新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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第55話 ネビュロン、燃ゆ

「連中が上手くやってくれたか」

 

 民間の貨物船に偽装した巨大な輸送艦『サンタマリア』の艦橋で、白髪の酷薄そうな男が呟いた。

 かつてはアメリカのCIAの工作員、あるいは秘密機関セクター7の戦闘部隊の隊長、今はコンカレンスの私兵部隊NESTの隊長、ジェームズ・サヴォイだ。

 その隣には、この艦の艦長が立っていた。彼はかつてアメリカ海軍で将校まで上り詰めながらも、民間人を攻撃したために処分された男だ。

 

「ここが例の新世界……我々は21世紀のクリストファー・コロンブスというワケですな。まさに歴史の残る快挙だ」

 

 興奮した様子の艦長だが、サヴォイは冷めきった目をしていた。そもそもこの男が怒り以外の感情で熱くなることは稀だ。

 

「偵察に出した無人機からの映像、出ます」

 

 ブリッジクルーの一人が報告する。

 この艦はドローン技術の流用で極限の省力化に成功しているが、それでもやはり人間のクルーは必要だった。

 当然だが、この世界には彼らの使える人工衛星の類いも無いので偵察は無人機頼りになる。

 

「海岸に街があります。やはり文明は16世紀頃相当のようですね」

「海岸に人、ないしその他の影は?」

()()()()()

 

 その報告の通り、無人機から中継された映像には無人の砂浜が映されていた。こちらを察知しているなら、当然防御を固めているかと思ったが。

 一方、無人機は近くにある街の映像も映していた。その街の片側は真新しく手入れが行き届いていて、もう片側は人が住んでいる気配がない。港もあるようだが、特に人影は見えなかった。

 その古い街の方にはいくつかの熱源があった。建物の中や、地下空間らしき場所に集まっている。

 

「……罠か」

「あり得ますね」

 

 ワザと防御を手薄にし、古く入り組んだ街の中に引き入れてゲリラ戦を仕掛ける。古今東西で見られる手垢の付いた、それゆえに厄介な手だ。

 

「いかがいたしますか? サヴォイ隊長?」

「手筈通りに」

「では、そのように。……各艦、各員に通達! 当艦隊はこれより上陸作戦を開始する!」

 

 その命令を受けて、輸送艦の上部甲板から数機のヘリコプターがバラバラと騒音を立てながら飛び立った。

 続いて甲板上のハッチが開き、そこからオスプレイにも似たティルトローター型のKSI社製エアロ・ドローンが次々と飛び立ち、獰猛な蜂の群れのように陸地に向けて飛んでいく。

 さらにサンタマリアの後部ハッチが開き、そこから三隻のホバー式揚陸艇が発艦した。これらには現地での移動のための乗り物……そして新型を含めた陸戦用のドローンが載せられていた。

 

 これらは本来の上陸予定地点である海岸ではなく、街の港へと直接向かっていた。

 

 ヘリには、この未知の世界の土を最初に踏むことになるであろう男たちが乗っていた。

 戦闘服に身を包み銃器を手にした男たちは人種も国籍もバラバラだ。

 

「まさか、ホントに違う世界にくることになるたぁな。映像を見たかよ? 本当にファンタジー映画の世界だぜ。騎士が剣振って、爺がアブダラカダブラって呪文を唱えるってか?」

「俺らはアーサー王宮廷のヤンキーってワケだ。迷信塗れの未開の荒野に、文明の光を灯してやるとしようぜ!」

「この銃を見たら、この世界の原始人ども、ガタガタ震えて命乞いするに違いねえ! 地球舐めんなファンタジーってな!」

 

 除隊処分を受けた不良軍人に金で働く傭兵、元ゲリラや元テロリスト、戦争犯罪者、亡命軍人。

 いずれも一癖も二癖もありそうだ。

 

「なあおい、資料読んだか? この世界にはなんと女神様がいるらしいぜ! ワンダーウーマンみたいな女なら、是非相手してもらいたいねえ」

 

 その中の一人、メイソン・ディヴェルビス大尉は軽薄そうな顔に笑みを浮かべて呟いた。

 ディヴェルビスはフランス外人部隊に所属していたこともある優秀な傭兵であり、軍用車からF1カーまであらゆる車両を乗りこなす名運転手である。だが同時に生まれついての悪党と称される戦争犯罪人であり『マスター・ディザスター』と綽名されていた。

 

「好きにすりゃあいい。俺は金さえ貰えれば満足だ」

 

 情報を敵軍に売ったことでお尋ね者となったブランドン・J・ケンドソヴァン軍曹は、出身地であるアラスカの氷原のように冷たい目をしていた。

 その行く先に常に混乱が齎されることから人は彼を『ケイオス軍曹』と呼ぶ。

 

「そう言うなよ。何せ女神だぜ、女神!」

「どっかの絵みたく、素っ裸なのかね?」

「自由の女神サイズじゃなきゃいいがな!」

「静かにしろ、お前たち! 作戦行動中だぞ!!」

 

 騒がしい男たちを、一応はこの小隊の隊長であるヒスパニック系の男、本来はサヴォイの副官であるサントスが叱りつける。

 このあまりに問題のある部下たちに、サントスは頭痛を感じているようだった。

 しかしディザスターは皮肉っぽい笑みを浮かべた。

 

「おいおい小隊長さんよ。これが作戦って言えるかい? 敵はマトモな武器も持ってない未開人、仲間は選りすぐりの屑ときてる。大人が子供をいたぶるようなもんさ」

「これは、調査任務だ! 現地人への攻撃は許可されていない!!」

「まさかそれ、本気で信じてるワケじゃないだろ?」

 

 小馬鹿にしたような笑みに、サントスは言い返すことが出来なかった。彼自身、この任務には大きな疑問を感じてはいた。

 隊員たちはそれぞれに小さく嗤う……そうしている間に、ヘリとエアロ・ドローンは海を越えて街の上空へと至った。

 ヘリは熱源反応のあった場所の近くと船着き場にNEST隊員たちを降ろす。隊員たちは、一瞬で気を引き締めて油断なく銃を構えた。

 揚陸艇が街の船着き場に舳先を押し付けた。降ろされたタラップを伝って物々しい戦闘車両群が上陸する。

 車体の上に重機関銃や四連装の対戦車ミサイルを乗せた四輪駆動の装甲車、所謂歩兵機動車に、セクター7で使われていた物と同じ武装バギー。もっと大型の軍用トラック。偵察用のオフロードバイクなんていうのもある。

 中でも目を引くのは、荷台部分に多連装ロケット砲を取り付けた大型トレーラーだ。

 

 しかし別の揚陸艇から降りてきた、タンク・ドローンと場違いな雰囲気の一般車両の群れには負ける。

 赤や青、灰色や白などの色鮮やかなクロスオーバーUSV、シボレー・トラックスが、誰も乗っていないのに一人でに動いている。

 

「例の新型か……しかし、なんだって自動車なんだ? 軍用車でも戦車でもなく」

「なんだっていいだろう。それより仕事だ大尉殿」

「へいへい」

 

 隊員の乗る装甲車共々、自分の近くに停車したCSUVを見たマスター・ディザスターがぼやくがケイオス軍曹に窘められた。

 NEST部隊はドローンを随伴させ、熱源を取り囲むようにして展開していく。

 

 だがすぐに奇妙なことに気が付いた。

 送られてきた映像に比べて、建物が真新しく見えるのだ。白い壁に、磨かれた窓、建物の中には人が暮らしていた痕跡がある。

 

「変だ、映像ではもっとボロいはずだ……」

「掃除が行き届いてるな」

「どうなってる……?」

 

 首元がチリチリとするような嫌な予感を感じ、サントスは冷や汗を流した。

 熱源のあった場所の傍までやってきても、まるで人の気配を感じない。

 近くの隊員が物陰に何か置かれていることに気付き、慎重にそれを拾い上げた。爆弾の類ではないようだ。

 

「サンタマリア、こちら上陸部隊。街の様子が無人機のデータと様子が違います」

『こちらサンタマリア、無人機からの映像に異常は見られないが……?』

 

 その返答に、サントスはいよいよ深刻な不安を感じた。そう、例えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()感覚に、ふと空を見上げると青い空をバックに件の無人機が飛んでいた。

 

 ……真上に、スウェーデンのマルチロール機、ほとんど三角形のシルエットを持つグリペンを随伴させて。

 

「ッ!? これは罠だ!!」

 

 グリペンはNESTが持ち込んだ機体ではないし、あんな無人機の近くに飛んでいるのはおかしい。そしてサントスは、グリペンに変形するトランスフォーマーを知っていた。

 あいつが無人機からの映像にリアルタイムで細工したに違いない。

 

「小隊長? ッ!?」

 

 隊員がその意味を聞こうとした瞬間、()()()()()()が不自然に振動したのを感じ、それを手放した。

 同時にカードが黒く光り輝き、その光が膨らんで大きな影を作り出す。

 

 二本の角を持った悪鬼のような姿のそれは、ガルヴァトロンの分身レギオンだった。

 

「な、なんだこりゃあッ!?」

「相手にするな! 退け!!」

 

 咆哮を上げるレギオンに思わずアサルトライフルを撃つが、それで怯むはずもない。

 さらに家々の中から、狭い路地の裏から、道端に置かれた木箱や樽の下から、黒い光が迸り次々とレギオンが現れる。

 それだけではない。熱源のあった建物……大きな倉庫の扉が開かれ、中から自動車が複数飛び出してきた。

 

「じ、自動車!? なんでこんな所に!?」

「資料にあっただろ! そいつらはトランスフォーマーだ!!」

「イエーイ! さあ、俺らの力を見せて……あれ、あんたどっかで会ったけ?」

 

 自動車はギゴガゴと音を立てて、恐ろしげな姿のディセプティコンたちに変形していく。先頭にいるのはネイキッドバイクから変形したモホークだ。

 その合間から現れるのは装甲服に身を包み見たことも無い銃を手にした兵士たちだ。

 彼らの銃からは光線が発射されドローンの装甲にすら穴を開け、盾を構えればエネルギーのシールドが発生して銃弾を防ぐ。

 

「なんだよ!? なんでファンタジーの兵士が光線銃撃ってバリア張ってんだよ!! 可笑しいだろ!!」

 

 戦車型ドローンの影に隠れたマスター・ディザスターが叫ぶ。言うまでも無くNEST隊員全員が同じ意見だった。

 

 敵兵の中には、剣や槍を持った軽装の者たちもいた。

 彼らの武器からはビームのような物が飛び出し、ドローンを破壊する。

 NESTには知る由もないが、彼らはガルヴァトロンからレギオンの指揮権を貸されたアーサーたちだった。

 

「レギオンたちよ! 先には出過ぎず、人間の兵士を守るのだ!! 『先に行くな!』『道を塞げ!』」

 

 中でも金髪金目の女性……ミリオンアーサーは簡単な指示しか理解できない巨人騎士をある程度使いこなしていた。

 

「サンタマリア! こちら上陸部隊! 敵の奇襲を受けた!! 敵の戦力は想定よりも遥かに強い! 撤退の許可を!!」

『……! ……!』

 

 サントスは輸送艦に向けて通信を飛ばすが、通信障害でも起きているのか返事はない。

 

「クソッ! 総員、撤退だ! ヘリをこちらに回せ!! ドローン部隊! 攻撃開始!!」

 

 とにかく時間を稼ぐためのサントスの指示に従って、下がる隊員たちの盾になるようにドローンたちが進み出る。

 ヘリ型が上空からロケット弾を撃ち、戦車型のドローンが本来備えている機関砲や外付けのロケット砲を発射する。装甲車やバギーの乗員もそれぞれの車に備わった武装で攻撃する。

 さすがにこれにはトランスフォーマーもダメージを受け、人間の兵士たちは彼らの陰に隠れるが、獣の如きレギオンはそれでも怯まない。

 戦車型の砲身にしがみついてそれをへし折り、屋根に上ってそこからヘリ型に飛び付く。装甲車をひっくり返し、バギーに群がる。悲鳴を上げる乗員たちは、何とか乗車から逃げるので精一杯だった。

 

 だが新型のシボレー・トラックスの姿をしたドローンはそうもいかなかった。

 突然細かい粒子のように分解したCUSVは、ロボットの姿に再結集することで変形する。

 バイザー状の目とマスク状の口元、左腕には二枚のカッターが連なるように装備され手には機銃を持っている。

 

「トラックスだと!」

 

 追ってくるディセプティコンの一人が、そう叫んだ。

 その姿がゲイムギョウ界のある女神が開発した人造トランスフォーマーと瓜二つだったからだ。

 しかし、このKSI社製の粒子変形するロボットは『KSIセントリー』という名を付けられていた。

 

 ついでにトランスフォーマーという名前もサイバトロン・システム社が商標登録していたため、使えなかった。

 

 KSIセントリーたちは機敏な動きでレギオンに銃撃を加え、カッターで斬り付ける。

 他のドローンよりも力強く賢い立ち回りで善戦しているが、いつまで持つかは分からない。

 

 それでも時間は稼げたので、その隙にヘリが降りてくるが、どこからか飛来した……実際には建物の壁に張り付いていた戦闘艇に撃ち落された。

 

 爆炎を上げて墜落したヘリを見たサントスは、一瞬絶望に囚われそうになったが、すぐに目標を変えた。

 

「港に向かう! 急げ!!」

 

 ドローンたちに殿を任せ、隊員たちは近くの無事な車両に乗り込む。港にはまだ、揚陸艇が残されているはずだからだ。

 サントスの乗った装甲車を運転するのはマスター・ディザスターだ。彼は前評判に違わぬ華麗なハンドル捌きで先回りしようとするディセプティコンたちの合間を潜り抜ける。

 それでもあちこちから湧き出てくるレギオンや上空からの攻撃で次々と車両が破壊されていく。

 

 なんとか港に辿り着いた時には、ディザスターの運転する装甲車を含めて半数にまで減っていた。別行動していた隊員も、ほとんど戻ってきていない。

 そして彼らが見た物は……。

 

「クソッ……!」

「おいおい、嘘だろ……」

 

 海の向こうで炎に包まれる輸送艦サンタマリアだった。

 

  *  *  *

 

 時間はやや遡る。

 異常の報告を受けたサンタマリアの艦橋では、艦長がイライラと報告を待っていた。

 指揮官のサヴォイは()()()()この場にはいない。

 

 なにか無人機にトラブルがあったようだ。全く使えない部下ばかりだ。

 上陸したら、この未開の地の女をたっぷりと()()してストレスを紛らわすとしよう。資料で見た限り、この世界の女は多少幼く見えるが中々に魅力的だ。

 

 そんなことを考えていた時、ソナー担当のクルーが叫んだ。

 

「艦長! 本艦の直下から急速に浮上する影あり! 数、4!」

「直下だと……?」

 

 この地に潜水艦などないはず、何かの間違いかと問う前に、艦体が衝撃で揺れた。艦長が甲板に目をやると、四体の金属の怪物たちが海水を滴らせながら両舷をよじ登ってきた所だった。

 

「ふん、敵の退路を断つのは戦術の基本である!」

「ぶっ殺したるでぇえ!!」

「久し振りに大暴れ(アルボロート)だぜ!!」

「悪く思うなよ……さすがに侵略者相手には容赦できん」

 

 その四体は手に持った、あるいは身体に直接身に着けた武器を振るい、サンタマリアの甲板を破壊していく。人間たちが応戦しようとするが、手に持った火器程度ではどうしようもなく、この艦に搭載された武装も敵が甲板にいては使えない。

 一瞬、惚けかけた艦長だったが、巡洋艦の弾幕をすり抜けて飛んできたグリペンが、単眼のロボットに変形して破壊活動に加わるに至ると周囲の巡洋艦に指示を飛ばした。

 

「ピンタ、ニーニャ! こちらはサンタマリア! 本艦甲板上の敵に向けて攻撃を開始せよ!!」

『な、しかし……!』

「か、艦長!? 何を……」

「早く撃て!! あの金属の塊どもに目に物見せてやれ!!」

 

 巡洋艦のクルーや周囲のブリッジクルーが止めようとするが、これ以上被害を拡大させてなる物かという艦長の気迫に押されて従う。

 周囲の巡洋艦が対艦ミサイルの発射体勢に入ったことを、重機関砲で甲板上の構造物を破壊していたオンスロートが察知して顔をしかめた。

 

「撃ってくる気か! ……少しは状況判断のできる奴がいたであるか」

「さすがにアレは痛いな……ならば!」

 

 同じくミサイル砲の動きに勘付いたバリケードは、装甲の裏からラグビーボール状の装置を取り出した。

 

 創造主を自称するクインテッサが、兄弟であるネクサス・プライムの遺物『調和のエニグマ』を真似て作り出した『クイント・エニグマ』だ!

 

「ちょちょちょ!」

「おい待て、それはもうナシだと……!」

「悪いな、状況判断だ」

 

 エニグマから昆虫の節足のような物が飛び出し、バリケードの胸に張り付くのを見たニトロ・ゼウスやオンスロートが血相を変えるが、バリケードは悪びれもせずに言い放つと声を張り上げた。

 

「ユナイト!」

 

 同時に、発射されたミサイルが甲板上に降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 ミサイルの着弾によって起きた爆発の轟音と衝撃波は艦橋にも襲い掛かった。

 

「ッ……」

 

 それによって僅かな間、昏倒していた艦長だが、他のブリッジクルーより早く意識を取り戻した。

 他のクルーは痛みに呻いているのを後目にヨロヨロと立ち上がり、割れた窓から甲板を見た。

 

 煙の中に、巨大な影が立っていた。

 五体の怪物の姿はないが、新たな怪物は五体を合わせたよりも大きかった。

 背中からは天を突くように砲身が飛び出し、右拳の甲からは鋏が生えている。

 身体のあちこちに焼け焦げたような跡があるが、それも大した傷ではないようだった。

 まるで神話の巨人だ。

 

「ブルーティカス、誕生(オンライン)……! 今のは痛かったぞ……お返しだ!!」

 

 合体兵士ブルーティカスはバリケードの声で唸ると、両脚で踏ん張り背中のキャノン砲を発射した。

 そのエネルギー弾はある程度上昇すると次弾を撃とうとする巡洋艦二隻に目掛けて落ちていく。巡洋艦ピンタとニーニャは回避行動を取りつつ対空弾幕を張るが、砲弾を躱すことも止めることも出来ず、着弾と共に大爆発を起こして二隻とも轟沈した。

 

 ブルーティカスは右拳を突き上げると、そこに破壊的なパワーを込めていく。

 

 艦長は大きく息を吐いた。

 

「ああ、クソッタレめ……」

 

 巨人が拳を甲板に叩き付けると、とてつもない衝撃によって輸送艦サンタマリアの艦体は真っ二つに叩き折られたのだった。

 

  *  *  *

 

 同じころ、ダロスから離れた場所にある小さな入り江にて。

 街の方からは死角になって見えないここの海面に、秘密結社の空中戦艦アフィベースが着水し、小型の潜水艇が浮上していた。

 

「全滅したか」

 

 潜水艇の上に立つサヴォイは特殊な機器によって部隊の惨状を把握しても顔色を変えなかった。

 サヴォイと僅かな隊員は、上陸作戦が開始すると同時にこの潜水艇によってサンタマリアを離れていた。

 副官サントスを含めた部隊の全滅……これは、サヴォイにしてみれば大した問題ではなかった。

 

 何故なら、NEST部隊の役割とは()()()()()()()()()()()なのだから。予定よりも多少早かったし、サンタマリアが沈められたのはさすがに想定外だったが、それだけだ。

 

 略奪と破壊の限りを尽くすNESTは、現地住民の反撃にあって殺される。

 しばらくしてコンカレンスはこの世界の存在を公表し、調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということを大々的にアピールするのだ。

 後は情報操作でゲイムギョウ界に対する()()へと世論を導き、それを大義名分にして本格的な攻撃に踏み切るのだ。

 

 元々先に侵略を仕掛けたのはコンカレンスであるが、そんなことはどうとでもなる。ただ地球人の死という事実だけが必要なのだ。

 

 そのために、死んでも惜しくない兵隊を集めた。絶対にこの世界の人間の恨みを買うような、どうしようのない屑共を。

 サントスにはすまないと思うが、彼はコンカレンスの目的ややり方に疑問を感じていた。そういう人間は組織では切り捨てられる側だと何度言っても彼はそれを改めなかった。

 

 そうして彼らが尊い犠牲になっている間に、サヴォイは真の任務を……セクター7の基地から消えたDC01(暗黒星くろめ)の捕獲を果たすのだ。

 

「ふん、改めて胸糞の悪い話だな」

 

 忍者ロボだの三段変形だのといった手下たちと共に空中戦艦の甲板上に立つアフィモウジャスが、鎧の下から嫌悪を滲ませていた。それはお互い様だとサヴォイは言いたかった。

 

 自らは表に立たず国を売り、美味い汁ばかり吸おうとする下種ではあるが、使いやすい。

 金の亡者は金のためなら何でもするし、金を払っている間は裏切らない。

 何より地球に戻るためには、スペースブリッジを開くことが出来るこの男の強力が必要不可欠だった。

 

「それで? 儂の金塊は?」

 

 アフィモウジャスの問いに、サヴォイが目配せすると、部下たちが潜水艇の中からいくつもの木箱を持ってきて甲板の上に置く。

 アフィモウジャスが目配せするといつの間にか潜水艇に移っていたステマックスが箱を開けた。

 仮にも修羅場を潜ってきたサヴォイらをして気配を全く気付かせずにだ。

 

 どんな技術か装備か知らないが、このニンジャ擬きには注意が必要だとサヴォイは考えた。

 

「将軍!」

「フハハハ、確かに!」

 

 箱の中に詰まっていた金色に輝く長方形の延べ棒の一つをステマックスが掲げると、秘密結社首領は下卑た笑みを漏らす。中の人間が涎を垂らしているのが見えるようだ。

 だがここにある金塊は約束した量のちょうど半分だ。

 

「残りは我々が地球に戻る時に払う。状況次第では色を付ける」

「よかろう! 契約更新だ! さあ、早く出発するぞ。詳しい話はそれから……」

「おやおや、何処へ行こうと言うのかね?」

 

 しかし急に聞こえた地獄から響くような声に、その場にいた全員が声のした方を向いた。

 

 高台の上に、大きな影が立っていた。

 二本の角に、悪鬼羅刹の如き恐ろしい形相。

 銀色と黒を基調として青い色の模様がある攻撃的な身体。

 胸のど真ん中のディセプティコンの紋章。

 

 ガルヴァトロンが、そこにいた。

 

「情報の通りか」

 

 その足元にはアイスブルーの瞳と長い髪を持った、妙齢の女性が腕を組んで立っていた。ややキツメの容貌だが、それでも十二分に美しい。

 魔女のような薔薇をあしらった中折れ帽を被った、マジェコンヌだ。

 

「な!? なぜここに貴様らが……!」

 

 サヴォイが最初に疑ったのは、アフィモウジャスの裏切りだった。

 しかし、驚愕している様子を見るに違うようだ。

 では……。

 

「ご苦労、シャッター。協力感謝する」

「光栄の至り」

 

 赤い体の女ディセプティコンがガルヴァトロンに向け恭しくお辞儀をする。

 それで全てがハッキリした。この女が自分たちの居場所を漏らしたのだ。

 ショックを受けた様子で、ステマックスがトリプルチェンジャーを睨む。

 

「シャッター殿!?」

「ああ、悪いな……やはり勝ち馬に乗ることにした」

 

 陰湿な笑みを浮かべたシャッターはブラスターをステマックスに向けていた。

 

「そういうこった。世話になったな」

「傭兵よりも、兵士の方が向いてるからな!」

 

 それに加え、ブリッツウィングとドロップキックも武器を展開して、それぞれアフィモウジャスとサヴォイに向ける。

 ガルヴァトロンは、嘲りと怨み、そして愉悦が混ざった笑みを浮かべて秘密結社首領と地球人たちを見下ろしていた。

 

「貴様ら地球人がこのブリテンに乗り込んでくるのは分かっていた。それを手引きした裏切り者がいることも……」

 

 刃のように鋭く、それでいて地獄の業火のように燃える視線が、アフィモウジャスを射抜いてからサヴォイへと移る。

 

「お前とは前にも会ったな、地球人」

「貴様……!」

「一度は慈悲をかけてもらいながら、それを無碍にするとはな。……これで分かったろう? ()()()地球人類という生き物なのだ」

 

 嗤いを浮かべたまま、ガルヴァトロンは後ろに控えた誰かに声をかけた。

 その誰かが、重い足取りで進み出て破壊大帝の真横に並ぶ。

 

 それはサヴォイにとって、因縁深い相手だった。

 

 黒にオレンジの模様の入った、身体。

 胸には縦方向に二つに分かれた車のフロント部、肘や膝の関節にはタイヤ、背中にはマントのように配置されたドア。

 大きく丸い目は、複雑な感情で青く光っていた。

 

「よう。久しぶりだな、サヴォイのオッサン……」

 

 オートボットのホット・ロッドが、そこにいた。

 




今回の副題『異世界で地球舐めんなファンタジーしようとしたら、ボロ負けした件について』

なんか定期的に書きたくなるディセプティコン大暴れ回。
なお、輸送艦サンタマリア、巡洋艦ピンタ及びニーニャの艦名はアメリカ大陸を発見したコロンブスの船団に由来。
NESTが使ってる車両は、四駆装甲車がハンヴィーをベースにコンカレンスが開発した歩兵機動車『NESTナイトアタッカー』(GIジョーの同名のビークルがモチーフ)
バギーはセクター7が使ってた物(ランドマインやデューンランナーのビークルモードの奴)の流用で『NESTアサルトバギー』
……という無駄設定があります。

今回のキャラ紹介

マスター・ディザスター
NEST部隊の隊員。階級は大尉。
本名はメイソン・ディヴェルビス。オーストラリア出身。専門は秘密作戦。
軍隊学校を卒業後、特殊空挺部隊を経てフランス外人部隊にいたこともある優秀な傭兵。民間から軍事、レース用に至るまで、地上を走るあらゆる車を乗りこなす素晴らしい運転技術を持つ。
だが傲慢で自己中心的な気質で、生まれついての悪党とまで言われる(ディオ様?)
何等かの理由で戦争犯罪人として指名手配されていたが、NESTにスカウトされて同隊に加わった。

元ネタはヒューマン・アライアンスのドラッグストリップに付属するフィギュア。
さらにその元ネタはアニメイテッドの登場キャラ。違法レースを主催してテレビ番組に流していたという人。


ケイオス軍曹
NEST部隊の隊員。階級は二等軍曹。
本名、ブランドン・J・ケンドソヴァン。アラスカ出身。長距離偵察が専門。
元は米軍の特殊部隊に属していた有能な軍人だったが、金目当てに情報漏洩したことが発覚したため脱走。
マスター・ディザスターとは付き合いが長く、彼に比べると冷静沈着な性格。しかしロボットを破壊するのが大好きという危険な面もある。
出身地のような寒冷地をこよなく愛している。

元ネタはディザスターと同じくヒューマン・アライアンスのアイスピックに付属するフィギュア。NEST(本物)に属していたけど、金を貰ってディセプティコンに内通していた。
調べた限り、アイスピックとはワリと仲が良さそう。


上記二名の本名が、資料にさせていただいているサイトに記載されている物と違いますが、色々調べた結果正しい発音に近い形にさせていただきました(これが本当に正しい発音か自信はありませんが)


KSIセントリー
読んで字のごとく、KSI社が開発した人造トランスフォーマー。シボレー・トラックスに変形。
ゲイムギョウ界のトラックスとまったく同じ姿をしているが、彼らと違い個々の人格は持たない……つまり原作版。

前作でこのキャラをトラックスとして出したら、正式名称KSIセントリーということになったんで……。


その他、NEST部隊の皆さん
様々な人種、国籍の者がいるが、戦争犯罪者や元ゲリラなど実力はともかくロクデナシ揃い。
それもそのはず、彼らはゲイムギョウ界の人間から怨みを買って殺されるために集められたのだ。云わば報復という大義名分を得るための捨て駒。
もちろん、この事実はサヴォイなど一部の者しか知らず、サントスにさえ秘密にされていた。

何人か名前と容姿、経歴を設定してあるが出すかは不明。
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