新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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第57話 不穏

 外敵の襲来を退けたダロスの街。

 建物などは破壊されたものの、街の住人に被害はなく、日も暮れ始める頃には街に戻ってきた。

 アーサーたちは評議会が議事堂として使っている建物で、評議会が用意した礼服やドレスを纏って豪勢な食事や音楽を楽しみ、兵士たちは外でもっと庶民的な酒盛りに興じていた。

 シーシャとエスーシャ、ようやっと合流したネプギアとビーシャは、ミリオンアーサーに招待される形で議会堂に宴に参加している。

 

 未来のブリテン王曰く、こんな綺麗所が揃っているのに着飾らないのは罪だとのこと……サポート妖精に白い目で見られたのは言うまでもない。

 

 そしてオートボットたちはと言えば、議会堂の外でささやかなオイル盛りをしていた。まあ、纏め役のハウンドを欠いているので半ば喧嘩大会である。

 一方ホット・ロッドは浮かない顔で壁に背を預けていた。果たして自分のしたことは正しかったのだろうか。

 

「……なーに、しょぼくれた面してんだよ、テメーはよー!」

 

 その肩を、クロスヘアーズが思い切り叩いた。

 

「いたッ!」

「やっちまったことを何時までもクヨクヨしてんじゃねえ! ……胸を張れよ。さっきのありゃあ、テメエの勝ちだ」

 

 無理矢理肩を組んだクロスヘアーズは、不意に真面目くさった顔で言った。その反対側にドリフトも並ぶ。

 

「然るに。まあ、まだまだオプティマスには遠く及ばぬがな」

「……そりゃあそうさ」

 

 不器用な励ましに、胸が熱くなる。

 やっと合流できたバンブルビーも、オイル缶を掲げておどけて見せる。彼もまた、ホット・ロッドの言葉を通信越しに聞いていた。

 

「乾杯だ、炎の戦士に!」

『炎の戦士に!』

 

 からかい半分に、オートボットたちは杯を掲げる。残りの半分は、本気だった。

 

「おお、ここにいたか」

 

 そこにミリオンアーサーがやってきた。

 いつもと違い、肩の出たデザインの赤いドレスで着飾っている。

 

「どうしたんだミリアサ? パーティに出てたんじゃ?」

「うむ。ちょっとそなたに話があってな、抜け出してきた」

 

 肩の出たデザインの赤いドレスを着たミリオンアーサーは、若きオートボットの前に立って彼を見上げた。

 

「……なあホット・ロッドよ。そなた、この国の王を目指してみる気はないか?」

「はい?」

 

 いきなり放たれた言葉に、ホット・ロッドは目を丸くする。それは周りのオートボットたちも同じだった。

 冗談かと思いきや、彼女の目は真剣そのものだ。

 

「昼間の一件で確信したのだ。そなたには人の上に立つ資質がある」

「ないよ、そんなもん。エクスカリバーだって抜けなかったしな」

 

 王を選定する剣に選ばれなかった者に、王足る資質はない。それはブリテンの常識のはずだ。

 

「正直な所、マーリンやチーカマのこともあって、わたしは剣による王の選定に疑問を持ち始めている……わたしに抜けて、そなたに抜けないということに酷い矛盾を感じるのだ。何より、そなたはブリテンの救世する炎の戦士だ」

「その予言とやらも俺は信じてないけどな」

 

 本気で理解できないと言う顔のホット・ロッドは屈んでミリオンアーサーに視線を合わせた。

 

「もし仮に……仮にだぞ! 予言がまるっと全部正しかったとして、俺がその炎の戦士だとして、だから王様なんて可笑しな話だろう? 自分で言うのもなんだけど、俺はこの連中纏めるのにも四苦八苦してるんだぞ」

「纏まってねえけどな」

 

 クロスヘアーズに茶化されるものの、ホット・ロッドは真剣だった。

 しかしそれはミリオンアーサーも同じだ。

 

「そこらへんは周囲の者にやってもらえばいい。自分に出来ること出来ないことを把握し、無理なことは人にしてもらうというのも、王に必要な能力だ」

「そういう問題じゃない。……何より、俺が知る限り最もブリテンの王に相応しい人間は、俺の目の前にいる女性だ」

 

 心底からそう思っているのだと言う気迫の籠った声と視線に、ミリオンアーサーは我知らずたじろいでしまう。

 

「それは聖剣を持っているからじゃない。君がこの国を愛しこの国のために行動できるからだ。例え出合ったのがミリオンアーサーではなく剣を持たない、唯のヴィヴィアン・ウェイブリーだったとしても、俺は同じように思ったはずだ」

「……唯のヴィヴィアン・ウェイブリーでもか」

 

 だが、それでもミリオンアーサーは複雑そうな笑みを浮かべた。その言葉をどう受け取っていいのか、吟味しているような顔だ。

 

「なあおい、アイツ傍から聞いてるとスゲエ臭い台詞吐いてんだけど?」

「うん。ラノベの鈍感系主人公、みたい」

 

 脇で聞いていたクロスヘアーズとバンブルビーが呑気な会話をしているが、ドリフトは思う所があるようで、険しい顔だった。

 少しの間黙っていたミリオンアーサーだが、やがて根負けしたように息を吐いた。

 

「高潔だな、そなたは……眩しいくらいだ」

「オプティマスの真似をしているだけだよ。それにようは権力面倒臭いっていう、アレさ」

「ヤレヤレ系、ですね、分かります」

 

 今度はバンブルビーが茶化すと、ミリオンアーサーは少し苦笑し、それから思案した。

 

「いや、そなたは騎士に……因子から生み出され存在を指す言葉ではなく人が尊ぶべき美徳、すなわち勇気、高潔、誠実、慈悲、礼節、そして強い信念の体現者としての騎士の称号に相応しい」

「美徳がどれも足りてるか不安だが……ブリテン王の御心とあらば」

 

 少し冗談めいた態度で頭を垂れるホット・ロッドだが、ミリオンアーサーは一切真剣さを崩さず、エクスカリバーを呼び出してその腹で目の前の巨人の左右の肩を順に叩き、頭の上に翳した。

 これは正式な作法だった。

 

「汝、ホット・ロッド。あるいはロディマス。ブリテン王候補ヴィヴィアン・ウェイブリーの名において、汝に騎士の勲位を授ける……王ならぬ身故、前払いで」

「謹んで拝領致します、王よ」

「あー! こんなトコにいた!!」

 

 その時、高い声が聞こえた。

 見れば白いドレスを着ているチーカマがこちらに駆けてくる。

 いつもよりも露出度が低くなっているが、しかしそれが逆に外見年齢相応の可愛らしさを与えていた。

 

「もう、探したのよ! 急にいなくなって!」

「ああ、すまん」

 

 相方を叱るサポート妖精は、後ろにネプギアとゴールドサァドたちを連れていた。当然の如く、全員がドレスを着てめかし込んでいる。

 シーシャはスカートに大胆なスリットの入った群青色のドレスを着ていた。酒が入っているのか、頬に朱が入っておりいつも以上に色っぽい。

 

「ね~え、どう? このドレス、似合ってるかな~?」

「ケッ! 知らねえよ!」

「ちぇ、釣れないな~」

 

 スカートの裾を摘まんで生足を見せるシーシャだが、クロスヘアーズの態度にちょっと口を窄める。

 

「え、エスーシャ殿……」

「…………」

 

 いつも通り無口なエスーシャだが、今日は黒いドレスを着ている上に、唇にルージュを塗っているので、いつもとは雰囲気が大分違っていた。

 薄手のストールを羽織っていることも、彼女の謎めいた気品を引き立てていた。

 

「可憐だ……ハッ! い、いや今のは、その!」

「…………」

 

 そんな姿に思わず見惚れてしまい、慌てて取り繕おうとするドリフトを見て、エスーシャは僅かに頬を染める。

 何事にも興味ないと言う彼女だが、褒められて悪い気はしないらしい。

 

「おーっす、ビー!」

「みなさん、どうも」

「お二人さん、いらっしゃーい!」

 

 今やすっかり仲良しのビーシャとネプギアもやってきて、バンブルビーとグータッチする。

 彼女たちはユーリズマでも着ていた清楚な白いドレスと、フリルのたくさん付いたレモン色のドレスだ。

 

「で、どうしたんだい、みんな?」

「んー、何だかあっちのパーティは堅苦しくてねえ……ミリアサもいないし、ちょうどいいから抜け出してきちゃった」

「うんうん。何だかあんまり楽しくないし。……それにガルヴァトロンもいるし」

 

 さて、パーティにお呼ばれしているはずの彼女たちが、なぜこちらに来たのかホット・ロッドが問うと、シーシャとビーシャが答えてくれた。

 確かにガルヴァトロンと顔を合わせているのは、余り楽しいことではないだろう。

 

 そこでビーシャは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「それとね……さあ、出てきなよ!」

「ッ!」

 

 彼女に手招きされて建物の影から現れた人物に、ホット・ロッドは息を飲んだ。

 

 美しいドレスを纏ったくろめが、そこにいた。

 青紫色のシンプルながらも優美なドレスで、胸元にはシェアクリスタルを模した飾りがあしらわれていた。

 普段は二つに束ねている髪を解き、青い薔薇の髪飾りを付けている。

 

「どう? どう?」

「素敵でしょう? みんなで選んだドレスなんですよ」

 

 ビーシャとネプギアに声をかけられても、ホット・ロッドはポカンと大口を開けていた。

 それをどう取ったのか、顔を赤くしたくろめは目を泳がせる。

 

「うう、笑いなよ。自分でも似合ってないのは分かってるんだ……」

「そんなことない。凄く……綺麗だ。まるで闇夜に輝く星が地上に降りてきたかのようだ」

「ッ! ううう……ズルい。そういうの、凄くズルい」

 

 思わず出た素直で甘い言葉に、くろめはより顔を赤くして拗ねたような顔をしていた。馬鹿な台詞だと自分でも思うが本当にそう思ったのだ。

 

 今のくろめは、まさしく花鳥風月にも並ぶ美を湛えていた。

 

「うむうむ、やはり着飾った美少女は素晴らしい。野に咲く花も美しいが、丹念に育てられた薔薇にも別の魅力がある」

「はいはい……すっかりいつも通りね」

 

 見目麗しい少女たちを眼福とばかりに眺める相方に、チーカマは少しだけ安心した。最近、どうも様子が可笑しかったから。

 

「おー、やっぱ台詞が臭いぞアイツ」

「はーいいねえ、若くて」

「今どき、ラノベでも、言わない」

「ああいうこと言うのは、だいたいヤラレ役だもんね」

「そんなこと……あるかも?」

「破廉恥な……」

「興味な……少しあるね」

 

 月に照らされてはにかむ二人を、一同は何とも微笑ましい物を見る目で眺めていたのだった。

 

 夜は更けていく。

 

  *  *  *

 

 同じころ、議事堂の一番高い塔の上のバルコニーに、ガルヴァトロンが立っていた。

 その手には、彼の掌に収まるサイズの水晶玉のような球体が握られていた。

 

『いったい、いつになったら杖を手に入れられるのですか?』

 

 その水晶玉から、囁くような声が聞こえる。しかし水晶玉を持つガルヴァトロン同様、声の主であるクインテッサも随分と不機嫌そうだった。

 

『ヒーローごっこをさせるために、貴方を救い出したのではありませんよ? 肉ケラどものことなど、放っておきなさい』

「そうもいきません。物事には順序という物があります」

『順序を決めるのは、この私。貴方はただ黙って従っていればいいのです』

 

 慇懃な態度で言い含めようとするガルヴァトロンだが、今回はクインテッサも引き下がらない。水晶玉に映し出される彼女の触手が危険に蠢いている。

 仕方ないと、ガルヴァトロンは黙っていようと思っていた情報を打ち明けることにした。

 

「此度の戦いで捕えたアフィモウジャスなる男、奴はこの地を治めていた領主の子孫でした。奴が杖へと続く鍵の一つ、調和の(エニグマ・オブ)エニグマ(・コンビネーション)を隠し持っていたのです」

『それで?』

 

 しかし、創造主の機嫌は直らない。

 彼女が欲しいのは杖だ。鍵の内のたった一つではない……いやたった一つ、どうしても取り戻したい遺物はあるが。

 

「明日にはシャッターたちの案内で調和のエニグマが隠されている場所に赴きます。我らは一歩一歩ではありますが杖に近づいております」

『一歩一歩! いったい杖までに何千、何万歩かける気です! ……この役立たずの無能め!!』

 

 クインテッサがついに苛立たしさを隠さなくなった。金属製の顔を恐ろし気に歪め、青い目を狂気に光らせる。

 しかしガルヴァトロンに動揺はない。

 

「その無能に頼らねば目的を達成できぬ方の言葉とは思えませんな」

『口先ばかりのカカシめ! ……いいでしょう! ならば私にも考えがあります! 貴方のような愚物ではなく、もっと頼りになる者たちを其方に向かわせることにしましょう!!』

 

 創造主を自称する存在の言葉に、ガルヴァトロンは怪訝そうな顔になる。

 以前も似たようなことを言っていたが、この孤独で傲慢なプライムに、まだ使える駒があったのか?

 しかも『者たち』と言うからには複数いることになる。

 

『その者たちは貴方と違い速やかに、且つ確実に使命を果たしてくれるでしょう!! その時に切り捨てられたくないのなら、ガルヴァトロン! その者の補佐に回るのです! 役立たずでも、それくらいは出来るでしょう?』

 

 一方的に捲し立てたクインテッサは返事を待たずに通信を切ってしまった。

 

「大した創造主だ」

 

 顔をしかめて水晶玉を覗いていたガルヴァトロンの傍に、柱の影で一部始終を聞いていたマジェコンヌがやってきた。

 彼女は黒を基調として紫の薔薇をあしらったドレスを纏い、ワインの入ったグラスを右手で揺らしていた。

 

「あれで支配者の器のつもりか……いや私も人のことは言えんのは分かっているがな。しかし、支配するにも相応の格という物が必要だろう」

「ああ、そうだな」

 

 呆れたような調子の言葉に、ガルヴァトロンは我知らず表情を曇らせる。昼間のホット・ロッドとの一件を思い出しているのは明らかだった。

 そんな破壊大帝に、マジェコンヌはワインを一口飲んでから問う。もう随分と飲んでいるようだった。

 

「で、貴様の格はいかな物か?」

「少なくとも、父上には遠く及ばぬことは理解している」

「……あまり良い答えとは言えないな。男なら父超えくらい目指してみろ」

 

 余りにこぢんまりとした答えに顔を顰めるが、この男にそれを言っても仕方がないのも分かる。

 生者は死者に勝てない。思い出は美化され、決して追いつくことは出来ない。

 この男にとって父メガトロンとは、そういう存在だ。おそらく物心付く前に両親を失ってしまい、幼少期のそれに近い世界で最も偉大な存在というイメージのままで固定されているのだ。

 

「そもそも俺は支配者としての格など欲していない」

「よく言う。昼間はとてもそうは見えなかったぞ……弟を見る、あの顔よ!」

 

 痛い所を突かれたか顔を顰めるガルヴァトロンだが、マジェコンヌは臆さず続ける。

 

「ま、私の見た限り貴様もそう捨てたもんでもないさ。ジャールでは上手くやってるじゃないか。ワイゲンドはな、割と本気でお前に王になって欲しいと思っているぞ」

「ただブリテンを護るために軍団を作る必要があっただけだ。ワイゲンド卿は信頼に足る男だが、そこはハッキリさせておいたはず」

 

 振られた話題に、ガルヴァトロンは困ったように答えた。

 しかし、その答えはマジェコンヌからすれば酷く気迫に欠けているように聞こえた。

 

「いいじゃないか、仮に……仮にだぞ? 杖を手に入れられなかったとしても、この地でなら地球人の侵攻を水際で食い止められる。事後の策としては悪くなかろう」

「…………」

「不満そうな面だな。なら復讐を終えた後で、この地を治めればいい。生涯は長いのだ……貴様らトランスフォーマーのは、特にな」

「復讐を終えた後など、ない」

 

 酒が入っていることもあって冗談交じりの提案だったが、返ってきた答えに酔いも醒めた。

 

「地球人どもを滅ぼせば、悲劇は回避される。そうすれば全てなかったことになる。俺がこうして過去に戻ってきた事実もな」

「ッ! ではそうなれば貴様は……」

「ああ、消えてしまうだろうな。というより最初からいなかったことになるか」

 

 何てことないように、むしろそれを望んでいると言った調子でガルヴァトロンは言った。

 

「安心しろ、お前たちのことは考えてある……とは言えないな。タイムパラドックスがどうなるかは未知数だ」

「そういう問題ではない!! 貴様はそれでいいのか!? 自分が消えるのだぞ!」

 

 たまらず、マジェコンヌは吼えた。

 彼女にとってガルヴァトロンの言う事は、到底受け入れられる物ではなかった。

 

「そのために来た。あの最悪の未来を消すことが出来るのなら、俺と……弟の存在など取るに足らん」

「ふっざけるなぁあああ!!」

 

 強い決意と同時に、何処か虚無的な響きを感じさせるという矛盾を孕んだ声に、マジェコンヌは怒髪天を突く。

 その自己犠牲とも捨て鉢とも付かない在り方に、かつて失った友……天王星うずめが重なったからだった。

 

「なんだそれは!! じゃあ貴様は死ぬために戦うというのか!!」

「違う、この俺は消えるが、父上や母上と共にいる幼い俺は残る……」

「同じことだ!! 私はな、そういう自己犠牲とか大っ嫌いなんだ!!」

 

 ガルヴァトロンの言葉を封じたマジェコンヌは、ワインを一気に煽り口元を拭う。

 その目元に涙が光っているのが見えて、ガルヴァトロンは戸惑った。

 

 だからというワケではないが、柱の影でバリケードが二人の会話を聞いていて、ソッと立ち去ったことにも気づかなかった。

 

「お、おい……」

「なんで皆、『自分がいなくなってもいい』とか言い出すんだ! 残された者がどれだけ苦しむか、分かっているのか……!」

 

 見たこともない感情の爆発を見せるマジェコンヌは、バルコニーの手すりの上に登って仁王立ちで相手を見上げた。

 

「おいガルヴァトロン、お前何か欲とかないのか!!」

「な、なんだ藪から棒に……」

「いいから! 美味いもん食いたいとか、そんなでいい! 何か消えたくないと思えるようなことの一つぐらいあるだろう!!」

 

 必死な姿に、圧倒されると言うよりは困惑気味にガルヴァトロンは目を逸らした。

 彼には自分の欲求を顧みるような余裕はなかった。

 

「そう言われてもな……」

「そうだ、女だ! 女はどうだ!? 女はいいぞぉ!」

「女って……」

 

 強引かつ唐突な女性押しに、面食らう。

 マジェコンヌとしては知り合いのトランスフォーマーたちの多くが女神の影響で変わっていったことを知っているからこその発言であり、ガルヴァトロンにこの世への未練を持たせようという意図があった。

 

「確かお前、ラステイションの女神に惚れてたろう!」

「いや、それはあくまで子供の頃のことだし……」

「ならば私が適当な女を見繕ってやる! そいつとお見合いしろ!! ……まさか、同性が好きなのか!?」

「違う」

 

 傍から見ると逆セクハラだが。

 ガルヴァトロンは少し考えてから答えた。

 

「実は一人、気になる女性がいる。こちらに来てからずっと協力してくれていて、俺としては好ましく思っているな」

「おお、いいじゃないか! 隅に置けんな貴様!」

「彼女自身には自分の思惑があるのだろうが、それでも俺にとってはこの時代でずっと支えてくれたヒトだ……うん、そうだな。もしどうしても交際しろというなら彼女とがいい」

「よしよし! ならばそいつに一夜を共にしてくれと頼み込め! ……意味は分かるか?」

「まあ、うん……」

 

 さすがに一夜の意味は理解しているらしく、目を泳がす。

 そうすると、純朴な若者のように見えた。いや実際、壮絶な憎悪と悲しみがなければ、彼は若者と言ってよかった。

 

「お前たちは精神直結だかでアレがナニするんだろう! 今晩中にそれをやれ! やるまで見張ってるぞ!!」

「いやぁ……そんなのは良くないだろう」

「男女の仲なんぞまずは成り行き任せでお試しだ!」

「そこまで言うなら……」

 

 そこでガルヴァトロンは片膝を突いて、マジェコンヌに目線を合わせた。

 

「俺と一夜を過ごしてはくれないか?」

 

 夜はさらに更けていく。

 

  *  *  *

 

「それで、何の用であるか?」

 

 オンスロートはブリッツウィングに呼び出されて、秘密結社の戦艦が停泊している入り江にまで来ていた。

 先に調和のエニグマを手に入れるという方針なので、この艦の調査は後回しということになっていた。

 

「吾輩はこれでも忙しいのだが?」

「まあそう慌てるなよ」

 

 不愉快そうな昔馴染みを制して、ブリッツウィングは右腕をキャノン砲に変形させて近場の岩を撃った。熱線が岩の表面を融かし、その形を変えさせていく。

 そして冷凍光線を浴びせると、岩は固まった。浮かび上がったのはメガトロンとガルヴァトロンの顔の形だ。

 

「嫌にならないか? メガトロンの野郎が腑抜けちまって、ガルヴァトロンはイカレ野郎、いい加減ウンザリだろう?」

「愚痴なら他所でやれ。我輩には関係ない」

 

 オンスロートは大きく排気してから踵を返そうとするが、ブリッツウィングは構わず続ける。

 

「悪い話じゃないぜ? 人間どもを恐れさせ、オートボットと殺し合う、そんな昔ながらのディセプティコンの生活に戻りたくないか?」

「回りくどいぞ、もっとはっきり言うのである……ガルヴァトロンを出し抜く、とな」

 

 ブリッツウィングはニヤリと笑って、二代破壊大帝の顔面像を熱線で撃ち、ドロドロに溶かした。

 

 夜はまだ明けない。

 

  *  *  *

 

 元々牢獄として使われている建物の中。

 捕虜となったNEST隊員たちは、何人かずつ牢屋に放り込まれていた。

 大した拘束はされていないが、それでも窓にハマった鉄格子や石造りの壁は人力では壊せそうにない。

 錠前はディセプティコンたちによってアップグレードされており、これまた破壊も開錠も出来そうにない。

 そもそも武器もなく、看守役のディセプティコンたちを相手に出来るはずもない。

 靴底や下着の中に武器を隠していた者もいたが、それらも残らず剥ぎ取られた。

 

「これからどうなるんだ、俺たち? 地球に帰れるのか?」

「帰ってどうするよ。コンカレンスの連中に消されて、無理矢理『全滅しました』ってことにされるのがオチだ」

「中世の拷問の本を読んだことがある……正直、ああはなりたくない」

「にしても、捨て駒とはねえ」

 

 マスター・ディザスターことメイソン・ディヴェルビスは、向かいの牢屋に入れられたサヴォイを鉄格子越しに睨みつけた。ケイオス軍曹ことケンドソヴァンや他の隊員たちも、サヴォイに憎々し気な視線を向ける。

 汚れ仕事上等の傭兵とはいえ、消耗品扱いは気に食わない。

 

「…………」

 

 サヴォイは牢屋の椅子に腰かけ、何も言わずにいた。

 作戦の失敗に消沈している、というよりは何か酷く思案しているような顔だった。

 同じ房に入れられているサントスは、もはや完全に心が折れているようだった。

 

「あの、炎の戦士とかいうのが周りを説得してくれるのを期待するしかないか」

 

 隊員たちは、昼間のあのトランスフォーマーを思い出していた。

 ガルヴァトロンなる巨人の前に立ち塞がった、奇妙なロボットの言葉を。

 

「同じ人間、か……確かにな」

「は! あんな演説に感動して心変わりでもしたか?」

「馬鹿言えよ、同じ人間を散々殺してきた俺たちだぞ? 女子供だろうとな!」

 

 非力な女性が銃を隠し、幼い子供が自爆攻撃を仕掛けてくる。

 そんな人の世の最も暴力的で陰惨な部分、社会の最底辺を這い回ってきたような彼らからすれば、あの言葉は余りに甘っちょろい理想論だ。

 

 それに命を救われたのも事実だが。

 

 マスター・ディザスターは何処か自虐的に笑いながら言った。

 

「あいつの言い方を借りるなら、俺らはとっくに、怪物なんだよ……」

 

 一方、倉庫として使っている部屋でスパークダッシュたちと共に簀巻きにされているワレチューは我が身の不幸を呪っていた。

 

「ああ、オイラもついにここまでっちゅか……コンパちゃん、死ぬ前に一目会いたかったっちゅ。お前たちも憐れなもんっちゅねえ。あんな飼い主を持ったばっかりに……」

 

 同情的なワレチューの言葉に、猛禽、爬虫、昆虫型のモンスターたちは悲しそうに鳴き声を上げる。

 

 彼らは彼らで、アフィモウジャスのことを慕っているようだった。

 

 そのアフィモウジャスは、奥の部屋で手足を拘束され、能力封じの装置を取り付けられて、忠臣ステマックスと対面する形でただ黙りこくっていた。

 それは全てを諦めたからだろうか。あるいは、機会を伺っているからか。

 

 もしくは()()()()()()()()()()からか……。

 

  *  *  *

 

 地球人たちの乗り物や武器、ドローンが集められた大きな倉庫の前で、インフェルノコンたちはボヘーッと突っ立っていた。

 彼らはこの場の見張りであるが、交代要員もおらず只々この場にいるようにガルヴァトロンから命令されていた。元々クインテッサの手下であり信用が薄いこともあって、彼らに対する扱いは良いとは言い難かった。

 それでも彼らは文句も言わずに命令をこなす。それ以外の方法を、彼らは知らなかった。

 

「ご苦労、同志諸君」

 

 突然聞こえたネットリとした女の声に振り向くと、薄紅色の女性兵士シャッターが後ろでに手を組んで立っていた。

 唯一言葉を話せるスカルクが、怪訝そうにたずねる。

 

「なんの、用だ?」

「交代だ、見張りは私が引き継ごう」

「……?」

 

 そんな話は聞いていないので、インフェルノコンたちは揃って首を傾げる。

 シャッターは、薄ら寒い笑みを浮かべた。

 

「ガルヴァトロンからの特別の褒美だ。日頃の頑張りに免じ、今夜一晩だけは休んでいいと」

「ホントか?」

「本当だとも、同志。……ああ、だがこのことは誰にも言うな。本人が照れ臭くなるからガルヴァトロン本人の前でもな。これは秘密のご褒美だから」

「分かった、ありがとう。……みんな、いこう」

 

 ペコリと頭を下げた髑髏顔のロボットは、獣の姿の仲間を引き連れていく。彼らはもう長いこと休んでいないので、早くスリープモードに入って自己修復に勤めたかった。

 

「中身のないドラム缶め。ちょろいものだ……もういいぞ」

 

 彼らの気配をセンサーでも感じられなくなると、シャッターは近くの建物の陰に視線をやった。

 

 そこには忍者ロボット……囚われているはずのステマックスが藍色の影のように佇んでいた。

 

「見事で御座る、シャッター殿。さ、将軍」

「うむ」

 

 肩に担いでいた小さな人影をステマックスが降ろすと、シャッターは小馬鹿にしたような笑みで人影を見下ろした。

 

「それがお前の本体か……いやはや、何とも可愛らしい」

 

 小さな影……秘密結社アフィ魔X首領アフィモウジャス、その本体は、ギラリと体躯に似合わぬ荒んだ目つきで睨み返した。

 囚われているのは精神エネルギーで遠隔操縦しているトランステクターの部分に過ぎない。

 

「何とでも言え。さあ、扉を開けろ」

「もちろん、喜んで」

 

 ワザとらしくお辞儀した女兵士が倉庫の扉を開けると、アフィモウジャスはステマックスを伴い大股に歩いて扉を潜る。

 倉庫の中には、何台ものKSIセントリーや戦車型、ヘリ型のドローンが並んでいた。

 

 月はまだ高い位置にある。だが夜明けは確実に近づいていた。

 




これで名実ともに騎士ホット・ロッド誕生。そして積み重なる色んなフラグ。
なおメガトロンとロディマスは、ほっとけない感じの(けど強い、もしくは強くなる)女性が好み、という点はよく似ていたり(反対にガルヴァトロンは自立した女性が好み)

なお全員、年上好きは共通。

ところでシージでダイレクトヒットとパワーパンチが出るそうで……いやまさかここにきてこいつらが出てくるとは。
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