新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED 作:投稿参謀
「まったく、あの錆塗れを捕えるために、どれだけ苦労したと思っているのである!!」
バーサーカーやドレッドボット、ニトロ・ゼウスとモホークらを引き連れてディセプティコンの砦の通路を歩きながら、オンスロートは前を行くガルヴァトロンに悪態を吐く。
「これで杖探しは暗礁に乗り上げたのである!! 次の策はあるのだろうな!?」
「もちろん、ある」
煩わし気な様子も見せずに大股に歩くガルヴァトロンが放った言葉に、オンスロートは虚を突かれた。
「で、どういう策だ?」
答えず、ガルヴァトロンはある部屋の扉を開ける。騎士を製造するための『湖』がある部屋だ。
中に入ると、宙に浮かぶ巨大な王冠のような装置の前に、マジェコンヌとバリケードが待っていた。インフェルノコンたちも控えている。
「用意は?」
「ちょうど出来たところだ」
「結構。では始めてくれ」
マジェコンヌは『湖』に向けて杖を振り、呪文を唱える。
すると王冠が回転を始め、光を放ち始めた。
バリケードは、怪訝そうな顔をしているオンスロートに顔を向けた。
「あの中には、例の錆塗れの因子がぶちこんである」
「では、奴の
「見てりゃ分かるさ」
皮肉っぽく肩を竦めるバリケードに、オンスロートは鼻を鳴らすような音を出す。
やがて眩い光は装置から漏れ出し、人型に結集する。
その姿は、あの骸骨のような騎士その物だ……霞のように半透明で、今にも消えそうなことを除けばだが。
「なんやこれ? スケスケやないけ」
「まるで
「これでもかなり苦労して実体化させているんだがな」
面食らうバーサーカーとドレッドボットに、マジェコンヌは杖を振りながら顔をしかめる。
本来、トランスフォーマーの騎士を造ることは至難の技で、こんな不完全な複製を造るのにさえ大量の因子と難しい調整が必要なのだ。
ガルヴァトロンの因子からレギオンを生み出せるのは、彼が女神の因子を宿している特殊なトランスフォーマーだからだ。
そのガルヴァトロンは、今にも消えそうな複製型スカリトロンの前に立つとエクスカリバーを背中から抜くと静かに命じた。
いかに伝説の騎士の複製と言えど、湖から生み出されて騎士である以上は聖剣と円卓模型には従わざるを得ない。
「語れ。お前の知ることを、全て」
* * *
ミリオンアーサーたちが暖炉に隠されていた階段を降り、その下にあった扉を開けるとそこは広い地下室だった。何処かに通風孔くらいあるのだろうが長年誰も訪れなかったせいか埃と黴の臭いが充満している。
書斎として使われていたようで机と本や資料、古美術品が置かれているが、上の物に比べて異様な雰囲気を放っていた。
蛸のような触手の足を持った女神の立像。
今はもう使われていない言語で書かれた古文書。
生贄の儀式に使われた仮面と短剣。
いずれも歴史の闇の遺物ばかりだ。
「なんて言うか、SAN値がピンチになりそう……」
「我が家にこんな場所があったとは……」
不気味な雰囲気にライトで室内を照らすシーシャは唾を飲み込み、ミリオンアーサーは呆気に取られつつも、木製の机に置かれた本を手に取る。
埃を掃い、チーカマに照らしてもらいながら本を開くとそれは父の書いた日記だった。所々擦れて字が読めない。
『■■月■日
マ■■■からの依頼で、このブリテンの古い歴史を調べ始めてどれくらいたっただろうか?
多くの場所を訪れ、賢人と呼ばれる人々と語らい、数多の書物を読み漁ったが、この修道院ほどアーサー王以前の歴史が保管された場所もないだろう。
ここは古より人の精神を治療する秘法が伝えられ、辛い現実に打ちのめされた人々が、その噂を聞きつけ訪れるという。
正直、蜘蛛の巣だらけで陰鬱な雰囲気のこの場所が、人の心身に良い影響を与えるとはとても思えない。
こんな場所にいると、柄にもなく家族が恋しくなる。
我が妻エレーヌは大丈夫だろうか? 元々体の弱い彼女だが、今年の寒波は特に身に染みているようだった。
娘のヴィヴィアンは丈夫に育ってくれた。だが剣を振り回すのもいいが、そろそろ女の子らしいことも覚えてほしい。
親友のエイスリングに任せてきたので、問題はないと思うが……ああ、妻の淹れてくれた紅茶が飲みたい』
『■■月■日』
……あの修道院で起こったことは、余り思い出したくない。
蜘蛛の這い回る音。修道士たちが治療と称する冒涜的な行為。修道院の地下空洞に立つ邪神像。
そして、書庫にあった本に書かれていたこと……いや、あんな物は狂人の戯言だ。
久々に我が家に帰り着いた私を待っていたのは、エレーヌが急死したという現実だった』
「…………」
『ミリアサ、辛いようなら……』
「いや、最後まで読もう」
『■月■■日
娘のヴィヴィアンは私のことを憎んでいる。
当たり前だ。黴臭い本や苔むした石造にかまけて妻の死に目に会えない男など、軽蔑して当然だろう……。
エレーヌ。私のたった一人愛した妻。
こんな私を理解し愛してくれたのは彼女だけだ。
思えば彼女は謎の多い女性だった。私は、ある日ふらりとアセニアの街に現れた彼女が何処で生まれ育ったのかすら知らぬのだ。
見当はついているが、言わぬのが私たちの間の暗黙の了解だった。そんなことは問題ではなかったからだ。
彼女と出会うまでの私の人生は、色の無い寒々しい絵画のような物だった。彼女がそこに暖かく美しい彩りを与えてくれたのだ。
エレーヌ、すまない。許してくれ……』
読み進めるにつれて肩を震わせるミリオンアーサーの肩に、チーカマが優しく手を置いた。
少なくとも彼女にとって、父が母を愛していたことは知ることが出来たのは大きな意味があった。
『■月■日
妻の死から少しだけ落ち着いたころ……と言っても娘には嫌われたままだが……キャメロットで■■■ンと会った。どうも私の研究結果は彼の望む物ではなかったらしい。
しかして歴史上の真実とは、人が望むように改変できるようなことではないのだ。
彼は私に報酬を支払うと、このことを絶対に口外しないように念を押してきた。ブリテンの存亡に係るからと。
言われずとも、秘密は墓の下まで持っていくつもりだ。
彼は私を信用してはいないようで何事かを企んでいるようだったが、私の関心は別の所に移っていた。
もし、あの本に書かれていたことが真実だとしたら……確かめねばならない』
ここで数年分、日にちが飛んでいる。
『なあこれ、いつまで続くんだ?』
「野暮だよ、クロスヘアーズ」
『■■月■日
盲点だった。まさか竜の洞窟に伝説の騎士が眠っていたとは! 何年もかけてブリテン中の遺跡や図書館を調べて回ったというのに、灯台下暗しとはこのことか。
……話を戻すと、件の騎士から話を聞くことが出来た。彼、スカリトロンは眠りが不完全だったために弱っており、誰かに秘密を受け継いで欲しかったのだ。そして、たまたま私が彼を見つけた……』
「いよいよ核心か……」
『スカリトロンの意識は夢と現の間を彷徨っており、語った内容が完全な真実であるとも、何か零れ落ちた事がないとも言い切れない。それでも彼の語った物語を整理すると、彼は怒れる女神クインテッサから杖を盗んだ一団の一人だと言う。
この杖には世界を滅ぼす力があり、故にそれを防ぐために彼らは仲間たち……アーサー王やマーリンと共に四つの鍵を使って杖を封印した。
鍵とは言うが、その実態はクインテッサがこの国に残したいくつかの
* * *
「クインテッサは名工ソラス・プライムが鍛えた武具を集めることに執心していた。その一つが、
「クインテッド・エニグマの元になった奴か」
バリケードの言葉に、複製型スカリトロンは一つ頷いた。それだけで、体が霧散しそうになる。
元々クインテッド・エニグマは、トランスフォーマーに合体能力を与えるというネクサス・プライムの遺物の劣化コピーだ。
「これはネビュロンの地を治める一族が守ることとなった。かの一族は『天を仰ぐサソリ』を紋章としていた」
「ネビュロンはブリテンの辺境に位置する地方だな……しかし、領主の一族は大分前に断絶している」
マジェコンヌは手元の端末を操作して情報を引き出した。
ガルヴァトロンはとりあえず、スカリトロンの話を聞くことを優先する。
「次なる鍵は、ソラス・プライム自身が振るった武器であり鍛冶鎚、ソラス・ハンマーだ。あらゆる物質を加工する力があった。これはフェミニアの魔女たちに託された」
「魔女っつうのは、なんや?」
「
バーサーカーが首を傾げると、ドレッドボットが答えになっていない答えを返した。
「第三の鍵は、スターセイバー。本来ならばプライムの長兄プライマのために鍛えられた聖なる剣だ。……これはアーサー王の息子であるモードレッドが守った。その命付きるとも、剣と共に墓に葬られた」
* * *
「モードレッド王のお墓……確かユーリズマに塚があったはずよ」
チーカマが顎に手を当てて探り当てた記憶を口にする。
立体映像のクロスヘアーズは首を捻り、ホット・ロッドに視線をやる。
『そのモードレッドってのも王様の伝説に出てくんのか?』
『ああ……アーサー王が浮気して出来た子で、王冠欲しさに国を滅ぼした馬鹿息子さ』
「ん……? 何を言っているんだ、モードレッドはブリテン二代王ではないか」
何処か厳しいホット・ロッドの言葉に未来のブリテン王は怪訝そうな顔になった。その反応に、逆にホット・ロッドは驚いてしまった。
『え?』
「確かに不義の子ではあったが、和解を果たし改めて王位を継いだのがモードレッドだ。父王ほどの偉業は為せなかったが、今日日までのブリテンの基礎を固めた賢君だぞ」
『そ、そうなのか……』
少しだけヒートアップしているミリオンアーサーに面食らい、それから少し思考を回す。
地球の方は分からないが、こっちのアーサー王は
仲間たちと共にイギリスを治めるも、愛憎の果てに破滅し国は亡ぶ。それが地球のアーサー王伝説だ。
対し、こちらのアーサー王は無事に王位を譲ることが出来たらしい。国もまだ存続している。
まるで
「それで、ミリアサ。最後の鍵については、なんて書いてある?」
思考の海に沈みかけたホット・ロッドだったが、くろめの声で現実に戻る。
「ああ『最後の鍵は、マーリンの血を引く者だ。杖はマーリンの血族のみ触れることが出来る。その血族は、ベイドン山の番人たちに保護されている。三つの鍵を持ってベイドン山へ行け。そうすれば杖への道が開ける』……ここで杖についての記述は終わりだ。あの山に、そんな秘密があったとは……」
「マーリンの子孫? え、でもなんでそれが鍵になるの?」
「ここの扉と同じだ。受け継がれた血こそは証なれば……つまり遺伝子認証だ」
理解し切れなかったビーシャのために、エスーシャが説明する。
それでも難しかったのか、幼いゴールドサァドは頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。
「ってことは、あのお爺さんに頼めばいいの?」
「いえ……マーリンの名は、アーサーと同様に初代アーサー王の伝説に肖った、云わば称号よ。キャメロットの彼が初代マーリンの直接の子孫とは考えづらいわ」
『しかし調和のエニグマにソラス・ハンマー、それにスターセイバーだろ!? 伝説のアイテムのオンパレードじゃねえか!!』
チーカマが補足すると、クロスヘアーズは思わず声を上げた。上のアイテムは、マーリンの子孫以外は最初の13人の遺物ばかりだ。
ホット・ロッドは難しい顔のまま、声を絞り出す。
『一度纏めよう。俺たちのやるべきことはシンプルだ。ネビュロン、フェミニア、ユーリズマに向かい、
『で、その後はディセプティコンどもをとっ捕まえるってワケだ! ようやく分かりやすくなったぜ!!』
自分の掌に拳を当てて、クロスヘアーズは闘志を燃やす。ハウンド、ドリフトも目的がハッキリしてきたことで、やる気が出てきたらしい。ゴールドサァドも同様だ。
特にエスーシャは何かウキウキしていた。
「
しかし、バンブルビーは黙りこくっていた。
思えばスカリトロンを奪われてから、一言も口を効いていない。
「ビー?」
「ねえビー、大丈夫?」
『おい、ビー。どうした?』
『……え? あ、うん。オイラは、大丈夫!』
ネプギアとビーシャ、さらにはホット・ロッドに声をかけられて、力こぶを作るような仕草をして元気をアピールする。どうにも様子がおかしい。
しかし、優先事項は他にあるため、くろめが話を進める。
「よし、それでどうする? まずは何処に向かう?」
『こんだけ人数がいるんだ。手分けして探したほうがよくねえかい、隊長さん?』
『ああ、そうしよう。ミリアサ、その場所について、もう少し詳しく教えてくれ……』
ハウンドの提案を二つ返事で受け入れたホット・ロッドは、協力者に声をかける。だが彼女は、深刻な表情で父の日記に目を落としたままだった。
そんな彼女を心配して、くろめとチーカマがそれぞれ声をかける。
「ミリアサ、大丈夫かい?」
「ねえ、ちょっと……」
「……ああ、大丈夫だ。そうだな、まずネビュロンだが……」
ミリオンアーサーは慌てた様子もなく本を閉じ、何事もなかったかのように振る舞った。
だがしかし、その脳裏には日記の最後の内容が焼き付いていた。
父が亡くなった日のすぐ前日の日付だった。
『■日■日
どうやら、私もエレーヌのもとへ旅立つ日が近そうだ。寝食を忘れて研究に没頭したツケが回ってきたらしい。
もしも、私の調べてきたこととそこから導かれる答えが正しいのなら、このブリテン、いや遍く世界の全てに危機が迫っている。
それは一国の興亡など比べ物にならない、究極の破滅だ。
だがこのことを■■リ■に訴えた所で、あの魔術師は耳を貸すまい。……いや貸さないだけならまだいい。さらに恐ろしいのは、この状況を利用されることだ。
あの狡猾な男は、私が想像も出来ないような悪辣なことをしでかすに違いない。
彼に、この秘密の地下室と蓄えた知識のことを知られてはならない。
この地下室に入るヒントは、マルジンの夢物語に隠した……マー■ンはあの本に興味も持たないだろう。彼は自分が真実と信じる物しか見ないのだから。
……迫る死に、恐怖がないと言えば嘘になる。
だが何より心残りなのは、ヴィヴィアンのことだ。
思えば、私は至らない父親だった。母を失い悲しい想いをしているあの子に寄り添うことさえ出来なかった。研究も結局は、娘と向き合うことからの逃避だったのかもしれない。
そんな私が、この言葉を文字にしたためる資格があるのかは分からないが……それでも。
さようなら、ヴィヴィアン。心から愛しているよ』
* * *
話を終えた複製型スカリトロンは、まるで空気に溶けるようにして消えた。やはりトランスフォーマーの騎士は存在を維持することすら難しいらしい。
「これが限界だ……もう因子もない」
「ありがとう、十分だ」
マジェコンヌに短く礼を言ったガルヴァトロンは、エクスカリバーを降ろすと全員を見回した。
「話は決まった。部隊を分け、遺物狩りだ!!」
『おうッ!!』
* * *
同じころ、とある古びた城。
海沿いの崖の上に立った崩れかけの城のすぐ目の前の平原には、巨大な空飛ぶ船、秘密結社アフィ魔Xの空中戦艦アフィベースが停泊していた。
城門の外では、人間大の身体を持ったヘッドマスター、コグマンが飛竜形態で眠るスカリトロンの錆を落としている。
それを城の天守から見下ろしているのは、白と金、赤の厳めしいエクソスーツに身を包んだアフィモウジャスだった。
「で? これで良かったのだな?」
「ああ……感謝するよ。パトロンも満足するだろう」
その後ろには、鏡のようなシルバーメタリックのライダースーツに身を包んだ男が立っていた。
ミラー、と名乗るその男の表情は見えないが、何処か嘲笑われているようにアフィモウジャスには思えた。
そうでなくても、地球に巣食うコンカレンスからの使者を名乗るこの男を、一かけらも信用してなどいない。
「地球の連中は、何故杖を求める?」
「愚問だな。世界を滅ぼすような力が、自分たちに振るわれるのは防ぎたいだろう?」
「そして、その力をこちらに向けて振るうワケか?」
探るような視線を受けても、ミラーは一切動じない。
「地球には、抑止力という言葉がある。強大な力は持っているだけで、相手を牽制、恫喝する手段になる」
「……まあ良かろう。儂としては報酬が払われれば問題はない」
そう言うアフィモウジャスだが内心では相手の言葉を全く信用していない。ミラーはそれを見透かすようにニヤリとした……ようにアフィモウジャスは感じた。
「そうだな、俺自身の思惑を一つ付け加えるなら……『調整』だな」
「調整だと?」
「戦力が片方に寄り過ぎてはつまらないだろう? 戦いはそれを行う二つの陣営が対等である状態が一番盛り上がる」
「……最近はそういうのは流行らん。主人公が指先一つで何も解決するような圧倒的強者なのがトレンドなのだ。苦戦や苦悩は、みな嫌いだからな」
「おや、そうなのか? しかし俺が望むヒーローは、苦痛と苦悩の泥土の中から這い上がってくるんだよ。……いつか墜ちるために」
くぐもった笑い声と共に楽しそうに語られるその言葉を聞いて、底知れぬ深淵を覗き込んだような気分になったアフィモウジャスの……その中にいる本体の頬に一筋の冷や汗が垂れた。
「ふふふ、では鍵の回収も頼むよ」
一瞬、アフィモウジャスが目を離した隙に、ミラーはその姿を消していた。
あの男は信用できない。アティンジャーはまだ人間的な悪意を感じさせるが、ミラーは得体が知れない。
そもそも、アフィモウジャスをアティンジャーに引き合わせたのもあの男だ。それもスペースブリッジを使わずに。
いずれは、アティンジャーにしてもミラーにしても適当な所で縁を切るつもりではあるが、用心するに越したことはない。
部屋を出てノシノシと城の中の通路を歩いたアフィモウジャスは部下たちの待つ城の中庭へとやってきた。
「お前たち! 仕事だ!!」
その声に注目が集まる。
最初に反応したのは、青紫の忍者のようなロボット、ステマックスだ。
片膝を突き、頭を垂れて忠誠の意を示す。
「将軍の命とあらば、如何様にも……」
『ご苦労なことだ。無償の奉仕、忠誠、それとも友情かな?』
だが通信越しにそれを遮ったのは、冷たい女の声だった。
ステマックスが見上げると、赤と白のジェット攻撃機が空を横切った。前後二対のノズルからエネルギーを噴き出しながら降りてきた。
主翼の下に燃料タンクを備え、機体の左右に大きな半円形の吸気口があり、その後にノズルが前後ニ対、計四つもある。
異世界地球で広く使われているハリアーⅡという垂直離着陸機だ。
ハリアーⅡは旋回して城門の前まで降下するとギゴガゴと音を立て変形してロボットに……ならない!
代わりに車高が低くボンネットからスーパーチャージャーが飛び出し、フロントに七個ものヘッドライト、ルーフの上にも六つのライトが横一列に並ぶ赤いマッスルカーへと変形した。
そのまま着地したマッスルカーはエンジンを吹かし、城門を潜ってステマックスの隣までやってくるとさらに変形して立ち上がり、今度こそロボットになる。
赤い色で胸部はヘッドライトやスーパーチャージャーなど車のフロントの意匠があるが、肩の背中側にはジェット機のエンジンの前半分と主翼らしきパーツ、太腿にはノズルがあり、ハリアーⅡとマッスルカーの両方の特徴が見られ、
赤い瞳がディセプティコンであることを示していたが、腰がくびれ手足の細い体形、人間に近い顔の造形が示すのは、驚くべきことに女性であることだった。
「シャッター殿……」
「御機嫌麗しゅう、雇用主殿。そいつと違って、我々の忠誠は対価によって成り立つ。努々お忘れなきよう」
名を呼ぶステマックスを無視し、慇懃な調子で一礼するシャッターと呼ばれたトランスフォーマーだが、その声には皮肉っぽい響きがあった。
アフィモウジャスは鼻を鳴らす。
「分かっておるわ。お主らこそ、対価の分は働けよ?」
「もちろんだとも。私と同志たちはプロだ。何処ぞのニンジャ擬きやげっ歯類と違ってな」
「その手並み、頼りにしているで御座るよ。シャッター殿」
あからさまな挑発に乗らずに頭を下げるステマックスに、シャッターはむしろ不愉快そうに僅かに顔を歪める。
アフィモウジャスは、視線を彼らから城の壁から張り出した櫓の下にぶら下がっている蝙蝠のような影に移した。
「お前もだぞ、ネズミ」
それは鋭角的な黒い体を持ち、肩から畳まれた翼が生えている。三つ目は赤いバイザーに覆われていた。
全体的に蝙蝠を思わせるその姿は、かつてオートボットを苦しめたマインドワイプその物だ。
しかし、不意にその頭部が外れ、マインドワイプをそのまま人間大にしたようなロボットに変形して地面に降り立った。
その顔の部分が開くと、なんとネズミ型モンスターのワレチューの顔が現れた。
このロボットは、ワレチューが装着したエクソスーツ、そしてマインドワイプの姿をした首から下はトランステクターなのだ。
「まったくプリティでキュアキュアなのが売りのオイラにこんな格好をさせるなんて、趣味が悪いっちゅ」
「貴様がプリティかはともかく、趣味が悪いのは確かだな。残骸を使ったボディとは」
「データを移植しただけっちゅよ。別に死体を使ったワケじゃないっちゅ」
「似たようなものだろう?」
冷酷なシャッターをして嫌悪感を露わにするが、ワレチューは何処吹く風だ。
「にしてもコレ着てると、なんだか変な声が聞こえる気がするっちゅけど、本当に大丈夫なんっちゅか?」
「素になった奴の記憶データがノイズを起こしているだけだ、問題は無いわ。…さてお主たちにはフェミニアとユーリズマに向かい、遺物を回収にくるオートボットとディセプティコンを妨害してもらう」
「妨害っちゅか? アイテムの回収はしなくっていいっちゅ?」
「それはステマックスに任せる。この手の仕事はそ奴が一番よ」
「我々は足止めと……まあいい」
特に不満を漏らす様子もないシャッターは、冷たい視線を忍者ロボットに向けた。
「しくじるなよ」
「もちろんに御座る。拙者はプロ故」
先程の意趣返しを含んだステマックスの返しに、シャッターは不愉快そうに眼を細めるのだった。
部下たちに命を下したアフィモウジャスは、ある部屋にやってきた。
礼拝堂だったのだろうその部屋には、大きな金属製のコンテナが置かれていた。
棺に似た頑丈そうなコンテナは、しかしアフィモウジャスが手を触れるとロックが外れひとりで蓋が開く。
すると中には金属の物体が収められていた。
どこか植物の球根、あるいは花の蕾を思わせる形状で、表面の幾何学的な模様の透かし彫りを通して内部から神秘的な光が漏れ出ていた。
手を伸ばしたアフィモウジャスの掌に収まるほどの大きさだが、そこで手を止めた。
「坊ちゃま」
「……コグマンか」
振り返らずとも、かけられた声の主が誰かは分かった。
執事ロボットは丁寧な仕草で頭を下げる。
「坊ちゃま。そろそろお遊びは御止めください。我がモージャス家の使命を果たすべき時が近づいているというのに、それに反するばかりか……」
「またその話か。前にも言ったが、ワシはそんな物を果たすつもりはないわ。父や母と違ってな」
「……アイフ坊ちゃま」
主人の本名を呼ぶコグマンの声には、諭すような響きがあった。
「ご両親を恨む気持ちは分かります。しかし、お二人は貴方のことを心から愛されておりました。それだけはどうか……」
「愛だと? 愛で腹が満たされたか? 隙間風の吹く家をどうにか出来たか? 愛で自分たちの病気を治すことが出来たか!?」
振り返ったアフィモウジャスは、抑えきれない激情のままに怒鳴った。他の部下には決して見せない姿だった。
「いいや、どれも出来なかった! 愛などには何の力もないのだ! 使命にも、正義にもな!! この世で真に力を持つのは金。唸るほどの金、ただそれのみよ!!」
アフィモウジャスはコグマンから視線を外し、中空に手を伸ばした。まるで空っぽの器に入れる何かを探しているかのように。
コグマンは悲しそうにまん丸い目を伏せた。
「お金なら、もう十分に持っているではありませんか」
「こんなものではまだまだ足りぬわ!! ワシはもっともっと金が欲しいのだ! 金だけが、人を幸せにしてくれるのだからな! ……ふふふ、フハハハ、ハーッハッハッハ!!」
腕を広げて何処か空虚に高笑いするアフィモウジャスに、コグマンは哀しげに排気した。
そんな主従二人をこの城のかつての城主……アフィモウジャスの先祖の家紋が描かれた旗が見下ろしていた。
色褪せ穴だらけの旗には『天を仰ぐサソリ』が描かれていた……。
令和一発目の更新。
遺物があるとされる地名は、全てTFシリーズのいずれかに登場する惑星が元ネタ。微妙に捻ったトコばかり。
今回のキャラ紹介
歴史学者ウェイブリー
エイスリング卿の親友でありミリオンアーサーこと、ヴィヴィアン・ウェイブリーの父親。
趣味が高じて歴史のことを研究するようになり、何者かの依頼を受けてブリテンの古い時代について調べていた。
その過程で何かを知ってしまい、より研究に没頭するようになる。
娘のミリアサとは距離が出来てしまったことを悔やんでいた。
その行動と人格の是非はともかくとして、彼が妻子を深く愛していたことは確かである。
催眠兵マインドワレチュー
前作で戦死するも墓場から蘇ったマインドワイプ……ではなくマインドワイプのデータを基にアフィモウジャスが造ったトランステクターにワレチューがヘッドオンした姿。
より強化された催眠音波とナイフが武器。
エクソスーツは単独で飛行することができ、着込むと言うよりもはや乗り込んでいる状態。
ワレチュー自身は不気味な姿と能力を不満に思っている。
姿はレジェンズ版で行こうかと思ったけど、悩んだ末に実写版そのままの姿でヘッドマスター化という玉虫色なことに。
空陸将校シャッター
元ディセプティコンの女兵士。
マッスルカーとハリアーⅡに変形するトリプルチェンジャー(いずれも秘密結社経由で入手した地球のビークルのデータをスキャンした物)
冷静冷酷かつ狡猾な性格で、女性蔑視の傾向にある同軍において成り上がってきた実力派。
戦後は「オートボットや有機生命体と仲良くするのはまっぴら。でもメガトロンに反旗を翻すのは余りに無謀」と考えて、二名の仲間と共に傭兵に転職した。
仲間内では纏め役で、交渉などを担当している。
犯罪者にまで落ちぶれたオンスロートらと違い、彼女たちは彼女たちで現在の世界に順応していると言える。
現在は仲間たち共々アフィモウジャスに雇われており、どういうワケかやたらとステマックスに突っかかる。
余談ですが、彼女のモチーフ(の一つ)はあのナイトバードなんだとか(確かに他人を欺くことに長けた有能な女戦士という部分は一致しています)
そしてまだ出てない部下の吹き替えはサイドスワピョンの人……つまり秘密結社には忍者ロボとくノ一(モチーフ)と忍者(声)が集っていることに……。