新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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第44話 ミニボット・バンブルビー!?

 ブリテンに散らばる杖への鍵……最初の13人の遺物を回収するべく、オートボット、ディセプティコン、そして秘密結社アフィ魔Xまでもが動き出した。

 

 オートボットたちのうち、ホット・ロッドとバンブルビー、くろめ、ネプギア、ビーシャが向かったのは、ユーリズマという街だ。

 

 ここは、その通称を『音楽の街』という。

 というのも、この街には多くの音楽家が住み、通りには楽器店が軒を連ね、住人たちは歌と踊り、楽器を奏でることが大好きだからだ。建物にも楽器を模した物や、五線譜と音符が描かれた物があるのだから筋金入りだ。

 トランペットにフルート、シンバルにドラム、ピアノにオルガン、ヴァイオリンにギターなど、あらゆる楽器が奏でられ、さらに人々はことあるごとに歌い、しかし不協和音になることなく見事なハーモニーとなる。

 

 特に今は年に一度の祭りの時期で、いつも以上に賑やかだ。

 街の一角には、断絶の時代の技術を流用して造られた回転木馬や回転ブランコ、観覧車やジェットコースターが組み立てられ、サーカスもやってきていた。

 

「いやまあ、何とも派手な所だな」

 

 近くに降下艇を着陸させ、街までやってきたくろめは、あふれる音の洪水に面食らっていた。

 住人の気質なのか、突然やってきた巨人たちにも特に騒ぐ様子はない。

 

「わーすごーい! お祭りだー!!」

「テーマパークに、来たみたいで、テンションあがるなー!」

「うん、すごいね!」

 

 ビーシャとバンブルビー、そしてネプギアは街の様子にはしゃいでいた。

 ホット・ロッドも本当なら祭りを楽しみたい所だが、隊長としての責任感がそれを阻む。

 

「みんな、少し落ち着いてくれ。まずはこの街を治める……おお! なんだあれ!!」

 

 しかし、目の前に現れた三首竜を模したフロート車に驚き、次いでそれが火を吐いたことに目を丸くし、フロートの周りの踊り子たちの軽快な踊りや音楽に魅せられる。若きオートボットは音楽とダンスなど、若者が好む物はだいたい好きだった。

 気付けば冷静なのはくろめだけだ。騒ぐ仲間たちに苦笑しながらも、道行く人に領主の館の場所をたずねる。

 

「すまない。ちょっといいかな? 道をたずねたいんだけど」

「もちろんさー♪ 美しい人よー♪ どこへ行きたいんだーい?」

 

 何故か音楽に合わせて歌うように答える男性に、くろめは面食らう。

 金髪碧眼の貴公子然とした青年だ。ヴァイオリンとそれを弾くための弓を手にしている。

 

「あ、ああ……この街を治めてるっていう『指揮者』の所に行きたいんだ」

「それならー♪ 目の前にいるのがそーさー♪ ぼーくは指揮者ゼボップー♪ 演奏アーサーとも呼ばれてるねー♪ 以後お見知りおきを、美しい人―♪」

 

 ヴァイオリン型エクスカリバーを肩に乗せて鳴らすのに合わせ器用に名乗りを上げる指揮者ゼボップに、くろめは思わず後ずさりしそうになる。なんて言うか、濃い。

 ユーリズマでは街全体を楽団に見立て、古くから続く名士の家系であり最高の歌手であり演奏家でもある三人の権力者を指揮者と呼んでいるのだ。

 

 その後、くろめに呼ばれて集まり自己紹介を終えた一行は、ゼボップの案内でモードレッド王が葬られている塚へと向かう。

 周りの出し物に気を取られながらも、ホット・ロッドは道すがら足元を軽やかに歩くゼボップに礼を言う。彼はエイスリング卿からの書状を見せると、あっさりと二代王の塚を調査する許可をくれた。

 

「感謝いたします、ゼボップ殿」

「いいよいいよー♪ アセニアのエイスリング卿とはー、友達だかーらねー♪」

 

 ヴァイオリンを弾きながら朗らかに笑うゼボップに、ホット・ロッドは一礼する。

 

「ここ、ほんと、イカす! オイラ、気に入ったよ!」

「お! ビーもノってるね! 二人で一人の仮面シンガーになっちゃう? ダンサーでもいよ!」

 

 バンブルビーは音楽に合わせて踊るように歩き、同じようにしてビーシャもステップを踏んでいる。やはりこの二人、波長が合うらしい。

 そんな二人を見て、ネプギアは少しだけホッとしていた。

 この前の戦い以来ふさぎ込んでいたバンブルビーだが、元気を取り戻したようだ。それはビーシャも同じなようだ。

 

「えへへ! ビーが楽しそうで、わたしも嬉しいよ!!」

「ビーシャさんは、ビーのことが好きなんですね」

「うん! だって憧れのヒーローだもん! ネプギアにとっても、そうでしょう?」

 

 満面の笑みで答えるビーシャだが、ネプギアは少し困ったように笑んだ。

 

「私にとって、ビーは……そう、やっぱり弟ですね。頼りになるけど、まだまだ手のかかる困った弟。スティンガーとも、喧嘩してばかりだし」

 

 苦笑しつつも愛情のある表情を浮かべる女神候補生に、今度はゴールドサァドが驚いたような顔をした。

 

「それはちょっとさ、ビーのこと過小評価し過ぎじゃない? 前の戦争で一緒に戦ったんでしょう?」

「はい。でもやっぱり、普段は子供っぽくて……」

「そうかなあ……」

 

 癪然としない顔で首を捻るビーシャ。やはり彼女にとってバンブルビーはヒーローであるらしい。

 弟とヒーロー、同時にその二つであることは矛盾しないが……。

 

「言われてるぜ?」

「ま、否定は、しない」

 

 からかってくるホット・ロッドに、バンブルビーは余裕をもって答えた。ここらへんは、やはりネプギアとの付き合いが長いだけあった。

 

 一方、違う反応をする者もいた。くろめだ。

 

 何処か不機嫌そうな彼女は、ネプギアに声をかけた。

 

「いいのかい、ぎあっち? このままじゃビーが取られちゃうよ?」

「え? 取られるなんて、そんな……」

「いやマジな話さ。なんなら、オレが手伝うから奪還するかい? ぎあっちには色々と貸しがあるし」

 

 冗談めかして言うくろめだが、目が真剣だった。彼女とて別に仲間内に不和を起こそうというワケではなく、大切な相手を奪われそうなのに、ネプギアがこうしてまごまごしているのが気に食わないだけだ。

 

「オレなら相棒が取られるなんて、我慢できないね。例えばロディが別の奴と仲良くしてたら……仲良く、してたら……」

 

 ふと脳裏に浮かぶのは、ホット・ロッドがくろめではない別の誰かと仲睦まじくしている絵だった。

 その相手は、地球の天王星うずめやミリオンアーサー、あるいは何故かツンデレ系チャイナ娘だったり緑髪の擬人化超エネルギーだったりイギリス人考古学者だったりした。

 

「……そうだよなぁ、うずめなんかより可愛い子、いっぱいいるもんなあ」

「く、くろめさん?」

 

 急に涙目になり一人称も『うずめ』になってしまったくろめに、ネプギアは目を丸くする。

 どういうワケか、すぐ近くの音楽家たちが悲しい曲を奏でて暗い気分を助長する。

 

「ロディは素敵だし、きっとモテるもん。うずめなんかに構うワケ……」

「くろめさん!? くろめさーん! しっかりしてくださーい!! ホット・ロッドさーん! へルプ! ヘループ!!」

「ん? くろめ!?」

 

 セルフBGMの効果もあってどんどんとネガティブになり黒いオーラっぽい物まで発しているくろめの肩を掴んで揺さぶるネプギア。慌ててホット・ロッドもやってきて、くろめを励ます。

 

「大丈夫だ! 君は素敵だ、くろめ!! そんなちょっとネガティブなトコも魅力的だ!!」

「そうですよ! 私だって主人公(笑)とか普通(笑)とか言われてますけど、なんとかやってますし! くろめさんはこうコアな人気が出そうな感じです!!」

「そ、そうかな……」

 

 姉ゆずりのメタネタまで繰り出して、ネプギアはくろめを元気づけようとする。

 周囲が今度は明るい楽曲でムードを盛り上げると、くろめはちょっと自信を取り戻したようだった。

 

「くろめって……なんて言うかポンコツ?」

「むしろ、情緒不安定」

「おもしろーい、人たちだーねー♪」

 

 ビーシャはそんなくろめたちに呆気に取られ、バンブルビーはちょっと呆れていたが、ゼボップだけはヴァイオリンを鳴らして楽しそうだった。

 

 

 

 

 やがてゼボップの案内で、モードレッド王の墓がある街の西側へとやってきた。

 確かにそこには、土が盛られた小山があり、その上にエクスカリバーを手にしたモードレッドの像が立っていた。

 よく手入れされた石像で、キャメロットで見たアーサー王の像に比べると若々しい姿で造られている。

 これが王の埋葬された塚だろう。

 

 しかし塚の麓には石の舞台が造られ、周りには観客席が設けられていた。ちょうど、モードレッド像に見下ろされる形だ。

 舞台の上には様々な楽器が置かれ、人々が舞台やその周辺を飾り付けている。

 

「これは……」

「お祭りのクライマックスにー♪ 亡きモードレッド王に音楽を捧げるのさー♪ あしたの晩に指揮者三人でー、最高のハーモニーを奏でるのさー」

 

 つまり、明日の晩が本番なので、調査は待ってほしいということらしい。

 

「なるほど……そういうことなら」

「ゼボップー♪ 何をしているのー♪」

 

 さすがに祭りの邪魔も気が引けると頷こうとしたが、そこへ別の声がかけられた。ミュージカル調で。

 

 見れば、白い髪を長く伸ばした背の高い女性がいた。服装からして高貴な身分であることが分かる。

 なんと宙に浮かぶグランドピアノの鍵盤に指を走らせているが、歌うような口調とは裏腹に表情は不機嫌そうだった。

 

 それ以上に問題なのは彼女の後ろに数人のディセプティコンたちがいることだった。

 先頭に立っているのは肩に皮肉っぽく配置された白抜きに黒のPOLICEの文字や、両手に嵌めたPUNISH(処罰)SERVE(服従)の文字が刻まれたナックルダスターが目を引く、バリケードだった。

 

「! ディセプティコン!!」

「待て、ここで争う気はない」

 

 すぐさま戦闘態勢に入ろうとするホット・ロッドたちだが、バリケードは手を挙げてそれを制した。

 

「なに……?」

「人間に被害を出すなとガルヴァトロンに厳命されていてな」

 

 やれやれと首を振るバリケードを訝し気な目で見るホット・ロッドだが、実際こんな所で戦ったら、周囲を巻き込んでしまう。

 

「ロディ、まずは状況の把握だ」

「ああ、分かってる……」

 

 くろめの小声に小さく頷き、ホット・ロッドはレーザーライフルを降ろした。

 バンブルビーが悔し気に電子音を鳴らし、ビーシャに至っては召喚したバズーカの砲口を向けたままだ。

 

「ゼボップー♪ なんなのーその連中はー?」

「アレグラー……彼らはーアセニアのエイスリング卿に紹介された彼の友達さー。君こそ、その人たちはだれだーい?」

「私はジャールのワイゲンド卿にー、彼らを紹介してもらったのよー♪」

 

 二人の会話からするに、ディセプティコン側も同じように話をスムーズに通せるよう手を打っていたようだ。アレグラなる女性も指揮者なのだろう。

 戦う気はないと言っていたが、あくまで『この場』での話。

 

「つまり……場所を変えた方がいいな」

「よっし! 街の表に、出ろ!! 決着付けて、やる!!」

「前のようにはいかないよ!! 再戦では綺麗に勝つのがヒーローのお約束だもん!!」

 

 くろめの冷静な声に、バンブルビーはボクシングのように拳を握り、ビーシャは変身ヒーローのようなポーズを取る。

 しかしネプギアは、そう簡単にはいかないだろうと感じていた。

 実際、好戦的な一団をバリケードは鼻で笑った。

 

「そんな誘いに乗る馬鹿がいるか。こっちのボスであるガルヴァトロンはな……」

「ガルヴァトロンは正式にワイゲンド卿と同盟を結んでいて、しかもアーサー。対しこっちはあくまで善意の協力者……このブリテンでどっちに社会的な信用があるかなんて、目に見えてる」

 

 渋い顔で言うホット・ロッドに、バリケードはホウッという顔をし、バンブルビーとビーシャは不満そうだった。

 

「このまま、引き下がる、気!?」

「そんな……悪を前に正義が後ろを見せるなんて!!」

「ふ、二人とも落ち着いて!」

 

 血気に逸る相棒とゴールドサァドを、ネプギアは何とか諫めようと試みる。

 一方で不満があるのはディセプティコンたちも同じようで、うち三人がバリケードに詰め寄った。

 この三人は乗用車の特徴が見られるが、やたら派手な彩色と模様などから見るに何等かのレース用の車をスキャンしたようだ。

 

「なあバリケード、やっちまおう!」

「そうだぜ、構うこたねえ!」

「オートボットどもに目に物見せてやろうぜ!!」

「下がれ、グラウンドホッグ、ローラーフォース、モーターヘッド。またブタバコにぶちこまれたいか?」

 

 静かだが断固とした口調で言われて、三人は渋々引き下がる。

 しかし、ホット・ロッドとしてもこのまま帰るワケにもいかない。

 

「先に撃っちゃだめだよ、ロディ。撃ったらこっちが悪者だ」

「ああ、そうだな」

 

 くろめの忠告に、ホット・ロッドは素直に従う。

 何方かが先に戦闘を始めれば、そちらを止めるなり懲らしめるなりで追い出す名目が立ってしまう。

 ビーシャもそれは理解しているらしく、口をへの字にしていた。

 睨み合いになりかけた所に、さらに新たな人物が現れた。

 

「何事だ~、この騒ぎはー♪」

 

 やはり歌いながら祭りの設置現場の方からやってきたのは、太った壮年の男だった。豪華な衣装を着て、ナマズのような髭を生やしている。

 身の丈に近いコントラバスを軽々と抱えている。

 

「指揮者バッソーよー♪ 友よ聞いてくださいー! 彼らはー……」

「バッソー♪ 耳を貸しては駄目よー」

「ええーいー♪ いっぺんに喋るでなーいー♪」

 

 三人揃って楽器を奏で歌いながら言い合う指揮者たち。もはやミュージカルにしか見えない。

 

「ここの人たち、ずっとあの調子なのかな……」

 

 そろそろ疲れてきたくろめが思わず呟いた。その呟きにはオートボット勢よりむしろディセプティコンたちの方が共感しているようだった。

 ゼボップとアレグラから話を聞いたバッソは、厳しい顔で異邦人たちに向き合った。

 

「残念だがー♪ どちらにも出て行ってもらおうー♪ 君たちの戦争にー、この街を巻き込まないでくーれー♪」

「そんな! ねえ、わたしたちの方が正義の味方なんだよ!」

「それはそちらの理屈―♪ 正義でも悪でもー♪ 街を荒らすことは許さなーいー♪」

 

 ビーシャの訴えにも、バッソは頑なな姿勢を崩さない。

 それも仕方のないこと。彼らにしてみれば年に一度の祭りの日に、いきなり現れた余所者が偉人の墓を荒らすなど、受け入れられるはずもない。

 

「バッソよー♪ そうは言うが彼らを紹介してくれたのは私の友人だー♪ 屋敷でもてなすくらい構わないだろーうー?」

「私もー、ワイゲンド卿の顔をー♪ 潰すことはできなーいわー♪」

「むーうー♪ 仕方なーいー♪ 本日はー停まっていかれよー♪」

 

 ゼボップとアレグラの頼みに、バッソは渋々折れた。

 そんな指揮者たちに、ホット・ロッドは片膝を折り、ネプギアは深くお辞儀する。

 

「感謝いたします。指揮者の皆さま」

「あ、ありがとうございます!」

 

 くろめも軽く頭を下げ、バンブルビーとビーシャも不満そうではあるがこの場でドンパチを起こすことも出来ないと諦めた。

 

「仕方ない、さ。周りは、巻き込めない、よ」

「うん……」

 

 少し落ち着いたバンブルビーにそう言われて、それでもビーシャは、ふてぶてしい態度で引き揚げていくディセプティコンたちを悔しそうに唇を強く噛みしめていた。

 

 

 

 

 

 一連の流れを近くの建物の上から覗いている者たちがいた。彼らは両軍に気付かれないように、巨大な尖塔の影に隠れていた。

 

「オートボットとディセプティコンがかち合ったようだな」

 

 一人は赤い体の女性ディセプティコン、シャッターだ。

 もう一人は青い体をしていて、こちらはがっしりした手足などから男性であると分かる。

 肩や肘の関節にタイヤ、肩の背中側にはドアがあるなど自動車に変形するようだが、胸にはヘリコプターの物らしきキャノピー、背中には畳まれたローターがある。

 

「それでどうする? 俺たちでお宝を奪うか?」

「まあ待て、同志ドロップキックよ。我々の仕事は遺物を手に入れることではなく、連中が遺物を手に入れるのを防ぐことだ」

 

 粗暴そうな声で喋る度に口元が緑色に発光するドロップキックなる男性ディセプティコンを、シャッターはネットリとした声で諭した。

 

「そのためには、彼らにこの街から出て行って貰うのが確実だ」

「面倒だな……」

 

 うんざりした様子で排気するドロップキックに対し、シャッターはオートボットの集団……その中の黄色い情報員に視線を向けると、ニヤァと顔を歪めた。

 

「そうだな、彼に手伝って貰うとしよう……参謀殿。初めてくれ」

『了解だ。シャッター』

 

 

 

 

「どうやら、話はまとまったようだな」

 

 引き揚げようとするディセプティコンたちの後ろから、別のディセプティコンが声をかけた。

 それは赤と白のヒロイックなカラーリングで、バリケードらよりも頭一つ分背が高い。

 背中に戦闘機の主翼、胸にキャノピー、顔の口元は飛行士のマスクのような形状だ。

 

 ユーリズマにやってきたディセプティコンたちのもとに急に現れ、仲間に入りたいと言ってきた奴だった。

 しかし、声に首を回したバリケードは胡散臭い物を見る目をしていた。

 

 こいつはサウンドウェーブらメガトロンの側近ほどではないにしても、軍団の幹部格の一人だった奴だ。しかし戦後は平和路線に従えないとして直属の部下二名と共に野に下った。

 それが何故、急に現れたのかは分からない。何故、アンチ・エレクトロンに満ちたブリテンで活動出来ているのかも分からない。

 以前のスカリトロン争奪戦で横からかっさらっていったのはこいつではないかと、バリケードは考えていた。

 

 そんな99%黒な奴ではあるが、いや99%黒であるが故にガルヴァトロンの傍にいさせることも、逆に他の信用出来ない連中とつるませることも憚られたため、こうしてとりあえず近くに置いて監視しているのだ。

 

 そいつは、オートボットのホット・ロッドにわざとらしく視線を向けた。

 

「おい、そこのお前。俺の名を言ってみろ!」

「お、お前は……!」

 

 ホット・ロッドは思わぬ有名人の登場に、目を見開いていた。その姿、その名前、知らぬ者などいるはずもない。

 

「スタースクリーム……!」

「そう、俺こそ航空参謀スタースクリ……違えよ!! 何でだよ!!」

 

 しかし、その航空機ディセプティコンはホット・ロッドが思っていた相手とは違ったらしい。

 何故かディセプティコンたちも驚いていた。

 

「え、違うの? ややこしい見た目してんなぁ」

「てっきり、スタースクリームがイメチェンしたのかと……」

「航空機型っていやあスタースクリームだしなあ」

 

 まさかの同族からの勘違いに、よほど屈辱を感じたらしく、そいつは地団駄を踏んで再度その場にいる全員に問いかける。

 

「もう一度だけチャンスをやろう! 俺の名を言ってみろ!!」

「ブリッツウィング……!」

 

 すると静かだが激情の籠った声で、誰かがそいつの名を呼んだ。ホット・ロッドの隣に立つバンブルビーだった。

 全員が意外そうな顔で注目する中、ブリッツウィングはニヤリと目元を歪めた。

 

「おやおや、誰かと思えば可愛いマルハナバチちゃんか。久しぶりだな」

 

 ワザとらしく両腕を広げる相手を、バンブルビーは苦々し気に睨んだ。

 

 二人の因縁は、オートボットとディセプティコンがサイバトロンで戦っていたころにまで遡る。

 かつて、バンブルビーが心を通わせた……少なくとも本人はそう思ったディセプティコンがいた。

 名をディアブラというその女性は、実際にはスパイだったが、それでも彼女の中の善性を信じ、そしてそれは欠片ではあったが確かに存在した。

 しかし、彼女は殺された。

 

 このブリッツウィングに、バンブルビーの目の前で。

 

 空陸参謀と呼ばれていたディセプティコンにしてみれば、単純に裏切り者を始末したに過ぎない。だがそれは若き情報員の心に忘れえぬ傷跡をつけるには十分だった。

 

 それでも、バンブルビーは強く拳を握って怒りが爆発するのを堪えた。

 

「ビー……」

 

 ネプギアは彼の様子にただならぬ物を感じ、その足にそっと触れる。

 何か危険な物を察知したのはくろめやホット・ロッドも同じだった。

 

「行こう。ロディ」

「ああ……ゼボップ殿。案内をよろしくお願いします」

「いいよー♪ ……君たちも色々あるみたいだね」

「俺たちも引き揚げだ」

 

 早めに切り上げた方がいいと、一同はバンブルビーを連れてその場を後にしようとする。

 ゴタゴタを起こしたくないのはディセプティコン、特にバリケードも同じなようで、仲間たちに指示を飛ばす。

 

 ビーシャは相棒の敵は自分の敵とばかりに、鋭い目つきでブリッツウィングを睨んでいた。

 当のブリッツウィングは黙ってバリケードに従う素振りを見せていたが、不意に振り返った。

 

「ああ、そうそう。なんて言ったっけか、あの女? 確か……思い出した、ディアブラだったな!」

 

 歩き去ろうとしていたバンブルビーは、ピタリと足を止めた。

 それを見たブリッツウィングはオプティックを愉悦に光らせた。

 

「まあ相応の最後だったよ。裏切り者には、当然の末路だ。……そう言えば貴様のあの時の顔も傑作だったぞ」

「おい、余計なことを言うんじゃない!!」

 

 さすがにバリケードが止めに入り、ホット・ロッドは肩を震わせる情報員の背中に手を添えた。

 

「ビー、落ち着いてくれ」

「…………ああ、分かって、る!!」

 

 その瞬間、バンブルビーは踵を返すやホット・ロッドを振り払い、ブリッツウィングに向かっていった。

 バリケードが止めるよりも早く、ブリッツウィングは背中と踵からのジェット噴射で飛び上がり、腕を光線砲に変形させた。

 それを見たバンブルビーは、すぐさま右腕をブラスターに変えて発射するもヒラリと躱された。

 血相を変えて、ホット・ロッドはバンブルビーの肩を掴む。

 

「ビー! なにやってんだ!!」

「はなせ!! ビーシャ、来て、くれ!!」

「……え? あ、うん」

「だめええ!!」

 

 何が起こっているのか分からず半ば惚けていたビーシャはバンブルビーの要請に半ば無意識に応じ、ゴールドコアに変身した。

 ネプギアはそれを止めようとゴールドサァドの小さな体に手を伸ばすも、ほんの数センチ足りなかった。

コアは黄色い情報員の胸に合体すると、彼に力を与える。

 

「止めろ、ビー! 言ってただろう? 自分一人の感情で戦争を起こす気にはなれないって!!」

「……ごめん」

 

 必死に止めようとするホット・ロッドに小さく謝ると、バンブルビーは体を振動させて彼を再び振り払い、加速してブリッツウィングを追った。

 

「おう怖い怖い!」

 

 ブリッツウィングはギゴガゴと音を立てて、機体の両側に縦に細長い吸気口を持ち、胴体と主翼の下に燃料タンクをぶら下げたジェット戦闘機へと姿を変える。

 

 バンブルビーは知る由もないが、これは地球の米軍などで艦上戦闘機として使用されるマルチロール機、F-4ファントムⅡだ。

 

 そのまま飛び去ろうとするブリッツウィングに、バンブルビーは加速して追いすがるが、人や出し物にぶつからないように走っているので思うようにいかない。

 しかも超高速で走ることで発生した突風で、人や看板などが倒れ、オープンカフェの日傘や建物の間に張られた旗布が飛ばされ、詰まれた樽や木箱が崩れる。さらに何故か山車が吹き飛んだり、大きな風船が燃え上がったりまでする。

 

 そのまま飛び去るかに見えたファントムⅡだが、旋回して戻ってくる。

 これを好機と見たバンブルビーは並ぶ建物の屋根に上るとビークルモードに変形し、そこから加速し、屋根の傾斜を利用することで高くジャンプする。

 ロボットモードに再変形してブリッツウィングに飛び付こうというのだ。

 

 だが赤と白のジェット機は、翼の下に備えたミサイルを発射した。いかに超高速だと言っても、空中で躱すことなど出来ない。

 

「ッ!!」

 

 命中と同時にミサイルが爆発する。

 ミサイルの内部には2種類の特殊な薬剤が詰まっており、これは混ぜ方を変えることで高熱を発する焼夷剤にも、冷凍ガスにもなるという品だった。今回は冷凍ガスだ。

 身体を凍り付かせたバンブルビーは、そのまま下の広場に墜落した。

 衝撃で石畳が砕け、人々は悲鳴を上げる。

 

『ビー! おいビー! どこにいるんだ!?』

『ビー、返事をして!!』

 

 ホット・ロッドやネプギアが通信を飛ばしてくるのを無視して、体を振動させて氷を掃い立ち上がったバンブルビーの前に、ロボットモードに戻ったブリッツウィングが悠々と降りてきた。

 

「あ~あ、まったく酷い有様だ。正義の味方が聞いて呆れるな」

「きっさま……!」

 

 いけしゃあしゃあと被害者面するブリッツウィングに激昂し、加速して飛び掛かろうとするが、照射される冷凍光線によって体が氷付いていく。

 

『また……!』

「まだだ!!」

 

 体を高速振動させてその衝撃と発生させた熱で氷を掃うが、絶え間なく照射される冷凍光線によって溶かした端から凍らされる。

 

「もっとだ! もっと、速く!!」

『駄目だよ! もう限界が近いよ!!』

 

 コアとなっているビーシャが悲鳴染みた声を上げるが、バンブルビーはさらに加速する。

 戦いは、もはや加速と冷凍の根競べの様相を呈していた。

 

「もっとだ! 速く! 速く速く! 速く速く速く!!」

「おいおい……」

 

 一歩一歩でも確実に近づいてくる情報員にブリッツウィングの顔から余裕が消える。

 

(これは()()を変えて確実に仕留めるべきか?)

 

『もう、限界……!!』

 

 ついに連続して加速していられる、一分を越えた。越えてしまった。

 

「まだ、だぁああああッ!!」

 

 その瞬間、冷凍光線すら突っ切ったバンブルビーは閃光の矢のようになって、ブリッツウィングに体当たりした。

 

「ぐうえええッ!?」

 

 二人は諸共、後ろにあった三首竜の山車に突っ込み、その姿が崩れる山車の中に消えた。

 

 ……それからほんの数秒後、ホット・ロッドらとバリケードらが広場に到着した。

 

 ホット・ロッドは、広場の惨状に目を覆いたくなった。

 崩れ落ちた山車、倒れた看板や樽、割れた窓ガラス、こちらを恐怖と怒りの籠った目で見てくる人々。

 最悪ではないが、それに近い。

 ディセプティコンたちですら、唖然としている。

 

「ビー! どこー!」

 

 ネプギアは、弟分を探して声を上げる。

 すると、三首竜の残骸を押し退けて、立ち上がる者がいた。

 しかしそれはブリッツウィングだった。体当たりで損傷した腹を押さえ、苦痛で顔をしかめている。

 

「いてて……まさか、冷凍光線を突っ切ってくるとは……」

「おい、貴様ぁ!!」

 

 バリケードがブリッツウィングに詰め寄ると、その顔にPUNISHと刻まれた拳で殴りつける。

 

「いってえ!! なにしやがる!!」

「それはこっちの台詞だ!! 見ろ、この惨状を!!」

「おいおい、先に仕掛けてきたのはあっちだぜ。被害者だよ俺は」

「貴様がいらん挑発をするからだろうがぁッ!!」

 

 珍しく本気で怒声を上げるバリケードだが、ブリッツウィングに堪えた様子はない。

 一方、遅れてやってきた指揮者たちも、この状況には平静とはいかなかった。

 

「あいつらのせいで神聖な祭りが滅茶苦茶だー!! さっさと出て言ってもらえー!!」

「ワイゲンド卿には悪いけれどー、これは庇い切れないわー……」

「二人とも落ち着いてー……」

 

 怒り心頭のバッソと、深く溜息を吐くアレグラを、ゼボップが抑えている。それでもミュージカル調が崩れないが。

 

「ビー、ビーシャさん、いったいどこに……」

「ネプギアー、ここだよー……」

「ああ、よかった二人とも無事で……ビー!?」

 

 バンブルビーたちを探していたネプギアは、残骸の中から聞こえたビーシャの声を頼りに彼を見つけた。

 

 唐突だが、ここで少し話を変える。

 バンブルビーがビーシャの力を借りて行っている加速であるが、これは単純に身体能力を底上げして速く動いているという類の物ではない。

 その本質は時間への干渉であり、自分の時間その物を早回ししているのである。しかし、いかなる超常の力がそれを成すのか、バンブルビーが年老いるようなこともない。

 

 だが、時間への干渉なんてことにリスクがないはずがないのだ。

 プラスが大きければ、マイナスも大きくなる。

 

 つまり……。

 

「いたか! ビー、なんてことを……な!?」

「こ、これはいったい……!?」

「ビーが……」

 

 ホット・ロッドとくろめ、そしてネプギアが見たのは、途方に暮れているビーシャと。

 

「……?」

 

 一回り以上も体が縮み、迷子になった小さい子供のような不安げな顔をした、バンブルビーだった。

 

 これが時間干渉のリスクだ。

 バンブルビーは、超高速の代償で、体のみならず精神や記憶までも若返ってしまったのだった……。

 




今回、何故か長くなりました。
正直、バンブルビーが縮んだ理屈は自分でも強引だと思います(なら何故した)

今回のキャラ紹介

指揮者バッソ、指揮者アレグラ、指揮者ゼボップ
音楽の街ユーリズマの権力者たちであり、街で最高の音楽家たち。
太った壮年男性のバッソ、白い髪の妙齢の女性アレグラ、金髪碧眼の青年ゼボップの三人で、全員が楽器型のエクスカリバーを持ったアーサーでもある(バッソはコントラバス、アレグラはピアノ、ゼボップがヴァイオリオン)が、当人たちは良い楽器程度にしか思っていない。
バッソは保守的で街の安全を第一に考える性格、アレグラは厳格だが義理硬い性格、ゼボップは軽いがフレンドリーな性格。

元ネタは街の名前の共々トランスフォーマー2010屈指の作画大崩回『音楽惑星の挑戦』から。
バッソとアレグラは音楽用語が由来のようだけど、ゼボップだけ分からず(ポップ?)



突撃兵モーターヘッド、突撃兵ローラーフォース、突撃兵グラウンドホッグ
ガルヴァトロンに従うディセプティコンの兵士で、バリケードの部下。
全員色違いのグランドツーリングカー(市販車を改造したレースカー)に変形する。全員レースが好き。
元々軍団でも下っ端で、戦後は考えなしに公道で暴走行為を繰り返していたため、あえなく御用となった(捕まえたのはバリケード)
つまり軽犯罪者で平和路線に不満を抱いているわけでもない。ガルヴァトロンに付いてきたのも「なんとなく」以上の理由はない。ついでに個々の個性もない。
見た目は全員揃ってプライム版スモスクの頭部替えみたいな感じ。

元ネタは、マイクロマスター。
日本ではトランスフォーマーZの玩具展開でのみ、レースカーパトロールチームという名称で纏めて登場。
実は史上初めてバリケードの名を持ったTFも、この一員である(ただしFIカー)。
もちろんアニメ未登場。それどころか2019年現在バリケード以外は筆者の知る限り同名のTFさえいない超マイナーキャラ。元ネタでは一人一人違う種類のビークルになる。

何故かこいつらを出したいという謎の欲望にかられたもんで……。



空陸兵ドロップキック
元ディセプティコンの兵士。
作中ではまだ変形していないが、青いマッスルカーと攻撃ヘリAH-1W スーパーコブラに変形する。
やはり平和路線に馴染めなくて、シャッターたちと共に傭兵に転職した。
シャッター、ブリッツウィングに比べると粗暴で好戦的な性格だが、彼女たちに合わせるくらいの知能と協調性はあり、見境なしの戦闘狂やまったくの考えなしというワケではない。
トリプルチェンジャー三人の中では一番階級が低いが、扱いは対等。

残忍で狂暴で人間を下等と見下すが、有能方面にも馬鹿方面にも突き抜けてない、あまりにも普通のディセプティコン。いや有能なんですけどね。



空陸参謀ブリッツウィング
元ディセプティコンの兵士。シャッターやドロップキックの元上官。
ファントムⅡに変形する……が?
元々は軍団でも幹部格の一人だったが、平和路線に馴染めずに離反しようとするもシャッターの助言で傭兵に転職した。
熱線と冷凍光線を発射できるデュアルエナジーキャノンと焼夷、冷凍ミサイルが武器(昔はナルレイを使っていたがスタスクと間違えられるので変えた)
かつてバンブルビーと友人になったディセプティコンのスパイ、ディアブラを裏切り者として始末した件で彼に恨まれている。

冷酷非情で野心家、戦闘力も高いが、何故かよくスタースクリームに間違われることを気にしているなど間の抜けた面があり、他の二人からは舐められている。
傭兵稼業を始めるにあたり旧知の仲のアストロトレインも誘ったが、すでに運送業で成功していた彼には断られてしまった。



スパイ ディアブラ
ディセプティコンの女スパイ。故人。
バンブルビーを利用してオートボットの情報を得ようとした。
冷徹で強かな性格だったが、なんやかんや情が移ってしまった模様。
利敵行為まではしなかったが、軍を抜けようとしたため、ブリッツウィングに始末された。

立場的にはサウンドウェーブの部下だった。
本人は無自覚だが、バンブルビーにとっての初恋の相手。

元ネタはバンブルビーやブリッツウィングとの関係含め翻訳アメコミのバンブルビー。
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