新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

47 / 75
第38話 エイスリング卿とワイゲンド卿

 ブリテンの牧草地の上を、クジラのような宇宙船、エイハブが行く。

 畑仕事や家畜の世話に従事していた人々は、その不思議な船を見上げて首を傾げていたが、やがて仕事に戻った。

 

 人里を離れたエイハブは、広大な草原や深い森の上を飛ぶ。

 そのブリッジでは、ミリオンアーサーが前方に見える雪を被った山々を指差していた。

 

「あの山脈を超えればエイスリング卿の領地に入る」

「キャメロットとやらからは随分と遠いじゃねえか」

「ま、正直田舎だからね」

 

 クロスヘアーズの礼を欠いた言葉に、チーカマは苦笑しながら答えた。

 実際、すでにこの辺りはブリテンの中央からは大分離れていた。

 

 しかしなればこそ、その大自然は手付かずであり、ホット・ロッドは地球のアメリカ、その山中を思い出していた。

 

「綺麗なトコだな……」

「ああ、プラネテューヌに比べれば文明は進んではいないが、豊かな自然に恵まれ人々は必死に生きている……」

 

 空から見下ろして、ミリオンアーサーの自国への想いはいっそう強まっているようだった。

 ホット・ロッドはそんな彼女を好まし気に見ていたが、隣ではくろめがちょっと面白くなさそうな顔をしていた。

 

「……ミリアサ、あの山はなんだい?」

 

 だからというワケではないが、遠くに見える一際高い山を指差した。

 その山は山脈から独立して、平地のど真ん中に聳えているようだった。他の山と違い雪を被っておらず、剥き出しの岩肌と尖った尾根が、まるで城塞か塔のようにも見える。

 

「ああ、あれはベイドン山だ。……あるいは魔王山とも呼ばれている」

「魔王山?」

 

 仰々しい呼び名が可笑しくて、思わずくろめは笑みを浮かべた。

 だがミリオンアーサーは真面目な顔をしていた。

 

「あの山とその周辺は魔族の領土。ブリテンの者なら決して近づかぬ、呪われた土地だ」

「魔族? モンスターじゃなくて?」

「もっと恐ろしい連中だ。……我々もあまり近寄らない方がいいだろう」

「……ま、寄り道している暇もないしな」

 

 くろめは気にはなったが、追及するほどでもないと感じていた。

 実際、あの山は目的地とは別方向にある。

 

「……じきに山脈を越えるぞ」

「おお、そうか!」

 

 操縦席のドリフトの声に、ミリオンアーサーは嬉しそうな声を上げる。

 

「かの地はわたしの生まれ故郷でな。領主の『赤き』エイスリング卿は父の親友で、血の繋がりこそないが、家族のようなものだ」

「血の繋がりのない家族ですか……」

 

 何故だかケーシャと、声には出さないがエスーシャが思う所あるような顔をした。

 そうしているうちにも、山の向こうが見えてきた。久方ぶりの故郷に、ミリオンアーサーの顔は自然と喜びに染まる。

 

「みな、見てほしい。あれが……」

 

 山を越えると、まず雄大な森が広がっていた。

 その先に田畑や牧草地が広がり綺麗な川が流れ、その向こうには城壁に囲まれて白壁の家々が並ぶ街があり、そこからさらに少し離れた場所に古い城が立っていた。

 キャメロットほどではないが、ルウィーの教会に匹敵する十分に立派な城だ。

 ホット・ロッドなどは、むしろこちらの方がテーマパークなどで見る城っぽいと思ったくらいだった。

 

「我が故郷、『アセニア』だ!!」

 

 

 

 

 

 

 同じころ、アセニアの森の中を一人の少女が駆けていた。

 茶色い髪を長く伸ばしているが、身に着けているのは青緑のドレスだった。

 息も荒く必死に走る少女だが、行く手に茨の茂みが現れ、思わず立ち止まってしまう。

 間もなく少女が逃げてきた方向から、何かがやってきた。

 

 人間ではない、獣でもない。

 

 双頭犬と怪鳥の姿をしたインフェルノコンのスラッシュとラプチャーだった。

 

「グゥエエエエッ!!」

「グルルゥ……」

 

 その恐ろしい姿を目にした少女は、悲鳴を上げて異形の追手から逃れようと茂みの薄い所へと進む。しかしこれは悪手だった。

 茨の棘が服に引っ掛かり、身動きが取れなくなってしまう。

 スラッシュとラプチャーは、二本の首がそのまま両腕になった姿と腕と翼が一体化した鳥人のような姿に変形し、棘を外そうと必死になっている少女に手を伸ばした。

 

「誰か……助けてぇ!!」

 

 少女の叫びは無常にも誰にも届かず……とはならなかった。

 何処からか爆音と共に現れた黒と黄色の鉄の車が、二体に体当たりしたからだ。

 

「大丈夫かい、お嬢さん!」

「オイラたちが、来たからには、もう、ダイジョブ!」

 

 車は巨人の姿に変形すると、それぞれ武器を構える。もちろん、ホット・ロッドとバンブルビーだ。

 

「ニムイー、無事か!」

「あなたは……アーサー様!」

 

 後からやってきたミリオンアーサーは、剣を振るって茨を叩き斬り突然のことに言葉を失っていた少女を助け出す。

 ニムイーと呼ばれた少女は、若き王候補の姿に驚き、次いで安堵の声を漏らした。

 

「アーサー様、お帰りになられたのですね……!」

「詳しい話は後にしよう、愛しきニムイー」

 

 ミリオンアーサーが睨む先では、形勢不利と見たスラッシュとラプチャーがビーストモードに戻り森の奥に逃げていくところだった。

 

「逃がすか!」

「深追い、禁物! それより……」

「ああ、そっか」

 

 追おうとしたホット・ロッドをバンブルビーが止める。

 ホット・ロッドはミリオンアーサーに肩を抱かれたニムイーに向かって一礼する。

 

「お怪我はありませんか、お嬢さん(マドマアゼル)?」

「なんで、唐突な、フランス語?」

「いや時々出るんだよ、フランス語……最近は出なかったんだけどなあ」

 

 漫才のようなやり取りをする巨人たちに、ニムイーはクスリと笑うと、スカートの端を摘まんで膝を軽く折る。

 

「危ないところを助けていただき、感謝いたします。私の名はニムイー、アセニアの領主エイスリングの娘ですわ」

「これはご丁寧に。俺はオッド……ごほん! ホット・ロッド、こちらはバンブルビーと申します。故あって遠くプラネテューヌの地より馳せ参上致しました。我らのことは、どうぞオートボットとお呼びください」

 

 完璧な角度で優雅に一礼するホット・ロッドにバンブルビーは目を丸くする。

 

「お前、キャラ、違くね?」

「……ああうん、何だか自然に出てきた」

 

 余談だが、某破壊大帝の奥さんは子供に礼儀作法を厳しく仕込んでいる。本当に余談だが。

 目の前の巨人たちが、危険のない相手だと理解したニムイーはミリオンアーサーにしなだれかかる。

 

「ああ、アーサー様。ニムイーは信じておりました。貴方様が巨人を連れて帰ってきてくださると。父も喜ぶことでしょう」

「フッ、そなたの祈りがあればこそ、わたしは困難な旅路を乗り越えることが出来たのだ。可愛らしいニムイー」

「アーサー様……」

「ニムイー……」

 

 何だかキラキラしたエフェクトを放ちながら百合百合しい空間を形成している二人に、オートボット二人は顔を見合わせた。

 

「ん、ごほん! ……アーサー、そこのアーサー」

 

 しかし咳払いと低い声が聞こえて一同はそちらを向く。

 案の定、そこには頬を引きつらせたチーカマと、目を点にしている遠征隊の面々がいたのだった。

 

  *  *  *

 

 そしてここは、このアセニアの領主『赤き』エイスリング卿の城の脇に造られた、馬上槍試合の会場である。

 木の柵の囲いの外側に張られた天幕の上には、青い眼の赤い飛竜(ワイバーン)が翼を広げている姿が描かれた旗が掲げられていた。これはエイスリング卿の家の紋章だ。

 ニムイーを連れて現れた巨人たちに騒ぎが起こりかけるが、ミリオンアーサーの執り成しもあって大事にはならなかった。

 

「お父様!」

「ニムイー! 帰りが遅いから心配したぞ!!」

 

 騒ぎを聞きつけ天幕から出てきた、壮年ながら逞しく豊かな金色の髪と髭を持ったエイスリング卿は、駆け寄ってきた娘を抱きとめた。

 遠征隊の前に立つミリオンアーサーは彼に向かって声を上げる。

 

「アセニアの領主にして、武人としての誉れも高き『赤き』エイスリング卿よ! ミリオンアーサー、帰参いたしました!」

「おおアーサーよ、戻ってきたか。それにその巨人たちは……」

「それはこれより説明します」

 

 ミリオンアーサーとニムイーから話を聞く間、エイスリング卿は難しい顔をしていた。

 

「ううむ、我が娘を助けてくれた件、そしてアーサーが世話になった件、感謝いたす。できれば力になりたいのだが……今は問題が起きていてな」

「おじ上、ニムイーを追っていたのは鉄騎アーサーの手下でした。奴の手がここまで伸びつつあるのですな」

 

 家族同然、しかし親しき仲にも礼儀ありということか、ミリオンアーサーの態度は目上に対するものだった。

 マーリンにさえ王として振る舞っていたことを想えば、本当にエイスリング卿を慕っていることが伺える。

 しかし領主は首を横に振った。

 

「アーサーよ、事はもっと複雑だ。お前が旅立ってから、状況はすっかり変わってしまった。隣国ジャールを治めるワイゲンドめが、正式に鉄騎アーサーを支援すると言いだしたのだ。今やジャールはあの巨人の国も同然だ」

「なんですと!?」

 

 思わぬ言葉に、ミリオンアーサーの顔が驚愕に染まる。

 その意味が分からず、遠征隊は顔を見合わせた。

 

「馬鹿な……『黒冠の』ワイゲンド卿は気位が高く激しやすい気質ではあれど、正義感の強く信義を重んじる人! 悪党に屈するような方ではないはず!!」

「儂もそう思っておったが……」

「お父様……」

 

 ニムイーが気づかわし気な顔をするも、エイスリング卿は懊悩に満ちた顔で息を吐いた。

 

「折り悪く、ワイゲンドめの牛が我が領内の畑を荒らしてな。捕まえて賠償を要求したのだが……するとあの若造め、儂を牛泥棒と罵り決闘を申し込んできたのだ。負けた方が勝った方の要求を呑むという条件でな」

「……ああそうか、それはまずいね」

 

 領主の言葉の意味を、くろめは正確に察した。

 ビーシャとシーシャは首を傾げているが、ネプギア、ケーシャも理解できたらしい。

 オートボットたちも何となくは分かった。

 

「もちろんそれは単なる口実に過ぎぬ。奴らの狙いはこのアセニアを支配下に置くことだろう」

「それで私は、ジャールの様子を伺うべく、森を抜けようとしたのですが……」

「あいつらに見つかって、それをミリアサが目敏く見つけたと。……相変わらず無茶するわね」

 

 父の言葉を継いだニムイーに、チーカマは呆れたような視線を向ける。

 当然ながら、この二人も知り合いであるらしい。

 

「えっと……つまり、その黒冠の人が悪者なんだよね? だったら任せて! わたしたちが、ドカーンとやっつけちゃうから!」

 

 頭の上にハテナマークを浮かべていたビーシャは自分なり話を整理し、サムズアップする。

 しかしエイスリング卿の顔は晴れない。

 

「残念ながらそうもいかぬ。ここでワイゲンドを討とうとすれば、それこそ奴らの思う壺。復讐を口実にこちらに攻め込んでくるだろう。そうなれば戦争となり、勝つにせよ負けるにせよ多くの血が流れることになる。出来ることなら、それは避けたい」

「結局、決闘に勝つのが一番スマートってことか」

 

 ホット・ロッドは顎に手を当てて、険しい顔をする。

 向こうにはガルヴァトロンが付いている。戦争になればアセニアの勝ち目は無いに等しい。

 おそらく向こうもエイスリング卿が決闘での解決を望むと見越しているのだろう。

 件の牛も、この状況に持ってくるためにワザと放した可能性すらある。

 

 決闘を拒否すれば、その時は牛を取り返すという名目で堂々とこちらに攻め込んでくる気なのだろう。

 

「畑と牛が理由で戦争なんて……」

「戦争の理由なんて、いつだってくだらない物です」

 

 ネプギアが顔を曇らせケーシャが冷やかに言うと、ミリオンアーサーが首を横に振った。

 

「いいや。この地で生きる者にとっては長年かけて耕した畑も、貴重な労働力である家畜も、生きる上で欠かすことのできない物だ。くだらないとは言葉に過ぎる」

「ご、ごめんなさい!」

「確かに、言いすぎました」

 

 厳しい言葉にネプギアは素直に謝るが、ケーシャは謝罪しつつも納得できていないようだった。

 そんな黒髪の少女をハウンドは顎を撫でながら難しい顔で見下ろしていた。

 

「にしても、あのマーリンとかいう爺さんめ。ディセプティコンに協力者がいるなんて、一言も説明してくれなかったぞ」

「ああいうタイプは、ワザと重要なことを言わないからね。それで追及すると嘘は吐いてないと開き直るのさ」

 

 いかにもありそうな推論を並べ、くろめも苛立たし気に腕を組む。

 エイスリング卿は、敢えて力強い笑みを浮かべた。

 

「なに、決闘に勝ちさえすればいいのだ。このエイスリング、あのような若造に後れを取るほど老いてはおらぬぞ!」

「お父様……」

 

 心配そうに、ニムイーは父の顔を見ていた。

 体付きこそ逞しいがエイスリング卿の顔には皺がより、疲れて見えた。

 この混迷の時代にあって、自領と領民の安全を守るべく力を尽くしてきたからだった。

 

 そこへ、衛兵がやってきた。衛兵は金属の巨人や異国人たちに面食らうが、エイスリング卿に促されて要件を言う。

 

「エイスリング卿! ワイゲンド卿がいらっしゃいました!!」

「来たか……客人がた、済まぬが儂は行かねばならぬ。あなた方の求める屋敷の場所はアーサーが知っておる故、彼女に案内してもらってほしい」

 

 エイスリング卿はしっかりとした足取りで会場の外へ向かい、ニムイーも遠征隊に頭を下げた後でそれに続く。

 その背を見たミリオンアーサーは申し訳なさそうにホット・ロッドを見上げた。

 

「すまん、例の屋敷は後回しにしてもいいだろうか? わたしもおじ上のことが気に掛る」

「俺は構わない。ガルヴァトロンが絡んでるなら、他人事じゃないと思う」

 

 皆を見回すと、クロスヘアーズは相変わらず不機嫌そうでエスーシャは無表情だったが他の皆に異論はないようだった。

 

 

 

 

 

 会場のすぐ外には、ジャールの領主『黒冠の』ワイゲンド卿が部下たち共々馬で乗り付けていた。

 何人かの部下は、赤い眼をした黒い獅子の姿が描かれた旗を持っている。これが彼の家の紋章だろう。

 

「ワイゲンド卿、よくぞこられた。歓迎いたそう」

「こちらこそ、お招きいただき光栄だ」

 

 ニムイー、ミリオンアーサー、チーカマを伴ったエイスリング卿が握手を求めると、馬を降りた甲冑姿の年若い男、ワイゲンド卿はその手を握った。

 その反応に、エイスリング卿は内心で疑問を覚えた。

 この男は、これから戦う相手と社交辞令でも慣れ合うことが出来ないクチだったはずだ。

 ミリオンアーサーは、ジャールの領主に向かって一礼する。

 

「お久しぶりです。ワイゲンド卿」

「貴殿か。久しいな」

 

 エイスリング卿の手から自分の手を離したワイゲンド卿は、若きブリテン王候補に僅かに苛立ちの入った目を向ける。

 

「まだアーサーを名乗っていたか。一度はガルヴァトロン殿に敗北したというのに」

「ワイゲンド卿。貴方は剣による王の選定には不満を持っていたはず。それが何故、鉄騎アーサーに従うのです?」

 

 ミリオンアーサーの問いに、黒冠の騎士はギラリと目を光らせた。

 

「もちろん私とてマーリン……言い伝えの魔法使いを名乗る、あの老人のやり方は好かぬ。聖剣を抜いた王候補などというが、そのほとんどはエクスカリバーの力を己の欲のために使う、山賊野党に毛が生えたような輩ばかり。アーサー王に肖るどころかその名を貶める一方よ! あの連中が我が領民に何をしたか……!」

 

 声と口調に抑えきれないほどの怒りがあった。

 彼は彼で、ブリテンの現状には思う所があるのだろう。

 

「それでもこれ以上国を乱すのも忍びなく、反キャメロット勢力に与することもなかったが……彼には大きな借りがあるのでな。借りも返せぬは貴族の恥というもの」

 

 ワイゲンドはミリオンアーサーからエイスリングに視線を移す。

 

「我らが勝てば貴殿のアセニアには、我がジャール、そしてガルヴァトロン殿と同盟を結んでもらう」

「同盟か……それは支配下に置くの間違いではないか?」

「そのような下劣な真似はせぬ……と言ってもそなたらは信じまい。なればこそ決闘にて問題を片付けるとしよう」

「相分かった。では武器を取ってこよう」

「いや、待った!」

 

 準備をするべく天幕に戻ろうとするエイスリング卿を、ワイゲンド卿は制した。

 

「私の代わりに代理人が戦う。……モホーク卿とニトロ・ゼウス卿だ」

 

 その言葉と共に、近くの木々をなぎ倒して一機の戦闘機が現れた。

 もちろん呆気に取られるエイスリング卿たちにはそれが戦闘機であることも、地球という世界のグリペンと呼ばれるマルチロール機であることも分からなかったが。

 その機械仕掛けのグリフォン(グリペン)の機首には、モヒカンのようなトサカのある魚類めいた顔をした金属生命体が跨っていた。

 

「イエーイ! グリフォンライダーのモホーク卿、推参だぜー!!」

「さあ何してんだ、オッサン! 戦おうぜ!!」

 

 騎士のつもりなのか手にした盾と試合用の先が丸まった突撃槍を掲げるモホークと、わざわざ着陸脚で地面を進んでくるニトロ・ゼウス。その後ろには、青と銀の身体に側頭部の角が印象的な鉄騎アーサーことガルヴァトロンが不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 

「鉄騎アーサー……! ワイゲンド卿、何を考えている!!」

「決闘のルール上、代理人を立てる権利は認められている」

 

 ミリオンアーサーが怒声を上げると、ワイゲンドは腕を組んでニヤリと笑った。

 そこへ、異常を察知した遠征隊もやってきた。

 先頭に立つホット・ロッドは、ガルヴァトロンの姿を見とめるや背中からレーザーライフルを抜く。

 

「ガルヴァトロン……!」

「ロディマス……いや、ホット・ロッドよ。スラッシュたちの報告にあった通り、やはりこちらに来ていたか。……それと天王星うずめも」

 

 ガルヴァトロンは血気に逸る弟のことを敢えてホット・ロッドと呼び、仇敵の姿を見とめるや笑むのを止めて目つきを鋭くした。

 くろめは、敢えて不敵に笑う。

 

「今は暗黒星くろめと名乗ってるんだ。……マジェコンヌは一緒じゃないのかい?」

「貴様には関係あるまい」

 

 鼻を鳴らすような音を出すガルヴァトロンだが、以前のように怒りに飲まれることはなかった。少なくとも表面上は。

 

「これはジャールとアセニアの問題だ。貴様らは手を出すな」

「テメエ、自分たちのことは棚に上げて……!」

「我らはワイゲンド卿と正式に同盟を結んでいる。だが貴様らは?」

 

 グッと、ホット・ロッドは言葉に詰まる。

 確かに遠征隊はあくまでもディセプティコンと杖のことしか対処できない。

 かと言ってアセニアと同盟を結べば、それはそれで内政干渉になってしまう。

 

「おじ上! かくなるは、わたしがおじ上の代理として……」

「アーサーよ。お主はあくまでブリテン王候補。いずれかの諸侯に肩入れするなどあってはならぬ。それが例え生まれ故郷のだとしてもだ」

 

 状況を理解したブリテン王を目指す少女の提案を、アセニアの領主は断固として受け入れなかった。

 

「王には王の通すべき筋という物がある。そしてこれは領主として儂が通すべき筋だ」

「……分かりましたエイスリング卿。ご武運を」

 

 マーリンやディセプティコンにも臆しないミリオンアーサーも、彼の前では経験の足らぬ小娘のようだった。

 

「むう、何と立派な。正に武士の心意気。……しかしてこのままではあまりにも不利というもの。いざ、助太刀いたす!」

 

 ドリフトは感嘆の声を漏らしたが、余りの不利にいても立ってもいられずに進み出た。

 それを見たガルヴァトロンが、剣呑な声を出す。

 

「先ほども言ったが、これはアセニアとジャールの……」

「いや、俺たちはキャメロットからディセプティコンへの対処は許可されてる。……お前らと戦う分には、どうとでも言い訳できるさ」

 

 ホット・ロッドが助け船を出すと、ガルヴァトロンはチラリとワイゲンド卿を見た。

 黒冠の領主は彼なりにこれがアンフェアであるとは思っていたようで、渋面を作りながらも頷く。

 ドリフトはビークルモードに変形すると、天板を開く……本来メルセデスAMG・GTRにそんな機能はないのだが、そこはトランスフォーマーゆえである。

 

「さあ、乗られよ!」

「おお、かたじけない。では失礼して……」

 

 エイスリング卿は、器用に車体を登って開かれた天板に足を突っ込む。

 シートの上に立ちダッシュボードに片足を乗せて、問題なくバランスを取れるあたり、相当に体幹が鍛えられているのだろう。

 戦闘機と自動車に乗った騎士たちは、会場へと移動する。

 

 この奇妙な騎士たちに、会場の周りに集まった群衆は大いに戸惑ったのは言うまでもない。

 

 部下から愛用の兜と試合用の突撃槍を受け取ったエイスリング卿は、兜を被り槍の穂先を真っすぐに敵に向ける。

 エイスリング卿の鎧兜は真っ赤なうえ、ドリフトのビークルモードも赤っぽいので、なんというかビックリするくらいに『赤い』

 

「な、何故でしょう、絵面の可笑しさとか色々すっとばして『赤い』という感想がまず出てきます」

「何処かの三倍で彗星な大佐もビックリの赤さ……むしろ赤い稲妻の方?」

「いいのかい、エスーシャ。一応、あんたのパートナーだろう?」

「興味ないね」

 

 ケーシャとビーシャが面食らうなか、シーシャの声にも、エスーシャは相変わらず無感情に答えた。

 そうしている間にもニトロ・ゼウスは敵に突進する。

 

「へん! 車で戦闘機に勝てるもんかよ! 戦車でも持ってこいってんだ!!」

「いざ、勝負!!」

 

 挨拶もそこそこに、赤い赤い、赤い装いのドリフトとエイスリング卿はニトロ・ゼウスとモホークに向かっていく。

 もちろん、単純なパワーならば戦闘機の方が上だ。

 しかしドリフトは交差の瞬間に僅かにハンドルを切り、ニトロ・ゼウスの脇をすり抜けた。同時にエイスリング卿はモホークの突き出した槍を自分の槍で払いのけ、一瞬と置かずに穂先で相手を突き飛ばす。

 歴戦の勇士らしい、電光石火の早業だ。

 

「ぐええええ!」

「凄いですね……」

「おじ上は槍の名手だからな!」

 

 戦闘機の機首から突き落とされたモホークを見てネプギアは感心し、ミリオンアーサーも笑顔を浮かべる。

 他の遠征隊の面々も、これには素直に感服しているようだった。

 

「お見事! 貴殿こそ真のブリテン無双だ!」

「なんのなんの! ドリフト殿の助太刀あってこそよ!」

 

 ドリフトとエイスリング卿は僅かな共闘の間に、すっかり意気投合したらしく互いに健闘を称え合っていた。

 

「お父様ー! さすがです!!」

 

 もちろん、卿の愛娘ニムイーも歓声を上げる。

 そして渋面を作っているワイゲンド卿の方へと向かった。

 

「さあ、貴方がたの負けです! 父とアーサー様への数々の非礼を詫びなさい!! そして二度と顔を見せないで!!」

「…………」

 

 その剣幕に推されたワイゲンド卿はやがて観念したように一つ息を吐いてから口を開こうとしたが、そこで地面に転がっていたモホークが立ち上がり大振りなナイフを両手に握る。ニトロ・ゼウスもロボットモードに戻って武装を展開した。

 

「よくもやってくれやがったな!」

「もうこんな茶番にゃ付き合ってられっか!!」

「止めろ! ワイゲンド卿に恥をかかせる気か!!」

 

 だがそれをガルヴァトロンが一喝して止める。不満そうな顔をする部下たちだが、渋々と従った。

 同盟者に軽く頭を下げたワイゲンド卿は、ドリフトから降りてきたエイスリング卿と向き合った。

 

「エイスリング卿、こちらが負けた以上、約束通り貴殿の要求を聞こう」

「……ならばジャールはアセニアを攻撃せぬこと。そして彼ら異国よりの客人たちを我がアセニアに逗留させるが、そのことについて我らに難癖を付けぬこと……もちろん、そちらの同盟者もな。これが儂の要求だ。……牛は後でそちらに返すので、これで今日のところは争いは無しとしておこう」

 

 厳しい顔のエイスリング卿の言葉に、一同が目を剝く。

 遠征隊に向かって、アセニアの領主は柔らかい笑みを浮かべた。

 

「助太刀をしてもらった以上、恩を返さないとあっては家名に傷がつくというもの」

「おじ上……!」

 

 やはり、この人には敵わないとミリオンアーサーが感激した様子を見せた。

 対しジャールの領主は、約束を反故には出来ないと厳しい顔ながらも頷いた。

 

「よかろう。我がジャール及びその同盟者は、アセニアを攻めぬし、その異国人たちが留まることにも文句を付けぬ。牛は後でこちらに送ってもらおう。……ガルヴァトロン殿も構わぬか?」

「ワイゲンド卿が、そういうであれば……お前たちもよいな!」

「ちぇー」

「チッ!」

「どうせ奴らとはいずれ戦うことになる。それまでは辛抱しておけ」

 

 ワイゲンド卿が部下の引いてきた馬に跨ると、ガルヴァトロンはいきり立つ部下たちを諫め遠征隊に背を向ける。

 

「ホット・ロッドよ。今日のところは同盟者の顔を立てて戦いは無しとしておいてやる」

「ガルヴァトロン! 俺たちはお前たちを止めて、地球を守る! そのために来たんだ!!」

 

 その背に向けて、ホット・ロッドは鋭い視線と言葉を投げた。

 ガルヴァトロンはせせら笑った。

 

「地球を守る、か。果たして()()()()いつまでそんな世迷言をほざいていられるかな?」

 

 それだけ言うと、今度こそモホークを乗せたニトロ・ゼウス共々飛び去った。それを追って、ワイゲンド卿と部下たちも馬を走らせる。

 

「……撃つべきでは?」

「お嬢ちゃん、そりゃ野暮ってもんさ」

 

 冷静なケーシャの言葉を、ハウンドが却下する。

 ここでディセプティコンを撃てば、エイスリング卿の面目を潰すことになる。

 

「お父様! やっぱりお父様は素敵でしたわ!」

 

 抱き着いてくるニムイーを、エイスリング卿は鎧が痛くないようにと優しく抱き返していた。

 ホット・ロッドは改めて片膝を突き、胸に手を当てて彼らに頭を下げた。

 

「エイスリング卿。お心遣いに、心から感謝します」

 

 マーリンに対したのとは違う、本気の礼だった。

 ネプギアとバンブルビー、ハウンド、ドリフトもそれに倣う。くろめは倣わず、ゴールドサァドとクロスヘアーズも軽く頭を下げるに留めた。

 

「なんのなんの。ニムイーとアーサーの受けた恩を思えば、まだまだ返し足りないほど! 我がアセニアは畑と牧場、それに歴史以外には何もない田舎だが、どうか我が家と思ってゆるりとしていかれよ!」

 

 緊張を解き愛娘の肩を抱くアセニアの領主は、好々爺然とした朗らかな笑顔になる。おそらく、こちらが彼の素の顔なのだろう。

 

「さて、ではアーサーよ。彼らを案内してやってくれ」

「はい、おじ上」

 

 礼儀正しく頷くミリオンアーサーに、エイスリング卿は身内故の気安い笑みを向けた。

 やっと本来の目的である杖と鍵の情報探しができる。

 

「お主も久方ぶりの自分の家だ。少しゆっくりするといい」

「自分の家? ってことは……」

 

 領主の言に、その意味を察したホット・ロッド以下遠征隊はバツの悪げな王候補を見た。

 彼女に代わってチーカマが、苦笑気味に答える。

 

「その歴史を研究してた人っていうのはね。アーサーの……お父さんなのよ」

「うむまあ、そういうことだ……」

 

 目を丸くする一同に対し、ミリオンアーサーはらしくもなく曖昧な顔をした。

 

 こうして、ブリテン遠征隊は、当座の所はアセニアに腰を落ち着けることが出来たのだった。

 




映画バンブルビー、見てきました。
ネタバレは避けますが、あんなもん魅せられたら、創作意欲も爆発するってもんです!

ここでお願いですが、しばらくの間、感想覧などでのネタバレ行為はどうぞお控えください。謹んでお願い申し上げます。

今回のキャラ紹介

アセニア領主『赤き』エイスリング卿
ブリテンの辺境に位置するアセニアという土地を治める領主。
ミリオンアーサーの父の親友であり、父親代わりでもある。
信義に厚く、筋を通す性格。
混迷の時代にあって辺境の地アセニアを守るために尽力しており、家臣や領民からの信頼も厚い。
馬上槍の名手であり、武人としても名高い。

エクスカリバーによる王の選定、ひいては現在のブリテンの有り様には懐疑的。
家紋は『青い眼の赤い飛竜』


領主の娘ニムイー
エイスリング卿の一人娘。
ミリオンアーサーとは幼馴染で、彼女のハーレム第一号(予定)
お転婆で気が強く行動力があり、それでいて惚れっぽいためエイスリング卿を悩ませている。
だが彼女は彼女で父のことを深く想いやっている。


ジャール領主『黒冠の』ワイゲンド卿
アセニアの隣に位置するジャールの領主。ミリオンアーサーとも知り合い。
何らかの恩義からガルヴァトロンと同盟を結び、彼を支援している。
元々は領民への愛情は深いもののプライドが高く怒りっぽい性格だったが、混迷の時代にあって冷静さを身に着けざるを得なかった。

剣による王の選定にはハッキリと否定的だが、自らの手で国を乱すのも憚られたため、反キャメロット勢力には与していない(ガルヴァトロンも一応はキャメロット側である)
家紋は『赤い眼の黒獅子』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。