新次元ゲイムネプテューヌ THE UNITED   作:投稿参謀

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第60話 慟哭のマジェコンヌ

 時間はやや遡り、ダロスの街の牢獄。

 NESTの隊員や艦艇の乗組員たちは、相も変わらず収監された状態だった。ホット・ロッドとガルヴァトロンの口論により、すぐさま殺されるような事態にはならなかったが彼らの未来は暗い。

 それを誤魔化すために、マスター・ディザスターは只管に寝ていて、ケイオス軍曹は黙々と腕立て伏せをしているが、それも限界が来るだろう。

 サヴォイは相変わらず、何か思い悩んでいるようだった。

 

 そんな彼らの前に、思わぬ面会者が現れた。

 

「よう」

「……お前か」

 

 頭を屈めて牢獄の通路に入ってきたホット・ロッドに声をかけられ、サヴォイは億劫そうに顔を上げた。

 

「何の用だ? 嗤いにでもきたか?」

「そんなこと言うなよ……あんたたちに質問があってきたんだ」

 

 炎の戦士と呼ばれるロボットの黒地の体には、その綽名に因んだのだろうオレンジ色のファイアパターンが入っていた。これは本人が洒落て入れた物だ。

 

 サヴォイは無感情に息を吐いた。

 

「なんだ?」

「あんたらの目的について聞きたい。あんたらの黒幕は、何のためにこの世界を攻めようとしてるんだ?」

「そんなことを聞いてなんになる? 第一、俺が言うとでも……」

「移住、だ」

 

 小馬鹿にしたように返したサヴォイだったが、途中で同じ房のサントスが答えた。

 サヴォイに睨まれても、もはや彼はこのCIA時代からの上司に従う気はないようだった。

 

「これくらいは構わないでしょう? ……地球は遠からず環境汚染や資源の枯渇によって人間が住めなくなる。だから人間が暮らすのに適した別の土地を手に入れる……少なくとも俺はそう聞かされていた」

「本当か?」

「知らん。上の言う事の真偽などいちいち気にしていられるか」

 

 嫌そうにサヴォイが答えると、ホット・ロッドは狭い中で器用に顎に手を当てた。

 目の前のロボットが何を考えているのか分からず、サヴォイはイライラとした。

 このエイリアンは、前はもっと直情的で血気盛んだった。簡単な策にも面白いくらい引っ掛かるような餓鬼だった。

 だが今は冷静さを身に着けたようで、まるで別人のようだ。

 

「だけど、そういう大義名分で動いてるのは確か、でいいんだな?」

「……ああ。裕福層(ブルジョア)が別荘作るのか、企業が資源を得るためにかは知らんがな」

 

 ムスッとした表情のサヴォイの答えに、ホット・ロッドは何か考え込む。

 何か重要なことが引っかかっているという顔だ。

 

「移住、そう移住だ。こっちに住もうってんだ。でもならなんで……」

「もういいだろう。とっとと出ていけ」

 

 ブツブツと言うホット・ロッドにつっけんどんに言ったサヴォイは、これで話しは打ち切りとばかりに粗末なベッドに横になった。

 

「すまん。俺が知っている情報は少ないんだ。ただ、俺たちが所属している組織の名前はコンカレンスと言う」

 

 サントスは、反対にロボットを見上げた。

 彼は組織への裏切りにならない程度に、知っている情報を伝えることにしていた。

 

「上層部は各国の権力者や資産家で構成されてるって話だが、俺も詳しい顔ぶれは知らない」

「かなりデカイ組織ってことか」

「ああ。それと一つ……お前の仲間は、みんな元気でやってるぞ。もちろんDC02……()()()()()()()()

 

 サントスが純粋な善意から言った言葉に、ホット・ロッドは一瞬ピクリと眉根を動かしたが、それだけだった。サヴォイはホット・ロッドの方を向かないまま苦い顔をした。

 この副官には、本当に限定的な情報しか知らされていない。当然、天王星うずめが二人いることも知らないのだ。

 

 それを知ってか知らずか、すぐにホット・ロッドは笑顔を作った。

 

「分かった、ありがとう。また来るよ。今度は何か差し入れでも持ってくる」

「楽しみにしてるよ」

 

 別れの挨拶を済ませると、ホット・ロッドは奥の倉庫として使われている部屋……秘密結社の面々が捕えられている部屋へと向かった。彼らとも話さなければならない。

 

「こういう時、もう少し小さくなれるといいんだけど……」

 

 奥の部屋の扉を何とか潜ると、中にはやはりアフィモウジャスとステマックスが向かい合うようにして座っていた。

 

「よう! 少し話が……!」

 

 軽く声をかけるホット・ロッドだが、用心のために軽くスキャンをかけた瞬間、異変に気が付いた。

 ステマックスの方は問題ない。だが白い鎧の秘密結社首領が可笑しい。

 慌てて駆け寄り鎧に手を触れると《手がすり抜けた》。これはホログラムだ。そしてそれを投射しているのは……。

 振り返ったホット・ロッドは、ステマックスにも触ってみる。こちらは実体があったが、何の抵抗もせず、まるで人形のように床に倒れた。同時にホログラムも消える。

 ホット・ロッドは知る由もないが、このステマックスは本人が作り出した分身だ。それもただの分身ではなくトランスフォーミウム合金で構成されたトランフォーマーのセンサーすら誤魔化す逸品である。

 

「やられた……まんまと逃げられた! 衛兵さん! すぐに来てくれ!!」

『ロディ! 応答してくれ!』

 

 すぐに衛兵たちがすっ飛んできたが、その時くろめから通信が入った。

 彼女は地球人の持ち込んだ兵器が保管されている倉庫を見に行っているはずだ。

 

「くろめか? 大変だ、牢獄にいた秘密結社の奴らが……!」

『こっちも大変なんだ! 地球の兵器が、ゴッソリ消えてる!! ドローンって奴だ!』

「なんだって!?」

 

 いったい何が起こっているというのか。

 秘密結社の首領と幹部、地球人の兵器が消えた。しかし、地球人は残されている。

 

 ……それと。

 

「おいっちゅ、そこのオートボット」

 

 考え込んでいると、不意に声が聞こえた。子供のような声だ。

 近くの部屋のワレチューが、ホット・ロッドを呼んだのだ。

 

「ワレチュー? お前は逃げなかったのか?」

「『この戦いには付いてこれそうにない』とかって置いてかれたっちゅ。それより、あいつらは、ガルヴァトロンを消す気っちゅ」

 

 その部屋に入ると、ワレチューとスパークダッシュたちが簀巻きにされたまま残されていた。ネズミ以外の三匹のモンスターは、主人に置いていかれて悲しそうに鳴いていた。

 いやそれよりも、言ったことの方が重要だ。

 

「あいつら、スラルとかいうトコに罠を張るって言ってたっちゅ! 三段変形の連中もグルっちゅ!」

「ッ! そういうことか!」

 

 シャッターたちの裏切りはガルヴァトロンを誘い出すための嘘だと理解したホット・ロッドは、目を剝いた。

 しかし、分からないことがある。

 

「なんでそれを教えてくれたんだ?」

「あのオバハン(マジェコンヌ)も知らない仲じゃないっちゅからね……それに、お前らにはフェミニアでの借りがあるっちゅ」

「そうか……ありがとう」

 

 こんな時ではあるが、ワレチューの意外な義理堅さに表情が柔らかくなる。

 今の仲間の情報を言うのは、彼なりに葛藤があっただろうにそれでも恩に報いてくれたことが、嬉しかった。

 

 

 

 

 

「はあ!? ガルヴァトロンを助けに行くだぁっ!?」

「ああ、このまま放ってはおけない」

 

 やや経って、件の倉庫の前に集めた仲間に状況と自分の考えを説明すると、クロスヘアーズが目を剝いた。

 ホット・ロッドの中に、ガルヴァトロンを助けに行かないという選択肢はなかった。

 兄弟かも知れない相手というのもある。だがそもそも彼らは、ディセプティコンを()()()ためにブリテンに来たのだ。

 

「ったく、こいつぁ甘ちゃんな隊長さんだぜ……ひょっとしたらオプティマス以上のお人好しかもな」

 

 最初こそ素っ頓狂な声を上げたクロスヘアーズだが、そのことは分かっているようだった。

 そんな相棒に、シーシャは意外そうな顔をした。

 

「乗り気だね。ディセプティコンは嫌いなんじゃなかったの?」

「大っ嫌いさ。だがまあ、ああいう餓鬼はほっとけねえんだよ」

「……()()()()()だね、あなたは」

 

 フッと、シーシャはいつもの色っぽい笑みとは違う酷くあどけない笑みを浮かべた。

 一方でドリフトは、少し迷っているようだった。

 

「隊長、思うのだが……恐らくトリプルチェンジャー以外のディセプティコンも敵に回る可能性が高い」

「何でだ? いくらなんでもこんなあからさまな裏切り行為に加担するなんて……」

 

 その言葉に納得できないホット・ロッドだが、ドリフトは首を横に振った。

 

「ディセプティコンというのは、とかく()()()に大して考えずに従う気質だ。それにガルヴァトロンは、地球人への激しい憎しみを除けば穏やかだが、ディセプティコンはもっと()()()()()()強い者を好む」

「味方を作る者より敵を倒す者。弱者に施す者より強者から奪う者。田畑を耕す者より獣を狩る者を主と仰ぐワケか……」

 

 エスーシャの分かりやすいような分かり辛いような例えに、ドリフトは頷いた。

 

「ああ。それに中には……戦いの場を与えてくれるなら上は誰でもいいというようなのもいる。そういった連中に忠誠心や義侠心を期待は出来ない」

 

 それを聞いてビーシャは目を丸くした。

 

「つまり……いわゆる脳筋? しかもその場のノリに流されやすいヒャッハー系の?」

「あの面子に限って言うなら、その通りだ」

「……分かった」

 

 一つ頷いたホット・ロッドだがそれはもちろん、これから行く先の危険性について分かったということで、行くのを止める気はなかった。

 ミリオンアーサーにはワイゲンド卿らに協力を仰いでもらっているが……他に、禁じ手と言える手段を取らねばならないかもしれない。

 そして、言うまでもなく暗黒星くろめも行くつもりだった。

 

「急ごう、ロディ! 早くしないと手遅れになる!!」

「……随分と焦っているな。君はもう少し、敵味方にドライな口だと思っていたが」

 

 いやにやる気を見せる彼女に、エスーシャが少し不思議そうな顔をした。

 すると、くろめはグッと拳を握った。

 ホット・ロッドの生き方を見て、彼女の中でマジェコンヌとの関係を隠し続けることはすでに重要ではなくなっていた。

 

「友達なんだ、マジェっち……マジェコンヌとは」

「何? それはどういうことだ」

「後にしてくれ、ドリフト」

 

 ドリフトは怪訝そうな顔でくろめを見たが、ホット・ロッドは追及することを禁じた。

 今は優先すべきことは他にある。

 

「でも、スラルまでは距離があります。エイハブの飛行速度だと……」

「……大丈夫だ、俺に考えがある」

 

 ネプギアの言葉に、自信を持って……自信を持とうとして力強く返す。

 その脳裏に浮かぶのは、やはりフェミニアで見た悪夢だった。

 

 自分の手に目を落とし、息を吐く。

 

「出来るはずだ。俺が、ロディマスなら……!」

 

  *  *  *

 

「フハハハ! 勝った、勝ったぞ! ハァーッハッハッハ!!」

 

 黒煙を噴き上げるスラル山の火口の縁。

 ヘッドマスター・アフィモウジャスは勝利に酔いしれ笑っていた。

 ガルヴァトロンの物だったエクスカリバーを地面に突き立て、墓標替わりにしてやると、より実感が湧いてきたようだった。

 

 マジェコンヌとバリケードは、呆然とガルヴァトロンが消えた溶岩の海を見下ろしていた。

 他のディセプティコンたちもやっと山の斜面を登ってきたが、オンスロートとバーサーカー以外のディセプティコンたちは困惑しているようだった。

 

「え? なに、どういうこと? ボス死んじゃったの?」

「みてえだな……」

 

 モホークがエクスカリバーと火口、人間の姿に戻って項垂れているマジェコンヌを交互に見ながら問うと、さすがのニトロ・ゼウスも普段の軽さのない声色で答えた。

 

「ま、死んでもうたもんはしょうがないわ。そこまでの男だったちゅうことや」

「お前の切り替えの早さが、羨ましいと言うよりは空恐ろしいぜアミーゴ……」

 

 すでにガルヴァトロンへの興味を失ったらしいバーサーカーに、ドレッドボットは深く排気した。

 

「…………」

 

 オンスロートは感情の読めない顔で、赤く煮え滾る溶岩を見ていた。

 

「ハーッハッハッ!」

「貴様……貴様、よくも!!」

 

 立ち上がったバリケードは、まだ笑っているアフィモウジャスに飛び掛かろうとした。

 ガルヴァトロンと互角の勝負を繰り広げた破壊将軍に彼が勝てるはずなどないのだが、そんな理屈は頭の中から吹き飛んでいた。

 

「へいへい、ごくろうさん」

 

 しかし、その拳が破壊将軍の顔に届くよりも早く、ブリッツウィングに冷凍光線を浴びせられ、物言わぬ氷のオブジェと化してしまった。

 

「ご苦労、ブリッツウィング」

「で、これからどうする気だ?」

 

 やっと笑うのを止めて労ってくるアフィモウジャスに、ブリッツウィングは呆れた調子で肩を竦めて問うた。

 オンスロートも左腕の重機関砲を回転させ、秘密結社首領を睨んだ。

 

「貴様に従え、というならお断りだが?」

「案ずるな。貴様らが儂の下に付かんことなど先刻承知よ」

 

 アフィモウジャスはトランステクターから分離すると、人型に戻って着地した。その後ろで首から下もサソリの姿に変形する。

 

「これで共闘も終わりだ。儂は貴様らのやることに干渉せんし、貴様らも儂に干渉しない。不可侵条約としておこうではないか」

 

 こうは言うが、その実ディセプティコンたちの行動を上手いこと利用しようとしているのは明らかだった。

 

「バカバカしい。このエニグマがあれば貴様など……ッ!?」

 

 一笑に伏そうとしたオンスロートだが、手に持っていたはずのエニグマが無いことに気が付いた。

 ハッと見れば、隠密ステマックスがエニグマを手に主君の傍に控えていた。

 

「いつの間に……」

「相変わらずの技前だな」

 

 センサーでも全く察知できなかったことにオンスロートが愕然とし、シャッターは舌を巻いた。

 ブリッツウィングは大仰に頷いた。

 

「いいだろう……さて、これで善人ぶったガルヴァトロンは消えた! 後はオートボットどもを消せば、このブリテンは俺たちの物ってワケだ!! 奪って壊して殺して、古き良きディセプティコンの生活と行こうじゃねえか!!」

 

 両腕を大きく広げての演説に、ディセプティコンたちは顔を見合わせた。

 この土地にはアンチ・エレクトロンが充満している。他のオートボットもディセプティコンはやってこれない。

 ホット・ロッドたちを倒せば、彼らを止める者はもういないのだ。

 

「よっしゃ。はよ、殺し合いに行こうやないかい」

「そのマイペースっぷりはちょっと引くぜ、アミーゴ」

 

 棍棒を抜いて好戦的に嗤うバーサーカーを、呆れた調子でドレッドボットが諫めた。この狂戦士は、本当に戦いしか頭にないらしい。

 

「で、あの女ももう用済みだな。やっとムシケラが弾けるのが見れる」

 

 一方、ドロップキックは何てことないように人間を風船のように破裂させてしまうブラスターの照準をマジェコンヌに合わせた……瞬間、その手をステマックスが掴んでいた。

 

「何もそこまですることはないで御座ろう」

「テメエ……このニンジャ野郎め、不可侵条約はどうした?」

「まあいいじゃないか。無理に敵対することもあるまい」

「……チッ!」

 

 隠密の行動に不機嫌になるブリッツウィングだが、シャッターに言い含められて砲を下げる。

 

「まったくだ。そんな女に構うより、他にすべきことがあるである……」

 

 一方でオンスロートは次にすべき行動を決めていた。

 絶望に固まった女性を一瞥すると、一瞬何とも言えない顔になった後で冷酷な表情を作った。

 

「すぐにネビュロンに戻って他のディセプティコンと合流せねば……そして奴らに選ばせるのである。()()味方となるかをな」

 

 その言葉の意味を察し、ブリッツウィングはギラりとオンスロートを睨んだ。ガルヴァトロンを倒すために共謀した両者だが、こうなった以上はどちらが上かハッキリさせなければならない。

 睨みあう二体のディセプティコンを、アフィモウジャスは面白そうに見ていた。

 彼らがダロスを攻撃し、街に混乱が起こっている間に地球人たちを助けだすことが、彼の狙いだからだ。

 

「…………」

 

 命拾いしたことになど一切興味を抱かず、マジェコンヌは地面に付いた手を握りしめた。熱された小砂利で自分の掌が焼けるが、気にはならなかった。

 

(またなのか……また、私は守れなかったのか)

 

 頭の中を過去の出来事が過っていく。

 

 生来の上昇志向の強さ故に、権力の中枢たるプラネテューヌ教会に所属したこと。

 そこで天王星うずめとイストワール、そして『彼』と出会ったこと。

 気の強さ故に人付き合いが苦手なマジェコンヌにとって、この三人は生涯で最も気を許せた友人だったこと。

 うずめが、その特異な力をコントロールし切れなくなり、国民に恐れられるようになっていったこと。

 自分とイストワール、『彼』でそれを何とかしようと色々手を講じたこと。

 

 その甲斐なく、恐怖から暴走した国民の凶刃からうずめを庇って『彼』が命を落としたこと。

 

 うずめが、そのことを苦にして自ら封印される道を選んだこと。

 

 うずめの力により、イストワールや自分を含めた全ての人間が、うずめと『彼』を忘れてしまった……彼女たちの存在が世界から抹消されてしまったこと。

 

 ……それらを止められなかったこと。

 

 マジェコンヌは呪った。

 うずめに降りかかった、理不尽な運命を。

 力がないことを言い訳に自分たちを正当化しようとする国民を。

 女神に犠牲を強いた世界の在り方を。

 

 そして何より、自分の無力を。

 

 今もまた、自分は守れなかった。

 脳裏に、あのガルヴァトロンの幼い日の姿が浮かんでは消える。

 父に憧れ、母に甘え、弟たちを愛した小さなガルヴァ……。

 だが、彼は消えた。火山の溶岩に融けて消え去った。

 

 胸の奥底から、強い怒りそして憎しみが目の前の火山の火のように燃え上がってきた。

 

「殺す……! 殺してやる!!」

 

 目元から涙が零れ落ちるのを自覚しながらも、マジェコンヌは立ち上がり、まだ言い合っているディセプティコンたちを睨んだ。

 

「殺してやるぞ、裏切り者どもめ! 恩知らずの……屑ども!!」

 

 その視線に気付いたアフィモウジャスとステマックスは少しだけ気圧されたようだったが他の金属生命体たちはマジェコンヌを嘲笑うか興味を抱かないかだった。

 

 彼らの言う所の『古き良き』ディセプティコンとは、弱者は踏み躙り、敵対者をあらゆる手を使って葬り、敗者を嘲笑う物で、彼らはすでに時代遅れになりつつあるその価値観にしがみ付いている者たちなのだ。

 

「貴様が言えた義理か。貴様とてガルヴァトロンを利用していたのであろう」

 

 オンスロートは、鼻を鳴らし感情の読めない声を出した。

 

「ハッ! お前に何が出来る、ムシケラ!」

 

 ブリッツウィングは特に見下し切った顔をしていた。

 確かにマジェコンヌがいかに怒り狂おうと、この場にいる巨人たち全員を殺せるはずもない。

 しかしマジェコンヌの身体から黒いオーラが噴き上がり彼女の身体を包んでいく。

 

「殺す……殺ス!」

 

 オーラに同調するようにマジェコンヌの身体が大きくなっていく。

 ターゲットマスターへの変身より強く、より硬く、より禍々しく。

 牙の並んだ口から荒い吐息と共に炎を吐き出すそれは、トランスフォーマーに迫るサイズの黒いドラゴンだ。

 だがブリテンの旗などでよく見られる首の長い四足歩行のタイプではなく、首が短く二足歩行で前足は腕になっている。

 何より、この竜は機械で出来ていた。

 

 この姿は恐竜の姿を持った四人の騎士(ダイノボット)、さらにはディセプティコンの始祖たる堕落せし者(ザ・フォールン)の力を部分的にコピー、統合することで編み出した対女神、対トランスフォーマー用の切り札とも言える姿だった。

 

 ダイノボットの長たる暴君竜をベースに、全身を角竜の装甲で覆い、棘竜のスパイクが肘や膝、背骨沿いに生え、背中には翼竜の被膜の張った大きな翼。しかし腕は格闘戦を行えるほど長く、二本の角が生えた頭は体に対し小さい。

 真っ黒い体のあちこちが在りし日の堕落せし者のように赤熱しているかの如く輝いている。

 

「ぐおおおおッ!!」

 

 機械仕掛けの黒竜と化したマジェコンヌは大きく咆哮を上げると、翼を羽ばたかせて飛び上がり呆気に取られているアフィモウジャスへと襲い掛かった。

 この姿は、彼女自身にすら狂暴性をコントロール出来ず魔力を際限なく消費してしまう諸刃の剣なのだ。

 

「将軍、危ない!」

 

 それに反応したのは、ステマックスだった。

 主君に忠実な隠密は、自らを盾にするかのようにマジェコンヌの前に立ちはだかった。

 忍者刀を肘から生えた角で防御したマジェコンヌは、口から激しい炎を吐いて敵に浴びせかける。

 

「邪魔ヲ、スルナアアッ!!」

「ッ! 変化、ウルフモード!」

 

 装甲を融解させるほどの炎から逃れるべく飛び退いたステマックスは機動力に秀でた狼の姿に変形し、炎を躱しながら敵の首元に食らいつく。

 

 防御力に優れ二門の砲を備えた戦車に変形して砲撃を開始する。

 

「オノレ、鬱陶シイ犬畜生メェッ!!」

「ぶっ殺したるでえええ!!」

 

 機械仕掛けの狼を振り払おうとする黒竜の背に、バーサーカーが棍棒を持って飛び掛かり、硬い体を何度も何度も叩く。

 

「貴様ァッ! 奴ラニ味方スルノカァッ!」

「知らんわそんなもん! ワイは殺し合いがしたいだけや! 頭も相手も誰でもいいんや!!」

 

 身を捩るマジェコンヌの背にしがみつき、バーサーカー大きな笑みを浮かべ、心底楽しそうに棍棒を振るう。

 

「殺して殺して殺して! その果てにワイと同じ殺しが大好きな奴に殺されたいんや!!」

「コノ、狂人ガァ!」

「うおッ!?」

 

 翼を大きく羽ばたかせてステマックスとバーサーカーを振り落としたマジェコンヌだが、そこに戦車に変形したブリッツウィングが、主砲はもちろんミサイルと熱線砲を一斉に発射した。

 

「死ね、オバハン!!」

「シャラクサイワァッ!!」

 

 マジェコンヌは空陸参謀の最大火力を物ともせず、鋭い爪のある手で彼に掴みかかろうとする。

 しかしシャッターやドロップキックが援護射撃に加わり、敵とならば容赦はしないステマックスも火力に優れた戦車形態(タンクモード)に変形して二門の砲を撃つ。

 

「ギグアアアッ! 許サン! オ前ダケハァッ!!」

 

 砲弾、熱線、光弾、ミサイルの雨に悲鳴を上げるマジェコンヌだが、それでもアフィモウジャスを葬り去ろうと口腔にエネルギーを溜め、一際強力な火炎を吐こうとする。

 

「ッ! ヘッドオン!!」

 

 後ずさりしたアフィモウジャスは、サソリ型トランステクターにヘッドオンしなおすと全ての火器を黒竜に放った。

 それは戦術性も何もない、我武者羅な攻撃だった。

 

「グワアアアッ!!」

 

 凄まじい飽和火力にマジェコンヌはついに叫び声を上げて地面に倒れ伏し、人間の姿に戻った。

 

「ぐ、ぐううッ……」

「驚かせやがって……だが残念だったな! トランスフォーマーに初登場補正はないんだよ!!」

「馬鹿な奴だ。ジッとしていれば命だけは助かったものを」

 

 ドロップキックが勝ち誇り、シャッターは鼻で笑う。

 痛みに呻くマジェコンヌだがそれでも相手を睨みつけた。

 

「必ず、お前たちに思い知らせてやる……!」

「そう言うセリフはな、負け犬の遠吠えって言うんだよ……さあ、ガルヴァトロンの後を追いな!」

 

 ブリッツウィングが熱線砲を向け、今度はステマックスが止める間もなく発射しようとして……泡のような球形のエネルギーフィールドに包まれて動きが止まった。

 

「なッ!? あの力は!」

「馬鹿な……!?」

 

 それが何なのか理解したニトロ・ゼウスとオンスロートは目を見開いた。アフィモウジャスもその力の持ち主を察し後ろを向いた。

 

 彼らから少し離れた場所に光の輪のような物があり、その内側にはスラル山とは違う景色が映っていた。

 そして輪の中心には、黒地にオレンジの炎模様の入ったオートボットが、銃口から煙を上げるショットガンのような形状のレーザーライフルを手に立っていた。

 

「そこまでだ!」

 

 ブリテン遠征隊の隊長、炎の戦士、ガルヴァトロンと並ぶもう一人のメガトロンの息子と言われる男。

 

 騎士ホット・ロッドがそこにいた。

 




話が進まない……。

どうでもいい話だけど、ロディマスとガルヴァトロンが兄弟なのは何も元ネタが全くない話ではなく、実写版TF第一作の初期稿においてオプティマスとメガトロンが双子の兄弟という設定だったから、というのに因んでいたり。

今回のキャラ紹介

ドラゴン・マジェコンヌ
マジェコンヌが機械の黒竜に変身した姿。
ダイノボットやザ・フォールンの力を一部コピーし、それを混ぜてバランスを整えることでこの姿となった。
狂暴性をコントロール出来ず大きな負担を受ける代わりに強大な戦闘力を得るが、それでもなおTFを圧倒するには至らず大きさもガルヴァトロンより一回り小さい程度。
鋭い爪と牙はTFの装甲をも引き裂き、口からは金属を融解させるほどの火炎を吐く。

元ネタは原作ゲーム無印とRe;birth1におけるマジェコンヌの最終決戦における変身体(つまり同作ラスボス)の真マジェコンヌ。
西洋ファンタジー的な四足歩行ではなく、二本足で直立した所謂怪獣体形。このグラフィックを流用した裏ボス八百禍津日神はシリーズ常連。
……もちろん、原作ではロボドラゴンではなく生物のドラゴン。
今回はあえなく敗れたが、もちろん意味なく変身させたワケもなく……。
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