新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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第33回 ホット・ロッド対ガルヴァトロン

「前にも言ったはずだ。俺は、地球を守る。お前を止める。……うずめのために」

 

 銃を抜いたホット・ロッドにガルヴァトロンは悲しそうな顔をして、手を引っ込めた。

 

「止めておけ、ロディマス。今のお前が俺に勝てるはずがないだろう?」

「やってみなけりゃ……って言いたいトコだけど、確かに俺一人じゃ勝てそうにないな」

 

 事実、地球での戦いのときはサムの操縦するウルトラ・マグナスとの二体がかりで抑えるのがやっとだったのだ。

 あの頃よりも腕を上げたと自負しているが、それで勝てると思うほど、ホット・ロッドは楽天的ではなかった。

 

「俺一人ならな!」

 

 その言葉を合図にするようにして、近くの森の中から大型銃と盾を持った金属の人型の集団が重い足音を立てながら現れる。しかしそれらはトランスフォーマーではない。

 

 人間が搭乗する、プラネテューヌのパワードスーツ部隊だ。

 前大戦の終盤から投入されたこの兵器は、戦争終結後も主に技術者たちの趣味で開発が続けられていた。

 

 黒い装甲のパワードスーツ隊は、素早く展開してガルヴァトロンを取り囲むと、銃を向ける。

 隊列を成す彼らの後ろには、彼らを運んできた装甲トラックが陣取って逃げ道を塞いでいた。

 

 実はホット・ロッドは、ここに来る前にオプティマスに連絡を入れていたのだ。

 その様子に、ガルヴァトロンは僅かに驚いた様子だった。

 

「俺は一人で来いと言ったはずだが?」

「悪いな。独断専行は前にやって懲りてる」

 

 しかし、この狂人が何をしようとしているのか、何が目的なのか、探る必要があった。

 そこで危険を承知で接触することにし、アンチ・エレクトロンで無力化される危険性のない人間の部隊を出動させてもらったのだ。

 

「なるほど、成長したな。お前は昔から一人で突っ走っては、皆を困らせたものだが。しかし、彼らに俺が止められると?」

「止められるさ。彼らは地球の連中とは一味違うぜ?」

 

 実際、このパワードスーツ部隊はプラネテューヌ最終決戦にも参加した古強者たちだった。その装備は対トランスフォーマー用に特化していた。

 それはガルヴァトロンも分かっているようだった。

 

「……致し方なし」

 

 ガルヴァトロンの両手に小さな稲妻が走る。

 パワードスーツ隊の銃口がピッタリとガルヴァトロンを捕え、ホット・ロッドは引き金にかけた指に力を入れる。

 

「待て!!」

 

 不意に、全員に聞こえるほどの大きな声が聞こえた。

 ホット・ロッドが銃口を逸らさずにそちらをチラリと見れば、地球で見た影が空に浮かんでいた。

 四枚の翼をはためかせた、ターゲットマスター形態のマジェコンヌだ。

 

 しかしそれ以上に問題なのは、マジェコンヌがうずめを抱えていることだった。

 

「うずめ!!」

「ロディ……助けて!」

「全員動くな! こいつの命が惜しければな!!」

 

 不安げに叫ぶうずめと、その首に鈎爪のような指先を当てるマジェコンヌ。

 ホット・ロッドが何か指示を出す間でもなく……もともと、彼に指揮権があるワケでもない……パワードスーツ隊は銃を降ろす。

 

「テメエ……!」

「マジェコンヌ、何のつもりだ?」

「教会のコンピューターから情報を抜くのに失敗してな。代わりの手土産だ。欲しかったんだろう?」

 

 怒りに顔を歪めるホット・ロッドに構わず、怪訝そうな顔をするガルヴァトロンの問いにマジェコンヌは答えた。

 このことはガルヴァトロンにとっても計画外のようだった。

 

「ロディ……!」

「うずめ、待ってろ! 今助ける!!」

 

 ギリギリと拳を握りしめるホット・ロッドだが、うずめ……『うずめ』は内心でこのシチュエーションに興奮していた。

 

(悪者に人質に取られたヒロイン(オレ)。助けようとするヒーロー(ロディ)。まさに映画のワンシーンのようじゃないか)

 

 後は、適当なところで逃げれば、きっとホット・ロッドは自分を受け止めてくれるだろう。

 いっそ、このままブリテンまで連れていかれて囚われの姫君を満喫してもいいかもしれない。

 

 そんな『うずめ』の内心を露知らず、ホット・ロッドは怒りを燃え上がらせていた。

 胸の奥深くから黒い何かが湧き出し、パーツの一つ一つに至るまで浸透してく。

 

『ああ、まったく。ムカつくよなあ』

 

 何処かから、そんな声が聞こえた気がした。

 

『怒るのも当然だ。奴らは、お前の大切な物を傷つけようって言うんだからな……でもそれだけじゃあないよなあ? お前の憎しみ、ぶちまけてやれよ』

 

 ホット・ロッドの頭の中にだけ響くその声は、ゾッとするほどに優しく、同時に冷たかった。本人以外の誰かが聞けば、まず間違いなくこう思うはずだ。

 

 『悪魔の囁き』と……。

 

「確かに殺したいくらい憎い相手だが、こういうやり方は……」

「そういう妙に手段を選ぼうとするトコ、お前の欠点だぞ。もっとハングリーにいけ、ハングリーに! メガトロンの子なのだろう!! その血……いや遺伝子と因子に誓ったのだろう!」

 

 渋い顔をするガルヴァトロンだが、マジェコンヌは彼が敬愛する父を引き合いに出して叱りつける。

 すると、ガルヴァトロンは深く頷いた

 

「確かに俺は偉大なる父と母に誓った。使命と、復讐を果たすと。……お前もそのはずだったんだがな、ロディマス」

 

 手を翳すと、先ほど映像を投射した球形機械が一人でに宙に浮かび、手の中に納まる。

 

「これはな、元々は母上がお前に贈った物だ。……預かっていたが返すぞ」

 

 懐かし気に相好を崩したガルヴァトロンは、名残惜し気ながらも球体をホット・ロッドに向かって放る。

 しかし、ホット・ロッドはそれを受け止めなかった。

 球体は彼の胸に当たり、硬質な音を立てた後、地面に落ちる。

 

「いらねえよ、こんな物……」

「ッ! 何を言うロディマス! 父上と母上が見られたら、何とおっしゃるか……」

「何度言えば分かる、俺はロディマスじゃねえ、ホット・ロッドだ! ……あんな、()()()()()の子供じゃねえ!!」

 

 吐き捨てるように、ホット・ロッドは言った。

 いい加減、この狂人の戯言にはウンザリだった。

 

 その瞬間、ガルヴァトロンの纏う空気が変わった。

 

「人殺し、ども……?」

「何千年も戦争してた独裁者に、暴政で国を滅ぼした女神! 人殺し以外の何だってんだ! 改心したんだか何だか知らないが罪が消えるワケでもないだろう!」

「ろ、ロディ?」

 

 何か、何か激情に駆られているホット・ロッドに、うずめは面食らう。

 刑務所で、自分の出自を否定する姿は見た。しかし、これはあの時以上だ。

 彼女は自分のことに夢中で気付いていなかったのだ。

 メガトロンの息子かもしれないということが、ホット・ロッドの心をどれだけ鬱屈とさせていたかを。

 

 堰を切ったように、ホット・ロッドは慟哭にも似た声を上げる。やり場のない嫌悪、怒り、悲しみが混ざったような声だ。

 

「なるほど、確かに()()()()奴らの息子なんだろうさ! そっくりだよ、人様を傷つけておいてそれらしい理屈を並べて自分を正当化する、恥知らずなトコなんざ、特にな!!」

「止めろ、ロディマス……それ以上言うな」

 

 ガルヴァトロンの声が細かく震えだし、その震えが体に伝播して、小さな稲妻となって漏れ出す。

 これはヤバいと、マジェコンヌは殺し文句で彼を諫めようとする。

 

「お、落ち着けガルヴァトロン! メガトロンは、こんな時でも冷静だったぞ!!」

「そうだな……その通りだ」

 

 本人なりに落ち着こうとしているようだが、声の震えが大きくなり、瞳孔に当たる部分が小さく窄まっていく。

 

「冷静? 資料を見たがな、奴のブレインに冷静さなんざ、1バイトもインプットされてないとしか思えないな。冷静だったら、プライムに選ばれなかった僻みで戦争を起こすはずないからな!」

「ロディ? ロディ、どうしたんだ!?」

 

 オロオロとする『うずめ』だが、彼はもう彼女の方を見ていなかった。その目が比喩でなく真っ赤に染まるのを、彼女は確かに見た。

 こんな彼を、『うずめ』は見たことが無かった。彼女の知るホット・ロッドは、もっと強く優しく勇ましい……。

 

「傲慢で、冷酷で、残虐で、強欲で……もし、もし本当に俺が奴の子だってんなら、それは……」

 

 ホット・ロッドは言いながら心の底から嫌悪と怒り、悲しみに身を震わせた。

 

()()()()()()。俺は自分の遺伝子を恥じる」

 

 その時、ガルヴァトロンから表情が消えた。瞳孔が元の大きさに戻り、稲妻が霧散する。

 マジェコンヌは、恐る恐る彼に声をかけた。

 

「が、ガル……」

 

 そして天地を揺るがすような怒号と共に、大爆発が起こった。

 地面がめくれ、木々が、パワードスーツ隊がなぎ倒され、装甲車が横転する。咄嗟に、マジェコンヌはうずめを庇った。

 

 一瞬にも満たない間に、ガルヴァトロンは体勢を崩しかけたホット・ロッドに接近し、腹を剛腕で殴り飛ばした。

 体が真っ二つになりそうなほどの衝撃に襲われ、声を上げることも出来ずに意識が飛びそうになったが、その瞬間には顔面を掴まれていた。

 

「謝れ! 謝れッ! 謝れぇええええッッ!!」

 

 そのまま、何度も何度も地面に叩き付けられる。

 

「……ッ! ……ッ!」

「父上と母上に謝れぇええええええッッ!!」

 

 見かねたパワードスーツ隊が、ガルヴァトロンに向けて大型銃を発射する。トランスフォーマーの動きを止める特殊ボルトが全身に命中し、電磁波がその身を焼くが、ガルヴァトロンは意に介さない。

 顔面を掴んだままホット・ロッドの体を高く吊り上げ、直接電撃を流し込む。

 

「恥だと!? 父上の遺伝子が恥だと!! よくも貴様ぁッ!!」

「は、恥じゃなけりゃあ……呪いだ!!」

 

 全身をその内側までも焼かれながらも、ホット・ロッドは腕を上げて、まだ握っていた銃をガルヴァトロンの顔面に押し当て、そのまま発射する……より早く、空いている手で銃を掴まれた。

 

「呪いと言ったか、この出来損ないがぁああ!!」

 

 凄まじい力で銃を握り潰したガルヴァトロンは、続けてホット・ロッドの顔面を握り潰そうとする。

 ミシミシという嫌な音と共に指先が金属外皮に食い込み内部フレームを歪ませる。

 パワードスーツ隊が何とか止めようと、ガルヴァトロンに組み付いた。

 

「邪魔だぁあああッ!!」

 

 組み付いてくるパワードスーツたちを力づくで跳ねのけるガルヴァトロン。

 だが、その隙に一機のパワードスーツが僅かに緩んだ掌からホット・ロッドを引っ張り出した。

 

『大丈夫か!? おい!!』

「…………ああ」

 

 何とか立ち上がったホット・ロッドだが、ブレインの内側で甚大なダメージを知らせるレッドアラートが鳴り響いている。

 

『無理をするな! ここは俺たちに……ぐおっ!?』

 

 ホット・ロッドを下がらせようとしたパワードスーツに、ガルヴァトロンが四肢を捥いだ別のパワードスーツを投げ付けて黙らせる。

 

「ろ、ロディ……! ロディ!!」

「駄目だ、うずめ!!」

 

 愕然としていたうずめは、半ば無意識にホット・ロッドに駆け寄ろうとしてマジェコンヌに止められる。

 あの場に割って入れば、死にかねないからだ。

 

 負傷を押して立ち上がったホット・ロッドは剣と盾を構えた。地球にいたころから使っている手作り剣と盾だ。

 

「剣! 剣か! 貴様らしい武器だな!!」

 

 ガルヴァトロンは自分も背中から得物を抜いた。

 幅広肉厚の武骨な大剣で、刀身の根本付近にディセプティコンのエンブレムが刻印されていた。これが彼の抜いたエクスカリバーだった。

 本来この剣は人間サイズだったが、地面から抜いた途端にこの大きさと形状に変化したのだ。

 二人は剣を構え相手との距離を取ったまま、ジリジリと円を描くように動く。

 お互いに隙を伺い、力を溜めていたが、ホット・ロッドが先に動いた。

 迎え撃とうとガルヴァトロンが大きく振るう剣の横をすり抜け、相手の脇腹に一撃を加える。

 

「ガッ……! 少しは昔の切れを取り戻してきたじゃあないか! しかし憶えてないのだろう! お前の剣技はな、父上から教わった物だ!! 遺伝子を恥と言いながら、技には頼るのか!!」

「知らねえよ! 俺の剣はなあ、()()()()()()()教わったもんだ! 人殺しの剣なんかじゃ断じてねえ!!」

 

 二人の声は獅子が吼え合っているようにも聞こえる。

 

「俺が父上に似ている? 光栄だね!! しかしな、その評は()()()()()なんだよ! 俺は母上似らしくてな! 皆、口を揃えて言ったものだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()となあッ!!」

「テメエの言う事なんざ、何一つ信じられねえよ! この狂人め!! だがタリの女神に似てるのは確かだぜ!! 国を亡ぼすような奴は、サイコパスに決まってるからなあッ!!」

「きっさまぁあああああああッッ!!」

 

 ガルヴァトロンは獣のような唸り声を上げて、踏み込むと同時に大上段から剣を振るう。今度は躱し切れないと見たホット・ロッドは盾を掲げ、その上に剣を重ねて防ごうとする……が。

 

「ッ!!」

 

 エクスカリバーの刃は手作り剣の刀身と盾を易々と両断した。その下のホット・ロッドの体諸共。

 

「が、があああああッ!!」

 

 右肩から腹部に至るまで縦に斬られ、傷からエネルゴンが噴き出す。

 傷は体の厚みの半分に至るまでの深さで、多くのエネルギーチューブやコード、フレームを切断していた。

 

 端的に言って、致命傷だ。

 

「ロディ……! ロディ!!」

「! うずめ、待て!!」

 

 青いエネルゴンに塗れて地面に倒れ伏すホット・ロッドに、うずめは今度こそマジェコンヌを振り払って駆け寄った。

 

「ロディ! ロディ、しっかりして!!」

 

 もはや打算も策略もなく半狂乱になって彼に縋りつくが、それでどうなるワケでもない。

 流れ出るエネルゴンは止まらず、ホット・ロッドのオプティックから段々と光が消えていく。

 

「嫌だ!! ロディ、死なないで!!」

「ああ、よかったな。遺伝子は恥で呪いなんだろう? 残らず流してしまえ」

 

 ガルヴァトロンはもう興味がないかのように、剣を振ってエネルゴンを掃い、背中に差す。

 マジェコンヌは、そんな彼に詰め寄った。

 

「ガルヴァトロン! なんてことを……!! あいつは、お前の兄弟じゃなかったのか!?」

「いいや、あいつは()()()()()()()だ。自分で言うように」

 

 虚無。

 そうとしか言えない、感情やそれに類する何かが完全に抜け落ちてしまったような、大切な何かが壊れてしまったような声だった。

 

「そもそも()()()()()はサイバトロンで生きている。父上や母上と一緒に……ああ、それは俺も同じだった。()()()()は今も父上たちと共にいる」

「な、なにを……?」

「……じゃあ()は、誰だ? あいつがロディマスでないのなら、俺もガルヴァではないのか? ははは、そうだな。じゃあガルヴァトロンⅡとでも名乗るか!! ははは、これは傑作だ! アーッハッハッハ!!」

 

(ああ、やばい……!)

 

 これまでとは違う本当の狂気に陥りつつある。

 何もかもが、取返しのつかない方向に転がりかけている。

 マジェコンヌは全力で頭を回転させ、この場を打開する方法を……そんなもの、あるはずがない。

 

 いや。

 

「ロディ、ロディ……!」

 

 うずめはホット・ロッドの体に登る。

 それは無意識からの行為だった。

 様々な思惑も何も、頭から消し飛んでいた。ただ、彼を失いたくなかった。

 

 だから、彼の口に自分の唇を重ねた。

 

 すると、その体が粒子に分解されて、ホット・ロッドの体に溶け込んだ。

 体に稲妻のような光が走り、傷が見る間に治っていく。

 

 しかしそれは、再生の奇跡というよりは、まるで死者の復活にも似た、禍々しい光景だった。

 

「な、んだ、これは……?」

「パラサイテック融合か……!」

 

 唖然とするマジェコンヌに対し、ガルヴァトロンの目に再び憎悪の火が灯る。激しくはあるが、それでも狂気よりはまだまともな感情だ。

 

「何が起こったんだ? 俺はいったい……?」

 

 まるでゾンビのように立ち上がったホット・ロッドは、自分に起こったことが分からずに手を見やる。

 

『ロディ、ロディ! 良かった……』

「その声は、うずめか? 何がどうなって……いや、どうでもいいか」

 

 自分の中から聞こえてくるうずめの声に戸惑うホット・ロッドだったが、命を拾ったのだから理屈は気にしないことにする。

 重要なのは唯一つ。ガルヴァトロンを殺すことだ。

 

 全身に力が滾ってくる。

 この力の源は分かっていた。

 

 ()()、そして()()()だ。

 

 怒れば怒るほど、憎めば憎むほど、力が込み上げてくる。

 

「おのれ……! 何処まで俺の弟を侮辱すれば気が済むのだ! 迷い出たなら、今度こそ冥土に送ってやろう……!!」

 

 ガルヴァトロンはこちらも黒いオーラを噴き上げながら、エクスカリバーを再度抜く。

 

『逃げよう、ロディ!! 勝てないよ! また殺される!!』

 

 泣き叫ぶようなうずめの声が聞こえたが無視する。

 確かに今のままでは勝てない。……今のままなら。

 

「……来い!」

 

 何故そうしたのかは分からない。本能的に手を翳すと、横転していた装甲車や、破壊されたパワードスーツのパーツが黒いオーラに包まれて浮かび上がり、ホット・ロッドの下に集まっていく。

 あるいは、以前に出会ったヘッドマスターの存在が影響しているのかもしれない。

 

「おおおおお……!」

 

 地獄から響いてくるかのような唸り声を上げ、ホット・ロッドは体を折り曲げるようにしてコアパーツに変形し、それを中心にパーツが組み上がっていく。

 

 ……この時、誰も気づかなかったが、ホット・ロッドが受け取らなかったあの球形記憶装置も、その中に組み込まれていた。

 

 そうしてホット・ロッドは、ガルヴァトロンと同サイズの体へと変化した。

 黒地に紫の模様が入ったその姿は、全体的に刺々しく攻撃的な意匠で、両腕に三連装のフォトン・レーザー砲を備えている。

 面長な頭部の口元は彼が信奉するオプティマスを思わせるバトルマスクに覆われているが、その目は鋭く、真っ赤に燃えていた。

 

 見る者が見れば、あるいは『メガトロンに似ている』と思うかもしれない。

 

「ホット・ロッド・スーパーモードォ……! うおおおおおッ!!」

 

 身内から込み上げる殺意のままに、ホット・ロッドは突撃する。

 

「化け物が!!」

 

 異様な光景に、ガルヴァトロンはしかし怯まない。

 エクスカリバーを掲げ、パワーを溜めてから振るうことで刀身からビームを放つ。

 それを真正面から受けたホット・ロッドだが、まるでダメージがなく、そのままガルヴァトロンの顔面を殴り抜ける。

 

「うおおおおおッ!!」

「ッ!!」

 

 余りの力に10m以上も吹き飛ぶが、綺麗に受け身を取ってすぐさま立ち上がる。

 ホット・ロッドが両手を組み合わせて変形させると、長大な砲身を持ったビーム砲『フォトン・エリミネーター』が形成される。

 

 その姿はメガトロンの昔のフュージョンカノンにそっくりだった。

 

 独特のチャージ音と共に込められたエネルギーが、ガルヴァトロン目掛けて発射される。

 咄嗟に横に飛んでそれをかわすが、地面に光弾が着弾した瞬間に起こった爆発によって僅かに体勢を崩すこととなった。

 その隙を逃さず、ホット・ロッドは左腕を大型の回転ノコギリ『ソウブレード』に変形させて斬りかかる。

 

「死ねえええええッ!!」

「それはこちらの台詞だッ!!」

 

 回転ノコギリと大剣が何度となくぶつかり合い、火花が飛び散る。

 斬り合いの合間にホット・ロッドが至近距離からフォトン・レーザーを顔面にお見舞いすれば、ガルヴァトロンが全身から放つ稲妻で装甲を焼く。

 長くなった足が脇腹に叩き込まれれば、拳が胸を打つ。

 

 もはや、二人は言葉を発することさえなかった。

 二人の間にあるのは、相手をどうやってでも殺してやろうという、純粋な殺意のみだった。

 

「お、鬼だ……!」

 

 パワードスーツ隊の一人が、呆然と呟いた。あそこにいるのはもはやオートボットでもディセプティコンでもなく、二匹の鬼だった。

 

「うずめ! うずめぇ!!」

 

 割って入ることも出来ない事態に、マジェコンヌは叫ぶことしかできない。

 その『うずめ』は、ホット・ロッドの精神の中で怒りと憎しみの渦に翻弄されていた。

 

『やめて……やめて! ロディ!!』

 

 『うずめ』の叫びは、ホット・ロッドに届かず、戦いは止まらない。

 一番近くにいるのに、どんどんと彼が遠くへ離れていくのを感じる。

 

『違う! こんなの望んでない!!』

 

 彼の怒りが、憎しみが、彼女の知らないホット・ロッドが流れ込んでくる。

 

 記憶がなく自分が誰だか分からない不安も。

 

 うずめが最も信頼している海男に対しての拭い切れない嫉妬も。

 

 ガルヴァトロンに告げられた己の使命に対する混乱も。

 

 吹っ切ったはずなのに、思いもかけずにうずめが現れたことでぶり返した未練も。

 

 そのことへの罪悪感も。

 

 自分の両親かもしれない人たちが起こしたか凶行の数々への嫌悪も。

 

 その血を自分が引いているならば、自分も彼らと同じようになるのではないかという恐怖も。

 

 ……兄弟と殺し合う悲しみも。

 

 その全てが、『うずめ』の知らない彼だった。

 

 両者が距離を取る。

 ガルヴァトロンが剣を掲げると空から稲妻が落ち、これまでにないエネルギーが剣に宿る。

 ホット・ロッドが再び両手を組んでフォトン・エリミネーターに変形させ、限界までチャージする。

 どちらも、必殺の一撃を放つために。

 

『誰か……誰か止めて!! ()()()()()()!!』

 

 その瞬間、剣が振り下ろされ砲が火を噴く……その刹那。

 ホット・ロッドの胸部から光が放たれた。

 それはなんの攻撃力も持たず、両者のちょうど中央に立体映像を投射した。

 彼に取り込まれた記録装置の中の映像が再生されたのだ。

 

『ロディマス……』

 

 映像は、女性の姿をしていた。

 白い物が混じった薄青の長い髪をしていて、頭の片側には角が生えている。

 十分に美しいが、酷く疲れた様子だった。

 

 その映像が現れた瞬間、ホット・ロッドとガルヴァトロンはまるで魔法にかかったように動きを止めた。

 

『ロディマス、聞こえているかしら? このメッセージが再生されているということは、多分私はもうオールスパークに還ってしまったのでしょう』

「母上……!」

 

 小さく呟いたガルヴァトロンは剣を降ろした。

 

『ロディマス、これから辛い時代がやってきます。……これから先、待ち受けるのは滅びだけ。残念だけど、それを止めることはもうできません』

「…………」

 

 ホット・ロッドは手を元に戻し、呆然とその映像を見つめていた。

 バトルマスクが解除され素顔が露出するが、その顔はメガトロンに若かりし頃があれば、こんな顔だったのかもしれない。そんな作りをしていた。

 

 彼はこの女性を知っていた。狂気に満ちた、悪の女神。

 しかしそれは得た情報から構築した想像上の彼女だった。

 

 真紅に染まっていた彼の目が紺碧に戻り、体の紫の部分がオレンジに変化する。

 

『それでも希望は残されているはず。ショックウェーブさんたちの研究が実を結べば、だけれど。それもまだ時間が……ああ、いえ。私はこんな話をしたいのではないの』

 

 頭を振った映像の女性……古の大国タリの女神、メガトロンの伴侶、レイは薄く微笑んだ。

 

『ねえロディマス。ガルヴァを……お兄さんを支えてあげてね。あの子は、私に似て善かれと思ってしたことが、裏目に出てしまいやすい子だから。……あなたはあなたで、お父様に似て、ちょっと頑固で思い込みが激しい所があるのだけれど』

 

 ホット・ロッドとガルヴァトロンは、自然と顔を見合わせた。

 

『あなたたち二人、辛い世界に取り残されることになるけれど、力を合わせればきっと乗り越えられると信じているわ。……だからどうか、精一杯、最後まで、希望を捨てずに生きてちょうだい。あなたたちのことを、心から愛しているわ……』

「母上、母上……!!」

 

 ガルヴァトロンは、消えてゆく映像に手を伸ばす。もう殺意は消えていた。

 近くまできたマジェコンヌには、その顔がまるで迷子になった幼子のように見えた。

 

 合体が解除されコアパーツとなっていたホット・ロッドは元に戻って地面に膝を突き、次いで項垂れた。残された胸から下と両腕が集まって長方形のコンテナのような形になるが、気付かなかった。

 

 胸から光が漏れてうずめの形になる。

 すすり泣く彼女を見下ろし、ホット・ロッドは自問する。

 

(あれが……あれが俺の母親?)

 

 まだ思い出せないが、あの姿を見た瞬間、胸の内に懐かしさと愛おしさ、寂しさが込み上げてきた。

 そしてそれは、あれほど身を焦がすようだった怒りと憎しみを鎮めてしまい、後に残されたのは、先ほどまでの自分への絶望だった。

 

(守ると誓ったはずのうずめを泣かせて……俺はいったい、何をしていたんだ!?)

 

 憎しみに飲まれた己の愚かさ、血を恥としながらも発現した狂暴性。

 あれではまるで……。

 

 ガルヴァトロンはその姿を黙って見ていたが、やがて剣を背中に差した。

 その後方に光の渦が現れる。

 グランドブリッジが開いたのだ。

 

「時間だ、行くぞ」

「ッ! いいのか!? レイはああ言って……」

「俺には使命がある。復讐を、果たす」

 

 傍らのマジェコンヌに促し、ガルヴァトロンはホット・ロッドたちに背を向ける。

 

「さらばだ、()よ。……次に邪魔をすれば、今度こそ容赦せん」

 

 それだけ言うと、ガルヴァトロンは光の渦に入っていった。

 マジェコンヌは光の渦と『うずめ』を交互に何度も何度も見たが、やがて意を決して渦へと向かう。

 彼女もうずめの傍にいたかったが、ガルヴァトロンの表情が最後まで泣くのを堪えているような顔だったのが気がかりだったからだ。

 あの顔には見覚えがあった。ああいう顔をする奴は、何をしでかすか分からないのだ。

 この場を離れるのは薄情だと、無責任だと理解している。それでも放っておけない。

 

 それに……。

 

「頼むぞ、ネプテューヌ……」

 

 こちらには、あの女神がいる。

 彼女たちなら、何とかするという、奇妙な信頼があった。

 

 二人が光の渦の向こうに消え、その光の渦も霧散すると、後にはすすり泣き続けるうずめと、項垂れたホット・ロッド、そして沈黙するコンテナとパワードスーツ隊の面々が残された。

 

 勝者はおらず、しかし敵に対しての敗者ではなく己に対しての敗者がいるのみだった。

 

  *  *  *

 

「ギリギリで踏み止まったみたいッスねえ。つまんない結末ッス」

 

 戦場の近くの丘の上に一台のバイクが停車し、それに跨ったライダーが事の成り行きを全て見ていた。

 

 しかし口を効いたのは、その()のようなメタリックシルバーのライダースーツとフルフェイスヘルメットの男ではなく、彼が跨るバイクの方だ。

 

 紫色の車体の所々に黄色の縞が入った毒々しい色合いのチョッパーバイクで、フロント部分に七つもの黄色いランプが点灯していて、まるで()()のようだ。

 

「せっかく、御身が心を解放してやったというのに」

「構わんさ。今日は奴らの精神に上手く干渉できるかのテストだ。それに、ガルヴァトロンの方にも干渉できるのが確認できたのは収穫だ」

 

 蜘蛛バイクの声にライダーは若々しく涼やかな、しかし名状し難く冒涜的な声で答えた。

 

「奴が地球でダークエネルゴンを吸収してくれたのは幸運だった。奴もまた、『器』になりうる」

「さっさと乗っ取ればいいのに、こんな回りくどいことして御身の考えはよく分からないッスねえ……まあ、分かる必要もないッスけど! ブッヒャヒャヒャ!!」

 

 狂的に嗤う蜘蛛バイクに構わず、ライダーの視線は、ホット・ロッドとうずめだけに向けられていた。

 

「だが、あの女には発破をかけておくか。ゲームはまだまだこれからだ……せいぜい足掻けよ、希望を継ぐ者」

 

 薄笑いをヘルメットの下から漏らしながら、ライダーは蜘蛛バイクのエンジンを吹かしてその場を立ち去る。

 行く手には、無明の闇が広がっていた。

 




これほど燃えないパワーアップ回があっただろうか? いやない(反語)
これは求められた話だろうか? いや違う(反語)

もっとアッサリ、パワーアップ&勝利してホット・ロッドとうずめが無邪気に喜ぶはずだったのに、何故かガチ殺し合いに……。
おかげで一応の決着まで書かないと更新できない事態に。

今回の解説。

ホット・ロッド・スーパーモード
うずめとパラサイテック融合したホット・ロッドが、周囲の装甲車などを取り込んで変化した姿。
武器は両腕の三連フォトン・レーザー、左腕を変形させた回転ノコギリ、ソウ・ブレード、両手を組んだ状態で変形させたフォトン・エリミネーター。他、おいおい追加。
本体であるホット・ロッド以外のパーツは、合体解除後にタイヤのついたコンテナ型に纏まった。
変形、合体パターンは、パワー・オブ・ザ・プライム版、ロディマス・プライムを参照のこと(ホットロッドが後部コンテナと合体してロディマス・プライムになるというギミックがある)

色味はロディマス・ユニクロナス(あるいはSG版)。しかし見た目は、どちらかというとメガトロンに似ている。
前述のとおりこの回自体が(作者的に)想定外の連続だけど、これは既定路線(無慈悲)

バイクとライダー
『蜘蛛』のような意匠のバイクと、『鏡』のようにピカピカなメタリックシルバーのスーツに身を包んだ男。
洋服屋さんっぽい名前のあいつの眷属の、一番有名なのと、一番特殊なの。
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