新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED 作:投稿参謀
「スカージ!」
「すまねえ、ドジっちまった……」
「スカージ兄さん、しっかり! すぐに手当を……」
「ロディ……必ずやり遂げてくれよ。お前と兄ちゃんたちならできるって、信じてる…ぜ……」
「兄上、ロディマス! ここは私が時間を稼ぎます! 二人はタイム・ブリッジへ!!」
「サイク兄さん、駄目だ! 置いてはいけない!!」
「……行こう、ロディマス」
「兄さん、何を言ってるんだ!?」
「サイクの決意を無駄にするな!!」
「ロディマス、タイム・ブリッジを起動するんだ!!」
「ああ……よし、時空間に接続できたぞ!」
「でかした! 手筈通りに、俺は地球へ乗り込む! お前は天王星うずめを抹殺するんだ!」
「ああ……父さんや母さん、兄さんたち、他の皆のためにも必ずやり遂げいったぁッ!?」
* * *
「いったぁッ!?」
ホット・ロッドが胸元への強烈な痛みに目を覚まして、そこに目を向けると、ミリオンアーサーから借りたタリスマンがいた。
しかし四本の足が生えており、そのうち二本をホット・ロッドの装甲に突き刺している。その痛み……のみならず、不思議なパワーにより催眠を解いたらしい。
それを摘まみ上げると、二本の足で器用に腕を組むようなポーズを取る。
「なんだ、これ? なにがどうなって……!?」
「おお、目を覚ましたか! なかなか起きねえから心配したぜ!」
野太い声にそちらを向けば、ハウンドの髭面があった。
ニッと人懐っこく笑う姿に夢の中でみた兄弟の姿が重なる。
「スカー……いやハウンド?」
「おいおい、こんないい男が他にいるかよ? 立てるか?」
「ああ……」
ハウンドに助け起こされたホット・ロッドは、体の痛みに顔をしかめつつも手の中のタリスマンをチラリと見た。
御守りは四本足で器用にオートボットの身体を登り、肩に張り付く。
これにこんな機能があったとは、予想外だったが助かった。
二人はまず、現状を把握するべく話し合う。
まず、ここは最初に降り立った城の地下のようだ。
自分たちは蝙蝠ドローンとそれを操る何者かの力により、悪夢を見せられていた。
他の皆の居場所は分からず、武器は取り上げられた。
「八方塞がりじゃねえか……!」
「まあ落ち着け。冷静に、この状況を切り抜ける方法を探すんだ」
石壁を殴るホット・ロッドを、ハウンドが諫める。
こういう時、彼の経験は頼りになる。
「皆無事だといいけど、くろめは……ッ!」
ブレインに、悪夢がフラッシュバックする。
滅びゆく世界、兄弟たち、侵略者。
そして天王星うずめ。
思い出せたのは断片的だが、死と争いに満ちた忌まわしい夢が、自分の過去なのか?
あれではまるっきり、ガルヴァトロンが言っていた通りではないか。
「げ、ゲエエエッ!!」
強烈な頭痛と悪心に堪えきれず、オイルと未消化物の混ざった液体を口から吐く。
その背を擦ってやりながら、ハウンドは敢えて厳しい声を出した。
「坊主、何か夢を見たようだが……今は脇に置いとけ。それよりやることがある」
「あ、ああ。そうだな」
彼の言う通り、ホット・ロッドは悪夢のことをいったん忘れることにした……難しそうだが。
ホット・ロッドの通信装置に通信が飛んできた。知らない周波数だ。
「……こちら、ホット・ロッド」
『いやいや、驚いたよ。まさか悪夢から目を覚ますとは! 君の仲間が自力で目覚めたのも予想外だった!』
ハウンドにも聞こえるようにして通信に出ると、聞こえてきたのは世界の全てを嘲笑するかのような男の声だった。
口ぶりからして、何処からかこちらを観察しているようだった。タリスマンが急に前足を振り上げ、カマキリが敵を威嚇するような姿勢を取る。
「何者だ?」
『君のファンだよ……それも世界一、いや宇宙一の大ファンだ! 自分で言うのもなんだが、私ほど君の活躍を願っている者は他にいないよ!』
妙にテンションの高いその声に、ホット・ロッドは言い知れぬ不快感を覚えた。
何故だか言葉も口調も、全てが癇に障る。
「……お前が俺たちを眠らせたのか?」
『いいや違う。君たちを眠りに誘ったのはマインドワイプというディセプティコンだ……正しくは、その亡霊だな』
「マインドワイプだって?」
『それについては、別の者に説明を任せよう。それより重要なのは奴が妖精たちのことも操っていることだ』
暗にそれ以外は話すつもりはないと語る声の主にホット・ロッドが顔をしかめると、ちょうど鐘が鳴った。
『その音は、クインテッサの像を介して発せられている、妖精へのコマンドだ』
「クインテッサの像だと?」
『その城塞は元々、クインテッサが妖精を監視するために築いた物だ。妖精の中に反乱分子が現れればここに連れ込み、研究も兼ねて恐ろしい拷問を加えた……その墓地に埋葬されているのも、そうして死んだ者たちだよ』
この場所とクツクツと忍び笑いを漏らす相手に、それ以上にクインテッサに、強い嫌悪感が湧き上がる。あの悪夢を見た後では尚更だ。
『君も察していると思うが、妖精というのは本来クインテッサが作った存在だ。騎士も妖精も、創造主足らんとする彼女の実験の産物というワケさ』
「……あんた、何者だ?」
『そうだな、ミラーとでも名乗っておこう。マスターもミスターもいらないぞ、ただのミラーだ』
相手に合わせて態度を変えて、本性を見せないとでもいうところか。
こんな情報を知っているなんて、ただ者ではないだろう。
「何故俺たちを助ける?」
『違うな、
その言い回しに、ホット・ロッドはピクリと眉根を動かす。
どうもミラーなる通信相手は地球の文化に精通しているらしい。
『これは君が英雄になる物語なんだ。主役はオプティマスでも、メガトロンでもなく、ましてサム・ウィトウィッキーやバンブルビーでもなく、君なんだ』
ミラーの声が徐々に熱を帯びてくる。そこにはこれまでの嘲笑とはまた違う、もっと歪んだ執着が感じられて、ホット・ロッドの回路が冷えてくる。
聞く者が聞けば、その熱はメガトロンがオプティマスと戦っている時に発している物に似ていると感じるかもしれない。
『君が選ぶ君のヒーロー……ならばオレが選んだヒーローは君なんだよ』
「そりゃどうも。でもあんたのために戦うつもりはないね」
『ふふふ、どうかな? ……では、健闘を祈る。いずれまた会おう』
かかってきた時同様、謎の声は一方的に通信は切られた。
ホット・ロッドはその唐突さを不愉快に感じつつも頭を回す。
「なんだってんだ、いったい……だけどこれで行動指針は立ったな」
「おい坊主、お前さんいったい誰と話してたんだ?」
「さあ? ミラーとか名乗ってたけど」
聞いていただろうに首を傾げるハウンドだが、ホット・ロッドの答えにさらに難しい顔をする。
実の所、彼にはそのミラーなる相手の声は聞こえなかった。ただただ、ホット・ロッドが一人で喋っているようにしか見えなかったのだ。あの悪夢が妙な影響を与えているのだろうか?
訝し気な顔のハウンドだったが不意に表情を厳しくすると口に人差し指を当てた。声を立てるなということだ。
ベテラン兵士の視線は、壁の上の方に穿たれた空気取りのための穴に向けられていた。そこから微かにだが、何かが這いずるような音がする。
いつでも飛び掛かれるように二人が移動すると、穴の中から影が這い出てきた。しかしそれは、二人の見知った相手だった。
「あんたは……」
「なんでここに!?」
白い髪にローブ、分厚い丸眼鏡の、あの女教師だ。
ヒラリと床に降りた彼女は、呆気に取られる巨人たちを見上げて小さく笑った。
女教師から事情を聴くと、どういうワケかマインドワイプの催眠から自力で目を覚ますことが出来たらしく、通風孔の中を這い回って情報を集めていたらしい。
他の者を助けることこそ出来なかったが、催眠状態にあるディセプティコンから扉の鍵まで盗んでいた。鮮やかな手際だ。
「相手が夢見心地で助かったわ。意識が冴えていたなら、こう上手くはいかなかったでしょうね」
「どうかな?」
彼女のサポートのもと、見張りをしていたディセプティコンのダイレクトヒットとパワーパンチをアッサリと拘束したハウンドは、冷静な女性に訝し気な表情を向けていた。
ホット・ロッドもいよいよ彼女が見た目や子供たちの話の通りの人物ではないと理解していた。
手際の良さといい、この状況で冷静さを失わない胆力といい、彼女はいったい何者なのだろうか?
しかし彼女の正体が何であれ、今は他に優先すべきことがある。
仲間と子供たちの救出、そしてクインテッサ像の破壊だ。
「子供たちは天守閣に囚われているわ……おそらく、あなた方の仲間も」
「の、ようだな」
くろめたちの居場所は、以前に通信装置に仕込んだGPS機能で分かった。やはり天守にいるようだ。
「敵の数と配置は?」
「大まかにマッピングしておいた。見て」
「……妙だな、手薄過ぎる。妖精どもは何処へいった……罠か?」
「可能性は高いわ」
女性はハウンドと息の合った様子で話している。どうもこの二人、互いに向ける感情はともかく波長が合うらしい。
ベテランの兵士は、女教師とホット・ロッドが齎した情報から、すぐに作戦を立てていた。
「まずは餓鬼どもの救出が第一目標。他は二の次だ……なああんた、いくつか頼んでもいいかい?」
「ええ」
ハウンドの頼みに、女性教師は二つ返事で頷いた。やはり、場慣れしているよううだ。
しかしホット・ロッドは不安を感じていた。ユーリズマの時とは違い、今回は自分たちの行動が仲間や他人の命に直結しているのだ。
そんな若者に向かって、ハウンドは不敵な笑みを浮かべた。
「坊主、戦いってのはな。始まっちまえば後は伸るか反るかよ。勝つ気でいかなけりゃならんのだ」
「行き当たりバッタリだなあ……」
「そんな鉄砲玉を上手く使うのが、隊長の腕の見せ所だぜ?」
茶目っ気のある笑みを浮かべるハウンドに、ホット・ロッドは勇気付けられるのを感じた。
だが一つだけ彼の意見に異論がある。
「生憎と、
「言うねえ。じゃ、いっちょ行きますか!」
その言葉を、ホット・ロッドの肩に張り付いたタリスマンも注意深く聞いていた。
オートボットたちが城内を進むと、妖精たちの姿はなく、ディセプティコンの姿すらまばらだ。明らかに誘い込まれている。
天井の高い廊下を警戒しながら進む。窓の外には赤い月が輝いているのが見えた。
ふとホット・ロッドは思った。
古城に捕らわれた女性たち、赤い月に飛び交う蝙蝠、以前に見た吸血鬼映画そのままだ。
「まあマインドワイプとやらのやってることは、ドラキュラ
「あいつが
軽口を叩き合うオートボットたちだが、その時床が振動していることに気が付いた。
周囲を警戒していると、廊下の壁が轟音と共に崩れ、その向こうから黒い鬼のような巨体が姿を現した。インフェルノカスだ。
「吸血鬼の次は継ぎ接ぎの怪物か、いよいよ『っぽい』な」
「馬鹿言ってないで逃げるぞ! あのデカブツを相手するにゃ今は銃が足りねえ!!」
あの大鬼相手するには戦力が足らないと、オートボットたちは変形して一目散に走りだした。
インフェルノコンは、唸り声を上げてそれを追いかける。
やがて天守閣真下の大ホールまでやってくると、いよいよ罠がその姿を現した。
このホールには扉が二つしかなく、その内ホット・ロッドたちが入ってきた方の前には、彼らを追ってきたインフェルノコンが陣取る。
そしてもう一つの扉は、厳重に封鎖されていた。
『キキキ……よく来たなオートボットども』
何処からか陰湿な声がする。しかし姿は見えない。
ハウンドは薄暗がりに向かって吼えた。
「出てきやがれ、マインドワイプ!!」
『キキキ……誰が出ていくかよ。お前たちの相手は俺の僕どもだ』
嘲笑するマインドワイプの声に反応して、暗がりの中から何者かが現れた。
それはゴールドユニットを装着したケーシャだった。
「ケーシャ!」
「待ちな、隊長さん!」
当然助けに行こうとするホット・ロッドを制し、ハウンドはブラスター砲を構える。
闇の中からケーシャの横に、もう一つ影が現れたからだ。緑色のズングリとした姿は、オンスロートである。
しかし、ハウンドが奪われた三連ガトリングなどの武器を装備していた。
「お前たちが来るのは分かっていた。人質の救出を優先することも」
冷厳とした声を発したのは、オンスロートとでも姿の見えないマインドワイプでもなく、ケーシャだった。だがその声はドスが聞いていて、まるで別人のように低い。
赤いゴールドサァドは眼帯をしていない方の目に冷たい光を湛えて、いつも使っているのとは違う、左手用のマシンピストルをこちらに向けていた。
「ケーシャ!? 操られているのか?」
「人質とは、分かりやすいことしてくれるじゃねえか、マインドワイプ!」
『キキキ、別に人質に取ったつもりはない。こいつは俺に協力してくれているのだ』
マインドワイプはハウンドに対して小馬鹿にしたように嗤う。
さらに何処かに隠れていたらしいスパークダッシュらも現れ、ホールの二階部分のギャラリーには妖精たちが居並んでいた。
圧倒的な数で潰す。
分かりやすいが、それゆえにひっくり返しにくい手だ。
圧倒的不利にもかかわらず、それでもハウンドは不敵に笑いホット・ロッドも負けじとばかりに笑む。
『さあ、やれい! キキキ!』
「任務了解。これより敵を殲滅する」
ケーシャが無感情な声を発っすると同時に引き金を引き、同時にディセプティコンたちが唸り声を上げて襲ってきた。
オンスロートの三連ガトリングをそれぞれ左右に跳んで避けたホット・ロッドとハウンドだが、そこにインフェルノカスやスパークダッシュが襲い掛かる。
「こいよ、デカブツ!」
ホット・ロッドは掴みかかってくるインフェルノカスの手をよけ、その体に組み付いてよじ登り、顔面に二丁拳銃を撃ち込む。
痛みに呻くものの大して効いていない様子に、ホット・ロッドは舌打ちする。やはり火力が足りない。
ハウンドは空中を飛ぶ猛禽型のシズルを躱し、床下から現れた昆虫型のジャビルを蹴りつけ、突進してきた恐竜型のガズルの顔面にブラスター砲をお見舞いしてやる。
怯んだガズルの脇を抜け、自分の三連ガトリングを持ったオンスロートに掴みかかる。
「返しやがれ! このデブ!!」
「吾輩はデブではない、この緑デブ」
「ッ! オンスロート、テメエ操られてねえな!」
ガトリングを奪い合いながら、ハウンドは相手が催眠状態にないことに気付いた。
攻撃参謀は目に意思の光を灯してニィッと嗤う。
「危ない所だったがな……完全な催眠状態になる前に、自分でスリープモードに入ったのよ」
だが目を覚ましているのにマインドワイプを放置していることが、ハウンドには解せない。
その疑問を察したのか、オンスロートは鼻で笑う。
「吾輩はな、有機生命体なぞ大嫌いだが、たった一人気に入った……いや尊敬していると言っていい人間がいた。それが壊滅した傭兵組織の首領、伝説的な女傭兵よ」
若干興奮した様子のオンスロートに、ハウンドは目を鋭く細めた。
オンスロートは、ケーシャの師である女傭兵に魅せられていた。純粋に闘争を求め、戦いに生きる姿にカリスマを感じていた。
一度話してみたいと、会ってみたいと望んでいた。しかしその機会は訪れず、組織の壊滅と共に女傭兵は死んだ。そのことが残念でならなかった。
「しかし見ろ、あの小娘を!」
横目で見るケーシャの姿は、歴戦の勇士の風格を備えていた。
「奴は師や傭兵たちの
「……ふざけんじゃねえ」
堪えきれずに吼えるオンスロートと対照的に、ハウンドは底冷えのする低い声を出した。静かな怒りの籠った声だった。
怒りのままにオンスロートに頭突きを浴びせ、ガトリングを奪い取る。
「ふざけんじゃねえ! 何が
「決めたのは我輩ではない! あの小娘に教えを授けた傭兵どもよ!!」
オンスロートは左腕の重機関砲をハウンドに向ける。
両者の武器が唸りを上げ、次いで火を噴く。片方は狂喜と共に、もう片方は怒号と共に。
「多勢に無勢……ここまでだ」
戦いを静観していたケーシャは、二階部分に待機している妖精たちに攻撃の指示を出そうとする。そうなればオートボットたちの敗北は必至だっただろう。
だが急に何処からか轟音が聞こえると、妖精たちは糸の切れた人形のようにその場に倒れた。
『なに!?』
「像が破壊されたか」
それが何を意味するのか、ケーシャはマインドワイプよりも早く把握した。
ハウンドもニヤリと会心の笑みを浮かべる。どうやら、別行動していたあの女性教師が上手いことやってくれたらしい。
* * *
崩れ落ちたクインテッサの像を前に、女教師が佇んでいた。
トランスフォーマーが使う手榴弾を背負って何とかここまでやってきた彼女は、それを使ってこの像を壊したのだ。
一抱えもある手榴弾を持ってここまで来ることが出来たことからも分かるように、彼女は類まれなる運動能力を持っていた。
「…………」
一仕事終えた彼女だが、まだやれることは残っている。
呼吸を整え、身を翻す彼女の手には、ケーシャの使う物と同じ型の……しかし右手用のマシンピストルが握られていた。
ああ、本当に筆が遅い……。
ミラーはある意味、作者の共犯者というかなんというか。