新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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第56話 その姿は、父に似て

 時間はやや遡る。

 

 外敵が地球人であるということに気付いたホット・ロッドは、急いである場所に向かった。

 

「やはり、この街に引き入れるということで……」

「しかし、それでは街に被害が……」

 

 街の中央広場では、アーサーやディセプティコンが外敵への対策を話し合っていた。

 特にガルヴァトロンとミリオンアーサーの二人が中心になっている。この二人はマーリンの海岸で外敵を迎え撃つという作戦を早々に捨てて、オンスロートを交えて別の案を練っていた。

 

「ガルヴァトロン!!」

 

 そしてビークルモードで広場に現れるやロボットに変形したホット・ロッドの発した声に、ミリオンアーサーは驚いて、ガルヴァトロンは鬱陶し気に振り返った。

 

「ホット・ロッド?」

「なんだ……今は貴様に構っている暇はないんだが?」

 

 周囲の訝し気な視線に構わずガルヴァトロンに足早に近づいたホット・ロッドは、掴みかからんばかりの形相で相手を睨みつける。

 

「知っていたんだな……! 外敵のこと!」

「ああ、そのことか。もちろんだ、とだけ言っておこう」

 

 一瞬、さらに目を鋭くするホット・ロッドだったが、周囲の状況に気付き慎重さを取り戻す。

 ガルヴァトロンは未来からやってきた。地球人が最初に何処に現れるかも知っていたはずだ。

 だからこのブリテンで地球人を迎え撃つために軍団を組織した。

 クインテッサに命令された杖探しもあるだろうが、これがブリテンに拘る本当の理由だろう。

 

「で、それを知ってお前はどうする? 俺を責めるか? お得意の地球を守ると言いだすか? このブリテンを責めてくる連中を、守ると!!」

「ホット・ロッド、それにガルヴァトロンよ。そなたたちは何の話をしておるのだ?」

(しまった!)

 

 何処か得意げなガルヴァトロンと話しが見えずに困惑するミリオンアーサーに、ホット・ロッドは自分の失策を悟った。

 外敵はブリテンの人間にとって長いこと自分たちを脅かしてきた仇敵だ。それを守るなどという主張は利敵行為と取られかねない。

 ましてミリオンアーサーには地球を守るという目的を教えている。

 

「分かっただろう? この国でお前の言う事が、どれだけ愚かなことかな」

「……………」

 

 嘲笑を浮かべるガルヴァトロンへの悔しさと見通しの甘かった己への怒りを堪えて、強く拳を握る。

 ミリオンアーサーやチーカマが心配そうに見守るなか、ややあってホット・ロッドはどうにか言葉を絞り出した。

 

「…………この目で確認したい。外敵が本当に……俺たちが思っている相手なのか」

「ほう?」

「仲間たちには街の人たちが避難した砦を守ってもらう。手は出させない」

「いいだろう。ならば、俺の傍にいることを許す。特等席で見せてやろう……残酷な、真実という奴をな!」

 

  *  *  *

 

 そして話は現在に戻る。

 

 ダロスの街では、これ以上の抵抗は無意味だと投降したNEST隊員たちが、武装解除された上で縛られて地面に座らされていた。

 別行動をしていた者たちや、沈んだ輸送艦や巡洋艦から脱出することが出来たクルーたちも、同じように投降していた。

 別個捕えられたサントスも膝を突かされ、アフィモウジャスやステマックスたちは機械生命体用の拘束具を付けられている。ついでとばかりにワレチューとスパークダッシュも縄で縛られていた。

 

 ブリッツウィング、シャッター、ドロップキックの三人は、何食わぬ顔でディセプティコンの近くに立ち、バリケードに睨まれていた。

 

 また、ドローンたちはサンタマリアが轟沈した時点で動きを止めて、オブジェのように固まっていた。

 

「みな良く戦ってくれた! 我らの勝利だ!!」

 

 ミリオンアーサーたちが勝鬨を上げ、ディセプティコンたちも雄叫びを上げて勝利を祝う。

 そんな中、スカルクらインフェルノコンたちはガルヴァトロンの命令で、地球人の戦闘車両をせっせと一か所に集めていた。後でブリテンの兵に使わせるためだ。

 装甲車やバギーはともかく、トラックなどの大型車両は合体して運ぶ。

 

 オンスロートは、そんなインフェルノカスが担いでいる戦闘車両をジッと見つめていた。

 

 荷台部分に多連装ロケット砲を乗せた大型トレーラーだ。

 民生品を改造したらしいそれは、オンスロートのビークルモードであるレッカー車と同じ型だった。

 

 オンスロートはそれをスキャンして、ビークルモードを変更する。それに合わせてギゴガゴとという音を立てて背中にコンテナ型のロケットポッドが二基現れた。

 

「ああ……落ち着くのであーる。お前たちもどうだ?」

「生憎やがワイはこの車、結構気にいっとんのや」

「同じく」

 

 戦闘に適した乗り物をスキャン出来てご満悦なオンスロートだったが、バーサーカーやドレッドボットは変形した姿を変える気はないらしい。

 

 一方、オートボットたちは勝利に沸く輪から少し離れて何とも言えない顔で並んでいた。

 

「外敵の正体が地球人たあねえ……で、どうすんだよ?」

「どうもしねえよ。連中がブリテンに攻めてきたのは事実だ。ブリテンの人たちの采配に託すさ」

 

 クロスヘアーズの問いに、ホット・ロッドは苦々し気に答えた。自分で自分を納得させようとしているような声だった。

 事実、この場で彼らに口出しする権利はない。

 

「この世に絶対の正義などなく、また真実は常に残酷……というワケか」

「あの連中、どうなると思う?」

 

 エスーシャが皮肉っぽく言うと、シーシャはその場の全員に聞いた。その中で、ドリフトが首を横に振った。

 

「分からん。……が、碌なことにならないのは確かだ」

 

 くろめは、この場にはいない。彼女は体調が優れないとして、船で休んでいた。

 ……実際には、彼女は近くの建物の中から事態を伺っていた。

 サヴォイやサントスは地球にもう一人の天王星うずめがいることを知っている。自分が仲間たちを騙している事実が発覚するかもしれないと考えると、恐怖に身体が震えた。

 

 そのNEST部隊の隊員たちは、今や沙汰を待つのみだ。文字通り手も足も出ない。

 

「くそッ……」

「さてとだ、問題は連中が俺たちに人間的な扱いをしてくれるかどうかなんだが……」

「無理だろうな」

 

 サントスはがっくりと頭を垂れており、マスター・ディザスターは口調こそ軽いが冷や顔が引きつっている。ケイオス軍曹だけは、平静だった。

 サヴォイやアフィモウジャスは周囲に弁解することもなく、ムッツリと黙りこくっていた。

 

「すまないが皆、聞いてほしい」

 

 自らの戦果をやや満足気に眺めていたガルヴァトロンだったが、輪の中央に進み出ると声を張り上げた。

 今回の戦いの一番の功労者の声に、周囲がいったん黙る。

 

「ありがとう。……今回、勝てたのは皆の力添えがあったからこそだ。貴殿らのような素晴らしい戦士と共に戦えたこと、誇りに思う!!」

『おおおお!!』

 

 謙虚な言葉に、一同は多いに盛り上がる。

 しかし、マジェコンヌは肩を竦めた。

 

「よく言う……アーサーどものことは、端から足手まとい扱いしていた癖に」

「そこはまあ、言わぬが花という奴よ」

 

 ワイゲンド卿も苦笑交じりだ。

 ガルヴァトロンの話はそこで終わらない。

 

「しかし! こいつらは先発隊に過ぎない! 必ず、次の攻撃がある。そしてそれは、より大規模で、より残虐非道な物になるだろう!」

 

 その言葉に勝利の余韻に浸っていたアーサーたちの空気が代わり、ホット・ロッドがピクリと眉を吊り上げた。

 

「それを凌いだとしても、次の数十年後、奴らは必ず戻ってくる! このブリテンを、世界を焼き尽くすために!! 想像してほしい。村々が焼かれ、子や孫が、こいつらに蹂躙される姿を!!」

 

 力強い仕草を交えて、ガルヴァトロンはNEST部隊を視線で刺した。それと同調するように、アーサーや兵士たちは侵略者たちを睨んだ。

 いつかと同じ展開に、サントスの頬を冷や汗が伝わる。

 

「侵略者を許すな! 先人たちの無念と怒りを思い出せ! 外敵のせいで、どれだけの物が失われたかを! どれだけの血と涙が流れたかを!!」

 

 言葉巧みに、ガルヴァトロンは周囲を煽っていく。全身から稲妻が迸り、目が赤々と燃え上がる。

 

「今こそ明かそう! 我々が外敵と呼ぶ、敵の正体……それは別の世界『地球』からやってきた地球人だ!!」

「地球人……!」

「それが外敵の、本当の名前か……!」

「なんだと!?」

 

 アーサーたちの間に衝撃が走る。特にミリオンアーサーはホット・ロッドの方を問うように見た。

 このブリテンに住む者にとって、外敵は長らく脅威であったがそれがどういう存在か知る者はいなかった。

 しかし今や、伝説上の怪物、あるいは一種の災害のように思われていた外敵は、具体的な敵対者となった。つまり怒りや憎しみをぶつけることが出来る相手にだ。

 

「奴らは強欲で、残虐で、諦めるということを知らない! 奴らがいる限り、このブリテンは脅かされ続けるのだ!!」

 

 しかし、ここでガルヴァトロンは急に穏やかな声を発した。

 

「俺は、この国が好きだ。この国と世界に生きる人々が好きだ。嘘偽りなく守りたいと思っている……」

 

 慈しみに満ちた声は、深く深く、聴衆の胸に沁み込んでいった。

 そして胸に手を当て、再度声を上げる。

 

「だからこそ! ここで俺は皆に約束しよう! この悲劇の繰り返しに、永遠に終止符を打つと! もう二度とブリテンが、外敵に襲われずに済むようにすると!! この身に流れる、父母の遺伝子に誓って!!」

「……ガルヴァトロン!」

 

 最初に拳を突き上げその名を呼んだのは、ワイゲンド卿だった。

 続いて、兵士たちが、他のアーサーたちが拳を上げる。ディセプティコンも半数以上はよく分かっていないながらも声を出す。

 

「……ガルヴァトロン!」

『ガルヴァトロン! ガルヴァトロン! ガルヴァトロン!!』

 

 辺りは、ガルヴァトロンの名を叫ぶ声で満たされていく。それはまさに、彼の父親の似姿であった。

 熱狂に浮かされる場であったが、マジェコンヌとバリケード、オンスロートは苦い顔をし、バーサーカーとドレッドボットは興味無さげで、トリプルチェンジャーたちは冷めた顔だった。

 モホークは深く考えずに万歳三唱していた。

 

 ミリオンアーサーも、シュプレヒコールにこそ加わらないが、ガルヴァトロンの器を計るかのように黙っていた。

 

「はあん、中々の演説だな。だけどなんつうかこう、メガトロン様の演説と違ってビビッ!とこねえんだよなあ」

 

 一方、未だメガトロンを信奉するニトロ・ゼウスは、したり顔で顎を撫でていた。

 ホット・ロッドは周りの仲間たちからの視線に痛みを感じながらも、何も言わずにグッと堪えていた。悔しいが、この場はアイツの勝ちだ。

 

「ねーねーボスー! それでさー、こいつらはどうすんの?」

 

 そこで空気を読まないモホークが、手に持ったナイフに切っ先を地球人たちに向けた。

 するとガルヴァトロンは我が意を得たりという顔をした。

 

「そいつらには、相応の報いが与えられるべきだ。……そう思わないか、皆!」

「そうだ! 報いを!」

「侵略者を許すな!!」

「罪には、罰を!!」

「殺せ!」

 

 ガルヴァトロンからの問いかけに、アーサーたちは剣を振り上げて堪えた。

 いよいよ状況がまずくなっていることに気付き、NEST隊員たちは身を捩って逃げようとするが、それも敵わない。

 

「待て! それは……!」

『殺せ!』

『殺せ! 殺せ! 殺せ!!』

 

 さすがにミリオンアーサーは同胞を止めようとするが、彼女の声は周囲の殺意に飲み込まれた。

 アーサーや兵士たちは、武器を手に地球人たちに近づいていく。

 

 ……この時、建物の中にいるくろめは膝を抱えて震えていた。

 それはガルヴァトロンや狂気に飲まれる群衆を恐れているからではない……いやそれもある。

 

 化け物と恐れられ、罵られ、排斥される。異物を、異端を、異常を、消してしまえと叫ばれる。

 

 怒りの声を上げる民衆は、否が応でも彼女の過去を思い出させた。

 

 だがそれ以上に、くろめを恐怖させるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだった。

 くろめは、ホット・ロッドたちに自分が地球の天王星うずめでないことが発覚するのを恐れている。そうして彼らから怒りや蔑視を向けられ、孤立することを恐れている。

 

 ならばそうならない一番早い方法は、くろめの正体を知っている人間がいなくなること、つまり死ぬことだ。

 

 どれだけ否定しても、無意識化にそれを願っていないと断言することが、くろめには出来なかった。

 

(大丈夫だ……オレは悪くないさ)

 

 部屋の中に置かれた姿見の()に映ったくろめが囁きかける。優しく、甘く、毒々しく。

 

(あいつらは侵略者だ、消えて誰が損をする? 第一、あいつらはロディを苦しめたんだぜ?)

「そうだ……あいつらが悪いんだ、あいつらが……!」

 

 鏡像の声に呼応するかのように、くろめの身体から黒いオーラが噴き上がる。

 それと比例するようにして、外の人々の怒り声は強くなっていく。

 

『地球人に、死を!』

『死を! 死を! 死を!!』

「待ってほしい!!」

 

 だが、それを止める者がいた。

 その声は、群衆の声にかき消されることはなく、その場にいる全員の耳に届き、怒り狂っていたはずの人々の動きを止めた。

 自然とその声がした方に皆の視線が向くと、そこにいたのはホット・ロッドだった。彼自身、何故こんなことをしでかしたのか分からないようだった。

 しかし、すぐに意を決して前に進むと、人間たちは自然と道を開けた。

 

「ち、ちょっと。今はまずいんじゃ……!」

「おい、坊主。てめえ、さっきブリテン人に任せるって言ったばっかりだろうが……」

 

 シーシャとクロスヘアーズが止めようとしたが、ホット・ロッドは歩みを止めなかった。

 ドロップキックが止めるついでにユーリズマのお返しをしてやろうとするが、バリケードがそれを止めた。他のディセプティコンたちは、他人事のような顔をしていた。

 目の前までやってきた若いオートボットに、ガルヴァトロンは怒りを堪えるような顔で問う。

 

「ああどうも聴覚センサーの調子が悪いようだ。貴様今、何か言ったか?」

「待ってほしいと言った。()()はやり過ぎだ」

 

 その射るような視線を真っ向から受け止め、ホット・ロッドは断固として言った。

 

「捕虜を数に任せて甚振るなんてのは、間違ってる」

「正気か? いや、正気なはずがないな……こいつらは、侵略者だぞ! 明らかに、このブリテンに攻撃を仕掛けてきた!!」

「そして、それを防いだ! なら、そこで戦いは一旦終わりだ!! ……ミリアサ!」

「む、むう!?」

 

 急に話を振られて、ミリオンアーサーは一瞬虚を突かれたような顔をするが、すぐに平静さを取り戻す。

 

「なんだろうか?」

「このブリテンで、捕虜の扱いについて取り決めはあるのか?」

「ああ、しかし……このブリテンでは捕虜の処遇を決められるのはその場の指揮官だ」

 

 目を伏せるミリオンアーサーの答えに、ホット・ロッドの目が鋭さを増し、逆にガルヴァトロンの口角が上がる。

 

「そういうワケだ……第一、これはブリテンの問題だ! 貴様にとやかく言う資格はない、すっこんでろ部外者!!」

「いや、彼は部外者ではない!」

 

 王候補の証たるエクスカリバーを抜き、ホット・ロッドに見せつけるガルヴァトロンだったが、それにミリオンアーサーが異を唱えた。

 彼女に目配せされて、チーカマが声を上げる。

 

「彼は『炎の戦士』よ! かつてマーリンが……キャメロットで寛いでいるアイツではない、本物のマーリンが予言した、ブリテンの危機を救う救世主よ!!」

「炎の戦士……?」

「あの、マルジンの夢物語の?」

 

 この言葉に驚いたのは、ガルヴァトロンやディセプティコンたちではなく、むしろブリテン人たちの方だった。

 炎の戦士の伝説は、ブリテンで広く知られている。しかしそれは子供向けの寓話としてだ。

 懐疑的な者や、失笑するような者が多いが、さっきまでの熱狂は冷めつつある。

 

 ガルヴァトロンは、拳を強く握り締めた。その瞳が小さく窄まっていく。

 

「炎の戦士だと? 救世主だと? ……いや、そのことはいい。なぜこいつらを庇う!」

 

 ガルヴァトロンが手で地球人たちを示すと、同時に稲妻が迸り捕虜たちのすぐ目の前の地面を焼いた。

 

「貴様とて、こいつらの卑劣さは嫌というほど見ただろうが! この男たちなんぞ、お前に温情をかけてもらいながら、それを裏切ったのだぞ!!」

「俺だって、それは悲しいし残念だよ……でもそれとこれとは話が違う」

 

 静かな返答にサントスは恥じ入ったように顔を伏せ、サヴォイの鉄面皮に苦々しさが混じる。

 

「こいらは第一陣だ! すぐに次の攻撃が来るぞ!!」

()()()()()()()()()()()! お前だってそこのオッサンの話を聞いただろう!! 地球にいるこいつらの黒幕は、こいつらが殺されればそれを大義名分に報復攻撃してくるつもりだってな!!」

 

 地球人たちの間に動揺が走った。

 サントスは信じられないと言う顔で隣のサヴォイを見たが、当の本人は鼻を鳴らしただけだった。

 

「ならば、こいつらを生かしておけば攻撃してこないとでも? あり得んな! 必ずまたやってくる!」

「そりゃそうであるが、せっかくの捕虜を情報も引き出さずに殺すのはナンセンスである」

 

 助け船は意外な所から現れた。

 オンスロートの戦術家としての視点からの意見は理に適った物であり、ガルヴァトロンと言えど無碍には出来なかった。

 

「いいだろう! こいつらは尋問に掛ける! 外敵からブリテンを護るためにな……」

「テメエの言う護るってのがどういうことか、分かってる。そこもハッキリさせとこう……みんな聞いてくれ! ガルヴァトロンのいう外敵に襲われない方法っていうのは、つまり外敵の世界を滅ぼすことなんだ!!」

 

 ホット・ロッドは振り返ると、その場にいるブリテンの人間たちに訴えた。いくらなんでも、世界を滅ぼすなんてことが許されるはずはない。

 

 しかし、彼らの反応は芳しくなかった。多くの人間は、それの何処が悪いのか、分からないという顔をしていた。

 

 当たり前だ。

 

 彼らは先祖代々、外敵に苦しめられてきた。

 両親や祖父母がその犠牲になった者もいる。

 

 ガルヴァトロンは今度こそ、目の前の相手の愚かな考えを嘲笑った。

 

「ハッ! 大した救世主様だ! ブリテンではなく外敵の味方をするとはな……いいか、これは正当な復讐だ! 奴らこそ全ての元凶! 悪の権化! 先祖の無念を晴らし、血の報いを受けさせるのだ!! 奴らの滅びを持ってして!!」

 

 その言葉に、民衆が歓声を上げた。

 このブリテンでは、少なくとも彼の言葉の方が理想論よりも受け入れられていた。これが民意なのだ。

 

「……ふざけんじゃねえッ!!」

 

 だが、雷鳴の如き怒声に群衆がピタリと黙り込んだ。

 そこまで見世物でも見ているかのようにしていたディセプティコンたちが、ビクリと震え我知らず居住まいを正す。

 斜に構えたブリッツウィングやシャッター、いい加減なモホーク、万事興味なさげなバーサーカーでさえ、背筋を伸ばさずにはいられなかった。

 

「ふざけんじゃねえ!! それじゃあ、()()()()()()()()だろうが!! 復讐や正義に酔って攻撃しちまったら……それはもう、こっちが地球人にとっての()()になるってことだろうが!!」

 

 彼の脳裏には、あのフェミニアで見た悪夢が蘇っていた。

 ゲイムギョウ界を憎み、自分たちの不幸の全てはゲイムギョウ界に責任があると叫んでいた、天王星うずめの声と地球人の所業。

 

 今ここで行わそうになっているのは、立場を逆転させただけで、それと全く同じことだ。

 

「ブリテンが好きだと言ったな! ここにいる人間が好きだと! ならお前はその好きな人間たちを、外敵と同じ怪物にしちまう気か!?」

「それは発想の飛躍だ! 我々は、この世界を守るために戦う! 殺すことだけが目的のこいつらとは、根本から違う!!」

「違う? ……なら、おいあんた!」

 

 ガルヴァトロンが吼え返すと、ホット・ロッドは只々ムッツリとしているサヴォイに声をかけた。

 

「あんた、家族はいるかい?」

「何を唐突に……」

「いいから答えろ、重要なことだ」

「……………姉と、その一家が」

 

 これまでとは打って変わった静かな声での問いに、しかし凄まじい圧を感じ、サヴォイは嫌々ながらも答えてしまった。

 

「そうかい。なら、その姉さんたちも、あんたみたいなのか? 人殺しで銃とか拷問を生業にしてる感じの、人でなし?」

「姉を侮辱するな! 姉たちは俺なんかとは違って真っ当に生きてる!!」

「そっか。その姉さんたちが殺されたら、どうする?」

「姉さんたちに手を出してみろ……地の果てまで追い詰めて思い知らせてやる!!」

 

 何処か挑発するような声にサヴォイは青筋を立てて怒鳴る。彼にとって、薄暗い道を歩む自分と違い日の当たる場所で生きている姉一家は精神的な救いだった。

 その反応にホット・ロッドは、重々しく頷いた。

 

「つまり、そういことなんだ。なるほど()()()()()侵略者だ。俺の目線から見ても、正直好きになれないし、相応の罰を受けるべきだと思う」

 

 さほど大きくもなく静かな声は、しかし群衆の間に広まっていった。

 

「でもそうじゃない奴らも、死ぬほどいるんだよ。ブリテン人と同じ、家族を愛し、友達と笑い合い、精一杯生きてる………『人間』がさ」

 

 群衆は、振り上げていた武器を降ろしてその声に聞き入っていた。

 その言葉を、クロスヘアーズとドリフト、シーシャとエスーシャが聞いていた。

 通信越しに、バンブルビーとビーシャにネプギア、ハウンドとケーシャも聞いていた。

 

「そんな人間を殺しちまったら、それはもう復讐だの報復だのの域を超えちまうんだ! それでもやるってんなら、俺は……俺はブリテンの皆とだって、戦う!」

 

 その宣言は、ある意味では裏切りと言えるかもしれない。

 護ると誓った相手と、その敵のために戦おうと言うのだから。

 

 それでも、ホット・ロッドは堂々と胸を張って言い切る。

 

「俺はまだ、ブリテンに来て日が浅い……それでも、ここには友達がいる。優しい人たちにも出会えた。俺はそんな人たちに、理不尽をばら撒く怪物になってほしくない!!」

 

 相棒の声を建物の中から聞いていたくろめは、我知らず涙を流していた。

 何時か聞いた、ネプテューヌの言葉が思い出される。

 

(いつか……いつか必ず、他の人なら目を背けるような辛い選択肢を自分以外のために選ぶ。そんな時が、ロディマスにもやってくる)

 

「馬鹿だなぁ。もっと楽な生き方なんて、いくらでもあるのに。でも、そうだね……君はそういう奴なんだ」

 

 何だか自分が小さく思えて、涙をこぼしながらも笑ってしまった。

 

『ああ全く、そうきたか。自ら苦難の道を征く……だが、それでこそ! それでこそだ!』

 

 鏡像のくろめは苦笑混じりに、しかし酷く楽しそうに笑いながら消えていった。

 

 この時、ディセプティコンたちは奇妙な感覚に陥っていた。胸の内の奥深くが熱くなるような、そんな感覚だ。

 言っていることも、姿かたちも、まるで似ていない。しかし、どうしても重ねてしまう存在がいる。彼らにとって、絶対とも言える存在が。

 単眼でも信じられないと思っているのが分かる顔で、ニトロ・ゼウスが呟いた。

 

「め、メガトロン、様……」

 

 遠い遠い昔、彼の破壊大帝は戦いを起こした。

 星を焼き、種族を滅びの危機に陥れ、数え切れない命を奪った。

 

 だが誰もが、当のメガトロンさえも忘れ去っているかもしれないが、彼は最初、虐げられる者、苦しめられる者を救うために立ち上がったのだ。

 

 ならば、理不尽に立ち向かい我を通そうとするホット・ロッドの姿は、どうしようもなくディセプティコンの王を思い起こさせた。

 

 ガルヴァトロンは、金属表皮に指先が食い込むほど拳を強く握りしめていた。彼自身、弟の言葉や振る舞いに父の面影を強く感じたからだった。

 彼の『メガトロンっぽさ』は必死に努力して身に着けた物だが、ホット・ロッド……ロディマスのそれは生まれ持った資質だった。

 

「あいつはいつもそうだ……口では反発してばかりの癖に、あいつが一番、父上に似ている……!」

「ガルヴァトロン……」

 

 絞り出すような低い声から単純な嫉妬や劣等感とも違う、もっと屈折した感情を察して、マジェコンヌは痛ましげに彼の足に手を置いた。

 皮肉なことに、兄弟と自分を比較して奥歯を噛み締める横顔は、神聖視する父のそれによく似ていた。

 

「炎の戦士、救世主か……」

 

 ミリオンアーサーもまた、ある種の羨望と憧憬に近い何かを、ホット・ロッドに感じ初めていた。

 戦いの狂気は、雨に降られた焚火のように、すでに群衆の中から消え去っていた。

 

 地球人たちは、各々思う所はありながらも袋叩きにされることは回避できたことにホッとしていた。

 この上、この場で何かしようと言う者はいなかった。

 

 

 たった一人、アフィモウジャスを除いては。

 




何故かホット・ロッドとガルヴァトロンが口論するだけで話しが終わってしまった……。
いやしかし、今回のホット・ロッドの行動は読者様のヘイト買いそうです(客観的に見ても悪辣な侵略者を庇ってるワケだし)

でも、ここでリンチを見過ごしたら、英雄にはなれてもヒーローにはなれないと思うんです。

なお、オンスロートが新たにスキャンしたトレーラーは、今までのビークルモードであるレッカー車と同じ車種で、クレーンの代わりに6連装のロケットポッド×2を乗っけた架空車両。ロケットと言いつつ、オンスロートが出すのは多分ミサイル。
いやほら、やっぱりもうちょっとマトモな軍事兵器にしてあげたくて。
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