新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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第48話 ファントム・ペイン

 警報が響いている。

 何処とも付かぬ暗い通路で赤い学生服に黒い髪の女性、ケーシャが立ち尽くしていた。

 その服も髪も血に濡れていて、手に持つ銃は通路の先に向けられていた。

 顔からは表情が抜け落ちているのに、光のない瞳だけが揺れている。

 

『ケーシャ! ケーシャ、何処にいるの! すぐに脱出して! 傭兵組織の奴ら要塞を自爆させる気だわ!』

 

 通信機器から、ノワールの声が聞こえてくる。

 だがケーシャはそれに答えず、凍り付いたように固まっていた。

 

 その視線の先では、一人の女性がケーシャと鏡映しのように銃を向けてきていた。

 

 野戦服を着て右目に眼帯をした金髪の女性だが、体には何発分もの銃創があり血が流れ出ていた。特に右腕には何発も撃ち込まれた痕があり、骨まで砕けているのは明らかだった。

 明らかに致命傷を受けているのに倒れることなく左手でケーシャが持つのと同じ型の銃を握り、女性は超然とした笑みを浮かべる。

 

「忘れるな、ケーシャ……我々は戦いから逃げることは出来ない。どう足掻こうともな」

 

 その瞬間、何処からか爆発音が聞こえてきた……。

 

  *  *  *

 

 フェミニア。

 そこはブリテンでも特に妖精が多い土地と知られる。

 連なる山岳と深い森には、強い生命力と人知の及ばぬ魔法が息づいていた。

 

 そんなこの地の空を、魚のようにも見える一機の宇宙船が飛んでいた。オートボットの使う降下艇だ。

 

 降下艇は木々の中から島のように突き出た丘の上に聳え立つ、古い城塞へと向かっていく。

 城塞はあちこち朽ちかけて苔とシダに覆われており、もう長いこと人が住んでいないようだった。

 

 その城の前庭に着陸した降下艇から、ホット・ロッドとハウンド、くろめとケーシャ、ミリオンアーサーとチーカマの6人が降りてきた。

 

 ホット・ロッドとくろめは、祭りの後片付けを手伝うというバンブルビーらをユーリズマに残し、ハウンドたちに合流した。

 するとこの地方を担当していたハウンドとケーシャ、そしてミリアサとチーカマは、この人里も疎らな地で地道に情報を集め、ついにここだという場所を突き止めたという。

 

「それがここだ。この何処かに遺物が隠されているはず。しかし気を付けろ、この辺りには妖精が多いからな」

「妖精ってチーカマの仲間だろ? 心配はいらないんじゃないか?」

「いいえ。妖精は本来、とても危険な存在よ」

 

 ミリオンアーサーとくろめ、そしてチーカマはそんな会話をしていた。本来ブリテンにおける妖精とは人との間に意思疎通が行えず、こうした人里離れた自然豊かな場所に住まっている物だ。

 サポート妖精たちは、あくまでマーリンの魔法で人と話せるようになったのだ。

 一方でケーシャは酷く胡乱げに中庭に生い茂る草木を眺めていた。

 

「不思議な空気です。何というかこの世ならざるかのような……」

「そうね……この森には妖精の女王モルガナが住んでいるから」

 

 隣のチーカマはそう答える。

 モルガナとは、このブリテンの妖精の中でも最も強い力を持ち、最も賢く、最も美しいと言われる妖精の女王……あるいは魔女だ。

 彼女こそが、ウェイブリーの日誌にあったソラスハンマーを託された魔女だろう。

 オートボットたちも、センサーで捉えるのとは違う摩訶不思議な力が大気に満ちているのを感じていて、ハウンドは落ち着かない様子で顎髭を撫でた。

 

「なあ小僧、そのモルガナってのも地球の伝説に出てくるのか?」

「ああ。アーサー王の邪魔をして様々な悪事を働く魔女……こっちでは違うみたいだな」

「うむ。モルガナは初代アーサー王のブリテン統一に協力したと言われている。アーサー王が戻ってきた暁には、彼女の号令のもと妖精は王に従うと言い伝えられているな」

 

 ミリオンアーサーの答えに、ホット・ロッドは不自然な物を感じていた。

 モードレッドもそうだが、地球の伝説では悪役側だった者たちは、こちらで王の心強い味方として伝わっている。

 この差はいったい、なんだと言うのか。

 

「いずれにせよ遺物を借りるんだから、一度挨拶したいな」

「残念ながら女王は人間に姿を見せることはないわ。それどころか妖精さえも彼女と会った者はほとんどいないの。……まあ多分大丈夫でしょう、人間には基本的に不干渉だし」

 

 やはり筋を通しておきたいホット・ロッドに、チーカマは楽観的に答えた。

 どうも彼女とこの森の住人たちの間には距離があるようで、何処か他人ごとのような言い方だった。

 

「さてお嬢さんたち! そろそろ仕事をおっぱじめるとしよう!」

 

 ハウンドの号令に、一同は城の中へと向かっていく。

 城はオートボットたちでも入れるほどに入口が大きく通路も広い。あちこち崩れていて装飾品の類は色褪せているが、それでも往年の栄華を忍ばせた。

 

 手分けして探すことになり、ケーシャは一人城の数多くあるホールの一つに入った。

 崩れかけの壁には馬に跨り戦場を駆けるアーサー王の絵が飾られていた。

 

「…………」

 

 ケーシャは正直、こういう絵は好きではなかった。

 価値観の違いは理解しているが、どうにも戦いを美化するのは苦手だ。

 その時、何処から鐘の音が聞こえてきた。この場所は無人のはずなのにだ。

 怪訝に思って辺りを見回そうとして、不意に人の気配に気が付いた。

 

「!」

 

 振り向くと、いつの間にか窓から見える空が黒雲に覆われていて、部屋の中が暗くなっていた。

 その暗がりの中に誰かが、あるいは何かがいる。

 

「くろめさん? ミリアサさんかチーカマさんですか?」

 

 闇の中の何かは答えない。

 両手に銃を召喚し、その何者かに向ける。

 

「誰です! 答えなさい!!」

「私を忘れたのか? ケーシャ」

 

 静かな声がした。

 そしてそれは、ケーシャにとって忘れえぬ声だった。

 

「あなたは……そんな、そんな馬鹿な!」

「何が馬鹿だというのだ、ケーシャ? 我が弟子よ」

 

 雷鳴が轟き、稲光の中に相手の姿が浮かび上がった。

 それは野戦服に金髪、そして眼帯の女性……かつてケーシャが所属していた傭兵組織の首領にして、ケーシャの師匠でもある女傭兵だった。

 

「あなたは、あなたは死んだはず!!」

「いやケーシャ、私はこうして生きている。目に見えることが全てだ」

 

 後ずさるケーシャに、女傭兵はゆっくりと近づいてくる。

 

「敵にはきっちり止めを刺し、死体の確認は怠らないこと。そう最初に教えたはずだぞ」

 

 ケーシャは自分の両親を知らない。生まれ故郷も知らない。

 物心付いた頃から優れた兵士が集まる傭兵組織に属し、そこで育った。

 そして彼女に生きる技術を叩き込んだのが、目の前の女性だった。この女性は傭兵の中でも中心人物であり、一種のカリスマとして崇拝されていた。

 

 銃の撃ち方、ナイフの扱い方、素手での戦い方、敵地への潜入の仕方、山野のでの食料の調達の仕方、拷問の耐え方、全てこの女性が教えてくれた。

 

「そう、私はお前に武器を与え、技術を教え、知恵を授けた。私の全てをお前に伝えたのだ」

 

 幸か不幸かケーシャには比類ない兵士としての才能があった。特に潜入の才は師匠すら目を見張る物だった。

 いつしかケーシャは師の後継者とまで言われるほどになっていた。

 

「だがお前は裏切った。組織を、仲間を、そしてこの私を」

「そ、それは……」

 

 女傭兵の糾弾してくる通り、ケーシャは傭兵組織を裏切った。

 きっかけは潜入任務で普通の女学生に扮したことだった。

 そこで体験した銃弾や敵襲に怯えることも、銃やナイフが必要ともされない『普通の生活』に魅了されてしまったのだ。

 そして女神ノワールと出会ったことで、傭兵組織に疑問を持つようになった。

 

「私は! 私は傭兵としての生き方を強制されるのは嫌だった!!」

「強制? 私は子供たちに生きる術を教えただけだ。狼が子に狩りを教えるように。それに嫌だと言うが、お前は銃を捨てることが出来ていないではないか」

「ッ!」

 

 ハッとなってケーシャは自分が握る銃を捨てようとする。

 しかし、どういうワケか銃は指から離れない。

 

「一度戦闘のスリルを味わった者は、もうそこから逃れることは出来ない。一生涯、魂が戦場に縛られ続ける」

「ち、違う! 私は……!」

「お前は私の最高傑作だ。多くの兵を鍛えてきたが、お前ほどの逸材にはついぞ出会えなかった……その才に免じて裏切りを赦そう。もう一度、私の下に来るがいい」

 

 混乱し、ケーシャは銃の引き金に指をかける。

 女傭兵は大きく腕を広げた。まるで抱きとめようというかのように。

 

「お前は私の部下であり、弟子であり……そして娘だ。愛しているよ、ケーシャ。さあ母の所に戻っておいで」

 

 優しい、人を安心させる声色だ。

 かつて何度となく聞いた通りの。

 駄目と分かっているのに、ケーシャの心にこの声に身を委ねたいという思いが生まれてくる。

 それでも、脳裏に黒い女神を思い浮かべてグッと堪えた。

 

「いや……そっちには行きません! ノワールさんと、約束したんです!! 消えなさい!!」

 

 そして引き金を引こうとした瞬間、割れている窓から無数の蝙蝠が飛び込んできた。

 

「ッ!」

 

 視界が遮られ、羽音とキキキ……という鳴き声で何も聞こえなくなる。

 何発か銃を撃って蝙蝠たちを追い払うと、そこにはもう女傭兵はいなかった。

 周囲を警戒するが、気配はなく窓の外も晴れていた。

 

 幻だったのだろうか?

 いや、幻に違いない。こんな所に……いや、この世にあの女傭兵がいるはずがない。

 

 彼女は、自分が殺したのだから。

 

 ケーシャの手は震え、汗がジットリと滲んでいる。

 精神の何処か奥底が、まるで幻肢痛(ファントム・ペイン)のように疼いていた。

 

  *  *  *

 

 城の中の探索もそこそこに、一同は一度前庭に集まっていた。

 結局のところ、誰も遺物は見つけられなかったらしい。

 

「そもそも城がデカい上に構造が複雑すぎる。隠し通路や隠し部屋だらけだ」

「この城はもともと一種の砦だ。物を隠すにはうってつけだからな」

「仕方ない、しらみつぶしでいこう。まずは西側から……」

 

 ホット・ロッドとミリオンアーサーがそんな会話をしている横で、ケーシャは俯いて手にした銃をジッと見ていた。

 いつも使うマシンピストルとは違う銃で、随分と使い込まれている。

 深刻な様子の彼女を、ハウンドは心配そうに見下ろした。

 

「お嬢ちゃん、どうかしたのか?」

「……いえ、別に」

 

 素っ気ない態度に、ハウンドは後頭部をボリボリとかく。

 色々あったし反発されるのは分かるが、それを抜きにしてもどうにも避けられている気がする。

 

 クロスヘアーズやドリフトなら小突けば済む話しだが、この年頃の少女にどう接すればいいか分からない。

 自分があまり女子受けしない外観なのも自覚していた。デブ、髭、オッサンの三重苦が好きという女性はそうはいないだろう。

 

 アイアンハイドの奴は、どうやってあの気難しい女神と仲良くなれたのだろうか?

 

「なあ嬢ちゃん、俺たちはチームだ。チームってのは助け合うもんだ」

「昔、同じことを別の人に言われました。その人から私が学んだ教訓は『そういうことを言う人を信用しないこと』です」

 

 あくまでも冷淡な態度で銃をしまうケーシャに、ハウンドはいよいよ深く排気すると眉間を指で揉んだ。

 何とも相性の悪そうな二人に、くろめはやれやれと首を振る。前途は多難だ。

 そこでふと、空を見上げているチーカマに目が留まった。

 

 酷く不安そうに、辺りを見回している。

 

「チーカマ?」

「おかしい。何か上手く言えないけれど……ここに来てからだんだん心がザワザワしてくるの」

「どういうことだ?」

 

 相棒の様子にミリオンアーサーは気遣わしげに肩に手を置く。

 チーカマは自分の両肩を抱いて、震えていた。

 

「分からないの。森も、空も、何かに怯えている……邪悪な、信じられないほど邪悪な何かに!」

 

 その時、ハウンドが何かに勘付いて三連ガトリングを城壁の上に向けた。

 崩れかけの壁の上に、何人もの少女たちが立って……いや、浮遊していた。

 彼女たちが何者か察し、チーカマは戦慄した。

 

「妖精……! それもモルガナの妹たち、『九姉妹』……!」

「九姉妹? ……なるほど女王様を抜いて八人か」

 

 くろめが見上げると、少女たちは確かに八人いた。

 しかし虫のような薄い羽根に緑の服の所謂()()()()()妖精は一人もいない。

 背中の羽根は魚のヒレや鳥の翼のようだったり、頭部以外が鱗に覆われている者や小悪魔のような姿の者、頭から布を被っていて幽霊のようにも見える者までいる。

 

「この森の住人か。ハウンド、銃を降ろしてくれ」

 

 ホット・ロッドは一歩前へ出ると恭しく頭を下げた。

 

「俺たちはオートボット。遠くプラネテューヌという国からやってきた。断りなく君たちの住処に入ったこと、まずはお詫びする。君たちの代表者に合わせて貰えないだろうか?」

 

 丁寧な態度のホット・ロッドだが、妖精たちは敵意の籠った目で見下ろしてきていた。その中の一人が口を開くが、そこから出てきたのは言語とも思えぬ得体の知れない声だった。

 ミリオンアーサーは警戒心を露わにする。

 

「ホット・ロッド、自然の妖精にこちらの言葉は通じんぞ」

「え? でもこの言葉って……」

「ああ……古代サイバトロン語だ」

「なんだと!?」

 

 ホット・ロッドとハウンドの思わぬ言葉に、ミリオンアーサーは目を見開く。妖精と意思疎通は出来ない。それがブリテンの常識だからだ。

 くろめは相棒に問う。

 

「それで? 彼女たちはなんて?」

「俺も古代サイバトロン語には詳しくないし、凄い早口で……ええと『この森、出てけ』『モルガナ、返せ!!』みたいなことを繰り返してるみたいだ。ん、返せ?」

 

 言い回しに引っ掛かるものを感じたが、考える暇もなく姉妹たちの一人、髪の毛が炎になっている妖精が手から火球を放ってきた。

 咄嗟にオートボットたちはくろめたちを庇う。

 

「ッ! 問答無用かよ!!」

 

 くろめが悪態を吐くと、獣の特徴を持った二体と鱗に覆われた一体が急降下して襲い掛かってきた。

 

「待て! 俺たちは戦いに来たんじゃ……グッ!」

 

見た目は小柄な少女だが、その拳はホット・ロッドを後退させるほどに強烈だった。鱗の妖精に至っては口から火まで吐いている。

さらに魚のヒレを持った妖精が槍を掲げると、何処からか大量の水が押し寄せてきた。

オートボットたちは慌ててくろめたちを体に登らせる。

 

「水の無い所でこれほどの水遁を……! こうなったら、話してる状況じゃなさそうだ! 一度、退こうぜ!!」

「賛成です。彼女たちはこちらの話を聞いてくれそうにない」

 

 ハウンドの意見に肩のケーシャも賛成しつつ、マシンピストルを撃って妖精たちを牽制する。こんな時ばかりは息の合った様子だ。

 飛んでくる馬鹿にならない威力の火炎弾からくろめを庇いながら、ホット・ロッドはすぐに決断した。

 

「分かった! 降下艇まで戻れ!!」

 

 オートボットたちは水流の中、降下艇を目指す。

 だがいきなり水が引くと突然地面が盛り上がり土砂で出来た巨大な手が現れ、降下艇をガッツリと掴む。

 これでは飛び立てるかも分からない。

 

「まずい!」

 

 そうしている間にも妖精たちがオートボットたちを取り囲む。

 このままでは、いかに金属の身体のオートボットとはいえ危険だろう。

 ミリオンアーサーはホット・ロッドの身体から飛び降りるとエクスカリバーを構えた。

 

「いた仕方がない、戦おう!!」

「…………しょうがない!!」

 

 妖精たちに攻撃するのを躊躇っていたホット・ロッドだったが、この状況では全員の身が危ないと覚悟を決め、レーザーライフルを抜く。

 それを見た妖精たちはそれぞれに最大級の攻撃を放とうとして……瞬間、酷く怯えた様子になった。

 何処から放り込まれてきたガラス瓶が地面にぶつかって割れるや、中に詰められていた粉が辺りに散らばったからだ。

 その粉が宙を舞うと妖精たちは頭を抱えて苦しみだす。

 異変が起こったのは相手方の妖精ばかりではなく、チーカマもだ。地面に降りてよろける彼女をミリオンアーサーが抱きとめる。

 

「うぅ……頭がクラクラする……」

「チーカマ! チーカマ、しっかりしろ! この臭い、妖精避けの粉か!!」

 

 この粉は妖精の知覚を狂わせるある種の金属の粉末と、妖精が嫌う薬草を焼いた灰を混ぜた物だ。

 突然の事態に困惑する一同だが、そんな彼らに声がかけられる。

 

「こちらへ!」

 

 崩れた城壁の影から女性が顔を出していた。

 白い髪を長く伸ばし分厚い丸眼鏡をかけたローブ姿の女性だ。

 新たに現れた見慣れない人物に、ホット・ロッドは驚き思わず問う。

 

「あんたは?」

「話しは後よ! 妖精避けも長くはもたない、安全な所に案内するわ!」

「ここは従った方が良さそうだね」

 

 女性の返事にくろめが同調すると、ホット・ロッドはハウンドをチラリと見た。

 ベテランの戦士は謎の女性の右腕に視線を注いでいたが、リーダーの視線に迷わず頷いた。ここでグダグダとしていては全滅も在りうる。

 

「分かった! さ、チーカマ!」

「あ、ありがとう……」

 

 ヨロヨロとするサポート妖精を抱き上げ、ホット・ロッドは軽快な動きで駆けていく女性を追って城壁の外へと走っていき、他の者もそれに続く。

 殿を務めたハウンドは、一瞬、古城の一際高い塔を鋭い目付きで見上げたが、すぐに閃光弾を投げて敵の目を晦ますと仲間の後を追うのだった。

 

 妖精たちは妖精避けと閃光のダメージから回復すると、逃げて行ったオートボットを追うことはせず、空に浮かび上がって虚ろな顔つきで散らばっていった。

 

 

 

 

 

 古城の高い塔の上で、これらの出来事をつぶさに観察している者たちがいた。

 一人は緑色のズングリムックリしたディセプティコン、オンスロート。

 攻撃参謀の異名を持つ彼は、ガルヴァトロンの命令で遺物探索に来たのだが、今は別のある目的のために動いていた。

 

「逃げたであるか……おい、あの羽虫どもに追わせろ。足の速い奴に先回りさせて、包囲網を引くのである」

「ええ~、あいつらを操るの難しいっちゅよぉ。ましてそんな複雑な命令は無理っちゅ」

 

 もう一人は、梁からぶら下がった蝙蝠のような姿のディセプティコン、マインドワイプ……いやマインドワイプの データを基に作られたトランステクターにヘッドオンしたワレチュー、さしずめマインドワレチューである。

 

 妖精たちの様子がおかしいのは、彼が催眠音波で操っているからなのだ。

 遺物の探索を邪魔することを仕事をするワレチューだが、遺物探しより自身の目的を優先するオンスロートと利害の一致から結託していた。

 

「ならば、とにかく連中を探させろ……なに、森の地形データから行先は絞り込める。そこを重点的に探させて、そして見つけたら我輩の部下も含めた全員で囲んで叩くのである」

「随分と脳筋な作戦っちゅね、もっとこうスマートにいけないっちゅか? あんた戦術家っちゅよね?」

 

 いつも通りの減らず口に、しかしオンスロートはニヤリとした。

 

「戦いに勝つには相手より数を揃えること、補給を怠らないこと、そして戦力の出し惜しみをしないことである。そういう当たり前のことを当たり前に出来る奴が勝つのである」

「そんなもんっちゅかねえ」

 

 納得いかなげなワレチューを差し置いて、オンスロートは広大な森を睥睨した。

 

「さあ逃げろ逃げろ平和ボケしたオートボットども……そして傭兵組織の娘。この緑の地獄で戦争の味を思い出すがいい」

 

 ギラギラと光るオプティックは森の何処かにいる敵たち、中でもケーシャを睨んでいた。

 

「……なんかやっぱり声が聞こえる気がするっちゅ。気のせいっちゅかね? コウモリアマモリオリタタンデわれワレチュー」

 

 マインドワレチューは少し首を振ると、催眠音波を発生させる。

 

 塔の内部には蛸のような下半身を持った奇怪な像……創造主クインテッサの巨大な立像が置かれていた。

 催眠音波はその像の内部の機構によって増幅され、鐘が鳴るような音になって森に響き渡った。

 この像は、妖精を操るために遠い昔にクインテッサが用意した装置なのだ……。

 

 

 

 

 

 ここで思い出してほしい。

 チーカマは言った。信じられないほど邪悪な何かの気配に森が怯えていると。

 オンスロートは冷酷非情だ。マインドワレチューは催眠術で妖精を操っている。

 

 だが、果たして彼らは()()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼らの所業は悪辣だが、あくまでも彼らなりの理に適った者だ。

 つまり……。

 

「ふむ。マインドワイプか……ちょうどいいな。ロディマスにそろそろ少し思い出させてやるとしよう」

「ウヒャヒャヒャ! 森に古城に亡霊に妖精! そこに吸血鬼で正にダークファンタジーの世界ッス! 厨二に受けるッス!!」

 

 つまり、別のより邪悪な何者かが事態に介入しようとしているのだ。

 




遅くなってしまい、申し訳ございません。
今回のキャラ紹介。

女傭兵
かつてケーシャが所属していた傭兵組織の首領であり、ケーシャの師。
傭兵たちの間ではカリスマ的な存在だった。しかしその内心はケーシャ含めて誰にも計り知れなかった。
某ビッグボスの恰好をした某ザ・ボスのような感じの見た目。

本名は設定していない。


魔女モルガナ
元ネタのアーサー王伝説ではモルゲン、モーガン・ル・フェイとも呼ばれる。
本編では端折ったけど、伝説においてはアーサーの異父姉でありモードレッドの母親というドロドロの関係。
様々な策略でアーサーを苦しめるが、最後にはアーサーをアヴァロンへと連れていった。
古い物語では魔女ではなくアーサーを支援する妖精だったとも言われる。

なお、拡散性ミリオンアーサーにはモーガン・ル・フェイというキャラクターがいるが、この作品では無関係。


九姉妹
上記のモルガナを含めた妖精の姉妹で、妖精の中では最強の力を持つ。
元ネタはアーサー王伝説(の中でも古い話し)においてアヴァロンを統治するという九姉妹。
モルガナ以外の八人は水、炎、土、風、竜、獣×2、闇にちなんだ力を持つ

なお、本作における外観と能力はトランスフォーマーZの九大魔将軍のパロディ。モルガナはオーバーロードの枠。
だからといって、マグマダイブさせられたり、跡形もなく消し飛ばされたり、真っ二つにされて脳ミソが見えたりはしません。
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