新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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※2019年3月16日、ちょっと不自然なトコを感じたので改稿。
具体的にはタリスマン周り。


ブリテン編
第37話 キャメロット(改稿)


 ゲイムギョウ界の主要四国から遠く遠く離れた海の上。

 常に風雨が吹き荒れ、止むことなく雷鳴が轟き、逆巻く大波が容赦なく襲い来る嵐の海に囲まれて、ブリテンという島国がある。

 

 大きな二つの島と、他のいくつかの小島からなるこの国と周辺の海域の気候は、周囲の海の厳しさなど文字通り何処吹く風とばかりに穏やかだ。もっとも、大気には異国の者たちがアンチ・エレクトロンと呼ぶ物質に満ちているが。

 村や街の外には畑や牧草地帯が広がり、農民たちが作物を育て、あるいは牛や羊の面倒を見ている。

 その中の一人である牛飼いの少年が空を見上げると、青い空に一筋の流星が横切った。

 こんな真昼に珍しいと思いつつも、少年は星に祈る。

 

 どうか、父ちゃんと母ちゃんが、ずっと元気でいられますように。あとできれば、少しだけお小遣いが上がりますように、と。

 

 しかし残念ながら、空を横切る光は流れ星ではなかった。

 それは遠い国からやってきた、金属の巨人たちが乗る船だった。もしも少年が空を飛べて、その船を近くで見ることが叶ったなら、クジラのような形をしていうことが分かっただろう。

 

 オートボットたちが、ブリテンにやってきたのだ。

 

  *  *  *

 

 キャメロットとは、このブリテンの都と王城の両方を差す。

 

 高い城壁に囲まれた城塞都市の、その中央に位置するキャメロット城は、正に白亜の城と呼ぶに相応しい。

 いくつもの尖塔が立ち並ぶ姿は、城下の街に比べればいっそ不自然ですらある。かつて初代アーサー王が築いたのだとされるが、どのように建てられたかは記録が残っておらず、一説には山よりも大きい巨人の力を借りたとも言われている。

 

 とにかくこの城は幾人ものアーサーが自らこそが王であると名乗りを上げる今日日に置いても変わらずブリテンの中心であり続け、眠れる巨人の如く街を見下ろしていた。

 

 しかしながら、本日のキャメロットにはちょっとした騒動が起こっていた。

 

「まさか一日とかからずにブリテンに到着するとは……なんと凄い!」

「私たちは、苦労して海を越えたっていうのに……」

 

 キャメロット城の壮大な廊下を歩きながら、ブリテン王候補の一人ミリオンアーサーは感動冷めやらず、そのサポート妖精たるチーカマは微妙な顔をしていた。

 死ぬような思いで嵐の中を渡航した彼女たちにすれば、航宙揚陸艦エイハブに乗って雲の上を悠々と超えてきた経験は、衝撃的では済まない。

 

 その後ろを、ホット・ロッド以下オートボットたちとネプギア、ゴールドサァドたち、そして天王星うずめ改め暗黒星くろめのブリテン遠征隊が歩行速度を合わせてついていく。

 ルウィー教会もかくやとばかりに天井の高いこの城は、人より何倍も大きいトランスフォーマーたちでも悠々と動くことが出来た。

 

 適当な平原にエイハブを着陸させた彼らがまずこの城を訪れたのは、現在王位争奪戦を指揮っている宮廷魔術師のマーリンに会うためだった。

 これから先ガルヴァトロン一味と戦うためには、現地の人々の協力が不可欠だ。

 

「はー、立派な城だね」

「ケッ、辛気臭さくて吸気口が詰まるぜ! どいつもこいつもジロジロ見やがって……!」

 

 キョロキョロと辺りを見回すシーシャに対し、クロスヘアーズはいつもの調子だ。実際、この城に勤めている兵士や使用人たちは、この風変わりな来訪者に驚きと戸惑いの視線を向けてきていた。

 このブリテン遠征隊の一応の隊長であるホット・ロッドは、城の内装を興味深げに見回していた。

 あちこちに国章らしい円と十字を組み合わせた、いわゆる太陽十字が描かれた旗や盾が飾られており、また大理石とも金属とも付かない質感の壁や柱は非常に高度な建築技術で造られていることが分かる。

 すれ違う人々の中には、ミリオンアーサーのような剣を携えた者や、チーカマに似た雰囲気の少女たちもいた。

 

「随分と……なんというか、洗練されてるな。この城に限って言えば、プラネテューヌと遜色なさそうだ」

「ああ、この城は断絶の時代の遺物だからな」

 

 またしてもミリオンアーサーの口から出てきた聞き慣れぬブリテン用語に、ホット・ロッドは首を傾げた。

 未来のブリテン王は軽く振り返って説明する。

 

「かつてこのブリテンには、非常に高度な文明が栄えていたと言われている。しかし戦争か疫病か、この文明を築いた者たちは忽然と姿を消してしまった。故にその時代を指して断絶の時代と呼ぶのだ」

「それでもその遺物はこの国に多く残されているわ。騎士を生み出す湖も、騎士を指揮する円卓も、そしてエクスカリバーも、断絶の時代の技術を利用した物なの。中でもこの城は最大の遺物と言われているわ」

「謎の古代文明というワケか……興味あるね」

 

 相棒の言葉を継いだチーカマの説明に反応したのは、意外にもエスーシャだった。少しだけ、声が弾み口角が上がっている。

 隣を歩くドリフトが怪訝そうな顔をすると銀髪のゴールドサァドはすぐに元の無表情に戻ってしまったが。

 

 やがて、彼らは城の上層に位置する部屋の前へとやってきた。

 ミリオンアーサーは振り返り、言った。

 

「まずはわたしが話す。マーリンは気難しい男ゆえな」

 

 重々しい音を立てて、木と鉄で造られた扉がゆっくりと開くと、そこは玉座の間だった。

 床には磨き上げられた大理石が敷き詰められていて、アーチ状の天井には三本首のドラゴンが翼を広げた姿が、迫力のあるタッチで描かれている。

 

 左右の壁には窓と騎士の姿をした石像が交互に並んでいた。

 剣を持つ者、槍を持つ者、全部で12体ある。これらは初代アーサー王に仕えた騎士たちを模した物に違いない。

 

 部屋の奥には一際立派な男性の石像が立っていた。柄に太陽十字が刻まれた大剣を床に突き立て王冠を被ったその姿は、初代アーサー王その人だ。

 その初代アーサー王の足元には、今生のブリテン王が座るのだろう、白い大理石の台座と一体化した立派な玉座が置かれていた。この玉座は黄金で飾られ、高い背もたれの天辺にも太陽十字があった。

 

 当然ながら、今は玉座に座る者はいない。

 

 玉座の右隣、台座の下には銀で飾られた椅子があって、黒いローブを着た老人が座っていた。

 

 痩せていて、口髭と眉、長い髪は白に近い灰色。手には宝玉の付いた木の杖を持っている。深い皺の刻まれた顔の左半分には紫色の入れ墨を入れていた。見るからに魔法使いと言った出で立ちだ。

 しかし厳めしい顔立ちは生きてきた年月以上の知性と同時に得体の知れない凄みを感じさせ、鋭い目はこちらを探るように見ていた。

 

 ミリオンアーサーは一歩前へ出ると、臆することなく声を張り上げた。

 

「偉大なるマーリンよ。ミリオンアーサー、ただいま帰参申した!」

「報告は受けておる。よもや鋼の巨人を連れ帰るとはな……話を聞かせてもらうぞ」

 

 その外見通りの低く深い声には、しかし感情の波は見えない。

 ミリオンアーサーが彼女たちの旅路と、プラネテューヌでの出来事、そして遠征隊の目的が脱獄したディセプティコンの捕縛と、ガルヴァトロンが杖を手に入れることを阻止することだと言う事について話す間も、マーリンは眉一つ動かさない。

 そして話が終わると、椅子から立ち上がる。そうすると、背が高く背筋も伸びていることが分かった。

 

「相分かった、異邦の方々よ。このブリテンへの滞在と、鍵なる物の探索を許そう」

 

 一切の感情が籠っていない言葉だが、とりあえずホット・ロッドは安堵した。さすがに任務の初手から躓きたくはない。

 

 ところが、そうもいかなかったようだ。

 

「ただし、キャメロットの兵を貸すことは出来ぬ。また物資を与えることも出来ぬ。今はそのような余裕はないのでな」

「………まあ、当然ですね」

 

 ケーシャは不満げながらも納得した様子を見せる。何かと混迷にあるブリテンの現状を考えれば、それも仕方のないことだった。

 だがホット・ロッドは納得できない。

 

「しかし! ガルヴァトロンは杖を使って地球を滅ぼそうと……!」

「儂の役目はブリテンを守ること。それ以外は関知せぬ」

 

 平然と言い放つマーリンに、いよいよ若きオートボットは声を荒げる。

 

「ブリテンが無事なら、地球はどうなっても良いっていうのか!!」

「物事には優先順位という物がある。……このブリテンよりも名も知らぬ世界を守れと言うのか?」

 

 低くなる老魔術師の声色に、ホット・ロッドは言葉に詰まる。確かにその通りだと冷静な部分が言う。

 それでも納得し切れず目付きが鋭くなる彼を、ハウンドが声を出さずに通信で諫めた。

 

『落ち着け坊主。……今はこれで良しとしとけ。ブリテンから追い出されちまったら元も子もない』

 

 ギリギリと拳を握りしめたホット・ロッドは、ふつふつと湧いてくる怒りを飲み込み、小さく息を吐いた。

 

「……分かった。滞在と探索を許していただいて感謝す……します」

「よろしい。……その杖と鍵については、儂も知らぬ」

「なんだよ、知れねえかよ。使えねえなぁ」

「偉そうなことを言った割りには、随分と無知だな」

 

 クロスヘアーズとエスーシャが悪態を吐くが、すぐにそれぞれハウンドに頭を叩かれシーシャに口を塞がれる。

 老魔法使いに、気分を害した様子はない。

 

「何事にも専門分野という物がある。ここから離れた地にブリテンの歴史や古い伝承の大家(たいか)とされる男がいた。彼の屋敷を訪ねれば何か分かるかもしれぬ」

「雲を掴むような話だな」

「曖昧な質問には、曖昧な答えしか返せぬものだ」

 

 ドリフトが漏らした言葉に、マーリンはそう答えた。実際、他に当てもない。

 いた、と過去形で言うからには、少なくともその屋敷にはいないのだろうとホット・ロッドは思考する。もしかしたら、もう亡くなっているのかもしれない。 

 この時、一瞬だけミリオンアーサーの表情に苦みが走ったことに、くろめは気付いていた。

 

「幸いにして、かの地を治めるエイスリング卿はそこのミリオンアーサーの知己。道案内には困るまい」

「承った……しかしマーリンよ、異国からの使者に対し、あまりに礼を欠いてはいまいか? 彼らはブリテンのためにはるばる来てくれたのだぞ」

 

 ミリオンアーサーは、老魔法使いの物言いにさすがに抗議する。

 しかし、やはりマーリンの表情は崩れなかった。

 

「非礼と言うなら、その連中も大概よ」

「しかし!」

「いいんだ、ミリアサ。みんな、行こう」

 

 ホット・ロッドはミリオンアーサーを制すと、踵を返した。

 遠征隊の面々もブツブツ言ったり険しい顔をしながらも部屋を出ようとする。

 しかし、ここでこれまで黙っていたくろめが口を開いた。

 

「ところで魔術師殿。ちょっとした確認なんだけど、ガルヴァトロンはエクスカリバーを抜いたブリテン王候補なんだね?」

「……そうだが?」

 

 突然口を挟んできた黒衣の少女の言葉を、マーリンは不信そうではあるが肯定した。

 するとくろめはニヤリと口元をゆがめた。

 

「つまり余所者であっても、その剣を抜けば王座への挑戦権を得られるワケだ。……なら物は試しに、オレたちも剣を抜いてみないか?」

 

 この思わぬ提案に他の者たちも驚き、マーリンも初めて眉をピクリと動かした。

 一方でミリオンアーサーはふむと頷いた。

 

「確かに……拒む理由はないな。それにアーサーになれば、最終的に王になるかはともかくとして、キャメロットには支援する義務が発生する」

 

 遠征隊の面々もなるほどと思う。

 他国人だからエクスカリバーを抜けない、抜くことに挑戦できないという理屈も通らない。さっきも言った通り、鉄騎アーサーもまた他国人なのだから。

 これで駄目というのは、さすがに子供染みている。

 その場にいる全員に見つめられたマーリンはさすがに少し考える素振りを見せ、やがて口を開いた。

 

「……いいだろう。やるだけやってみるがよい」

 

  *  *  *

 

 かくして、遠征隊は城の中庭にやってきた。

 

 森の中と見紛うほどに植物が生い茂った中庭の一角に、石の台座が置かれ、そこに両刃の大剣が突き刺さっている。

 

 この剣こそがエクスカリバーだ。

 

「では、この剣を抜くがよい。自らに王の資格があると思うのなら」

 

 マーリンは、台座から少し離れた位置に立ち、こちらを伺っていた。

 さて、誰が剣を抜くかだが……。

 

「よーし、まずは俺様からだ」

 

 最初に名乗りを上げたのはクロスヘアーズだった。ウキウキとした様子で、彼から見れば爪楊枝のような剣を指先で摘まむ。

 

「これで俺がこの国のボスってわけだ。その暁にはこの国の名前をクロスヘアーズ王国に改名してやる」

 

 なにやら冗談とも本気ともつかないことを言いながら指先に力を籠めるのだが……剣はビクともしない。

 

「こ、こんな馬鹿な……いや、小さすぎて力が入れられねえんだ!」

「ならば、大きくしよう」

 

 マーリンが杖を一振りすると、なんと剣が台座ごとトランスフォーマーサイズにまで巨大化する。

 唖然とする一同の前で、魔法使いは少しだけ意地悪な笑みを浮かべた。

 

「これで思う存分力を入れられよう」

「お、おう……」

 

 クロスヘアーズはしっかり握って剣を引き抜こうとするが、やはり剣は少しも動かなかった。

 握り方を変え、引いてだめなら押してみたり、果ては剣に鎖を引っ掛けビークルモードで鎖を引いてみるも、やはり駄目。

 その後、ドリフト、ハウンド、バンブルビーが挑戦するも剣は抜けず、もう一度剣を小さくしてもらってネプギアやゴールドサァドたちが抜こうとしたが失敗した。余談だが、妙に自信がある様子だったエスーシャが少し落ち込んでいた。

 ついにホット・ロッド以外のオートボットたちが総がかりで剣の握りや鍔に手をかけるが、ピクリともしない。

 

「駄目だ抜けねえ!」

「なんと……面妖な」

「動か、ない!」

「畜生! クロスヘアーズ王国の夢は儚く消えたか……!」

 

 そんな様子を、くろめはちょっと面白そうに眺めていたが、傍らの相棒を見上げた。

 

「さあ、ロディ。次は君の番だ」

「くろめはいいのかい?」

「オレは王様なんて柄じゃないさ。……さ、早くやって見せてくれ。大丈夫だよ、絶対に抜けるから」

 

 妙に自信を感じさせる口調で言うくろめ。

 ホット・ロッドは緊張した面持ちで、選定の剣の前に進んだ。

 皆が固唾を飲んで見守る中、剣の柄に手をかける。

 

 両手でしっかりと握り、足腰に力を入れて踏ん張り、目を瞑り、力を籠めると……。

 

 

 

 

 

 やはりエクスカリバーは石の台座から抜けることはなかった。

 

 オートボットやゴールドサァドが肩を落とす中、ホット・ロッドは逆に安堵しているようだった。

 

「ま、当然だわな。俺に王様の資質がないことなんて、分かり切ってるし……くろめ?」

「馬鹿な、馬鹿な……抜けるはずなんだ。抜けなきゃおかしいんだ」

 

 まったく残念そうな様子を見せずに黒衣の少女の隣に戻っていくが、当のくろめは信じられないという顔をしていた。

 

「くろめ? どうしたんだ?」

「…………ああ、いや何でもないよ」

 

 酷くがっかりした様子のくろめだが、ホット・ロッドに促されて、その後に続く。

 

「…………?」

「ロディ?」

「いやなんでもない」

 

 しかし不意に立ち止まって辺りを見回した相棒に、怪訝そうな顔をした。

 ホット・ロッドは不思議そうな顔をしつつ中庭から出る扉へと向かっていった。

 それに続いて全員が去っていくのを、マーリンはジッと見ていた。

 

(抜けないのも当然のこと。巨人には抜けぬように、再調整したのだからな)

 

 そう胸の内で思う。

 ガルヴァトロンの件がある以上、二度と余計なイレギュラーが現れないようにセキュリティを強化するのは、当然のことだった。

 

 そしてそれは、結局のところ誰が王候補になれるかはこの魔法使いの胸三寸だということでもあった。

 

  *  *  *

 

 一行はエイハブに戻るべく城を出て街を歩いていた。

 道行く人々は、やはり金属の巨人と異国の装いの女性たちという一団を好奇や恐れの入った目で遠巻きに見ていた。

 ミリオンアーサーは努めて明るい顔をした。

 

「色々と残念ではあったが、どうか気を悪くしないでほしい! それよりもエイスリング卿の領地に向かうとしよう。彼ならきっと助けになってくれるはずだ!」

「また、おじ様に迷惑をかけることになるのね。それに()()()もいるし……」

 

 対してチーカマは肩を落とす。これからのことを想って、少しゲンナリしているようだ。

 

「ほんとだろうな……」

 

 クロスヘアーズが懐疑的な声を出して、ハウンドにどつかれる。

 

「でもさー、あのお爺さん。なんか感じ悪かったよねー」

「権力者なんて、だいたいそんな物でしょう。……ノワールさん以外は」

「こらこら、そういうこと言うもんじゃないの」

 

 先ほどのマーリンの態度が気に食わないらしいビーシャとケーシャを、大人であるシーシャが窘める。

 

「まったく、せっかく来てやったてのに、あの態度はないんじゃないかね!」

「仕方ねえだろう。まあ追い出されなかっただけ、恩の字としとけや」

 

 同様に、グチグチというクロスヘアーズをハウンドが宥めていた。

 一方でドリフトは、ホット・ロッドのことを厳しい目で見ていた。

 

()()、先ほどの会話、もう少し強く出ても良かったのでは? 我らはこの地に、オートボットとしての正義を成しに来たのだぞ」

「そういうけどさ。ゴチャゴチャと揉めて相手怒らせるよりはいいだろ?」

 

 その返事に、ドリフトはフンと鼻を鳴らす。

 ハウンドに助言されてそれに従ったことにも、角が立たないようにそれを言わなかったことにも気づいてはいた。

 ここでハウンドを引き合いに出すようなら、いよいよドリフトはこの若者を軽蔑していただろう。

 

「あの、皆さん。なにか聞こえませんか?」

 

 と、ケーシャが耳をそばだてて言った。

 女神とゴールドサァドたちは首を傾げるが、オートボットが聴覚センサーの感度を上げると、確かに音がした。

 

「ああ、聞こえるな。こりゃあ……鐘の音か?」

「三回鐘を叩く音が繰り返し。つまり警鐘だな」

 

 クロスヘアーズとドリフトが冷静に言うなか、ハウンドは調整していなかったとはいえ、オートボットたちより早く警鐘に気付いたケーシャの聴力に驚いていた。

 

「三点鐘ということは……火事か!」

 

 この国の出身であるミリオンアーサーはその意味を正確に理解した。

 

「いこう! ビー!!」

「がってん!」

 

 誰よりも先に動いたのはビーシャで、バンブルビーもそれに続いた。

 一同は顔を見合わせつつもそれに続いた。

 

 火事が起こっていたのは、街の中でも貴族や商人といった裕福層ではない、所謂平民が暮らす区画で、遠征隊が駆け付けた時にはすでに街の衛兵と近隣住民が消火活動に当たっていた。

 周囲の家を壊して火が広がるのを防ぎ、ポンプで水路から汲み上げたり、あるいは魔術師が魔法で造ったりした水を燃え盛る建物にかけている。

 人々は突然現れた金属の巨人たちに驚き、悲鳴を上げる者すらいたが、ミリオンアーサーがエクスカリバーを掲げて声を上げる。

 

「怖がらなくていい!! 彼らは味方だ!!」

 

 その堂々たる宣言が利いたのか、あるいはエクスカリバーの威光故か、人々は落ち着くなり、消火活動に戻るなりする。ミリオンアーサーも、氷の魔法剣デッキを手にそれに加わった。

 ホット・ロッドは、近場に空の大桶があるのを確認すると、すぐに皆に指示を出そうとした。

 

「よし! 俺たちも手伝うぞ! あのデッカイ桶に水を汲んで……」

『不要だ』

 

 しかし、急に空中にローブ姿の老人の姿が浮かび上がった。さきほど別れたマーリンだ。

 何等かの魔術により、城内にいながらこの場に姿を投射しているらしい。

 

「不要とは!?」

『そのままの意味だ。お主らに許可したのは鉄騎アーサー一味への対処と鍵の探索のみ。他のことには手を出さないでもらおう』

「はあッ!? なに馬鹿なこと言って……!」

 

 その言葉に、ホット・ロッドは思わず怒声を上げそうになる。

 だが、ハウンドがそれを止めた。

 

「堪えるんだ、坊主。この爺様は、こっちが手を出せばそれを理由に難癖付けてくるぞ!」

『人聞きの悪い……当然の権利の行使よ』

 

 彼の声が聞こえたらしい老魔法使いは、表情を変えずに言い捨てた。

 グッと拳を握りしめたホット・ロッドは冷静になろうと努力する。

 

「……ハウンドの言う通りだ。みんな、手を出さいでくれ」

「ち、ちょっと! この状況をホッとく気!?」

 

 ビーシャは当然の如く不満そうな声を上げ、ネプギアやオートボットたちも顔をしかめる。

 それでも、ホット・ロッドは彼らを宥めようと口を開こうとしたが……その時。

 

「子供が一人、中に取り残されているだと!?」

 

 ミリオンアーサーの声が聞こえた。

 

「クッ、魔法剣では威力が強すぎる……!」

「崩れるわよ!!」

 

 その瞬間ホット・ロッドは弾かれたように背中からレーザーライフルを抜き『時を止める』イメージを込めて引き金を引く。

 球形のエネルギーフィールドによって停止した部分が支えとなって家が崩れ落ちるのが防がれた瞬間、若きオートボットは立体映像のマーリンを突き抜け、燃える建物の中に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 かくして。

 燃え落ちる建物の中から無事に子供を助け出したホット・ロッドは、オートボットたちに囲まれてお説教を受けていた。

 

「ったく、テメエは俺らのこと止めたクセに、真っ先に突っ込みやがって!!」

「ほーんと、しっかりしてよね、隊長」

「すんません……」

 

 クロスヘアーズとバンブルビーは特にグチグチというが、そこにはからかうような響きがあった。

 もしもこの若い戦士が、子供を見捨てるような選択をしたなら、彼らの間の溝は致命的なほど深刻になっていただろう。

 彼を制止していたハウンドも、苦笑いを浮かべていた。

 

「結果オーライですね、あそこでホット・ロッドさんが行かなかったら、私が行く所でした」

「うんうん、正義の味方はこうじゃないと!」

 

 ネプギアと、ビーシャを始めゴールドサァドも煤を被った状態で満足気だ。

 結局、他の者たちもなし崩しで消火活動に加わっていた。その甲斐あってか、火事は最小限の被害で消し止められた。

 

 呆れた調子で、くろめは大きく息を吐く。

 

「ロディ、君って奴は……」

「ごめん、くろめ。出だしから散々だ」

「……いいさ。君はそういう奴だ」

 

 しかし、フッと表情を笑みの形にする。彼女は彼女で、このオートボットの善意が眩しくも嬉しく思えたからだ。

 マーリンの映像は、最初とまったく変わらぬ渋面のまま佇んでいた。

 

『まったく余計なことをしてくれたものよ』

「…………」

 

 感謝の『か』の字も見当たらない言葉に、柔らかくなりかけていた遠征隊の間の空気が再び棘を帯びそうになる。遠巻きにこちらを見るキャメロット市民にも不満げな表情の者が少なからずいた。

 

「ふむ、ホット・ロッドよ。わたしの要請に応えてもらい、感謝する」

 

 そこで、ミリオンアーサーが声を出した。

 彼女はマーリンや遠征隊、そして衛兵や市民の注目が集まるのを待ってから、言葉を続けた。

 

「わたしはそなたに助け乞い、そなたはそれに応えると約束してくれた。そしてそれが嘘偽りではないと行動で示してくれたのだ。この国の民を守ることによってな」

『アーサー、何を言っている?』

「わたしは数いる王候補に過ぎぬが、その言葉には責任が伴う。彼らの行動に咎があると言うのなら、それはわたしの責だ」

 

 堂々と言い切る姿には、少女とは思えぬ威厳があった。

 マーリンは何も言わずに姿を消す。この場でこれ以上、色々言えば自分が悪者になるのが分かっているからだろう。

 チーカマは、相棒に先ほどのくろめと同じような苦笑を向けた。

 

「ミリアサ……」

「そんな顔をするな友よ。人命を救って何を恥じることがあろうか……そうだ!」

 

 申し訳なさそうなホット・ロッドに対し、ミリオンアーサーはどこかスッキリした笑顔で言うと、懐から何かを取り出した。

 

 それは、彼女の掌より少し大きな古びた円盤だった。

 アーサーの身に着ける円卓模型のようにも見えるが、これはよほど古い物らしく黒ずんでいる上に所々欠けているが、それでもブリテンの国章たる太陽十字の形をしているのが分かった。

 よくよく見れば複雑な模様が刻まれている。

 

「それは?」

「わたしの家に古くから伝わる護符(タリスマン)だ。友情と感謝の印として、そなたにこれを預けておきたい」

 

 笑顔での言葉に、ホット・ロッドは慌てて手を振る。

 

「そんな大切な物を……」

「いやいや、遠慮するな。あくまで預けるだけだし、これ自体には二束三文の価値しかない。それにそう、これはマーリンの非礼の詫びと……約束の、証を兼ねている」

「……なるほど、これを預けるから、必ずブリテンを守れってことか」

 

 ホット・ロッドの横からタリスマンを覗き込んだくろめが、少し皮肉っぽく言う。多分に冗談めかしてはいたが。

 

「ロディ、せっかくだから預かっておきなよ。可愛い悪だくみに乗ってあげればいいさ」

 

 くろめに言われて、ホット・ロッドは少しワザとらしく排気してから、ミリオンアーサーの前に屈みこんで手を差し出した。

 

「分かった。有難くお借りするよ……そして改めて約束だ。俺たちは必ず、この国の人々を護る。その時に、このタリスマンを君に変えそう」

「うむ!」

 

 掌に乗せられたタリスマンを、ホット・ロッドはしげしげと眺めてから、装甲の内側にしまう。

 何処か満足気に彼を見上げるミリオンアーサーだが、チーカマが耳打ちした。

 

「いいの、アーサー? あれって確かお父さんからの贈り物でしょう?」

「うむ、良い。二束三文なのは本当だしな。……それに何故だか、彼が持っているべきだという気がするのだ」

 

 奇妙な確信を持っている様子の相棒に、チーカマは肩を竦めた。

 

「それでは皆、行くとしようか!」

 

 ミリオンアーサーの号令に、遠征隊はのっそりと動き出す。

 人々はそんな彼らにどういう反応をしていいか分からないようだった。

 感謝はある。だがやはり怖い、という感じだ。

 

「やれやれ、礼の一つも言えねえのかね?」

「良いだろ、別に。石投げられるよりはマシだって」

 

 もはや癖として文句を言うクロスヘアーズに、ホット・ロッドは軽く言う。

 地球時代には助けた相手に罵倒された経験もある彼からすれば、礼を言われない程度はなんてことはない。

 

「あ、あの! ありがとう!!」

 

 だが、去ろうとするホット・ロッドの背に向けて感謝の言葉を口にする者がいた。

 他ならぬ、彼に助けられた子供だ。

 

「巨人さん、まるで炎の戦士(ファイアファイター)みたいだったよ!」

消防士(ファイアファイター)か……まあ、火を消しに来たって意味じゃ遠からずかな?」

 

 目を輝かせる子供に悪戯っぽく笑うホット・ロッドに、両親も頭を下げる。

 共に消火活動を行った衛兵たちも、誰に命令されたワケでもなく金属巨人や異国人たちに対して敬礼した。

 

 こうしてブリテン遠征隊は、晴れやかな気分でキャメロットを後にしたのだった。

 

「……?」

「なんだいロディ? 城を見上げて」

「いや、城に入ったあたりから、誰かに見られてるような……」

「マーリンじゃないのかい?」

「いや、もっと大きくて優しい誰かが……ああいや、多分気のせいだな」

 

 

 

 

 

 

 しかし、それは気のせいではなかった。

 ホット・ロッドを始め、この異国から来訪者たちをつぶさに観察していたこの存在は、彼らの人となりを注意深く吟味していた。

 彼らは、無鉄砲で無遠慮だが、自分たちが不利になる可能性にも関わらず、助けを求める者のために動くことを躊躇わなかった。

 そして、あのタリスマンの存在を確認した今、彼もまた行動することを決意した。

 

 動くことも喋ることも出来ない身だが、それでもやれることはある。

 

 この時、キャメロットの最も高い尖塔の天辺から、オートボットにも察知できない信号が発せられた。

 それを受け取ったのは、街を出てエイハブに戻ろうとしていたホット・ロッドに……正確には彼の持っているタリスマンだった。。

 

 信号に込められた意味を、敢えて言語化するならば、すなわちこうなる。

 

『目覚めよ』

 

 タリスマンは、それに応えた。

 




ブリテン編の始まり始まり。

キャメロットの玉座の間は、ロード・オブ・ザ・リングのゴンドールは王の広間がモチーフ。
太陽十字とは、まあ最後の騎士王のタリスマンや騎士の鎧、テメノスソードに刻まれてる、あのマークのことです。


今回のキャラ紹介。

宮廷魔術師マーリン
先代ウーサー王の頃からキャメロットに仕え、今はブリテンの王権争いを取り仕切る魔法使いの老人。
数々の魔法を習得しているほか、断絶の時代の技術にも精通しており、エクスカリバー(とその量産体制)は彼が作った物。他にも騎士をコントロールする円卓の開発や、妖精の言語の翻訳など功績は数多い。
このように高い知性と豊富な知識を持つが、同時に冷徹とも言える人格の持ち主。それも広い視野を持ち国の未来を憂いていればこそではある。
が、それを抜きにしても皮肉屋で露悪的な態度が目立つ。IDW版プロールからさらに人間味を抜いてIDW版光波さん分を塗したような人。

拡散性ミリオンアーサーからのキャラクターであり、最後の騎士王における、どっかの禿社長によく似ている気がするマーリンとは明確に別人
本当に鍵と杖について知らないのかは、不明。


余談ですがアーサー王、知っての通り日本では某英霊を召喚するゲームその他ですっかり美少女のイメージが付いちゃってる御仁。
これが変態国家NIPONに見つかった結果……と思われがちですが、海の向こうでも昔からタイムスリップしてきたアメリカ人と仲良くなって産業革命しちゃうだの、タイムスリップしてきたスーパーマーケット店員と一緒にゾンビと戦うだの、果てはアメコミのヒーローやヴィランの中には円卓の騎士やその関係者が結構いたりして、ルーマニアの串刺し公や尾張のうつけほどじゃないにしても、フリー素材感の漂う扱いをされていたり。

そしてこの作品は実写TFの二次創作であるが故に、初代アーサー王と円卓の騎士たちは髭でむさいオッサンの集団。
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