新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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第47話 ビーシャとバンブルビー

 夜のユーリズマ。

 レーシング・ディセプティコンの演奏とネプギアの歌が響くなか、戦車に変形したブリッツウィングが主砲を発射する。

 迎え撃つのは、ミニボット化したバンブルビーと、ゴールドサァドのビーシャだ。

 

 三人を覆うフォースバリアには防音効果もあり、外の演奏が邪魔されることはなかった。

 

「死ね、餓鬼どもぉッ!!」

「そういう汚い言葉は良くないよ!!」

 

 左右に分かれて砲弾を躱すと、ビーシャはバズーカの弾を浴びせ、蜂の顔ようなバトルマスクを被ったバンブルビーは素早く接近して砲身に組み付いた。

 

「このハチ公が! ブンブンと小うるさい!」

 

 そのまま砲身をへし折ろうとするが、変形したブリッツウィングは宙返りして情報員を振り払いつつ踵と背中からのジェット噴射で飛び上がり、腕からミサイルの発射体制に入る。

 

「プレストキィーック!」

 

 だがビーシャの飛び蹴りを横合いから喰らって体勢を崩す。

 その隙に再度接近したバンブルビーは、左腕からスティンガーソードと呼ばれる剣を展開し敵の背に飛び付くと、そのまま剣を突き刺す。

 バックパック部分は分厚く、貫通することは出来なかったがダメージを与えることは出来た。

 

「舐めるな!」

 

 着地したブリッツウィングは両腕をキャノンに変形させ熱線を発射すれば、バンブルビーとビーシャも、それぞれブラスターとバズーカを撃ち返す。

 色とりどりの光線が飛び交い爆発が起こる派手な戦いに、観客は歓声を上げた。

 

 一方、ホット・ロッドとバリケードは祭りを妨害しようとしていたシャッターとドロップキックに銃を向けていた。

 

「ホールドアップ、って奴だ」

「バリケード! 貴様オートボットと組みやがって、このディセプティコンの恥晒しが!」

「否定はせんが、軍団を抜けた貴様に言われる筋合いはないな」

 

 後ろに回り込んだホット・ロッドに銃を突き付けられつつもがなるドロップキックだが、バリケードは小馬鹿にしたように鼻で笑った。

 一方でシャッターは両手を上げつつも冷静だった。

 

「なぜ我々がここにいると分かった?」

「邪魔するなら盛り上がるトコを隠れて見てられる、それでいていざという時に介入しやすく逃げやすい、そんな場所にいると思ってね」

 

 つまりこの場所……塚の上、モードレッド像の影を。

 バリケードの答えに、女兵士は顔をしかめると同時に相棒に向かって目配せした。

 

「なるほど、貴様たちを甘く見ていたようだ。……が、温い!」

 

 瞬間、ドロップキックは背中に畳まれたローターを広げ勢いよく回した。ホット・ロッドが僅かに怯むと、空陸兵はすかさず振り返り拳をその顔面に叩き込む。

 

「ぐッ!」

「小僧!」

「どこを見ている?」

 

 それに気を取られたバリケードに、シャッターは回し蹴りを喰らわせていったん距離を取ると、相棒に指示を出す。

 

「ドロップキック! 今の内にブリッツウィングを助け出せ!!」

「おう! ついでに人間どもを吹き飛ばしてやる!!」

 

 ドロップキックはギゴガゴと音を立てて、機体両側のウイングからロケット砲を下げた攻撃ヘリ、AH-1Wスーパーコブラに変形して飛び立った。

 だが、その機体にバリケードが大きくジャンプして飛び付いた。

 

「ステージへの乱入はご遠慮ください、お客様!」

「このクソッタレが!!」

 

 空中で変形して元同僚を振り払おうとするも上手くいかず、塚を挟んで舞台とは反対に落ちていく。

 

「さあて、指導の時間だ」

「やってみろ、不良警官!!」

 

 ナックルダスターが嵌った拳を構えるバリケードに、ドロップキックも拳を握って殴りかかる。

 

「バリケード!」

「どこを見ている、坊や」

 

 バリケードに気を取られたホット・ロッドに、シャッターは回し蹴りを腕に当てて銃を落とさせてからの肘打ち、さらにアッパーカットと容赦のない攻撃を浴びせる。

 ホット・ロッドは反撃しようとするが、カウンターに拳を顎に叩き込まれた。やはり戦闘経験に裏打ちされた実力に差がある。

 

「グッ……!」

「あんまり大人の仕事の邪魔をするもんじゃないぞ、坊や」

 

 年若いオートボットの首を両手で掴んだシャッターは、低い声で囁く。見た目の細さに寄らぬ力が込められた腕を振り解くことは出来ないが、それでもホット・ロッドの闘志と負けん気は衰えない。

 

「お前らの邪魔が俺の仕事さ!!」

「減らず口を……だがいいだろう、ならば()()()()手を引いてもいい」

 

 ニヤリと顔を歪めたシャッターは手を離すと同時にホット・ロッドの腹を強く蹴り、少し距離を置いた次の瞬間にはハリアーⅡに変形して体当たりする。

 

「グッ!?」

「その代わり、()()()邪魔してこい」

 

 ジェット機の突撃を受けたホット・ロッドは、為す術なく弾き飛ばされ、盛り上がっている会場に突き落とされる……。

 だがその瞬間、ホット・ロッドは叫んだ。

 

「来い! ファイアローダー!!」

 

 すると何も空間からコンテナが飛び出してくるや、ホット・ロッドと合体しながらシャッターに突っ込んだ。

 

「なんだと!?」

 

 大質量の突撃に、今度は自分が弾き飛ばされることになったシャッターは、バリケードとドロップキックが殴り合う塚の麓へと落ちることになった。

 それでも体勢を立て直して着地した彼女の前に、スーパーモードになったホット・ロッドが降り立った。

 

『無茶をするね、ロディ』

「仲間の見せ場を守るためだ、無茶もするさ」

 

 すでにキスによって合体していたくろめの、呆れるとも感心するとも付かぬ声にホット・ロッドはニヤリと笑う。

 ドロップキックは、その姿を見てギョッと目を見開いた。

 

「め、メガトロン……様!」

「狼狽えるな、馬鹿者! 色が違えば別人のトランスフォーマーで、あの程度の類似はよくあることだ!」

 

 相方を叱りつけたシャッターは、自分も動揺しつつも右腕をブラスターに変形させ戦闘を再開した。

 

 

 

 

 

 そのころ、祭りの会場は大いに盛り上がっていた。

 人々はド派手なショーと明るい音楽の相乗効果にすっかり魅せられていた。

 

「止めろ! 笑うんじゃない!!」

 

 激昂したブリッツウィングは周囲に向かって吼える。

 彼にとって、笑われるとは他者に侮辱されているということであり、称賛や感謝という意味にはなりえなかった。

 

「ええ、いーじゃん。みんな楽しんでるんだし。ほら、モーターヘッドたちも楽しそうだよ」

「喧しい! あいつらはディセプティコンの面汚しだ!!」

 

 バズーカを構えつつ呆れたような顔のビーシャに、ブリッツウィングは怒りを露わに……もうずっと怒りっぱなしだが……して戦車に変形する。

 特にまたしても砲塔に組み付いてきて、観客の応援にノリノリで手を振るバンブルビーには我慢ならなかった。

 

「おい黄色いの! お前、随分と余裕じゃねえか! この前の怒りっぷりはどうした?」

 

 え?と首を傾げる情報員に、ブリッツウィングはこのミニボットが縮んだだけでなく、記憶まで退行していることを察した。

 

「忘れたなら、思い出させてやる……俺はな、お前のガールフレンドのディアブラを殺してやってのさ!!」

 

 その瞬間、ブリッツウィングは本来の戦車なら有り得ないほどの速さで砲塔を回転させながら砲弾を連続で発射した。

 それだけではなく、砲塔の脇から展開したキャノン砲から熱線と焼夷ミサイルをばら撒く。

 

「ッ!!」

「きゃあああッ!!」

 

 振り落とされたバンブルビーも援護射撃をしていたビーシャも、これはたまらない。

 バリアの中が爆炎と煙に満たされ、その光景に観客が息を飲み、モーターヘッドたちが思わず演奏を止めてしまう。

 

 ロボットモードに戻ったブリッツウィングは炎に照らされ、まるで悪魔のように見えた。

 人間たちの恐怖の視線を心地よく感じながら、倒れたバンブルビーにゆっくり近づく。

 情報員は咄嗟にビーシャを庇い、大きなダメージを負ってしまっていた。

 それでも庇い切れず、ビーシャも負傷して血を流して呻いている。

 

「思い出すなあ、あの時もお前はそうやってディアブラを庇おうとしたっけな。結果もあの時と同じだ、お前はその餓鬼の骸を前に、泣き叫ぶことになるのさ」

 

 嗤いながらキャノン砲を構える空陸参謀に、バンブルビーのメモリー回路が急速に修復していく。

 オートボット、ディセプティコン、オプティマス、メガトロン、戦争……ディアブラ。多くの情報が洪水のようにブレインに蘇る。

 そして、倒れたビーシャを見た時、その姿にかつて心通わせた女スパイの姿が重なった。

 

 咆哮を上げて立ち上がったバンブルビーは、ブリッツウィングに飛び掛かる。

 

「ハッ! やっと()()()なってきたじゃないか!!」

 

 楽しそうに笑う空陸参謀の攻撃をかわし、スティンガーソードで斬りかかる。その蜂のようなバトルマスクの奥のオプティックが赤く染まっていた。

 

 その恐ろし気な姿に観客たちが恐怖に慄く。

 やはりあの金属の巨人たちは、外敵のように恐ろしい存在なのか?

 舞台袖から、バッソ、アレグラ、ゼボップの三人の指揮者たちも厳しい表情で異邦の者たちを眺めていた。

 

 

 

 

 

 塚を挟んで反対側の戦闘は、ほとんど一方的な物だった。

 いかにシャッターとドロップキックが歴戦の兵士とはいえ、ガルヴァトロンと張り合える力を持ったスーパーモードのホット・ロッド相手では分が悪い。

 

「この、デカくなったからってイキってんじゃねえぞ、餓鬼が!!」

「人間を吹き飛ばすとか息巻いてた奴がよく言う! 弱い者いじめはカッコ悪いぜオッサン!」

 

 戦闘ヘリに変形してロケット砲と機銃で攻撃するも物ともせずに、ホット・ロッドが背中の翼を広げて飛び上がる。

 

「観念しな、お嬢さん。生憎とこっちに分がある」

「はん、悪名高きバリケードが随分と子守りが板についてるじゃないか」

「ああ、何せ餓鬼ってのはオートボットよりもよっぽど予測不能で恐ろしい連中でな。相手にしてると前線に出るよりも度胸が付く」

 

 皮肉を言い合いながらバリケードと格闘戦を繰り広げていたシャッターだが、その目の前にホット・ロッドの攻撃で体勢を崩したドロップキックが変形しながら着地した。

 

「グオッ……」

「何を情けない声を出している! それでも男か!!」

「分かってる!!」

 

 相方に叱咤されてドロップキックは腕をブレードに変形させる。

 対するホット・ロッドもバリケードの横に降り立つと腕をソーに変形させた。

 

「その図体の割りに随分と手間取るな」

「何せ、粘り強くてね」

 

 言い合いながら並び立つオートボットとディセプティコンに対し、シャッターは闘志を剥き出しにしつつも冷静を失ってはいなかった。

 そろそろ、時間のはずだ。

 

 睨み合う二組の間の地面に、突然忍者が使うような手裏剣が突き刺さったかと思うと、手裏剣から猛烈な煙幕が噴射された。

 

「何ッ!?」

 

 それを何者が放ったのであれ、バリケードは気配を一切感じなかった。EMPの効果がある煙は、トランスフォーマーたちのセンサーを狂わせる。

 

「待たせたで御座る。シャッター殿」

「遅いぞ貴様……首尾は?」

「それが……いや詳しいことは後程。今はここを離れるで御座る」

 

 そんな会話が聞こえたのを最後に、煙幕が晴れた時にはトリプルチェンジャーたちの姿はなかった。

 

「逃げられたか」

「逃げたのなら、それはそれでいいさ。それより……」

 

 冷静に思考を切り替えたホット・ロッドは、モードレッド王の像を見上げた。別の敵がいたのなら、その目的もスターセイバーのはず。確認しなければならない。

 塚に向かおうとする若いオートボットを、バリケードは少し意外そうに見た。

 

「バンブルビーたちの方はいいのか?」

「心配無用さ。あいつらなら……きっと大丈夫だ」

 

 確信を持っているらしく、ホット・ロッドの声は力強かった。

 

 

 

 

 

「ッ……ビー!」

 

 意識がはっきりした時、ビーシャの目に飛び込んできたのは、バンブルビーがブリッツウィングに片手で首を掴まれ持ち上げられている姿だった。

 

 立ち上がったビーシャは、自分の膝が震えているのを感じた。

 怖いのだ。ブリッツウィングもそうだが、あの状態でも憎悪に目を光らせるバンブルビーが怖くてたまらないのだ。

 

 震えが体全体に伝播し、動けなってしまったビーシャだが、その時歌が聞こえた。

 ネプギアだ。ネプギアが歌っているのだ。モーターヘッドたちは演奏を中断しているのでアカペラだ。

 

 弱さを言い訳にしたくない。

 護られてばかりは嫌だ。

 憧れのあなたにいつか追いつく。

 そういう内容の、その歌を聞いていると不思議と勇気が湧いてきた。

 グッと震える足を踏ん張り、前に進む。

 

 少女の前進にも女神の歌にも興味を示さず、空陸参謀は藻掻く譲歩員を嘲笑する。

 

「愚かな小僧だ……メガトロンは、敵の勇敢さを称えることがあったが、俺には理解できなかったね。敵の弱さを嘲笑い、叩き潰す、それがディセプティコンだ」

 

 その言葉にバンブルビーの脳裏に戦争での出来事が過る。

 破壊されるサイバトロン、死んでいった仲間たち、奪われた声。

 こいつの言う通りだ、ディセプティコンは敵だ……()()()()()()()()()()()()

 

「違う!!」

 

 その思考は、大きな声に阻まれた。

 幼いゴールドサァドが、真っ直ぐ立ち上がり雄々しさすら感じされる表情でブリッツウィングを睨んでいた。

 

「ディセプティコンがどうだとか、関係ないよ。モーターヘッドたちはわたしたちのことを助けてくれたもん!!」

 

 その声に、硬直していたレーシング・ディセプティコンたちは顔を見合わせた。

 ビーシャは叫び続ける。

 

「わたしは、これまでディセプティコンはみんな悪い奴なんだって思ってた。でも違った! ディセプティコンだから悪いんじゃないんだ、誰だろうと弱い人を傷つけたり、人が大切にしている物を壊したりするから悪者なんだ!!」

「はん、だからどうした? 力の弱い奴は、その悪者に踏み躙られるのに変わりはない」

「それを止めるのが正義の味方、ヒーローだよ!」

「お嬢ちゃん。そんな物はな、この世にはいないんだよ。今どき子供でも知ってる」

 

 少女の理想論をせせら笑うブリッツウィングは、バンブルビーの目が自分の腕に注がれていることに気付かなかった。

 

「ううん、ヒーローはいるよ。わたし()()がヒーローになる! ビーとわたしで!!」

「残念だったな。そのヒーローは、今死ぬ所だ」

 

 ブリッツウィングはワザとらしく左腕をキャノン砲に変形させる。

 だが、その芝居がかった仕草の間に、バンブルビーは敵の腕の装甲を剥ぎ取りその裏に収めれていたミサイルをもぎ取ると、相手の胸に突き刺した。

 この敵の装甲は分厚く頑丈だがキャノピー部分は他よりも脆く、容易にミサイルが刺さった。

 

「何を!?」

 

 ようやくブリッツウィングが気付き情報員を投げ捨ててミサイルを抜こうとするが、もう遅い。

 

(ディアブラの復讐だ!!)

 

 怒りに任せバンブルビーはミサイル目掛けてブラスターを発射……。

 

「だめ!!」

 

 だがその首にビーシャが飛び付いたため、狙いがそれて光弾はバリアに当たって消える。

 何をするのだと見下ろせば、ゴールドサァドは目に涙を一杯に溜めていた。

 

「駄目だよ、ビー。あいつは悪い奴だ、でも殺しちゃ駄目だよ」

 

 どうしてだと表情で問う相棒の目を、ビーシャは真っすぐに見た。

 

「周りを見て」

 

 その言葉に、ハッとなってバリアの外を見た。

 ユーリズマの人々が、大人も子供も不安と恐怖、それから失望を顔に浮かべていた。彼らにそうさせたのは、ブリッツウィングだけではない。

 

 バンブルビーを、怖れているのだ。

 

 ああ、これではまるで自分がディセプティコンに……ブリッツウィングと同じような悪党になってしまったようではないか。

 舞台の上で一人歌うネプギアが見えた。彼女は、その視線で自分を叱咤していた。何をしているのかと。

 ブレインに記憶が再生される。それは戦争の頃のことではなく、すぐ最近の聞いた言葉だった。

 

(ビーのこともテレビで見たんだ。……この世界には、作り物じゃない本物のヒーローがいたんだって、本当に嬉しかった。……だから、わたしもヒーローになろうって、そう決めたんだ)

 

 彼女は自分をヒーローだと言ってくれた。自分が彼女の支えになれた。

 自分のすべきことは、なんだ?

 復讐することか?

 

 ……違う。

 

 復讐を否定はしない。そうしないと前に進めない者もいる……でもそれは別の誰かのやり方だ。

 自分のやり方は()()()()だ。

 

 バトルマスクが解かれると、バンブルビーの目が赤から青へと戻った。

 

(ごめん、ビーシャ。)

「ビー……」

(さあ、ショーを再開しよう!)

「ッ! うん!!」

 

 片目を瞑ってウインクをしてのサムズアップに笑顔で答え、声を上げた。

 

「ゴールド、オン!!」

 

 キューブ状のゴールドコアへと変身したビーシャは、バンブルビーの胸へと合体する。

 コアのエネルギーが機械の身体を駆け巡ってゆく。

 

 ビーシャには分かっていた。これまで合体しても力が発揮できなかったのは自分の中に、復讐に燃えるバンブルビーへの恐怖があったからだ。

 事実、合体していると彼の怒りや苦しみが伝わってくる。

 

 長い戦争は、テレビで見たヒーローとはまるで違う、辛く悲しいことに満ちていた。

 

(でも、それだけじゃないよね……)

 

 オプティマスと出会い、ゲイムギョウ界にやってきてネプギアと出会い、多くのことを乗り越え、この世界と仲間たちを護るという決意を得た。

 もう、ビーシャの中に彼への恐怖はなかった。

 

 バンブルビーはビーシャの()()()()()()()ではなかったかかもしれない。けどだからこそ()()()()()()()だ。

 

「ッ! なんだ!?」

 

 ようやっとミサイルを抜いたブリッツウィングは、バンブルビーの身体が光に包まれていることに面食らう。

 ゆっくりと立ち上がった情報員の身体は、ミニボットから元のサイズに戻っていた。

 だが、青かった目の色が変身したビーシャと同じ金色になり、胸のコアの稲妻模様がより強く輝いていた。

 

「ビー、ビーシャさん……」

 

 二人の絆が深くなっているのを感じたネプギアは、フッと息を吐くと大きく息を吸う。大切な弟分と、その相棒を力いっぱい応援するために。

 モーターヘッドらも再度顔を見合わせると、ニヤリと笑い楽器を演奏する。

 

 もう一度同じ曲、『きりひらけ!ロープレ☆スターガール』を。

 

 バンブルビーは相手を指差し、ポーズを取る。

 

「さあ、お前の罪を数えろ!」

「今更数え切れるか! 何かと思えば、前と変わらんじゃないか!! 今度こそ叩き潰してやる!!」

 

 ネプギアの歌が高らかに響くなか、ゴールドサァドの力を完全に引き出したバンブルビー・G(ゴールド)フォームは取り戻した声で、相棒と共に叫ぶ。

 

「前と同じか!」

『試してみなよ!!』

「望み通り、もう一度凍れ!!」

 

 ブリッツウィングは右腕のキャノン砲から冷凍光線、左腕から冷凍ミサイルを発射する。

 慢心していられないと悟った空陸参謀は、最初から出し惜しみなしで面制圧しようというのだ。

 しかし、それらが情報員の身体を凍り付かせることはなかった。

 

 瞬時に稲妻のような速さにまで加速したバンブルビーはミサイルばかりか光線までも先読みして躱してみせたからだ。

 

「なんだと!?」

『遅い遅い!!』

「お前には情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ! なによりも、速さが足りない!!」

 

 攻撃をよけながら、バンブルビーとビーシャは相手を挑発しつつ、格闘攻撃を喰らわせる。

 単なるパンチやキックでも、超高速から繰り出されるそれは砲弾のような威力を持っていた。

 

「ガッ……おのれ、ちょこまかと!!」

 

 業を煮やしたブリッツウィングは再び戦車に変形し、もの凄い勢いで砲塔を回しながら砲弾、光線、さらにミサイルをさっきよりも大量にばら撒く。まるで竜巻だ。

 これだけの攻撃が狭い空間を埋め尽くせば、どれだけ速くとも関係ない。

 

 だがバンブルビーは、戦車形態の敵の周りを高速でグルグルと回りだす。

 突風とその体から漏れ出るエネルギーが渦を巻いて砲弾やミサイルをその内側へと封じ込める。時空に干渉する能力故に、光線までもが捻じ曲げられた。

 挙句、冷凍ミサイルが爆発しブリッツウィングは自分の武器で凍り付く破目になった。

 

「そんな馬鹿な!?」

『さあ、いくよ! わたしたちの必殺技!』

 

 曲の一番盛り上がる所に合わせて、バンブルビーは足に力を込めて高く跳び上がる。

 そして飛び蹴りの姿勢で声を合わせて叫び、光の矢のように動けない敵に突っ込んだ。

 

『プレスト、キィィック』

「ちっ……くっしょうがあああああ!!」

 

 蹴りを受けた戦車は、その衝撃にひっくり返りロボットモードに変形しながら吹き飛ばされてバリアに叩き付けられた。

 

「ぐがあああああっ!?」

 

 その衝撃に、ついにフォースバリアが限界を迎え、ポールが火花を散らしてショートすると同時に消滅する。

 ブリッツウィングが力無く地面に倒れ、バンブルビーはビーシャがいつもしている特撮ヒーローのようなポーズを取るのと、ネプギアの歌が終わるのは完全に同時だった。

 

 その瞬間、固唾を飲んで戦いを見守っていた観客たちはワッと、歓声を上げた。

 

「みんなありがとう!! 苦しい戦いだったけど、みんなの応援のおかげで勝てたよ!!」

 

 バンブルビーから分離したビーシャは、大きく腕を広げて歓声を体いっぱいに浴びる。

 腰に手を当てたバンブルビーは、片腕を挙げて大きく振る。

 

「それから、素敵なお芝居を見せてくれたブリッツウィングにも、拍手してあげてねー!」

 

 ビーシャのリップサービスに乗って、観客たちは口々に空陸参謀の健闘を称え、手を叩く。

 当人にとってそれは、屈辱以外の何物でもなかった。

 

「グッ……くそッ! おい、バンブルビー! 俺に止めを刺せ! 刺しやがれ!! 俺はディアブラを……!」

「ああ、そのことは、忘れてない。正直、お前は、憎いよ。でも、この空気に、水を差したく、ない……つまり、やなこった」

「ッ!」

 

 その言葉に、ブリッツウィングは物理的なダメージ以上の衝撃を受けているようだった。何か言おうとしたが、内蔵した通信機に引き上げのサインが飛び込んできた。

 

「俺の息の根を止めなかったこと、いずれ後悔させてやるぞバンブルビー! 憶えておけ!!」

 

 ヨロヨロと立ち上がった空陸参謀は、宙返りの要領でハリアーⅡに変形すると空の彼方へと飛び去っていった。

 それはヒーローショーの悪役の言動そのままだったが、本人は気付いていないようだった。

 

 舞台の上に出てきたバッソ、アレグラ、ゼボップの三人の指揮者は惜しみない拍手を彼らに送った。

 

「うむ、素晴らしいショーだったー♪」

「純粋な音楽とはちょっと違ったけどー♪ とても面白かったわー♪」

「君たちの歌と演奏もー♪ 最高だったよー♪ そこで相談だけどー、全員で一緒に演奏しないかーい?」

 

 ゼボップの申し出に、ネプギアは驚いて目を丸くした後でパッと笑顔を大きくした。

 

「はい! みんなもいいよね!」

「もちろん喜んで! ね、ビー!」

「あたぼうよ!」

 

 再びバンブルビーとビーシャが舞台に上がると、指揮者たちは各々の楽器を演奏し始める。

 それはゲイムギョウ界の曲ではなく、ホット・ロッドが持ち込んだ地球の楽曲だった。

 

 指揮者たちは、楽譜を見ただけの異邦の音楽を完璧以上に奏でてみせつつゼボップを中心に歌い、モーターヘッドらも負けじと楽器を鳴らし、バンブルビーとビーシャ、そしてネプギアはその中心で軽やかに踊る。

 

 曲の名は『ザ・タッチ』だ。

 

「どうやら、向こうは上手くいったようだな……」

 

 モードレッド像の脇から演奏会を眺めるバリケードは安堵の息を吐いていた。

 一時はどうなることかと思ったが、色々と丸く収まったようだ。

 ノーマルモードに戻ったホット・ロッドは、肩にくろめを乗せて同じように眼下を眺める。若きオートボットの顔は会心の笑みだった。

 

「だから言ったろう? 大丈夫だって」

「ロディの楽天的な見方も、たまには上手くね」

()()()()は余計だぜ、くろめ」

 

 二人して軽口を叩き合うオートボットと女神に、バリケードは我知らず破壊大帝とタリの女神を重ねていた。

 

「いいのか、俺たち完全に脇役だぞ?」

「え?」

 

 それの何処が悪いのかと言わんばかりに笑顔のホット・ロッドに、バリケードはこの青年とメガトロンは似た部分はあるが、やはり別人なのだと再確認した。

 

「……そう言えば、メガトロン様は目立ちたがり屋でな。こんな場面なら、きっと自分が主役になりにいくぞ」

「俺だって目立ちたがり屋さ。だけど他人の晴れ舞台を奪うような無粋な真似はしない」

 

 平然と言う相棒に、くろめは呆れたような顔をする。

 

「それで裏方に徹して結局、骨折り損のくたびれ儲けじゃないか。塚の中は空っぽだったんだよ?」

 

 断絶の時代の技術により時間に合わせて開く仕掛けになっていた塚の中の霊廟には、モードレッド王の遺体を納めた石棺以外には何もなかった。

 棺の蓋には一度開けられた跡がり、剣は奪われていた……ただし、随分と前に。

 

「埃の累積具合や棺の劣化から見て、剣がなくなったのは昨日今日の話じゃない……誰かが、何年も前に墓を暴いたんだ」

「誰だか知らないが罰当たりなことしやがる。しかしそれなら剣は何処に……ん?」

 

 一転、憤りと失望と疑問がない交ぜになった表情を浮かべるホット・ロッドは、モードレッド像の足元に、何かが光ったことに気付いた。

 気になって拾い上げるとそれは、太陽十字を象った円盤状の御守りだった。

 

「ミリアサのタリスマン? なんでこんなトコに?」

 

 しげしげと見るとタリスマンの表面に、モードレッド像の顔が映る。光の悪戯か、二代王の口元には満足気な笑みが浮かんでいた。

 

「いつのまにか落としてたんじゃないかい?」

「う~ん、そうかも?」

 

 くろめの意見に首を傾げる。

 実のところ、このタリスマンには意思があり、自分の足でここにやってきて()()と共にホット・ロッドを監視していたのだ。

 今はまだその時ではないが、とりあえず自分を持ち続ける資格はあるというのが彼に対する評だった。

 

 この若き炎の戦士が己と向き合い、そして王足る資質を魅せた時こそ、タリスマンは真の姿を現すだろう。

 

 すなわち王の持つ剣エクスカリバー、あるいはプライムのための剣スターセイバーとしての姿を。

 

 そんな護符の思惑は露知らず、疑問符を浮かべるホット・ロッドは、バリケードがジッとこちらを見ていることに気が付いてタリスマンを装甲の裏にしまう。

 

「ああと、悪かったなバリケード。ただ働きさせて……」

「まったくだ……いやそんな顔するな。冗談さ」

 

 本気で申し訳なさそうな顔のオートボットに、ディセプティコンは苦笑する。

 一方のくろめは、演奏に沸く会場を見下ろした。笑顔ではあるが少しだけ不満そうだった。

 

「まったく、骨折り損のくたびれ儲けの上に、縁の下の力持ちには誰も見向きもしない。やってられないね」

「ならせめてフィナーレには参加してこよう。……おーい! 俺たちも混ぜてくれよー」

「え、オレそういう意味で言ったんじゃ!?」

 

 ホット・ロッドは、戸惑うくろめを肩に乗せたまま塚の下へと駆け下りていった。

 ネプギアやビーシャはくろめを輪に引き入れ、ホット・ロッドはバンブルビーと肩を叩き合う。

 

「くろめ、ショーを守ってくれたんだね、ありがとう!」

「いやまあ……成り行きさ」

「それでもだよ! ありがとう!! みんなもありがとー!!」

 

 はにかむくろめに満面の笑顔でお礼を言ったビーシャは、バンブルビーに担いでもらって人々に手を振る。

 その姿を、ネプギアは嬉しさとほんの一つまみの寂しさの籠った笑顔で見ていた。

 

「いいのかい、ぎあっち……」

「いいんです。ビーの傍にビーシャさんがいてくれて、良かった……」

 

 気遣わしげなくろめに、ネプギアは本心から頷いた。

 その表情を敢えて表現するならば、巣立っていく小鳥を見守る母鳥の顔、だろうか。

 くろめには、彼女の情報員に対する感情が、自分がホット・ロッドに向けるような『恋慕』ではなく肉親への『親愛』であると理解できた。だから、それ以上は何も言わなかった。

 

 ヤレヤレと息を吐きながら、バリケードはしかし穏やかな表情で腰を下ろした。

 視線の先では、オートボットもディセプティコンも女神もゴールドサァドも人間も、音楽の中で笑い合っている。

 

「ああやはり……こういうのも悪くない。アンタもそう思うだろう?」

 

 無論だ。

 バリケードは自分が何気なく放った問いに、モードレッド像がそう答えた気がした。

 

 




ユーリズマ編、やっと終了です。なんか長くなったでよ……。
それはそうとトランスフォーマー・クラシックスvoil.4を読みました。
ヤケクソとは言え勇気を示したチンピラに敬意を表すメガトロンがとても印象的でした。ここらへんのイメージが、後に実写第一作のノベルスにおける、あのセリフに繋がるワケですね。
あと、他の連中が光波さんに傅くなか、音波さんのさすがの忠臣っぷりとか。

今回の小ネタ紹介。

バンブルビー・G(ゴールド)フォーム
ビーシャとの信頼によって、ゴールドコアのさらなる力を引き出したバンブルビーの新たなる形態。
姿はいつものバンブルビーだが、目と胸のコアが黄金に輝いている。
全ての能力がアップしている上に加速出来る時間が伸びている。またスティンガーソードがこの姿でも使えるようになった。また、この時は流暢に喋ることが出来る。

略して、バンブルビーGF。


タリスマン
自分の意思を持ち、ホット・ロッドを間近から観察している。とりあえず自分の持ち主として認めた模様。
その正体はエクスカリバー=スターセイバー。

次回はフェミニア編(ケーシャ編)になる予定。
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