新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED 作:投稿参謀
ケーシャが育った傭兵組織は、行き場のない戦闘狂たちの寄り合い所帯だった。
モンスターが自然発生してくるゲイムギョウ界で、人間と殺し合うことに意義を見出しているロクデナシの集団だ。
それでもケーシャは彼らのことが嫌いではなかった。
女の子に与えるのが、お洒落な洋服や着せ替え人形ではなく、戦闘服や機関銃という連中だとしても、家族だと思っていた。
「戦いの中でしか生を実感できず、自分を表現することが出来ないが……それでも
ケーシャの師はそう常々言っていた。
「各国の対立、オートボットとディセプティコンの戦争が終わり、確かに世の中は平和になっていくだろう。我々の居場所はやがて消えゆく……だが我々は歴史の中の記録にはなりたくない。記憶の中にありたい……ケーシャ、これを渡しておく」
ケーシャの師は彼女に一丁の銃を授けた。師が愛用する物と同じデザインの銃だ。
あまり知られていない話だが、銃には右手用と左手用がある。師の物は右手用、これは左手用だった。
それを受け取った時、ケーシャは誇らしかった。彼女にとって師は、単なる教師ではなかった。
人生の目標であり、血は繋がらずと母親と想っていた。
彼女が教会に戦争を仕掛けると言い出した、その時まで。
「ケーシャ、お前には我々の全てを授けた。お前が私たちの
その言葉の意味を、ケーシャは今も計りかねている。
* * *
フェミニアを訪れるも、妖精たちに襲われたオートボットたち。
そこに現れた謎の女性に助けられてその場を逃れた彼らは、その女性の案内のもと森の中の道なき道を進んでいた。仲間に連絡を取ろうにも、妨害電波が出ているのか通信出来なかった。
周囲の木々はトランスフォーマーすら霞んでしまうほどに大きく、いったいどれだけの樹齢を重ねているのか見当もつかなかった。
ホット・ロッドは慣れた様子で獣道を行く女性の背を見ながら、隣を歩くハウンドにたずねた。
「何者だと思う?」
「さあな、だが少なくともこの森に精通してるのは確かだ。ここまで妖精に見つかってない」
「妖精にも、縄張りや生活リズムがあるわ……近づかない場所や、留守にしている時間、多分そういうのを縫って移動してるんだわ」
「どうりで……どうにもグネグネと進むと思った」
ホット・ロッドに抱えられたチーカマはまだ調子を取り戻していないようで、青い顔をしていた。それはあの妖精避けの粉のせいばかりではないだろう。さっきから何処からか鐘の音が聞こえてきて、そのたびにチーカマは頭痛に耐えるように頭を抱えた。
ミリオンアーサーは相棒を心配そうに見上げていた。
やがて一行は、大きな滝のある泉の畔に出た。
泉に流れ落ちる滝の水しぶきと木漏れ日が虹を作っていた。透明度の高い水の中で魚が泳ぎ、泉の周囲には草木が生い茂っていた。
「この辺りは古い魔法に守られていて、妖精はやってこないわ。それ以外もね」
女性の言う通り、妖精どころか獣や鳥の気配すら感じない。これほど美しい場所なのにだ。
ハウンドは信じられないという顔で顎髭を撫でた。
「魔法ねえ……」
「魔法という言葉が受け入れられないなら、魔法と見紛うほど進んだ科学だと理解してくれればいい。実際それで合っているわ……ここに来るには、この場所のことを知っているか、知っている人間と一緒でないといけないの」
そう説明すると、女性は滝の裏に回り込むと、岩肌に触れ口を開く。
「ヴァーウィップ、グラーダ、ウィーピニボン!」
呪文のような言葉と共に、岩肌がギゴガゴと音を立てて口を開ける。
髭を撫でながら、ハウンドは酷く驚いた顔をしていた。
「宇宙は一つ、皆兄妹……」
「ハウンド?」
「あの言葉の意味だ。宇宙共通の挨拶になればと最初の13人が作った言葉。ってことは、この場所は……」
思案に暮れるオートボットを他所に、女性は入口の中に入っていく。
「この中なら鐘の音も届かないわ」
彼女の言うことが正しいことを、少し持ち直したらしいチーカマが証明していた。
一同がそれに続くと、中は壁や天井が金属で固められた通路になっていた。だいぶ奥まで続いているようだ。
「ここまで付いてきましたが……あなたはいったい?」
「私は……」
警戒を解いていない様子のケーシャの言葉に、女性は振り返ると少し躊躇いがちに口を開こうとした。
「先生―!」
しかしその時、洞窟の奥から誰かが駆けてきた。
まだ幼さの残る二人の男の子だ。一人は黒髪でもう一人は水色の髪だ。
「アキラ、カイン。ただいま」
「お帰りなさい先生。上手くいきましたか……ッ!」
アキラとカインと呼ばれた少年たちは金属の巨人たちに気付き、恐怖に慄く。
そんな少年たちに、先生と呼ばれた女性は優しく微笑んだ。
「大丈夫、彼らは味方よ……多分ね」
女性……教師の話によると、彼女は元々街で孤児院に勤めていたが、その街がアーサー同士の戦いで焼かれたため、院の子供たちと共にこの森に避難してきたそうだ。
本来なら人を嫌う妖精たちだが九姉妹は『子供たちが大人になるまでなら』という条件で森への逗留を許可してくれたのだという。
だがいくらか前に城から鐘の音が聞こえるようになると、妖精たちの様子がおかしくなった。
九姉妹は正気を失う前に、この場所と扉を開くための呪文を女性教師に教えてくれた。
以来ここで生活していたが、教師は子供たちに留守を任せて城の様子を伺いにいき、そこでオートボットたちを見つけたというワケである。
その話を聞いて、ミリオンアーサーは厳しい顔をしていた。
とりあえず、今日の晩はここに泊めてもらうことになり、明日の朝に城に再アタックすることとなった。どの道、降下艇を取り戻すためには城に行かねばならない。
そして日も暮れてきて……。
「お姉さん、そっちにお皿を並べて!」
「はいはい……なんでオレがこんなこと……」
「いいじゃないですか。こういうのも楽しいですよ」
子供たちに混じって、くろめとケーシャが食事の準備をしていた。竈などは石を積んで作った簡素な物だ。
くろめは調理器具の扱いに慣れておらず四苦八苦していたが、逆にケーシャはテキパキと仕事をこなしていた。
アーミーナイフで器用に魚をさばいていく手際に、アキラと呼ばれていた黒髪の少年が舌を巻く。
「すごいや、お姉さん! 先生みたい!」
「どういたしまして……先生ってあの人のこと?」
「うん、僕らの先生。食べてもいい木の実やキノコとか、魚の釣り方とか、何でも知ってるんだ!」
アキラは、本当にあの教師のことを尊敬しているらしい。子供たちがこの森で秩序だって生きてこられたのも、あの女性がいてこそのようだ。
ケーシャから見ても、あの女性はかなりの手練れに見えた。
「先生はね、ある日僕たちの街にやってきて、孤児院で働き出したんだ! 街の大人は怪しいって言ってたけど話しは面白いし分かりやすいし、すぐにみんな先生のことが好きになったんだよ!」
「そうなのか……いい人なんだね」
邪気無く語る少年に、くろめは我知らず微笑んだ。
女神の微笑は幼いとはいえ男性を赤面させるには十分な威力を持っていた。
「じ、じゃあ僕、みんなを呼んでくるよ! お姉さんたちは火の番をお願い」
「はいはい、分かりました」
照れた様子のアキラが行ってしまうと、後は鍋を焦がさないように見ているだけになった。
しかしそうなるとくろめとケーシャは二人きりになってしまった。
正直、何を話していいか分からない。
一緒にやらかした仲ではあるが、だからこそくろめは彼女に苦手意識を抱いていた。
ややあって、話しを切り出したのはケーシャの方だった。
「くろめさん……」
「なんだい?」
「くろめさんって、ホット・ロッドさんのこと好きなんですか?」
唐突な質問に、くろめは手の中の皿を落としかけた。
「ななな、なにを言ってるんだい? す、好きとか嫌いとか、そういうアレではその……」
ケーシャは一瞬、酷く意外そうに眼をキョロキョロと泳がせるくろめを見た。
あれで誤魔化せてると思っていたのか、という顔だ。
「と、と言うか急に何を言い出すんだ!?」
「ええと……私、恋バナとかしたことなくて。ノワールさん以外に同年代のお友達もいませんし……いい機会かと思って」
確かにケーシャの主な仲間のゴールドサァドは、幼さの残るビーシャ、年上のシーシャとエスーシャという構成だ。しかもその内二人は明らかに恋愛に興味が無さげだ。
もしここに紫の女神がいたらボッチキャラで通っている黒い女神と友達だという点に驚いただろうが、生憎とくろめは女神の交友関係に詳しいワケではなかった。
「そういうのはシーシャと話したらどうだい? 年上だけど、経験豊富そうだし」
「あの人は口だけ番長ですから。実際には男の人と付き合ったこともないんじゃないかと」
「へ、へえー……」
大人の色気を振りまく女性の意外な一面を暴露されて、くろめは反応に困ってしまった。そもそも何故ここで恋バナなのか?
「それなら、それこそノワールと語り合ってみたらどうだい? 彼女なら男の一人や二人……ヒュッ!」
殺気を爆発的に膨れ上がらせ、やがて氷点下の冷気を視線に宿したケーシャに、くろめは息を飲む。
「男の一人や二人? それはありません。ノワールさんが、ノワールさんが恋だなんて……それも男と! 百歩譲って女性とならともかく男となんて、汚らわしい!!」
「え、ええとケーシャ?」
「そう! あのオカマ野郎のハッカーといい、機械仕掛けの小僧っ子といい、ノワールさんの周りには奇怪な野郎どもが多すぎるんです! 私、男の人は男の人同士、女の人は女の人同士で恋愛すればいいと思うんです!!」
「け、ケーシャぁ……」
怖い、めっちゃ怖い。
グルグルと渦巻く目で呟く姿は、病んだ雰囲気を纏っている。逃げたいけど、逃げたら追ってきそうで逃げられない。
「ああノワールさん……私の、ノワールさん。独り占め出来ないのは分かっているけれど、それでもノワールさんの心と体が男に汚されるなんて我慢ならない!! でも男の視線が集まるのも無理もないこと、だってあんなに綺麗で凛々しく、それでいて儚い……それは内面の美しさが出ているから! 責任感があって努力家で、でも壊れそうな一面があってそんなところも……」
「ロディ。助けて、ロディ……」
結局くろめは、食事の時間になるまで『ノワールがいかに素晴らしい女神であるか』というケーシャの話に付き合わされたのだった。
「はい、どうぞ。薬草茶です」
「ありがとう」
岩屋の中の部屋の一つで、チーカマはベッドの上で上体を起こし、水色髪の少年カインから受け取った茶をすすった。
爽やかな香りと渋みのある味が、気分を落ち着けてくれる。
この場所にいると、心が安らかになっていくが、同時に郷愁のような物も感じた。この森が、妖精の故郷だからだろうか?
ベッドの脇では、ミリオンアーサーが心配そうに相方の顔を伺っていた。
それが何だか可笑しく思えて、チーカマはクスクスと笑う。
「そんな顔しないで。だいぶ、よくなってきたから」
「そうか……」
ミリオンアーサーは、不意に顔を引き締めた。
「チーカマよ、私は自分を恥ている」
「え?」
「私は酷く狭量であり無知であった。ブリテンの常識にとらわれ、妖精とは意思疎通できぬと思い込んでいたのだから」
そう言って自分を戒める未来のブリテン王は、厳しい顔をしてチラリとカインを見た。
「それに私は何処かで、アーサーの戦いを甘く見ていた。しかし、この子供たちを見ているとやはり巻き込まれる無辜の者はいるのだと実感できた。一刻も早くこの戦いを終わらせなければならない。そなたにも苦労を掛けることになるが……着いてきてくれるか?」
「どうしようかしら? あなたが他の女の子に目移りするのを止めたら、考えてもいいわ……冗談よ。最後まで付き合うわ」
決意を新たにする相棒に、サポート妖精はフッと笑みを浮かべた。
そこでふと思った。
自分はミリオンアーサーが王候補になったことでサポート妖精になった。
では
サポート妖精は、マーリンによって調整され『サポート妖精』として以外の自我を封印されている。
自分は何処で、何をしていたのだろうか?
この場所に、何か酷く懐かしい物を感じる。自分はここにいたのだろうか?
ハウンドとホット・ロッドは出入り口の近くにある広間で待機していた。万が一に備えてだ。
ユーリズマのことを考えるに、ディセプティコン、そしてトリプルチェンジャーの黒幕である第三の勢力もこの地に来ているはず。
広間の金属で出来た壁には、妖精たちが草木を編んで作ったらしい大きなタペストリーがかけられていた。
タペストリーには、九人の女性……城で見たままの姿の九姉妹が、空を飛ぶ三本首のドラゴンを仰ぐ姿が描かれていた。
「さっき何か言ってたよな? 宇宙共通の挨拶だっけ?」
「ああ、ここの合言葉とそっくり同じ言葉を、昔聞いたことがある。最初の13人の一人の口からな」
そのタペストリーを眺めながらのホット・ロッドの質問に、ハウンドは武器を手入れしながらも答えた。
「確か、クインテッサ……ディセプティコンの黒幕も13人の一人だったな。となると、ここはそいつの使ってた場所か」
頭の中で整理した情報を、ホット・ロッドは口に出す。
おそらくここやディセプティコンが基地に使っている祠のような、クインテッサ由来の施設がブリテンのあちこちにあるのだろう。
「妖精がイストワールと似てるのは偶然だと思うか? 俺は彼女たちは、クインテッサが作った人工生命体なんじゃないかと思う……証拠はないけど」
そう考えれば、辻褄は合う。
古代サイバトロン語を話す妖精たち、イストワールとの類似点、地球のアーサー王伝説。偶然にしては出来過ぎている。
クインテッサがイストワールや地球の妖精を真似たのか、あるいはその逆か。
「さあな、俺はドンパチ専門で学者じゃないんでね」
「ならドンパチの話だ。妖精を操ってるのは、ディセプティコンだと思うか?」
ハウンドは三連ガトリングを磨きながら、何かを思い出すように遠い目をした。
「鐘の音ってのとは違うが、音で敵を操るってディセプティコンには心当たりがある……だがそいつは死んだ。前の大戦でな」
その脳裏には、暗い地下の光景と不気味な呪文が甦っていた。
そしてスカリトロンを巡る戦いのときに聞こえた声も。
「だが、あの錆塗れのドラゴンが攫われた時、確かに奴の呪文を聞いた」
「そいつの因子を手に入れた何者かがコピーを作ったってのは?」
「あるかもな。考えてみりゃ、ゾッとしねえ話だぜ。因子さえありゃあ死人が甦ってくるなんてのはよ」
「そうも上手くいかないみたい。騎士とオリジナルはやはり何処か違ってしまうの」
第三者の声に視線をそちらにやると、あの白髪の教師がやってきた。夕餉を終えたのだろう。
お互いに軽く頭を下げると、女性教師は話を続ける。
「それに騎士はエクスカリバーからエネルギーを供給できなければ、アッサリと消えてしまうわ……このシステムを作った人間は、相当に歪んでいる」
女性教師はハウンドを見上げた。正確にはその体に装備された武器の数々を。
「………」
「怖いかい? ま、無理もない。このナリじゃあな」
ハウンドは三連装ガトリングを始め、全身に銃器を装備した物々しい姿だ。しかし教師は首を横に振った。
「別に怖くはないわ」
「豪胆な方だ。俺たちをこの場に迎え入れてくれたこと、感謝します」
ホット・ロッドが頭を下げると、女性教師は曖昧に微笑んだ。
彼女がホット・ロッドたちを助けたのは、この状況下では少しでも多くの味方が欲しいという面もあったのだろう。
「それはそうとだ、俺たちはソラスハンマーってのを探しに来たんだが、あんた何か知らないかい? モルガナってのが持ってるそうなんだが」
ハウンドは、何故か女性教師の右腕や顔をさりげなく見ながら聞いた。すると教師は、少し困ったような顔をした。
「私も妖精の言葉が全て分かるワケではないけれど……モルガナは、もう随分と前に森を出たと」
予想していない答えではなかった。
妖精たちはモルガナを返せと言っていた。つまり、この場にはいないということだ。
「そのハンマーのことについては聞いていない。妖精、それも九姉妹なら、あるいは……」
「どのみち、やることは変わらないな。あの鐘の音を止め、妖精たちを元に戻す」
遺物の情報のため、妖精を自由にする。
妖精を自由にするため、城を目指す、というワケだ。
「子供たちのためにも、早くこの森の安全を取り戻さないと……」
女性教師は眼鏡の奥から、強い意思を感じさせた。子供たちのため、あらゆる困難に立ち向かおうという決意だ。
街を追われた彼らには、この森を追われれば行く所はないのだ。
「ここの子供たちも、戦争の落とし子なんですね」
いつの間にか、ケーシャが部屋の壁に背を預けていた。
隣にはくろめが立ち、頬を朱に染め困ったような顔をしている。
「……や、やあホット・ロッド」
「ああ、くろめ。調子はどうだい?」
「わ、悪くはないかな?」
目を合わせようとしない相方に、ホット・ロッドは首を傾げる。
ケーシャはタペストリーを見上げた。
「いつどこで誰が行うにせよ、戦争に巻き込まれるのはいつだってここの子供たちのような力のない者……」
その声には怒りとも悲しみとも、あるいは自虐とも付かない複雑な感情が込められていた。
「私は戦争が嫌いです。戦争をする人も嫌いです」
「好きな奴もそうはいないさ」
「……そうでしょうか? 私の知っている人たちは戦いでしか生きていると実感できない、自分を表現できない、といつも言っていました」
その視線は言葉にせずとも、目の前のオートボットも同類だと語っていた。
「そういう奴もいるさ……俺とかな」
否定しなかったことに驚く一同の視線が集まると、ハウンドはニヤリと笑った。
「物心ついた頃から戦い通しで、どれだけ敵を殺してきたかも分からねえ。正直なところ、平和って奴に馴染めないとも感じてる」
「ハウンド……」
「でもな、それを否定しても始まらねえ。これが俺なんだって、どんな過去でも飲み込んで生きてくしかねえんだよ」
多くの戦いを経験してきたのだろう古参のオートボットは静かに、だが断固たる意志を感じさせる声で言った。
ホット・ロッドは感じ入る者があり、くろめは罰が悪そうにしていた。過去を未だ思い出せない彼と、過去に引き摺られる彼女の、対照的な反応だった。
女性教師は、何故か顔を伏せていた。
「……私は嫌、過去なんて捨て去りたい」
それでもケーシャはハウンドから目を逸らし、酷く冷めた声を出した。
手の中にいつも使っているのとは違うマシンピストルを召喚し、弄ぶ。
過去を滔々と語るようなことこそはしないが、彼女にとってこのピストルは戦争の臭いが染み付いた己の過去の象徴なのは、周りの皆にも容易に想像できた。
「普通の女の子でいたい。友達と遊んで、将来のことに悩んで、恋に恋するような、そんな子でありたい……
口を突いて出た願望は、忌むべき過去、そして彼女自身の現状とは相入れない物だった。
普通でいるためには、彼女はすでに手を汚しすぎ、力を手に入れ過ぎた。
自分の肩を抱きながら、ケーシャは血を吐くようにして続ける。
「私にとっては、過去は呪いよ。捨てたはずなのに、忘れたはずなのに、いつまでも追いかけてくる。まるで亡霊だわ」
「…………」
口から煙を吐いたハウンドは何も言わずに遠い目をした。
彼なりに、ケーシャの言葉に同意しているからかもしれない。
誰もが押し黙るなか、それでも夜は更けていく……。
そのころ、森の中央に立つ古城。
真っ赤な月に照らされた尖塔の一室から森を睥睨しながら、オンスロートは顔をしかめていた。
オートボットの行方が分からないからだ。
土地勘のある妖精たちに探させても、足取りが掴めない。
「どういうことだ? 何故奴らがみつからない?」
「知らないっちゅよ。おっさんの指示が悪いんじゃないっちゅか?」
天井からぶら下がったマインドワレチューは呑気に体を揺らす。
彼としては遺物が両軍の手に渡らなければいいので、他人事だ。
そんな蝙蝠をオンスロートはギロリと睨む。
「貴様、ちゃんと妖精たちを動かしているのであるか?」
「動かしてるっちゅよお。催眠音波は垂れ流しっちゅー」
あっけらかんとした態度のワレチューに、オンスロートは頭痛を覚えつつも掌から地形データを投射する。
万が一にも、自分の間違いということもある。
北の山から川が流れ、森を縦断して南の湖に注いでいる。
「!? まて、何だこれは!」
「どうしたっちゅ?」
何かに気付いて驚愕するオンスロートの後ろにワレチューも降り、3Dの地図を眺める。
オンスロートは川の途中を指差した。丘の上から下に向かって水が流れている。
「ここを見ろ! この地形の高低差で滝が出来ていないのは可笑しい!」
「そうなんちゅか?」
「そうである! どういうトリックかは分からんが、これは敵の偽装工作の可能性が高い! ただちに偵察隊を送り込むのである!!」
「考え過ぎじゃないっちゅ? 単純におっさんがミスしてた方がありそうっちゅ」
「ミスならミスでいいのである! そうでなかった時が問題なのだからな!」
オンスロートの檄に、ワレチューは確かに気のせいで済ませるのは敗北フラグだと納得し、催眠音波を発生させようとする。
「分かったちゅよ、コウモリアマモリオリタタンデワレチュー……」
その時、ワレチューの後ろの暗がりに影が現れた。
人型ではあるが長い手足で這うようにしてワレチューに忍び寄るその影は、
影は、静かにワレチューの背後に近づくと、その背に毒々しい紫に輝く結晶……ダークエネルゴンで出来た針を突き刺した。
「っぢゅ!?」
「ウヒャヒャ! さあ、憎悪と怨念に満ちた魂よ……我らが神の御慈悲により、今一度お前に機会を与えてやるっす」
痙攣するワレチューを置いて、蜘蛛のような影は闇の中へと消える。
異変に気付いたオンスロートが振り向くと、すでにそこには頭を抱えて体を痙攣させるマインドワレチューが残されるのみだった。
機械の身体の内側をダークエネルゴンが駆け巡り、浸蝕してゆく。
「おい、どうした!?」
「ぢゅぅぅキ、や、止めろっちゅ! キ、キキ、オイラの頭の中で喚くなっちゅキキキ」
体をビクビクと震わせながらあらぬ方向に手足や首を曲げるワレチューに、オンスロートはただならぬ物を感じてその肩を掴もうとする。
「おい!? しっかりしろ!」
「キキキ、ヨコセ……これはオイラの身体っちゅ! イイヤ、オレノダ、キキ……や、やめ! キエロこ、コンパちゃ……」
だがワレチューは急に大人しくなると、ゆっくりと顔を上げた。そのバイザーの下の三つの目が、紫色に輝いていた。
「おい、ネズミ。いったい何が……」
「キキキ……酷いじゃないかオンスロート。仮にも仲間だったっていうのに、忘れちまったのか……」
そしてその発声回路から出てきた声は、もうワレチューの物ではなかった。
その陰湿で残忍さを感じさせる男の声に聞き覚えがあり、オンスロートは目を剝く。
「貴様は……そんなまさか! マインドワイプ!?」
何処からか数え切れないほどの蝙蝠たちが集まってきて、フワリと空中に浮かび上がった蝙蝠の如き姿のディセプティコンの周りを飛び回る。
まるで映画の吸血鬼だ。
「キキキ、そう俺だよ……久しぶりだな、古き友よぉ……」
天窓から差し込む血のような紅い月の光に照らされて、蘇ったヴァンパイア・マインドワイプは、その体に不浄な力を漲らせる。
何処からか、鐘の音が聞こえてくる……今までよりも、大きく、はっきりと。
最近どうも筆が遅くていかん……。
今回のキャラ紹介
女教師
フェミニアの隠れ家で子供たちを護って暮らす女性。
もともとは街の孤児院で働いていたが、街が戦火に焼かれたためフェミニアの森に逃げ込んだ。
サバイバル技術に長け、子供たちを上手く纏めている。
ハウンドは彼女のことが気になるようだが……。
アキラ、カイン
フェミニアで暮らす孤児たちのうちの二人。
黒い髪のアキラと、水色の長髪のカイン。仲が良く一緒にいることが多い。
両名とも元ネタはトランスフォーマーZの子供。時代が時代ゆえにやたら可愛い容姿。
ヴァンパイア・マインドワイプ
前作終盤で戦死したが、タランチュラスの細工によりワレチューの意識を乗っ取ることで復活した。
新たに蝙蝠(?)を操る力を得た他、その催眠音波は以前よりも遥かに強力になっている。
コンバイナーウォーズのゴーストスタースクリームやゾンビウォーブレークダウンよろしくヴァンパイア・マインドワイプでフルネーム。