「信頼しているのだな、オプティマス・プライムを!」

「もちろんさ!」

 

 自信を漲らせるホット・ロッドに、快活な笑みを見せるミリオンアーサー。息の合った様子の二人に、うずめは何故かムッとしていた。

 

「へッ! オプティマスたちを待つまでもねえや!」

「あれは倒してしまって構わんのだろう?」

 

 またしてもクロスヘアーズとドリフトが先陣を切り、インフェルノカスが咆哮を上げて、再び戦いの口火を切ろうとした時だ。

 冷たい声がした。

 

「インフェルノカス、少し待て」

『……ッ!?』

 

 その声を聴いて、ネプギアとホット・ロッドは驚愕に顔を歪める。だが一番驚いていたのは、うずめだった。

 絶句し大きく見開かれた彼女の目には、黒衣に中折れ帽という魔女のような風体に、長い銀髪とアイスブルーの瞳の怜悧な雰囲気の女性が写っていた。

 

「あなたは!」

「マジェコンヌ……!」

 

 刑務所の大きな鉄製の扉が開いて悠々と出てきたマジェコンヌを見て、ネプギアとミリオンアーサーが声を上げ、それから顔を見合わせる。

 マジェコンヌは、辺りを見回し、最後にチラリとうずめを見たが、すぐにネプギアやオートボットたちを睨みつけた。

 

「しばらくだな、ネプギアにオートボットども」

「そんな、あなたは地球に取り残されたんじゃ……!」

「……それはそうと、珍しい顔もあるな。ブリテンのアーサーか。わざわざこんな所まで、ご苦労なことだ」

 

 愕然とするネプギアに構わず、黒衣の女はミリオンアーサーに視線を向けた。

 ミリオンアーサーは、敵意の籠った視線を返す。

 

「マジェコンヌ、やはりそなたもこちらに来ていたか!」

「みんな、あいつは鉄騎アーサーの手下の一人よ!」

 

 サポートする王の後ろに立ったチーカマの言葉に、ネプギアたちはますます混乱する。

 しかし、ホット・ロッドはいち早くその可能性に思い至った。

 

「ちょっと待て……あいつらが手下ってことは、まさか鉄騎アーサーってのは……!」

 

 その推測は、扉がさらに大きく開いて中から黒いボディに両肩部分に白地に黒で描かれたPOLICEの文字が皮肉っぽく見える、四つ目のディセプティコンが現れるに至り確信に変わる。

 バンブルビーは、忌々し気にそのディセプティコンの名を口にした。

 

「バリケード……!」

「よくよく縁があるな、バンブルビー」

 

 ニヤリと皮肉っぽい笑みを浮かべるバリケードの後ろには、オンスロート、バーサーカー、ドレッドボット、ニトロ・ゼウス、モホーク、それに何体かのプロトフォームのディセプティコンや、ジャンクヒープと呼ばれる三体で一台のゴミ収集車に変形するタイプの人造トランスフォーマーが続く。

 

 そして、彼らが二つに割れるようにして道を開けると、その後ろから悠々と彼らを率いる者が姿を現した。

 

 銀と黒に、青の模様の入った大柄な体。

 側頭部から伸びた二本の角。

 胸のディセプティコンエンブレム。

 両腕に備えた半月状のカッター。

 背中には、身の丈にせまるほどの大剣を差している。

 そして真っ赤なオプティック。

 

 その姿を見て、ミリオンアーサーは目を鋭くし、チーカマを後ろに庇う。

 

「やはりいたな……鉄騎アーサー!!」

「その呼び方は止めてくれないか? 俺を示す名は、父から賜りまた受け継いだ、ガルヴァトロンのみだ」

 

 鉄騎アーサー……聖剣エクスカリバーを引き抜き、ブリテン王候補の資格を得たガルヴァトロンは、堂々と言うと凍り付いたように固まっているホット・ロッドを見た。

ホット・ロッドは何とか、その名を絞り出す。

 

「ガルヴァトロン……! 生きていたのか……!」

「元気そうだな、ロディマス」

 

 かくして、若きオートボットと若き破壊大帝……陣営を違えた兄弟は、再会を果たしたのだった。

 

 




最近、筆が遅くなったでよ……。申し訳ありません。

インフェルノコン
鉄騎アーサーことガルヴァトロンに仕える謎の合体兵士。
その正体は、五体のインフェルノコンが合体した姿で、
リーダーのスカルク。
怪鳥型のラプチャー。
双頭犬型のスラッシュ。
肉食恐竜のようなフォルムのグラッグ。
ゴリラか熊のようなゴルジ。
以上、五体からなるが総じて知能が低く、スカルク以外は喋ることも出来ない。
何者かによって作り出され、ガルヴァトロンに部下として貸し与えられている。

合体時は原作映画そのままの姿なのに、メンバーはトイザらス限定のインファーノカス版という、意味不明な構成。

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