新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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第50話 悪夢の森

 ケーシャはふと気が付くと、腰まで水に浸かった状態で川の中を歩いていた。

 自分は何でこんな所にいるのだろうか? 確か、明日の城への潜入に備えて眠ろうとしていたはず。

 

 何処からか鐘の音が聞こえる……いや、聞こえるのは鐘だけではない。

 

「ケーシャ……」

「ケーシャ……なぜ俺たちを裏切った……」

 

 恨みに満ちているのに空虚な声。

 水の中から、次々と人影が立ち上がる。

 それらは全て、かつてケーシャの仲間だった傭兵組織の人間たちだ。

 

「ッ!!」

「ケーシャァ……あんなに可愛がってやったのにぃ……」

「恩を仇で返しやがってぇ……!」

 

 だが彼らの顔には一切の生気がなく、ある者は体中に弾痕があり、ある者は首を大きく斬られ、またある者は首が折れていた。

 水をかき分け逃げようとするケーシャだが次々と現れる亡霊は手を伸ばして纏わりついてくる。

 

「ヒッ……!」

「手榴弾の使い方を教えてやったろう?」

「お前はナイフ捌きが見事だったなぁ……」

「トラップの仕掛け方は、俺が仕込んだんだぁ」

 

 恨み言とも未練とも付かぬ言葉を吐きながら、亡霊たちは迫ってくる。

 思わずケーシャは両手に持ったマシンピストルで……何故か当然のように銃は手の中にあった……亡霊たちを撃つ。

 弾丸が身体を穿つと、兵士たちは霧のように掻き消えていく。消えた傍からまた水の中から立ち上がる。

 

「だ、黙りなさい! それが貴方たちの望みでしょう! 戦いで死にたかったんでしょう! 今更、恨み言なんて……」

「ならば、俺たちはどうなるぅ?」

 

 新たな影が川の中から現れた。

 それらは兵士の姿をしていたが、傭兵組織の亡霊たちとは装備や服が違った。

 彼らはケーシャの敵だった……任務の中で殺してしまった相手たちだ。

 

「何故俺たちを殺したお前が、生きているぅ?」

「俺たちだって、生きたかった……死にたくなかったぁ!」

「俺には恋人がいたぁ! 結婚を約束したなあ!」

「妻と生まれたばかりの子供が帰りを待っていたぁ!!」

 

 傭兵たちよりもはっきりと怨念の籠った声を発しながら、ケーシャに近づいてくる。

 

「い、いや!」

 

 半ば無意識に、狙いを付け引き金を引く。

 銃口から吐き出された弾丸が額や胸に命中し、怨霊たちは恨めしい目付きのまま消えていった。

 

 肩で息をしながら、気を落ち着かせようとする。

 

(なんなのこれ!? 幻? いや幻に決まってる!)

 

 死んだ人間は蘇らない。

 蘇るとしてもそれは心の内だけだ。

 

「そう、人は生き返らない」

 

 いつの間にか、()()()人が立っていた。

 金髪に迷彩柄の戦闘服、眼帯。ケーシャの師の女傭兵だ。

 

「しかし、我々は死んではいない。理解しているはずだ、ケーシャ……」

 

 生前の姿そのままの女傭兵に、ガチガチと歯を鳴らしながら銃を向ける。

 

「いいえ! あなたは死んだ……私が殺した!!」

「その通りだ。だが私の、私たちの偉伝子(ミーム)は生きている。お前の中に」

 

 ケーシャは銃を撃った。

 弾は相手の額に命中するが、今度は女傭兵の姿は消えなかった。

 

「我ら戦争に生きることしか出来ないロクデナシのミームを継いだ……戦争の申し子なのだよ、お前は」

「ち、違う! 違う違う! 消えろ亡霊!!」

 

 首を横に大きく振りながら、マシンピストルを発射する。

 だがどれだけの弾丸を受けても女傭兵は消えない。

 水の中から傭兵たちが、兵士たちが再び立ち上がる。

 

「消えろ! 消えろ消えろ!! 消えて、お願い……!」

 

 半狂乱になりながらも銃を撃ち続けるが、兵士たちは尽きることなく現れる。

 それでもケーシャは女傭兵の言葉を認めるワケにはいかなかった。ノワールと約束したからだ。傭兵たちのような戦闘狂にはならないと。

 

 そう、自分はノワールに救われた。

 始めて友達になってくれた、素敵な人。

 彼女のためにも自分は……。

 

「私のため? それにあなたが友達ですって?」

 

 気が付けば、女傭兵も兵士も消えて、水面にノワールが立っていた。

 

「そんなの無理に決まってるでしょ?」

「あ、あ、あ……」

 

 ノワールは嘲るような笑みを浮かべていた。

 自分の手を、体を見下ろせば、血で真っ赤に染まっていた。

 川に流れるのは水ではなく、血だった。ケーシャの殺した相手の血が川となって流れているのだ。

 

「だってあなた、人殺しだもの」

「い、いやああああああッッ!!」

 

 鐘の音が、辺りに響いていた。

 

 

「お前は恐れている」

 

 自分の生まれ育ったウェイブリーの屋敷のエントランスホールに立つミリオンアーサーの前には、もう一人のミリオンアーサーが立っていた。

 しかし勇ましい恰好の……つまりいつもの彼女に対し、もう一人の彼女は華美なドレスを着て化粧をした姿をしていた。

 二人のミリオンアーサーを、父ウェイブリーの髑髏が描かれた肖像画が見下ろしていた。

 

「違う、私は恐れてなど……」

「嘘を吐くな。剣を持ち勇ましく振る舞おうと、本当のお前は弱弱しい女の子に過ぎない。それを認めるのが怖いのだろう?」

「そんなこと……」

 

 エクスカリバーの柄に手をかけようとして、しかし剣がないことに気が付いた。

 ドレスのアーサーは、扇子で優雅に口元を隠しクスクスと笑う。

 

「剣がないのなら、円卓模型も湖もいらぬな。騎士も鎧も必要あるまい」

「なにを……!?」

 

 ミリオンアーサーの左腕の円卓模型、頭の王冠の形をした『湖』、さらに騎士を納めたカードデッキ、鎧や具足、赤い装束までもが消えていく。

 残されたのは、簡素な黒い服を着たミリオンアーサーだった。いや、彼女はもうミリオンアーサーではなかった。

 エクスカリバーも持たず騎士もいない、ただの女の子のヴィヴィアンだ。

 

「こ、こんな……」

「お前にはがっかりだ、ヴィヴィアン」

「はあッ……はじめから期待などしていませんでしたわ」

「所詮は、女よな」

 

 何処からか、エイスリング卿やニムイー、ワイゲンド卿らの失望と諦観の声が聞こえてきた。

 混乱するヴィヴィアンを、見て淑女のアーサーはクスクスと女性的に嗤う。

 その傍にはいつの間にかチーカマが立っていた。

 

「エクスカリバーを持たぬお前など、単なる小娘。ならばもちろん、サポート妖精が一緒にいる道理もないな」

「さようならアーサー……ああ、もうアーサーじゃなかったっけ」

「ま、待て! 待って、チーカマ!」

 

 冷たい目をしたチーカマに手を伸ばそうとするヴィヴィアンだが、妖精の姿は余りにアッサリと消えてしまった。

 空を切った手が震え、ヴィヴィアンの瞳が恐怖と絶望に揺れる。

 

「だが何より恐れているのは、母上が亡くなる直前に教えてくれた真実、であろう? お前の身体に流れる血、そのルーツは……」

「言うな!!」

 

 立ち上がったヴィヴィアンはドレス姿の自分に掴みかかろうとするが、もう一人のヴィヴィアンの姿はなく、代わりに大きな姿見が置かれていた。

 

「見るがいい、これがお前の真の姿だ」

 

 鏡に映し出されたのは右半身がドレス姿、左半身が異形の怪物となった自身の姿だった。

 背中から飛び出した蝙蝠の翼、頭から飛び出した牛の角、水掻きのある手、鱗に覆われた肌、昆虫のような複眼の目……身の毛もよだつ、恐ろしい異形。

 

 ヴィヴィアンは、ついに悲鳴を上げた。

 

 それと同じくらい大きく、鐘が鳴っていた。

 

  *  * *

 

「コウモリアマモリオリタタンデワイプ、コウモリアマモリオリタタンデワイプ……」

 

 フェミニアの森に鐘の音が鳴り響くなか、赤い月をバックに蝙蝠のようなシルエットが浮かぶ。

 超常の力で蘇ったマインドワイプだ。

 

「キキキ、眠れ眠れ……」

 

 陰湿に嗤うマインドワイプの眼下では、オンスロートに指揮された九姉妹を始めとした妖精と、インフェルノコンらディセプティコン、さらに秘密結社の戦力である機械モンスター、スパークダッシュの混成軍が、滝裏の洞窟に迫っていた。

 

「感じるぞ。苦痛(ペイン)恐怖(フィアー)悲哀(ソロー)憤怒(フューリー)、その果てに終焉(ジ・エンド)を迎えるがいい……キキキ!」

 

 彼の放つ催眠音波は古城のクインテッサ像と、蝙蝠たちによって増幅され劇的な効果を表す。

 聞く者を深い眠りへと誘い、その心の奥底に抱えた恐怖や不安、悲しみ……あるいはそれらに満ちた過去そのものを、悪夢として見せるのだ。

 

  *  *  *

 

 暗黒星くろめは、暗闇の中にいた。

 一条の光もなく、自分の鼓動さえ聞こえない、絶対の暗黒。

 どれぐらい、ここにいるのだろうか? 一年、十年、百年、それともほんの数時間? ……時間の感覚など当に麻痺している。

 

(寒い、寒いよ……誰か)

 

 声を上げようとしても、それも出来ない。

 これは彼女自身が望んだことのはずだった。こうなることは覚悟していたはずだった。

 それでも、無明の闇と孤独はいつしか彼女の心を毒していく。

 精神が、魂が、生きながらにして死んでいく。

 

(助けてよ、誰か……)

 

 彼女の祈りは、誰にも届かない……。

 

 いや、その祈りを聞き届けた者がいた。

 この闇の彼方にも神はいたのだ。

 

 例えそれが、世界の破壊を望む神だったとしても。

 

  *  *  *

 

「おい、どうしたんだロディマス?」

「……え?」

 

 隠れ家の穴倉で地べたに腰掛けていたロディマスは、自分を呼ぶ声に反応した。

 顔を上げると、大柄な青い色のディセプティコンが立っていた。

 逆三角形の上半身に太い手足が見るからに力強く、背中には大きな翼がある。ロディマスの倍近い巨体で、髭を生やした顔は荒々しく見えるが目にはむしろ人懐っこい色があった。

 

「あ、えーと……」

「おいおい、大丈夫かよロディマス?」

「ああ、うん……大丈夫だよ、スカージ兄さん」

 

 奇妙な違和感を覚えつつ立ち上がって微笑むと、ロディマスのすぐ上の兄であるスカージは心配そうな顔をした。

 スカージの隣には、紫の身体を持った二本角のディセプティコンが呆れたような色を顔に浮かべていた。

 こちらはマシッブなスカージに比べるとスマートな体系でやや背も低い……それでもロディマスよりも背が高い……が、顔立ちは精悍で目つきは鋭い。

 余計な装飾はまったくないが、両肩から生えた尾翼が戦闘機に変形することを示していた。

 

「まったく……しっかりしてくれ。お前は最終作戦の要なんだぞ?」

「ごめん、サイク兄さん」

 

 上から二番目の兄、サイクロナスの厳しい言葉に思わず頭を下げる。この兄は規律に厳しい。

 しかしサイクロナスはむしろ微妙な顔をした。弟のしおらしさが信じられないという顔だ。

 

「本当にどうしたんだ、ロディマス? いつもなら減らず口の一つも叩く所だろう?」

「こいつも緊張しているのさ、サイクロナス」

「兄上……」

 

 訝し気な次兄の肩に、長兄ガルヴァトロンが手を置いた。

 ガルヴァトロン、運命の子。自分たちタリの四兄弟の中でも最も強く偉大な男。

 オプティマスの行方が知れず、父メガトロン亡き今、彼こそが全トランスフォーマーのリーダーであり、ゲイムギョウ界の生命の守護者だった。例え、残されたトランスフォーマーが両手の指より少ないとしても、その生命が僅かな後に滅び去る運命だとしてもだ。

 

「兄さん、本当に上手くいくと思うかい?」

「もちろんだ、ロディマス。ホイルジャックとショックウェーブが残した理論は完璧だ」

 

 不安そうな顔の末弟を力付けるように、ガルヴァトロンは笑んだ。

 そして振り向くと、そこに聳え立つ装置を見上げた。

 

 巨大な柱のような装置で、スペースブリッジのようにも見える。その周りでは何人かのトランスフォーマーと人間が休むことなく作業をしていた。

 これこそが、サイバトロンの二大天才とその弟子が残した最大の発明、過去に跳ぶための『タイム・ブリッジ』である。

 

「ホイルジャックにショックウェーブか……懐かしいなぁ。言ってることがちっとも分からなかったよなあ」

「天才だったからな……もちろん、ネプギアもだが」

 

 スカージとサイクロナスは、それぞれに遠い目をする。

 サイバトロンが誇る天才たちは、もう何年も前に命を奪われた……あの『敵』によって。

 特にネプギアの、善意と優しさに付け込まれた末の、あの恐ろしい死に様は今でも悪魔に見る……何をどうしたら、無力な赤ん坊を核弾頭にするなどという発想が出来るのだ?

 その死を無駄にしないためにも、この作戦を失敗させるワケにはいかなかった。

 

「大丈夫だ、きっと成功するさ。もう少し時間があれば……」

 

 ガルヴァトロンがそう言った時、何処かから声が聞こえてきた。機械的に拡声されており、男のようにも女のようにも聞こえる。

 

『……我々の長年に渡る不幸、多くの悲劇は全て奴らのせいだ! 奴らが歴史の裏で糸を引き、戦争を巻き起こし、災害を誘発させていたのだ!! 世界的な不況、相次ぐ伝染病、そして環境破壊!! それらは我々ではなく奴らに責任があった!! 今こそあの化け物どもに報いを与える時だ!!』

 

 しかし聞こえてきた音声は、聞くに堪えない物だった。

 事実無根の逆恨みと責任転換に満ち、それでいて愉悦と嗜虐、嫉妬が漏れた響きだ。

 同時に、爆発音がして衝撃も伝わってくる。

 サイクロナスが天井を見上げて不愉快そうに言った。

 

「嗅ぎ付けられたか!」

『我々が苦悶にのたうつ間、奴らはずっと優雅に暮らしてきた!! こんなことが許されるはずがない! 奴らにも同じだけの、いやそれ以上の苦痛と、死を与えなければならない!!』

「勝手なこと言ってくれるぜ」

 

 スカージが嫌悪に顔を歪めて翼を揺らす。

 サイクロナスも、瞳の中に強い怒りを燃やす。

 だが弟たち以上に、ガルヴァトロンは憎悪を滾らせていた。身内に駆け巡る憤怒が、小さな稲妻となって漏れ出している。

 若くしてリーダーの重責を背負う彼は天井を見上げ、敵を扇動する声の主の名を呼ぶ。

 

「天王星うずめ……!」

『殺せ! 殺せ! 皆殺しだ!! 我々の歴史に積み重なった死と、同じ数だけ殺すのだ!!』

 

 サウンドウェーブ、アイエフ、アリス……皆がその身と引き換えにして掴んだのは、この名前だけだ。

 

「……行くぞ。作戦の前にゴミ掃除だ。ロディマス、ポータルを開け!」

「ああ、分かった」

 

 ロディマスもまた兄たちと同じくらい敵を憎んでいた。

 父を、母を、親しい者たちを奪われて、どうして憎まずにいられようか?

 

 手を翳すと空間に穴が開き、外へと繋がる。

 これがロディマスの生まれ持った特殊能力であり、タイム・ブリッジを動かすために必要とされている力だった。

 

 四兄弟がそのポータルを潜り抜けて高台に出ると、そこには無数のクレーターが穿たれた焼け野原が広がっていた。

 地球人による核兵器の飽和攻撃と、その後に撒かれたウイルス、細菌、毒ガスによって生命の存在できぬ地となり果てた、プラネテューヌの廃墟だ。

 

 そしてそこには、雲霞の如く『敵』が押し寄せてきていた。

 

 戦車や装甲車をトランスフォーマーの残骸で飾り、衣服は人骨で装飾した奴らは、血走った目で銃を手に作戦も何もなく突っ込んでくる。

 

『殺せ! 殺せ! 殺せ! 子供の愚図なのも、女房が逃げたのも、ギャンブルで負けたのも、全て奴らのせいだ!! 奴らを全て殺したその先に、楽園が待っているぞ!!』

 

 モンスターなどとは比べ物にならぬ、悍ましい怪物の群れ……()()()どもの大軍だ!!

 

「屑どもめ……スカージ、俺は空中の敵を片付ける。お前は地上の敵に爆撃を浴びせてやれ!」

「応よ、兄ちゃん!!」

 

 サイクロナスとスカージが宙返りの要領で、変形する。

 それぞれ、サイクロナスは地球のロシアという国の前進翼とカナードを備えたSu-47、あるいはベールクトと呼ばれる戦闘機。

 スカージは非常に大きい全翼機で、B-2スピリットというアメリカのステルス爆撃機だ。

 共に地球の兵器だが、彼らは敵の武器で敵を葬ることに拘っていた。

 

「スウィープス、攻撃だ!!」

 

 何処からか、スカージとまったく同じB-2の群れが現れた。待機していた彼の分身、スウィープスだ。

 サイクロナスが戦闘機を蹴散らすと、スカージと分身たちが爆弾を落として敵を掃討する。

 しかし体が燃え、手足を失ってなお、地球人たちの殺意は衰えない。息絶えた同胞を踏みつけて、こちらに向かってくる。

 

「俺たちも行くぞ、ロディマス」

「ああ……奴らに、報いを!!」

 

 ロディマスは父の形見である大剣ブルードソードを背中から抜くと、再びポータルを開く。今度は敵陣のど真ん中にだ。

 

 兄弟は雄叫びを上げて、憎い敵を蹴散らすべくポータルに飛び込んだ。

 

  *  *  *

 

 滝裏の隠れ家は銃声の一つもなく制圧された。

 そこにいた者たちが、深い眠りに落ち悪夢に苦しめられていたからだ。

 妖精たちが洞窟内から子供たちを運び出す。ケーシャ、ミリオンアーサー、チーカマ、くろめ……そして子供たちと女教師。さらにホット・ロッドとハウンドも洞窟の奥から引っ張り出された。

 殺してもいいが一人始末する間に他が起きたら面倒なので、まずは全員を拘束する

 うなされ、涙を流す子供たちの姿に、マインドワイプは興奮しているようだった。

 

「キキキ……いい、実にいい。奴らの苦しみが心地良いぞ」

 

 彼にしか分からない感覚に体を震わせる蝙蝠ロボットに、オンスロートは軽蔑の籠った視線を向けつつ、さて困ったと首を捻る。

 

 オンスロートの目的……あの忌々しいガルヴァトロンに命じられた遺物探しではない方の目的は、ワレチューの裏の組織に接触することだった。

 このままガルヴァトロンの下に居続ける気など毛頭ない彼にしてみれば、身を寄せる先としては悪くなく思えた。

 しかし、あのネズミの意識が消失した今、それも難しい。かくなる上は、遺物探しの方に注力してガルヴァトロンの機嫌を取っておいた方がよかろう。

 

 そう結論づけて、目の前の蝙蝠野郎をどうするか考える。

 

「おい、マインドワイプ。貴様の今回の働きは見事であった。良ければ我輩がガルヴァトロンの若造に口を利いてやる」

「キキキ……だから、そいつを裏切る時に手を貸せと?」

「話が早くて助かるのである」

 

 攻撃参謀と催眠兵はお互いにニヤリとする。だがオンスロートの思惑通りに運んだのはここまでだった。

 

「キキキ……い、や、だ、ね!」

「ほう?」

「生き返ってからこっち、誰かが俺に囁くのさ……生きとし生きる全てを憎めとな!」

 

 狂気染みた理由はともかく、従わないこと自体は予想していた。

 もう敵は全て拘束した。ここで妖精たちを解放されると厄介だが……。

 オンスロートが目配せすると、二体のディセプティコンがマインドワイプの後ろに回る。

 ガッシリとした体つきで肩にブラスター砲を乗せたこの二体は、パワーパンチとダイレクトヒットといい脱走者の中では『兵士としてまともな』部類に入る。

 だがマインドワイプは三つの目に嘲笑を浮かべた。

 

「キキキ……オンスロートよう、まさかお前、自分たちが催眠音波の影響がないって思ってないか?」

「ふん。すでに聴覚回路は切った……なに!?」

 

 聞こえないはずの聴覚に、鐘の音が聞こえてきた。

 異様な事態に、オンスロートは自分の身体にスキャンをかける。すると背中にマインドワイプの使役する蝙蝠……蝙蝠型のドローンが張り付き牙を立てていた。麻酔でも打ち込んでいるのか痛みはまったくなく、気付かなかった。

 

「い、いつの間に……!?」

「キキキ……おやすみ、オンスロート。良い夢を」

「お、おのれ……」

 

 何とか意識を保とうとする攻撃参謀だが、何をする間もなく意識を奪われた。

 しかし倒れ込みはせず、その場で棒立ちになって虚ろな表情で体を揺らす。他のディセプティコンたちも同様だ。

 

 彼らは蝙蝠ドローンと催眠音波によって、完全に操られていた。

 

「キキキ、さあそいつらを城に連れていくぞ! キキキ、キキキキ!」

 

 哄笑するマインドワイプの声に従い、オンスロートと部下たちが変形する。

 パワーパンチとダイレクトヒットがルーフの上にブラスター砲を乗せた武装ピックアップトラック、所謂テクニカルに変形すると、その荷台に妖精たちが女神と人間を乗せ、インフェルノコンやスパークダッシュがオートボットたちを担ぎ上げる。

 

「貴様らの苦しみ、悲しみ、恐怖! たっぷり楽しませてもらうぞ、キキキ!」

 

 マインドワイプにとって、他者の負の感情は単に愉しいというだけではなく、体内のダークエネルゴンに力を与える物だった。

 鐘の音と蝙蝠の鳴き声が響く中、一団は城へ向けて走り出した……。

 

  *  *  *

 

 ハウンドは惑星サイバトロンの荒野にいた。

 何処までも何処までも続く焼け野原に一人佇む……いや一人ではない。

 周囲には、戦いで散っていったオートボットたち、倒してきたディセプティコンたちが恨めし気に睨んでいた。

 

「…………なるほどな、こいつは悪夢ってワケか」

 

 実包を吹かすと、煙は憎悪に満ちた顔に代わった。

 かつての戦友にハウンドは笑いかけた。

 

「よう、久しぶりだな。元気してたか?」

「ハウンド、ハウンドォ……お前もこっちに来いぃ」

「ああ、言われなくても行くさ。そう慌てるなよ」

 

 続いて倒した敵たちが怨念に満ちた声を上げる。

 

「よくも俺たちを殺したなぁ!」

「戦争だったから……なんて言い訳はしねえよ。待ってな、地獄でたっぷり付き合ってやるからよ」

 

 煙と霧が渦を巻き、もう一人のハウンドの姿になる。

 それは錆び付き、傷つき、孤独で老いさらばえた姿をしていた。

 

「お前は恐れている。自分の居場所は平和な世界にないと思っている。忘れ去られるのは嫌だろう? 銃を捨てられず、戦争に興奮を感じるんだろう?」

「ああ、そうだな。でもよ……それもアリなんじゃねえかと思うんだ」

 

 ハウンドにとってこの悪夢は『いつものこと』だ。

 戦争の興奮とそれから逃れられない自分への嫌悪も、平和な世界で忘れ去られる不安も、もう随分と長い付き合いだ。

 だから、それらが目の前に現れてもハウンドは混乱することはなかった。

 

 彼にとって、それはもう隣人であり兄弟だった。

 

「……なあ、憶えてるか? アイアンハイドと話した時のこと……そりゃ憶えてるよなお前は俺なんだから」

 

 ハウンドの親友である、オートボットの古参兵アイアンハイド。

 彼はオートボットの中でも特にディセプティコンに対し容赦がないことで知られていた。そんな彼が何故、終戦を受け入れ平和を享受することが出来るのか……。

 

「別にだな、ディセプティコンを許したつもりはねえよ。俺らは兵士だ、(オプティマス)がそういうんだから、黙って従うさ」

 

 そう、アイアンハイドは言っていた。

 

「ただな……メガトロンの野郎でも餓鬼を可愛がってるのを見ると……気持ちが分かっちまうんだよ。同じ親だからな」

 

 例え血は繋がらずともノワールを娘と思っているが故の言葉だった。

 

「子供のためなら、怒りだの何だのも飲み込んで生きてこうって気分になる。子供の前でくらい、恰好を付けたいからよ」

 

 照れくさそうに言うアイアンハイドの顔は、多分『父親』と言う奴の顔だったのだろう……。

 

「その話を聞いた時な、柄にもなく思ったんだ。……尊いってな」

 

 ハウンドは、もう一人の自分を睨みつけた。

 

「平和な世界も、忘れられるのも怖いさ。俺は銃を捨てられない臆病者で、異常者なのかもしれねえ……でもな、その恐怖を理由にあいつらの幸せをどうこうって気にゃ、どうしたってならねえ。どうせ撃つなら、あの平和を壊す奴を撃つってだけだ……これが俺だ。今更分かり切ったことで、グダグダ悩んでじゃねえやい!」

 

 周囲に現れる敵味方の亡霊……自分自身の恐怖や不安に向けて、ハウンドは啖呵を切る。

 その瞬間、空から光が差し込んだ。

 

 もう一人のハウンドの姿は、いつの間にかノワールの姿になっていた。

 それは彼の記憶の中の、ブリテンに出発する直前に会話を交わした彼女だった。

 

「ケーシャ……あの子、不安定で危なっかしいのよね……」

 

 始めて出来た友達のことを、黒い女神は心配していた。

 彼女の口から、ケーシャの過去について聞かされた。

 傭兵として生きてきたこと。

 テロ組織に貸し出されて力を得たこと。

 潜入任務で体験した普通の暮らしに憧れていること。

 そして傭兵組織を裏切ったこと……。

 

「口では色々言ってるけど、本当は傭兵組織の連中のこと……特にリーダーだった女性のことを、母親のように思っていたんだと思う」

 

 母殺し、仲間殺しが如何なる物なのか、幸いにしてハウンドは知らない。しかしそれをするに至った決意は、相応に重いのだろう。

 

「あの子のこと、お願いね……」

「ああ、まかしとけ」

 

 

 

 

「ッ!」

 

 ハウンドが目を開けると、そこは石壁に囲まれた地下空間だった。壁は棚のようになっており、棺が並べられていた。どうやら地下墓地のようだ。

 何処からか鐘の音が聞こえるが、それはもうハウンドの心身に影響を及ぼさなかった。

 

「目を覚ましたら墓の中たあ、気が利いてるね」

 

 立ち上がったハウンドは、自分の武装が外されていることに気が付いた。当然の処置だろう。

 どうしたもんかと考えていると、呻き声に気が付いた。

 部屋の隅に、ホット・ロッドが寝転がされていた。眠っているようだが尋常でない苦悶の表情を浮かべている。

 

「兄さん、駄目だ。置いては……」

「おい、坊主! 起きろ!」

 

 肩を掴んで揺さぶるが、いっこうに起きる気配がない。彼の見ている夢は、とてつもなく恐ろしく悲しい物のようだった。

 

「ああ、畜生。最悪だ」

 

 武器もなく味方は昏睡。状況も碌に把握できない。

 しかし、それらはすべからくハウンドが諦める理由にはなり得なかった。

 

 

 

 

 城の天守。

 赤い月の照らすなか、マインドワイプは妖精たちの魔法で造らせた自分サイズの玉座に腰掛けていた。

 悪夢から得る負の感情ばかりでなく、蝙蝠たちを通して妖精や森の木々から生体エネルギーを吸い取る彼は、まさに吸血鬼その物だった。

 そして彼はすでに、ハウンドの覚醒を感じ取っていた。

 

「キキキ、感じるぞ。悪夢から覚めた奴がいる……オンスロートかインフェルノコンにでも片付けさせるか」

 

 一人ごちるヴァンパイア・マインドワイプの脇にはゴールドユニットを装着したケーシャが立っていた。

 目には一切の光がなく、表情は冷厳としていた。人を殺すことになんの躊躇もなさそうな顔だ。

 

 その姿は、彼女が悪夢に見る、彼女の師の生き写しだった。

 




一同のトラウマや過去を断片的に示すためのマインドワイプ復活です。
蝙蝠型ディセプティコンの音波で悪夢を見るのは、一応アドベンチャーのナイトストライクが元ネタ。
ハウンドが自力で悪夢から抜け出すのは、彼が酸いも甘いも噛分けた大人だから。

あと城に居座るのは悪魔城オマージュ。

今回のキャラ紹介。

新航空参謀サイクロナス
侵略者『地球人』と戦い続けているというホット・ロッドの悪夢の中に現れた兄弟の一人。
メガトロンとレイの直接の子供である『タリの四兄弟』の次兄。
ロシアの実験機Su-47ベールクトに変形する(憎き地球のビークルなのは敵の武器で敵を倒すという思想による)
両肩の翼以外に戦闘機らしい特徴のないロボットモードが特徴。

厳格かつ冷静な軍人然とした性格だがユーモアも解し、クソ真面目な長兄と呑気な三兄、問題児な末弟の間を取り持つ苦労人。
変形パターンは最後の騎士王メガトロンのボイジャークラス参照。


スウィープス参謀スカージ
ホット・ロッドの悪夢に現れた兄弟の一人。三兄。
空飛ぶ金塊ことステルス爆撃機B-2スピリットに変形(ステルス爆撃機と聞いて、何となく思い浮かべるだろうアレ)
マッチョな悪魔のようなロボットモードを持ち、兄弟で一番体が大きい。自分と同じ姿をした分身スウィープスを生み出す特殊能力を持つ(インセクトロンのクローン生成に近い)

厳つい見た目に反し気は優しく、ロディマスとは一番仲がいい。
変形パターンなどはジェネレーション版のステルス機に変形するメガトロンに近い(ただしキャノン砲になる部分が背中の翼になってる)


戦士ロディマス
悪夢の中でのホット・ロッドの姿。
両親や仲間たちの(かたき)である地球人を強く憎み、空間跳躍を成すポータルを開く能力を持つ。


重装兵パワーパンチ、重装兵ダイレクトヒット
オンスロートに部下として付いているテクニカル(武装した一般車)に変形するディセプティコン。
一応脱走者の中では兵隊らしい部類に入るが、ユーリズマ編のレースカートリオ以上に個性がない。
見た目はN.E.S.Tブローンの色替え。

元ネタはマイクロマスターズの、二体で一台のキャノントレーラーに合体変形するというキャラ。
超マイナーキャラシリーズ第二段(リメイクされない原因はやっぱり名前だろうか? いやシージはマイクロマスター押しだしワンチャン?)
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