新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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ネタばらし回。


第32話 『うずめ』

 時間は遡る。

 

 未来的な建物の合間を、ランボルギーニ・チェンテナリオが走っていく。

 ミリオンアーサーとチーカマ、それにうずめを乗せたホット・ロッドは、プラネテューヌの街へと帰り着いていた。

 多くの人が祭りに出掛けているせいか人影は疎らだが、それでも人間、オートボット、ディセプティコン、モンスターらがそれぞれ働いたり遊んだりしている。

 

「おお! やはりプラネテューヌは凄い国だな! 背の高い建物があんなにもたくさん!」

「私たちの国だと、キャメロットの塔くらいだもんね」

 

 窓から見る光景に、ミリオンアーサーとその膝に乗ったチーカマがはしゃいでいる。

 一方で、うずめはずっと何かを考え込んでいるようだった。

 

「そう言えばさ、ブリテンってのはどんなトコなんだい?」

「ふむ、そうだな。魔法の力が豊富な島国だ。自然も豊かで、歴史もある。……しかし祖国は今、内乱に加えて『外敵』の襲来時期が迫っている」

「外敵?」

「『外敵』とは、数十年周期で海の向こうからやってくる侵略者だ。しかも時を経るにつれより強大に、より狡猾になっていく……」

 

 その説明に、これまで黙っていたうずめが怪訝そうな顔をする。

 

「だったらなんで、アーサー同士で争ってるんだ? まずは、その外敵とやらを倒すのが先だろう」

「それはそうなのだがな。こればかりは人の(さが)という奴だろう。王の椅子は、一つだからな」

 

 そう返されて、うずめは眉間に皺を寄せる。

 しかし、今までとは怒りの方向性が違うようだった。

 

「どこでも変わらないな。人間という奴は」

「ふむ。そなたも何か思う所があるようだな」

 

 何処か疲れたように息を吐くうずめに、ミリオンアーサーは興味深げではあったが追及はしない。

 

「わたしとて争いがしたいワケではない。しかし、対等な力がなければ対話もままならぬ。わたし自らが真の王となって、皆を導き、平和を作る。そのために、エクスカリバーを手にしたのだ」

 

 そう語るミリオンアーサーの目には、強い決意があった。理想があった。信念があった。

 ホット・ロッドは、その目と言葉に何処か惹かれる物を感じていた。異性としての興味ではなく、人として好感を持ったのだ。

 うずめはそのことを敏感に察知してムッとする。表情も何もない車の感情を読み取るあたり、人間離れしている……女神だけど。

 

 一方で、チーカマは疑わし気な顔をした。

 

「良いお話だけれど……それだけじゃあ、ないわよねえ?」

「もちろんだ! 王になれば、美少女の騎士を作り放題! 敵対する騎士も違う派閥の女の子のアーサーにサポート妖精も! みんなわたしの嫁になればブリテンに真の平和が……ハッ!」

 

 なんかとんでもないことを口走ったミリオンアーサーは、ホット・ロッドが呆気に取られているような空気を放ち、うずめとチーカマの視線が氷点下にまで落ち込んでいることに気付いて慌てて取り繕う。

 

「も、もちろん冗談だとも!」

「アーサー。そこの、アーサー!」

「ねえロディ。オレは彼女の王様としての適性に、大いに疑問がわいたよ」

「俺も、ちょっとだけ……」

 

 そんな会話をしているうちに、ホット・ロッドはプラネタワーの敷地に入ったのだった。

 

 

 

 

 

「おかえりなさい、ホット・ロッドさん。うずめさん」

 

 そしてここはプラネタワーの応接室。

 やはり人間とトランスフォーマーが共に過ごせる造りになっているここで、イストワールが出迎えてくれた。

 

「ただいま、イストワール。……体はもう大丈夫なのかい?」

「あっはい。もうだいぶ良くなりまして。どうもご心配をおかけしました」

「本当に大丈夫かい? 君は昔から無理しがちだから……って、ねぷっちが言ってた」

 

 心配そうな声を出すうずめに、イストワールは淡く微笑む。

 

「本当に大丈夫ですから……それよりも、お客様がたを紹介してください」

「ああ、イストワール。彼女たちはミリオンアーサーとチーカマ。ブリテンという遠い島国からはるばるやってきたんだ。二人とも、彼女はイストワール。このプラネテューヌの教祖だ」

 

 ホット・ロッドの紹介に、ブリテンの二人は礼儀正しく一礼する。

 

「紹介に預かったブリテン王候補ミリオンアーサーだ。教祖とは国政を取り仕切る宰相のような物だと聞く。お目に掛れて光栄だ」

「同じく、サポート妖精のチーカマよ」

「ご丁寧にどうも。プラネテューヌ教会教祖イストワールです。我が国を代表して、お二人を歓迎いたします」

 

 一通り挨拶を終えた三人だが、ホット・ロッドはふと、イストワールとチーカマの雰囲気が似ていることに気が付いた。

 妖精に例えられるイストワールと妖精その物のチーカマなら、似ていて当然かもしれない。

 それとも、破天荒な上司に振り回される苦労人気質が似通っているのだろうか。

 

 一方で、イストワールはイストワールで小さな疑問を感じていた。

 ブリテンは遠く離れている上に渡航困難な海域にあるため、今までほとんど国交がなかったが、それでも断片的な情報は入ってきていた。

 それによると……。

 

「確かアーサーというのは、ブリテンの初代国王の名だと記録にあります」

「ほう、ご存知だったか。その通り、『アーサー』とは、かつてバラバラだったブリテンを統一した伝説的な王なのだ。そして彼が携えていた剣こそが『エクスカリバー』だ」

「つまり、王の選定だの何だのってのは、その王様に肖った儀式なワケか」

 

 イストワールとミリオンアーサーの会話に、なるほどとホット・ロッドは頷くが、うずめは少し冷めた目をしていた。

 

「それも100万セットだとありがたみが薄いな」

「うずめ……さっきから何だか感じが悪いぞ」

「そうですよ、うずめさん」

 

 いい加減、辛辣ない態度な目に余り、ホット・ロッドとイストワールが注意する。

 しかしミリオンアーサーは快活に笑う。

 

「はっはっは! そう言われてはぐうの音も出ん! 確かに有難みなにも有ったものではないな!」

「悪いなミリアサ。何だか今日のうずめはやたらと怒りっぽくて……」

「なに、乙女には色々あるものだ! ……にしても、イストワールもまた見目麗しい美少女。どうだろう、わたしと一晩かけて熱い議論を交わさないか?」

「ブリテンの品格が疑われるから、自重しなさい!! 晩御飯抜きにするわよ!」

 

 イストワールに色目を使いだす相方に、チーカマは眉を吊り上げる。そんな彼女を、イストワールは同情的な目で見ていた。

 やはりこの二人、似た者(くろうにん)同士らしい。

 

 うずめは、一つ息を吐くと踵を返した。

 

「それじゃあ、オレはこれで」

「お、おいうずめ! 何処行くんだよ!」

「少し一人にしてくれ。考え事がしたい」

 

 呼び止めるホット・ロッドに構わず、うずめは部屋から出ていく。

 閉じる扉を見ながら、ホット・ロッドは困ったように息を吐いた。

 

「まったく、今日のうずめは変だぜ。どうしちまったんだ、いったい?」

「ふふふ、そなたも中々に大変だな。しかし、そこで寄り添うのも男のUTUWAだ」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべるミリオンアーサーに、ホット・ロッドはどういうことかと視線で問う。

 

「乙女というのはな、ああは言っても追ってきてくれれば嬉しいものなのだ。特に、ああいう不安そうな目をした娘はな」

「そういうもんか」

「そういうものだ。さあ、行ってやるといい」

 

 ミリオンアーサーにそう急かされたホット・ロッドは、イストワールに一つ詫びるとうずめの後を追うべく部屋を出た。

 そしてうずめの姿を探そうとした、その時だ。

 

 急に入ってきた通信に、ホット・ロッドの表情が凍り付いた。

 

 

 

 

 

 応接室を抜け出したうすめは、プラネタワーのテラスに一人佇み、眼下の街を冷たい目で眺めていた。

 人と、トランスフォーマーと、それ以外が平和に暮らす国を。

 普段と違い、その瞳には一切の光がなく、深淵に続く底なしの穴のようだった。

 

「…………」

「どうした、そんな顔をして」

 

 急に声がかけられた。

 振り向かずとも、うずめにはそれが誰だか分かっていた。

 

 黒服に薔薇をあしらった中折れ帽、流れる銀の髪に、アイスブルーの瞳の女性……マジェコンヌが当然のようにそこに立っていた。

 

 うずめはやはり振り返ることはなかったが、顔を不機嫌そうに歪めた。しかし、敵意や警戒といった感情はなかった。

 

「マジェっち……説明してくれないか。君にお願いしたのは、ガルヴァトロンが()()()()()()()()()()()()ことだよ。……なのになんだい? 秘密結社に、アーサー? どういうことか説明してくれないかな」

「ああそうだな。順を追って話そう。私は()()()()()()()()()()ガルヴァトロンを異空間から拾いにいったんだがな。別の奴が、先にガルヴァトロンを救い出していた。奴は今、その救い主の指示で動いている……一応な」

 

 この会話を聞いた者がいたら、理解が追い付かずに混乱することになるだろう。

 二人の口ぶりでは、うずめは自分を攻撃させるために、異空間に落ちたガルヴァトロンをマジェコンヌに助けさせようとしていたことになる。

 そもそも、マジェコンヌが堂々とこの場にいることも、それがタワー内の誰にも察知されていないらしいことも異常だった。

 

「ッ! そんな馬鹿な。オレはそんなこと望んで……いや異空間から出すという結果だけは叶った形か。あるいは、オレの力と言えど有限だったのか? なにせ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけでも途方もない力を使っている。知らず知らずのうちに限界がきたのか?」

 

 そしてうずめが……地球はフーバーダムにあるセクターセブンの施設、その最奥で巨大シェアクリスタルの中に封印されていた、この『うずめ』がブツブツと呟く通りなら、彼女こそがこの異変の元凶ということになってしまう。

 だとすれば、その理由の一端はやはりメガトロンたちの介入を防ぐためだろう。

 

「だってスペースブリッジの理論とかチンプンカンプンだし、しかも次元越えられる女神がいるとか、大雑把に『ゲイムギョウ界に入ることも出ていくことも出来ない』ってするしかないじゃないか……」

 

 ちなみに彼女はホイルジャックとネプギアからスペースブリッジの理論や異なる次元間での移動の理屈について講習を受けたことがあるが、その直後死んだ魚のような目で真っ白になっていたのが目撃されている。

 

「まあそれについてはいい。それよりも話しを戻すが、なんで今日刑務所を襲撃したんだい? 事前に打ち合わせした通り、今日、あの場で女神たちは負けるはずだったんだよ」

「そして女神どもへの信仰が一瞬でも揺らいだ隙に、ゴールドサァドどもがゲイムギョウ界の統治者に成り代わる……いや、()()()()()()()()()()()()()()()か」

 

 果たしてそのような、()()()()()()()()が如きことが、可能なのだろうか?

 少なくとも、この場にいる二人は可能であるという前提で話していた。

 

 『うずめ』はここで初めて振り返り、マジェコンヌを睨みつけた。

 

「そうだよ。ところがガルヴァトロンたちのせいで計画はおじゃんだ。せめて、他の日にさせられなかったのかい?」

「あいつが、私の言う事なんて聞くはずないだろう?」

 

 肩を竦めるマジェコンヌに、うずめは舌打ちしつつも同意せざるを得なかった。彼女からしても、破壊大帝が言う事を聞くとは思えなかった。

 

 しかし彼女は知らない。刑務所襲撃の日時を、その細かいタイミングまで指示したのがマジェコンヌであることを。

 そして、G-1グランプリの会場に流れたインフェルノカスの映像を用意したのがマジェコンヌであることもまた。

 

 うずめは自分の髪を握り、イライラと頭を振る。

 

「とにかく、計画を練り直す必要がある。そのために、まずは君の知っていることを……ん?」

 

 そこでうずめは、ふと見下ろした先で、地球のイタリア産スーパーカーがプラネタワーの敷地から出ていくのを見つけた。

 運転がやや粗く、焦っている様子だ。

 

「ロディ? いったい、どこへ行くんだ? ……なんだよ、探してくれても良かったじゃないか」

 

 後半は蚊の鳴くような小さな呟きだったが、幸か不幸かマジェコンヌの耳にはしっかり聞こえていた。

 しかし聞こえなかったふりをする。

 

「ああ、あいつなら呼び出されたんだ」

「呼び出された? 誰にだい?」

「……このタイミングで、私が、呼び出したのを知っている。そんな奴、一人しかいないだろう?」

 

 噛んで含めるように言われて、『うずめ』はハッとなる。

 マジェコンヌの言う通り、そんな相手は……ましてホット・ロッドが誰にも言わずに会いに行く相手なんて、決まっていた。

 

  *  *  *

 

 ホット・ロッドはプラネテューヌ首都を一望できる、小高い丘にやってきていた。

 不意に、既視感に襲われた。この場所を昔から知っているような……いや、今はそれどころではない。

 目当ての人物は、丘の上から街を眺めていた。

 

「ガルヴァトロン……!」

「来たか、ロディマス」

 

 ある程度距離を取りつつ憎々し気にその名を呼べば、相手は振り返ることなく答えた。

 

「なんのつもりだ! どうして俺をこんな所に呼び出した! それ以前に、どうして俺の通信番号を知っていた!!」

「最後の質問はナンセンスだな。弟の連絡先ぐらい知っていて当然だろう。そしてここに呼び出したのは、お前と二人きりで話がしたかったからだ」

 

 なんてことないように答え、ガルヴァトロンは排気する。

 

「どうだ、ロディマス。……この世界(ゲイムギョウ界)は、いい所だろう?」

 

 何処か自慢げなその言葉の意味を、ホット・ロッドは計りかねた。

 黙っていると、ガルヴァトロンは続ける。

 

「ディセプティコン、オートボット、女神、人間、時にはモンスターすらも共存している。もちろん俺とてこの世界に争いがあったことは知っている。しかし、皆でそれを乗り越えてきた。……地球とは大違いだ」

 

 やはりそこに行きつくのか、とホット・ロッドは顔を怒りに歪める。

 

「それでこの世界を守るために、地球を滅ぼすってか? ……馬鹿げてる!」

「そうか? 当然の選択だろう。あの地球のゴミどもときたら、何百年も何千年も、飽きもせずに殺し合いばかりだ。これから先も同じだろうな」

「それは俺たちトランスフォーマーも一緒だろうが! 一万年も戦争してたんだ!!」

「オートボットとディセプティコンに分かれてな。……だが地球の連中は、二つの勢力どころでは済まない」

 

 どこまでも平行線な考えに、ホット・ロッドの目つきが鋭くなっていく。

 

「第一! この世界を守るってんなら、何でブリテンを荒らしてんだよ!」

「別に荒らしては……いや、もちろんそれには理由がある。俺はな、ある『杖』を探しているんだ。それが有れば、地球を滅ぼすことが出来る」

「杖だあ?」

 

 唐突に出てきた単語に、ホット・ロッドは胡乱げな顔をする。まさか魔法の杖を一振りすれば地球を死の星に出来るとでも言うのか?

 ガルヴァトロンはまだ世間話の延長であるかのように語る。

 

「それを手に入れるためには、鍵が必要なんだ。鍵は全部で四つあり、ブリテンの何処かに隠されているらしい」

「四つの……鍵?」

 

 そのフレーズには、聞き覚えがあった。

 検索から戻ったイストワールがうわ言のように繰り返していた中に、その言葉があったはずだ。

 そんなホット・ロッドの思考には気付かず、ガルヴァトロンは続ける。

 

「だから俺は、エクスカリバーを抜いて王候補になった。そうなればアーサーとして合法的にブリテンを探索できるからな」

 

 確かに、ミリオンアーサーの話とガルヴァトロンの話を照合すると、そのやり口はともかく王座争奪戦の範疇内な気はする。

 

「だとしても、お前は刑務所を襲った。この世界を守ると言いながら、この世界の平和を乱したじゃないか!」

「……必要なことだ。苦しい決断だが、この世界を地球人から守るためなんだ。奴らは必ずサイバトロンとゲイムギョウ界に牙を剝く」

 

 言うやガルヴァトロンはホット・ロッドと向き合い掌サイズの球形の装置を放った。

 爆弾かと身構えるが乾いた音を立てて地面に転がった装置からは立体映像が投射される。

 

 十字架を担いだ男が、石の丘を登っていく。

 肌の黒い人々を、肌の白い人々が奴隷として酷使している。

 鍵十字の旗を掲げた兵士たちが、収容所に押し込めた人々をガスで殺している。

 極東の島国のある街が、爆弾によって跡形もなく消え去りキノコ雲が上がる。

 

 それは地球の歴史だった。

 

「見ろ、奴らの歴史は最初から現在に至るまで余すことなく血に塗れている。地球人は往年のディセプティコンなど比較にならないくらいに、残虐で強欲だ。……確かに善良な者もいるかもしれないが、ごく僅かだ」

 

 確かに、受け入れてくれたのはケイドやサムら極少人数だ。

 映像に圧倒されたこともあって、自然と握りしめた拳に力が入る。

 

「ロディマス、『杖』を手に入れて、この世界を守ろう」

 

 ガルヴァトロンは、手を差し出してきた。

 

「記憶が戻らないなら、それでもいい。ブリテンの件が気に食わないなら、別のやり方を一緒に考えよう。天王星うずめのことも、殺さないでいい。……あの女もこの世界に触れていれば変わるかもしれん」

 

 あれほど憎んでいるうずめのことを脇に置いてでも、ガルヴァトロンには優先すべきことがあるようだった。

 

「だから、俺と一緒に来てくれ。……兄弟」

 

 口調こそ淡々としていたが、本心からの懇願であることがホット・ロッドにも分かった。

 返す言葉は決まっていた。

 

「前にも言ったはずだ。俺は地球を守る。お前を止める。……うずめのために」

 

  *  *  *

 

「……とまあ、そんな展開になっているだろうな」

 

 マジェコンヌからガルヴァトロンがホット・ロッドを仲間に引き込みにいったと聞かされた『うずめ』は、我知らず唇を噛む。

 ホット・ロッドがそうまでして尽くそうとするのは自分ではなく、今も地球にいる天皇星うずめだと知っているからだ。

 

「まあいいさ。オレには奥の手がある」

 

 暗い自信を見せる『うずめ』に、マジェコンヌは意を決して慎重に言葉を選んで諫言しようと試みる。

 

「なあうずめ。こんなことはもう止めにしないか? トランスフォーマーどもは開ける度に中身の変わるビックリ箱みたいな物だ。完璧にコントロールするなんて出来ない。復活できただけでも……」

 

 その瞬間、マジェコンヌの喉からヒュッと音が漏れた。

 『うずめ』と、その深淵の闇のような瞳と、まともに目が合ってしまったからだ。

 

「いいや、止めない。この世界を滅茶苦茶にして、オレを封印し、最初からいなかったことにして、のうのうと幸せを享受する奴らに復讐を果たす。そのためなら悪魔にだって魂を売ってやるし、邪魔をするならトランスフォーマーだろうが、ぶっ潰す」

 

 粘性の液体のような、冷たく重い感情の籠った声だった。

 

「オレの両隣にいるのは君とロディだ。……君とロディの二人だけだ。それ以外には何もいらない。なあマジェっち、君はオレのことを裏切らないだろう?」

 

 釘を刺すような言葉が、しかし最後の一文を言う声が僅かに震えてしまったのは、不安からだろうか。

 

「し、しかしな。地球のうずめのふりをしてオートボットの小僧の愛を得たとして、それはお前に向けられた物ではないんだぞ」

「問題ないよ。いずれは、オレの物になる」

 

 何とか説得しようとするマジェコンヌだが、うずめは静かだが歪んだ笑みを浮かべた。

 

「そしてロディは、英雄に、勇者になるんだ。皆から慕われ崇められ……そんな勇者をオレが独り占めにする。悲鳴と泣いて赦しを乞う声をウエディング・ベルに、愛を誓い合うんだ。そうだ、ロディのためにメガトロンとやらの残骸で王座を作ってあげよう……それでやっと、オレの気は晴れる」

 

 狂気に満ちた妄想を語る『うずめ』に、マジェコンヌは冷や汗を垂らしながらもさらに何か言おうとするが、適わなかった。

 

「もう、うずめさんもホット・ロッドさんもどこに……ッ!?」

 

 屋内に通じる出入り口から、イストワールが現れたからだ。うずめを探しに来たのだろう。

 本に乗った少女は口元を押さえて息を飲む。

 

「マジェコンヌ!」

「…………」

 

 マジェコンヌの表情が酷く苦み走った物になったのも束の間、すぐにうずめの腕を掴んで引き寄せ、羽交い絞めにする。

 

「ち、ちょっとマジェっち!」

「いいから、話を合わせろ。……ふん、教会のホストコンピューターから情報をいただくつもりだったが、よくも邪魔してくれたものだ」

 

 イストワールに聞こえないように小さい声でやり取りした後で、マジェコンヌはお芝居の内容(カバーストーリー)を口にする。

 それを察したうずめも口裏を合わせる。

 

「君の好きにできると思ったら、大間違いだ!」

「チッ! 忌々しい女神め。かくなるうえは、貴様には人質になってもらうぞ!」

 

 言うや、マジェコンヌはうずめを抱えたままテラスの縁に登る。

 イストワールは、必死になって彼女を呼び止める。

 

「待ちなさい! 待って! マジェコンヌ!」

 

 本人は無意識だったが、その声は敵に対するそれではなく、まるで懐かしい友に対するかのような声だった。

 だからだろうか、飛び降りようとしたマジェコンヌの動きが止まった。

 

「私はあなたと、昔どこかで会ったことが……」

「ッ! ……それはこの状況で重要なことじゃないだろう。じゃあな」

 

 一瞬、驚愕に目を見開いたマジェコンヌだったが、すぐに血が出るほど唇を噛みしめ、今度こそ飛び降りた。

 

「うずめさん! マジェコンヌ!!」

 

 悲鳴染みたイストワールの声を背に、ターゲットマスターの姿に変身してそのまま飛んでいく。

 抱えられた『うずめ』は、気づかわし気な顔をしていたが、少し楽しそうな微笑みを浮かべる。

 女神として力を振るったも昔の話、今は自力で飛ぶことも出来ない。地上を空から見下ろしこの身で風を受ける感覚は懐かしかった。

 

「上手いぞ、マジェっち。成り行きだけど、このままロディたちのところまで行こう」

「ああ……なあ、うずめ。イストワールにも、復讐するのか?」

 

 問われて、『うずめ』は笑みを大きくする。ワザとらしいほどに。

 返す言葉は決まっていた。

 

「…………ああ、もちろんじゃないか」

 

 しかしそう答えるのには、随分と時間を有したのだった。

 




こう言ってはなんですが、会話劇中心の回の方が筆が乗るような……戦闘、やっぱり難しい。

『うずめ』
特大シェアクリスタルの中に封印されていた、もう一人のうずめ。
何等かの理由でゲイムギョウ界に恨みを抱き、復讐を目論んでいる。
ある力でゲイムギョウ界を他の次元から孤立させた張本人(が、本人が次元渡航を不可能にする理屈を思いつけなかったので、大雑把に『誰もゲイムギョウ界に来れないし、こっちからも行けない』とした)

ゲイムギョウ界に遍く生命を強く憎んでいるが、一方で自分を助けにきてくれたマジェコンヌのことは信頼していたり、イストワールを憎み切れていない節もある。ネプギアのことも嫌いではないらしい。
ホット・ロッドに対し、彼を英雄に仕立てた上で独占しようという歪な執着を寄せる。……英雄や勇者が、どれほどの苦しみを背負うことになるか、考えが及ばずに。

しかしその復讐計画は、何でもありなトランスフォーマーたちのことを理解しきれていないことや、別の悪意ある者たちの横槍のおかげで乗っけから躓いている。
こうなっているのは、原作では黒幕に徹していたが、こっちではホット・ロッドの傍に張り付いているので全体を俯瞰できなくなってしまったから。
脚本家も監督もスポンサーも、一度舞台に上がってしまえば一役者に過ぎない。
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