新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED 作:投稿参謀
「そもそも我がブリテンの混乱は、先代王ウーサーが崩御したことから始まる」
色々なことがあった終結祭の日の翌日。
プラネタワーの一室にて、ミリオンアーサーがこの状況に至った『そもそも』を説明していた。
「ウーサーに子はなく、故に宮廷魔術師マーリンの発案のもと、伝説の初代ブリテン王アーサーに肖る形でエクスカリバーによる王の選定が行われる運びとなった。後は前に説明した通り、100万人もの人間がエクスカリバーを抜き、王座を争うこととなった。それに反発する者もいた。さらには迫る外敵の襲来、ブリテンは混乱の極致にある」
彼女は、トランスフォーマーサイズの円卓の上に立っていた。
周囲には各国の女神たちやゴールドサァドがいて、さらに円卓の周りにはオートボットの主だったメンバーも集結していた。
「そんなある時のこと、鉄騎アーサー……ガルヴァトロンが現れた。奴はキャメロットに乗り込んでくると王の選定に挑戦し、見事剣を引き抜いた……ここまでなら、問題はなかった」
その輪から少し離れて、ホット・ロッドとうずめ改めくろめも話を聞いていた。くろめは円卓に乗らず、相棒の足元に控えている。
「しかし奴は、自分の力と因子から生み出した騎士、レギオンの数に物を言わせ、他のアーサーを攻撃し始めた。それは本来アーサー同士で行われる模擬戦の域を超えたものだった」
「鍵を探すためか」
腕を組んで聞いていたオプティマスは、思案する。
ホット・ロッドが得た情報が確かなら、ガルヴァトロンは地球を滅ぼすための武器である『杖』なる物を手に入れるための鍵を探しているという。
侵略も、そのための手段なのだろう。
ミリオンアーサーは首を横に振る。
「それは分からぬ。分からぬが、すでにかなりの数のアーサーが敗れ去った……お恥ずかしながら、我々に奴を止める力はない」
「本来なら事を監督する役目のマーリンも不干渉を決め込んでいるわ。だから、私たちは伝説に縋ったの」
「伝説って?」
相棒の言葉を継いだチーカマに、ネプテューヌが質問する。
すると、ミリオンアーサーが答えた。
「我がブリテンに伝わることによると、かの初代アーサー王と彼に仕えた円卓の騎士たち……人間の騎士たちの後ろには、鎧を着た巨人の騎士が並んだという」
その言葉に、オプティマスは顎に手を当てて難しい顔をする。言い伝えが真実を含むなら、その巨人の騎士とは恐らくトランスフォーマーと考えるのが自然だろう。
問題は、そのルーツだ。
惑星サイバトロン由来なのか、あるいはこの世界で生まれたのか。
「王含む12人の騎士の後ろには、同じく12人の巨人の騎士。伝説によれば、我がブリテンが危機に瀕した時、巨人の騎士たちは蘇り、同じく蘇った初代アーサー王の下で戦うという……これが本当とはわたしも思ってはいない。しかし、ブリテンでは子供でも知っている話だ。最初は、ガルヴァトロンたちこそがその騎士なのではとも思われたが、彼らはむしろ祖国への脅威となった」
ミリオンアーサーはそこでオプティマスを見上げた。
「我がブリテンは他から隔絶されているが、それでも断片的な情報は入ってくる。遠く離れたこの地に鋼鉄の巨人たちが暮らす国があると聞き及び、ここまでやってきたのだ」
ホット・ロッドはだんだんと彼女の目的が分かってきた。
それは足元にいるくろめも同じだったらしい。
「つまり君は、トランスフォーマーたちを助っ人に呼んで、自らこそが巨人を従えた初代アーサー王の再来であるということにしたいワケだ」
「身も蓋もない言い方をすれば、そうなる」
オートボットたちがざわつく。
それはつまり、ブリテンの内戦に巻き込まれるということだ。
ディセプティコンを捕まえにいくならともかく、そんなことに利用されるのはごめんだった。
これにはオプティマスや女神たちも渋い顔をする。
周囲の空気を敏感に察知したミリオンアーサーは他の者が発言するより早く、説明を続けた。
「もちろん、貴殿らをブリテンの問題に巻き込もうというつもりはない……ただ、因子をもらいたいのだ」
「騎士、を作るためか」
重々しい口ぶりのオプティマスに、ミリオンアーサーは頷く。
「ああ。しかし誇りとエクスカリバーに誓って悪用はしないと約束しよう。ブリテン統一が、貴殿らにとって悪ではないなら、だが」
「……しかし、我々はそもそも騎士という物がどういう物か知らない。人工生命、とのことだが」
総司令官は、なおも難しい顔を崩さない。
彼らが見た騎士は、あの獣のようなレギオンだけだ。
「うむ、実際に見せた方が早いだろう。……チーカマ、頼む」
「はいはい。それじゃあ……」
相棒が差し出した手に、チーカマの細い指が触れる。
すると、青く光るプラズマのような何かがミリオンアーサーの腕から出てきた。
万物が等しく持つ、その物をその物たらしめるデータ『因子』を可視化した物だ。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。ではこの因子を王冠にセットして……」
ミリオンアーサーは光球状になったそれを受け取り、自分の被っている王冠の中に入れる。
すると王冠が光を放ち始めた。
「この王冠は騎士を生成する『湖』と呼ばれる装置の縮小版だ。オリジナルは、もっと大きい」
説明している間にも光は強まり、やがてそれは王冠を飛び出して人型を取る。
その姿は、ミリオンアーサーとまったく同じだった。
金の髪と瞳も、黒と赤の装束に部分鎧も、左腕のバックラーや頭部の王冠も、完璧に再現されている。
「UTUWAを決めるぞ!!」
「……と、こんな感じに騎士は作られる」
完全に同じ姿の少女が二人並ぶ光景に、くろめは地球にいる分身を思い出し我知らず微妙な顔をする。
「つまり騎士は因子から再現したコピー……というワケか」
「うむ。もちろん、異なる因子を混ぜ合わせれば、また違う騎士が出来る。……さて済まないな、騎士よ。カードになっていれくれ」
「なに、気にするな。オリジナル!!」
オリジナルとまったく同じ朗らかな笑みを浮かべた騎士ミリオンアーサーは、光に包まれて一枚のカードになる。
「このように、騎士はカードにしておくことが出来る。常時、騎士をゾロゾロと引き連れて歩くワケにはいかんからな」
手に持ったカードをミリオンアーサーがその場にいる全員に見えるように掲げるのを見て、ホット・ロッドは改めて空恐ろしい物を感じた。
ミリオンアーサーはカードデッキを複数持ち歩いている。あの全てが騎士だとすれば、それは大部隊を率いているのと同義ではないか。しかも、場所も取らず兵站も必要ない大部隊だ。
身一つで敵の支配する街や基地に潜り込んで、そこにいきなり大軍を出現させることも、それをすぐさま撤収させることも出来る。
トランスフォーマーの擬態どころではない、究極のゲリラ戦だ。
同時にトランスフォーマーの騎士を得ればガルヴァトロンや外敵への対抗手段を得ると共に、王権争いにおいても大きな有利になる、と計算しているのだろう意外な強かさが、ホット・ロッドは嫌いではなかった。
彼女が真にブリテンの平和を考えていると信じているからだ。
同じことを考えたワケではないだろうが、オプティマスは顔をさらに険しくする。
以前にも幾度かオプティマスのコピーが現れたが、そのいずれも彼の敵となった。
そのことを思うと、ミリオンアーサーの願いにも良い顔は出来ない。
一方で女神たちは違う意味で難しい顔をしていた。
「なんだか、専門用語が多いわね。みんなついてこれてる?」
「もちろん、大丈夫だよ! ルシのコクーンがパージするんだね!!」
「駄目みたいね……わたしは、小説で鍛えてるから大丈夫よ」
ノワールは首を捻り、ネプテューヌが頓珍漢なことを言い、ブランが何故かしたり顔をする。ベールは、何かを思いついたように目を輝かせていた。
つまり、いつもの通りの女神たちだった。
「申し訳ないが、やはり因子の提供は出来ない。それは貴国への内政干渉に当たる」
「むう、そうか……残念だが無理にとは言えんな」
「しかし、部下と協力者を派遣することにしよう。ディセプティコンへの対処は彼らに任せてほしい。無論ブリテンの人々の許可があれば、だが」
「…………」
オプティマスの申し出に、いくらか考え込むミリオンアーサーだったがそれも僅かの間だった。
「分かった、お願いする。マーリンにはわたしから話を通そう」
「ああ。では、ここからはブリテンに派遣するメンバーを決めたいと思う」
そういうオプティマスだが、彼はすでにその面子をほぼほぼ決めていた。
「アンチ・エレクトロンのことや現地への影響、補給の難しさを鑑み、少数精鋭としたい。まず、ハウンド。次にドリフト、クロスヘアーズ、そしてバンブルビー」
呼ばれた者たちが前に出る。
これまでの情報からブリテンの大気にはアンチ・エレクトロンが充満していると予測されるが、彼らはゴールドサァドと合体したことでアンチ・エレクトロンへの抗体を獲得している。
「それから本人たちの希望もあって、ゴールドサァドの皆も同行してもらおうと思う」
「ま、アタシらもあいつらには借りを返してやりたいしね」
シーシャが進み出て、自分の掌に拳を当てて闘志を表現する。
ビーシャは勝気に笑み、ケーシャはチラチラとノワールを見て、エスーシャは相変わらず無表情だった。
逆にクロスヘアーズはあからさまに嫌そうな顔をした。ドリフトも顔をしかめている。
「おいおい、オプティマス。こんな小娘どもがいなくても俺らだけで十分だろうが」
「いや、ブリテンがアンチ・エレクトロンの影響下にあるならば、動かせる戦力は貴重だ」
「なら、そいつらに手当たり次第に合体させて、抗体を持たせせりゃい!」
自分たちを道具扱いするかのようなその言葉に、ビーシャやケーシャはムッと顔をしかめ、エスーシャも目を鋭くする。
答えたのは、ラチェットだった。
「いやいや、どうやらそう上手くはいかんようでね。彼女たちは一度合体してしまうと、パートナーを変えることが出来んのさ」
『ええッ!?』
これはクロスヘアーズやドリフトのみならず、当のゴールサァドにとっても寝耳に水だった。
シーシャは困ったように首を捻る。
「はあ……それじゃあアタシたちは、その人ら専用ってことか」
「そういうことだねえ。よほど体の相性が良かったんだろううねえ」
「ラチェット、自重」
何故かニヤニヤとするラチェットの脛を、アーシーが蹴って黙らせる。
ハウンドが胡乱げにシーシャたちを見た。
「そもそも、どうやってあの合体だの変身だのって力は、どうやって手に入れたんだ?」
「あー……昔のことなんだけど、アタシたちは元々全員がある組織に捕まってたんだ。そこで、まあ色々と実験されてゴールドユニットを装着する力を得た。合体までできることに気付いたのは、だいぶ後だけどね」
本人は明るく言うが、オプティマスは一瞬顔を曇らせる。
どうやら、その組織とやらに心当たりがあるようだ。
「でも、その組織はある日派手に吹っ飛んでね。まあ悪の組織と研究施設に爆発オチは付き物さ。アタシらはその隙に逃げ出したのさ」
「その後は、それぞれ別々に行動しつつ連絡を取り合っていたのですが……この間に、ノワールさんたちと出会って、それで……」
「あー、その話はまた今度で。総司令官殿、話を戻してちょうだい」
「あの『ノワールさん』が出ると長いからね……」
話に割り込んできたケーシャが目を輝かせて何か言おうとするのを、シーシャが止め、ビーシャが小さく呟く。
オプティマスは頷くと途中までだったブリテンに派遣するメンバーの話題に戻る。
「では続きだ。向こうでのリペア担当としてネプギアが同行を申し出た」
「は、はい! よろしくお願いします!」
緊張した面持ちのネプギアが答えると、他の女神候補生たちが驚き、彼女を取り囲む。
「ネプギア、あんたも行くの!?」
「聞いてないよ!」
「聞いてない……」
「どういう風の吹き回し?」
「やっぱりバンブルビーを放っておけないから」
少し愛想笑い気味に仲間たちの質問に答えるネプギアだが、その視線はバンブルビーとビーシャに注がれていた。
ユニとアリスは、ああなるほどと納得する。
弟のように思っているバンブルビーに、新たなパートナーが現れた。態度には出さないが、その心中は穏やかではないだろう。
「ったく、女ばっかりで遠足じゃあねえんだぞ」
「まったくだ。戦場は遊び場ではない」
「そう言うなよ、あのお嬢ちゃんたちが頼りになるのは実証済みだろ」
まだブチブチと言っているクロスヘアーズとドリフトを、ハウンドが諫める。
そんなオートボットたちにシーシャは苦笑いせざるを得ない。
「こりゃ、前途多難だね」
「興味ないね。嫌悪はあるが」
「任務なら仕方ありませんよ」
エスーシャは目の中に暗い怒りを宿らせ、ケーシャは早々に割り切った様子を見せる。
ビーシャだけは、ニコニコ笑顔でバンブルビーに接していた。
「よろしくね、バンブルビー! ……ねえ、ビーって呼んでもいい?」
「うん、いいよ!」
サムズアップで応じるバンブルビーを見て、ネプギアは何とも言えない寂しさと苦々しさが混じった顔をしていた。
そんな彼女にロムとラムは心配そうだったが、ユニとアリスは顔を見合わせ二人して肩を竦める。
「さて、もう一人。この部隊を率いる隊長を発表する」
オプティマスの声に、一同が鎮まる。彼にはこういう力があった。
一同を見回し、厳かに言った。
「このブリテン遠征隊の隊長に、私はホット・ロッドを任命する。反対の者は手を挙げてくれ」
すると、ざわつく一同の中に誰よりも早く手を挙げる者がいた。
当のホット・ロッド本人である。
「反対です! ブリテンに行くのは望むところですが、俺には隊長なんて無理です!! っていうかほんと無理!! 絶対無理!! むしろ、バンブルビーの方がいいですって!! 人気とか話題性とか原作ネタ的に!! スピンオフもやるし!!」
「ろ、ロディ!?」
メタいことまで言いだして頑なに反対する相棒に、くろめは面食らう。バンブルビーも思わぬ飛び火に目を丸くする。
さらにオートボットの中からも反対の声が上がる。
「おいおい! そんな小僧に従えってのか!? そりゃないぜ!!」
「センセイ、いくら何でも……」
「無論、理由がある。先日の戦いの折、もっとも適切な行動が出来たのが彼だったからだ」
不満げな部下たちに、オプティマスは厳かに説明し始めた。
「彼のおかげで、我々はガルヴァトロンの目論見を知ることが出来た。その功を持って、彼を隊長に推した。もちろん彼は未熟ではある。そこは皆で支えてやってほしい」
「いやあれは場の流れです! 第一あの時の俺は……」
拳を痛いくらいに握りしめ、ホット・ロッドは俯く。ガルヴァトロンとの戦いで暴走したことは、やはり彼の中で恥ずべきことだった。
くろめは断固としてこの決定に抗議するべく、声を上げようとする。これ以上、重い責任で彼を苦しめてどうしようというのか?
しかしそれより早く、ミリオンアーサーが口を挟んだ。
「ホット・ロッドよ。そなたの事情は分からぬ。しかしそなたの尊敬するオプティマスが、そなたを信頼して任じたのだ。ならば、そなたのすべきことは、その信頼に応えようと努力することではないか?」
その言葉に、ホット・ロッドはハッと顔を上げる。
「それに、我がブリテンは……少なくともわたしは助けを必要としている。どうか、わたしたちを助けてはくれまいか?」
片膝を突き、胸に手を当てて頭を下げるミリオンアーサー。
それは王を目指す者としては、最大限と言っていい敬意を込めた願い方だった。
彼女の姿を見ていると、ホット・ロッドの中に決意が湧いてきた。
それにリーダーになるかはともかく、ガルヴァトロンを止めなければならないのだ。
「……分かった。正直自信はまったくないけど、出来るだけやってみよう。約束するよ」
「うむ! 共にブリテンに平和を齎そう!」
「ああ。男たる者、約束は守るよ」
顔を上げて笑んだミリオンアーサーに、ホット・ロッドは握った拳で胸を叩く。その言葉を口に出来たのは、彼がほんの少し前向きになった証だった。
くろめはちょっと面白くなさそうな顔をしていたが、軽く息を吐いてから相棒に声をかけた。
「それなら、オレも一緒に行こう」
「うず……じゃなかった、くろめ!?」
「なんだいロディ? まさかオレを置いていく気だったのかい? お医者様や技術者の話によると、オレと合体しないとスーパーモードにはなれないんだよ?」
「そりゃあそうだが、危険だ! ガルヴァトロンは君の命を狙ってるんだ!」
「危険は慣れっこさ。……それに君が守ってくれるんだろう? 一人にしないとも言ったね。男たる者、約束は守ってくれよな」
悪戯っぽく片目を瞑って言うくろめに、ホット・ロッドはグッと言葉に詰まる。
確かに彼は、そういう約束を以前にした。
「分かった、分かりました! ……オプティマス、彼女を同行させていいでしょうか?」
「ああ、構わない。むしろ同行を申し出なかったらどうしようかと考えていたところだ」
少しだけ面白そうに言ったオプティマスは、全員を見回し宣言する。
「では以上のメンバーを持ってブリテン遠征隊とする。各種準備のため出発は3日後。それまでは皆、英気を養ってくれ。以上解散」
* * *
それから少しして、プラネタワー内のホイルジャックのラボで、オプティマスとネプテューヌは、コンテナを眺めていた。
ホット・ロッドが謎の力により装甲車やパワードスーツの残骸から組み上げたアレである。 こうしてみると、その色はホット・ロッドと同じ黒地にオレンジのラインだが、あちこちトゲトゲしていて何とも攻撃的な雰囲気である。
取り込まれたパーツはトランスフォーマーの身体と同質の物に変化し、もう戻すことは出来ない。
「いやー、なんともヒャッハーな外観だねー。火炎放射とかしそう」
「火炎放射はしないが、自走能力があるそうだ」
「へー。……でさ、オプっちはなんでホット・ロッドを隊長に任命したワケ?」
ネプテューヌは恋人を見上げて平時と変わらない口調で質問をぶつける。
「やっぱり、いーすんの言ってたことが決め手? それとも、メガトロンの子供だから?」
「それもないとは言えないが……決め手と言えるのは、海男の話だ」
「なぜ、そこで海男?」
ネプテューヌは首を傾げる。
てっきり、イストワールが記憶の底から拾ってきた『大きなる危機に立ち向かうために、希望を継ぐ者が四つの鍵を揃えなければならない』という言葉が、ホット・ロッド……ロディマスをブリテンに送り込む理由だと思っていたからだ。
オプティマスは一つ頷く。
「地球で彼と二人で話す機会があったんだ。彼が言うには、自分たちが施設を脱出できたのは、ホット・ロッドのおかげらしい」
「え? でも確かそれって海男が作戦立てたからだって聞いたけど」
「作戦を立てたのは海男だが、そもそも施設を抜け出すことを皆に提案したのはホット・ロッドだったそうだ」
ネプテューヌは、さして意外そうな顔はしなかった。オプティマスもまた。
「厳重な監視体制に、うずめや海男は脱走を半ば諦めていた。しかしホット・ロッドだけは頑なに脱走する機会を伺い、自由になれると皆を励ましていた。いつしかそんな彼に感化され、彼らは逃亡を決意した」
「なるほど」
オプティマスの口元に笑みが浮かび、ネプテューヌも微笑む。
本人は気付いていないのだろうが、つまりホット・ロッドは迷っても悩んでも、それでも他者のために戦える精神性と、強い反骨心、良い意味での諦めの悪さの持ち主なのだ。
実のところ、この逆境や理不尽に屈しない精神こそが、彼がメガトロンに最も似ている部分だとオプティマスは思っていた。
「んー、でもそれはそれで心配かな? どっかの誰かさんみたく、すぐに自己犠牲に走りそうで」
「そうならないために、うずめ……いやくろめを彼の傍に置くことにしたんだろう?」
「まーねー」
二人は、くろめこと『うずめ』が地球で出会った天王星うずめではないことに、早くから感づいていた。
しかし、その目的が分からないので様子見をしていたのだ。
「まー事情はよく分からないけどさー。記録調べてもうずめのうの字も出てこないし」
「ここまで痕跡がないと、逆に改竄を疑えるな。なんらかの方法で記憶や精神にも干渉して、痕跡を消したのかもしれない」
「でもさ、あの子、色々暴走気味だけどホット・ロッドのことが好きなのはマジだし、ほっといてもいい気がするんだよね。勘だけど」
ホット・ロッドはくろめを悲しませないために過ぎた自己犠牲を自重し、くろめはホット・ロッドを悲しませないために悪事を控える、というのが二人の理想の流れだった。
「ま、マジェコンヌのこともあるし、そう上手くいくかは分かんないけどねー」
「彼らのことは、まずは彼ら自身に任せよう。間違いそうになったら、私たちで止めてやればいいんだ」
自分より若い者たちのために行動するのも、あるいは敢えて行動しないのも、そして時に鉄拳制裁するのも、年長者の役目だ。
二人はなんてことないように笑い合うのだった。
* * *
何処とも付かぬ闇の中。
鏡のようなシルバーメタリックのライダースーツとフルフェイスヘルメットに身を包んだ男が、アンティークな椅子に腰かけていた。
眼前にはやはりアンティークな丸テーブルがあり、その上にはチェス盤のようなオレンジと黒紫のチェック柄のボードが置かれていて、同じように塗り分けられた様々な駒が配置されていた。
しかし盤はチェスのそれよりもマスが多く、駒の形状もチェスとはだいぶ違う。
そしてテーブルを挟んだ対面には空の椅子があるだけで、対局相手の姿はなかった。
ライダーは表情こそ見えないが忌々し気な空気を放ちながら、二つの駒を見下ろしていた。
「この二人、やはり邪魔だな……」
その駒はテメノスソードの形と、丸っこく象形化されたNの文字の形をしていた。
今月末にはクラシックス翻訳版の新刊発売、3月にはお待ちかねの映画バンブルビー公開と関連コミックス翻訳版発売、いや楽しみです。
しかし……3月にトランスフォーマー対マジンガーZなるコミックスが発売されるという怪情報を耳に挟んだんですが……マジなんですかね、アレ?
さて謎コンテナさんの名前どうしよう……。