新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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第39話 ヴィヴィアン

 ブリテンにあってはよく見られる高い城壁に囲まれて白壁と赤い屋根の建物が並ぶアセニアの街。その一角に、他の家よりも大きな古い屋敷が立っていた。

 立派な屋敷も古い庭も手入れはされているようだが、人が住んでいる気配はない。

 

 と、屋敷の庭先にブリテンでは滅多に見られない鉄の車の一団が停車した。自動車姿のオートボットたちだ。

 

 先頭のランボルギーニ・チェンテナリオから降りたミリオンアーサーは屋敷を見上げて息を吐くと、扉まで歩いていく。

 懐から取り出した鍵で彫刻が施された木製の扉の鍵を開け、扉を開く。

 きしむような音を立てて開いた扉の向こうはエントランスホールになっていた。

 

 ミリオンアーサーは、二階へ続く階段の踊り場に飾られた、気難し気な顔の学者風の男性の肖像画を見上げた。

 

「ただいま帰りました。お父様」

 

 

 

 

 

 残念ながらミリオンアーサーの生家の扉はオートボットたちが入れるほど大きくないため、彼女とチーカマ、ネプギアとくろめ、ゴールドサァドで手分けして屋敷の中を探すことになった。

 

「とは言っても、どこから手を付けていいものやら……」

 

 天井まで届く本棚が何列にも渡って並ぶ書庫で、シーシャは途方に暮れていた。

 本棚には一部の隙間もなく本が並んでおり、その全てが羊皮紙と分厚いカバーの重々しい物だった。

 

「ゾンビとか出てこないだろうね……」

 

 何故か周囲を警戒しながら手に取った本を開くと、そこには遥か昔降臨した女神が猿も同然だった人間に知恵を授け、人々から崇められたというような内容が、堅苦しい文体で長々と書かれていた。

 書かれている文字は、ゲイムギョウ界主要四カ国で使われている物と同じようだ。

 しかし挿絵には文章と裏腹に、女神らしい女性が折り重なった人間の死体の上に玉座を乗せ、それに座っている姿が描かれていた。

 

「関係なさそうだな。じゃ、次はと……」

 

 本を棚に戻し、別の本を開くと、夜空に輝く星々を食べてしまう六本の角を持った大きな怪物に、『希望を継ぐ者』と呼ばれる炎の戦士が立ち向かっているという絵が乗っていた。

 

「あー、こっちにもあるんだこの話。昔よく読んだっけ……と、それより鍵のヒントはと」

 

 本を元の場所に戻しかけて、ふと気付いた。

 

「そう言えば、希望を継ぐ者とかいうワードも聞いた気がするな。だったら案外、これにヒントが隠されてたりして」

 

 パラパラとページをめくると、本の見返しの部分に小さく文字が書かれていた。どうやら後から書き足されたようだ。

 

「『ベイドン山の下、炎の上に湖の乙女が訪れるとき、扉は開く』……? んー、ベイドン山ってあの危ないトコだっけ? 重要っぽいけど意味が分からないなー。エスーシャ、そっちは何かあったー?」

「……いや」

 

 書庫のシーシャに見えない位置で、エスーシャは表情こそ変わらないものの食い入るように本を読んでいた。

 

 その本の表紙には『因子と騎士の関係について』とある。

 

 これよると、因子によって生み出される騎士には、『魂』が存在しないらしい。

 

 感情や思考を有しているように見えるのは、人工知能を持ったロボットのようにインプットされた情報にしたがって反応しているだけだとも書かれている。

 ただし、そうとは思えない部分も多々あり、何等かの形で因子の元の持ち主とリンクし時空を超えてその魂を共有しているのではとの説もある。本の著者はこれを『ジェネトロニック・トランスリンク』と仮称している。

 もちろんこれでは因子元が死亡している場合や、複数の因子を混ぜて生み出された騎士の説明が出来ないため、仮説の域を出ないと本の著者は注釈している。

 その上で、この仮説が正しいとすれば死者の因子を基に騎士を造ることは、疑似的な死者蘇生に等しいのではないかとも記していた。

 

 表情を変えぬまま夢中になって本のページをめくるエスーシャだったが、突然ピタリと手を止める。

 

「……ああ、分かってるよ。鍵と杖だな」

 

 誰もいない空間に、まるでそこにいる誰かから声をかけられたかのように言い返し、本を棚に戻した。

 

 

 

 

 

 別の部屋では、ネプギアとビーシャが手掛かりを探していた。この部屋は元々パーティーホールのような場所だったようだが、今は様々な工芸品や美術品などが陳列され、さながら小さな博物館の様相を呈していた。

 

「これ、いくらくらいだろう? 以外とぶっ飛ぶくらい高いのか、はたまた二束三文か……」

 

 『弱酸性エル大納言』なるSDキャラのようなシュールな姿をしていながら、名状し難い冒涜的な狂気を感じさせる粘土像の価値が理解できず、ビーシャはしきりに首を傾げていた。

 ネプギアもメカならともかくこういう物の価値は正解には分からないが、それでも暖炉の上に飾られた、三本首のドラゴンと剣を掲げる初代アーサー王が有象無象の敵兵を蹴散らす絵が素晴らしい物であることは分かった。

 

「そう言えば、ビーシャさん」

「んー? なにー?」

「ビーシャさんは、いったいいつお姉ちゃんと知り合ったんですか?」

 

 せっかく二人きりということもあって、ネプギアは思い切った質問をぶつけてみる。

 するとビーシャは照れたような顔をした。

 

「ああうん。まあわたしさ、前々からヒーロー的なことしてたんだ」

「プレスト仮面としてですね」

「え!? あ、いやープレスト仮面? 誰のこと、それー」

 

 ビーシャは口笛を吹いてまで誤魔化そうとする。どうあっても、自分がプレスト仮面であることを隠したいらしい。

 

「で、でさ! 通りすがりの正義の味方してたんだけど、実はわたしモンスターが苦手だったんだ。ねぷねぷには、それを克服するための特訓に付き合ってもらったんだよ! それ以来、友達になったんだ!!」

 

 若干呆気に取られる女神候補生に構わず、ビーシャは自分とネプテューヌの関係を明かした。

 なるほどとネプギアは頷く。彼女の姉は、あちこちで事件に首を突っ込んでは人助けをして友達を作っているのだ。

 モンスターが苦手だったというビーシャはともかく、姉らしい話だった。

 

「いやー思い出すなー。あのねぷねぷとの地獄の特訓の日々を」

「それじゃあその……ビーのことは何処で?」

 

 単純にバンブルビーのファンなのか、あるいはもっと深い感情を寄せているのかが、ネプギアはどうしても気になった。

 

「ああそれはほら、色々映像で見てさ。可愛いのに強い! そしてカッコいい! 悪いディセプティコンをやっつける姿に、一目でファンになっちゃったよ!!」

「なるほど」

 

 はしゃぐビーシャに、ネプギアは嬉しいようなホッとしたような気分になった。

 だからというワケではないが、幼いゴールドサァドの言葉の『悪いディセプティコン』の部分の意味を深く考えなかった。

 

 

 

 

 

 ミリオンアーサーとチーカマは二階にある屋敷の主の……つまりミリオンアーサーの父親の書斎を調べていた。

 

「これじゃない、これでもない。やっぱり杖と鍵に繋がりそうな物はないわね」

 

 チーカマが本棚の本を手に取る間、ミリオンアーサーは壁に掛けられた肖像画を眺めていた。

 在りし日の父と幼い日の彼女に加え、彼女によく似た母親が並んで描かれている。

 

「よう! 調子はどうだい!!」

 

 不意に聞こえた声にそちらを向くと、窓からホット・ロッドが覗き込んでいた。

 一つ息を吐き、ミリオンアーサーは首を横に振る。

 

「残念だが芳しくないな。この家の何処に何があるかは、わたしも把握し切れておらんのだ」

「え? ここってミリアサの家だろ?」

「ああ、まあそうなんだが……実のところ、わたしはお父様とは不仲でな。お母様が亡くなられてからは、もっぱらおじ上の所に入り浸っていたのだ」

 

 いやに煮え切らない態度の彼女に、ホット・ロッドはしまったという顔をする。

 チーカマは何も言わずにミリオンアーサーに痛ましげな視線を向けていた。

 

「うんまあ色々とあるのだ。……聞かないではくれまいか?」

「ああ、うん。分かった。……ごめん」

「いや、いいんだ」

 

 どうも父親と確執があるらしい彼女に、肉親の間で問題を抱えているホット・ロッドは申し訳ないと思いながらも、むしろ親近感を抱く。

 ミリオンアーサーは気持ちを入れ替えるように頭を軽く振ると、黒檀の机の上に置かれた本を手に取る。題名は『アーサー王と円卓の騎士』だ。

 

「それよりも、やはりヒントらしき物はないな。これは空振りかもしれん」

「まあ元々、ダメ元だったからな。しかしそうなると、もうどうすりゃいいやら……ん?」

 

 ふとホット・ロッドは、本の裏に書かれたサインを見た。そこには『我が娘、ヴィヴィアンへ。父より愛をこめて』とある。

 

「……ヴィヴィアン?」

「ああ、わたしの本名だ。……その、あまり似合わん名だとは思っているのだ」

 

 恥ずかし気に、ミリオンアーサーことヴィヴィアン・ウェイブリーは顔を伏せるのだった。

 

 

 

 

 

「どう、だった?」

「まだ見つからないらしい。仕方ないさ」

「だいたいからしてな、鍵と杖って漠然としすぎだろうが!」

 

 庭で待機しているバンブルビーの問いに、ホット・ロッドが肩を竦めると、腕を組んで立つクロスヘアーズがお決まりの文句を垂れる。しかしその意見ももっともだ。

 

「それよりさっさとディセプティコンどものトコに乗り込んで、奴らに痛い目見せてやりゃいい。それで全部解決だ!」

「向こうはワイゲンド卿と組んでるんだ。無理に攻めたら、またマーリンに何か言われるのは目に見えてるぞ。この前みたいなハッタリは何度もは使えないんだ」

「だー! めんどくせえ! めんどくせえ! 昔はもっと単純に済んだんだがね!!」

「左様。オートボットはディセプティコンを倒す、それが世界の全てだった」

 

 ホット・ロッドの答えにイライラと足踏みするクロスヘアーズに、ドリフトも同調する。

 彼らにすれば、敵の居場所が分かっているのに攻撃できないのは相当に歯痒いらしい。

 チラリとハウンドを見れば、ヤレヤレと排気していた。

 

「にしても、アセニアにジャールねえ……」

「……?」

「アセニアってのはな、サイバトロニアンが昔入植したっていう星の名前なのさ。ジャールもな」

「例の伝説の騎士とやらのことも考えると、昔にサイバトロニアンがここに来ていたのだろう」

 

 発言の意味が理解できずにいると、ハウンドは髭を撫で、したり顔でドリフトが言葉を継ぐ。しかし引っかかる物を感じ、ホット・ロッドの表情はさらに難しくなった。

 

「でもそれって可笑しいよな? この国はアンチ・エレクトロンで覆われてるんだぜ?」

「知らねえよ! 昔より今だ、今!!」

 

 クロスヘアーズは話を打ち切るが、それでどうなるでもなし。

 不貞腐れる空挺兵にホット・ロッドは遅まきながら、ひょっとしてこのヒトかなり大人げないのでは?と思い始めていた。

 

「可笑しいと、言えばさ、オイラも、思うんだけど」

 

 バンブルビーも奇妙に思っていることがあるらしく、クロスヘアーズを無視して話を始める。

 

「この国って、さ。建物とか、人の暮らしとか、古めかしい、じゃん? キャメロットは、あんなに、凄いのに」

 

 確かに、キャメロットの都にせよ、このアセニアにせよ、人々の生活は酷く前時代的だ。

 動力はもっぱら水車と風車、移動は馬か馬車、通信機器のような物もなく、魔法によって火や明かりは簡単に作れるし食料の冷蔵だって出来るがそれにしても不便だ。

 ルウィーにも馬車が走っているが、それは伝統を重んじるという価値観から敢えて馬車を使っているのであって、最初から馬車しかないのとは違う。

 

 断絶の時代を経て一度文明が衰退したようだが、その研究はなされているようだし、もう少し一般市民の生活にフィードバックがあってもいいはず。

 

 その断絶の時代とやらにしても、文明の主役が人間だったとは限らない。

 むしろ、伝説の巨人の騎士のことを考えると、サイバトロニアンであった方が筋は通る気はする。

 

 かつてこの地に入植したサイバトロニアンが初代アーサー王らと協力して文明を興すも、何等かの理由によりアンチ・エレクトロンが大気に充満、この地を放棄することになり、遺物だけが残された。と考えれば一応の辻褄は合う気がする。

 

 ホット・ロッドが思考を回していると、そこで屋敷の門を馬に乗った人間が潜ったことに気が付いた。エイスリング卿だ。

 

「客人がた、調子はいかがかな?」

「エイスリング卿、正直良いとは言えません」

 

 オートボットら(例によって緑のを除く)が居住まいを正して一礼すると、エイスリング卿は手振りでいらないと示した。

 どうやら、こちらの様子を見に来たようだ。

 

「やはり探し物には難儀しておられるようだな。無理もない、アーサーめの父ウェイブリーは整理整頓が苦手であったゆえ」

「エイスリング卿は確か、ミリアサの親父さんの親友だったんでしたね?」

「左様。彼とは性格も目指す物も違ったが、不思議と馬が合いましてな」

 

 昔を懐かしむように目を細めるエイスリング卿に、ホット・ロッドは気になっていることを聞く。

 

「どんな人だったんです?」

「ふむ、そうですな。良い人物ではあったのだが……いささか、物事に没頭するきらいがありましたな。妻、つまりアーサーの母を亡くしてからはよりそれが顕著になり、アーサーにも寂しい想いをさせたようです。ウェイブリーなりに家族を深く愛しておったのですが……それも娘には上手く伝わらなかったようですな」

 

 話を聞いて難しい顔をするホット・ロッドにエイスリング卿は諭すような笑みを浮かべた。

 

「しかしてアーサーめがブリテン王を目指すのも父の影響があってこそ。あれは幼少のみぎりより、父から贈られたアーサー王の本を宝物としておりましたから」

「…………」

「本に書かれた王と騎士の姿に憧れ、剣術馬術を習得し、騎士を目指し……かかるブリテンの危機に立ち上がろうとするのも、父の贈り物が原点なのです。もっとも、それをウェイブリーが望むとは思えませぬが。娘が危険に飛び込めば、怒るのが父親というもの」

 

 複雑な親子の関係に思う所あって何とも言い難い顔をする若きオートボットを、口には出さないがバンブルビーは心配そうに見ていた。

 ハウンドはボソリと呟く。

 

「人間の親子ってのは、難しいもんだな。俺には分かりそうもねえ」

「ははは、こればかりはまあ親になってみねば分からぬというものですな」

 

 娘を持つ親であり、ミリオンアーサーのことも我が子のように思っているだろうエイスリング卿の言葉には、相応の重みがあった。

 

「では、儂はこれにて。ワイゲンドめに牛を届けねばならぬのです」

「お忙しいのに来てくださって、ありがとうございます」

「なんのなんの。ではまた後ほど!」

 

 馬を走らせるエイスリング卿に、ホット・ロッドは改めて頭を下げる。この人物は、本気で礼節を弁えるべき相手だと感じていた。

 屋敷の門の前には、牛が数匹と馬に乗った卿の部下が数人、それに一台の幌馬車が待機していた。

 

 エイスリング卿が部下に指示すると幌馬車と牛の群れは彼らと共に去っていった。

 

「……アーサー王と円卓の騎士か」

「ん?」

 

 一団が遠ざかっていくのを見送るホット・ロッドが呟くと、バンブルビーは話の繋がりが見えずに首を傾げる。

 

「いやアーサー王ってのはさ、地球のイギリスって国の、昔の王様なんだよ。エクスカリバーにキャメロット、マーリンに円卓の騎士も、その王様の話に出てくるんだ」

 

 そこが一番奇妙なトコだ。

 地球とゲイムギョウ界、二つの世界に、何故同じ王が存在するのか。

 サイバトロンとゲイムギョウ界には深い因縁があった。ならば、あるいは地球にも何かしらの縁があるのだろうか。

 

「誰か異世界転生でもして、アーサー王の物語を伝えたのかね……いや待てよ」

 

 ホット・ロッドは顎に手を当てて思考する。

 

「セクター7の連中は、異世界について調べてたってサムが言ってた。もしその異世界がゲイムギョウ界のことなら、二つの世界には何等かの接触があったことになる。だとしたらアーサー王伝説がこっちに伝わったのかも……ひょっとしたら、アーサーその人がやってきたのか?」

 

 地球のアーサー王物語の最後、王は傷を負い、妖精たちの住む島へと渡った。その島こそが()()ブリテンなのかもしれない。

 証拠はない、確証もない。

 仮説を実証するにはピースが足りない。

 

「いや待てよ。確かアーサー王は実在しなかったって話もあったな。だけどモデルになった人間はいたんだったっけ……」

「……あいつ、ひょっとして見た目より頭いいのか?」

「少なくとも、お前よりは、いいんじゃない?」

「んだとテメエ!!」

 

 呆気に取られたような顔のクロスヘアーズだったが、バンブルビーに小馬鹿にされて殴りかかり、ハウンドに二人纏めて拳骨を落とされる。

 

「隊長、それは任務には関係ないのでは?」

「……そうだな、ごめん。よし、一回みんなにどんな調子か聞いてみよう」

 

 ドリフトの厳しい声に思考の海から戻ったホット・ロッドは、気分を変えて屋敷の探索をしているメンバーに通信を飛ばす。

 

「こちらホット・ロッド。各員、状況を報告してくれ」

『ビーシャだよ! こちら状況に進展なし!』

『ネプギアです。あの、見つかりません』

『エスーシャ、同じく』

『ミリアサだ。この通信装置というのは凄いな! 離れた場所と話が出来るとは! 似たようだ魔法はあるが、こっちの方が声が分かりやすい……ああ、すまんチーカマ。やはり進展なしだ』

『はいはい、こちらシーシャ。鍵のかの字も、杖のつの字もないね。でも気になる物は見つけたよ』

 

 その報告に、ホット・ロッドは一度皆を集めようと考えたが、相棒からの返答ないことに気が付いた。

 

「くろめ? くろめ、応答してくれ」

 

 しかし、どういうワケかくろめは通信に出ない。どうも通信装置のスイッチを切っているらしい。

 それにケーシャも同じく応答しない。ハウンドをチラリと見れば、首を横に振っていた。

 

「誰か! 二人を見てないか!!」

『あれ? そう言えばいつの間にか、いない?』

『私は見てません。何処にいるんだろう?』

『わたしも見てないよ!』

『見た』

 

 エスーシャのボソリとした呟きは、あまりに無感情だったので危うく聞き逃す所だった。

 気怠そうに、銀髪のゴールドサァドは続ける。

 

『裏口から出ていった。牛と馬車がどうこう言っていたのが聞こえた。その後は知らない』

「貴殿、そういうことはもっと早く……!」

 

 これで十分だろうとばかりに沈黙するエスーシャにドリフトは憤慨しているようだが、ホット・ロッドはそれどころではなかった。

 ハウンドを見れば、彼も同じことを考えたらしく表情が険しい。

 

 牛と馬車というのは、エイスリング卿が連れていた物に違いあるまい。

 だとすれば……。

 

  *  *  *

 

 アセニアとジャールの、境を流れる川。

 その川に掛った石橋の前で、エイスリング卿は馬を止めた。

 橋の向こう側には、ワイゲンド卿と部下の兵士たちが同じように馬に乗って立っていた。

 

「ワイゲンド卿、貴殿の牛だ。受け取るがいい」

「相分かった」

 

 ワイゲンドが合図すると、何人かの兵士が馬を降り、牛を調べ始める。

 乗っている牛を見分した後で、問題ないことを報告すると、ワイゲンドは馬車に目をやった。

 

「その馬車は?」

「行商人だ。そちらの領で商いをしたいそうでな。ついでにとここまで護衛してきた。かかる時代にあっては街道も安全とは言えんからな」

 

 隣領の領主の言葉に、ワイゲンドは訝し気な顔をする。

 

「荷はなんだ? 行商よ、答えよ」

「酒と果物です。アセニアのブドウ酒を高く買ってくれる方がいらっしゃるんで」

「確かめさせてもらうぞ」

 

 御者が答えると、ワイゲンドは手振りで部下に指示を出した。

 兵士たちは幌馬車に乗り込んでいくと、詰まれた箱や樽の蓋を手あたり次第に開ける。

 

「や、止めてくだせえ! 商品に傷がつくじゃねえですか!!」

 

 慌てて止めようとする商人だが、兵士たちは全ての箱と樽を開けてしまった。

 

「異常ありません。この者の言う通り全て食物です!」

「そうか。……いや済まなんだ。詫びと言ってはなんだが、取引相手には私から口を利く。その上で売れぬようなら、それらの品物は私が言い値で買い取ろう」

「はあ、そりゃありがたいこってすが……」

 

 詫びられた上に思わぬことになり、商人は目を白黒させていた。

 

「では失礼する。この後も色々と予定があるのでな」

 

 ワイゲンドは牛を連れていくように部下に命令すると、馬を反転させた。

 その背にエイスリングは声をかける。

 

「のう、ワイゲンドよ。お主は本当に、あの鉄騎アーサーが王の器と考えておるのか?」

「少なくとも、本に憧れて王を目指す、何処ぞの小娘よりはな」

 

 返された言葉に、エイスリングは深く息を吐く。

 小娘とはミリオンアーサーのことに他ならないからだ。

 去り際に、ワイゲンドは振り返らずに口を開いた。

 

「……我が名誉のため、一つ言っておく。牛がそちらの領に入ったのは、故意ではない」

「分かっておるとも。お主は傲慢で怒りっぽいが、そんなことをするような男ではない」

 

 柔らかく笑むエイスリング卿だが、ワイゲンド卿はやはり振り向かなかった。

 

「上手くいきそうですね……」

 

 アセニアとジャールから来た一団はそれぞれ元来た道を戻りだすと、馬車の中に潜んでいたケーシャは小さく呟いた。

 実はこの馬車は床が二重になっており、その間に物を収納できるようになっていた。恐らく()()()()()()()商品を密輸するためだろう。

 それなりに広さがあり、女の子()()なら、横になれば何とか体を収めることが出来た。

 ホット・ロッドとエイスリング卿が話している間に、幌馬車に潜り込んだケーシャたちは、この仕掛けを発見し、商人の隙を見てこの中に潜り込んだのだ。

 

 それというのも、一番手っ取り早く杖と鍵の情報を得るためだ。

 チマチマとヒントを探すのもいいが、知っている相手に聞くのが一番手っ取り早い。

 

「それにしても、まさかくろめさんも同じ考えだとは思いませんでした……くろめさん?」

 

 ケーシャが同じように隙間に寝転んでいるくろめに小さく声をかけるが、反応がない。

 訝しく思って隣を見ると、くろめは白目を剥いて気絶していた。彼女は暗所恐怖症かつ閉所恐怖症だった。

 

「暗い、狭い、怖い……」

 

 その上ブツブツと呟いているものだから、ケーシャは自分が悲鳴を上げそうになるのを堪えなければならなかった。

 

 そうまでしてくろめがジャールに乗り込もうとするのは、杖と鍵のため……ではもちろんない。

 

 マジェコンヌと会って、話をするためだった。

 




そんなわけで、実は融合キャラだったミリアサ。
……映画バンブルビーが公開され、マジンガーZ対トランスフォーマーが発売され、ネプテューヌ側にも色々と動きがあったこの時期に、こんな話しか更新できない、己の時流の読めなさよ。

しかしマジンガーZ対TFや、意外と王道のスパイ物(陰謀、ロマンス、裏切り、復讐、サメ)をやってるバンブルビーのコミックを見ると、この何でもあり感がTFだよなと、改めて思う次第。
同時にレジェンズのコミックを読んで『象徴ではない、個人の幸福を得るオプティマス(コンボイ)』を書くのは二次創作だから許されるんだろうなとも思います。

バンブルビーの要素は、いずれ本編に組み込んでいければと思っています。
特にトリプルチェンジャー筆頭なのにトリプルチェンジできなかった彼とか。
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