新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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閑話 NEST

 地方都市トランキュリティとその周辺での自動車暴走事件に端を発し、同都市での奇怪な銀行強盗事件とコンビナートの爆発事故、その近くの軍事基地の壊滅、突如として動き出した女神像と機械たち、それを迎え撃った軍の敗走、そしてミッション・シティでの決戦と決着。

 アメリカ政府はこれらの出来事を『テロ組織『墓場の風』が未知の新兵器と新物質を使った極めて悪質なテロ行為を起こしたが、これを米軍とサイバトロン・システム社が合同で解決し、犯人であるテロリストは一人残らず自決した』ということにした。

 

 テロ組織の名前は、サムなりの仕返しである。

 

 もちろん、全ての人間が……特に直接ディセプティコン、テラーコン、ダークメガミといった存在を見た人々は……この話を信じたワケではなかったが、だからと言ってこの余りに常識外の出来事にこれ以外の説明を付けられる者はいなかった。

 

 結果的に言えば、この『女神像事件』の最中人命救助と被害者支援に尽力したサイバトロン・システム社の株は精神的にも価格的にも多いに上がることとなり、製品の売り上げもさらに伸びることとなった。

 

 サイバトロン・システム社のロボットが怪物にならなかったことから、政府と社が組んでのマッチポンプだったのではないかと考える者もいた。それらしく聞こえるがまったくの的外れだった。

 宇宙人の襲来だとか神の降臨だとか言って、白い目で見られる者もいた。例えそれが大当たりだとしても。

 

 とにもかくにも、この事件は世界に大きな影響を与えていた。

 

  *  *  *

 

 そして現在。

 中国は上海。時刻は日も暮れた頃。

 この街の一角にある古びた工業地区は、今や騒然としていた。

 市政からはが毒物の流出と発表されていたが、それにしては奇妙だ。

 避難した近隣住民と入れ替わりに、輸送ヘリのブラックホークが数機飛来した。

 それらは例外なく、機体の側面に渦巻き模様と『C.A.S.T』という文字がペイントされていた。

 

 もっと奇妙なのは、人々が逃げていく道の向こうから青と水色のファイヤーパターンにペイントされたセミトレーラーのキャリアカーがやってきたことだ。

 キャリアカーは二段になった荷台部分の上段に三台、下段に二台のコンパクトカーを乗せていた。

 

 地面近くでホバリングするヘリから、最新鋭の装備に身を包んだ兵士たちが降りてきた。隊長らしい男……ウィリアム・レノックス大佐は、油断なく辺りを見回す。

 副官のエップスや他の部下たちも、それぞれに展開していく。

 彼らは米軍の特殊部隊……ではなく形の上ではサイバトロン・システム社が新たに子会社として設立した民間軍事会社に属していた。

 民間とは言っても主な顧客は合衆国大統領、実働部隊の人員のほとんどはレノックス隊以下米軍から派遣された軍人、ついでに装備も米軍の払い下げ。

 実質的には大統領直下の組織であり、結構グレーゾーンな会社だった。

 

 その名も、『Cybertron(サイバトロン) Armed(アームド) Security(セキュリティ) Team(チーム)』略して『CAST(キャスト)』である。

 

「いやしかし、変なことになりましたね。俺らがサラリーマンですぜ?」

「前より給料上がったから良いだろ……中国政府は、有害物質の流出と説明している! 手早く終わらせるぞ!!」

 

 副官の軽口に答えたレノックスは、その場にいる全員に指示を出す。

 その横では、青と水色のファイヤーパターンのキャリアカーが荷台からコンパクトカーを降ろしていた。

 それぞれに赤、青、ピンク、緑、黒というやたらめったらに派手な色のコンパクトカーたちが兵士たちの間を縫って方々に散っていくと、キャリアカーのトレーラー部分がギゴガゴと音を立てて人型に変形し、立ち上がった。

 人造トランスフォーマーのウルトラ・マグナスver:2は、荷台部分が変形した銃『ブルーボルト』と長柄の戦槌『マグナスハンマー』を手に取る。

 

「『主役』の到着はまだか?」

『もう少しかかりそうだ。あと5分といったところだね』

 

 自分を見上げてのレノックスの問いに、ウルトラ・マグナスは落ち着いた渋い声で答えた。

 あのヘンテコな人面魚、海男の声だ。なんとあの真顔の魚類が、現在ウルトラ・マグナスを無線操縦しているのだ。

 

 一緒に仕事をするようになってしばらく経つが、今だに慣れていないらしいエップスが首を傾げている。

 

「……変なことになりましたよね。お魚がロボットの操縦って」

「そこは同感だが、置いとけ。それより熱探知だ」

 

 レノックスに言われてエップスは熱探知のための機器を作動させる。するとすぐに機器に反応があった。

 

「うわ……」

「どうした?」

「熱反応あり……あれがそうです」

 

 熱源は工業地区の隅、重ねられた土管の向こうに置かれたとんでもなく巨大な白いパワーショベルだった。車体にペイントされているのは……ディセプティコンのエンブレムだ!

 

 と、その巨大なパワーショベルがギゴガゴと音を立てて変形していく。

 世界最大級の建機から変形した姿は、やはり巨大だった。

 上下に並んだキャタピラが変化したタイヤと、アームが二つに分かれて出来た腕の真ん中に顔があるという、なんとも表現し難い姿をしている。

 

「おおおおおお!! ついに来たな、オートボットども!!」

 

 咆哮を上げると、そのディセプティコンは大きな腕を地面に振り下ろした。

 その衝撃で手前の土管が宙に舞いあがりCASTの面々に降り注ぐ。

 

『危ない!!』

 

 咄嗟に、ウルトラ・マグナスが人間たちを庇い、背中に土管を浴びる。

 

「このデモリッシャーは、簡単には倒されんぞ!!」

『待て! 話を聞け!!』

 

 海男の叫びに答えず、デモリッシャーなるディセプティコンはさらに腕を振り回す。

 

「総員、攻撃開始せよ!!」

『致し方ない。スロットルボット隊! 攻撃開始だ!!』

 

 レノックスの指示を受け、ウルトラ・マグナスのおかげで無事だった人間の兵士たちが銃を撃ち始め、海男の声を聴いて周囲に展開していたコンパクトカーたちが変形する。

 背中に車型トランスフォーマー御馴染みの羽根のように配置されたドア、胸にやはり御馴染みのフロント部分、肩と足首にタイヤ、顔はバイザーとマスクという姿の新型人造トランスフォーマーだ。

 この『スロットルボット』たちは、それぞれ赤が十字架型マシンガン、青が片刃の戦斧と盾、ピンクが両肩部ブラスターとバトン、緑が右腕に鋭い鈎爪、黒がエナジーボウガンで武装していた。

 

 動き回りながら赤が銃弾を浴びせれば、緑が素早い動きでデモリッシャーの腕を掻い潜って飛び掛かって鈎爪で斬り付け、怯んだ隙にピンクが肩のブラスター砲で砲撃する。

 

「おのれ、チビどもが……おお!?」

 

 反撃しようとした瞬間に、遠距離から黒いスロットルボットのエナジーボウを命中させ、青が斧で足に当たるタイヤを斬り付ける。一糸乱れぬ見事な連携だ。

 

『仕上げはオレだ!』

 

 そしてウルトラ・マグナスの両肩外側に備えられた高圧放水砲『ハイドロアタック』から水流を放つ。

 ただの水流と侮るなかれ、本来は山火事などの消火のための放水は、巨大なデモリッシャーをも怯ませる。

 続いて手に持つ持つブルーボルトが火を噴いた。正確には冷凍ビームを発射した。

 どういう理屈なのか、ビームはデモリッシャーにかかった水を、その身体ごと凍結させていく。

 

「ぐおお!? おのれ、オートボットどもめ!! この体滅ぶとも、ザ・フォールン様に誓って貴様らには屈さぬぞぉ!!」

『殺す気はないよ。それと残念ながら、オレはオートボットじゃないんだ』

「……なんだと?」

 

 穏やかに言うウルトラ・マグナスこと海男に、デモリッシャーはまだ動かせる顔を怪訝そうに歪めた。

 彼の周りを取り囲んだスロットルボットたちも、声を上げる。

 その声は少女のように甲高い。

 

『わたしたちは、あなたを保護しにきたのです!』

『まずは話を聞いてほしいのです!』

 

 海男の仲間のひよこ虫たちの内の5匹が、この人造トランスフォーマーたちを操縦しているからだった。

 どういうワケか彼ら彼女らはサム・ウィトウィッキー設計の人造トランスフォーマーと妙に相性が良かった。

 

 故に後方の指揮車両の中には、正式にCASTのスタッフになったケイド・イエーガーと残る一匹のひよこ虫のサポートを受けながら、脳波コントロール用のヘルメットを体全体で被った人面魚とモンスターという珍妙極まる光景が広がっていた。

 

 デモリッシャーは警戒を解かないものの、どうすることも出来ないので話だけは聞こうとするが、その時工場区画の端に置かれた小さなショベルカーも走りだした。建機とは思えない、凄まじい速さだ。

 

「バラバラはいやだぁああああッ!!」

 

 ついでに、何か叫びながら。

 どうやら、あれもディセプティコンらしい。

 

『待つです!!』

「いやだ! どうせ急に『その小さい奴を殺せ!』とか言いだすんだぁああ!!」

 

 スロットルボットが制止するのにも構わず、そのディセプティコン、名をスクラップメタルは市街地に向かって逃げていこうとする。

 民間人に被害が出るのは何としてでも避けたいのでウルトラ・マグナスやスロットルボットが追いかけようとし、レノックスが待機している部下に指示を出そうとした時、彼らの装備した通信機から声が聞こえた。

 

『みんな、待たせた。ここは俺に任せてくれ!』

 

 上空からオレンジ色の何かが流星のように降ってきたと思うと、スクラップメタルの前に三点着地した。

 所謂、スーパーヒーロー着地である。

 

 それはブラッドオレンジの髪を持ったティーンエイジの少女の姿をしていたが、オレンジ色のレオタードの上から所々がオレンジに発光している白い強化アーマーを着込んでいた。

 背中には翼のようなフライトユニット、左腕にはフォースフィールド発生装置である盾のような円盤を装着し、目元はバイザーで覆われている。

 この特殊金属と超硬化プラスチックからなるアーマー『トリガーハート』は体を保護すると同時に手足の筋力を補強していた。

 

 見る者が見れば、その姿は天王星うずめの女神態、オレンジハートを再現した物であることが分かる。

 

「なんだお前ぇえええ!! そんなコスプレして、アイアンマンかこらぁあああッ!!」

 

 突然現れた少女に面食らったものの、スクラップメタルは足を停めずに突っ込んでいく。

 思い切り振られたパワーショベルのアームを、少女は左腕の盾で障壁を発生させて受け止める。

 

「待てよ、話を聞け!」

「畜生、死んでたまるかあッ!!」

 

 制止も聞かずにスクラップメタルはもの凄く普通に人型なロボットモードに変形しつつ、少女に襲い掛かる。

 

「ちょっと、話を聞けって……ば!!」

 

 しかしそのアーマーを着た少女……うずめは、右拳にエネルギーを込めると背中のフライトユニットからエネルギーを噴射して突撃してきたディセプティコンに逆に飛び掛かり、そのどてっぱらに拳を叩き込む。

 大きな金属の巨人は、それだけで突進の勢いを殺されて真後ろに倒れた。

 その隙に、スロットルボットたちが彼の身体を拘束する。

 

『大人しくするです!』

「ぐええええッ! や、やめろ! 俺をバラバラにする気だろ! リベンジみたいに! リベンジみたいに!!」

「だーかーらー、違うっての!」

 

 うずめはバイザーを上げて、ちょっと怒った顔を露わにし、ウルトラ・マグナスに合図する。

 人造トランスフォーマーは、一つ頷くと目から映像を投射した。

 それは、二人の男性が剣を掲げている姿だった。

 

『全オートボットに告ぐ。私はオートボット総司令官、オプティマス・プライム。戦闘行為を中止せよ』

『ディセプティコン全軍に告ぐ。我はディセプティコン破壊大帝、メガトロン。戦闘を止めよ』

 

 前大戦が終結した時の、オプティマスとメガトロンの宣言だ。

 その映像に表情が固まったデモリッシャーは、最初は怒りに顔を歪め、次いで悲しみに暮れて、最後に安堵の排気を漏らした。

 スクラップメタルに至っては、涙すら流している。

 

「ううう……」

「そうか……戦争は、終わったのか……」

『我々はサイバトロンの統治者から正式に、君たちの保護を依頼された。ついてきて貰えるだろうか?』

 

 落ち着いた声のウルトラ・マグナスに、デモリッシャーはまだ事を飲み込め切れていないものの答えた。

 

「分かった。……正直オートボットは憎いし人間どもには反吐が出るが、ザ・フォールン様亡き今、メガトロン様が命ぜられたのなら、仕方がない」

 

 不承不承と言った様子だが、デモリッシャーは申し出を受け入れた。

 実際にはうずめたちに地球上にサイバトロニアンがいた場合、保護してほしいと言ってきたのはオプティマスなのだが、そこは『サイバトロンの統治者』としか言っていないので嘘にはならない。海男は海男で、中々に強かだった。

 

「ば、バラバラにしない? ホントに?」

『しないのです!』

『いい加減、しつこいのです!』

 

 スクラップメタルを助け起こしつつも、ひよこ虫たちは彼の被害妄想に呆れていた。

 うずめはホッと息を吐いてから、明るい笑みを浮かべて皆を見ました。彼女の仲間たちを。

 

「うっし、仕事終わり! みんな、ご苦労様!!」

「遅いぜ女神様!」

「まったく遅刻癖を治せよ!」

「悪い、スーツの調整に手間取ってさ!」

 

 CASTの兵士たちのコミュニケーションとしての悪態に、うずめが笑顔で返す。

 

『うずめ、お疲れ様』

「おう! 海男もお疲れ!」

 

 フライトユニットで飛び上がったうずめは、ウルトラ・マグナスの肩に座って満面の笑みを浮かべる。

 そんな二人の姿は、何処かプラネテューヌの女神とオートボット総司令官を思わせた。

 

 うずめは今、形としては仲間たち共々CS社に属している。

 正式に大統領直属にすることも考えられたが、何処に『敵』がいるのかハッキリしない以上、明確に味方であるサムの下にいた方が安全に思えたからだ。

 そもそもCASTは彼女たちを守るために造られた会社である。

 

 サムは彼女を『自分の発明で武装したヒーロー』ということにして、人造トランスフォーマーたちと共に災害や事故の現場での人命救助に当たらせていた。極秘にしようにも、どうせ目撃情報を完全に潰すことは出来ないし、それっぽいストーリーで誤魔化してしまおうということである。

 彼女は女神像事件までは秘密裏に活動していたが、あの事件で満を持して日の目が当てられた、という設定だ。

 実際、スーツはサムの発明品であるし、あの事件までは隠れて人助けをしていたのだから完全な嘘ではない。

 

 これには女神やトランスフォーマーっぽい物を活躍させることで、それらが人間の味方であるというイメージを作るという思惑もあった。

 

 生来のスター性があるのだろうか、うずめは今や結構な人気者だ。

 

  *  *  *

 

「そうか……OK、ご苦労様」

 

 所変わって、ここはCS社のお膝元であるトランキュリティの街。その一等地に建つウィトウィッキー家の屋敷。

 巷ではロボット御殿などとも揶揄される広大な屋敷の一室で、CS社のCEOにしてトランスフォーマーの友である正史世界からの転生者、サミュエル・ウィトウィッキーは特殊な機材による通信を切った。

 サムは振り返り、思い思いに高級感のあるソファーに腰掛けている者たちに声をかけた。

 

「上海での仕事は終わった。とりあえず、問題はなかったみたいだ」

「エイリアンを匿うのが問題じゃなけりゃな」

 

 スーツをだらしなく着崩したラテン系の男、サムの大学時代の学友で今はCS社の役員であるレオナルド・ポンス・レオン・デ・スピッツ、略してレオは大きく息を吐く。

 かつては落ち着きのない若者だった彼も、大人になって多少は貫禄が出た。

 

「そう言うなよ。エイリアンとか陰謀論、好きだったろ?」

「あーいうのはネットで無責任に喚いてるから楽しかったんだよ。現実(リアル)で巻き込まれると碌なモンじゃない」

 

 苦笑するサムに対し横に首を振ったレオは、ふと仕事の顔になる。

 

「それにだな。資金も食いすぎだ。装備費に兵士の給料、エイリアンの生活費に宣伝費。役員会の中にも不満を持ってる奴がいる」

「地球の未来がかかってるのに?」

「大概の人間はな、地球の未来より自分の国の景気。国の景気より会社の儲け。会社の儲けより自分の財布なのさ」

 

 サム達よりも年上の洒落た装いの男、CS社とつながりのある大手会計会社『ホチキス・グールド・インベストメント』のCEOであるディラン・グールドもやや皮肉っぽく言う。

 『前』の世界ではディセプティコンに与し、結果的にサムの手により死した彼は、こちらではサムの仲間だった。

 

 サムは大きく息を吐く。

 

「なら、これで止めるかい?」

「まさか! 新時代の開拓者っていう名誉の前には、多少の碌でもなさは吹き飛ぶね!」

「異世界にエイリアン……これはとんでもないビジネスチャンスだからな。その最先端を降りるべきじゃないね」

 

 レオとディランはニヤリとして答えた。

 実のところ彼らは彼らで、こうした方がいいという不思議な直観のような物があった。

 

「んん! それでは殿方たち、私の仕事の話をしてもいいかしら?」

 

 そこで第四の人物が咳払いをした。

 ビジネススーツに身を包んだ、黒髪の女性だ。キツメだが十分に美人だった。

 サムは、頷く。

 

「どうぞ、ミカエラ」

 

 彼女はミカエラ・ベインズ。『前』ではサムの恋人だったこともある女性だ。

 こちらでも高校時代は同級生だったのだが、当時はサムの方から何となく距離を置いてしまった。

 その後、なんだかんだタフな彼女はなんとセクター7に所属していたらしい。

 人脈も広く、他人が知らない様々な情報を手に入れることに長けている彼女は、今は元上司のシモンズ共々サムに雇われている。

 

「あのひよこ虫……だったかしら? 彼女たちについて調べたんだけど」

 

 ミカエラは資料を全員に配った。

 最初の何枚かは、年端もいかない少女の顔写真付きの経歴書だった。

 

「アイ、アレクサ、ミーシャ、ローリ、サリ、ミコ……名前と、彼女たちの証言を元に、死亡あるいは行方不明になったティーンエイジの少女を割り出したわ」

 

 資料によれば、彼女たちは人種と出身はバラバラだが、全員が孤児のようだった。

 

 もちろん、人間の。

 

 その経歴は、ひよこ虫たちの曖昧な記憶からの証言と一致していた。

 資料を持つ手に力が籠るのを、サムは感じた。

 

「やっぱり陰謀論の世界が現実になると碌でもねえ!」

「人体実験にしたってこれは……」

「セクター7は……この場合はCIAの介入がある前のセクター7は、この件にはかかわってないわ。そこだけはハッキリさせとく」

 

 レオは吐き捨てるように言い、ディランは嫌悪感を隠せない顔で顎を撫でる。ミカエラも厳しい顔だ。

 やはりひよこ虫たちは、元は人間の少女だったのだ。ああなったことで、記憶すらもぼやけてしまっているようだが。

 

 込み上がる怒りと嫌悪にいったん蓋をし、サムは資料をめくる。

 次の資料には恰幅のいい初老の男性の写真がプリントされていた。

 

「ハロルド・アティンジャー」

「サムの言ってた元CIAの高官よ。かなりの辣腕みたいね。ある時を境にCIAを止めてその後はタヒチでノンビリ暮らしている……のは整形させた役者よ。本物の行方は知れないわ……ただし未だにCIAに強い影響力はあるみたい」

 

 さらに資料をめくると、今度は大勢の名前が載ったリストだ。

 様々な国の、政治家、官僚、軍人。大企業の責任者に、犯罪組織の親玉。色々なジャンルの科学者。

 著名人も多い。

 

「これはアティンジャーが姿を晦まして以降に活動している……らしい組織に関わっていると疑われる人間のリストよ」

()()()に、()()()()()()か。随分と曖昧だな」

「こいつらは異常に用心深くてね。尻尾を掴めないのよ」

 

 皮肉っぽいディランの言葉に、ミカエラは顔をしかめつつも答える。

 一方、レオはリストを上から下まで眺めていた。

 

「にしてもだな、なんでCS社(うち)に関わってる人間が不自然に少ないんだ?」

 

 その疑問は最もだ。

 サイバトロン・システム社は国際的な大企業であり、繋がりのある人間も多い。しかし、このリストにある名前には商取引相手程度はいても直接的に社と関わりのある人間は数えるほどだった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その可能性に気付いた時、サムは冷水をかけられた気分だった。

 思えばCIAによるアンゴルモアを使った自動車暴走だって、CS社を狙い撃ちにしたものだった。

 つまりハロルド・アティンジャーがCIAと組織の黒幕だとすれば、彼はサムに悪意を抱いている。それは何故か?

 

「サム?」

「おい、どうした?」

 

 この考えが正しいとすれば、この組織コンカレンスは危険だ。下手なディセプティコンよりよっぽど。

 顔を青くする社長に、レオやディランが心配そうにするが、当人は震える手で一枚前の資料の顔写真を見た。

 白髪白髭の男性の、眼鏡の奥の鋭い目が、睨み返してきた気がした。

 

「同じなのか、僕と……!」

 

  *  *  *

 

「皆さん、人類は危機に瀕しています」

 

 何処とも知れぬ大きな部屋の中で、一人の男が声を上げていた。

 信じられないほどの値段のスーツに身を包んだ、恰幅のいい男……ハロルド・アティンジャーだ。

 

「止まらない人口増加と環境破壊。資源の枯渇。このままでは遠からず人類は滅びの道を歩むことになるでしょう」

 

 彼はリング型の机の一番上座から机の前に座った人々に向かって演説していた。

 この場にいるのは、いずれも各国各界の有力者だ。彼らは黙ってアティンジャーの言葉を聞いていた。

 

「ある学者は人類が生き残るためにはもう一つ地球が必要だと言いました。……ならば用意しましょう。自然豊かで、資源に溢れた、もう一つの世界を!!」

 

 アティンジャーが手を翳すと、彼の後ろの壁に映像が映し出された。

 木々の生い茂る森、雪を被った山々、紺碧の大海原、そこに生きる動物やモンスターたち……ゲイムギョウ界、そう呼ばれる世界の姿だった。

 CIAがセクター7を乗っ取ったのも、この異世界の情報を得るためだった。

 

「長年の調査の結果、分かったのです! 人間の生存に適した環境と広大な面積を備えた大地が、我々が手を伸ばせば届く所にあると!!」

 

 机に座る人間たちが割れんばかりに拍手する。

 もちろん彼らは、このお題目を信じているワケではなかった。

 彼らの目的は、ゲイムギョウ界に人間が入植した時に発生するだろう莫大な金と権力だった。

 

「しかし問題もあります。この世界には、あー……()()()が存在します」

 

 アティンジャーはわざと言葉を濁す。原住民とはゲイムギョウ界に生きるあらゆる人間やトランスフォーマー、そして女神のことに他ならない。

 この場にいる人間たちは、彼が何を言いたいのかを理解していた。

 

 自分たちがこの世界を手に入れるためには、先にいる方には出て行って貰わねばならない。

 

「もちろん、この問題を解決するために我がコンカレンスの実働部隊『N.E.S.T(ネスト)』が初の大規模調査を行うべく、現地へと向かいます」

 

 Native(ネイティブ) Earthian’s(アーシアンズ) Striker(ストライカー) Team(チーム)、略称NEST。それはコンカレンスが抱える私兵集団である。

 戦力の大部分はKSIのドローン軍団で賄い、それを指揮する人間のメンバーはアティンジャー直属の配下であるサヴォイらを中心に、問題を起こして除籍された元軍人や、革命などで国を失った亡命軍人、捕縛されたゲリラ兵士などで構成されていた。

 

 正史世界においてトランスフォーマーと協力していた部隊と略称が同じなのは、アティンジャーの悪意に満ちた皮肉だった。

 

「NESTは現地の生態系と環境、原住民の文化と戦力などを徹底的に調査します。この調査で、我々は目的に向かって大きく前進することになるでしょう!」

 

 調査。そう調査だ。

 調()()()()()()財宝を略奪し、()()()()()拉致と人体実験をし、()()()()()()()()()街を破壊し、()()()()()人々を虐殺することになったとしても、それは調査なのだ。

 これは人類の明日のために必要なことなのだ。

 

 ……かつてコロンブスがアメリカ大陸を発見した時、彼がしたのは元々そこに住んでいた人々を奴隷にすることだった。

 南米に栄えたインカ帝国は、海を越えてやってきたスペインのコンキスタドールによって滅んだ。

 彼らはそれと同じことを、己の欲を人類救済という免罪符で正当化して繰り返そうとしていた。

 

「部隊は近日中に出発します。そして、目的を必ず果たしてくれるものと、私は確信しています!」

 

 実のところ、アティンジャーには他に目的があり、この壮大な侵略計画すらもそのついでに過ぎない。調査のために部隊を送り込むことも、真の目的のための布石だった。

 

「人類の明日のために! 赤い血の兄弟たちのために!」

 

 コンカレンスのリーダーにして、全トランスフォーマーの絶滅を目論む正史世界からの転生者、ハロルド・アティンジャーは、盛大な拍手を送ってくる自分の組織の人間たちを内心で見下しながら、ほくそ笑むのだった。

 




ふとバンブルビーの予告を見て思いました。
いや確かにこの原作風のデザインは良いんだけど、最初からこれだったら、今ほどメジャーにはならなかったんだろうな、と(旧来のファンは喜ぶけど、新規ファンを取り込むことが出来ないというか……)

ネタが多いんで解説。

CAST
正式名称、Cybertron(サイバトロン) Armed(アームド) Security(セキュリティ) Team(チーム)(サイバトロン武装警備隊)
サイバトロン・システム社の子会社である民間軍事会社。社長は他にいないのでケイド(事務経理はほとんど海男とオペレート担当のひよこ虫アイがやってる)
うずめたちはここに所属していることになっている。
主な業務は事故や災害の現場での人命救助と、被災者の支援(とそれを通じての女神、TFが人類の味方だというイメージ戦略)そしてTFの保護。
名称はもちろんドリームキャストから。NESTとも掛けてる。

ディセプティコン破壊兵デモリッシャー、ディセプティコン建築兵スクラップメタル
共にキャノピーら同様に地球に漂着し、上海に潜んでいたディセプティコン兵士。
二人合わせて前作で出せなかったショベルカーコンビ。
原作では共にリベンジに登場。上海で暴れたのがデモリッシャー、メガトロン復活の時にパーツにされたのがスクラップメタルである。

スロットルボット隊
サム設計の安定性と汎用性を重視した新型人造トランスフォーマー。
全5機でひよこ虫が無線操縦している。
名称の元ネタは2010から登場した、バンブルことゴールドバグの部下のスロットルボット。
見た目と変形パターンは、ロストエイジ版ロールバー(つまりそのリカラー元のジェネレーション版スキッズ)だが、肩や腕の武装をオミットし、顔を量産機顔に変えた感じ。
各機の色と武装の元ネタはサクラ大戦3に登場する光武Fより。

トリガーハート
サム設計のパワードスーツ。見た目のイメージはインフィ〇ット・ストラトスとかシン〇ォギア的なサムシング。
これを装着することで、うずめは女神態に届かぬまでもそれに近い力が出せる。
画期的な発明だが、うずめぐらいの(というか女神レベルの)身体能力がないと使いこなせない。
名称の元ネタはドリームキャストより発売のSTG「トリガーハート・エグゼリカ」より。

レオナルド・ポンス・デ・レオン・スピッツ
略してレオ。初代マイケル・ベイ節の化身。
サムの大学時代のルームメイト(サムは一年入学が遅れたが、レオは留年してた)で彼に起業を提案した、つまりCS社創立メンバー。
創立当初は押しの強さと調子の良さを武器に営業方面で活躍した。
現在は副社長ではないが重役で、意外とマトモにやってる(サムが地味にかっとんでるので、マトモにならざるを得なかったとは本人の弁)

ディラン・グールド
原作ではサウンドウェーブの相方だった会計会社の社長。
父親は原作同様にアポロ計画の会計をしていたが、こっちではTFの技術がなかったので普通に宇宙開発に掛る費用が高騰したため、不正はしてない。
サムがTFの痕跡を探し回っている頃に知り合い、その伝手で彼の会社がCS社の会計処理をしている。こっちではサムとはなんだかんだ友達くらいの仲。

ミカエラ・ベインズ
ご存知サムの元カノ。
高校時代は『前』とは逆にサムの方が高値の花だった。
色々あってシモンズと接触。彼に父親と自分の罪を帳消しにすることを条件にセクター7に勧誘され、これを承諾した。エージェントとしては非常に優秀。
カーリーと出くわすと、お互いなんとなく気まずい。

NEST
正式名称Native(ネイティブ) Earthian’s(アーシアンズ) Striker(ストライカー) Team(チーム)(原住地球人による攻撃部隊)
人類救済を名目に、ゲイムギョウ界侵略を目論む秘密組織コンカレンスの私兵集団。
その実態は訳ありや脛に傷持ちを集めた部隊で、ならず者も多い。一方でコンカレンスに真に忠誠を誓う者もいる。
名前はアティンジャーの憂さ晴らし。
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